すれ違いの結末   作:ビールは至高の飲料

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貴女が受け取るべき物

「フィアラッ!? 良かった! 目が覚めましたのですね!」

 

 珍しく慌てた声を上げるラクスにフィアラは首を傾げる。

 ベッドで身動ぎすると腹部に痛みが走った。

 

「つあぁ……っ!?」

 

「動かないでください! 貴女は刺されたのですから!」

 

「さされ……?」

 

 そこで何があったのか思い出す。

 いつものようにラクスに食事に誘われてやって来た小さな町で待ち合わせをしていた。

 ラクスを見つけて合流しようと横断歩道を渡ろうとしたところで誰かに刺されたのだ。

 

「……フィアラ。起きたばかりの貴女にこのような事を訊くべきなのか迷いますが、刺された理由に覚えは?」

 

「有りすぎてわかんないね……」

 

 実際にこの世界に来てからフィアラ自身騒動を起こすことも多く、恨まれる理由は幾らでも思い付く。

 痛みを我慢しながらゆっくりと上半身を起こすと、病院の個室の扉がノックされて失礼と、とサンドマンが入ってきた。

 

「フィアラ君を刺した男性は警察に連れていかれたよ」

 

 男性がフィアラを刺した際に、即座にサンドマンが相手を取り押さえた。

 その後、町の警察に引き渡したのだ。

 

「彼は元々ここから南西に位置する町で暮らしていたらしい。何か心当たりは?」

 

 サンドマンの話を聞いて思い至り、フィアラはあぁ、と息を吐く。

 

「以前、PMが出現したから対処した。その後にファイヤバグとか言う傭兵団に町の人間を人質に取られて仕方なく姿を晒した」

 

 破界事変の時にファイヤバグに捕まり、その時のフィアラの態度が大変よろしくなかったらしく、団長だったマリリンという女から暴行を受けた。

 フィアラの身体に残っている傷の殆んどがその時に刻まれた物だ。

 

「逃げる際に何人か団員を殺した。町を見捨てる形になってね。その時に町の人間にも姿を見せてたから。その町も、ファイヤバグに壊滅させられたと聞いたけど」

 

 そこまで聞いて大体の事情を把握するラクスとサンドマン。

 本来憎むべきはファイヤバグなのだろうが、傭兵団と1人の少女のどちらかが手を出しやすいかと言えば────。

 フィアラの責任でなくとも、原因の1人には違いない。憎む理由が何でも良いのならなおのこと。

 サンドマンにから話を聞いてフィアラは自分の銃を手に取る。

 

「ちょっと撃ってきます」

 

 ベッドから降りようとすると、ラクスはフィアラが持つ銃に手を添えて問いかける。

 

「相手を撃てば、癒されますか?」

 

「……殴られたら殴り返されるのは当たり前だって教える必要があるでしょう。泣き寝入りだなんてゴメンですとも。大丈夫、命までは取りません」

 

 原因がフィアラにも有ったとしても、それはそれである。

 だが、過去の大戦を経験しているラクスからすればその果てを予想してフィアラを止める。

 

「誰かに痛みは与えれば、その痛みは必ず自分に返ってきます。その引き金を引いてしまえば、いつかまたフィアラを傷付けようとする人が現れるでしょう」

 

「だから、相手が諦めるまで死なない程度に殴られろとでも?」

 

 相手が殴るのを止めるとは限らない。

 むしろ無抵抗は調子づかせるだけなのだ。

 だからこそ、痛みを与える必要がある。

 

「それも違います。与えられる理不尽に怒りや悲しみを抱くのは当然の事で、人として必要な事です」

 

 ラクスもかつては父を祖国のプラントに殺された身だ。

 それはナチュラルに対して募っていく憎悪に対して少しでも冷静になって欲しいとプラント市民に呼びかけ続けた。

 何より、当時の最新鋭機だったフリーダムをキラに渡した件。

 だからラクスが父を殺されたのは彼女の行動に依る自業自得な面もある。

 だからと言って、父を殺した者や、それを命じた者を怒りや憎しみを抱かなかったのか? と問われれば、首を横に振るだろう。

 

「大事なのは、その感情とどう向き合うかです。ただ怒りや憎しみのままに動けば、その行動の結果は必ず自分に返ってきます」

 

 ここで暴力を返したとしてもまた、もしくは別の誰かがフィアラに襲いかかってくる。

 だからこそ安易な暴力に頼るのではなく、向き合い方と戦い方を考えなければならない。

 無抵抗主義と平和主義は似て非なる物だから。

 ラクスの言葉に納得してない様子のフィアラにサンドマンが情報を追加する。

 

「どの道、君を刺した男性は警察署だよ。面会をするのも難しいだろう」

 

 サンドマンの言葉にフィアラは更に苛立ちを募らせて舌打ちする。

 

「フィアラにもいつか、理解(わか)ってくれると良いのですが」

 

 優しく語りかけるラクス。

 だが結局今も、フィアラは理解できずにいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は~……広いお風呂さいこー」

 

 メールがふやけた表情で湯に浸かる。

 ここにはメールだけではなく、エスターとフィアラも居た。

 3人共、特区・日本やPMの本拠地での戦闘での疲労がある。

 野郎共も、男性用の大浴場で汗を流しているだろう。

 フィアラも隅っこで湯槽に浸かっていると、エスターが近付いてきた。

 

「お前さ。アレはないんじゃないか?」

 

「なにが?」

 

「シンの事だよ! アイツにだけあの対応は酷いと思うぞ!」

 

「はぁ……互いに仲良くなる理由が無いんだからしょーがない。それと、せっかく気分良くなってるのに腹立つ話題を振るのはやめて」

 

 ニッコリと笑って言うフィアラにエスターは不満そうに唇を尖らせる。

 その様子にフィアラはため息を吐く。

 

「そもそも、相手を嫌うのには大した理由は要らないけど、相手を好きになるには相応の理由が必要だし。私には彼に対して好意的に接する理由がまったくない」

 

 フィアラの言葉にエスターは眉間にしわを寄せる。

 そよ反応にフィアラは面倒そうに話す。

 

「嫌いな相手なら関わらなければいいだけだけど、好きな相手なら一緒に居て、相手の何かを欲しがったり与えたくなる物でしょう? なら、何かしらの理由は必要だ。それが他人からしたら些細な事だったとしても」

 

 それこそ、顔が好みとか自分に優しくしてくれるとかそんな事で良いのだ。

 だが嫌いな相手ならそもそも近寄らなければいいだけの話。

 

「初対面で対応を誤ったのは向こうなんだ。なのに、なんで今更仲良しこよししなきゃならないのか」

 

 もしもZEUTHで初めて会ったあの時に、別の対応をしていれば、また関係が違っていたかもしれないが、そうはならなかった。

 

「自分に危害を加えたヤツなんて、心を開く価値がない」

 

 断言するフィアラにメールが話しかけてくる。

 

「だからゼロを殺すの?」

 

「当たり前です。私の件が無かったとしても、好き勝手人を操るような奴、さっさと殺した方がいい」

 

「でもさ。別に悪いことやらされた訳じゃないだろ」

 

 ゼロがフィアラに命じた事は特区・日本を助けろ、というだけだ。

 確かに気に入らないだろうが、殺す殺さないに発展するのはエスターには少々オーバーに感じる。

 

「人の心を操るヤツだよ? ZEXISだって今頃、ゼロの操り人形になってる可能性も有るんだから」

 

 自棄になったゼロがZEXISを乗っ取っている事態も想定される。

 というか、今までそうしなかったのが不思議なくらいだ。

 ZEXISと合流した時はそこら辺を確りと見極めないと。

 ラクスやキラ。それにアナ姫がゼロの傀儡にされている可能性を想像し、その不安を上を向いて吐息と共に吐き出す。

 

「大体、私の力だってノーリスクな訳じゃ────」

 

 そこで大浴場の扉が開いた。

 貸切だと聞いていたので、3人は不思議そうにする。

 入ってきたのは体にタオルを巻いたニアだった。

 

「私も一緒にいいですか?」

 

「え! はい! どうぞどうぞ! 借りてるのはアタシ達の方ですし」

 

「ありがとうございます」

 

 メールが了承すると嬉しそうにニアも浴槽に浸かる。

 その時にニアの揺れる胸部を見て3人がそれぞれ平らな自分の胸を見る。

 

「どうしましたか?」

 

 不思議そうにするニアにメールがなんでもないと返す。

 それからニアとメール、エスターの3人で会話が弾む。

 ニアがこの戦争が始まってからのZEXISの活躍や日常の事。

 それとシモンの話などで盛り上がっている。

 それを少し距離を置いて見聞きしているフィアラだったが、ニアの方から話しかけてきた。

 

「貴女が、フィアラさん? PMを退治して回ってると聞いてます。以前カミナシティ(この街)も守ってくれた事。ありがとうございます」

 

「別に、街を守るのが目的だった訳じゃない。私は私の目的の為に動いただけ。ただの結果論です」

 

 あの時はようやくPMの世界へ行く為の扉が完成したのだ。

 その為に必要な行動を取っていただけ。

 しかし、ニアにはフィアラの行動の理由は関係なくて。

 

「でも、貴女がこの街を守ってくれた事は事実でしょう? だからやっぱりありがとう、です」

 

(グイグイ来るなぁ、この人……)

 

 手を握ってニコニコとお礼を言うニアに、戸惑う。

 

「どうしました?」

 

「いえ。こっちでPMを退治してた事を初めてちゃんとお礼を言われた気がして」

 

 前の世界ではアークエンジェルの人達からお礼を言われていたが、こっちの世界に来てからは、人との付き合いがあまりにも限られていて、お礼の1つも言われてない気がした。

 

(いや。あのスザクとかいうブリタニア騎士からは言われたか)

 

 特区・日本の宣言をした時に襲ってきたPMを排除した際に自分を守る行動と共に通信越しにお礼を言われた。

 まぁ、今更どうでもいい事だが。

 ただ、こうして面と向かって礼を言われると少し戸惑う。

 

「そうなのですか?」

 

「周りは私がアレの対処をするのが当たり前だと思ってるから」

 

 ややトゲのあるフィアラの物言いにエスターとメールが微妙な表情をした。

 いつの頃か、勝手にPMに対処するフィアラに対しての出来るのだからやってくれて当然、とまではいかないまでも、近い認識があったのは否定できない。

 だからそれを止めたフィアラに不満の声もチラホラ出ている。

 それをどう思ったのか、ニアが握る手を自分の胸に寄せて目を閉じる。

 

「なら、今まで感謝が貰えなかった分、私が伝えます! 本当にありがとうございました」

 

「貴女は……」

 

「どうしました?」

 

「いえ、なんでもないです」

 

 何か言いたそうなフィアラだったが、ニアの後ろに居る2人を見て口を閉ざす。

 そこでニアが少し恥ずかしそうにフィアラにお願いをした。

 

「それで、お願いがあるのですが。歌を、聴かせてくれませんか?」

 

「は?」

 

破界事変(前の戦い)で貴女の歌を聴いて、いつかちゃんと聴いてみたいと思っていたんです。ダメですか?」

 

「それは……」

 

 破界事変の際に偶然ZEXISとして遭遇した事があり、PMとの戦闘中でフィアラの"歌"を聴き入っている余裕はなかった。

 しかし、フィアラはニアから視線を外す。

 

「今は、そんな気分じゃないんで……」

 

「そうですか……」

 

 フィアラの返答にニアが残念そうに肩を落とす。

 だが、すぐに笑みを向けてきた。

 

「いつか。貴女の歌を聴かせてくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の歌を聴けぇええええっ!!」

 

 即急で用意されたステージで熱気バサラが単独でライブをしている。

 立食形式の食事で一夜限りの宴が行われていた。

 熱気バサラの歌に会場は集まった人達の歓声に包まれており、フィアラは壁に背を付けて黙々と食事を摂っていた。

 

「お前は歌わねぇのか?」

 

「プロと同じステージに立つとかどんな罰ゲーム?」

 

 ランドの質問にフィアラはそう返す。

 フィアラからすれば、あくまでも歌うのは目的の為の手段であり、熱気バサラのように誰かに聴かせる為の歌ではない。

 ここの責任者であるロシウからも提案されたが同様の理由で断った。

 ステージで歌うバサラを見ながらフィアラは別の事を考える。

 

(あの場所で私が歌う事で、姉さんを取り込んだPMが出てきた。目的には大きく近付けたと言って良い)

 

 思ったより早く、姉の遺体を取り戻す事が可能かもしれないとあの時に歌えとアドバイスしてくれたバサラに後でお礼を言おうと決める。

 柔らかく蒸させた肉と野菜を食べていると、シンが何か言いたそうに此方を見ているが、無視を決め込んでいたが、いい加減、鬱陶しくなってきた。

 

「なにか? 言いたい事があるなら言ったら? 取り合うかは別だけど」

 

「……お前、本当にゼロを殺す気なのか?」

 

 まだその話を蒸し返すのかとうんざりする。

 

「止める理由がある? そんなに止めさせたいなら、ゼロに頼んでもう一度私にギアスで私を洗脳すれば? 自分達の都合の良いように。私の人格を全部否定してさ」

 

 洗脳とはそういう物だ。

 相手の願いや、やりたい事を否定して、自分達の意見に同意させる。

 そこに相手の元の意思など関係ない。

 暗にフィアラ程に拗れた相手にはそれくらいしないと駄目だと示唆する。

 

「そんな事させるか! だけど、ゼロの言い分を聞いてからでも────」

 

「心変わりを期待しているのなら無駄だよ。私はゼロの思惑や人生(かこ)に何の興味もない。やられたことの仕返しと、これからも邪魔になりそうだから排除する。それだけ」

 

 どれだけ同情すべき理由があろうと、此方に手を出した以上は話し合いは論外だ。

 

「それに、相手を操る奴に話し合いとか無意味だよ。どのタイミングで洗脳されるか分かったもんじゃない」

 

 "話し合い"をするにはゼロのギアスはあまりにも相性が悪い。

 そこでランドがあー、と提案を出す。

 

「だったら、これからゼロの奴にギアスを使わせない約束をさせるとかはどうだ?」

 

 自分でも無理があると分かっているのだろう。ランドの言葉に力がない。

 それは、まだギアスに対して半信半疑だからこそ強く案が出せないのかもしれない。

 

「それを私が信じるとでも? そもそもZEXISでは使わなくても、その輪から離れればすぐ誰かに使うでしょ。使い勝手の良い道具は誰だって手放せないし」

 

 ギアスという便利な道具を持っている者が今更対話による相互理解を重視するとは思えない。

 たとえ本人が使わないと決めても、もし危機が訪れたら、あっさりとその誓いを破るかもしれない。

 信じる要素など1つもないのだ。

 そこでスザクが話に入ってくる。

 

「それでも、少しだけ時間をくれないかな? 僕はゼロに確めなきゃいけない事があるんだ」

 

「確めたい事ねぇ? 相手がそれを素直に話すとでも?」

 

「話すさ。ゼロの正体が、僕の予想通りならきっと」

 

 何かを確信した様子のスザク。

 同時に食べ物を見て回りつつ皿に盛っていたメールとエスターがやって来た

 

「ほらダーリン! お肉とお酒ばっかりじゃなくて、野菜や果物も食べる! そんなんじゃ太るよ!」

 

「へいへい」

 

 渡されたサラダを食べるランド。

 その仲の良い男女をエスターは羨ましそうに見ていた。

 

「クロウが居たらアタシも同じ事をしてポイントを上げられるのに……」

 

 などとブツブツ言っている。

 そこでフィアラが場を離れようとする。

 それをシンが呼び止める。

 

「おい。どこ行くんだよ」

 

「関係ないでしょ、鬱陶しいな。糖尿病になれ

 

「聞こえてるぞ! どんな捨て台詞だ!?」

 

 ボソッと言った最後の言葉にシンが反応するが無視して去っていくフィアラ。

 ランドは酒を飲み干して話す。

 

「このタイミングで行方を眩ます事はねぇだろうさ。後は、ZEXISと合流してから考えようぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベランダに出ていたニア。

 風に当たっていると後ろから声をかけられた。

 

「どうも」

 

「フィアラ、さん?」

 

 険しい表情のフィアラ。

 その視線は睨んでいると言ってもいい。

 

「単刀直入に訊きます。貴女は自分の今の状態────いつアンチスパイラルに意識を乗っ取られてもおかしくないと気付いていますか?」

 

 アンチスパイラルは一時的に撤退しただけであり、今も地球人類の殲滅を狙っているだろう。

 今は小休止をしているに過ぎない。

 そしてアンチスパイラルが再び動き出せば、ニアはまたメッセンジャーとして自由を奪われるだろう。

 フィアラの質問に、一瞬困ったように笑うが、すぐに強い意思を秘めて頷いた。

 

「はい。理解はしているつもりです。そしておそらくその時が、彼らとの決着となるでしょう」

 

 未来を予言するようにニアは答える。

 

「それを理解していて、あの人の傍に居るんですか?」

 

 敵になると分かっていて、シモンの傍を離れないのかと。責めるようにフィアラは問う。

 

「信じてますから。シモンなら……ZEXISならアンチスパイラルを超えていけると。だから私はシモン達を導く標としていずれは命を懸けましょう」

 

 手を組み、祈るように話す。

 

「人の心は無限。その大きさに私は賭けてみたいのです」

 

「……仮にアンチスパイラルを倒せたとして、自分がどうなるのか、理解してますか?」

 

「分かりません。どうなりますか?」

 

「消えるだけです。アンチスパイラルが滅びる以上、貴女は存在出来なくなる。アレらを倒したところで、貴女に還るモノは何もない」

 

 メッセンジャーとはそういうモノ。

 たとえアンチスパイラルの言いなりになっても、役目を終えれば不要な道具として消されるだけ。

 

「そうですか。でも、フィアラさんは1つだけ間違ってますよ」

 

「?」

 

 大まかではあるが、間違った事は言っていない筈。

 首をかしげるフィアラにニアは分かりませんか? と問う。

 

「たとえこの身体が消えても、シモン達が覚えてくれている限り、私の存在は消えない。私が皆さんと過ごした過去も」

 

 後ろ向きにではなく、本心からニアはそう信じている。

 

「惚気かよ……」

 

 ガリガリとフィアラは頭を掻いた。

 少し考えてからフィアラはベランダの手摺に立つ。

 

「危ないですよ。降りてください」

 

 注意するニアだが、フィアラは息を吸っていつもの言葉を口にする。

 

「私の歌は、世界を侵す……」

 

 フィアラを包むように黄金に光る紋様の帯が出現し、その口から歌が紡がれる。

 それは、夢を追いかける旅人の歌。

 どこまでもどこまでも進み、大切な人達に歌を届ける旅人が口ずさむ歌だった。

 フィアラはくるくると回りながら舞うように手摺の上を歩く。

 たった数分の歌が終わりを告げると同時に紋様は消え、フィアラは軽くジャンプして手摺から降りる。

 同時にパチパチとニアが拍手した。

 

「とても優しい歌でした|

 

「どうも」

 

 いつの間に持っていたのか、手の平には蝶の銀細工をニアに渡す。

 

「あげます」

 

 蝶の飾りを手にしてキョトンとするニア。

 

「アンチスパイラルが倒せば、貴女の消滅は避けられない。だけど、これを持っていれば少しだけ貴女の存在を人並みとはいかずとも、少しだけ長引かせられるはず」

 

 説明を聞いたニアが瞬きをした。

 

「アンチスパイラルの打倒は多くの宇宙の悲願です。貴女がZEXISという剣を導き、それを成すのなら、何らかの報酬が有って然るべしでしょう。要するに、報酬の前払いです」

 

「フィアラさん……貴女は……」

 

「ZEXISが出来るのは敵を倒し、脅威を払い除けるだけだ。貴女に報いれるモノは何もない。だから持っていて欲しい。どんな綺麗事を言ったって、少しでも大事な人の傍に居られるに越した事はないんだから」

 

 フィアラの力を込めた銀細工。

 それを持っていても、精々数年程度の延命だろう。

 だけどフィアラにはこれくらいしか出来ない。

 アンチスパイラルの打倒して得をするのが他人だけで、貰えるのが心の満足だけでは理不尽過ぎる。

 

「さようなら、ニアさん。ここを出たら、もう会うこともないでしょう」

 

 別れを告げてフィアラは会場へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、カミナシティはZEXISを迎え入れる前にちょっとしたトラブルに見舞われていた。

 

『我々はアロウズ。特区・日本を攻撃したテロリストの引き渡すを要求する。従わない場合は、街の安全は保証しない!』

 

 要するに、特区・日本で大暴れしたフィアラをテロリスト認定し、PMに対抗出来る彼女を確保しようというところだろう。

 ロシウが対応してるが既に彼らはMSによる威嚇射撃を行っており、このままではキルモードのオートマトンを投入しかねない。

 それを聞いていたフィアラは不愉快そうに機体のところへ移動する。

 

「1人で戦う気か」

 

 シモンの問いにフィアラは吐き捨てるように返す。

 

「外敵に対して何の役にも立たないくせに、内枠の粗を探して突っついてくるアロウズにはいい加減うんざりしてるんだよ。テロリスト認定して襲ってくるなら、もう容赦しない。そっちは私と無関係を貫けばいいよ」

 

「そんな訳にいくかよ! この街に手を出す以上、こっちも黙ってる訳にはいかねぇ!」

 

 威嚇とはいえ、既に向こうは発砲しているのだ。

 見過ごす訳にはいかない。

 それに昨日、フィアラがニアにプレゼントした蝶の銀細工。

 理由は分からないが、とても大事な物を渡されたと言っていた。

 そんな相手をどうして1人で戦わせる事ができるのか。

 そしてそれは、理由は違えど、他の面々も同じ思いだった。

 

「……好きにすれば?」

 

 物好きな、と言わんばかりの態度で機体に乗る。

 飛び出して速攻でアロウズのMSを撃墜した。

 あまり人数を割けなかったのか、数もそう多くない。

 

(さっさと片付けようか)

 

 そう思っていると、長距離からのビームがアロウズのMSを撃ち抜いた。

 ビームの方角を見ると、そこには見慣れたZEXISの戦艦が並んでいた。しかし────。

 

(黒の騎士団の旗艦がいない……)

 

 どうやらつまらない時間稼ぎをするつもりらしい。

 

『こちらはZEXIS。所属不明機は此方で保護する。これ以上の戦闘行為を行うならば、容赦はしない』

 

 脅しのような言葉と数多くの機体に不利を悟ってか、アロウズは即座に撤退を決め込んだ。

 アロウズが街の外へと移動したのを確認してからフィアラに、ラクスから通信が入る。

 

『フィアラ。此方に戦闘の意思はありません。どうか、私達に話し合いのチャンスをくれませんか』

 

 まだラクスはゼロに操られているのかもしれない。もしかしたらZEXISという部隊その物が。

 その不安が過り、警戒していると、ラクスの話が続く。

 

『ギアスやゼロの正体も既に知っています。その上で断言します。私達は操られてはいません。疑うのは仕方がありませんが、面と向かい合わなければ、確認も出来ないでしょう?』

 

 ゼロが居ない以上、この場に留まる意味はないが、情報は必要だった。

 

「取り敢えず、そちらには従います……」

 

 まったく納得してない様子で小さく息を吐いてZEXISの指示に従った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロが逃げた~っ!?」

 

 格納庫で話しかけてきたキラからゼロがジュレミアとC.C.。それと何故かナイトオブラウンズのアーニャと共に脱走した事を知らされる。

 黒の騎士団は斑鳩でゼロの捜索を行っているらしい。

 斜め上の事態にフィアラは額に手を当てて大きく息を吐いた。

 その息の長さが失望の度合いを表してるようだった。

 集まっているパイロット達を一瞥してからキラに問う。

 

「率直に思ったことを口にしても良いですか?」

 

「えっと……なに?」

 

 肺の限界まで息を吸うフィアラ。

 

「ホンットーに使(つっか)えないなぁっ!! この部隊はっ!!」

 

 格納庫にフィアラの嫌みが大声で響き渡った。

 

 

 

 

 

 

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