余談ですが「ありがとうございます」と打つために「あ」で予測変換したら「アダマンタイト」になりました。なんでや。
『キャー』
『生着替えよー』
『そうたさんのえっちー』
やかましい。なんで大淀さんと一緒に外に出なかったのキミたち。
『クマンクマン♡』
いやそんなイヤンイヤンみたいに言われても。両手で顔を覆ってても指の間からこっち見てるのバレバレだからね?
そんな逞しくもないごく普通の少年の肉体を見て何が楽しいのかね。
――どう? 変じゃない?
『『『ごちそうさまです!!』』』
なにが?
とりあえず、海軍特有の真っ白な軍服姿は妖精さんたちに好評なようだ。1回大本営でサイズが合っているかの確認で袖を通しただけだから見苦しくないか不安だったけど、その心配はなさそう。
妖精さんたちは良くも悪くも純粋で子どもみたいに遠慮なく意見を言ってくれるから、こういう時はすごく助かる。
『ふふん、もっと褒めるのです!』
『ご褒美を要求するのです!』
『甘いの次はしょっぱいが良いのです!』
――はいはい。いつもありがとうね
リュックの中からお煎餅の袋を取り出すと、歓声が上がった。金平糖のビンと一緒に煎餅の袋も担がれていく。大本営も横須賀鎮守府も関係なく妖精さんたちが仲良しそうで何より。
未だに1人でクマクマ言いながら身体をくねらせている妖精さん――通称「クマ子さん」を頭の上に乗せる。ボクが初めて見えるようになった妖精さんで、大本営で働く少し前からの付き合いになる。
『どうぞー』
『助かるクマー』
ちょっとクマ子さんや。渡されたお煎餅を食べたいのは分かるけど、人の頭の上にボロボロ食べかすをこぼすのはやめてね?
――お待たせしました
「では行きましょうか。【提督】もお待ちです」
扉を開けて外にいた大淀さんに声をかける。そして横須賀鎮守府の提督がいらっしゃる執務室へ向かう。
とはいっても、第二会議室から執務室まではそこまで遠くなかった。通り過ぎたのは手洗い所や第一会議室、提督室くらい。廊下をまっすぐ行けばそこに執務室があった。
他の部屋とは違って両開きの重厚な作りをした扉の前には、左目に眼帯を着けた女性が立っていた。腰には鞘、頭の両脇には固定電話の子機に似た形状の何かが浮いている。
「天龍さん」
「おっ来たか。入室前に簡単な身体検査をさせてもらうぜ」
大淀さんが呼ぶには【天龍】さんと言うらしい。たしか巡洋艦の艦娘だったか。書類上で何度か名前を見たことはあるけど、書類には顔写真が添付されているわけではないので実際の姿を目にするのはこれが初めてだ。
「身体検査って……彼はそんな怪しい身の者ではありませんよ?」
「オレだってこんなダルい事やりたくねえけどよ……」
大淀さんが不機嫌そうに天龍さんに詰め寄る。天龍さんもどこか面倒くさそうな雰囲気を出している。
『蒼汰はぜんぜん信頼されていないのです』
『ざまあみやがれ』
『私たちを見捨てた罰が当たったのです』
『ばーかばーか』
いつまで言ってるのよ。先に寝返ったのはキミたちでしょうに。あと横須賀鎮守府の妖精さんたち、シンプルな暴言はやめて。普通に傷付くから。餌付け作戦は失敗だったみたいだ。
――構いませんよ。どうぞ
何やら揉めている2人に声をかけて、両手を上げる。
『『『バンザーイ!』』』
キミたちは上げなくていいから。身体検査されるのはボクだけだから。
2人はキョトンとした顔をしている。なんですか、従ったのに駄目なんですか。妖精さんたちとバンザイしてる格好をジッと見られるのは恥ずかしいので、早くボディーチェックしてくださいよ。まるでボクが馬鹿みたいじゃないですか。
いや、馬鹿だったわ。妖精さんが見えるのに提督になる才能がない、ついでに学歴もない落ちこぼれでした。
「お、おう。じゃあ失礼するぜ」
そう言って遠慮がちに触れてくる天龍さん。随分おっかなびっくり触ってくるもんだから、くすぐったくて仕方ない。
「こ、これが【提督】以外の男……」
おい、小声だけど聞こえたぞ。なに顔を真っ赤にしてるんですか。意識するとボクも恥ずかしくなるからやめてくれますか。
「ずいぶん線が細いけど、ちゃんと鍛えてんのかよ」
――いえ、あんまり
鍛えてないよ。こちとら朝から夕方までずっとパソコンの前に座ってカタカタ指を動かしてるだけの事務職員ですよ。
「軍人ならちゃんと鍛えとけよ。豚みたいに太ったら見苦しいぞ」
――肝に銘じておきます
先週見た健康番組のおかげで、年齢を重ねるにつれて基礎代謝や活動代謝が低下するのは覚えた。食生活を見直すのもそうだけど、若い頃から身体を鍛える習慣をつけておくのも大事だと思う。親切なアドバイスに感謝する。
ボディーチェックは無事に終わったらしく「入っていいぜ」と許可をもらったのでお礼を言う。それを見た大淀さんが執務室のドアをノックする。かなり力強くノックしているのは、ドアが分厚いからだろう。
「入れ」
中から聞こえた声を受けて、大淀さんがドアを押し開いた。
『敵が来たぞー!』
ま た お 前 ら か
感想をくれると私が喜びます。2つもらいました。小躍りと腹太鼓しました。親に見られて鼻で笑われました。
クソ……クソ……!(´;ω;`)