この国で一番偉い元カノに復縁を迫られている   作:耳野笑

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第7話 とある痴情の三角関係

 

「ッ……!」

 叙任式、ならびに叙勲式へと移動する馬車のなかで、アレンは腹の傷が痛むのを感じた。

「どうしたの?」

「い、や。なんかお腹が痛くて」

「緊張? 大丈夫だよ、リープリが隣にいるんだから」

 腕を組んでイチャつきながら、二人は馬車に揺られている。本来は二台用意されていたが、リープリの強い要望で一緒の馬車に乗ることとなった。

(そうだ……思えば、前もこんな光景見たな……)

 今でも、流れる景色のなかでやたらと目についた露店の赤リンゴを覚えている。

(あのときは確か、自由が欲しかったんだっけ……)

 もはや他人の心でも見るような気持ちで、アレンは当時の気持ちを考えていた。

(別にいいじゃないか……運命の赤い鎖でがんじがらめにされたって。それ以上の幸せはどこにもない)

 アレンが全てを受け入れたその時、爆発音と共に馬車が大きく揺れた。

「なっ……!?」

「なに?」

 アレンとリープリは慌てて馬車を飛び降りる。そこにいたのは。

「ヴァーミリア!?」

 捕まったはずの女野盗だった。彼女はニヒルに笑い、アレンに手を差し出した。

「よう、アレン。迎えに来たわ」

「今さらなんの用だ。俺はリープリと一緒にいられれば幸せなんだ」

「アカン、目がイってるわお前。いま、目ぇ覚まさせたるからな」

 ヴァーミリアは悲しげに目を伏せた。そして、リープリをキッと睨み付ける。

「ずいぶんどエラい洗脳したみたいやな。何したか言うてみ?」

「惚れ薬一日一ガロン飲ませて、一日中リープリを好きになるように囁いて、アレンの記憶を改竄してリープリのことを好きでたまらなくさせて、アレンのクローンを目の前で殺して逃げる気を失くさせて、風邪のときに優しくしてオトしただけだもん」

「多分ウチより罪犯してるでお前(ドン引き)」

 現役の犯罪者が『自分でもそこまでやらねえよ』という目でリープリを見る。

「でも、ぜんぶ合意の上だもん!」

「大賢者辞めてこいよ暴君が」

 遂にヴァーミリアが短刀を抜いてリープリへ襲い掛かる。しかしアレンが剣を抜いて立ち塞がった。

「目ぇ覚ませアレン! 『もう君には付き合いきれない』って言い切ったときのお前を思い出せ!」

「そ……そんな、ことをおれが……」

「そうや! お前が言ったんや! 自由欲しかったんやろ!? まだ人生諦めてなかったんやろ!? こんなヤンデレメンヘラストーカーサイコパス全部盛り女から逃げて普通に幸せになりたかったんやろ!」

「おれは……俺は!」

「メイルシュトローム」

 リープリの風魔法が巻き起こる。凝縮された嵐がヴァーミリアを飲み込み、全身を切り裂いた。

「いい加減にしてよ、リープリのアレンに変なこと吹き込まないで」

「負けん……! ウチは! こんな極悪女には……負けん!」

 暴風雨のなかで最後に放ったパンチは、アレンの頭に命中した。そしてヴァーミリアは倒れた。

「……俺は」

 アレンは頭の中の霧が晴れるのを感じていた。

「アレン、どうしたの?」

 彼は地に伏すヴァーミリアに跪き、『ありがとう』と囁いた。

 そしてアレンは立ち上がる。曇りなき瞳で、リープリに相対する。

「久しぶり、リープリ」

「え……? な、なに言ってるのアレン?」

「俺は目が覚めた。さっきまでのアレンとは違う。今の俺は新星アレン・アレンスターだ! スターだけに!」

「やっぱりおかしくなっちゃったのかな……この女、ただじゃおかない……」

「いいや、違うな!」

 アレンはビシッと指先をリープリに向け、ハッキリと物申す。

「おかしいのは君だこの狂人! 好きなら縛るな! 愛してるなら刺すな!」

 めっちゃ今さらでめっちゃ正論だった。

「うぅ……せっかく頑張ったのに、アレンが元に戻っちゃたよぉ……」

 本当に心から悲しそうな顔をするリープリ。しかしアレンは揺るがない。動じない。

「今までの俺は勇気がなくて、力がなくて逃げていた! だがもう逃げない! 目を逸らさない! どれだけ強大な闇(病み)であろうと、臆することなく立ち向かう! 俺は俺の人生を、今ここで取り戻すんだ! さあ! 覚悟!」 

 

 

 あっさり負けた。ボロクソに負けた。

「うそぉ……」

「だから言ってるのに、リープリは東方最強だって」

 無傷でアレンを見下ろしながら、リープリは諭すように呟いた。

「行こっか。道中も帰路も帰った後も、たっっっっっっっっっぷり分からせてあげるから」

「うぅぅぅああああああぁぁああああ!」

 

 

 アレンは玉座の間に立っていた。王は玉座に座し、大臣が控えており、王国騎士が赤い絨毯の両端に整列している。

 この様子は拡散水晶で全国民に中継されていた。

「では続いて、先日のゴースト討伐において多大なる貢献をした三名に、王より武勲を授ける」

 アレン、リープリ、そしてもう一人のロゼルフという男が前に出て礼をする。

 それぞれが盾と宝珠を受け取り、叙勲は終わった。だが、アレンはまだ下がる訳にはいかなかった。

 そう、プロポーズである。目を覚ましたとは言え、やらなかったらもっと酷い目に合わせると脅されたので、もうやらないわけにはいかなかった。

 アレンが(望まない)求婚を切り出そうとした時、ロゼルフが声をあげた。

「リープリ・キャペンリッシュ、俺から話がある」

「? なに?」

「俺の女になれ」

「なっ……!?」

「はあああああああああああああっ!?」

 瞬間、大臣と王国騎士たちの大音声が、玉座の間を満たした。

 しかしリープリは動じることなく。

「ごめんなさい。私には、もう将来を誓い合った人がいるんです」

(あ、これ嫌な予感)

 リープリはアレンの袖をぎゅっと掴んだ。

「この人です」

「はああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 喉が温まってきた大臣と騎士たちが、さっき以上の絶叫で玉座の間を満たす。

 リープリが横目で『乗らなかったら殺す』とアレンを脅す。

「あ……ああ、そうだ。俺がリープリの恋人だ」 

 アレンは震え声で対抗しながら、ロゼルフがめちゃくちゃイケメンであることに改めて気付いた。

 長い睫毛。嗜虐心を窺わせる切れ長の目。そしてそもそも整った顔立ち。声は男のアレンですら惚れ惚れするような重低音で、しかもいかにもなドS俺様ツンデレ系だった。

「そうか、なら今すぐ別れろ。俺の方がリープリを幸せにできる」

「ぜひお願いしま「アレン?」

 アレンの言葉がドスの効いた声にキャンセルされる。

「ぜ……ぜったいに断る。リープリは俺のものだ」

「お前、俺が誰だか分かって言ってるのか?」

「……さくらんぼ農家の人?」

「本当に誰だと思ってるんだ!? 知らないなら知らないでいいんだよ!」

「ど、どこかで会ったことあったよな?」

「ナンパかおのれは」

 アレンは男の髪を指で梳きながら聞いた。ソッコーではね除けられた。

「で、誰なんだ?」

「俺は東方第「そこは『人に名を尋ねるなら先に名乗れ』だろ」

「名乗ってんのに遮ってまで言うことか!?」

 ロゼルフは憤慨した。

「まあいい、なら先に名前を聞こう」

「人に名を尋ねるなら先に名乗れ」

「言うと思ったわ!」

 顔が良い割に威厳はなかった。

「もういいから名乗るぞ。俺は東方第九位、ロゼルフ・ヴェルフェンリートだ」

「東方第九位……!?」

 アレンは驚いた。そしてロゼルフの放つ覇気が本物であることに気付いた。

 この世界では女性に魔力量のアドバンテージがあるので、いつの時代でもどこの国でも女性が優位である。

 故に、トップテンはほとんどの場合女性が占める。にも拘らず第九位に入るということは、それだけロゼルフが強いということだった。

「で、お前は? 大賢者の恋人というからには、貴族か王国騎士といったところか?」

「ただの冒険者、アレン・アレンスターだ」

「冒険者だと?」

「不釣り合い、とでも言いたいのか?(言ってくれ)」

「いや、恋愛に身分差など関係ない。むしろ身分を越えてこそ真実の愛だ」

 めっちゃ良い奴だった。

「それにしても、冒険者か。なら分かりやすくていい。俺と決闘しろアレン。お前が勝てば俺は身を引く。俺が勝てば、リープリを貰う」

(あ……れ? これ、別れるチャンスでは……?)

 アレンは今目の前に現れた状況を反芻する。そしてそれが自分にとって利益しかないことに気付く。

(あああああああああ! ま……まさしく天恵! 神から差し伸べられた救いの手! 見える! ロゼルフの頭から後光が見える! サンキューベリーマッチソーマイゴオッドッ!!!)

「良いだろう! 上等だ! 俺が負けたらリープリとは別れる! もう二度と! 金輪際! 死ぬまで永遠に! マジで会わないと誓おう!」

 アレンはここぞとばかりに力強く捲し立てた。

「なんと……なんと勇敢な者なのだ! 流石は大賢者様の寵愛を受ける者!」

「その勇ましい姿! 愛する者の為、正々堂々と艱難へ挑む心意気! 余は気に入った! 決闘の場は国費を以て設けよう!」

 この国の誇る碩学たちが深く感銘を受け、感激に猛る国王が玉座から立ち上がる。アレンの過剰なまでの剣幕は、その場にいる全ての者に堂々たる漢の宣言と映ったのだった。

 一体誰が想像できただろうか。叙勲式に呼ばれた三人の内の二人が、もう一人を巡り争うなど。

 沸き上がるのはその場にいる者だけではない。中継を見ていた全国民が、そのドラマチックな展開に釘付けだった。

 そして全国民周知の約束となれば、破らないことを誰も非難しない。

(誰から見ても完璧に、この上なく、敗北者になれる! 試合に負けて勝負に勝つ!)

 内心ウッキウキのアレン。だからこそ見落としていた。リープリの瞳が、絶対零度の怨念を湛えていることに。

 

 

「アレン、負けようとしてるでしょ」

 部屋に戻るなりベッドに押し倒され、首を絞められるアレン。

「の……ぐぉ……ま、さか」

 暗闇に沈みかける意識の中、両腕を上げリープリに降参を伝える。だが、緩めてくれる様子はまるでない。

「絶対ダメ。ただでさえ優しくてイケメンな白馬の王子様系って絶対ドSでツンデレの黒髪イケメンに負けるジンクスあるんだから。その通りになんてさせない」

「なんの話だ!?」

 そろそろ本気で絞殺の危険を感じたアレンは、乱暴ながらリープリを引き剥がす。

「俺は本気で負け……間違えた。リープリのために本気で勝ちに行くから、応援しててくれ」

「……」

「いや無言で首に手を伸ばさないでごめんなさいぃぃい!」

 

 

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