すれ違いの結末 作:ビールは至高の飲料
アークエンジェルに来たばかりの頃とZEUTHを出ていった時のこと。
そして第二次の世界に転移したばかりの頃。
セツコとの2回目の会話とか書こうとしたけど形にならなかったので後回し。
scene1
アークエンジェルという艦に来て数日。
フィアラは自分の環境の変化に戸惑っていた。
ここでは体を押さえつけられてむりやりよく分からない注射を射たれない。
変な機械で全身を調べられたり、電流を流されたりしない。
食べる物だって栄養が詰まっただけのカプセルじゃなくてとても美味しい。
甘いお菓子も食べさせてくれる。
不満なんてない。
いつも優しく接してくれる人達に戸惑うことはあるが、とても嬉しい。
なのに、どうして。
画面から見える空の映像。雲1つない晴天。
映像を見せてくれたラクスが綺麗ですわね、と笑顔で言う。
それが、フィアラには理解できなかった。
フィアラの目には、それが灰色に見えてしまう。
いや、空の青さは理解しても、どこかそれが嘘臭く見えるというか、薄い灰色のフィルター越しに感じるというか。
それは空だけでなく、目に映る全てがそのフィルターに挟まっているように感じるのだ。
世界の何が綺麗なのか。フィアラには理解できないままだった。
「それでは、町へフィアラに必要な物を買ってきますね」
楽しそうにニコニコとしているラクスにカガリが呆れた様子で忠告する。
「ラクス。気分転換も兼ねてるのは分かるが、あまり浮かれるなよ? お前も今は外に出るのは好ましくないんだから」
「えぇ。分かってますわ、カガリさん」
本当に分かってるのか不安になるが、これ以上言っても無駄だろうと同伴するミリアリアに頼む。
あの研究所から連れ出したフィアラには替えの服やその他諸々の私物がない。
アークエンジェルにも当然子供用の服など置いておらず、今はラクスの私服を手直しして着ているが、町に買い出しに行った方が良いと意見が出た。
その町は以前ミリアリアが取材で訪れたこともあり、彼女が案内役。護衛役としてキラが動向する。
尤も、MS戦ならばともかく、生身での戦闘でキラがどれ程役に立つか、という疑問はあるが。
しかし、艦長のマリューが艦を離れるのは好ましくなく。
カガリはこれから自分達の活動に協力してくれている者に会わなければならず、バルドフェルドはその護衛。
そんな訳で、キラが護衛役となったわけだ。
まぁ、この面子ならバルドフェルドよりキラの方が怪しまれないだろうという理由もある。
ただ、幾つもの世界が融合している多元世界とはいえ、ラクスが町へ出掛けて正体がバレるのは問題なので、深めの帽子にピンクの髪を隠して、伊達メガネをかけて最低限変装していた。
そして現在────。
「あ、こっちの黒いワンピースとか似合いそう!」
「銀の髪ですものね! やはり濃い目の色合いがよろしいと思います」
「そうね! 最初に会ったときに比べて体も少し変化しているし、ちょっと大きめの服も用意した方がいいかな?」
「えぇ! たぶん背なども伸びるでしょうし」
本人をそっちのけでラクスとミリアリアがフィアラの服を選んでいる。
その姿を見ていたフィアラは緊張した様子で固まっており、横にいるキラは苦笑している。
「ほらフィアラ! こっちを着てみて!」
腕を引っ張られてミリアリアに試着室に入れられる。
「わからないことがあったら聞いてねー」
「あ、はい……」
用意された服を傷つけないように着る。
渡されたのは、青のミニスカートと黄色いシャツに赤い上着だった。
ここ数年、入院着のような味気ない服ばかり着ていたため、他の服を着るのは嬉しい反面緊張する。
着替えを終えて出てくるとラクスとミリアリアから絶賛される。
「どう、でしょうか……?」
「とてもよくお似合いですよ!」
「うんうん。元の素材はかなり良いからね! ねぇ、キラはどう思う?」
ミリアリアに話を振られてキラも笑みを浮かべて「うん、良いと思うよ」と返す。
ついでにこの後に3回程服を着替え直してキラが全て同じに返したところラクスとミリアリアにどうでも良いみたいと冷たい視線を送られて居心地を悪くしていた。
それから少し遅めの昼食を取って帰るところでラクスが思い出したように買った荷物の中から小さな手帳を取り出してフィアラに渡す。
「これは……?」
「フィアラに。日記にでもなればと」
「日記? あの、でも……なにを書けば……」
「何でも良いんですよ。1日にあった嬉しかったことや楽しかったこと。嫌だったことや辛かったこと。でも、そうですわね」
ラクスが体を折ってフィアラと視線を合わせた。
「フィアラが私達と出会う前。どんな辛いことがあったのかは知りません。ですがこれからは、多くの幸せと出会えればと思っています」
「しあわ、せ……」
口の中で反芻するフィアラにラクスは微笑み、歩きながら囁くような声で歌を紡ぐ。
繋がった手の先にいるラクスの顔に視線を合わせて、さらにその向こうにある雲1つない真っ青な空が瞳に映る。
まだ、あの研究所に連れていかれる前に、年の離れた姉達に追い付く為に走り、見上げていた空も、こんな────。
「フィアラ?」
キラが震えているフィアラに驚く。
見ると空を見上げながらその瞳から止めどなく涙が溢れていた。
「ちょっと、どうしたの!? どこか痛い?」
心配そうに訊いてくるミリアリアにフィアラは首を横に振る。
「違くて……あそこから出て……はじめて、空が、綺麗だって……」
空が。世界が。こんなにも綺麗なのだと。そう感じることが、嬉しいと思える。
それが幸せで、涙が溢れてくる。
たどたどしいフィアラの言葉にラクスがその頭を、泣き止むまで撫でてくれた。
ここは温かくて、別世界のように優しい人達。だからこそ────。
「何をしているの!? 早くここから出なさい!」
モニターにPMと呼ばれる奇形な化物が暴れていた。
自分の中の何かが、アレの本質を訴えてくる。
彼らを解放する術を持っているのは自分だけだった。
何より自分がここの人達の為に出来ることもこれだけだった。
だから。
「私の歌は、世界を侵す」
この戦場にいる全ての人達の為に歌を歌った。
scene2
「あっ!」
アキという少女が自分より小柄な少女にぶつかったのは、同郷の友人である神勝平が仲間に呼ばれて待っているように言われた僅かな間だった。
「ごめんなさい……」
アキから見て、その少女は怪しい人物だった。
艦内だというのに体や顔を隠すようにコートを羽織り、フードを深く被っている。
体格が小柄で声が女の子の物でなければ、大声で勝平を呼んでいたかもしれない。
それでも、こんな小さな子供がこの部隊に居ることが不思議だった。
「あなたもここの人?」
その疑問にフードの少女は一瞬肩を跳ねた。
「違います。私は、ここを出るんです……もう、ここには、居たくない……」
憔悴した声でそう告げる少女に、アキは親切心から話す。
「危ないわ。外には、ガイゾックや他にも悪いやつらが大勢居るのよ!」
アキの言葉を聞いても少女はただ首を横に振るう。
「ここは、嫌です。怖い……」
「……よく分からないけど、とにかく考えなしに外を出るなんてダメよ!」
アキは勝平に相談しようと少女の手を引こうとした。
そうして彼女の背中を見て、破れている服から見える痣を見てギョッと表情を変える。
そして、アキの背中に触れてきた。
どうしたの?
そう訊く前に少女が意味の解らない言葉を口にする。
「私の歌は。世界を侵す」
少女は突然と歌いだす。
そして現れた金色の紋様がアキを包んだ。
「なにこれ!?」
沸き上がる驚きと恐怖。
しかし、次の瞬間にアキは意識が保てずに睡魔に誘われるままに意識を落とす。
そのまま少女は床にアキを寝かせたまま、小走りでその場を離れた。
アキにあった変化は、彼女の背中に自身さえ知らぬ間に付けられていた背中にあった星形の痣が誰にも知られることなく消えていた。
ガイゾック最悪の兵器。人間爆弾に改造された印は人知れず、本人さえ知ることのないままにその驚異が取り除かれた瞬間。
そしてアキが眠っていた通路の近くには見知らぬ日記手帳が落とされていた。
scene3
国連平和維持委員会代表を務めるエルガン・ローディックはつい今しがた回収した乳白色の機体に乗っていた銀髪の少女と向かい会っていた。
とある人物から彼女の保護を頼まれて、こうして場を設けている。
居心地が悪そうにしている少女に内心息を吐く。
「初めまして。私はこの世界で国連の平和維持委員会の代表の地位にいるエルガン・ローディックだ。次元震動でこの世界に現れた異邦人。君は────」
「……フィアラ・フィレス、です」
不安そうに名乗る少女。
エルガンは手を後ろに組んだままにこの世界についての説明を始める。
その説明を聞き終えるとフィアラが初めて質問した。
「私を、どうするつもりですか?」
「私は君をどうこうするつもりはない。元の世界に帰れず、この世界で根を下ろすのなら出来る限りの支援もしよう。もちろん、君がこの世界の平和を乱さないことが条件だが」
この世界で自分だけが話せる彼によりもたらされた情報から今の彼女が世界の敵になる可能性は低いとエルガンは判断していた。
「私は……」
自分が何をしたいのか、少し考えた。
「世界を、見て回りたいです。独りで」
この世界には自分を知っている人は誰もいない。
今はとにかく他人と深く関わりたくなかった。
フィアラの言葉にエルガンはただそうか、とだけ返す。
「機体の修理はこちらで受け持とう。それが終わるまで、この世界についてもう少し詳しい情報を見ておくといい」
「ありがとう、ございます」
彼を信じて良いのか。それすら分からないが、今は自分の機体を修理することが先決だった。
そこでもう1つお願いする。
「あの……ハサミを貸してくれませんか?」
ハサミ? と首を傾げたが、特に何かを訊かれる事なく渡してもらえた。
フィアラは後ろ髪を手で束ねる。
自分の銀髪を綺麗だと褒めてくれた人がいた。
嬉しくて。役に立ちたくて。
家族に、なれた気がした。
でも、それは結局自分の勘違いだった。
自分が感じた怒りも悲しみも、全て無意味で。
だがら────。
「こんなもの、もう要らない」
バッサリと束ねた後ろ髪をハサミで切り落とした。
フィアラ・フィレス。
無印Zの頃は肩より少し下くらいの長さの銀髪。
第二次Zだと髪を切ったこともあり、男の子みたいな中性的な見た目になっている。口調も大分荒い。
旅を初めて半年くらいにエリア11で日本解放戦線のテロに巻き込まれて右頬に大きな傷が残っている。
戦闘は基本自衛とPMの対処のみ。
通信も滅多に受け付けない。
ZEUTHに対して絶賛反抗期を拗らせ中。
話し合いになっても反抗期のフィアラ。
どうにか話をして仲直りしようとする元ZEUTH面々。
そしてそれを見てフィアラに苛つくZEXIS面々という構図になる模様。
フィアラの日記は現在ラクスが預かっている。