「わぁ、結構いいじゃないですか!」
食堂はまたも青を基調とした床で、片面が全面窓ガラスになっていた。
しかし窓ガラス付近に、中庭の様に植物が植えられているだけで、どうやら外は見えない上、出られないようだ。
大きい角机が、小さい丸机があり、様々な人数に対応できるようだ。
そして、幾人かの人がいる。
先ずは話を聞いてみようか……。
何人かの中に、知合いの探偵がいた。
「おっ、榊じゃないか。お前も巻き込まれていたんだな」
「あぁ、災難だな、神薙。家族揃ってとは」
この緑のコートの男は神薙光明。
探偵を営む男で、事あるごとに俺に絡んでくる。
何時かの日にドイツに旅行に行ったあと、いつの間にか子供ができていた。
「シルクさん、警部さんこんにちは!」
可愛らしい敬礼を見せてくれたこの銀髪の少女は、神薙シャロン。
ドイツ人で、ドイツの家から養子に入ったようだ。
聞くところによれば天涯孤独になったらしく、神薙が引き取ったのだとか。
何度か誘拐被害にあい、護衛や捜索を手伝ったこともある。
「久しぶり、シャロンちゃん!勉強頑張ってる」
「はい!その節はお世話になりました!」
「いいのよー、子供の面倒はよく見てるから」
「ホント、すみません」
「いいのいいの、私が勝手にやってる事なんだから」
そういって誇らしげにいうが、此奴は男だ。
もう一度言おう、此奴は男だ。
「それで、お前たちはどうやってここに?」
「いや、俺は帰りにフラッと」
「そうなの?帰ってきてたのかと思ってたわ。私は……その、ソファで寝ていたの」
「ベットで寝るように言っただろう?」
「だ、だって」
「まま、お父さん。許してあげてくださいよ」
シルクは二人の仲裁に入った。
しばらく話は続きそうだし、その間に別の人に話を聞くとしようか……。
「よ、元気にしてたか?」
「光さん。えぇ、まぁ」
「さん付けはよしてくれ、シャロンにバレるだろ?」
この身長140㎝の低い少年は、実は御年35歳の光勝兎さん。
神薙に依頼をしたことがある元依頼人で、林業を営む傍らシャロンの面倒を見ている。
その低身長から年齢を偽り、シャロンと仲良くなったのだとか。
「光……くんはどうしてここに?」
「んーと、神薙の家に向かう途中で意識が暗転して……そしたら宿舎?っていうのか、そこで寝ててな」
「寝ていたんじゃないのか……?神薙と同じみたいだ」
「ふぅん、そうなのか。俺は間違いなく意識はあったしな。だからビックリしてるんだが」
「そんな事が……大丈夫だったのか?」
「あぁ、起きたら寝てたし怪我もなかった。また面倒くさいのじゃなかったらいいんだが」
そういって彼は大きい溜息をついた。
それも無理はないだろう。
先日のシャロン失踪時に彼は三日三晩寝ずに探し続けていた。
もうあんなのはこりごりだろう。
「あれは……」
知り合いにもいない、見たこともない人だ。
銀髪を緩く結び、モノクルをつけた長身の男性。
あまりジロジロ見るのもアレなので、俺は意を決して話しかけた。
「すみません、少し話を聞きたいんですが……」
ついいつもの癖で話しかけてしまった。
捜査の問答に慣れすぎていて、初対面の人間には何時もしてしまう、悪い癖だ。
「はい、構いませんよ。えっと……なんと御呼びすればよろしいのでしょうか」
返答はなんとも優雅で丁寧なものだった。
なんというか、姿通りで拍子抜けする。
「あぁ、俺は榊龍吾です。警察の者でして、つい…」
「なるほど警察の方でしたか、どうりで。私の名前は小神冠斗。従者……バトラーを生業としております」
バトラー……つまり執事といったところか。
よく姿を見てみると、それらしい燕尾服だった。
シルクのような、手袋もしている。
「えっと、それで、あなたはどういった経緯で?」
「ええと、私は夜の見回りのあとランプを消して、就寝してそのあと此処に」
「そうですか……」
「榊さんは?警察の調査とかですか」
「あ、いや、俺も似たようなもので」
そう言うと、すみませんと小神がこぼした。
「こういったものは興味本位で聞いてはいけないのですよね」
「いや、大丈夫です。こういう状況ですしね……」
「申し訳ありません、代わりと言っては何ですが、なんでもお申し付けください」
やれうる限りは頑張らせてもらいます。と彼は微笑んでくれた。
食堂は、こんなものか。
「どうです?皆経緯は似たような物でした?」
「なんというか……統一性がないな」
「やっぱりですか?」
「あぁ。……とりあえず、ここらへんはいいだろう。体育館へ向かうとするか」
そう提案し、俺たちは食堂をでた……。
「えっと……体育館へ向かう道はここですかね?」
古びた鉄柵の門を前にして、シルクはいった。
その門には、歪な角度で『学舎側』と書かれた看板が取り付けられていた。
「そうだと思いたいがな……」
門の向こうを見ようと目を凝らしてみるが、先は真っ暗闇だ。
結局、俺たちは顔を見合わせゆっくりと門を押し開いた。