すれ違いの結末 作:ビールは至高の飲料
「やっぱりアレなの? ロボットで敵を壊すことしか能がないからその他のことには頭が回らない感じ」
フィアラは椅子の手すりに肘を載せて頬杖をつく。
「何で身内にだけそんなダダ甘なの? 流石人材の大半はテロリスト構成の部隊だわー。むしろそこらのテロリストの方が規律正しいんじゃない?」
「……おい」
「ここまで来てゼロを逃がすとかないわー。その上なんで黒の騎士団に捜索させてるの? アレはぜロの私兵だろうに。馬鹿じゃないの?」
「おーい!」
「なまじ、部隊としては最強格で大抵の事は力技で何とでもなるから部隊の外に迷惑がかかることを想定してないんだよなぁ」
「おいっ!!」
「チッ……なにか?」
ダンクーガのメインパイロットである藤原忍に何度も話しかけられてフィアラは鬱陶しげに仕方なく反応する。
「さっきから1人でクヂグチ嫌味言ってねぇで、言いたい事があるならハッキリ言いやがれ!」
「ハッ。恐い顔してかわいいことを言いますねー。私の故郷だとこれくらい嫌味にもなりませんが? ただの独り言ですよ独り言」
鼻で笑ってから適当に流すフィアラ。
ゼロの正体がルルーシュ・ランペルージという少年だと知り、スザクが考え込むような顔をしている。
ゼロはイカルガ艦内の自室で何人かの監視を受けつつ今後の処遇を待つ立場だった。
しかし何故かジュレミアとアーニャ。そして最近体調不良という事で表に出てこなかったC.C.の3人でゼロを奪取。
逃げる際に監視をしていた数名にギアスをかけて逃亡。
その時間帯は大半の人間が休息をしていた事と、ゼロが一時的にイカルガのシステムをダウンさせた事が重なり、対応が遅れて逃がしたとの事。
「ゼロの覚悟がなんだっけ?」
シモンは話を振られると難しい顔をして沈黙する。
彼も、ゼロがここまでして逃げるとは思わなかったのだ。
その後は、黒の騎士団が責任を持ってゼロを連れ戻すと、彼と縁のあるコロニーのガンダム達や傭兵のキリコなどを連れて捜索に当たっているらしい。
そのタイミングでフィアラ達の生存連絡が届いたらしい。
「それにしても、ZEXISはともかく、ZEUTHは逃げる相手を執拗に追いかけ回して仕留めるのは得意分野だと思ってたんだけど。身内相手には手を抜くのねー。ね、キラさん」
「ハハ……」
「笑い事じゃないぞ、キラ」
過去に自分が撃墜された時の事を愛想笑いで誤魔化すキラにアスランが小さくツッコむ。
そこでキラが小さな声でシンに話しかけた。
(そういえば、シン。フィアラと一緒に居て、少しは仲良くなれた?)
「……」
その質問に物凄く顔を顰めるシンに、駄目だったんだなと、どんなに鈍い人間でも理解できる反応をする。
アスランも小声で口を挟む。
(また彼女の神経を逆撫でするような事を言ったんじゃないのか?)
(またって何ですか! アスランにだけは言われたくありませんよ! 話しかけただけでうるさい黙れって拒絶されるのにどうしろって言うんですか!)
コミュニケーションに於いて会話を拒否する人間に会話をさせる気を起こさせる事ほど難しい事はない。
話術が巧みな者なら出来るかもしれないが、生憎とシンはそういうタイプではない。
呆れた様子でカミーユが混ざってくる。
(俺達が初めて会った時はお前、似たようなモノだったじゃないか。周りに当たり散らすみたいに噛みついて)
(うっ!? で、ても! 俺はあそこまで酷くはなかっただろ!!)
(……………………………………そうだな)
(なんですか今の間は! 言いたいことがあるなら言えばいいじゃないてすか、アスラン!)
その会話も当のフィアラには筒抜けな訳だが、反応するのが面倒なので無視する。
(とにかく、俺はもうフィアラと仲良くするのは諦めました! 無理ですよあんなの!)
腕を組んでそっぽ向くシンに呆れつつも話は進む。
「それはそうとお前、何処でゼロにギアスをかけられた?」
「あの時に偶然特区・日本に居て、PMが現れたから避難しようとしたら声をかけられてギアスをかけられただけですが?」
思い出すだけで怒りが沸いてくるらしく、苛々した様子で答える。
声音は普通なのに、眼だけは殺意が衰えてない。
「だったら、そんなに怒ることないじゃん。悪いことさせようとした訳じゃないんだからさ」
「まぁ! 女性をレ◯プしたけど妊娠しなかったからセーフとか言うクズ男みたいな理屈ね! 御社ではそういう考えの下で仕事をしてるのかしら?」
「なんつー例え話してんだお前ぇっ!?」
小学生相手に最低な例えを出すフィアラにクロウが頭を押さえる。
というか、この場にいる大半がドン引きした。
言われた当人のワッ太と他何名かは意味を理解してない様子だが。
そこでロジャーがフォローに入る。
「ワッ太も悪気があって言った訳でもない事は理解してほしい。それに、ゼロがもし本気で君を操ろうと思ったのなら、特区・日本を守るだけでなく、もっと理不尽にギアスで君の行動を縛った筈だ。怒る理由も解るがもう少し冷静に────」
「貴方はもっと
ロジャーに対して挑発で返すフィアラ。
しかし向こうは大人の対応を崩さない
「そんな事実は無いと断言しよう。私は自分の他人任せにするような無責任な人間ではないのでね。それに、私個人としてはゼロのギアスに対して良い感情も持っていない。それはここに居る全員が共通している」
「ふーん」
疑り深い眼でロジャーを見るが、すぐに自分には関係ないと視線を外す。
するとクワトロがフィアラに話しかける。
「だが、君があの時に少しでもこちらに事情を説明する意思があれば、あの戦闘は避けられた筈だ。我々もゼロに対して今回ばかりは何らかの処罰を検討出来たのだから」
あの戦闘は不必要だったと暗にフィアラを責める。
対してフィアラは不愉快そうに頭を掻いた。
「ランドさん達にも言ったけど、この部隊って身内に処罰を下す事ってあるんですか? どうせ今回のゼロのギアスが発覚しても特区・日本を守る為だったんだから仕方ないで話は終わり。仲間を罰しない為の屁理屈をこねくり回すのは、ZEUTHからの御家芸みたいなもんでしょう? ましてや被害者が私なら尚の事」
「君なら?」
アムロの疑問にフィアラは鼻を鳴らす。
「私に危害を加えた身内を罰した事が今まであったのかって話。風見っていう科学者の時もアニューって人の時もなぁなぁで済ませてたじゃないですか。仮にもしも私がゼロの操り人形になったとしても、これ幸いと私を使い潰してたのでは? だって誰も損しないんだから」
仲間でもなんでもないフィアラがゼロに操られたとて、それを本気で気にする者はこの部隊では少数だろう。
もちろんゼロを責める者も居るだろうが、じゃあPMに対してどうするのか? と返されれば口を噤むしかない。
「そもそも。ギアスの力で人生壊された人や自殺させられた人。ゼロの正義の味方パフォーマンスの犠牲になった人が居ないとも限らない。というか、居ると見るべきでしょ? 貴方達がゼロに対して何の手も打たなかった結果だよ。私はそう思う」
仲間だからと疑う要素を全て無視して調べようともしなかった。
ゼロにとってこの部隊はさぞ都合の良い部隊だったろう。
そこまで喋った後に、フィアラは立ち上がって軽く伸びをする。
「どうした?」
「ゼロが居ないなら、私がここに居る意味ないし。どうせしばらくしたら何事も無かったように元の
「なにするつもりだよっ!?」
「……ステルス機能って便利だよね」
不穏な事しか言わないフィアラに頭を抱えたくなった。
この場を立ち去ろうとするフィアラの手をこれまで黙っていたラクスが手を握る。
「なに?」
「フィアラ。訊きたい事があります。わたくしは貴女に何をしたのですか?」
ラクスの質問にフィアラは眉を動かす。
そしてそれに反応したのはフィアラと一緒に跳んでいた面々だった。
「え? えぇ!? 何の話ですか?」
シンが驚きと共に疑問を口にすると、キラが苦い表情で説明する。
「ゼロは、ラクスや一緒に居た人達にギアスをかけて、彼女らを利用してフィアラにギアスをかけたらしいんだ。フィアラから聞いてない?」
「聞いてませんよ!」
ギアスをかけられた話をした時におかしな話題の変え方や切り方をしていたと思ったが、いつもの事なのと、どうせ話さないだろうと思って深く追及しなかった。
シン達の反応を見ながらラクスは話を続ける。
「彼らに話さなかったのは、わたくしがギアスにかけられている事を知られたら、ZEXISでどのような対応をされるか予想出来なかったからなのでしょう?」
ラクスはZEUTHともZEXISとも関係は長くない。
ゼロにギアスをかけられたと判明すれば、どんな処遇になるのかはフィアラでは判断出来ない。
もちろんキラを始めとして庇う者は居るだろうが、だからと言って安全が約束されているかは別。
その確認も含めてこの場に来るのを承諾したのだろう。
なんでギアスにかけられたのを覚えてる? と視線で訴えるフィアラにラクスは話す。
「わたくしも覚えている訳ではないのです。ただわたくしの記憶の欠損やフィアラの言葉からの予想で。だから話してください。ギアスをかけられたわたくしが、フィアラに何をしてしまったのかを」
自分のした事を知っておきたいとラクスは視線を合わせるが、当のフィアラは視線を彷徨わせた後に嫌そうな息を吐いて話し始めた。
「特区・日本で素顔のゼロに遭遇して逃げ回ってたら、おそらくはギアスをかけられた町の人間に追いかけ回されて。脚を撃ち抜いて動きを止めようとしたら、ラクスさんに取り押さえられて操られて……」
本心から忌々しいと言わんばかりのフィアラの説明にラクスは察しが付いていた事ではあったが、実際に聞いて胸を痛める。
自惚れではなく、ラクスはフィアラと姉妹のように仲が良い。
そうでなければ、食事などの誘いも無視を決め込まれていただろう。
操られていたとはいえ、そんな
「ごめんなさい……貴女を傷つけてしまった」
「別にラクスさんが謝る事じゃないでしょう」
洗脳なんて察せる訳はないし、それを実行したゼロが全部悪いに決まっている。
しかし、その考えにラクスは首を横に振った。
「いいえ。わたくし達はあの方の素性や目的に注意を払うべきでした。彼の行動と結果の不審な点をもっとよく調べるべきだったのです」
ゼロの起こした奇跡に対して疑おうと思えば疑える材料はいくらでもあった筈。
その違和感を見逃していたのは明らかな失態だ。
ZEXISという組織でこれまで地球に迫る多くの脅威を払い除けてきたから。
ZEUTHと似たような組織で彼らが信頼していたから。
だから無意識にゼロの危険性を思考の端に寄せていたのだ。
皆が信頼しているから大丈夫だと。
「その人の意思を無視して他人の心を意のままにするなどあってはならない事です。それを認めてしまえば、わたくし達は力や恐怖で従わせようとする者達と同じ道を進んでいる事になるでしょう」
人には個人個人に自己があり、自らの運命を選ぶ自由と責任がある。
ゼロのギアスはそれらを強制的に取り上げ、命すら奪う可能性があるのだ。
「いやらしいのは、そのギアスにかけても証拠がでないから、前の時……私を刺した犯人みたいに刑務所に送る事も不可能なところ────」
「ちょっと待て!! 刺されたってなんだっ!? 聞いてないぞっ!!」
「訊かれなかったし。貴方達には関係のない話でしょう」
エスターが詰め寄ると、鬱陶しそうに掴まれた手を払う。
ロシャ―が質問する。
「何故そんな事に?」
「さぁ? 覚えてないですね。きっとこの世界の人間の倫理観が最低レベルだからでは? 慰謝料は払わせましたけどね。利息が
「悪魔だ……悪魔が居やがる……!」
利息を聞いてクロウが震え上がる。
そこでミシェルが話題を戻す。
「借金云々はともかく、ゼロの奴は本当に殺されるかもしれないがな。今回の件は黒の騎士団はともかく、ヒイロや五飛は責任感じてる様子だったし」
「そうね。一応戻すように説得するけど、抵抗するならって感じだったわね」
ゼロ側の言い分も聞いた後で処遇を決める筈だったが、生憎と逃げられてしまった。
そこで、プトレマイオスから連絡が届く。
捜索に当たっていた面々が、ゼロ達を完全にロストしたと。
エリア11近くにある島で機体は捨てられていたが、小さな島なのにゼロ達が発見出来ないらしい。
数分くらい考える様子を見せてから、フィアラが天井に向かって息を吐く。
「……ゼロを取り逃がしたのは最悪の失敗だと思う」
「フィアラ?」
「あの手の人間は、他人が積み上げた物は平気で壊すくせに、自分が積み上げた物が無駄になるのは絶対に認めないでしょ。犠牲にしてきた人達の為とか自分に都合の良い理屈を並べて、自己満足の為に周りを巻き込んでくるよ。人生や世間から勝手にドロップアウトすれば良いのに」
毒を吐きつつ、ゼロは必ず何かをやらかすと予想するフィアラ。
そこでスメラギが、特区・日本の事件後にソレスタルビーイングのエージェントから届いた情報を思い出す。
「フィアラさん。エルガン代表の居場所が判明したのだけど……聞く?」
「本当、ですか!?」
目を大きく見開いて驚くフィアラにスメラギが頷く。
「宇宙にアロウズの物と思われる要塞の座標が判明したわ。貴女もエルガン代表の事は気になってたでしょう?」
「そうですけど……」
エルガンにはこの世界に来てから何かと世話になった人物だ。
破界事変の後から行方が分からなくなったのでフィアラも出来る限り捜索はしていたが、手がかり1つ掴めなかった。
「そこで、なのだけど。エルガン代表の救助が成功するまでの間、ZEXISに協力する気はないかしら?」
「えぇっ!?」
スメラギの提案に何名かが驚きの声を上げる。
「……座標さえ教えてくれれば私は勝手に行けるんですけど」
「アロウズが貴女を狙っている可能性がある以上、こちらと一緒に行動してくれた方が都合が良いのよ。フィアラさんも単機でエルガン代表を救出出来るとは思ってないでしょう?」
エルガン代表の救出とアロウズとの決着は同時に行われるだろう。
フィアラもエルガン代表を気にかけているのなら丁度良い。
元々この部隊は、目的が同じだからと集まった寄せ集めの部隊だ。
今なら任せられる相手も居るのだし。
「……エルガン代表を助けるまでなら」
「えぇ。それで構いません」
アナ姫が言ったように、フィアラ・フィレスは隠し事はしても嘘はつかない。
こちらから余計なちょっかいをかけない限りは簡単に約束を破る真似はしないだろう。
「なら。フィアラはエターナルで預かりますわ」
「そうしてくれると助かります」
他の戦艦ではトラブルが起きる可能性がある。
ラクスと仲が良いみたいだし、上手く対処してくれるだろう。
そして、ゼロの捜索に回っていた面々と合流した後に、宇宙へと上がる事となった。