Aqoursとして活動始めて彼此一カ月、いろんなことがあった。
チラシ配りはもちろんの事、ポスター設置の許可を取りに行くのに東へ西へ駆けずり回り、スクールアイドルの知識を取り入れるために他のスクールアイドルを調べまわったり、ダンスの振り付けなども素人ながら意見を出したりと、やる事は山積みであった。
「無面くんこの照明運んでもらえる?」
「何処に運べばいいんだ?」
「このメモに書いてあるからその通りに設置して欲しい。」
「分かった。」
そんな中三人娘の頑張りに感化されたのか、高海の友達の
「無面くーんそこの機材取って~。」
「これかな?」
「そうそうそれ!サンキュー。」
この申し出には正直助かった。音響や照明なんてどうすればいいかなんて分からなかったし、舞台設定だって素人だ。なんなら一人で出来るような数ではなかったので協力してもらっている。
「無面くんスポドリ買ってきたから千歌達に渡してきてもらっていい?」
「ああ分かった。」
「それじゃあ私これから沼津に行ってチラシ配ってくるねえ!」
「あ、じゃあ俺も…」
「何言ってるの!無面くんは千歌達の傍にいてあげて。色々やる事あるでしょ。」
「え、いや別に…」
「じゃあ行ってくるね。千歌達によろしく言っといて!」
「………。」
何よりこの三人すごく優秀で気が利く。そのおかげで俺の仕事は激減。もうこの三人居れば俺要らないレベル。
「さて、あいつらの所に行きますか。」
そんな濃密な一カ月も理事長の出した条件を乗り越えるために必要な努力。そのために三人娘もそれを応援したい奴らも奮闘している。
そして今日はその本番に向けてのリハーサルであり、ライブの前日である。
「無面さん、ちょっとよろしいですか?」
「はい?」
三人娘がいるであろう体育館に向かっている最中に後ろから声を掛けられる。振り返るとそこには絶賛会いたくないランキング第二位の生徒会長である。因みに第一位は言うまでもなく理事長である。
「どうしたんですか生徒会長?」
「ひとまず生徒会室に来てもらいたいのですが、今時間よろしいですか?」
「…はい、大丈夫ですよ。」
ええ、マジかよ…俺なんかしたかな…説教か?説教なのか?
「では行きましょう。」
そう言って俺の前を規則正しいリズムで歩いていく生徒会長に俺も遅れないようについて行く。お互いの間に会話は無く、普通に気まずい。何か話したほうがいいのだろうか?今日はいいお天気ですねぇとか…駄目だ会話が続くとは到底思えない…
「どこに行きますの?生徒会室は此処ですわよ。」
「…え?あ、すいません。少し上の空でした。」
「しっかりしてください。本番は明日なのでしょう。」
「あ、はい…」
怒られてしまった…
「ほらそんなところで立っていないで早く中にお入りなさいな。」
「は、はい。」
生徒会室に通され、促されるままにパイプ椅子に腰かける。生徒会長は少しお待ちをと言った後、生徒会長がいつも作業しているだろう場所から紙とペンを持って戻ってきた。
「無面さんにはこれを書いて貰いたいのです。」
「えっと、これは?」
「体育館の使用届ですわ。」
「使用届、ですか?」
「はい、本当は彼女達に書いてほしいのですが忙しそうだったので貴方にお願いしました。」
「は、はあ…」
それはつまり俺が暇そうに見えたってことですかね?まあその通りなんですけどね…よし!さっさとこれ書いてここから出て仕事しよう。もう誰にも俺を暇とは言わ、せ……ない…?
「あの…生徒会長?」
「何ですの?」
「何故隣に座るのでしょう?」
あろうことかこの生徒会長、俺の隣にわざわざ椅子を持ってきて座ったのだ!え?マジで何で?
「何故って、貴方この書類の書き方分かりますの?」
「…ああ、いえ分かりません。」
「でしたら教えて差し上げますから、早く終わらせてしまいましょう。」
「は、はい…」
うん、まあ理屈は分かるのだが…それにしたって近くないか?チラッと横目で見ればすぐそばに生徒会長の横顔と透き通った長い黒髪が…うん、集中しよう。
「ここの団体名は何て書けばいいですか?」
「貴方達はまだ部として承認されていないので、『浦の星学園二年生一同』と書いた後に関係者の人数を書いて貰えれば大丈夫ですわ。」
「…グループ名は書かなくていいんですか?」
「それは書かなくて大丈夫です。次に使用目的ですが…」
…これ俺の勘違いじゃなければだけど、もしかして生徒会長って結構面倒見がいいのか?俺の中で生徒会長っていつもガミガミとお小言を飛ばしているイメージが強いんだよなぁ…
「…それからここは、って聞いてますの?」
「…あ、はい聞いてます。」
「本当に聞いてましたの?」
そう言ってジト目でこちらを伺う生徒会長。やめてくれぇ…その目は俺に効く!
「はあ…そんな調子で大丈夫ですの?」
「ああいや、大丈夫ですよ。少しボウッとしてただけなので…」
「そうではなくてライブの方ですわ。」
「え?」
何でここでライブの話になるんだ?もしかして三人娘が気になってんのかな?でも何で…おっとそれよりも早く答えないと。ライブかぁ、うーん…
「…分かんないです。」
「はあ?」
何言ってんだコイツみたいな顔でこちらを見てくる生徒会長。でもこればっかりは分からないと答えるしかない。俺は占い師でも超能力者でもないのだ。確かに思いつく限りの事はやったし、三人娘も周りから手伝いたいと思われるほどに頑張ってはきたが絶対成功するなんて保障はどこにもない。それに…
「俺には何も出来ませんから。」
これに尽きる。俺はステージには立てないし、万が一立てたとしても何も出来ない事には変わらない。俺がいくら頑張ったとしても結果に結びつくかなんて分からない。だから結果も分からない。分かんないことだらけだ。というか何で俺がこんなネガティブになってるんだ?。こんなの俺の柄じゃn…
「貴方がそんなことでどうするのですか!」
「ウェア!」
「貴方はここまで何をしてきたのですか!」
「…は、はいすいません?」
何で生徒会長が怒ってんの?カルシウム不足かな?
「彼女達と共に頑張ってきたのでしょう?そんな弱気でどうしますの!」
「いやでも、ステージに立つのはあいつらですし…」
「黙らっしゃい!」
「えぇ…」
急にキレだした生徒会長に困惑するしかない俺。もう何なのこの人…
「貴方はさっき、自分には何も出来ないと言いましたわね?」
「…だったら何だって言うんですか?」
「私はそれを否定します。」
「………」
生徒会長が言っていることが分からない。俺にまだ出来ることがあるというのか…駄目だ思いつかない。やれることはもうやっただろ。これ以上俺に何をしろっていうんだ…
「…どうやら分からないようですわね。」
「……はい。」
「はぁ…」
おでこに手を当て溜息を付く生徒会長。何か無駄に様になっていて何か腹立つな…
「いいですこと?よく聞きなさい。貴方のやるべきことは…」
「…やるべきことは?」
「ズバリ!信じることですわ!」
「…は?」
今この人なんて言った?信じる?何を?誰を?何言ってんだこの人は?
こんがらがった頭で生徒会長の言葉を理解しようとするが答えにたどり着けない。只々彼女の言葉がグルグルと頭の中で駆け回る。
「無面さんは確かにステージには立ちません。ですが彼女達を信じて送り出し、見守ることは出来るはずです。」
「信じる…あいつらを……」
生徒会長の言葉をゆっくり噛み砕くようにして呟く。それは徐々に頭に浸透していき、駆け回る問いに答えとして自分の心にストンっと入ってきた。
「俺に、出来るでしょうか?」
「…一番近くで見てきた貴方にしか見えないものが必ずある筈ですわ。」
そう言って優しく微笑む生徒会長。その顔は今迄怒ってばかりでしかめっ面であった彼女とは別人なのではないかと思うほどに優しいものであり、思わずあっけにとられてしまった。
「…何ですのその失礼なことを考えていそうな顔は?」
「え?あ、いやその…」
おっと、いつもの顔に戻ってしまった。何か答えないと…やっぱり生徒会長のおかげで自分のすべきことが理解できたのだからここは一つお礼でも言っておこう。
「あの生徒会長。」
「何ですの、言いたいことがあるならはっきり…」
「ありがとうございます。」
「………」
「おかげでこれからやるべきことが分かった気がします…まだそれが正しいかは分からないですが。」
「…貴方は分からないことだらけですわね。」
「そんな俺も生徒会長に励ましてもらえたので少しは分かったことも増えましたよ。」
「…別に私は貴方を励ましたつもりはないですわ。これも生徒会長としての職務ですもの。」
「そんなことより、ここに貴方の名前を書けば終わりですわ。」
「あ、はい…これでいいですか?」
「ええ、確かにお預かりしまうわ。」
「では、自分はこれで失礼します。」
「はい、忙しい時に呼び止めてしまい申し訳ありません。」
書類を書き終えて、出口まで生徒会長の言葉を背に歩き出す。ふと言い忘れたことを思い出し再び生徒会長の方へ身体を向ける。
「生徒会長。」
「はい、何でしょう?」
「ライブ是非見に来てください。」
「…考えておきますわ。」
「はい、失礼しました。」
今度こそ生徒会室から退出する。我ながららしくない事を言ってしまった。正直恥ずかしい…
「取り敢えずあいつ等のところに行くか…」
「ああ!いた!ようやく見つけたよ!」
「あぁ?」
声のした方を見れば、渡辺がこっちに向かって走ってくる。おいおい生徒会室の前であんまり騒ぐなよ、生徒会長にどやされるだろ…
「もう!ずっと探してたんだよ!何してたの?」
「ああ…あれだ、生徒会長にに言われて体育館の使用届書いてたんだよ」
私怒ってますといった感じでプリプリ怒っている渡辺に説明する。もちろん先程のやり取りは伏せておく。
「生徒会長と?何か言われなかった?」
それを聞いた途端、さっきまでの怒った表情は鳴りを潜め、心配するように下から俺の顔を覗き込む渡辺
「…いや特に何も。使用届の書き方を懇切丁寧に教えてもらってただけ。」
「ふ~ん、まあ何もないならいいけど…」
渡辺の問いに対して、少し間を開けて答える。どうやら渡辺も俺の答えに納得してくれたようだ…してくれたよね?
「よし!じゃあ冷夜君も見つかった事だし体育館に…全速前進ッヨーソロー!」
「元気だな…」
その言葉を合図に走り出す渡辺。俺は走る気は無いので歩いて向かう。最近体力がついてきたとは言え、メンドクサイしな…
「ほらほら、早く来ないと置いてっちゃうよ!」
「先行ってていいぞ~俺は松田さんに渡された差し入れを丁重に運ばなきゃいけないからな。」
「もう!そんなこと言って走るのがメンドクサイだけでしょ!」
一カ月もすればあいつ等も俺の性格を把握してきたようで、最近俺の思考が読まれがちになっている気がする。それだけ俺は三人娘と一緒に過ごしてるということか…
「………」
「どうしたの?立ち止まったりして?早く行k…」
「なあ渡辺。」
なら俺も少しは踏み出しても良いのだろうか?前に進んでも良いのだろうか?
「何かな冷夜君?」
「…俺さ、応援してるから。」
「………」
俺らしくない事は理解している。でも今はこの感情に身を任せたい。そして…
「だから…一緒に頑張ろう。」
「…急にどうしたの冷夜君?」
「…別に、ただ言いたくなっただけだよ。」
「…そっか、それじゃあその言葉は千歌ちゃんと梨子ちゃんにも言ってあげて。きっと喜ぶから!」
「…ああ、そうだな。」
普段の俺なら考えもしない、ましてや行動に移すなんて事は絶対にしない。俺の性格を知ってる渡辺が目を見開いて驚いていたのだから間違いない。あの二人も渡辺と同じ顔をするだろう。
そしてきっと今の渡辺と同じように微笑んでくれるのだろう。
それがこの一ヶ月、三人娘と関わってきて導き出した答えなのだから。
「そうと決まれば善は急げだよ!」
「え?あ、ちょっと…ッ!」
「ほら早く行くよ!」
「分かった!分かったから引っ張るな!」
この後二人にも同じセリフを言ったことにより、彼の中で新たな黒歴史が生まれることになろうとは、この時の彼はまだ知らない。
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回クラスメイトの名字はそれぞれの声優さんから取りました。
名前も漢字一つにして統一感を持たせてみました。
というかダイヤさんの口調ってこんな感じだったか少し不安…
それから少しですが曜ちゃんとの絡みを入れました。
これからも絡ませていきたいですねぇ〜
次回も頑張って書いていくので是非読んでください!