女主人公版の東方モノがやりたかったんです。
許してください。
「ねぇねぇ!!」
「はい?」
「あの噂!!知ってる?」
…噂というのは人から人へ移り行く。本物かは知らない、誰もわからない。それが真実か、はたまた、虚言か。
その噂はなんの信憑性もない、よくある噂。とある館に幽霊が出るという噂だ。人里では、その噂で持ちきりだった。その噂の全貌はこうだ。人里を少し進んだ森の中。妖怪どもも寄り付かない、古民家があると言う。そこでは、真っ赤な目をした百合のような少女がいる。背丈は村人が言うには、博麗の巫女様ほどの大きさらしい。しかし、その娘はあっただけでは何もなく、ただ無言で無表情で此方を見てきただけだとか…。
「ね?怖くなーい?」
「えぇ…。胡散臭いですよ…。」
妖怪の山の烏天狗の一人、射命丸文は胡散臭いながらもその情報にスクープを求めていた。カメラを片手に人里で情報を得る。勿論、胡散臭いと思っている為、新聞には載せることは考えていない。
「…ここですか。」
「まさか、ここが少女の霊が出るっていう…。」
博麗の巫女、霊夢を連れて、文は例の森の中の古民家にやってきた。長年、住む人も居ないはずなのに、かなり手入れされている。瓦の剥げた部分も無く、柱や壁である木も腐っていない。幽霊屋敷…というよりは、普通に人が住んでいるのではないかと思えるほど、とても綺麗で立派な一軒家だった。
「中も…綺麗ね。」
「そういえば、魔理沙さんは来なかったんですか?」
「先に行くって言ったっきり戻ってこないわね。多分、中のどっかにはいるんじゃ…。噂をすれば、ね。まーりーさー!!」
恐らく、玄関であろう引き戸の前に、黒魔女帽子の少女が立っていた。名を呼ばれた霧雨魔理沙は後ろを向き、霊夢、ならびに隣の文を見てから、ニッと歯を見せて笑った。
「おっ。来たのか。ここが例の屋敷だぜ。…思ったより、綺麗…だよな?」
「何よ、魔理沙。ビビってるの?」
顔に笑みを浮かべ、煽る霊夢を魔理沙はむすっと拗ねた様子で見る。冗談冗談と笑いながら言う霊夢に純粋な魔理沙はなら良いとまた引き戸の方を向いた。その様子を文は無言で見ている。風が森の木々を揺らし、木々は音を立てる。その影が屋敷を隠すが、隠し切れないほど綺麗な屋敷は異彩を払っていた。霊夢の一声で、3人は幽霊屋敷、『鬼崎邸』へと足を進めた。
「中も…綺麗ですね。まるで誰か住んでるみたい…。」
「そうね。例の幽霊少女が、本当は幽霊じゃなくて、人間だって可能性も考えられるわ。まだ、噂だけで幽霊だって確定しないことね。」
そうは言うが3人とも屋敷内にとても強い霊力を感じた。3人は靴を脱ぎ、廊下を歩き、部屋を一つ一つ見て回った。リビングやトイレ、風呂場や台所など、人が住むには十分なものが揃えられており、水道も通っている。更には、台所に食材がとても多く揃えられており、不思議なことに風呂場には湯が入れられ、湯気が立ち上っていた。
「やけに生活感ありますね。」
「そうね。どうやら、噂は本当みたい。」
文は一つ一つに部屋を丁寧に写真を撮っていく。記事にはしない予定だったが、少しずつ文の新聞記者魂を燃やしていく室内に、1スクープとして考え始めたのだ。魔理沙は盗めそうなものを探して、霊夢はもし誰もいないのならと、食材を貰っていくことも考えていた。
とはいえ、その食材にも不思議な点がある。…どれも、まさに今さっき取り入れたばかりのように新鮮なのだ。腐敗臭もしなければ、埃の匂いもしない。文の言う生活感はそこから来ているのかもしれない。
「さて、後は…。」
魔理沙はトイレ横の引き戸に手をかけ、戸を開ける。そこには木でできた二階への階段があった。勿論、ついさっきまで掃除をしていたと言わんばかりにピカピカだった。
「…なんで、アンタはこれを知ってたの?」
霊夢は魔理沙に聞いた。その声に魔理沙はまたニコッと笑った。笑うばかりでなにも言わない。そして、魔理沙は何かに引き付けられるように階段を登って行った。文と霊夢は魔理沙が見えなくなるまで呆然としていた。
「…魔理沙、どうしちゃったのよ…。」
「まさか、ここの少女が呼んでいるんじゃ…。ほら、魔理沙さん、私たちと別行動でしたし…。取り憑かれた…なんてことは…。」
霊夢はゴクリと生唾を飲んだ。そして、意を決して、その階段を登って行った。二階には二つの部屋があり、右の障子が開いている。ここに魔理沙は入って行ったようだ。その部屋に二人は足を進めると、魔理沙が床に正座して、座っている。その向こうには腰まで伸びる長い黒髪の少女が茶を立てていた。
「…誰。」
「…とりあえず、座って…。お客様には、お茶を出さないと…。」
少女は此方を向かない。ずっとお茶を立てているが、その凛とした声は明らかに霊夢と文に言っている。霊夢と文は魔理沙を挟むように座布団に正座をした。その際に霊夢は魔理沙の方を見たが、いつもの魔理沙だった。
「…どうぞ。」
少女は霊夢達にお茶を立て、出した。なんの変哲もない抹茶だった。霊夢達はそのお茶を一口飲んだ。
「…美味しい。」
霊夢は驚き、声を上げる。しかし、少女は無表情で肌と同じくらい白い着物に身を包み、座布団の上にちょこんと正座をしている。霊夢や魔理沙と同じ年ぐらいの少女。百合のようなと言われるほどの大和撫子だ。長い艶やかな黒髪は手入れがよくされていて、特徴的な赤い目は3人をしっかりと見定めている。
「…貴方は一体?」
霊夢は本題に入る。文と魔理沙はお茶を飲みつつも、霊夢と少女の話に耳を傾けていた。少女はふっと息を吐くと、また、美しい無表情な顔で此方を見た。
「…鬼崎楓華。それ以外はわからない。」
「わからない…?死んだ時のこともか?」
少女は静かに頷いた。3人はびっくりしたような顔でお互いを見た。
「…楓華さん。貴方は魔理沙さんに何かしましたか?」
「…何か…?」
楓華は小首を傾げた。その首や腕は簡単に折れてしまいそうなほど、細く、まるで小動物のようだったが、霊夢達は警戒を怠らなかった。もし、この子が幻想郷に危害を与えるのであれば…と。
「…私はまるでなんかに呼ばれるようにここに来たんだ。気がついたら、ここに座って、座布団に座っていた。」
「…あぁ。金色の魔女さんはここに呼んだ。お客様にはお茶を出さないといけなかったから…。ダメだった?」
少女の潤んだ目が霊夢達の良心に響いた。どう返すものかと二人は考えたが、当の本人は、またあの笑顔を見せた。
「ダメじゃないさ。こんな美味い茶を貰ったんだ。逆に得したぜ。」
「まぁ、そこにいる魔女さんはこの家のもの、盗もうとしていたけどね。」
「れーいーむ!!」
霊夢は魔理沙を、魔理沙は霊夢をジト目で見た。子どものような言い争いに先程まで一切表情を変えなかった楓華は、口元を手で隠し、柔らかな笑顔を見せた。その様子を文が逃すはずもなく、パシャリとシャッター音が鳴った。そのフラッシュに楓華はキャッと驚き、半泣きで3人を見た。霊夢と魔理沙は文を睨みつけ、しっかりと説教した。
「す、すみません!!…あまりにも美しかったもので…。」
「ご、ごめんね?だから、泣かないで?ね?」
「…それなら良い。」
少女は涙を引っ込め、その様子に3人は安堵した。
「…やっぱり、お前は幽霊なのか…。しっかし、死んだときの様子を覚えてないって…。」
魔理沙は柄にもなく、顎に手を当て考え始めた。それに釣られて、霊夢と文も楓華のことについて、考え始めた。果たして…彼女はここで死んだのか?ならば、遺体は何処にある?
…考えれば考えるほど、お茶を冷ますだけだった。
「…何も…覚えてない。お父さんのことも、お母さんのことも…。ここで3人で暮らしてたってことくらい…。痛かった…。それだけは覚えてる。」
「…そりゃ、痛いでしょうね。可哀想に…。」
全員が少女に同情した。本来であれば、他人に同情することは禁句であるが、霊夢は巫女であり、そのような沢山のモノと触れ合ってきた。…博麗の巫女が情で動く、珍しいケースだった。楓華は、優しく畳の目をなぞった。
「…お前は思い出したいか?それとも、このまま楽になりたいか?」
「魔理沙っ!!」
霊夢は怒ったが魔理沙の目は真剣そのものだった。和室内に緊張が走る。楓華も小首を傾げ、ポカンとした表情で二人を見た。文は内心、どうなるかとヒヤヒヤしていた。その次に口を開いたのは、魔理沙ではなく、冷静になった霊夢だった。
「…この幻想郷は何者であろうと受け入れる。貴方がもし、復讐とか考えてるのであれば、自分でしたら良い。成仏したいなら冥界へ連れて行ってあげる。…紫に頼めば、なんとかなるはずよ。」
「…ヤダ…。成仏…したくない。」
…少女は今にも泣きそうだった。
それはそうだ。魔理沙や霊夢のような場合が可笑しいのだ。自分が死んで、挙げ句の果てに成仏という形で生まれ変わる。言い換えれば、今の自分という存在が消える。その現実に楓華は耐えられなかった。
「…なら、どうしたい?」
そのときの霊夢の声は自分でも驚くほど穏やかだった。霊夢の柔和な笑みにつられて、魔理沙も文もにっこりと笑みを浮かべる。涙目だった少女は下にうつむきながら、消え入るような声で言った。
「…友達が…欲しい。いっぱい遊びたい…。」
「なぁに言ってんだ!!」
「えっ?」
魔理沙の元気な声に少女はさらに赤くなった目で3人を見た。立ち上がり、笑顔になった3人を見るには必然的に上目遣いになる。
「もう、友達だろ?」
「ええ。これからよろしくね?楓華。」
「私も尽力しますから、今後ともよろしくです!!」
…楓華は耐えられなかった。
3人の暖かさに、涙が込み上がってきた。楓華は名前は知らない。でも、新しい仲間が、友ができた。
「あらあら…。泣き虫なんだから…。私は博麗霊夢。よろしくね。」
「私は霧雨魔理沙だ!!」
「文々。新聞の記者、射命丸文と言います!!」
霊夢に抱きしめられ、少女は涙を浮かべながら笑った。先程までの楓華にしては、感情的にウンウンと折れそうな細い首を振った。
新しい三人の友達と一緒に居られる日を心待ちにして、その日は全員で夜まで騒ぎ、鬼崎邸で4人で眠った。風が強く、まだ冬の夜だったが、楓華は寒くはなかったのだった。
楓華メモ①
実は幽霊として怖がられたり、逃げられるのが嫌で、よく泣いていた。
では次回!!
ではでは〜。