妖精さんが見えるだけなのに   作:語部創太

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 メロス構文ってやつを一度はやってみたかったんです。
 やっちゃったぜ☆

 あと自分がやりたいことをやったせいで内容がうっすうすのガッバガバです。いや本当にごめんなさい(´・ω・`)


21.走れ明石(明石視点)

 明石は激怒した。必ず、かの邪智暴虐のメガネを除かなければならぬと決意した。明石には執務がわからぬ。明石は、横須賀の工作艦である。装備を改修し、艦娘を修理して暮して来た。けれども予算に対しては、人一倍に敏感であった。おととい未明明石は追加予算申請を提出するため、開発の時間を削り慣れない提案書を作成し、苦労して完成した書類を提出した。そうして今日一〇〇〇に返ってきた書類の表紙に押された判子の文字は、

 

『却下』

 

 明石は激怒した。

 

 

 

「どういうことですかぁ!」

 

 普段は工廠に籠りきりの明石が執務室を訪れたのは、それからわずか10分後のことだ。

 

「多いんですよ。申請された金額が」

 

 呆れ半分怒り半分といった様子なのは大淀。【提督】と秘書艦である陸奥は困ったような表情に苦笑を浮かべている。

 

「このくらいの額、いつも通りじゃないですか!」

「その『いつも』が多いから言ってるんです!」

 

 大本営時代からの仲である明石と大淀。建造された時からの腐れ縁であり同部屋でもある親友を、明石は親の仇を見るような目で睨んだ。

 

「だいたい最初の予算額が少なすぎるんです! いつも足りないじゃないですか!」

「他の鎮守府どころか大本営よりも多い額を用意してるんですよ? それで少ないなんてありえないでしょう!」

「他より出撃数も遠征数も段違いじゃないですか!」

「被害状況はかなり少ないはずですが?」

 

 ここで明石が言葉に詰まった。元より弁が立つ人種ではない。口喧嘩すれば勝つのはいつも大淀である。

 

「そもそも前年度の内訳。『維持費』の項目が異様に多いですね? いったい何をそんなに維持してるんですか?」

「そ、それは……最新鋭の設備とか……」

「維持費や使用資材量が少なく済むから導入したはずですが」

「うぬ…………」

「そういえば、今年のバレンタインデー前後には『惚れ薬』なんて銘打った嘘か真か分からない液体が鎮守府内に流通していましたね。結局、首謀者は分からないままでしたが」

「!!??」

 

 マズい。明石は恐怖した。あれは完全な悪ふざけだったのだ。いや、ちょっとは「【提督】が私だけ見てくれればいいのにー!」なんて妄想をしたりはあったが。

 スクープを探していたパパラッチ『青葉』に乗せられて作成した惚れ薬は、結局ただの精を蓄える栄養ドリンクになってしまった。購入した顧客からの評価は最悪、さらに大淀や長門による犯人捜しも行われ一時は死を覚悟したほどだ。売買はすべて顔や声を介さない間接的な取引だったため、難を逃れることができた。

 

できたと思っていたのだ。助かったと思っていたのだ。

 目の前に仁王立ちしている親友は、明石の隙を少したりとも見逃さぬようにジッと静かに見つめている。眉間に刻まれたシワはここ数日でますます深くなっている。

 

「2ヶ月前のことか。他国か深海棲艦の工作員によるものかという悪い噂もあったが……」

「やっぱり、明石が犯人なのね?」

 

 【提督】は苦笑を崩さず、陸奥はゴミを見るような目で明石を見る。

 

「…………しょ、証拠はあるんですか?」

 

 言動が推理ドラマによくいる犯人のそれである。全身から冷や汗が噴き出て、目はひっきりなしにキョロキョロと動き回る。下手に言い逃れをすれば自らの首を絞めるだけ。何とかこの場から脱出しなければ。しかしどうやって? よりにもよって今日の秘書艦は第二艦隊旗艦、ビッグセブンにしてこの横須賀鎮守府最強の一角である戦艦『陸奥』だ。万に一つも逃げ場はない。

 

「今まで何度も言っていますが、明石の申請している予算額は通常ではありえないほど多いんです。こちらがお願いしている工廠の改修・修理をこなしてくれていれば口うるさくは言ってきませんでしたが」

「え?」

「え?」

「え?」

「な、なんですか!?」

 

 あれで口うるさくないつもりだったのか。唖然とした顔の3人に顔を赤くしながら「とにかくっ!」と仕切り直す。

 

「酒保の品ぞろえも一任していましたし、ある程度自由は与えてきたつもりです。しかし、それが鎮守府に悪影響を与えるのであれば、看過することはできません」

「うぐっ」

「明石、正直に言ってください」

 

 万事休す。大淀からの最終通告が告げられる。明石はガックリ肩を落とし、いままでの自分がしてきた悪事を洗いざらい吐き、裁きを受けようと決心を――

 

 

「明石は、深海棲艦のスパイではありませんよね……?」

 

 

 何を言ってるんだこのメガネは。

 

「はぇ?」

 

 うっかり口から出たのは間抜けな声。見れば大淀だけではなく【提督】と陸奥も深刻そうな顔をして自分の様子を伺っている。いや、陸奥に至ってはいつのまにか艤装を出現させていつでも主砲を発射できるようにしている。

 ハタ、と気付く。最近、日本近海で深海棲艦が出没している件。工廠に籠りっきりだった明石だが、深海棲艦が海軍内にスパイを送り込んでいるのではないか、という噂話は聞いていた。あまりにこちらの哨戒場所や巡回時間の隙を縫っているものだから、情報が筒抜けになっているのではないかという懸念があったのも噂話が広まる要因だろう。

 

(もしかして私がスパイだと思われてる……!?)

 

 あまりにも悪ふざけしすぎて、スパイ疑惑を持たれていることに明石は驚愕した。そんな馬鹿な話があるか。私がどれだけ鎮守府に貢献してきたと思っている。ちょっとおふざけしたのは悪いと思うが、そんなに不信感を持たれるようなことはしていな――

 

・ 工廠の追加予算を横領し、個人的な研究費用に充てた

・ 酒保の収支報告を偽り、個人的な研究費用に充てた

・ 青葉と共謀して鎮守府の士気低下に関わりかねない騒動を起こした

・ こうしたことを、過去2年間繰り返してきた

 

 してたわ。めっちゃしてました。ごめんなさい完全に自業自得です。

 

「ち、違いますよ! 私は断じてみんなを裏切るような真似はしていません!」

「本当ですか……? 明石を、信じてもいいんですね?」

 

 必死に否定しようとして、ふと思った。

 

(あれ? これはチャンスなのでは?)

 

 そう。すべてをうやむやにする絶好の機会。明石がやっていたのは単なる資金横領だが【提督】たちは最悪の事態――明石が深海棲艦の手の者である可能性を危惧している。ということは【提督】たちの想定よりも軽い罪であれば、看過される可能性がある。そこに目を付けたのだ。

怪しい行動をすれば1発アウト、見逃し三振。しかし逆転満塁ホームランも狙えるこの状況。過去の行いを水に流せるのなら、やるしかない!

 

「大淀……私を信じて」

「明石……」

 

 震える大淀の手を自分の両手で包み込む。

 

「これまで、大本営でもずっと一緒にやってきたじゃないですか。私が裏切ると、本当にそう思う?」

「い、いえ。思っていません。でも明石のやってることを考えると……」

「たしかに、悪ふざけとはいえやりすぎたかもしれない。でも、それはみんなの笑顔が見たかっただけなの」

 

 嘘である。この女、自分の開発欲と面白いことを見たいという欲だけで本能のままに生きている。

 

「明石……あなた、鎮守府のことをそこまで考えていたんですね」

「私は大淀みたいに頭良くないから、失敗ばかりだけど。それでも、みんなのことを少しは考えてるのよ。だから…………信じて?」

「っ! ごめんなさい明石! あなたを疑ってしまって!」

 

 チョロいもんだぜ。明石は内心でほくそ笑んだ。大淀は仲間を、友人を疑わないのだ。性分が素直で真面目。敵に対しては情け容赦ない作戦をためらいなく実行する反面、仲間想いな彼女だからこそ横須賀鎮守府の面々から信頼されているのだ。頭では「裏切り者がいるかもしれない」と考えているものの、心の奥底では「そんなはずない。仲間を信じたい!」という想いがある。それを旧知の仲である明石は分かっているのだ。

 

 もっとも、友人の苦悩を分かっているくせにそれを自分の保身のためだけに使う明石の性根は大淀と対称的に腐りきっているのだが。

 最終的に【提督】と陸奥も納得。明石の嫌疑はこれで晴れた。万々歳である。

 

「あ、そうだ明石。予算水増しの件については反省文と報告書を書いて月曜日までに提出してくださいね」

 

 明石は恐怖した。

 




 気付けばFPSゲームばかりしてるGWでした。自堕落!!

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