すれ違いの結末 作:ビールは至高の飲料
本当の初陣
『我々は私設武装組織ソレスタルビーング。モビルスーツ、ガンダムを保有し、紛争根絶の為に────』
街中で巨大モニターに映されたで老人が椅子に座って演説をしている。
その映像を街の住民達が困惑しながら観ていた。
しかし反応は当然の如く様々だ。
馬鹿馬鹿しいと鼻で笑う者。
自分達が襲われるのではないかと不安がる者。
現れたモビルスーツに注目する者。
刺激を与えてくれる存在を喜ぶ者。
ただ、この時点では映し出された老人の言葉を鵜呑みにしている者は極少数ということは間違いない。
その少女もその大衆の1人だった。
短く切られた銀髪に金色の瞳。
十代半ば頃に見える中性的な顔立ち。
特徴としては、右頬に切られたような大きな切り傷の痕があること。
その少女はモニターを見ながら誰にも聞こえない声でポツリと呟く。
「ガン、ダム……」
その響きを懐かしがるように口にしたが、すぐに興味を失くしてモニターから視線を外した。
「……私には関係ない」
そうして集まっていた街の住民達の輪から外れて銀の少女はその場から消えていった。
新型兵器、ブラスタの雇われパイロットであるクロウ・ブルーストは100万Gの借金を返済する為、なし崩しに入隊することになったソレスタルビーング初めての紛争介入に参加していた。
犯罪はしない主義、と公言している彼が世間的にはテロリスト扱いのソレスタルビーングに参加したのは今のろくでもない世界を変えたいという彼らの本気を感じた事と、ソレスタルビーングに捕まってその場しのぎに助かりたかったという口八丁が半分。
(ま、ソレスタルビーングの活動で給料もしっかり出るってんだ。真面目に仕事はさせてもらうぜ)
そんな、本気とも冗談とも取れない事を内心思いながら、クロウは目の前の仕事に集中する。
元より、ソレスタルビーングのガンダムのみでも充分な戦闘にブラスタを加え、途中から現れたダンクーガまで参戦したことでこの戦闘は油断さえしなければ問題なく終える筈だった。
それが変化したのは敵も残り3割を切ったところだった。
「なんだ?」
「どうした、クロウ?」
観測計器から見たことのない反応を示し、訝しむクロウに狙撃していたロックオンが通信で質問してきた。
「次元歪曲に異常が出てる! 気をつけろ! 何か来るぞ!」
クロウの警告と共に現れたのは、空と地に描かれる巨大な赤く発光する魔法陣。
出てきたのは3種類の奇形な怪物だった。
最も巨大なのは、ダンクーガよりも倍程の大きさで巨大な黒い口に下には無数の触手型の足。
上には人体の腕が10程に蠢いている。
次にモビルスーツ程の大きさで四足歩行しているが背の部分にキリンのような長い首に先に巨大な赤い瞳持つ化物。
最後に1番小型で凡そ3メートル程。
基本は緑の魚に似たフォルムだが、蝙蝠のような翼ががあり、鼻と口だけ人面魚。
それらが合計50程の数でこの場に現れている。
どれもこれも生理的な悪寒が走りる見た目にこの場にいる誰もが一瞬動きを止めた。
いち早く反応を取り戻した年長者であるロックオンはクロウに質問する。
「新入り。アレは新手の次元獣だと思うか?」
「いや。観測された次元歪曲パターンが一致しねぇ。おそらくは、だが別物だ。見た目も違い過ぎるしな。どっちもお友達になりたい
軽口を叩きながらも照準を現れたモンスターに合わせつつ出方を窺う。
動いたのは、1番大きな巨大な口を持つ怪物が、その腕を伸ばした。
無数の腕が動いた先は、クロウ達が撃墜したが、脱出したパイロット達だった。
『た、たすけてくれぇええええっ!?』
集音機能で聞こえるテロリストだった男の叫び。
その手で人間を掴み上げると、怪物は自身の口へと複数の人間を放り込んだ。
「食べたっ!!」
驚きの声を上げるアレルヤ。
ムシャムシャと口を動かし、人間が噛み砕かれていく。
「こいつは……!」
その行動に終えると空飛ぶ人面魚が動き出す。
ターゲットになったのは、まだ避難し終えていない一般人だった。
「やらせるかっ!」
素早く行動したのはエクシアを駆る刹那だった。
GNビームライフルで人面魚を撃つ。
群れで行動していた人面魚は次々と血を撒き散らしながら破壊されていく。
灰になるように消えた人面魚。
しかし、異変はすぐに現れる。
倒した人面魚の近くに居た恐怖で足がすくんでいる民間人達が、苦しそうに悶えながら突如倒れ出した。
生命反応が消えた民間人を見てアレルヤが目を大きく開く。
「まさか、毒!」
「そんな反応はねぇんだがな! だがもしそうなら不味いぞ! 倒さなけりゃ民間人も含めて全滅! 倒しても毒で俺達はともかく、この街の人間がっ!?」
どうするべきか誰もが迷う中、黙していたティエリアがGNバズーカを構える。
「敵のデータを採取しつつ、殲滅する」
「待てティエリア!」
「このままでは我々もやられる。計画を始めた、こんなところで躓く訳にはいかない」
ロックオンが制止するが、ティエリアは平淡な声で返す。
ダンクーガの方は向かってくる敵だけを武装で落としているが、通信から混乱が伝わってくる。
「倒さなきゃやられる! 倒してもダメ! どうすりゃいいのよ!?」
撃ち落とす度に近くにいる市民が死んでいく。その事実にダンクーガは段々とトリガーを引く指から力が抜けていった。
そこで四足歩行の怪物の赤い眼からレーザーが発射された。
幸いにして誰も当たることはなかったが、その威力は間違いなく驚異だった。
ティエリアが攻撃を開始しようとする。
「待ってくれ! せめて民間人の避難を!」
「そんな時間はない!」
アレルヤの進言をバッサリと切り、ティエリアはGNバズーカを最大出力で発射しようと照準を定める。
そこでクロウから再び報告が上がる。
「上空の空間に異常を感知した! あのバケモノとは別の反応だが!」
「まだなにか来んのかよ!?」
いい加減にしろとロックオンが舌打ちをする。
そしてそれは音もなく出現した。
「なに? あのロボット……」
ダンクーガノヴァのメインパイロットである飛鷹葵は戦場を見下ろすように空にいる機体を見て全員の意見を代弁した。
全体的に乳白色で金のラインが入った不明機。
誰もがその機体を警戒する中、変化が起こる。
乳白色の機体を中心に金の紋様が広がる。
そして、戦場に歌が聴こえてきた。
「転移成功。システムを戦闘モードに移行」
計器を確認し、パネルを操作しながら眼下の戦場を確認する。
「やっぱり、こっちの世界でも現れた……」
S4Uの中でフィアラ・フィレスは現れたPM────Poison Monsterを見て深呼吸する。
ある意味この戦闘が彼女にとって本当の意味での初陣だった。
この場にソレスタルビーングやダンクーガが居ることは気にしない。あくまでも目的はPMだ。
「旅をしながらの2年間のシミュレーター漬けでどこまでやれるか……」
それでも、あのバケモノを駆逐すると自分の意思で戦うと決めたのだ。
これは、私の戦争だと握っている操縦桿に力を込める。
「こちらの世界に繋がるために使った姉さんの遺体を返してもらう」
あのバケモノの倒し方を知ってる。
私だけができる方法。
「私の歌は、世界を侵す……!」
この戦場に相応しくない、少女の声で紡がれる歌。
ある程度紋様が広がると空中で佇んでいた機体がシールド内部のブレードを引き出し、四足歩行のバケモノに突っ込み、レーザーを回避すると、発射元の瞳にブレードを突き刺す。
ブレードを引き抜いて着地すると襲いかかってきた四足歩行のバケモノをシールドで受け止める。
そして右足の爪先からビームサーベルが作られ、そのまま蹴り上げて胴体を下から突き刺した。
よろけたバケモノをブレードで切断しようと掲げる。
「待て!」
ロックオンが通信で止めに入るが、そのまま振り下ろされたブレードがバケモノを両断した。
他のバケモノと同じように消えていく。
しかし先程までと違い、近くにいた民間人は倒れ、生命反応が消失することもない。
ロックオン達が驚いている間にも乳白色の不明機は上下に銃口があるライフルを構えて下の銃口からビームマシンガンを発射して飛んでいる人面魚を次々と撃ち殺していく。
ソレスタルビーングやダンクーガも自分達に向かってくる敵に応戦し、数を減らしていく。
歌が戦場に響いている間は毒が撒き散らされない。
その事を認識すると、とにかく手早く正体不明の敵を駆逐するために攻撃する。
数が減り、残りが巨大な口のバケモノだけになると、乳白色の機体が飛行形態となり、先端となった爪先の部位からビームサーベルを放出し、そのまま口の内部目掛けて突進する。
後ろまで突き破ると人型に戻り、今度はライフルの上部にある銃口から高威力のビームを撃って焼き払う。
そうして、この場での戦闘は終了すると同時に戦場に広がっていた紋様は消え、歌は途中で止まってしまう。
誰もがおぞましい見た目のバケモノを相手にして精神がごっそりと削られていた。
そんな中でクロウだけが不明機である乳白色の機体に通信を送る。
「歌、止めちまうのか? せっかくだし、終わりまで歌っていってもいいんだぜ? ちょいと聞きたいこともあるしな」
軽口を叩きながらも相手に呼び掛ける。
しかし、向こうはクロウの通信を拒絶するように上空に上がると、僅かな空間の揺らぎの観測と共にその場から姿を消した。
「すぐに索敵を!」
「いや、今日はミススメラギから帰投命令だ。
不明機の捜索を進言するティエリアにロックオンが帰投命令を告げる。
不満そうにする彼に、クロウが宥めるように話しかけた。
「ま、今回は助けられた側だ。野暮な詮索は今度にしようぜ。中々良い歌も聴かせてもらったしな」
「君、女嫌いだって言っていたよね?」
あれはどう聴いても女の歌声だった。
ツッコミを入れるアレルヤにクロウが苦笑ぎみに返した。
「歌自体に男女を持ち込む気はないさ。ましてやそれが俺達を助けてくれたのならな」
そうしてダンクーガを連れて行こうとするソレスタルビーング。
だが、刹那だけは一言も声を出さずに、乳白色の機体が消えた空に、視線をギリギリまで外さなかった。
しばらくはこんな感じに各地を転々としてます。