「おい、合歓!」
暫くの間硬い扉を叩く音だけが響き、ようやく扉の鍵が開けられた。
「集金なら間に合ってますよぅ……」
思った通り、出てきたのは合歓だった。
合歓はしばらく寝ぼけ眼で、目をこすっていたが俺に気付くと、
「ってえぇっ、警部!?ち、遅刻しましたかあ!?」
と錯乱し始めた。
「違う、お前、なんでここに……!」
「えっ、だってここ私のじた……くじゃない!?どこ、私は誰!?」
ここが自宅でないことを理解した合歓は慌てたが、すぐに宥めた。
「……という感じだったんだが、お前は?」
「ええっと、私はただ自宅で寝てたんですけど……仕事でしたっけ?」
「仕事でこんな悪趣味な場所に泊まるか阿保」
「で、ですよね。ここ、どこなんだろう……」
二人で唸っていると、キンコンカンコン、と無機質な音が響いた。
「えーマイクテスマイクテス!あー、あー。聞こえてるよね?とりあえず、起床した皆さんは体育館までお越しください。繰り返します、体育館までお越しください……」
それだけ告げると、ブツリ、と放送は途切れてしまった。
「どうしますか、警部……」
「……とにかく、何かに巻き込まれてるのは確かだ。なら、取り合えずは従ってみよう」
「了解でっす!じゃ、色々見てみましょうか!」
「いや、体育館にこいって言われたばかりだろうが……」
というと合歓はにんまりと笑い、
「嫌ですねぇ、“直ぐに”とは言われてないじゃないですか。此処が何処かくらい、調べても罰は当たりませんよ、きっと」
そういわれれば、そうかもしれない。
まずは、此処が何処なのか。
そして、俺達以外に人はいるのか。
何が目的の拉致行為なのか―――それを突き止めなければならない。
「じゃ、よろしくお願いしますね!」
そう言って、合歓……シルクは笑った。
付近を二人で調べてみた所、どうやら16人分の部屋があるようだ。
中には知り合いの名前らしきものもあった。
彼らも拉致されたのだろうか……?
そう思うとこの事件の犯人を殴り飛ばしたくなり拳に力を入れたが、動かすことはしなかった。
下手に事を起こして、危害を加えられても困る。
俺たちは、他の人を探すことにした。
少し進むと青い壁紙では無くなり、一面グレーのフロアにでた。
中には警察の立ち入り禁止の黄色のテープよろしく、立ち入り禁止になっている扉もあった。
が、食堂と思われる標識を見つけた。
それに従い、食堂に向かう……。
すると、茶色い大きい両開きの扉と……緑髪の少女が見えた。
「先輩!あの子って……」
「ん?知り合いなのか?」
子供好きのシルクの教え子か何かかと聞くと、シルクは激しく否定した。
「違いますよ!今人気急上昇中のパンク系アイドルの緑湖さんですよ!」
「緑湖……?誰だそれ」
本人が聞こえない程度に声を潜めて問うと、シルクは興奮しながら言った。
「んもぅ!疎いんですから!緑湖さんはですね、グループの中で唯一マスクで完全顔出ししてない子で、笑顔が人気なんです!」
「マスク着けてるのにか……?」
「ほら、よく見てくださいよ。マスクの模様。二カッて笑ってるでしょう?それにタレ目が合わさってとっても可愛いんですよ!」
わからない人ですね!だのとボロカスに言われたが、俺は無視して彼女に話しかけた。
「えーっと、初めまして」
「……!は、初めまして」
「緑湖さん……ですか?」
「は、はい、アイドルをさせて頂いてます、緑湖言葉です」
そう自己紹介してぺこりと頭を下げた彼女は、噂に違わずマスクをしていた。
「わーっ、緑湖さん!握手してください!」
「は、はい、私で良ければ……」
シルクから手を差し出されると、緑湖はおずおずと握った。
「うれしいです!もうなんか閉じ込められてる事忘れそうです!」
そうだ、すっかり忘れていた。
彼女にもここに来た経緯を聞いてみよう。
彼女も拉致、となれば外は大騒ぎのはずだ。
「あの、どうしてここまで来たか……覚えていますか」
「それが、その……」
途端に彼女は視線を落とし、モジモジと言いにくそうにした。
「仮眠室で、寝てたんです……次が、スタジオ収録だったので。そしたら、そこの一室で……」
と、彼女は俺たちが来た方向に視線をやった。
どうやら、彼女も俺たちと同じようだ。
「やっぱりそうですか!私たちもそうなんですよ」
シルクがそう答えると、はた目にもわかるくらい彼女はホッとした顔を見せた。
「よかった……!私だけだったのかと……」
「番組とかでも、ありえないですよね……」
「スタジオ収録で、これほど大きなセットは使わないので……」
俺たちは、話してくれた緑湖に礼を言って食堂に入った……。