すれ違いの結末   作:ビールは至高の飲料

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許せないモノ

(速く! 速く! もっと速くっ!! そうじゃないと────)

 

 間に合わせる為にペダルを踏んで機体を前へと突っ込ませる。

 しかし、目と鼻の先にある筈のところには一向に近付けない。

 

(どうしてっ!?)

 

 歯軋りしながらも目の前の惨劇を止めようと駆ける。

 なのにどれだけ強くペダルを踏み込んで前に進んでも届かない。

 

(ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ! やめて────っ!!)

 

 フィアラ・フィレスの願いは届くこと無く、青い翼のガンダムは、レーザーの光を宿した剣にその胴体を貫かれた。

 

 

 

 

 

 

「あ~もう……寝違えた……」

 

 コックピットの中で目を覚ましたフィアラは寝違えて固くなった首の筋肉を手でほぐしながら左右に回す。

 

「あの夢……久しぶりに見た……」

 

 ZEUTH同士の仲違いであり、フリーダムとアークエンジェルが撃墜された時の夢。

 それを止めようとしてるのに届かない。

 そんな、自分の無力を象徴するような。

 不快感を吐き出すように大きく息を吐いた。

 

「今は、あの時とは違う……きっと今なら……」

 

 助けられる筈だと、意味のない妄想が過った物の、即座に切って捨てた。

 あの時に何も出来なかった言い訳を夢や妄想で晴らそうなど、無意味だ。

 結果的にだがキラ達は生きていた。

 当の本人達は既に仲直りをしている。

 だから本来、不貞腐れているフィアラの行動は筋違いなのだろう。

 

「だからって、納得出来ないじゃない」

 

 ZEUTHに身を寄せていた頃に聞いた、消えてくれて良かったと言わんばかりの数々の暴言。

 謝罪したのがアークエンジェル側だけと聞けばなおのこと。

 

「殺そうとしたのはZEUTH(お前達)のくせに」

 

 苛立ちを発散させる為にフィアラはシミュレーターのシステムを立ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破界事変の少し後、くろがね屋という温泉宿でラクスと再会したフィアラは頭をフリーズさせていた。

 ラクスがフィアラの横に入浴する。

 

「思ったよりも元気そうで良かったですわ」

 

 そう口にしたラクスだが、フィアラの体に刻まれた傷を見て顔を曇らせる。

 ラクスの指がフィアラの顔の傷に触れた。

 

「これは……」

 

 その哀しそうな表情が居たたまれなくなり、フィアラは顔を反らす。

 

「前にエリア11でテロに巻き込まれて。他にも色々と。でも、余計な連中に声をかけられずに済むからそのままにしてるだけです」

 

 特に治安の悪い地域に行くとそれだけで身の危険に及んだ。

 こうして顔や体に傷があれば多少はそうしたトラブルを少しだけ回避できる。

 フィアラの言葉に一瞬だけ沈痛な顔をしたが、すぐに小さく笑みを作る。

 

「フィアラは今日この旅館にお泊まりを?」

 

「いえ。お風呂出たらこの国を出ます。料金もそれしか払ってないし」

 

「もしもフィアラが良いなら、一緒に泊まりませんか? 久しぶりにお会いして、話したいことがたくさんありますから」

 

「それは……」

 

 話したいこと。それは間違いなく多元戦争の最後にラクス達と敵対した事だろう。

 もしくはPMに関してか。

 ニコニコしてるラクスの表情が嫌に怖い。

 

(あぁ、アレだ。昔イタズラして姉さんに怒られる直前の緊張感……)

 

 そんな事は思いながらフィアラは口元まで湯に体を沈めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入浴を終えた後に今日は泊まる旨を従業員に伝える。

 部屋もなし崩しにラクスと同じ部屋にした。

 ラクスと一緒に来ていたらしいサンドマンと不動GENが旅館内を散歩している2人を遠巻きに見ている。

 物珍しそうに旅館を散歩するラクスにフィアラはやや居心地の悪そうについている。

 その様子に気付いたラクスがフィアラに話しかける。

 

「どうしました? フィアラ」

 

「……ラクスさんは、私に訊きたい事が有るんじゃないですか? 前の世界での事、とか」

 

 あの最終決戦でジ・エーデル・ベルナル側に就いたフィアラ。

 責める理由は充分だろう。

 なのに、ラクスがフィアラを責める事をせず、まるでそんな事は無かったかのように振る舞っている。

 

「そうですわね。色々と訊きたい事はありますが、こうしてフィアラと会えて今は……」

 

 フィアラの肩に手を置く。

 

「生きていてくれて良かった。ただそう思います」

 

「……」

 

 多元戦争の最終戦で大破した機体。

 消息不明だったフィアラが生きていてくれた。

 ラクスにとってはそれだけで良かった。

 

「私は……」

 

 何かを言おうとしたが、上手く言葉に出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりにまともな物をを食べてる気がする」

 

 くろがね屋で出された食事を口にしながらポツリと呟いた。

 その言葉にラクスが質問する。

 

「普段の食事はどうしているのですか?」

 

「居る国によってだけど、大抵はハンバーガーみたいなファーストフード。基本は歩きながら食べられる物」

 

 補足すると、破界事変の時にかなりの頻度で現れていたPMへの対処。

 それに追われて、いつの頃か如何に手早く食べられるか、としか考えなくなった。

 そのまま食事に拘る事もなくなり、楽だからという理由で殆んど手掴みで食べられる物しか口にしなくなった。

 それを聞いて向かいで食べているサンドマンが話しかける。

 

「自分で作ったりはしないのかい?」

 

「私、料理出来ないし」

 

 そもそも面倒くさいと食事を続けるフィアラ。

 そんな彼女を見てラクスは少し遠い目をしてサンドマンと目を合わせて頷く。

 

「フィアラ……連絡先を教えて頂けませんか? 今後もたまにこうしてお食事をしましょう」

 

「ラクスさん?」

 

「ね?」

 

「は、はぁ……」

 

 珍しく強引な様子のラクスにフィアラは瞬きする。

 ハンバーガー類をバカにするわけではないが、毎日それはマズイだろう。

 栄養が偏る。

 身体が資本のパイロットならなおのこと。

 

 ラクスの圧に押されて連絡先を渡し、この後もそこそこの頻度で会い、食事をしたり、各国の情報を話したりすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラクスが2人で泊まる部屋に入ると、中から先に入っていたフィアラの歌が聴こえてきた。

 親が子の成長と巣立ちを見送る。そんな歌詞。

 歌い終わると、ラクスは小さく拍手をする。

 

「素敵な歌ですわね」

 

「……うん。子供の頃に、母さんが子守唄代わりに歌ってくれた歌。うろ覚えなところもあるから、そこはね」

 

 フィアラから家族の事を聞くのは初めてだった。

 

「ラクスさん達に助けてもらった時は、昔の事があやふやだったけど。この世界に来て数年。結構思い出せた。自分の事を」

 

 もう暗い窓の外を見ながらフィアラはポツリと話始める。

 

「私が生まれ育ったのは、工場がたくさん在る、それなりに大きな町だった。軍の整備兵の父に優しいのが取り柄な母。少し年の離れた双子の姉。何処にでも居る普通の5人家族だった。でも父は、前の戦争で死んだ」

 

 前の戦争というのは、血のバレンタインから始まったナチュラルとコーディネーターの戦争の事。

 

「父さんが死んだのは悲しかったけど。それでも戦争が終わって、それなりに平和に暮らしてたと思う。戦争の被害も殆んどなかったし。でもあの事故が、私達家族をどん底に突き落とした」

 

「事故?」

 

「ある工場から危険な科学物質が町に広がって。影響を受けると死亡したり障害が残る可能性のある。実際町では倒れた人が何人もいた。だから────」

 

 そこでフィアラの表情が険しくなり、腕が震えるほどに握り拳を作る。

 

「母さんは、本当に優しいのが取り柄な人だった。だから、撒き散らされて広がる化学物質を自分の力で消した」

 

 フィアラがPMの毒を消したように彼女の母も町に広がった科学物質を除去したのだ。

 

「その結果、私達は母さんが助けた筈の町の人達に研究施設に売り飛ばされたんだ」

 

 心底吐き捨てるようにフィアラは言う。

 

「考えてみれば当然ですよね。遺伝子を操作した人間が現れただけで戦争に発展したんだから。私達みたいな特殊な力を持つ存在は、彼らからしたら恐怖の対象でしかなくて」

 

 当時の事を思い出す。

 仲の良かった隣人が敵に回る恐怖。

 どうか娘達だけは見逃して欲しいと懇願する母。

 無慈悲に連れていかれ、妹を庇ってくれた姉達。

 

「そして私は、自分の身を守るためにあの施設に居た人達を全員遠くに跳ばした」

 

 後はラクス達の知る通りなのだろう。

 ツィーネから情報提供されたアークエンジェルに保護された。

 

「私が跳ばしたのは研究員達だけじゃなくて、母と姉の遺体も。でも、ジエー博士がPMの世界に姉の遺体。正確には瓶詰めにされた脳と脊椎だけど。それを発見してくれて。前の世界の騒動が一段落したら捜すつもりだった」

 

 だからこの世界にPMが現れた事はフィアラにとって幸運だった。準備に時間を要するとはいえ、PMの世界に行く足掛かりが出来たのだから。

 もしも全く当てが無いのなら諦める事が出来たかもしれない。

 だけど目の前にチャンスが在るのなら。

 

「私は姉さんの亡骸を取り戻したい。人間扱いされずに死んだ家族をせめて、実験動物(モルモット)としてじゃなくて、ちゃんと人間として弔ってあげたい。例えそれが、私のワガママだとしても」

 

 きっとそれは、とても難しい事なのだろう。

 1つの世界で1人の亡骸を発見しようと言うのだから。

 

「フィアラ……」

 

 どう言葉にすべきか考えていると、フィアラの方から別の話に切り替えてきた。

 

「ラクスさん達は、どうしてZEUTHと行動を共にすることにしたんですか?」

 

 フィアラが知らないアークエンジェルの時間。

 

「少なくとも、片側のZEUTHはアークエンジェルの人達を殺そうとしたのに」

 

「……私達は────」

 

 そこから、ラクスはZEUTHと行動を共にすることに経緯を説明する。

 あの世界が、既にラクス達の力では抗い切れない程に混迷し、強大な脅威に対抗する為に力を合わせる必要があったこと。

 また、自分達の行動が結果的に世界を混乱させる結果になったことなり、事実ZEUTH同士の仲間割れもその要因の1つとなってしまった。

 

 全てを聞き終えた後に、何かを堪える苦い表情をするフィアラ。

 3分程の沈黙の後にフィアラが口を開く。

 

「私は……それは、違うと思う……」

 

 絞り出すような声。

 頭の中を整理しながらも拙く自分の考えを口にする。

 

「あの時、ザフト側のZEUTHは、本気でキラさんやアークエンジェルの人達を本気で殺そうとしてたのに。なのに、謝るのがラクスさん達の方だけなんて、絶対におかしい」

 

「それは……」

 

 チラムの町で暴れたデストロイ。

 そのパイロットだった少女を殺害────後に生存が発覚したが。

 その復讐に燃えたシンがキラの乗るフリーダムを撃墜した。

 

「自分達が他人を傷付けたり、殺した時は仕方ないで済ませるくせに。自分達が助けたい相手は全部助けられるべき人間で、それを殺したから殺されて償えなんて、そんな馬鹿な理屈はない!」

 

 段々と苛立ちが沸き上がり声と表情に怒りを滲ませる。

 2つのZEUTHが合流した際に時折聞こえてきていた。

 フリーダムのせいで仲間が死んだ。

 ステラはフリーダムに殺されたから。

 俺達が仲間割れしたのはアークエンジェルの奴らのせい。

 

 だから、消えてくれて良かった。

 

 そのような言葉を口にするのを聞く度に石を投げつけてやりたくなった。

 なのにどうして、そんな相手と手を繋ぐ必要があるのか。

 

「殺そうとしたのはザフト側のZEUTHなんですよ。なのに、生きていたから水に流してラクスさん達だけ非を認めるなんて、それは違うと思う……」

 

 強く反論されてラクスは目を大きく開いた。

 

「上手く言えないけど……自分を殺そうとしたのに、自分達の行動に失敗や間違いが有ったからって、殺されても仕方がなみたいな考えは、私には受け入れられないし……それで自分達がやった醜い部分をうやむやにするZEUTHにも納得出来ない……!」

 

 どうにか説明しょうとするフィアラの言葉にラクス少しずつ彼女の反発を理解する。

 フィアラは自分を保護してくれたアークエンジェルという場と人を大事に思っていたのだ。

 だからそこを傷付け、中傷したZEUTHへの怒りを治める事が出来ず、またそれを仕方ないと受け入れたキラやラクス達にも憤っているのだ。

 本当に大切だったからこそ真剣に。

 

「私達を売った町の連中も、人体実験で私の家族を殺したあの研究者達も! 私自身が生きてたからって絶対にうやむやになんて流さない! 許さない! だから────」

 

 ずっと溜め込んでいた感情を言葉ている内に口が止まらなくなった。

 

「私には分からない!! 殺されそうになったのに、簡単に許せるキラさんの考えも! 大事な人を傷つけられても平然としてるラクスさんの気持ちも! 私には全然分からないっ!?」

 

 殺そうとしてきた。殺されそうになった。

 それは安易に許すべきではないと訴えてくる。

 

「ありがとうございます、フィアラ……そこまで私達を想ってくれて。そしてごめんなさい。そこまで貴女を追い詰めてしまって」

 

 ラクスがフィアラを抱きしめる。

 怒りや憎しみを抱える辛さを説いて、もう止めて良いと口にするのは簡単だ。

 しかしそれは彼女の真剣な気持ちを否定する事に繋がりかねない。

 少なくとも今は。

 家族を理不尽に奪われたフィアラにとっては、"許す"というのは殊更難しいのかもしれない。

 それでも少しずつほどいていけたなら。

 

 いつかは、きっと────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、部屋を出る時間になるとラクスが1冊の手帳を渡した。

 

「これを」

 

 それは、多元戦争でZEUTHを出ていった際に紛失したフィアラの日記だった。

 

「……っ!?」

 

 慌ててひったくるように日記を取って胸に抱える。

 

「あらあら。そんな風にしては手帳が傷んでしまいますわよ?」

 

「中は、その……」

 

「あぁ。ごめんなさい。フィアラの事を色々と知りたかったので」

 

 ラクスの返しにフィアラは日記を見られた恥ずかしさに顔を赤くして天井を向く。

 すると、端末からバイブ振動が起きた。

 確認すると、PMの出現を知らせていた。

 

「ゴメン、もう行く!」

 

 慌てた様子で荷物を持って部屋を出ていこうとするフィアラだが、出る瞬間に振り返る。

 

「それじゃあ、()()!」

 

 それだけ告げると今度こそフィアラは部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラクス?」

 

 エターナルの私室で、物思いに耽っていたラクスはキラの声で現実に引き戻された。

 

「ボーッとしてたけど、大丈夫?」

 

「えぇ。大丈夫ですわ」

 

 そう、まだフィアラとの関係も大丈夫な筈だ。

 あの時、またと言ってくれた彼女なら。

 時間はかかるかもしれないが、きっと大丈夫。

 いつかまた、手を取り合える日はくる。

 そう信じて、ラクスは自分のやるべき事に取りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フィアラの父親が死亡したのは簡単に言うと、「ナチュラルの捕虜なんかいるかよ!」これです。
ただし家族はパナマの戦闘で死んだとしか知りません。

今回、フィアラが歌っていたのは石川智晶さんの"Little Bird"のイメージ。
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