ロクでなし魔術講師と禁忌教典と火拳(ロクアカ×ONE PIECE)   作:迷子の鴉

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扉絵があったら

グレンが教壇で寝ていてシスティーナが教科書を振りかざし、ルミアがそれを止めて、エースは笑ってその様子を見ている。


1話 自習は昼寝の時間である

 臨時講師の授業は最悪という感想が全生徒が揃って言うだろう。

 

 まずいきなり初回の授業を『自習』と黒板にデカデカと書き、教壇に腕を組んで居眠りをかく始末。

 

 次の日はシスティーナの怒りにさすがに懲りたのか授業を始めたが口調はグダクダ、その次には教科書のページを破って黒板に貼り付けて、また次の日には黒板に教科書を釘打ちし、最終的には何もしなくなり振り出しに戻った。

 

 これに対し生徒達は早々に諦めをつけ、各々自分達がおももくままに自習を開始していた。

 

 

 

 ごく少数だがそんなグレンに未だ教えを乞うと話しかける者もいたが、それをことごとくあしらい、グレンは自分の思うがままに居座り続けた。

 

 

 

 一方エースは、

「ガァァァァ……ゴォォォォ……」

「起きてエース君! 赤点課題、今日中に出さないと留年だよ!」

 周りにお構い無しで爆睡してた。

 

 

 彼のいびきが鳴り響いていても周りの級友達は無視を決め込む。

 いつもの事だからだ。

 

 無理やり起こそうとしたら、寝ぼけた彼に殴られかねない。

 しかしここに割り込み無理やり起こすのが「講師泣かせ」の異名を持つシスティーナなのだが、

「いい加減にしてくださいッ!」

 彼女はただ今「ロクでなし魔術講師」ことグレン・レーダスに抗議を行っていた。

 

「む、だからいい加減にやっているだろう?」

「ふざけないでッ! 子供みたいな屁理屈捏ねて!」

「まぁ、そうカッカすんなよ? 白髪増えるぞ?」

「だ、誰が怒らせていると思っているんですか!?」

「ほら、そんなに怒るからその歳でもう白髪だらけじゃないか……可哀想に」

「これは白髪じゃなくて銀髪です!本当に哀れむような顔で私を見ないで!ああ、もう!こんなこと、言いたくありませんけど、先生が授業に対する態度を改める気がないと言うなら、こちらにも考えがありますからね!?」

「フゴッ!」

「ほう? どんなだ?」

「私はこの学院にそれなりの影響力を持つ魔術の名門フィーベル家の娘です。私がお父様に進言すれば、貴方の進退を決することもできるでしょう」

「え……マジで?」

「グォォォォ……!」

「マジです! 本当はこんな手段に訴えたくありません! ですが、貴方がこれ以上、授業に対する態度を改めないと言うならば──」

「お父様に期待してますと、よろしくお伝え下さい!」

「ゲップシッ!」

「エースくん起きてっ!」

 エースのいびきをBGMにグレンは紳士的な笑顔を浮かべた。

 「いやー、よかったよかった! これで一ヶ月待たずに辞められる! 白髪のお嬢さん、俺のために本当にありがとう!」

「貴方って言う人は──ッ!」

 もうシスティーナの忍耐も限界だった。

 システィーナには、このグレンという男が本当に講師を辞めたくてそんなことを言ったのか、それともフィーベル家の力を侮っているだけなのかは判断がつかない。

 だが、どちらにせよシスティーナはもはや、このグレンという男の素行を看過することはできなかった。魔術の名門として誇り高きフィーベルの名において、魔道と家の誇りを汚す者を許しておくわけにはいかない。

 

 

 何より先程からのエースの無遠慮ないびきのせいで堪忍袋がはち切れそうだった。

 

 この男もそうだがエースも出来るならさっさとこの学園から出ていかせたかった。ルミアが妙にこの男に懐いているのもあるが、魔道の道を汚すことしかしてないエースをシスティーナは許せるはずがなかった。

 

 

 …………だがこの男、見た目に反して実績があることから簡単に追い出せないというのが悩みの種である。

 

 

 システィーナは左手に嵌めた手袋を外し、それをグレンに向かって投げつけた。

「痛ぇ!?」

 手首のスナップをきかせて放たれた手袋は、グレンの顔面に当たって床に落ちる。

「貴方にそれが受けられますか?」

 しん、と静まり返る教室の中、システィーナはグレンを指差し、力強く言い放った。

 その様子を注視していたクラス中から、徐々にどよめきがうねり始める。

エースは未だうつ伏せて寝ている。

「お前……マジか?」

 グレンも眉をひそめ、柄になく真剣な表情で床に落ちた手袋を注視している。

「私は本気です」

 グレンを険しくにらみつけるシスティーナの元へ、ルミアが駆け寄った。

「し、システィ! だめ! 早くグレン先生に謝って、手袋を拾って!」

 だが、システィーナは動かない。烈火のような視線でグレンを射抜き続ける。

「……お前、何が望みだ?」

 その視線を受け、グレンが半眼で静かに問う。

「その野放図な態度を改め、真面目に授業を行ってください」

「……辞表を書け、じゃないのか?」

「もし、貴方が本当に講師を辞めたいなら、そんな要求に意味はありません」

「あっそ、そりゃ残念。だが、お前が俺に要求する以上、俺だってお前になんでも要求していいってこと、失念してねーか?」

「承知の上です」

 途端に、グレンが苦虫を噛みつぶしたような、呆れたような表情になる。

「……お前、馬鹿だろ。嫁入り前の生娘が何言ってんだ? 親御さんが泣くぞ?」

「それでも、私は魔術の名門フィーベル家の次期当主として、貴方のような魔術をおとしめる輩を看過することはできません!」

「あ、熱い……熱過ぎるよ、お前……だめだ……溶ける」

 グレンはうんざりしたように頭を押さえてよろめいた。

 クラス中がハラハラしながら逼迫した二人の動向を見守っている。エース未だ起きず。

「かァァァ…」

 グレンはシスティーナを見た。強気に見せてもシスティーナの身体は緊張でこわばっていた。それもそのはずだ。これから行う魔術儀礼の結果次第では、システィーナはグレンに何を要求されても文句は言えないのだから。

 だが、それでもシスティーナはグレンに立ち向かったのだ。魔術への信念と、血の誇りにかけて。システィーナ=フィーベルはこの年齢にして誰よりも何よりも一流の魔術師だったらしい。

「やーれやれ。こんなカビの生えた古臭い儀礼を吹っかけてくる骨董品がいまだに生き残っているなんてな……いいぜ?」

 グレンは底意地悪そうに口の端を吊り上げた。床に落ちている手袋を拾い上げ、それを頭上へと放り投げる。

「その決闘、受けてやるよ」

 そして、眼前に落ちてくる手袋を横に薙いだ手で格好良くつかみ取ろうとして──失敗。グレンは気まずそうに手袋を拾い直した。

「ただし、流石にお前みたいなガキに怪我させんのは気が引けるんでね。この決闘は【ショック・ボルト】の呪文のみで決着をつけるものとする。それ以外の手段は全面禁止だ。いいな?」

 クラス中が固唾を呑む中、グレンはルールを提示する。

「決闘のルールを決めるのは受理側に優先権があります。是非もありません」

「で、だ。俺がお前に勝ったら……そうだな?」

 グレンはシスティーナを頭の天辺からつま先まで舐め回すように見つめる。そして、顔を近づけ、にやりと口の端を吊り上げて粗野な笑みを見せた。

「よく見たら、お前、かなりの上玉だな。よーし、俺が勝ったらお前、俺の女になれ」

「──っ!」

 その一瞬。ほんの一瞬だけ、システィーナが慄いた。ルミアも息を呑んで青ざめた。エースは少し目を開けつつあった。

 こんな要求があるかもしれないことは、システィーナも覚悟していたはずだ。が、それでもいざそんな取り返しのつかない言葉を聞くと思わず弱気が表に出たのだろう。

「わ、わかりました。受けて立ちます」

 そんな一瞬の弱気を恥じるかのように気丈に搾り出した言葉もほんの少し震えていた。

 グレンはシスティーナが微かな後悔と恐怖を強気の仮面で必死に取り繕い、一生懸命にらみつけてくる様をじっくりと堪能し、突然、腹を抱えて笑い出した。

「だははははッ! 冗談だよ、冗談! そんな今にも泣きそうな顔すんなって!」

「……っ!」

「ガキにゃ興味ねーよ。だから俺の要求は、俺に対する説教禁止、だ。安心したろ?」

 その言葉をそばで聞いていたルミアは胸をなで下ろし、ほっと息をついた。

「ば、……馬鹿にして!?」

 一方、自分がからかわれていたことを知ったシスティーナは、顔を真っ赤にしてグレンに食ってかかった。

「ほら、さっさと中庭行くぞ?」

 それを適当にいなし、グレンは教室を出て行く。

「ま、待ちなさいよッ! もう、貴方だけは絶対に許さないんだから!」

 肩を怒らせてシスティーナはグレンの背中を追った。

クラスの皆も2人の決闘を見ようと教室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フアァァァ……いったか」

誰もいなくなった教室でエースはようやく起き上がった。

 

「決闘がどうとか言ってたな、そっちも気になるがまずは」

体を伸ばし準備運動を始める。

「最近、あまり動かしてなかったからなぁ。鈍ってなきゃいいんだが」

ひとしきり伸ばしたあと、教室の窓を開け放ち空へと飛んだ。

 

 

 

 

 

そこでなんてことだろう彼の体が火に包まれた。

そのままエースは壁を這い上がり、学園の天辺へと向かった。


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