かつての上司とはいくらか積もる話もあるけれど、とりあえず横須賀鎮守府の提督を待たせるわけにはいかない。早く挨拶して仕事の具体的な指示をもらいたい。こういうのは第一印象が大事なんだって元帥も言ってた。
大淀さんに促されてさっそく横須賀鎮守府の庁舎へ足を踏み入れようとすると――
『敵が来たぞー!』
『ソコニヤツガイルゾ』
『ヤツガミエル』
『ヤツラガキタゾ』
『ヤツラガウゴイテイルゾ』
完全武装した妖精さんたちが立ち塞がった。
いやなんで?
『ここを守り抜くんや!』
隊長らしき妖精さんが周囲の妖精さんたちに活を入れている。どうやらボクをこの鎮守府に入れたくないらしい。
ボクなんか粗相をしましたかね。
「あ、あの。これはいったい……?」
冷静沈着で知られる大淀さんが珍しく焦っている。妖精さんたちをなだめようと手を向けるが、妖精さんたちは大淀さんを完全無視。大淀さんかわいそう。ちょっと涙目だし。
先端に剣がついたボルトアクション銃を構える妖精さんたちがにじり寄ってくる。うん、怖い。すごく怖いです。数十の銃口を突き付けられる体験なんか人生で初めてですよ、ボク。
あまりの圧力にビビッて後ずさりする。たぶんボクの顔めっちゃ引きつってると思う。
と、今度はボクの背負っていたリュックサックから数十の小さな影が飛び出してきた。
『敵襲! 敵襲でーす!』
『俺は攻撃を行う!』
『ステンバーイ…ステンバーイ…』
いやなんで君たちがここにいるのよ、大本営の妖精さん。
「えぇ!? 今度はそっちからもですか!?」
ごめんなさい大淀さん。でもボクが連れてきたんじゃないんです。いつの間にかリュックの中に忍び込んでいたっぽいんです。
横須賀鎮守府の妖精さんたちと同じように、こっちの大本営の妖精さんたちも完全武装している。甲冑に身を包んで手に持つ武器は日本刀・長槍・薙刀……戦国時代かな?
『行くぞぉ!』
『突撃ー!』
『バンザーイ!』
戦国妖精さんたちが、飛び出した勢いそのままに横須賀鎮守府の妖精さんたちに突っ込んでいった。
『バーン』
『グワーッ』
『バーン』
『ギャーッ』
『バーン』
『むねんー』
『バーン』
『やーらーれーたー』
うん、知ってた。
そりゃあ剣が銃に勝てるわけないよね。なんなら人数も向こうの方が多かったしね。片っ端から銃弾の雨に晒されるその様子は、中学校の時に覚えた長篠の戦いを思い出したよ。
アレかなー。昨日なんとなく点けたテレビで大河ドラマやってたから、それに影響されちゃったのかな。
『ひっ捕らえろー!』
隊長らしき妖精さんの指示で、地面に倒れている大本営の妖精さんたちが片っ端から捕縛されていく。
『なにをするー』
『やめろー』
『三食おやつ付きを要求するー』
なんか1人、捕虜になるのを受け入れてるのがいるんですけど。
「あぁ、なんてこと……」
ほら見てみなよ大淀さんを。あまりにも急すぎる展開に白目剥いて泡吹いちゃってるよ。女性がしていい表情じゃないよ。長い黒髪振り乱してガックガック身体が痙攣してるの下手なホラー映画より怖いよ。
『さあおとなしく投降するんだ』
『仲間がどうなってもいいのか』
『『『そうだそうだー』』』
いやそうだそうだーって、キミたち捕虜になってる側じゃん。勇み足で戦い挑んで無様に負けたのに、なんでそんな偉そうなの?
『あっこれは侮辱です』
『とうてい許される行為ではないと思う』
『わたしたちも蒼汰と戦うのです』
『よし、同胞が増えたぞ!』
あっさり裏切りやがったコイツら。武士の誇りを微塵も持ち合わせていやしない。
『おまえみたいなチェリーボーイはお呼びじゃないのです』
『わたしたちがいるからおまえは必要ないのです』
『ばかー』
『あほー』
『クマー』
――金平糖ありますよ?
『『『どうぞこちらへ!!』』』
キミたち手のひらクルックルだね。
すごく短いのです。