すれ違いの結末 作:ビールは至高の飲料
それは、ZEUTHからフィアラが居なくなった事が発覚した時の事。
「ど、どうしよう! フィアラが居なくなっちゃったよダーリン!」
「落ち着け! いくらなんでもそう遠くには行けない筈だ! 捜しに行くぞ、メール! お前らも、悪いが手伝ってくれ!」
慌てるメールを落ち着かせながらランドが周りの人達に協力を求める。
レントンから始まり、元アウトサイダー組のメンバーを中心に協力者が集まる。
それは、アークエンジェル撃墜後のフィアラの様子を知っていることでの罪悪感もあったのかもしれない。
もちろん、純粋に心配している面もあるだろうが。
「お金とか持ってない筈だから、町の人に聞けばすぐに見つかるよ!」
「うん。1人で行動したら危ないし、早く見つけてあげないと!」
「アイツの銀髪とか珍しいからな! 目撃してる情報は集めやすい筈だ!」
レントンやエウレカ。ガロードなど、比較的交流の多かった者は率先して動く。
だが、協力的でない者も当然居た。
「放っておけば良いだろ」
「おいシン!」
無体な言葉を吐くシンにカミーユが咎めるように名前を呼ぶ。
しかし、シンは収まらずに吐き捨てるように続ける。
「自分から出ていった奴の事なんて構うことはないだろ。大体、何でアークエンジェルに居た奴が
不機嫌そうに自身の不満を吐き出すシン。
彼の中でフィアラに対する印象は最悪だった。
小さな女の子といえど、自分達が死ねば良かったなどと言う相手に好感など持てる筈もなく、自分に言った一言も未だに許していない。
まるで、かつてミネルバにカガリが乗っていた時に逆戻りしたような態度。
見れば他にもシンと似たような思いが顔に出ている者もいる。
そんなシンの態度にアポロが食って掛かる。
「お前、それ本気で言ってんのかよ!」
「ここに居たくないってんなら、別に引き留める事なんてないだろ。ずっと部屋から出て来もしないんだし」
拗ねた子供のような態度のシンにガロードが声を荒らげた。
「誰のせいでそうなったと思ってんだよ!!」
フィアラが心を閉ざす原因となったのはアークエンジェルとフリーダムの撃墜を見てしまったのが原因。
確かにアークエンジェルがザフト側のZEUTHと交戦して被害を与えたことは聞いた。
が、あまりにも不確かで不安定なこの多元世界。すれ違いや目的の違いから戦ってしまう事もあり、自分達もそうだった。
少なくとも彼らと短いながらも交流したアウトサイダー組は、アークエンジェルの面々が愉快犯としてそんな事をしたとは思えない。
むしろ、真剣に悩んで自分達なりにこの世界の為に出来る事を探していたように思える。
多少なりとも交流を持ち、仲間意識が芽生えていたガロード達にはそんな一方的に貶められるような人達とは思えない。
だからこそ、癇癪染みたもう一方の言い分に限界も感じていた。
「俺達が悪いって言うのかよ!」
喧嘩になりそうだったその場をレイ・ザ・バレルが割って入る。
「PMの毒性に対処出来るのは彼女だけだ。他の勢力に知られてその手に落ちる前に見つけ出すべきだろう」
「そういう事じゃないっ!」
まるで貴重な道具だからこちらに置いておくべきだと言うようなレイの発言にメールが強い反発の声を出す。
そこで話を聞いていたアナ姫が哀しそうに口を開く。
「どうして、そんなことが言えるのですか?」
小さな身体を震わせて問うアナ姫。
「大切な人を傷付けられて怒ったり、悲しんだりするのは当たり前ではないのですか? 貴方達が嫌っているから、その人を想う人が居ては
アナ姫の言葉に今までアークエンジェルに対して否定的な意見を述べていた面々は呆気を取られた表情をする。
「歌を、聴きました。皆さんと戦う前にフィアラの……」
月光号で僅かな時間、聴いた歌。
こちらから話しかけて頼み、自分達の為に歌ってくれた。
フィアラ自身の何かを表現するように、歌っていた。
どこかで置き忘れてしまった
「でも……今のフィアラの歌は、まるで泣いているみたいで」
迷って帰り道が分からず、泣きながら家を探す子供のような。
その不安や寂しさや怖さが伝わってくるのだ。
もう一度、聴かせて欲しい。彼女が心ままに歌い上げるあの温かな歌を。
「このままでは、私達、フィアラの友達にも、仲間にもなれないままでお別れなんて……」
胸を鷲掴みように手を当てるアナ姫。
誰もが沈黙する中で、始めに動いたのはレントンだった。
「ここにいても仕方ないし。俺、町に探しに行くよ」
「レントン……」
「アナ姫と同じで俺も、またあの子の歌を聴きたい。それに、PMの事で色々と助けてくれたのに、結局フィアラが1番して欲しかった事をしてあげられなかった。それって本当にただ利用してるだけみたいじゃないか」
何だかんだでこれまでフィアラのおかげでPMの毒から沢山の人を助けられた。
だから、このまま放っておくなんて出来ない。
せめてアークエンジェルの無事を確認して送り届けるまでは。
町へ行こうとするレントンにマリンも同意する。
「今回、彼女がここを出るのを決めたのは風見博士の暴走が原因だと思う。だから俺達にも彼女を追い詰めた責任があるだろ」
先日起きた風見博士によるフィアラを襲いかかった事件。
それ件でフィアラのZEUTHに対する不信感が限界を超えた事は誰もが感じていた。
しかもその後、前にも増してフィアラが引きこもり、メールやアナ姫などの極一部を除いて会うことすら出来ず、ZEUTH側から謝罪の1つすら出来ていない状態だった。
これ以上話す事はないと町へ出ようとすると、艦内放送が流れる。
『ガイゾックを確認! 各員、戦闘準備をお願いします!』
「こんな時に!?」
「クソッ! タイミングが悪すぎるぜ!!」
敵が来た以上、パイロットは出撃しなければならない。
この後の戦闘事態は問題なく終わった。
だが戦闘中も、戦闘後に町の住民に聞き込みなどでフィアラを探したが、結局その姿を見つけることは叶わなかった。
アスランがZEUTHからアークエンジェルに巻き込んだメイリンと共にやって来て落ち着き始めた頃。
キラはある質問をしに訪れた。
「アスラン、ちょっといいかな?」
「どうした? キラ」
「うん。フィアラ。前に成り行きでアークエンジェルに乗ってて、君達と戦った時に別のZEUTHの艦に移ってた銀髪の女の子が居たんだけど……その、知らない?」
キラの質問にアスランは前にぶつかった女の子の事を思い出す。
あれがアークエンジェルと縁のある子だと知るのはそのすぐ後だったが。
少し言いづらそうにアスランは答えた。
「彼女はZEUTHを降りたよ」
「なんで!?」
アスランの言葉にキラが瞬きする。
そこからは人伝に聞いたことを告げる。
「俺達が死ねば良かった、だそうだ」
「え?」
「ZEUTHで、お前達の行動を非難している会話を聞いて、そう叫んだそうだ。それからは、部屋から出て来ることも稀だったらしい。俺は結局、一度も言葉を交わせなかったよ」
アスランも一度、アークエンジェルの事が聞きたくて部屋に訪れた事があったが、ドアを開けることはなかった。
すれ違ったあの時、敵意をむき出しにした少女の顔を思い返す。
それは、大切な場所を奪われた者の怒りの表情で。
過去の大戦で友を失った自分もした筈の顔だった。
いったい何度あんな顔を誰かにさせるのかと胸が痛み、どうしてもう少し彼女を気にかけてやれなかったのかと自責からアスランは自嘲の笑みを浮かべた。
「きっとあの子にとって
アスランの言葉を聞いてキラもショックを受けている。
キラが撃墜され、安全からフィアラへの連絡を絶った。
フリーダムを失ったこともあり、自分達の生存を知られてアークエンジェルに危機が迫ることを怖れて。
それに接触したZEUTHの人達は善人で、自分達から離れても大丈夫だろうと楽観視していた。
少しだけ、とアークエンジェルを離れたフィアラが、かつて守りたかった赤い髪の少女と重なった。
話があると不安気な顔で告げ、結局話をすることが叶わなかった彼女と。
「フィアラは、さ……」
また、あの時の過ちを繰り返してしまったのだろうか?
「ラクス、歌を教わったり。カガリやミリアリアにも可愛がってもらってて……」
何を伝えたかったのか、ハッキリせずに口を閉じてしまう。
いくらあのZEUTHの人達が善人でも、フィアラと個人的な信頼関係はなく、アークエンジェルがMIAになってどれだけショックだったのか、推し測れなかった迂闊さが悔やまれる。
「カガリにフィアラを探してもらえるように頼んでみる」
「そうだな……」
自分達の為に怒ってくれた少女の無事を人任せに祈るしかないことが歯痒かった。
戦禍は拡大していく。
誰もが野心に取り憑かれ、己が理想を成就させようと世界は混沌は広がって行く。
そんな中でも、人と人との繋がりは生まれる。
現在、戦闘を戦闘を終えて、アークエンジェルとエターナル。それに所属するMSとZEUTHの舞台が睨み合う形になっている。
「僕達は、貴方達に許されない事をしたと思ってます。でも、僕達が望む未来は貴方方と同じだとも思ってます」
「だからって、これまでの事を簡単に水に流せるかよ!」
「全部が全部お前達の所為だなんて言うつもりねぇがよ。はいそうですかって、納得出来るか……!」
かつて戦場に介入されたZEUTHの面々が当然の如く反発を返す。
キラ達もそれを粛々と受け止めるように反論しない。
「行こう、キラ」
「うん……」
アスランに促されてエターナルに帰艦しようとする。そこで待ったをかけたのがランドだった。
「だから、そうやって諦めんなよ。話さなきゃ、分かんねぇ事だってあるんだぜ?」
「ランドさん」
ここでランドが引き留めに入る。
「異星から来た奴や、未来の地球から着た奴。種族が違う奴とだって、最初はどうあれ、ここまで上手くやってこれたんだ。向こうに撃つ気がねぇってんなら、話をしてみるのも悪くねぇんじゃねぇか?」
「だけどよ……!」
「私も、彼らと話して見るべきだと思います」
まだ納得出来ない者が声を上げるが、そこでセツコがランドに賛成する。
以前、フィアラに彼らの事を聞こうとしたが、憎しみから拒否されてしまった。
アスランが脱走した真意も、知るべきだろう。
「私達は憎しみや誤解、独善で戦う間違いを知り、抗って来ました。でも、ここで彼らを拒絶すれば、それが全て嘘になってしまうから」
それでもまだ納得出来ない面々がおり、そこでミネルバが動く。
ミネルバは、プラントへの帰投命令が出ており、一緒に行けるのはここまでだと。
シン、ルナマリア、レイには自身の判断に委ねたが、ザフトに戻ることを決めたのはレイだけで、シンとルナマリアはそのままZEUTHに残ることとなった。
ミネルバ艦長であるタリアの勧めもあり、現れたハマーン共々話し合いの場を設ける事となった。
しかしそこで、この宙域に居る全員がその反応に驚きを示す。
突如レーダーに表示された見たことの無い機体。
MSなどの飛行形態に似たシルエットの乳白色に金ラインが施された機体。
「なんだ? あの機体は?」
誰かが、皆の疑問を代弁する。
その場に佇んでいただけだったその所属不明機は、インパルスへ凄まじい速度で接近する。
「え!?」
衝突する直前に先端が割れて脚部となると、飛行形態から人型へと変わり、左腕の小さめなシールドで押し込むように破壊された戦艦の残骸に突っ込ませる。
ルナマリアは、強い衝撃を受けて意識が飛びかけるが持ち直して所属不明機を睨んだ。
「アタシが1番倒し易そうってこと? 舐めないでよね!!」
ビームサーベルを引き抜き、応戦しようとするが、それより早くシールドの内側に搭載されていたビームサーベルを引き抜き、インパルスの右腕を斬り落とす。
それからサーベルを収納して右腕でインパルスを固定すると、シールドの内部から実体のブレードが飛び出しコックピットに向けて何度も刃を振るう。
VPS装甲であるインパルス故にコックピットが貫かれる事はなかったが、何度も何度も、嬲るように実体剣を叩きつけてくる。
「ルナッ!!」
シンがデスティニーを駆ってルナマリアを助けようとするが、それよりも早く動いたフリーダムとジャスティスが不明機へと仕掛けた。
ドラグーンで囲うようにビームを放つフリーダムとその隙間を通るようにジャスティスのブーメランが襲いかかる。
ドラグーンのビームの雨を大きく移動する事で避けると、ブーメランは肩の装甲がスライドし、
尻部に収納されたライフルを抜き、フリーダムへと照準を合わせる。
しかし不明機は、ライフルを撃たず、まるで戸惑うようにその場で動きを止めた。
その一瞬の静止にアロンダイトを引き抜いたデスティニーがその刃を振るう。
「ルナを、やらせるかぁあっ!!」
大きく振りかぶった刀身を避けると、そのまま飛行形態へと戻り、戦域から離脱していく。
「なんだったんだ? あれは……」
苛立たしげに呟いたシンの疑問に、誰も答えることはなかった。
「貴方も、人間だったんですね……」
この場に居たZEUTH、アクシズ、オーブの代表達が話をしている最中、シンは仇敵であったフリーダムのパイロットであるキラ・ヤマトと対面していた。
ステラを傷つけた事を謝られ、これまでしてきた事や、これから自分たちがすべき事を聞いた。
彼らにも守りたい物があり、その為の道を迷いながら模索していた事を、ようやく実感する。
頭では理解しているつもりでも、心のどこかで彼らをあの、ギム・ギンガナムのように戦いを欲するような者だと思い込んでいた。
話してみれば何て事のない、自分と同じ人間なのだと実感できる。
話が一段落したところでランドとメールがやって来た。
「よう。話は終わったか?」
「えぇ、まぁ」
苦笑するキラにランドが真剣な顔になる。
「悪かったな……」
「え?」
「俺達はお前達と行動してたときに客扱いで遠慮して、踏み込む事をしなかった。それが、お前さんを傷つける結果になっちまってよ」
信頼関係を築くのに時間が足りなかった、といえばそれまでだが、その所為でもっと早く手を取り合える筈だったのを、ここまで長引かせてしまった。
「そんな。僕達も、録に話もしないで……」
「それと、謝んなきゃいけねぇのはもう1つだ。メール」
ランドの後ろにいたメールが手にしていた手帳を渡す。
「フィアラの日記が書かれた手帳。ZEUTHを出るとき慌ててたみたいで、通路に落ちてたの」
落としたことを気付かずに出ていったのだろう。
それを見つけて今までメールが預かっていた。
胸ポケットに収まりそうな小さな手帳。キラはそれを開いて中身を見る。
最初は、慣れてない様子で1日に一言書いて終わっているが、少しずつ1日に使うスペースが増えていた。
だが、その手帳に暗い陰が差し込むようになったのはアークエンジェルと離れてしまってからだ。
日記の日付も、数日間を置いている事もある。
○月○日
今日、キラさん達が消えてくれて良かったと笑っている声を聞いた。
人を殺してこの部隊の人達は嬉しそうに話している。
許せない許せない。
何でこんな奴等が生きて。
ここに居たくない。誰か助けて助けて助けて────。
等々、フィアラの被害妄想が混じった日記の文が書かれている。
ただ分かるのは、この日記が進む度にフィアラの精神が追い詰められていった事だけ。
日記を目で追って険しい表情をするキラ。
それを見て、シンが後悔するように呟く。
「俺、前にあの子を叩いたんです……その時はバツは悪かったけど、アイツは俺達が死ねば良かったって言って……頭にきて、あの子がどんなに傷ついてたか考えようともしなかった」
今なら解る。アレは、フィアラなりの精一杯の虚勢だったのだ。
自分の大切な人達を傷つけられて、悪く言われ、胸を張られたら、どう思うのか。許せないに決まってる。
そんなことすら想像が及ばなかった。
だって、自分が倒した者達にも大切に想う人など、居てはいけないから。
心のどこかでそう逃げていたのだ。
以前、アナ姫に言われた事を実感してシンは視線を落とす。
この場を去った少女と、無性に話がしたかった。
なんとかキラ達を反論させようと思ったけど、彼らって基本自分達の問題行動に対して言い訳するイメージがないから結局ifルート準じになりました。
でも、無印Zで自分達を正義の愚連隊とか言ってる辺り、アークエンジェル組と大差ない気がする。