荒れた森に再び、相見える剣士が二人。
西方第一位にして剣聖、ミーア・アムルスタント。
南方第一位にして彼女唯一の弟子、アレン・アレンスター。
「今度こそ、決着を付けよう」
「ああ、昨日食らったおあずけは今夜食らいつくしてやろう」
「負けたときの保険じゃないけど、夜犯されかけたせいでちょっと寝れなかったんだからな!」
昨夜アレンは別の意味で襲われていた。そんな夜の場外乱闘はさておき。
「じゃあ、始めよう」
コインを高く弾く。太陽は中天を頂き、金貨は最も眩しく輝いた。
そして、偽りの太陽は沈む。
「――ウイング・レイピア」
刹那を置き去りにアレンの剣が閃く。
「――ッ!?」
一瞬遅れれば即致命傷になる一撃。しかしミーアはその脅威的な反射速度で攻撃を翻す。
「ふ……やるじゃないか、意趣返しという訳かい?」
「ただ師匠の教えを出しきりたいだけだッ!」
鍔迫り合いながら、同時に舌剣を交わす。
「嬉しいことを言ってくれるじゃないか……! 脱力して戦えなくなるから止めてくれないかな!」
「いいややめない! 俺は師匠のお陰で強くなれたんだ! だから!」
アレンの姿が消える。
「――ッ!」
刹那を置き去りに翻る。背へと振り下ろされる一撃を、ミーアは違わずに打ち返した。
「バックスタブ……ボクの技ばかり……」
「だから、俺は師匠から教わった技を全部使って師匠を越える」
「あはは、そうかい。それは愉快だね。いいよ、ボクもキミに教えた技しか使わずに封殺してみせよう!」
*
それは、かつての追憶。
「……そんなものかい? アレン」
「ぐっ……まだまだ!」
ボロボロになりながらも、なおアレンは立ち上がる。
全てはリープリから解放されるため、まだ十五歳で海を渡る覚悟までした。
そして西方最強の剣士と出逢い、稽古を付けてもらっている。
こんな幸運を手に入れたからには、一秒たりとも止まれない。
「はあああッ!」
「遅い」
「ぐあッ!」
あっさりと打ち倒され、アレンは地に伏せる。
「ふむ……鍛練どうこうに関係なく率直な感想を述べたいのだけれど」
「? なんだ?」
「やりづらい。顔が良すぎて、絶対傷を付けられない」
「あ、ああ……えっと、ありがとう?」
アレンは頬をかきながら首をかしげる。
「くっ……どうしてそう純朴なんだ。こんな弟子ボクには勿体なさすぎる」
「何を言ってるんだ師匠。どう考えたって逆だろ。どこの馬の骨とも知らない俺に、西方第一位の師匠が稽古をつけてくれてるんだぞ」
「うぅむ……」
(すまない、そんなに純真ではないんだ……)
『実は下心あるんだ! いずれ手を出したいと思ってるよ!』とは言えず、ミーアは唸る。
「なあ、アレン。キミがボクに教えを乞えて嬉しいというなら光栄だ。だがボクもキミといられることに喜びを感じている」
「俺と? どうして?」
「さっき言った通りだ。顔が良いから」
「あはは、ありがとう。師匠も美人だよ。怜悧で強くて、まるで白雪姫と白馬の王子様を足して二で割らない感じだ」
「白馬の王子はキミだろうに……」
ミーアは頬を赤くしながらも、『もしかしてすけこましか?』という疑念を持つ。
そこで、ちょっと人間性の出る質問を飛ばして、彼を試すことにした。
「キミ、色んな人にイケメンだと言われてきただろう? 自分では自分の容姿をどう思っているんだい?」
「ん……特別イケメンだとは思ってないかな?」
「東方って鏡なかったりするのかい?」
「あったわ鏡くらい。ん~整ってるとは思うけど、自分だと贔屓目が入るから分かんないなってのが本音だ」
「そうか。まあその、キミがさんざん言われてきたことで、ボクのこれも有象無象のそれに分類されてしまうのだろうけれど……カッコいいよ。お近づきになれて光栄だ」
まだ出逢い立てで、ミーアは適切な距離感を保ったまま本音を伝える。
そう、まだ、この頃はマトモだったのだ。
*
高校に入って、まずクラスで行われること。
ドキドキハラハラの学級委員と委員会決めである。
学級委員長はアレン、副委員長はミーアで決まったので、あとは委員会となる。
「じゃあ美化委員になりたい人手上げて~」
既に学級委員に決まっているアレンが壇上で挙手を促す。
しかし美化委員は一人もいない感じだった。
「じゃあとりあえず俺入るよ」
とアレンが言った瞬間女の子がほぼ全員ピッシイッと天高く手を挙げる。
「え、えぇ……」
「アレン、この中からジャンケンをするのは手間だ。ボクとキミで良いんじゃないかな?」
アレンがミーアの提案に頷こうとした寸前、女生徒たちから非難の声が上がる。
「ちょっとミーアさん。副委員長だからって横暴なんじゃないの?」
「機会は平等にあるべきだと思いまーす」
「あはは……じゃあジャンケンで決めようか……」
しれっとミーアも交ざってジャンケンでもう一人の美化委員が決められる。
「勝った」
「いやスゴいな師匠」
「これがボクの運、いや、運命さ。…………すまない今のは忘れてくれ」
「言い直してまで照れるな!」
思い付きでキザっぽいセリフを言って、敗北者たちから憎悪の視線が飛ぶ。
ただでさえ東方出身で肩身の狭いアレン的には、もうちょっと穏やかに過ごしたかった。
「えっと、まあ、よろしく」
*
文化祭の日、アレンは数知れぬ女の子からのお誘いを丁重にお断りし、ミーアと共に出し物を見て回っていた。
「これ面白そうじゃないかい?」
「なになに……『魔法科VS理工科、異種武芸対決』? 確かに面白そうだな。行ってみようか」
パンフレットを二人で見ながら仲睦まじく進むアレンとミーア。
しばしば『数知れぬ女の子』たちとすれ違って怨念のこもった目を向けられつつ、アレンたちは会場に向かう。
アリーナに入ると、既に火の玉とレーザーが飛び交う派手な戦いが繰り広げられていた。
炎が舞い、光が跳ね、轟音に観客席が揺れる。
「凄いね! ボクたちまで届きそうで怖い!」
「届いてもミアだけ無傷だろ!」
爆音のせいで、大声を出さないとお互いの声が聴こえない。そんな状況も相まって、アレンは高揚しながら激戦に見入っていた。
「次は『オカルト研究会のお化け屋敷』に行こうか」
「ミアはお化けとか平気なのか?」
「ぜんぜん平気だ。というか、本物を斬ったこともある」
「流石ですね……」
屋敷(という名の大教室)に入った途端、視界がゼロになる。
「暗っ」
「こらアレン、暗所に入る前は予め片目をつぶって、暗闇でも視界を保持しなければダメだろう」
「ここでまで訓練の話やめましょうよ……」
叱られながら暗く細い道を進む。
「曲がり角に二人気配がある。飛び出してくるね」
その通りに幽霊コスの生徒が飛び出してくる。
「左の壁の向こうにも一人。多分壁から手だけ出してくるよ」
予言通り白い手が勢いよく飛び出してくる。
「奥の井戸はダミーだ。誰も入っていない。本命は天井から「いや旅行ガイドか!」
一緒にいて一番お化け屋敷が怖くないタイプの人間すぎた。
「怖いわけないじゃん! 実はミアお化け苦手で怖がったりしないかなとか期待してたのに!」
アレンの脳裏にはリープリの姿が過っていた。
彼女はめっぽうお化けの類いが苦手で、怪談やゴーストで悲鳴を上げ、泣くことが多かった。
普段は悲鳴を上げさせられているアレンの方だが、そのときだけは『守ってあげたくなるような』可愛らしさにやられ、めちゃくちゃリープリを抱き締めていた。
「……今、他の女のことを考えていただろう?」
ブオオオッと冷風が吹く。
「いや、え、どうして?」
「否定より先に反問が出るのはほぼほぼ肯定だよ、アレン」
心なしか黒いオーラを纏いながら、ミーアがアレンへと迫る。
不気味な音が響き、室温はますます凍っていく。
「え、なにこれ、演出だよな? ねえミア、これ運営側の仕掛けだよな? 怖い怖い無言で近づいてこないでああああああああああああああああッ!」
この日一番の絶叫を上げ、ついでにお化け屋敷の評判も上げながら、アレンはボロボロになって出てきた。
「次はどこへ行こうかな」
「ミア……怖い……」
「怯えないでくれたまえ。ボクはキミに優しくしたいし甘やかしたいんだ。悪いことをしたら叱るけれど、基本的には良き師匠で在りたいと思っている」
「悪い弟子でごめんなさい……許して……」
「や、やりすぎたかな?」
そんなこんなでアレンはガクブルながらも学園祭を満喫した。ちなみに時間が経って震えは収まった。
そして、後夜祭へと移る。
魔法科特性のキャンプファイヤーが空高く燃え上がる。まるで炎の滝が逆流しているように天まで伸びていた。
その様を、アレンとミーアは屋上から眺めていた。
「すまないね、ボクのワガママに付き合わせてしまって」
「全然いいけど、なんで屋上なんだ?」
人気のない屋上。グラウンドにはキャンプファイヤーを囲んで大勢の生徒が盛り上がっていた。
「大したことではないんだが、少し伝えたいことがあってね。あ、告白ではないよ」
ミーアはどこか寂しげな面持ちで話を切り出した。
「キミは優しくて人柄が良くてリーダーシップもあってそこそこ剣術と魔法も強いし何より国五、六個は傾けるくらいの美男子だ」
「え、ありがとう。嬉しいよ」
「だからこそ、キミは大勢の人に好かれている。今日もキミの隣を歩くボクに嫉妬の視線が突き刺さるのを感じていた」
「えっと、ごめん」
「キミに非はない。ともかく学校は、お化け屋敷より敵が多い。だがキミからすれば全員味方だ。キミに対して好意を抱いているのだからね。しかし、ボクからすれば敵だ」
「ミア……?」
不安そうな色に瞳が染まっている。
左半身を目映い炎に照らされながらも、かえって陰が際立っているように見えた。
「ボクには、キミしか味方がいない。捨てないでくれたまえよ」
師匠ではなくミアと呼ぶ切っ掛けとなった校舎裏でも、彼女が言った言葉。しかしいつかの五月より、幾分かその闇は濃くなっていた。
「当たり……前だ。そんな顔しないでくれよ。絶対俺はミアの味方だから」
アレンはたまらずミーアを抱き締めた。
「ああ……すまない、ボクはダメな師匠だね。たった三度しかない後夜祭なのに、こんなメンヘラと過ごした想い出にさせてしまった」
「そんなこと、冗談でも二度と言わないでくれ。俺はミアと一緒にいたいって強く思ってる」
アレンは彼女の両肩を掴み、泣きそうな顔で思いの丈を伝えた。
「始めてだったんだ……こんな風に普通の学園生活を送れるの。なんにも拘束されず、普通に文化祭を楽しめたのも」
「アレン……」
中学生のアレンに、そんな自由はなかった。言わずもがな、もっとヤンデレベルが高い『元カノ』がいたからである。
「やっぱり、どう考えても今俺幸せだよ。ありがとう、ミア」
後夜祭、揺らめく炎に照らされながら、夜の屋上で二人きり。
彼も彼女も、その特別な空間で、高揚していない訳がなかった。
「ありがとうと言うべきはボクの方だよ……本気にしていいかい?」
「俺はずっと本気だよ」
互いに早鐘を打つ。後夜祭という『特別』に煽られた恋慕は燃え、夜は更けていく。
*
「体育祭、体育委員より美化委員の方が忙しい説」
「ボクも賛成に一票投じよう……」
体育祭の喧騒のなか、木陰でアレンとミーアは座って休んでいた。
「意外と散らかるものだね。まあ、アレンのような美男子が美化委員をやっている時点でこれ以上ない美化だけれど」
「喜んでいいのか分かんないくらい聞いたことない褒め方だな……」
「ちなみに体育委員だったら強くてカッコいいアレンにぴったりなとか言っていただろうね」
「なんでもいいんじゃないか」
「顔が良ければ全て良しということだね」
「そんなことないにも程がある」
流石にアレンも苦笑いで、でもやっぱり褒められて嬉しかった。
「興味本位なんだけど、他の委員ならどう褒めてたんだ?」
「図書委員なら育ちの高貴な王子様のようで、保険委員なら優しく介抱してくれる紳士な男性といったところかな」
「褒めるの上手だな」
「具合の悪くなったところを保健室に運んでもらってそのまま夜の触診までしてくれても「しないから」
「残念だ」
凄く真剣な表情で下ネタを飛ばしてくるミーアに、食いぎみでアレンが突っ込む。
「飼育委員だったら飼われたいで食育委員だったら食べられたいとか「まだ正午ですよブレーキ踏んでください」
凄い勢いでセクハラの奔流にさらされ、流石にたしなめる。
「夜ならいいのかい?」
「そういう訳でもない!」
「ふふ……アレンはやっぱり真面目で誠実だね、風紀委員でもぴったりだよ」
「あっ上手くオチ付けられた」
「どうだい? 見事な流れだっただろう?」
「ちょっと感動すら覚えた。凄いなミア」
「ふふ、ありがとう。余談だが選挙管理委員だけは本当に一つも褒め言葉が出てこなかった」
「選挙管理委員にぴったりだねって言われて喜べる人いないと思う」
そんな雑談を交わしながら、ミーアは立ち上がる。
「そろそろ次の試合だ。ボクは行ってくるよ」
「ああ、行ってらっしゃい、ミア」
「……家以外でその言葉を聴くのは新鮮だね」
ミアは座り込んで、唐突にアレンへ抱きついた。
木陰とはいえ一応は人目があるところなので、それが周りにどう映ったかは想像に難くない。
「またね、アレン」
そしてミーアは走り去っていった。アレンは若干顔を赤らめながらも、再び幹に背を預ける。
「俺は暇なんだよなあ……」
真っ青な空が眩しい。
「ねえアレン、ちょっといい?」
呼び掛けられ、声の主を振り向く。そこには茜色の髪を後ろにまとめた美少女がいた。
「ああ、メルツか」
メルツ・フライゲスト。
一年生にしてチア部の部長で、そのリーダーシップと溌剌な性格、そして太陽のような笑顔で誰しもに好かれている女生徒である。
アレンが女子生徒人気ナンバーワンなら、メルツは男子生徒人気ナンバーワンだ。
「くっ……どうしようダメかも、声掛けたはいいけど顔が良すぎて直視できない」
「初対面のときより目合わせてくれないじゃん。初めて話したとき『ファーストネームで呼んで! あとぜひお近づきに!』ってグイグイ来たのに」
メルツは本当に顔を真横に向けたまま話している。
「あれはビギナーズラックとランナーズ・ハイだよ」
「走ってないだろ」
「顔が良すぎてテンションおかしくなって言っただけだから。後悔してないけど」
「……まだ目合わせてくれないのか?」
「眩しい、その御尊顔こっち向けないで」
「人の顔をフラッシュみたいに言うな」
「分かった、今見るから深呼吸させて。ひい、ひい、ふう~ひい、ひい、ふう~」
「なんでラマーズ法だ!?」
「イケメン過ぎて見るだけで孕「落ち着けよ男子生徒人気ナンバーワン!」
公衆の面前でとんでもないことを口走ろうとしたメルツの口をアレンが両手で塞ぐ。
「ん!?」
「あ、これはごめんな」
「いいよ……」
ちょっと乱暴な止め方をしてしまったが、それでようやくメルツは対面してくれた。
「うん、イケメン」
「何しに来たの!? 一分くらい話して『顔が良い』しか言われてないよ!?」
「ああ、そうだった。伝えたいことがあったんだ。私、この体育祭でアレンのこと応援してもいいかな?」
「ああ、もちろんだ。光栄だよ、チア部部長が応援してくれるなんて」
「いやむしろ応援させてくれてありがとうっていうか、応援してるだけで幸せになれるの。たとえそれが、絶対に報われないって分かってても」
「……ありがとう。本音を言うと優勝は諦めてたけど、メルツが応援してくれるなら頑張ろうかな」
「こっちこそありがとう……幸せ、イケメン」
「何回言うんだ」
*
「フレー! フレー! アーレーン!」
チア部が総出で応援しにきて、アレンはかなり気まずい感じで対戦者と向き合う。
「ほう……随分と誇らしいことじゃないか。愛弟子が、男子生徒人気ナンバーワンのチア部美少女から応援されるとは」
「あの、師匠」
「一応言っておくよ。かなり痛い目を見せてやるからね」
「見せる相手違くない!? いや、メルツと喧嘩してほしくもないけど!」
「なんだ、彼女がそんなに大事か」
「そういう意味じゃ……」
ミーアは戦いの前からアレンを押しまくっている。
ちなみにアレンが『優勝は諦めてた』と言っていたのはミーアがいるからである。
球技大会の方ならともかく、剣術魔法大会の方で勝てるわけがなかった。
「では、試合開始!」
まあ、秒殺されなかっただけマシである。
「そりゃ勝てないよ……つい最近ランキング戦で負けてるもん……」
アレンは敗北しながらも、幸か不幸か『こいつザッコ』と失望されることなく、メルツを始めとしたたくさんの女子生徒たちから励ましを受けた。
そして、帰り道でミーアはめっちゃおこだった。
「勝っても負けてもこれか、気分はいいかアレンスター」
「ミア……怒ってる?」
「別に怒ってない、もうちょっと失望されるくらいボコボコにしておけば良かったなと強く思っただけだ」
「……ミア「フライゲストとボクのどっちが大事なんだい?」
アレンの言葉を遮って、暗い瞳でミーアが問いかける。
「な、なんでそんなこと」
「フライゲストとボクのどちらかを殺すしかない状況ならどっちを殺す?」
「そんな二択選べるわけないだろ」
「そうか……ボクも所詮は有象無象か」
「なにを……言ってるんだ? 俺とミーアの二択なら間違いなく俺を殺すけど、それは選びようが「選べるだろう!」
ミーアは叫んだ。彼女と半年以上過ごしてほとんど初めて見る本気の激怒だった。
「……ごめん」
その日、アレンはミーアの家へ帰らなかった。
そして翌日。
「いやあの、本当にすまない。アレンをあの男子生徒人気ナンバーワンの溌剌美少女に取られるって思って取り乱してしまった。まさかもうフってたなんて知らなかったんだ……」
ミーアは全力で頭を下げた。
そう、文化祭のとき、告白され、『一緒に出し物回らない?』と誘われたがアレンは既に断っていたのである。
「あ、うん。誤解解けたのは良かったけど誰から聞いたんだ?」
「本人から……『応援してるからね』ってこれ以上ない純真な笑顔で言われた……罪悪感と劣等感しかない……死にたい……」
「ああ、うん。ドンマイ。俺はそれでもミアのこと可愛いと思ってるよ」
「うう……殺してくれ……最低だ……最後に何粒か残るタピオカを一としたときの七〇〇くらい最低だ……」
「ごめん励まし方分かんない落ち込み方やめて! なんて言えばいいんだよ!」
「叱ってくれたまえよ……キミにはボクを強く批難する権利があるんだよ……」
「ごめん無理だ。だって怒ってないし好きなんだ」
アレンは強く恋情の猛るのを自覚していた。
ミーアもまた彼の瞳に確かな愛を見た。
「どうして……?」
「その、そういう顔されるとグッと来るっていうか、泣き顔見て可愛いなって思うのは趣味悪いんだけど、いまのミアは放っておけない。まして叱るなんて無理だ。可愛い、好きだ」
パチン、と何かが弾ける。大分前から完膚なかったが今完全にとどめを刺された。
「…………オチた。今完全にオチた。ボクと結婚してくれないかい?」
「あはは……うん、前向きに考えておく」
「後ろ振り向かないでくれたまえよ?」
「うん、きっと大丈夫」
*
斬り上げ、打ち下ろし、翻り、飛び跳ね、留まり、裏をかき、十字に斬り結ぶ。
技と技の応酬の中、かつての三年間が脳裏をよぎる。
それでも涙は流さない。男が戦場で二度も泣くなど有り得ない。
「アックスチャージ!」
「リフレクトホッパー!」
アレンは重撃を後ろへ跳びながらいなし、威力を減殺する。
「本当にボクの技をフルコンして倒すつもりなのかい? むしろ縛りプレイみたいになってないかい?」
「気持ちの問題だ。それに、実際師匠と渡り合えてるだろ?」
「そうだね。でも、キミをそこまで育てたのはボクだ。三年間衣食住と鍛練を共にしながら結局他の女に取られるなんて納得いくわけがないだろう?」
「そうだよな……」
あまりにも気持ちが分かりすぎてアレンは肯定の言葉しか言えなかった。
「何度でも言おう。キミは強くなりたいと言って弟子入りした。それは元カノの圧制から逃れるためだ。
そしてキミは今強くなった。もう過去は切り捨てるんだ。キミにはその強さがある」
戦う。止まらない。
それでも、アレンには譲れないものがある。
「アレン、ボクはキミが好きだ」
「ッ!?」
唐突に不意打ちを食らい、アレンの動きが止まる。
ミーアの瞳は、月すら羞じて沈む程純粋な愛を宿していた。
「初めこそ一目惚れだったかもしれない。顔が良くて好きになっただけかもしれない。でもそれなら生首だけでいい。
今は、キミの全てが欲しい。愛しているよ、アレン」
「……それでも! 俺は自分で選んだ! 強くなって! 自由に人を愛せるようになって! それでもリープリを選んだんだ!」
叫び、抗う。
アレンの双眸は、太陽をも焦がす鮮烈な愛に燃えていた。
「そうかい……なら、キミの言った通り力ずくで奪い取るとしよう。違えないでくれたまえよ? 流石に、ボクでも怒るからね?」
「ああ、もう、次で最後だ」
ミーアからアレンへ。師匠から愛弟子へ。
伝えられた技も、残すは一つ。
運命が、ここに決着する。
「グングニル・ジ・オリジン!」
「グングニル・セカンド!」
星を墜とす槍が激突し、世界は真っ白に染まる。
果たして、その決着は――。