妖精さんが見えるだけなのに   作:語部創太

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 仕事が遅い
 私の執筆速度も遅い
 理由は、ゲームばかりやってるから


6.原因(大淀視点)

――誰が決めたんですか?

 

 春日くんは私の目をまっすぐ見ながら問いかけてきました。

 

――パソコンの類を使わないって、誰が決めたんですか?

 

「それは【提督】が……」

 

 言いかけて、ふと思い出しました。執務は【提督】がこの横須賀鎮守府に所属する前、先代や先々代の提督たちも取り組んでいます。2年前に【提督】の教育係として一緒に着任した私は、大本営でやっていた通りの手順で仕事を進めようとしていました。パソコンなど執務に必要な機械類も整えようと思っていたのです。

 しかし当時、深海棲艦のかつてないほどの大規模侵攻に窮地に立たされていた我が国に、海軍に、最前線で戦う横須賀鎮守府に、書類仕事のために割く経費などありませんでした。執務室にあったのは紙とペンのみ。金銭的にも戦況的にも余裕がない状況では、あるものだけで仕事をするしかなかったのです。

 

「……いえ。以前からの慣習と【提督】が着任された当初に予算が足りなかったことから、そのままズルズルと」

 

 類まれな才能を持つ【提督】は若い身でその地位まで辿り着きましたが、それ以前の提督たちは海軍でも高い地位に上り詰めた初老から老年くらいまでお年を召した方たちでした。パソコンなどの機械類に順応するよりも昔馴染みのスタイルで仕事を続けていたといいます。全国各地の鎮守府や国の中央から送られてくる膨大な資料を素早く処理するためにIT化を推し進めた大本営と違って、書類の量もそれほど多くなかったために、昔馴染みのやり方でも問題はなかったのでしょう。

 しかし、解放された海域が増えるにしたがって書類の量も昔とは段違いに増えました。昔と同じやり方では支障が出るということは考えれば分かることです。

 

――今も、予算は足りていないんですか?

 

 十分すぎるほどに足りています。海域を取り戻したことで漁業が再開され、ユーラシア大陸との航路も回復。経済は確実に回復してきています。当然、国家の収入源である税収も増えて海軍に割り振られる予算も増えました。特に戦果のほとんどを上げている横須賀鎮守府は予算面でかなり優遇されており、今年の予算はとても使いきれないだろうという量が確保されています。パソコンや大本営と通信するためのインターネット回線整備に回すだけの予算は確実に出すことができるでしょう。

 そのことを春日くんに伝えると、彼はホッとしたような顔をしました。

 

――パソコンがあれば、ボクもだいぶ仕事がしやすくなります

 

「はい。ただ【提督】にご相談して許可を得なければなりません」

 

 【提督】が許可しなければ予算は決して使うことができません。春日くんや私の一存で決めることはできないのです。

 ただそれは春日くんも大本営で働いていた経験から当然分かっているので、不満を言うようなことはありませんでした。

 その後、春日くんに着替えてもらうことにして、私は1回部屋の外へ出ることにしました。

 

 それにしても。春日くんに言われるまでパソコンの存在をすっかり忘れていたことに恥ずかしくなってきます。

 私は大本営で働いていた経験や【提督】の教育係として転属した経緯もあって、客観的な視点から判断やアドバイスができるだろうと、自分で言うのもなんですが周囲から信頼と一目を置かれています。日替わり当番制の秘書艦よりもずっと【提督】に近い立場にいる私は、他の艦娘とは違った視点で鎮守府の現状を考えることができている、と自負していました。

 

 しかし結果として、パソコン導入という簡単なことにすら思い至らなかったことに不甲斐なさを感じました。それどころか自分の後輩に気付かされるとはなんと情けない。「先輩としていいところを見せる」なんて上から目線もいいところでした。気張っていた自分が恥ずかしい。

 春日くんは2年前と同じではないのです。元帥閣下からも【提督】からも信頼を置かれる逸材に成長してこの横須賀鎮守府に配属されたのです。具体的な仕事内容は異なれど、提督の執務を補佐するという役目は私と同じなのです。後輩だからではなく、同僚として対等な立場で接しなければなりません。

 いわばそう。春日くんは『ライバル』なのです。【提督】の傍にいて助言を求められる立場に今日まであぐらをかいていましたが、春日くんにそのポジションを奪われる可能性も十分にあり得るのです。

 

負けられません。負けるわけにはいきません。【提督】の1番傍にいられるポジションを譲るわけにはいきません。ましてや自分の後輩に奪われるなんて、艦娘として仕事に邁進してきた私のプライドが許しません。

 

――お待たせしました

 

 扉を開けて出てきた春日くんは、新品同様の真っ白な軍服に身を包んでいました。

 

「では行きましょうか。【提督】もお待ちです」

 

仕事仲間として。そして【提督】の傍にいるライバルとして。春日くんに対抗心を燃やしながら。

 私は春日くんの前に立って執務室への案内を再開しました。




 大淀さんって、顔や態度には出さないけどプライドめっちゃ高そうだよね
 で、それを明石さんや夕張さんみたいに仲の良い人だけは知ってるって設定にしたいです

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