一つ言うなら……どうしてこうなった?
私は感情を表に出すのが苦手だった。
嬉しいときも悲しいときもあまり表に――――感情に出ることはなかった。
「今日から皆さんと一緒に暮らす倉掛クララちゃんです」
「……お願いします」
あまり喋るのも得意じゃないし、好きじゃない。
だから両親からも静かで無愛想な私を気味悪く扱っていた。
そんな両親が私を捨てたということに対して、私は特に何も思わなかった。普通の子供なら泣きじゃくるかもしれないけど一切泣かなかった。心の中でも淋しいとか思わなかった。だって、両親に対して、何の感情も抱けていなかったからだ。
何日か経っても私は皆となじめないでいた。最低限の会話は出来る。でもそれ以上に会話が広がらないのだ。向こうも……というより、ここにいる子たちは全員が全員、両親に捨てられたか両親をなくしてしまった子たち。私のようにではないが、そのショックやらで静かになる子や塞ぎ込む子は珍しくない。唯一違うのは、そういう子たちは段々と明るさを取り戻して本来の性格とかになるが私に関して言えばこれが素。だから、変わりようがないのだ。
「…………はぁ」
でも、私だって皆と遊びたくないわけじゃない。別にここにいるのが嫌ってわけじゃない。ただなじめない。馴染む方法を私は知らない。
「ねぇねぇ」
だから私は大抵一人でいる。一人でブランコに乗りながら皆が遊ぶのを見ている。
そんな時、一人の男の子が話しかけてきた。
「……なに?」
最近……というかお父様はサッカーが好きらしい。サッカーボールをいくつか私たちに使えるよう与えてくれた。だから、皆ボールを蹴って遊んでいる。
「何で一緒に遊ばないの?」
その子はすごく不思議そうな眼を向けてくる。
「……私と遊んでもつまらないよ」
本当は遊びたい。でも、きっとつまらなくなって私を捨てる。そうに決まっている。だから私は――
「そんなことないよ!」
――否定したかった。でも、不思議と彼の瞳を見ると彼なら受け入れてくれるかもしれないと思った。根拠はない。根拠はないけど……
「……いいの?」
「もちろん!」
彼なら大丈夫。少なくとも両親とは違い私を受け入れてくれると思った。
夜桜剣人。それが彼の名前だった。
彼は両親を亡くした側の子どもだった。しかも、両親が目の前で死んだらしい。その事を聞いたのは仲良く……というより、一緒に遊び始めてから少し経ってから知った。
彼に比べると私はまだ可愛い方だ。一応両親は存在している。でも、彼の場合はこの世からいない。
「……どうして私に声をかけたの?」
一度だけそんな質問をしたことがある。
「似ていたからかな」
彼は頬をかきながらそう答えた。
「……誰と?」
「僕と」
彼もここに来たときは独りでずっと閉じこもっていたらしい。彼の場合は仕方ないだろう。でも、それを皆が助けてくれたそうだ。皆がサッカーを一緒にやろうと誘ってくれたおかげで変われたそうだ。
それを言うなら私もだ。ここにいる皆は私を受け入れてくれた。こんな私でも受け入れてくれた。受け入れてくれると知っていたから剣人は声をかけてくれた。
彼は優しい人だ。でも、それは皆にも優しい。だから少しだけ私は――
「……ねぇ剣人くん」
「なに?」
「……ずっと一緒にいてくれる?」
――私は彼に自分だけを見てほしかった。可愛く言うならちょっとしたワガママ。醜く言うなら独占欲。
彼は私を救ってくれた王子様のような存在。だから、私と一緒にいてほしかった。他の人たちと過ごす時間より長く過ごしたかった。
「もちろん!」
彼は笑顔で応えてくれた。その時の私は満足していた。だって、こんな私を知っても離れず、ずっといてくれた存在は初めてだったから。
「……指切りしよ?」
「いいよ」
私と彼の小指が結ばれほどける。私はそんな幸せな時間がずっと続くと思っていた。
でも、どんな時間にも終わりがある。そう知ってしまうのだった。
「……どうしたの?」
ある年の3月。もうすぐ私たちが小学校に上がるそんな時期。ここにいる皆は同じ小学校に入学するから離れ離れにならない。帰る場所もここだから、学校という場所にワクワクさを覚え始めたそんな時。
彼は一人、建物の陰で泣いていた。
さっきお父様に呼ばれて、それからここに向かって走るのがたまたま見えた。
「……何かあったの?」
私は彼の泣く姿を見るのは初めてだった。泣いている彼は一言、
「なんでもないよ」
精一杯の笑顔でそう応えてくれた。
心配させまいと笑顔を作ってくれた。でも、私からしたらただ辛いのをごまかそうとしているようにしか見えなかった。
「大丈夫だよ」
「……そうなの?」
「うん!さぁ遊ぼうよ!今日は何する?」
私はもう一歩踏み込むことが出来なかった。直感的に踏み込んではいけないと思ったからだ。
その日から彼は皆と一層仲良く遊んでいた。何でもなかったんだと私は思った。……そんなわけないのに。
そして私が彼の涙の訳を知るのはそう遠くなかった。
4月。それは小学校入学式の前日だった。
「……先生」
「なにかな?」
私は違和感を感じていた。
剣人がいないのだ。
朝から探しているがどこにもいない。
「剣人くんは?」
「…………」
先生は笑顔のまま固まってしまった。きっとどういう風に言おうか悩んでいるのだろう。
「剣人くんはね。もうここにはいないの」
そして目線を合わせて言ってくれた一言。私はそれを――
「……え?」
――受け入れられなかった。受け入れたくなかった。
「あの子はね。親戚の人が引き取るって言ってもうここにはいないの」
でも、その言葉を、現実を受け入れざるを得ない。
「うぅ……」
「クララちゃん……よしよし。悲しいよね。いきなりお別れだなんて」
「うわぁぁぁああああああん」
初めて大声を上げて泣いた。その現実を前にして泣くことしか出来なかった。
後に知ったが彼はその話の途中に飛び出したそうだ。
あの時泣いていたのは私たちとのお別れが来ることを知っていたから。
それから一ヶ月間、彼は悔いが残らないよう目一杯遊んでいた。
そして、私たちに何も言うことなく煙のように消えてしまったのだ。
「……はぁ」
昼休み。外を眺めながら一人食事を取る。
教室では雷門中サッカー部の中で誰が格好いいかという話で持ち切り。名前が挙がるのは風丸さんとか一ノ瀬さん、後、豪炎寺さんに――
「……剣人も」
すごい人気だ。後の人たちは人によるって感じだが。
私は剣人と別れてから少しずつ変わった。
一つは私は彼が好きだということ。もちろんlikeではなくloveの方で。
そして、
「……もう一度見たいなぁ……」
剣人の泣き顔。今思い返してみると凄い……興奮する。
他の人が泣いたり心が折れた姿を見たけれど、どれも剣人に勝るものはない。どれも私を楽しませる程度だ。
でも、剣人だけは別。幼い頃の彼であの破壊力だったんだ。きっと、成長した爽やかな彼が泣きじゃくる姿なんて……あぁ。想像しただけでもうヤバい。心が折られ失意の目で見られたら私は幸せすぎて死んでしまうのではないか?そんな風にさえ思わせる。
「……ふふっ」
早く会いたいな。会って沢山話して、たくさん屈辱的そうな顔を私だけに見せてほしいな。
そんな彼女の――少なくとも純粋に会いたいという――願いが叶うのは少し先の話である。
あれ?これ、サディストよりヤンデレじゃね?