くま クマ 熊 ビクトール   作:真なる熊の紋章

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5 風来熊、冒険者ギルドに行ってカードを作る

 

 突然だが、現在のビクトールの行動優先順位を見ていこう。

 

 ①身分証明書を手に入れる=冒険者ギルドへ行く

 ②両手剣を手に入れる=武器屋or鍛冶屋へ行く

 ③フリック、ビッキー、星辰剣の情報収集=酒場等の情報が集まる場所へ行く

 ④旅に備えた情報収集=地図や周辺モンスターの情報がある場所へ行く

 

 こんな感じとなっている。

 

 

 この行動指針をフィナに伝えたところ彼女も冒険者ギルド――正確にはその隣の建物――に用があるという。

 いつもよりも遅れているというので彼女を左肩の上に座らせ、目立たない程度に小走りでギルドへ向かう。

 ちなみに昨日ほど注目されることはなかった。やはり昨日はクマ度(山賊度)が高すぎたようだ。

 何の抵抗もなくビクトールの頭に手を置いている今のフィナからもそのことが窺えるだろう。むしろ、背負われていた昨日よりも視点が高いのが楽しいのか、ニッコニコなくらいだ。

 

 ギルドに着くと目的地が微妙に違うフィナと別れ、ビクトールはギルドの中へと入ってゆく。

 すると、中にいた人物達がギョッと目を見開き、ざわざわというざわめきが広がって視線が彼に集中する。

 ビクトールは百九十センチを超える高身長に加え、全身余すところなく筋肉の天然鎧をまとっている偉丈夫である。

 冒険者に彼を超える体格を持つ者がいないとは言わないが、羨望と嫉妬、好奇と敵意の視線が入り混じるのは仕方がないことであろう。

 

 ビクトールは周囲の視線を慣れたようにあしらい、たまたま手すきのようだったニ十歳前後のギルド嬢の前に行く。

 

「邪魔するぜ。身分証になるっつうカードが欲しいんだが」

 

「はい、冒険者ギルドカードはどの国でも使えます。加入なさいますか?」

 

「(どの国でも、だぁ? やっぱこの辺りは辺境の島か何かなのかね)……おう、頼まぁ」

 

 ビクトールが加入を宣言した瞬間、他の冒険者から絡まれるというテンプレ展開が起こる――――こともなく、手続きが始まる。

 

「それでは登録しますので、名前、生年月日、職業を記入してください」

 

「あいよ」

 

 特に気になることもないため言われたことを記入していくが、ここで問題が発生する。

 

「……ええと、すみません。読めないんですが?」

 

「……奇遇だな。俺もそこいらに書かれている文字が読めないぜ」

 

(クソッ、ポッチに続いて文字もダメか! 通貨も文字もほぼ統一されているハズだろ!? 会話できるのにどうなってやがる)

 

 ビクトールのいた世界は少なくとも百五十年前には通貨、文字ともにほぼ共通化されている。世界の端にでも飛ばされたのか、と腕を組む。まあ、それでは会話ができる説明がつかないが。

 

「代筆しましょうか? 有料ですが」

 

「ぐふっ」

 

 素寒貧(すかんぴん)ズーム攻撃(クリティカル)

 

「――いや、待て。外に一人当てがある。ちょっとだけ待っててくれ!」

 

 ガバッと振り返ったビクトール。入口を睨むと、ドタドタと走り出す。

 すると、さーっと進路上にいた人達が割れてゆく。誰も好き好んで爆走熊にひかれたくはないのだ。

 建物から出たビクトールが隣接する買取カウンターの方を向くと、申し訳なさそうな顔をしているゲンツと、彼に向かって頭を下げているフィナが目に入った。

 

「ゲンツ! フィナの仕事はあるのか?」

 

「ん? 誰だ、あんた…………ああ、昨日の人か。……いや、ないんだ」

 

 ゲンツの顔がますます曇り、ビクトールの方を向いたフィナの顔も残念そうだ。

 

「そうか。んじゃあ、フィナ。俺からの仕事だ。支払いは後になっちまうがこっち来てくれ!」

 

「え? ビクトールおじs――って、きゃあ!?」

 

 質問をしようとしていたフィナを問答無用で抱え上げ、ギルドの中へと取って返す。

 出ていったと思ったら通りすがりの少女を拉致してきたようにしか見えない大男に、一人の冒険者が「人攫い……」と呟くが、二人同時に睨みつけられて悲鳴を上げる。

 そして、ギルド嬢の前に戻ってきたビクトールは左腕を折り曲げ、その上にフィナを座らせた。すると、フィナが書き物をしやすい位置にカウンターがある絶妙な高さとなる。

 

「よぉ、待たせたなぁ、姉ちゃん。フィナ、昨日読み書きは得意な方って言ってたよな。代筆、頼めるか?」

 

「あ、はい。それは構いませんけど、おじさんは話せるのに文字はダメなんですか?」

 

「よく分からんがダメっぽいな。ほれ、これが俺の知ってる文字だ。読めるか?」

 

 さっき書いたものを見せてみるも、ふるふると首を横に振るフィナ。やはり通じないようだ。

 

「まぁ、そういうわけだ。門のアイツから酒の代金を貰ったらここの代筆の正規料金分払うぜ。――姉ちゃん、ちなみにいくらだ?」

 

 ギルド嬢が料金を述べると、その金額を聞いたフィナが目を見開き、逆にビクトールの目はすぅっと細まった。

 

「そ、そんなに!? ……いいの? おじさん」

 

「――はっはっはっはっは! なに、その程度かるいかるい!」

 

 と、口では言っているが、その内心は若干の間と無駄に大きな声を出していることから察することができるだろう。

 どのみち、ここまで騒ぎになって退くことは男として最早不可能なのだが。漢に二言はないというやつだ。

 

 さて、肝心の登録作業。

 この世界基準でのビクトールの生年月日はフィナが逆算することで割り出し、読み書きも問題ないレベルのようだ。

 

 次は職業欄なのだが、ここでいう職業は剣士や弓使い(射手)、斥候や魔法使いなどのパーティ内での役割のことを指しているそうな。

 となるとこれは剣士一択だ。まあ、今は肝心な剣が無いのだが。

 

「――はい。記入事項に問題はありません。……すごいわねぇ、お嬢ちゃん」

 

「えへ、えへへ」

 

「はっはっは、すげぇだろ。うりうり、よくやった! フィナ」

 

「きゃーー♪」

 

 元気だった頃の母から教わり、母が病に倒れてからもコツコツと続けていた勉強が目に見えるカタチで実を結び、大人から称賛される。子どもにとってこれほど嬉しくて誇らしいことが他にあるだろうか。

 登録作業が次の工程に移ったことでビクトールの手が頭から離れた後も、腕の上のフィナはとても上機嫌であった。

 

 それからの登録作業も滞りなく進み、冒険者ギルド関連の説明もいくつか質問を挟みながら頭に叩き込んでいく。

 文化が違いすぎてイマイチ理解できない部分もあるが、フィナが問題なく理解しているようなので困ったら彼女に聞けばいいだろう。……ちょっと情けないが。

 

「――お疲れ様でした。それでは本日は依頼をお受けになりますか?」

 

「いんや。剣の無い剣士なんて冗談にもならねぇし、武器の下見にでも行ってくらぁ」

 

 そう言い、渡されたギルドカードを《だいじなもの》用の袋へ入れ、ギルドを後にする。

 

 実はビクトール、冒険者として依頼を受けるつもりはほとんど無くなっていたりする。理由は何もしなくてもカードの有効期限が半年もあることが判明したからだ。

 ティルミナ一家の件にしろフリック達の行方にしろ、事態が動き出してから収束するまでどう考えても半年もかからない。

 生活費も討伐した魔物や獣を適当に売っていればどうとでもなる以上、時間を拘束されてまで依頼を受けるメリットはほぼ無いのだ。

 

 ビクトールは建物内から出たところでフィナを下ろし、彼女の予定を聞く。

 

「さて、フィナ。おまえさんは今日はどうするんだ?」

 

「他にお仕事ができる場所もありませんし、特に予定はないですね」

 

「なら武器屋か鍛冶屋を知ってたら案内しちゃくれねぇか?」

 

「はい。両方兼任しているオススメの武器屋さんがあります。ご案内しますね」

 

 こうして次の目的地が決まったのだ。

 

 

 フィナ本人が希望していた"普通の街娘(ルート)"を、()()()()()()()()()()()()()()()()()、ゴルドという人物が経営する武器屋へと。

 

 

 





くまさんの穏やかな日常風景が続いちゃってますが、幻水ユーザーお待ちかね(?)の戦闘&戦争イベントが、作中時間であと三日と迫っております。話数だと……あと三話か四話後くらい?

「暴れぐまが見たい!」という方は、もう少しだけお待ちいただければと。まあ、まだ序盤なので小規模イベントですが。


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