第二章はオルタの理不尽さを感じましたねぇ。という訳で、そんなセイバーオルタさんの登場です。
極光の反転。光を呑み、熱を喰らい、大地を削る。本来の『誓約』を以って封じられた『
その黒光の渦が狙うはたった四人。広範囲に放たれたそれは、四人を容易く呑み干す───が。
「はい、サイドチェストって感じでね。広範囲への攻撃なら威力は落ちている筈だし、浴びる時間も少ない。だからダメージはそこまで大きく無いんだよね!」
やはり反射神経も桁外れている。立香は咄嗟に強化魔術を発動してオルガマリーを庇い、マシュは清少納言を庇い、その剣を凌いだ。
……いや、理屈としては確かにそうなのだが。例え威力が分散されていようが、サーヴァント。しかも最優のセイバークラスによる宝具に直撃しながらも無傷でいるのはおかしい。
が、それも今更なのだろう。シャドウサーヴァントの惨状、アーチャーとの戦闘風景を見守ってきたカルデア側は勿論、その筋肉の圧を感じていた最後のサーヴァント。セイバー────騎士王、アーサー・ペンドラゴンも当然だといったように笑みを浮かべて頷き、唯一抉れていない大地から歩み寄る。
「流石だ、とでも言っておこう。人類最後のマスターよ。貴様は身体能力だけならば、サーヴァントの領域……いいや、その枠さえはみ出てると言っていい。しかし、それだけじゃないからこそサーヴァントは
「……! マシュさん、盾を!」
「はい!」
『───おかしい。待って藤丸君、そのセイバーとの戦闘はっ』
ロマンは焦り、立香を止めるべく声を出す。しかしそれは、騎士王の威圧が許さない。
「最大威力の魔力を収束。対
ただ静かに真名を解放し、その荒々しき魔力とは裏腹の、ゆったりとした動作。振り下ろされた闇は、一瞬にして立香達を呑み込む。しかしマシュもマシュで、己の先輩を守ったことによる自信で相応に成長している。宝具の発動は感知済みだ。その盾を地に突き立て、叫んだ。
「所長から付けてもらったこの
半透明な盾が膨張し、この場にいる四人を包み込むように展開された。
その剣は目の前でせき止められる。しかし流石に、本来対城である宝具を捕捉四名にまで凝縮させただけはあり、完全に破壊されるのが目の先だとでも言うようにひび割れていく。
マシュは苦悶の声を上げるが、背中を支えてくれる立香、そして確かな上昇具合を感じさせてくれるオルガマリーの支援魔術。支えてくれる人がいるから、負けるわけにはいかない。
「ァァァァァアアアアッッ‼」
「……」
これ以上出力が上がることは互いにない。今のまま、どちらが先に力尽きるか。込められた魔力の放出と、守るために立てられた盾。どちらが在り続けるかなぞ、最早確定しているだろう。
「……ッ!」
「た、耐えた……?」
当然盾が勝つ。
それでも、勝ったのはあくまで‟今”。至極当然のことではあるが、どちらかが倒れない限りは、完全な勝敗が決することはない。
「極光は、反転する」
再びチャージされる化け物染みた魔力。静かに、でも荒々しく。その黒く染まった光は、先ほど襲った魔力と同等の出力を秘めている。セイバーの魔力量は怪物染みていて、対してマシュは満身創痍。威力が落ちていれば立香でも耐えれるが、この出力の宝具を生身で受けて無事でいられる筈がない。
そう。だからこそ立香は動く。
「───む」
マシュが盾で受けている最中、その奥を見続けていた立香は、セイバーが不自然な程に脱力していたのを見抜いていた。其処から連想されるのは、塞がれた後に直ぐ再度振り下ろす事。つまり、連続で放てるという“可能性”。
対アーチャー時の時と同じく脚の強化を行い、互いの宝具が消滅した直後の全力失踪。例え反応出来たとしても、立香の拳を防ぐ術はない。その筋肉によって放たれる一撃はサーヴァントの霊格を容易く貫く。
───では、それ以上に早く攻撃するだけだ。侮るなかれ、セイバーは違う側面になった事で多少宝具に制限が掛けられてはいるが、それで尚トップクラスのサーヴァントである。その直感性と、乱暴にも似た聖剣の冴えは、それだけで並のサーヴァントを一掃できる。
例え風の加護が無くても。例え誓約解放による一時的な超強化が無くとも。例え、鞘が無くても。この場にいる四人程度、容易く勝ててしまうのだ。
「聖剣、神速解放」
『スキル:直感』により、立香の動きは予め感知。魔力の出力を大幅に変更し、早期の発動。対城宝具並の出力は対人レベルの魔力量へと下がるが、それでも魔術を覚えたばかりの素人相手には充分すぎる火力だ。
ただ一つ誤算があるとすれば、その筋肉が飾りでは無く、純粋な耐久力だけならばサーヴァントさえ超えていたという点。
「くっ……不意打ちも無理か」
でも確かなダメージは入っている。最初は『硬化』の効力を持って強化していたからダメージは通らなかったが、今回は素の耐久力のみ。その肉体によって限りなく衝撃を受け流せたし、繊細な筋肉操作で当たる面は極力少なく出来た。でもダメージは通る。
いつも笑顔の立香は、この時ばかりは険しい顔を見せた。アーチャー戦でも崩す事なく保っていた笑顔を、だ。打つ策が無い何よりの証拠。
「卑王鉄槌、極光は反転する」
再び剣に纏う魔力。ここまで来れば嫌でも察する。この聖杯戦争の不思議な点として、筆頭に上がったのが『マスターの不在』だ。それは魔力を供給する主が居ないと同意。であれば、現界時の保有魔力が全てでは無いのかと。
それは事実で、だからこそセイバーは一番魔力を使うとされるバーサーカーを単身で仕留められたし、キャスターを除く全てのサーヴァントを倒せたのだ。アーチャー、バーサーカーを除けば、他は全て異例のクラス現界だったから。
だがキャスターは存外にしぶとい。瞬間的な魔力放出のみでは倒せなかった。しかしそんなキャスターをカルデアが倒してしまったから、この聖杯戦争に終着が訪れ───そしてセイバーは『聖杯』を手にした。
ロマンが驚いていたのはそれが理由だ。幾ら最優のクラスたるセイバーであったとしても、供給無しの魔力量では限界がある。それにも関わらず、サーヴァントの域を超えた魔力量。マスターが居るならば理解はできるが、マスターが居ない今、決められた魔力量を上回る事など不可能だから。
でも聖杯があるならば話は別。本来万能の願望機として位置するそれは、使い方を変えれば莫大な魔力補完道具だ。例えセイバーの最大火力でも、最低百は放てるだけの貯蓄がある。
マシュは最大火力を一発受けるだけで満身創痍。立香の必殺とも言える一撃は、それより早くセイバーの一撃が放たれるだけ。残るは優秀なだけのマスター適性もない魔術師と、“弱い”を自称するサーヴァント一騎のみ。
待ち受けるのは、「絶望」の一言である。
「『ガンド』!」
それでも下を向いている暇はない。まだ終わってないのだから、自ら終わらせに掛かる必要などどこにも無いのだ。
オルガマリーから放たれたガンドは真っ直ぐ飛来しセイバーへと向かうが、魔力が収束する剣を一振り。咄嗟に倒れ込んで回避したが、後方の壁を容易く破壊するその威力に目を泳がした。……けどそれも一瞬。表情を取り繕い、足を震わせるが、真っ直ぐセイバーを睨みつけた。
「……ほう。脆弱な魔術師と、そう思っていたが。気力は充分らしいな?」
「ええ……毎日毎日プレッシャーに耐えて、吐いて、自分を見失って……。乗り越えた事なんてない。それでもやらなきゃいけない。褒められる事すら無い日常の中───報われた時が来た」
オルガマリーは立香へと視線を移し、口元を緩め、胸に手を当てて高飛車に、でも優雅さを残して叫ぶ。
「私はオルガマリー・アニムスフィア! まだ滅びきってない人類史の行方を守る、『人理継続保障機関カルデア』の所長! 例え
「姿形名称は違えど、貴様も上に立つ者か。……賞賛しよう。世界が滅び、人理は99.9%焼滅した。確かにまだ残ってはいるが、それも粗末で、英雄の剣一刺しで全てが無くなる崖の端にて、プレッシャーに耐え立ち向かうその無謀さ。……ああ、称賛しよう」
王ではない。でも自分の役目を果たさんとばかりに、脆弱な身でありながら立ち向かうその意思。王の意を以ってして敬意に値する。
「だが、名誉も誇りも全ては無に帰すのみ。生憎と
魔力放出。剣に纏う黒き光は、すべてを呑み干さんとばかりに天へと舞い上がる。天を貫通した其れは、この世界の全てを呑み込む強大な魔力と化す。
魔力凝縮。天を貫いた荒々しい魔力は、その全てが剣に纏い付き、今か今かと暴発しそうな勢いで唸る。禍々しくも神々しさが混じる漆黒の光に、オルガマリーは仁王立ちで見据えた。
「───……大した人間だ」
歴史上、英雄の記録の中でも、例え半分の拘束解除でさえトップクラスに位置する宝具を前にして、その堂々たる覚悟。並の人間ならば……いや、まともな精神であれば屈してるであろう威圧をその前に、震えながらも立ち上がる。
思わずといった風にセイバーは言葉を零す。だがそれも全ては無に帰すだけ。褒めようが、貶そうが、何も意味は無いのだ。
「受け取るがいい───
今まで静かに放たれていたモノから一転、怒号を上げるが如く宝具を叫ぶセイバーから放たれたのは、単純な威力だけで言えば先程までと全く変わらない最大火力。だがほんの僅か、遅い。と言ってもオルガマリーのような魔術師が避けられる程ではなく、本当に「もしかしたら」レベルの些細な違いだ。
唇を噛んで、それでも目は逸らさず黒い光を見つめる。いざ呑み込まれようとする時、オルガマリーの上空から、目の前へと人を覆う物質。盾が勢いよく飛来し、突き刺さる。盾だけではなく、マシュと一緒に。
「ハァ……ハァ……所長は、やらせません……っ!」
満身創痍。受けれる保証はもうない。それでも立香から教えられたポーズを全く崩さず、受け切る覚悟を以って盾を支えていた。嫌われても仕方がないと思っていた相手に守られる。オルガマリーは一度目を見開くが、口元に笑みを浮かべた。
キッと前を睨みつけ、声を張り上げる。
「『人理継続保障機関カルデア』一般枠所属、藤丸 立香へ命じます! 『令呪』を以って、マシュ・キリエライトを支援しなさい!」
「───令呪を以って命ずる。マシュさん、宝具を!」
「はいっ───
またも半透明な盾は膨張し展開される。先の一件でどれだけ感覚を掴んだのか、今度は『城』が形を見せる事もなく、その宝具と拮抗を重ねる。しかしセイバーの“工夫”はその為にあり。微かに遅かった宝具は、『持続性』を重視して放たれた一撃。それはつまり、マシュともう一度交える可能性を考慮しての攻撃という訳だ。
先程はマシュが防いでいたが、それもギリギリ。セイバーの一撃が発散された直後でマシュも倒れたのだ。ともすれば、ほんの少し持続性を維持すれば勝てるのは自明の理。当然セイバーはその選択を取るだろう。
苦悶の声を上げるマシュに、立香は再度右手を前に突き出した。
「再度令呪で命ずる───再度……サイド……」
「え、ちょ……」
「はいっ、サイドチェストッ!!」
「こんな時までそれやるかちゃんマスッ!」
服四散の悲劇が起こる事はないが、筋肉の一瞬の膨張はまたもなり、背景が歪むようなマッスルポーズを見せられる。
こんな時でさえ平常運転な立香に、清少納言は思わず突っ込んでしまった。シリアスだったのに。シリアスだったのに、その筋肉が一瞬で空気を変えた。筋肉は万能だった。人の身体強化のみならず、健康維持にも役立ち、挙句にはシリアスブレイカーとして活躍するのだから。
セイバーは失笑し、オルガマリーは笑みを零し、マシュは強気な笑みで地に足を沈める。
「了解です、
「え、何の了解!? これ何か意図があった!?」
───意図があったかと言えば、その通りだ。何もふざけてマッスルポーズを取ったわけではない。普段通りの彼を見せる事で、当たり前の日常を意識させた。病は気から、肉体は気からと言うだろう。確かに追い詰められた人間は予想だに出来ない力を発揮する事はある。でもプレッシャーを感じて心折れる人が殆どなのだ。
マシュ・キリエライトという『人間』は、そうである。今までの彼女ならば与えられた使命を果たそうと淡々に熟すだけだっただろう。しかしデミ・サーヴァントとなって、自分に出来ることが増えた中、『自分にしか出来ない』というプレッシャーは計り知れないモノとなる。
……まあ、立香の場合は『敢えてやった』というよりも『自然とやってしまった』という理由の方が強いのだが。マシュにとっては、それが何よりも心強かった。
余計な力を抜く。片足を一歩引き、腰を下げ、全身で盾を支える。
(───この攻撃を防ぎ切っても、きっとまた、セイバーさんは同じ事を繰り返すだけだ。何で防いでるのか、頑張るのか、意味を失いそうになる)
セイバーが所長に語った通りだ。どれだけ頑張って名誉を重ねても、誇りを貫いても、全ては一刺しで無へと帰す。その手段をセイバーは持っており、使う事を躊躇わない。
では何で頑張る? 理由は───
(でもっ! この一瞬、この刹那。私は抗い続ける! 一秒を、一瞬を、全力で生きたいから! 今を生きる為に、未来を取り戻す!)
誰かの為だとか、全てを救いたいからだとか、そんな顔が赤くなるような理由なんていらない。自分の為に頑張って、自分の為に必死になって、自分の為に生きる。
生まれた事こそが生きる意味。ただそれだけで良いだろう。
「ァアアアアアッッ!!」
「ッ……満身創痍の身で、我が剣を二度も……!」
まだ拮抗状態。互いの宝具は晴れていない。それでもセイバーは確信した。この剣は防がれると。それでも発動を停止しないのは、マシュを脅威と認識したからだ。限界まで削らなければ、例え足が折れても腕で立ち上がる。自らを信じた者は、自らの意地を通す者は、それ程までに強い。
冷徹な仮面を被り、決して見せる事など無かった感情。その仮面は立香のマッスルポーズで崩れ去り、今や猛獣の如き獰猛さ。目は全開に見開き、咆哮を上げて力を入れる。
矛と盾。再度ぶつかり合う二つに隠れて、清少納言は思った。
(……なすびちゃんは、多分
一度、目を瞑る。纏められた髪を解き、その長い髪を風に揺らした。
(ねえ、定子様。私は貴方の為に筆を持ち、貴方が終えて筆を下ろしました。でも、いいのかな。誰かの為に書いて終えたこの身が、もう一度───今度は自分の為に持っても、良いのかな)
霊基の変質。基本的にサーヴァントは全盛期の姿で現れるらしいが、何事にも例外は存在する。無理やりクラスの枠に当て嵌めた結果、それに釣られてステータスの弱体化、姿形の変化が起こるのは珍しくない。例え全盛期の姿であっても、全盛期の能力では無いのだから。
だから霊基は簡単に変わるし、成長……というより、在るべき能力の獲得も出来る。要は
髪色は全てが黒となり、衣服の類は袴と化す。筆を持ち、正に『平安時代中期の女流作家』の姿そのものである。
突然変異した姿にオルガマリーと立香は驚いた。
「ねえ、ちゃんマス」
そんな二人を、そして盾を支えるマシュを見て、
「お願いがあるんだ」
清少納言のパリピギャルモードもいいけど、定子様好き好きなしおらしい清少納言も良いと思うんだ