すれ違いの結末 作:ビールは至高の飲料
頬が痛い。
フィアラがそう認識したのは殴られてよろけた先が金属の剥がれた尖った部分に頬が切れた瞬間だった。
偶々観光に来ていたエリア11でテロに巻き込まれた上に日本解放戦線と名乗るテロリスト集団の人質として広い部屋に集められた。
そこでパニックになった子供が泣き始め、それに苛ついたテロリストが無理矢理黙らせようとする。
ましてやその親子がブリタニアに降った名誉ブリタニア人だった事もあり、短絡的に手を上げようとする。
近くに居たことで咄嗟にその親子を庇い、顔を殴られた。
それだけで済めば良かったのだが、相手は自分の見た目から勝手にブリタニア人と勘違いし、名誉ブリタニア人を庇った事を批難してもう1発殴られる。
その際に深く頬を切った。
流石に十代前半に見える少女の頬が切れて血を流していることに若干の後ろめたさを覚えたのか、顔をひきつらせたが、ただ無表情で見てくる此方に馬鹿にされていると感じたのか、胸ぐらを掴んできた。
そこで外野がフィアラの庇うように引っ張る。
「もうやめてください!」
そう言ってくれたのは、オレンジ色に見える長い栗色の髪の少女と、金髪の長髪の少女。
自分の服が血で汚れるのも構わずにフィアラを抱き寄せた。
おそらくは知り合いだろう、茶髪混じりの黒髪の温和そうな少年と真っ黒な髪の線の細い美少年も付き合うように割って入った。
「無抵抗な女の子を相手に容赦なく暴行を奮う。お前達の理想とやらは弱い者に威張り散らすだけの物らしい。大した理想だよ」
黒髪の少年がそう言うと、フィアラに暴行を加えた日本人が今度は黒髪の少年を殴ろうとするが、別の者が止めに入る。
悪態ついて背中を見せるその人物に金髪の少女があっなんべーと舌を出すと温和そうな少年が名前を呼んで嗜めた。
「あなた、大丈夫?」
「あ、はい。少し、痛いですけど……」
頬から流れる血を手で押さえていると、栗色の髪の少女がポシェットから大きめの絆創膏を渡してくれた。
「気休めにはなるとおもう。あ、顔見えないよね。貼って上げる!」
そう言ってペタッと絆創膏をフィアラの頬の傷上に貼る。
「もう! かわいい顔に傷が残ったらどうするのよ!」
「後で、消毒しないとね……」
憤る少女2人に心配してくれる温和な少年。
最後に黒髪の少年が皮肉げに呆れた様子で言う。
「もう少し怖がる素振りでも見せてやれば顔に傷が付く事もなかったろうに」
「そうですね。次は善処します。絆創膏、どうも」
淡泊な反応を返して礼を言う。
その場で座らされブリタニア軍の救助を待つ。
幸い、日本解放戦線の戦力はそう多くなく、ブリタニアも余程の無能な人事ではない限り、人質を解放するように動くだろうとは黒髪の少年の弁。
フィアラは天井を見ていると癖で歌を口ずさみ始めた。
この非常時に何をやっているんだと最初は誰もが眉間にしわを寄せたが、次第にその歌に聴き入ってゆく。
それは、歌が存在することに感謝をする歌。
音楽があり、歌を歌える喜びを神や世界。そして聴いてくれる全ての人に感謝を送る。そんな歌詞だった。
大きな声で歌われているわけではないその歌を聴き、人質になっている者達の心を少しだけ安いでいく。
その曲が歌い終わると、誰にも聞こえない声で呟く。
「……来た」
呟きと同時に建物が大きくんで揺れる。
突然の震動に室内は一気にパニックになってしまう。
その混乱に乗じて室内から逃げ出した。
ステルス機能を使っている愛機に端末を頼りに目的地に急ぐ。
一瞬だけステルス機能を解除させてから乗り込み、再びステルスを展開する。
ついでに日本解放戦線が保有する無人のKMF何機か破壊して空に逃げる。
一応、機体に乗るところは誰にも見られてないと思うが、ブリタニアに見つかる前にエリア11の空へと上がる。
(もうエリア11には絶対行かない……)
傷付いた頬に付けた絆創膏を撫でてフィアラはS4Uを飛行形態にしてエリア11を脱出した。
この時出来た傷は今も残っている。
(なんだこのバケモノはっ!?)
仮面の怪人ゼロは自分の機体である無頼の中で冷や汗を流しながらこの事態を収めるが思考していた。
黒の騎士団を名乗り、エリア11を支配するブリタニアとの戦いも本格化し始めた頃。
エリア11の新たな総督となったコーネリア・リ・ブリタニアを捕らえる為の作戦を始めてしばらくしてあのバケモノが現れた。
ブリタニア人も日本人も関係なく襲いかかるバケモノに恐怖した兵が撃墜すると、近くにいた市民が苦しみだし、倒れる。
倒すと何らかの毒を撒き散らすと予想されるが、それでは下手に倒せない。
『ゼロ! どうすればいいっ!?』
団員である扇が悲鳴のように指示を求める。
ゼロは今出来る最善の指示を出す。
「あのバケモノのデータを取りつつ住民の避難が最優先だ! ブリタニアは放っておけ! この状況ならば、此方に仕掛けてくる余裕はない!」
現に今、黒の騎士団とブリタニアの双方が新手のバケモノの対処に追われている。
この時、市民の避難を最優先に指示を飛ばしたゼロに、黒の騎士団からの信頼がわずかばかり上昇した。
黒の騎士団はコロニーのガンダムの協力や凄腕のAT乗りであるキリコを仲間に加えて戦力を強化しているが、あのバケモノを迂闊に駆逐することは出来ない。
倒さなければやられ、倒せば住民が死ぬ。
これではまるで────。
(ただ、人間を殺すために現れたようではないか!)
何でもいい。例え針の穴程でも事態が好転する何かがあれば必ずやそれを手繰り寄せてみせるのに────。
奥歯を噛むゼロ。
そして突如、空から金の紋様と歌が聴こえてきた。
空に佇む乳白色の機体。
いつの間にかそこに居た不明機から歌と共に展開される魔法陣のような紋様。
その歌を、ゼロはどこかで聴いたような気がした。
紋様がある程度広がると空から乳白色の機体が動いた。
地上に急降下し、シールドに内蔵されたブレードでバケモノを斬り裂く。
しかし、先程のように住民が死亡することもなかった。
所属不明の乳白色の機体が次々とバケモノを葬っていく。
(あの機体には奴らの毒を無効化する機能が備わっているのか? それとも、敷かれていくこの紋様が────)
ゼロが思考していると、止まっていたヒイロがウイングガンダムのビームサーベルでMS程のバケモノを斬り裂く。
すると周りへの影響は見られない。
『どうやら、奴はこいつらと戦えるようにお膳立てしたらしいな』
『無茶すんじゃねぇよ!』
ヒイロの言葉にデュオが怒鳴る。
しかしこれならば。
「各員に告ぐ! 住民を避難させつつ、あのバケモノを駆逐しろ!」
『ブリタニアの方はどうすんだよ!』
「もはやそんなことを言っている場合ではない! 奴等を掃討した後は、速やかに撤退だ!」
『わ、わかったよ!』
玉城からの通信を切り、次元獣とは別のバケモノの掃討に入った。
戦闘後、コーネリアが所属不明機に呼び掛けていたが、それに応えることなくその機体は姿を消した。
エリア11とは違うもう1つの日本。
そこの熱海という地では日本が誇るスーパーロボット達と宇宙からやって来た侵略者であるギシン星人との戦闘がつい先程まで行われていた。
しかし突如現れたバケモノにそれどころでは無くなっている。
それらは町の住民の食い殺し、ギシン星人達にも襲いかかり、戦場を滅茶苦茶にしていた。
ギシン星人と戦っていたマジンガーZ、トライダーG7、ダイ・ガード、そしてゴッドマーズも当然迎撃しようとするが、正体不明のバケモノを倒すと避難していない町の住民が死んでいく様を見せられて迎撃が難しくなる。
しかしお構いなしにギシン星人達はバケモノの迎撃に入ってしまい、町の住民が次々と倒れ、被害が広がっていく。
「やめろバカ野郎!? このままじゃ、ここに住む人達がっ!」
ダイ・ガードのコックピットでパイロットの1人である赤木が叫ぶが、当然両者共に戦闘を止める気配はない。
「クソ! どうすればいいんだ!」
マジンガーZのコックピットの中で甲児が歯噛みしているとその歌が聴こえてきた。
空中で静止している見知らぬ機体を中心に広がる紋様。
それが町をある程度覆っていくと空から突撃しながら空飛ぶ魚をビームマシンガンで撃ち落としていく。
ギシン星人には用がないのか、無視するようにバケモノだけを狙って戦闘を繰り広げていた。
「ダメ! 通信を送ってるけど、応答しないわ!」
所属不明機に呼び掛けているコスモクラッシャー隊の日向ミカがそう報告する。
ギシン星人もスーパーロボット達も無視して独り戦っている。
「だが、あの機体が現れてから町の人達の被害も無くなってる! 今なら!」
ゴッドマーズのパイロットであるタケルが近くのバケモノを両断した。
「よーし! これで俺たちもちゃんと戦えるぞ!」
トライダーG7のパイロットである竹尾ワッ太も巨大なバケモノに攻撃を開始した。
こうして、熱海の戦闘はスーパーロボット達の勝利に終わる。
「で、チーフの考えはどうなんだ?」
クロウ・ブルーストは雇い主であるトライア・スコートに次元獣とは別のバケモノのデータを先日送り意見を求めていた。
『アンタの言うとおり、アレは今までの次元獣とは別物だね。次元を越えてやってくること以外は特に共通点は見当たらない』
やっぱりそうかとクロウは嘆息する。
戦闘データ集めのネタが多いのは歓迎すべき事だが、あんな市民を巻き込むようなバケモノはノーサンキューである。
『今のところは次元獣と比べても出現頻度はそう高くないのが救いだね。三大国家のどこかしらに出現してるけど、同時に現れる例の機体が対処してることで被害は少なく済んでるよ』
「そうか。奴らの毒については?」
『そっちはダメだね。そもそも毒性が検出されないんじゃ調べようがない。これじゃまるで毒と言うよりは呪いみたいだよ』
「呪いって……」
科学者にあるまじき発言にクロウは呆れたような声を出す。
「それだけ奴らの存在が奇異だってことさ。それこそ、例の不明機に聞かないと分からないんじゃないかい?」
例の不明機にも各国が捜索と接触を求めているが、今のところそれらは成功していない。
次元獣などと同じ別の次元から現れるのか。それとも高度なステルス機能でも使っているのか。
『バケモノの方を三大国家では毒型次元獣なんて呼ばれてるみたいだよ。出現する特徴としては人がそれなりに集まっている町。それも戦闘中に出現するくらいかね』
「まったく嫌な連中だぜ」
これまで数度毒型と対峙したことがあるクロウは心底嫌そうに眉を寄せる。
『ま、毒型についてなんらかの有益な情報や戦闘データを入手したらじゃんじゃん送っておくれ。アレのデータはどこの国も欲しがってるからね。報酬に多少の色は付けてやるよ』
「マジで! ありがとよ、チーフ。俄然やる気が出てきたぜ」
『ブレないね、アンタは……』
突然やる気を出したクロウにトライアは苦笑混じりに通信を切った。
異星からの侵略。暗黒大陸の解放。人間同士の争い。
それらが激化するなかで平和理事委員会は秘密裏にあらゆる組織の垣根を越えた戦力を集めた特別救助組織ZEXISを発足。
ソレスタルビーングや黒の騎士団。コロニーのガンダムや日本のスーパーロボット。
別世界からやってきたSMSという民間軍事会社や暗黒大陸からやってきた住民。
それらが手を取り合い、衝突しながらも仲間意識が芽生えて世界の闇を少しずつ取り払っていく。
突如現れた毒型次元獣とこれまで現れていた次元獣の双方が互いに殺し合う。
「やっぱり、アイツらは別物らしいな。それも互いに仲が悪いときた」
クロウがぼやいているといつものように上空から現れた機体が歌と共に紋様を広げる。
「これでようやくアイツらをぶち殺せるぜ!」
ゲッターのパイロットである竜馬が好戦的な笑みと共を浮かべる。
毒型の毒さえなければ早々に駆逐するだけ。
ZEXISがそれぞれ毒型の討伐に入ろうとすると、次元獣を召喚した謎の男、アイム・ライアードが嘲るように、呆れるように呟く。
「彼女も熱心ですね。そんなにもPoison Monsterをこの世界に呼び寄せた責任を感じているのですかねぇ?」
その呟きを聞いていたZEXISの面々はその意味を問いかける。
「どういう意味だ!」
「言葉通りですよ。PM────貴方達が毒型と呼ぶあの怪物達をこの世界に呼び寄せたのは、他ならぬ彼女なのです!」
高らかに言い放つアイム・ライアード。
その声は、乳白色の機体を駆るパイロットにも聞こえていた筈だが、何も答える事なく戦闘を続けていた。
次回、ZEUTHが第二次の世界に来るところまで書く。