フェンリル   作:氷雨蒼空

3 / 7
第二話

 

世界の中でも有数の弱小国、ブランベルク王国は旧時代から続く希少な王政国家。

「このネイルアートの前に太刀打ちできる機体など持ち合わせておるまい。劣等種族め」

 

機体の中でほくそ笑む、エルテミナ帝国の将校、ライアン=ハワード中尉は、上機嫌に鼻歌を歌いながら髪を櫛でとかし、モニターに映る逃げ惑う兵士をみやった。

 

「我が紅き魂の前に焼かれよ!」

 

ネイルアートが手から放った大出力のレーザーが、地面をなぞるように焼き払い、王国兵士達を呑み込んで行く。

 

「ふははははは! 逃げろ逃げろ! 我がネイルアートの光は劣等種族を全て焼き払う光の剣! 貴様らがレヴナントなぞ用いたところで、この第二世代型アームジャケットの前に敵う筈もない」

 

最もエルテミナ帝国ではレヴナントを保有していないために、実際の戦闘データが無いため、ライアンは実際に理論値しか知らない。

 

それ故に帝国は今回ライアンに対してレヴナントの捕獲も命じていた。

 

レヴナントとは召喚魔法によって呼び出された力を、適性ある者に定着させた力。

研究が進んでいないこともあり、実際にそれが本当に召喚された力なのか、マインドコントロールによって引き上げられた力なのか、今のところ解明されていないのである。

 

だが過去にレヴナントと思わしき存在が一騎当千の力を発揮した例もあり、アームジャケットが主流のこの世界において、各国ではレヴナントに関する研究がはじまっていた。

ブランベルク王国は、そんな国の中でレヴナントに関する歴史が古くから存在し、その一点においてだけ、他の国から頭が二つも三つも突き出ている。

 

それ故に今回の侵略は、エルテミナ帝国がレヴナントに関する技術と知識を得るための戦争であった。

 

 

「さてさて、目当てのお姫様はどこかな?」

モニター越しに王国の国境基地を探すライアンは、フォーカスアップされた映像の中に、ネイルアートを睨み付ける少女の姿を捉える。

 

「もしかして本当にお姫様か? いひひひ。適性者は、噂では女のみと言われているが、そうなれば遺伝子を調べ、子供を孕ませ、私の子供を孕ませてやろう」

 

レヴェッカの姿を捉えたライアンは、その美貌に己の欲望がたぎる思いに駆られ機体を前進させる。

 

 

だが突如その姿はモニターからかき消え、いつの間にか少女は身の丈ほどの剣を引き抜いて迫ったいた。

 

が、アームジャケットに備わった魔法障壁によって、レヴェッカの剣は弾かれる。

 

「蛮族め! まあ勇ましいメスを調教するのは嫌いじゃない!」

 

ネイルアートの豪腕がレーザーを放ちながら振り回され、王国軍国境基地の管制塔が五本指のレーザーで斬り倒される。

 

そしてネイルアートの掌を叩き付けられたレヴェッカは、盛大に吹き飛ばされ、そのまま地面へ落ちて転がった。

 

「あははははは! マジで頑丈だな。どういう生体構造しているのか興味が湧くよ」

 

 

『俺も気になっていた』

 

ネイルアートの魔法障壁に何かがぶつかってくる。

 

「なんだ?」

 

小さな接触音に振り替えると、エルテミナ帝国でも既に情報が得られている第一世代のファーティスだった。

 

『聞こえているか間抜け』

 

「誰が間抜けだあああああ!」

 

ネイルアートが再び腕を振り回しレーザーを放つと、ファーティスは軽快なステップでこれをかわし、アームジャケット専用のアサルトライフルを構えていた。

 

 

『さて、ジャイアントキリングを始めようか』

 

 

 

 

全長20メートルのネイルアートに対し、ファーティスは全長15メートルほど。

それ故にモーターから出力エネルギーと、ありとあらゆる面でパワー負けしているのは明白で、更にネイルアートには魔導装備も備わっている。

 

 

戦場付近のベースキャリアーの管制室で、カインはデータを確認しながら、戦闘の解析データをカエデの機体へと送っていた。

 

「くそ! こんなことバレたら命令違反だけじゃ済まねえよな。はぁ。どうせ死ぬなら美人を抱いて死にたかったぜ」

 

『俺ならモロコシ以外の和菓子を食べたい』

 

「こんな時に意外と質素な願いを言うのねお前は!」

 

『こんな時だから。彼女はこうなるのを知っていた。だから、彼女は残された時間を自分なりに楽しもうとしたのかもしれない』

 

突然そんなことを告げるカエデの言葉に、カインはふとここ最近の出来事を思い出す。

確かに言われてみれば、まるで最期の晩餐とばかりにはっちゃけた毎日にも思えた。

 

 

「だとしてだ。お前に打開策あんのか? このままだと本当に死ぬ前の思い出作りになっちまうぞ」

 

エルテミナ帝国の第二世代機の性能は、元は技術屋として軍に入隊したカインから見ても恐ろしいものがある。

コンクリートの分厚い壁を焼き切るレーザー兵器の威力は、間違いなく王国内に防ぐ術は無い。

 

それだけの技術が無いことを見越して侵攻を開始したのだ。

 

「本当にやれるのかカエデ・・・・・」

 

敵の猛攻をやり過ごしながら、カエデは学生とは思えない腕前を見せつける。

こいつ本当に学生かよと、カインはモニターの光景を眺めている時だった。

 

カエデがファーティスを後退させながら、地図を確認していたその時だった。

 

 

(敵の魔法障壁はこちらからのオープン回線を通していた。そして恐らく敵のコアは光属性。コアの耐熱強度の開示されてるデータは・・・・・あった。)

 

『魔法障壁に対して電波が通る。カイン。通信用モジュールのアンテナ基地があった筈だ。地図データを』

 

「よくわかんねぇが・・・・・あった! 基地の南東だ! つうかインフラが集約してるぜ。これって普通駄目だろ」

 

水道設備等が設置された付近の塔に通信用アンテナが設置されていた。

 

 

『好都合だ。遠隔操作でこちらの指示にしたがって動かしてくれ』

 

 

カエデはレヴェッカからネイルアートを離すように後退していくと、いい加減破壊出来ない第一世代に対して業を煮やし始める。

 

「この! ちょこまかとネズミか!」

 

まるでネズミのような頭部形状のファーティスに、皮肉を込めたライアンは、グリップを前へと押し込み、二足歩行を走破モードへ移行させる。

 

『こっちがネズミならそっちはネズミすら仕留められない猫か? 自慢の鉤爪を振るってみろ』

 

「舐めやがって!」

 

貯水プラントがある場所に追い込まれたファーティスを、いよいよ追い詰めたとレーザー兵器を駆使して襲いかかるネイルアート。

 

鉤爪状の手の指から放たれるレーザーが、水流パイプ等をズタズタに引き裂く中、カエデは地面に向けてアサルトライフルを連射していく。

 

まるでライアンには理解できなかった。

 

目の前のファーティスは、こちらの攻撃を避けるばかりで攻撃という攻撃を仕掛けてくることはない。

 

『どうしたプッシーキャット。女の尻を追いかけるだけの無能者。こっちもいい加減飽きてきたぞ』

 

 

「お前は絶対にズタズタに引き裂いてやる!」

 

ファーティス目掛けて放たれたレーザー。

 

カエデは相手の様子などお構い無く淡々と目の前の現象を口にした。

 

『魔法ばかりに気をとられ、自然現象について勉強不足だったようだな。“ブルーミング現象”。これだけ大気が温められ、塵や埃が舞っていれば、レーザーの光は屈折させてしまう』

 

そう言ってファーティスのマニピュレーターの指が、貯水塔近くのアンテナ施設を指差した。

 

「アレは劣等種族の低能通信設備のアンテナか。ふん。あんな旧式がどうした!」

 

 

『わかってないな。この大気を暖めたのは旧式の通信設備だ。マイクロウェーブによるミリ波は時に武器となる。いい加減その魔法障壁(たまごのから)が目障りだ。ちなみに王国は魔導技術が無い訳じゃない。このアンテナ設備は魔導技術を有する友好国からの贈り物だ。マイクロ波の威力を上げるに手っ取り早くて助かったよ。何せ魔力圧を目一杯上げてやればいい』

 

ライアンは急激にコックピット内が暑くなっていることに気付き、モニターに映るファーティスを睨み付ける。

 

「いったい何をした!」

 

レーザーで今度こそ焼き切ってやる! だがそんなライアンわ運命が嘲笑った。

 

急激に熱されたグリップを握ることが出来なかったのだ。

 

「おまえは・・・・・おまえは高が旧式の・・・・旧式の第一世代がああああああああああ」

 

 

『即席電子レンジのお陰で、自分の機体を棺桶にすることが出来て良かったな。喜べよ第二世代。・・・・これは友達が受けた痛みのお返しだ』

 

 

最期の悪あがきとばかりに振り上げられた鉤爪は、結局振り下ろされることもレーザーを発することもなく、そのまま起動停止するのだった。

 

 

「や、やりやがった・・・・・・マジかよ」

 

 

モニター越しでその光景を眺めていたカインは、未だに信じられない気持ちで、自分の心臓の鼓動が早くなっているのがわかった。

 

「成る程。こういう結果になったのね」

 

突如ベースキャリアーの管制室の扉が開き、青髪の軍服を纏った女性が、数人の軍人を引き連れて入ってきた。

物々しい雰囲気もそうだったが、カインが驚いたのはこの国境線守備の責任者である指揮官が拘束されている状況だった。

 

カインは即座に敬礼し息をのむ。

 

女性はその手に持っていた端末を部下に預け渡す。その端末には管制室モニターと同じ画像が表示されていた。

つまり、彼女はこの戦いをモニターしていたことになる。

 

もっともそれにカインは気付いてなかったが、別のことには気付いていた。

 

若干17歳にして王国の軍事将校に上り詰め、現在王国の猟犬の一人とされる、無表情無感情の鉄血女帝と呼ばれるのが、目の前の女性であることに。

 

「ヴェロニカ=ヴアレンタイン少佐・・・・・」

 

そんなヴェロニカの視線は、モニターに映る1人の少年に釘付けとなっていた。

 

 

 

 

ベースキャリアーに王国の猟犬部隊が到着した頃、カエデはレヴェッカの元へと駆けつけていた。

 

「よかった。無事そうだ」

「ったく。あんな一撃くらったら普通の人間は全身粉砕骨折で御陀仏だ。もっとも俺だって平気じゃねえよ。この通り起き上がるので精一杯だっつうの。霊装無しだとこの様だ」

 

「じゃあ何で?」

 

「んなもん。俺がレヴナントだからだ。どうせ兵器として生まれたんだ。俺のいきる場所は戦場しかない。それよりてめぇだ! お前は余所の国の留学生だろうが!」

 

物凄い剣幕で怒るレヴェッカに、カエデはふと少し考えてポケットから砕けたモロコシを出す。

「食べるか?」

 

「俺の話聞けよ!」

 

「一人だけだと食べきれないんだ。それに」

 

カエデはレヴェッカを助け起こして肩を貸す。

 

「友達と一緒に食べる方が美味しいんだ」

 

そんなしょうもない理由かよ。そんな呟きと共に、レヴェッカはカエデにそっと呟く。

 

「・・・・・助けに来てくれてありがとな」

 

 

 

 

 

 

「貴方達は上官命令を無視し、軍の兵器を勝手に持ち出した挙げ句、勝手に交戦し、あまつさえこれを撃破し相手の操縦士に投降を呼び掛けるどころか、殺してしまった。相手が侵略軍の兵士とは言え、明らかな人道的配慮に欠けた行為である」

 

 

エルテミナ帝国軍のアームジャケット、ネイルアートの襲撃から二日後、ブランベルク王国の王都アルドブルクの軍事基地に出頭させられたカエデとカインは、その足でヴェロニカ=ヴァレンタインの執務室に呼び出されていた。

 

「他にもあるわよ。いずれ平和になった場合にも都市開発に利用される筈だったインフラを駄目にし、友好国からの友好の証として送られた贈呈品のアンテナ施設まで破壊した。お陰で向こう十年は、予算が削られるでしょうね」

 

黙って話を聞いていたカインは、インテリヤクザな風貌に似合わず泣きそうな顔をしていた。

 

対照的にカエデはどこか他人事のような、平然とした面持ちで話を聞いていた。

 

「何か言うことは?」

「ちょっと待ってくださいよー」

「特に」

 

「そう」

 

「お願いですから! カエデも何か言おうぜ! このままだと俺達死刑だぞ! 冗談じゃねえ」

 

目の前でヴェロニカが書類を破り捨てたことに気付かず、カインはしきりに弁明しようとするも、ヴェロニカの行動に遅れて気づいたことで、その口を間抜けにもポカンと開けたまま放心する。

 

「前任の責任者の阿保がまとめた書類よ。見るに耐えない内容で心底吐きそうだったわ」

無表情に無感情の声音でそう静かに告げるヴェロニカに、

 

「寒天ゼリー。食べます?」

 

オブラートに包まれたその色とりどりの和菓子を出すカエデに、ヴェロニカは遠慮なく手にとって食べる。

 

「新しいレパートリーきたぁ! てか、出すなよ! 少佐も食べるんですか!」

 

「スイーツは乙女の嗜みよ。それに少し前から極東の和菓子は軍の女子に大人気よ。恐らく彼の影響かも」

「マジかよ! カエデ! 俺にも分けてくれ! 箱単位で!」

「高いよ? 海の向こうだから送料が特に。一箱当たり三万ベルク。ちなみに和菓子は一袋コッチの値段で言うところ210ベルク」

 

「たか!」

 

そんな軍の話とは無関係に話題が展開するのをヴェロニカが手を叩いて止める。

 

「話を戻すわよ。先の戦いでエルテミナ帝国と本格的に臨戦状態に陥ったわ。そしてカエデ貴方の祖国を含め友好国は我々を支援するということで、貴方は正式に留学生から出向士官になれるわ。無論留学生のままでもいいけれど、その場合、この国が平和になるまでの間、国に帰ってもらうことになる。まあ、既に留学生の身でありながら、敵のアームジャケットを第一世代機で倒した功績も大きく、貴方の祖国は貴方を英雄として迎えるつもりよ。貴方が残る場合の階級は准尉。功績に応じた士官待遇というわけ」

 

「か、カエデ・・・・お前良かったじゃねえか! 祖国に帰れば」

「残ります」

「そうか残るのか。元気で・・・・・・へ?」

「そう。帰れば平穏無事に過ごせるのに」

 

言葉とは裏腹に、ヴェロニカは既に準備していたのか机の引き出しを開け、王国の階級章をカエデに差し出した。

 

「それは貴方の母国と王国共通の階級章。貴方は本日より和国からの正式な出向軍人として扱われるわ。賞罰に関しても条約に定められた形となることを覚えておいて。正式な書類は後日、貴方の国と貴方宛に郵送するわ。突然のことで本来は形式に則った形で任命式を行うのだけれど理解して頂戴」

「了解しました」

 

カエデは改めて敬礼するなか、遅れてカインも敬礼する。

 

「さて、後回しになってしまったのだけれど、貴方達は国境線守備隊から異動になったわ。配属先は凄いホワイトな所よ」

 

「マジっすか! やったぜ! あの退屈な監視任務からようやく解放されるのか! ひゃっほー!」

「そう。退屈だったのね」

ヴェロニカの視線が僅かに細められることに気づくこともなく、カインは解放された喜び上官の前であることをすっかり忘れていた。

 

「ホワイトってことは、アレすか!? 残業なしで週休二日ってことすよね! 和国の進んだ職場改革制度の波が、まさかのこの国にも渡ってくるとは! これで俺の日常が薔薇色だぜ!」

 

いよいよ心踊らせるカインに、ヴェロニカは放漫な胸元の前で、鉄扇子を持って構えると、目の前の標的の額に向けて叩きつける。

 

「ぶべらぁ」

 

「ええ。基本的にホワイト。どんなに黒でも“私が白と言えば”白なの。週休二日? 何それこの和菓子より美味しいのかしら? 上官が不眠不休で仕事している間に週休二日も休む? 図太い神経は0,001スケアになるまですり減らしてあげるわ。私の職場ではね、私が薔薇色の生活を送るまで、それ以外の人間が薔薇色を享受することは許されない。わかったかしら? カイン=ハワード上等兵」

 

「い、イエッサー」

 

「そう。わかってくれて嬉しいわ。それでは改めて」

 

ヴェロニカは立ち上がり拾い上げた鉄扇子を構える。

 

 

「ようこそ王国軍第11特戦独立機動部隊(イレブン)へ」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。