水底から覗くもの
《依頼主》
海辺の基地の指揮官
《依頼内容》
最近、海の方に大きな魚影が見えることがあるんだ。コーラップスで巨大化した魚かとも思ったけど、どうやら違うらしい。なんとかしてもらえないだろうか?
「よっと……この辺りでいいかな」
「水棲生物なら、ここまで上がってくることもないでしょうから」
今日も今日とてアウトローな仕事をこなす私とANー94は、大陸を大きく縦断して旧イタリア付近にやってきた。雲一つない晴天に、どこまでも青い海………ただし、その青さはまるで絵具のようにのっぺりとした青さで、すでに生物が棲めないほど汚染された色だけど。
「ねぇAK-12、本当に大丈夫なの?」
「心配しすぎよANー94、だって今回は魚なんだから」
正直、この依頼の話をされたときの私たちはきっと顔色真っ青になっていたと思う。思い出すのは以前に受けた未確認生物の捕獲任務、あんな悪夢のような光景など、もう見たくもない。
けど話を聞いてみれば、今回の相手は海の中……つまり、陸に上げてしまえばこっちのもの。
「そのための装備も用意してもらったのよ。 ほら、これ」
「………外骨格?」
一際大きい荷物を開封して、中に入っているものを取り出す。それは私たち人形が使うことを前提とした土木用のパワードスーツ、それを使い捨てる代わりにパワーを桁違いに上げたカスタム品。
そしてもう一つは、組み上げれば私たちの身の丈を遥かに超える一本の棒。
「………ねぇAK-12」
「なにかしら?」
「もしかしなくても…………これ、釣竿?」
「えぇそうよ」
げんなりとするANー94の気持ちも、まぁわかる。私だってまさかパワードスーツを使ってまで釣り上げるとは思ってもみなかったから。でも実際、海に入れない以上はそうする他にないのも事実。
餌が何かわからないから、とりあえず用意してもらった数種類の合成肉を大きな針糸に引っ掛ける。
「さ、文句を言っても仕方ないわ。 さっさと釣り上げて帰りましょ」
渋るANー94を引き連れて、私は化け物が棲まう浜辺へと足を運んだ。
「………………」
「……………AK-12、アレ魚に見える?」
「ヒレがあって泳いでいれば魚だと思うわよ………あんなにデカくなければね」
浜辺までやってきた私とANー94は、やや沖合に見える大きな影に言葉を失いかけた。水面から出ているのは背びれと尾びれだと思う。周りに比較するものがないからわかりにくいけど、あのサイズはヒレだけでも私たちの背を超えているのは間違いない。
つまり、水面下の本体はさらに巨大だということだ。
「……考えていても仕方ないわね。 やるわよ、ANー94」
「……了解」
スーツの出力を上げ、特大の釣竿を構える。二人がかりで軽々と振りかぶり、目配せして頷く。
「「せぇ〜の……そりゃぁ!!!」」
フルスイングで釣り糸と餌が飛んでいき、狙い通り化け物魚の近くに落ちた。あとはヤツが食いついてくれるかどうか……
グインッ‼︎
「!? AK-12、かかったよ!」
「くそっ、なんて力……一気に引き上げるわよ!」
意外なほどに呆気なく食いついてくれた。でも流石は化け物というべきか、引きがめちゃくちゃに強い。釣りの基本は焦らないことだけど、これは先にパワードスーツが持たなくなりそうね。
だからその前に、フルパワーで釣り上げる。
「こんのぉ……」
「いけるわ、このまま……」
「「そりゃああああああ!!!!!」」
瞬間、水面が爆ぜた。そう思うほど巨大な水柱が立ち、その中かありえないほど巨大な魚が姿を現した。
細長い体躯は全身筋肉の塊であろうことは見てわかり、巨大な口には鋭い牙が並んでいる。そこそこ硬めに作られた合成肉もあっさりと引きちぎられ、噛まれたらきっとそのままスクラップだろうと察するには十分だ。
その巨大魚は、突然陸にあげられたせいでビッタンビッタンと跳ねている。そのたびに地面が揺れるほどの重量だ。
「で、デカイわね……」
「外骨格も壊れちゃった。 これ、魚なのかな?」
「突然変異、っていうにはあまりにも不自然よね」
まぁ気になることは山ほどあるが、とりあえずこいつをさっさと黙らせよう。陸にあげられた時点できっともう長くないだろうけど、いつまでも跳ね回られると鬱陶しいからね。
とりあえず用意していた麻酔銃を取り出して、弾を込め始める。慣れない銃だから慎重にやらないと………ちょっとANー94、今忙しいから後にして。
「え、AK-12! アレ、アレっ!!!」
「アレってなによアレっ…………て」
『グルルルルルル……………』
あれぇ、見間違いかな?さっきまで跳ね回るだけだった魚が何故か
『キシャァアアアアアアアアア!!!!!!』
「うわぁああ!!! こっち来たああああ!!!」
「ちょっ、危なっ!!!」
突然走り出した魚(この時点ですでにおかしい)は猛烈な勢いで突っ込んできた。慌ててその場を離れたけど、そのせいであいつに麻酔銃を踏み潰されてしまった。
ていうかなんで立ってるのよ!?腹のヒレだと思ってたそれはちゃんとした足で、しかも横ビレもなんだか翼みたいに見える。というか、なんで陸上で普通に動けるのよ!えら呼吸じゃないの!?
「AK-12!」
「ちっ……予定変更よANー94、ここで始末するわ!」
これを調べたい学者やら研究者には申し訳ないけど、殺処分確定よ。
「ANー94、側面に回り込んで!」
「了解!……こっちだ化け物!」
ANー94が頭に銃を撃ちながら回り込む。一応効いてはいるようだけど、魚類特有の鱗のせいで傷がつかない。前の任務のヤツはまだ柔らかかったのに。
でも、これで無防備な後ろを取れる。あのデカ魚がANー94に顔を向けたところで後ろから撃tフゲッ⁉︎
「AK-12!?」
「だ、大丈夫よ……」
うっかりしていた。顔があっちに向くってことは、尻尾がこっちにくるってことじゃない。しかも結構な勢いで振られたから思いっきりぶつかったわ……うえっ、魚臭っ!
「AK-12! 前、前!!!」
「へ?」
吹き飛ばされて距離があると思っていたけど、どうしたのだろうか……と顔を向けてみると、ヤツがまるで砂浜を泳ぐように滑ってきた。しかもかなりのスピードで。
「あ、やば…………フゴッ!?」
「え、AK-12ぃいいいいいい!!!!!」
幸い食われることはなかったけど、奴の鼻先が思いっきり鳩尾に入った。そのまままるでボールのように吹き飛ばされ………真っ白な砂浜が目前に迫る。
油断ダメ、ゼッタイ。そう心に誓った私は、砂浜に頭から突っ込むと同時に意識を失った。
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報酬が減りました
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「ヤバイヤバイヤバイヤバイ…………」
『グルルルルルル』
気絶したAK-12がハッキング済みのダイナゲートたちに運ばれていく。とりあえずキャンプまで運ばれれば大丈夫だろうけど、今はその心配をしている場合じゃない。
あっという間にAK-12をのしてしまった怪物が、こっちににじり寄ってきた。
「ど、どうすれば……」
そう呟いてみるが、考えるまでもなくキャンプまで撤退するのが一番だ。でも、背中を見せたら後ろから突っ込んできそうで、とてもじゃないけど無理。
(ここは攻撃は最小限にして動き回ったほうが……見たところ、横ならまだ安全そうだし)
アレを魚(なのかは不明だけど)とすると、正面は確実に危険だ。そして後ろも、さっきのAK-12みたいなことになるから避けたい。逆に横なら、特に攻撃手段もなさそうだからなんとかなる。普通の魚だって、横にひっつかれたらどうしようもないはずだ!
『ゴァアアアアアアアア!!!!』
「来た………今っ!」
こっちに突っ込んできたタイミングで、さっと横に避ける。思った通り、体を向けて噛みつこうとするけど横に直接攻撃する手段はない。あの足も、あくまで歩いたり泳いだりするためだけみたいだ。
(このまま機を伺って、隙を見て離脱すれば……)
頭と尻尾に気をつけながら、自分と化け物、そしてキャンプまでの道の位置関係を見極める。もう一回頭を誘導すれば、その隙になんとか抜けられるはず。
そう思っていたけど、何か様子がおかしい。さっきまで噛みつこうとしていたのに、それが突然なくなった。
(?どうしたんだろ……このまま待つ?それとも一気に駆け抜ける?)
相変わらずこっちには見向きもせず、グッと姿勢を低くするような動作をする化け物。
そんなヤツの頭だけを見ていた私は、手痛い一撃に気がつかなかった。
ゴッ!
「ヘブゥ⁉︎」
いきなり壁が迫ってきた。そんな表現が浮かぶほど、それは強烈だった。まさか、横っ腹をぶつけてくるなんて……
「カハッ……まずい、すぐに立たないと……」
『キシャァアアアアアアア!!!』
「あ…………」
ノイズが走り朦朧とする意識の中で最後に見たのは、まるで弾丸のように突っ込んでくるソイツの頭だった。
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報酬が減りました
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水竜ガノトトス、それがこのモンスターの名称だそうだ。多大な被害とともに映像を送りつけ、ペルシカのもとに保管されているというモンスター全書なるものとの称号で判明した。
区分は魚竜種、その名の通りアレは魚の特徴を得た竜、つまり爬虫類であるらしいわ。あの胸ビレも脚も、かつて竜だった頃の名残かしら?
それはともかく、私たちは今すぐ撤退させろと上司……アンジェに申し入れたのだけれど。
『撤退は許可できないわ』
「なんでよ!? また前みたいにボロボロになるまで頑張れってこと!?」
「AK-12、落ち着いて」
これが落ち着いていられるものですか!そもそももう眠らせることも倒すこともできないのに何をどうしろっていうのよ!
『体組織……例えば鱗とかを持ち帰ってきてくれるだけでもいいわ、手ぶらでなければ撤退してもいいわよ』
「うぅ………わかったわ。その代わり、次似たような仕事が来たら、アンジェも一緒に来なさい!いいわね!?」
『わかったわかった、じゃあ健闘を祈るわ』
ピー
そう言って一方的に切っていった。けど、これで言質はとったわよ!
「はぁ……仕方ないか」
「ど、どうするのAK-12」
「まぁあれだけ暴れたら鱗のひとつくらい落ちてるでしょ。それを拾って帰るわよ」
鱗を見つけて、拾って帰る、それだけ。それさえできれば帰れるというのを希望に、私たちは再び浜辺へとやってきた。
ついでに、たいした苦労もせずに鱗を見つけることもできた。見つけることはできたけど…………
「あそこかぁ……」
「どうしよう」
よりにもよって、あの水竜の足元とは……あれさえ拾えれば帰れるのに。
幸いなことに、あっちはまだこっちに気付いてない。何かで気を引いて、その間にとってくれば問題無い。
「ANー94、グレネード」
「どうする気?」
「あっちのほうに投げて、あいつの気を引くの。その間に走って取りに行くわ」
私の作戦に同意してくれたANー94は頷くと、ピンを抜いてあいつの後ろ側に投げる。そして時間差で炸裂すると、爆音と大量の砂を巻き上げた。
突然のことにパニックになったのか、ガノトトスは文字通り飛び上がって暴れ始め、近くにあった岩に頭をぶつけて倒れ込んだ。
「今よっ!」
「っ!」
私は一目散に走り、綺麗な瑠璃色の鱗を掴むと元来た道を戻る。チラッと水竜の方を見ると、すでに起き上がってこっちを向いていた。
しかも……
(あれ?なんか怒ってない?)
「AK-12、急いで!」
ヤツが追いかけてくる前に、なんとかANー94の元に走る。後ろから追いかけてくる気配はないけど、油断は禁物だ。
そして後少しで、というところでANー94が慌てて何かのジェシチャーをしてきた。
(何?後ろ?)
全力で走りながら後ろを振り返る。相変わらずその場から動いていないようだが、何故かその場で大きく首をもたげて………
振り下ろすと同時に水流を吐き出した。水鉄砲とかみたいな可愛げのあるものでもなんでもない、言うなれば高圧洗浄機みたいな水のレーザーだった。
「ちょっ、ふぎゃっ!?」
「ぬわぁああああああ!!!!!」
後ろから思いっきり押し出され、待ち構えていたANー94にぶち当たり、そのまま二人仲良く飛ばされた。
次こそ、必ずアンジェを連れてきてやる……そう固く誓って、私たちは力尽きたのだった。
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クエストに失敗しました
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「AK-12、ANー94、いる?」
「……なによアンジェ」
「もう、機嫌直してよAK-12」
「はいはい……で?何か用?」
あからさまに不機嫌です、と言った表情のAK-12がアンジェリアを睨む。きっとまたろくでもない任務を持ってきたと思っているのでしょうけど、アンジェリアが出したのは二枚の紙だった。
「まず、あの鱗が驚くべきほど強靭で軽量なものであるという研究結果」
「まぁ、それは戦った私たちがよくわかってるわ」
「そしてこっちが、富裕層に向けてオークションに出品した結果………見る?」
研究の方は興味ないけど、オークションの方はちょっとだけ…………え?
「あ、アンジェ……これ、本当?」
「えぇ、そうよ」
「「………………」」
「あの化け物たちが、宝の山に見えてこない?」
アンジェリアの目が怪しい光を放っている。これは拙い、と思ってAK-12の方に向くと……
「アンジェ、その手の依頼があったらすぐに持ってきてちょうだい」
「AK-12!?」
「ふふふ、もちろんよ」
そう遠くないうちに、もっと面倒な任務がやってくる。そんな気がするのでした。
終
亜空間タックルだけは許さない、絶対にだ。
そしてうちのAK-12さんにチョロ属性がつきました。手に入れた素材はオークションか、某金の亡者な広報幕僚さんに高く売れます。
ガノトトスは狩猟モンスターとしては最近見なくなったのでちょっとだけ解説。
・魚竜種のモンスターで、海や湖を泳ぐ。
・攻撃は水ブレスやタックルなど。ワールドやアイスボーンの魚竜種と違い、陸上では泳ぐ動作はない。
・音爆弾で水中から引きずり出せる・・・が、怒る。