今日もお店はお暇です。   作:雪猫

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002 - 山城とゴッドファーザー

「あのですね」

「はい」

「最近姉さまが提督と仲が良すぎるんです」

「はい」

「もっと私と仲良くして下さいよ!」

「姉さまが? 提督が?」

「姉さまが」

「はい」

 

 これで素面なのだから恐ろしい。

 

「ああ……不幸だわ……」

 

 いつものセリフに、少し微笑ましくなる。

 ……この艦娘、山城さんはあまり顔を見せない。来ても何か用事があって来るだけで、こうして愚痴を言いに来るのはそうあることではないのだ。

 つまり、相当溜まってたんだろう。ストレスが。

 そうでなければ、こんな夜更けにやってくるはずがないのだ。

 

「その提督と姉さま……扶桑さんは付き合っていたりするのかい?」

「いえ、それは聞いたことありません。付き合ってたら潰します」

 

 何を、とは聞かない。

 

「だとしたら難しいね。山城さんはどうして欲しい?」

「姉さまと2人で暮らしたい」

「……まあそれも1つかな」

 

 そう言うと、山城さんはカウンターに突っ伏してしまった。いつかの島風を思い出す光景だ。仕方ないとはいえ、姉が大好きなこの妹にしたら、大問題なのだろう。

 とはいえ、それを解決出来るほど人生経験豊富ってわけでもないしなぁ。自分に出来るのはこうして話を聞いて、飲み物を出してあげるくらいだ。

 

「どうせここまで来たんだ。何か飲むかい?」

「酒」

「えっ」

 

 反応が速すぎて、逆に聞きとれなかった。いや、まさか。

 

「酒ェ!」

「はい」

 

 聞き間違いじゃなかったか。

 ……さて、聞き間違いじゃなかったのなら、それはそれでなんだけど、何が欲しいのだろう。まさか本当にアルコールが欲しいだけではないだろう。

 

「島風に聞きましたよ、店主。その人に合ったドリンクをくれると。お任せします」

 

 おっと、これは責任重大だ。島風が言いふらすくらいだから、この前のは好評だったんだろう。それは何よりだ。

 さて、それじゃあ簡単なものを作りますか。

 確かこの辺に……あった、ディサローノ・アマレット。それとウイスキーは、まあなんでもいいか。ジョニーウォーカーのブラックラベルにしよう。

 これを、だいたい1:4で入れて、氷を浮かべればできあがり。

 

「はいどーぞ。簡単だけどね」

「……甘い香り……杏仁豆腐みたいですね」

 

 香りがそのままだからさすがに分かるか。

 

「これにはアマレットが入ってるからね。あれは杏のリキュールだから、香りはそのまま杏仁豆腐だよ」

「へぇ、……、うん、甘いわね」

「だろう」

「でもアルコールがきついわ……ソーダで割ってもらえます?」

「ああ。構わないよ」

 

 そのままグラスに移し替え、トニックを入れてステアして返す。

 

「ありがとう。……あ、すっきりする味になったわ」

「そうだろうね。でもそれなりに度数はあるから、あまり飲みすぎないようにね」

「確かに、これは飲みやすいですね」

「ある意味これもレディ・キラーかもねぇ」

 

 店内は落ち着いた音楽が流れ、外はもうすっかり夜の帳が下りた。

 ぼんやりと光る照明が、山城さんの輪郭を曖昧にさせる。

 山城さんは、正直かなり美人だ。自分でそれを理解していないというのと、姉にしか興味がないから見られてどうということを考えないのだろう。だから、美人なのにこういう幼さを見せられると、可愛いに変わる。基本的に美しいと可愛いは並び立つことはないのだが、それをこの女性は意識もせずに成し遂げているという事実に驚くばかりだ。

 

「ところで、なんでこのカクテルなんですか?」

「甘いからね。女性にはいいかなと」

「ああ、なるほどですね」

 

 少しの間、氷とグラスが奏でる音に耳を澄ませていたが、ふと気づいたようにこちらを見た。

 

「このカクテルの名前は?」

「んー、気を悪くしないでほしいんだけど、」

「はい」

「ゴッドファーザー」

「……凄い名前ですね」

 

 ゴッドファーザー。その由来はキリスト教における代夫ではなく、マフィア映画の方だ。

 使われるのは、舞台となったイタリア由来の、アマレットリキュール。

 

「これは映画由来のカクテルだけど、あれは家族愛もテーマにした映画なんだよ」

 

 ここで詳しく説明する気はないが、なかなか面白い映画だ。

 

「山城さんのそれも、家族愛と言えるものだろう。ただ、愛と依存をごちゃごちゃにしてはいけない。愛はお互いを見つめ合うことではなく、ともに同じ方向を見つめることだ」

「大層な言葉ですね。どこからの引用なんですか?」

「サン=テグジュペリという作家の言葉だよ」

 

 星の王子様の作者、と言った方が分かりやすいかもしれない。

 

「これといって、山城さんに含蓄ある言葉は提供できない。自分が提供できるのは足がかりとなりそうなものと、このカクテルくらいのものさ」

 

 今日も店内は静かで、やさしい照明に包まれている。

 少しの間グラスを眺めていた山城さんは、一度ぐるりとグラスを回すと一息に残りのカクテルを飲み干した。

 

「ふぅ、ごちそうさま」

「大丈夫かい?」

「大丈夫ですよ。それより、いい話を聞かせてもらいました。おかげでなにか答えが出そうです」

「さっきも言ったけど、そんな大層なことはしてないよ。山城さんが自分で解決しただけさ」

 

 そういうことにしておきますね。立ち上がった山城さんはほほ笑みとともにそう言い残し、夜の街に消えて行った。

 ふと視線を下げた先のカウンターに、少し多めのお金が置いてあった。

 こちらはただのサービスのつもりだったのに律儀だなぁと思いながらも、少し笑みが浮かぶ。これは、今度来た時になにかサービスしてあげないとなぁ。

 いつもよりちょっとだけ幸せな気持ちにさせてくれた山城さんは、どうやら自分にとっては幸運艦だったようだ。

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