雷門中がバルセロナ・オーブに負けてから日本の中学サッカーは大きく動き始めた。
オレたち雷門の選手が大きく関わるのは強化委員制度ぐらいだろうか。
日本の中学サッカー全体のレベルアップという名目で行われるもので、オレたちはそれに賛同した。
既に一ノ瀬さんと土門さんがアメリカに飛び立ち武者修行。ただし、今後日本に帰ってくるかは未定だそうだ。……それっていいのか?まぁ、もう飛び立った後だしいっか。
後は夏未さんが世界の選手たちの情報を集めるために旅立った。
この強化委員制度は選手だけでなくマネージャーたちや響木監督も影響しているらしい。まぁ、音無さんは鬼道さんに着いていくだろうし、木野さんも円堂さん辺りに着いていくからマネージャーだけ派遣ということはなさそうだ。
「本日、君たちを呼んだのは他でもない」
とは言え今は誰も派遣先を決めていない。正確には派遣先となる候補の中学校をまだ知らされていないから決定できないというべきか。
「現段階でこれだけの数の申請書が集まってきた」
見せられるのは机の上に置かれた紙の束。……うわぁ……。しかも一つじゃない……わぁ。
「理事長……これ全部が候補ですか?」
「いかにも。君たちにはこの中から自分の行く学校を決めてもらう。ただ、安心したまえ。今日一日で決めろというのも酷な話だ。猶予は一ヶ月。書類だけで足りないなら試合とかの資料を取り寄せたり実際に視察に行くことも可能だ」
猶予は一ヶ月……短いのか長いのか。ただ、こんだけ候補があったらそりゃあ長めにとらないとな。しかも、こっちは一時転校という形で向こうの学校に編入するんだ。簡単には決められないよな。
「理事長。この山は?」
よく見るといくつかの山に分かれているが……円堂さん宛?
「うむ。こちらでざっと目を通して、コメント欄に君たちの誰かを指名するようなものがあればそれを分けてある」
本当だ。豪炎寺さんや鬼道さんの山とかもある。
「やっぱり円堂さんや鬼道さん、豪炎寺さんは人気ですね……」
「何言ってるんだ夜桜。お前も充分多いだろ」
「そうでヤンスよ。ぱっと見た感じ4番目に多いでヤンス」
「さすがッス!」
「ちょっと待ってください!」
とここで目金さんが声をあげた。
「何で僕の山はこんなに少ないんですか!?」
「いや、お前。大した活躍してないだろ」
「そうだそうだ」
「寧ろこんなに来ているだけいいじゃないか!」
「何で目金さんですら山があるのに俺のはないんですか!?」
「……俺もない」
全員が全員専用の山があるわけじゃない。当然と言えば当然だが……不思議だ。本当に何で目金さんには山が――と言っても10枚行くか行かないかくらいだが――あるのだろう?あの、予選でのオタク集団はともかく他は……何で?
「って、よく見たら目金のところ、『パソコンの使い方を教えてください』とか『アニメについて語りましょう』とか、サッカーで書かれているわけじゃないじゃん」
「何のためのサッカー強化委員ですか!?」
本当だよ。ああ、そういう系で来ているのか。
「なんだ。あの目金さんの所に来ているのはそういうことか」
「確かに適任だよね」
「うらやましく思って損した」
つまり、サッカーの実力で見ているわけじゃないと。
「で、この二つの山が、コメント無記入のところと指名なしのところだ」
何となく指名なしのコメントも読んでみたい気がする。
「じゃあ、適当に見ていってくれたまえ」
『へーい』
というわけで山がある人たちはその山の、その他は最後に言われた二つの山を探っている。
「何か……つまらないですね」
パラパラと見ているけどどこも似たり寄ったりのことを書かれて、何かこう……ビビッと来るものがない。
「ん?豪炎寺。お前はもう決めたのか?」
よく見ると、豪炎寺さんの手が進んでいない。
「ああ。木戸川清修に行こうと思っている。他の奴に指名がなかったらだけどな」
「そっか。木戸川清修に戻るのか……」
「じゃあ、鬼道さんは帝国学園ですか?」
「いいや。俺は帝国に戻るつもりはない。他のところに行くつもりだ」
「へぇ。なんで?」
「今の帝国に俺が戻ってもそこまで価値を見出せない。だから別のところに行くつもりだ」
なるほど……行く意味かぁ。
そんなことを考えながらも紙をパラパラと見ていく。うん。ダメだ。何にも惹かれるものがない。そっか、よく考えたら一緒のチームでプレーするわけだから、弱いところを補強しようと皆考えるか。
キーパーがいないとこは円堂さんを、司令塔がいないとこは鬼道さんを、ストライカーがいないとこは豪炎寺さんをって、感じで向こうも考えて指名しているんだよな……つまり、この束にはそういう打算的なものが多いか。
「そりゃあ、惹かれるものがないよな」
とは言え、どこを選ぼうか……はぁ。まぁ、やっぱりあそこしかないな。でもあそこは前聞いたときサッカー部設立していないって話だったし……。
「キャプテンたち!何かよく分からないコメントを見つけたでヤンス!」
「よく分からない?」
「はい、えーっと
『〇月×日20時より、お日さま園将来の夢朗読会を行います。
(Y・Kさんの幼い頃の夢が明らかに?)』
このY・Kって誰のことですかね?」
……待て。今凄い気になるワードが出なかったか?
「〇月×日って明日じゃないか」
いやそこじゃない。そこもだけどそこじゃない。
「少林寺。それ見せてくれないか?」
「はい。どうぞです」
学校名……永世学園。お日さま園……サッカー部のメンバーの名前……。
「…………」
「夜桜?」
あいつらかよぉぉぉおおおおおおおおおおおっっ!!!!
「ど、どうした?頭を抱えて……」
マズい。このY・Kって言うのはオレだ。
「大丈夫か?」
――オレが何を書いたのか一切思い出せない点だ。
そう、思い出せるならまだいい。問題は、オレがそれに何を書いていたかが思い出せないこと。そもそも書いた記憶がないって時点でアウトに近いが……朗読会!?人の黒歴史暴露大会の間違いじゃねぇのか!?
「……円堂さん」
「お、おう。なんだ?」
「……オレ、永世学園に行きます」
「それはいいぞ。皆もいいよな?」
頷いてくれる一同。ああ、よかった。
「そして凄い急ですが、明日にはここに行きます。ワガママ言ってるのは重々承知です。ですがすみません。行かなくちゃいけないんです」
「お、おう……目が死んでいるけど……大丈夫か?」
「はい……」
ああ……どうしよう。
「何故だろう……誰かの術中にはまっている気がする」
一体誰が首謀者か……逝けば分かるか。
この後、がむしゃらにボールを蹴っていた事を記す。
一方その頃、
「ふふっ。明日が楽しみです。きっと明日には来てくれるはずです。今日まで焦らすなんて……」
「あーそのクララ。凄く言いにくいんだが……」
「何ですか?キャプテン」
「サッカー強化委員。来るとしても二ヶ月後らしいよ」
「…………え?」
「さっき瞳子姉さんが言っていた……ひぃっ」
「……フフフッ。私の完璧な作戦が……フフフッ」
作戦が成功しているのを知るのは次の日だったりする。
なおこの日、呪詛を唱え続けるタツヤとついでにリュウジを見ることになるのは別のお話。