痛いのをいっぱい感じたいので体力に極振りしたいと思います。   作:マガガマオウ

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ドⅯ少女は自分が楽しむために

「何が……起きたの?」

「今さっき迄、毒の濁流が迫ってなかったか……。」

「九死に一生を得たと言うか、敵に助けられたと言うのかな?」

 

目と鼻の先まで毒液の波が接近する恐怖体験をし身が竦む思いをした三人は、息する間もなく例の少女が放った銀龍の一撃で難を逃れ茫然自失の中に居た。

 

「ふむ、気が削がれちゃったみたいだねあの三人……これ以上は無理か、憑依解除!」

 

対していたフローラも三人の状況を察して、これ以上の戦闘継続は望めないと判断してフィールドを移動しようとククルカンとの憑依を解きその場から歩き出した。

 

「う~む、やっぱりこの辺りはあの毒の影響が凄いね、どこもかしこも毒で染まってる……あ~あ、毒無効が無ければこの毒を全身で感じれたのにな~おしい!」

 

毒浸しの地面を悠々と歩くフローラは心の底から悔しがり、無念の情を浮かべ歩を進める。

 

「うん?誰か倒れてる、毒にやられた人達かな?お~い!」

 

そんな通常状態が異常者なフローラの行く先、毒液の地面に横たわるプレイヤー達の姿を見つけ駆け寄る。

 

「うっうぅぅぅ……。」

「あっくぅぅぅ……。」

 

近付いたフローラの間の抜けた声とは対照的な瀕死且つ悲壮感に溢れた彼らは、フローラの接近を知っても動く気力すら湧かず返答を返す余裕もない。

 

「これはこれは、随分な重体な模様で……憑依[巳の刻]ナーガ!」

 

少しばかり離れた場所で控えていたナーガを目線だけで呼び寄せその場で憑依、再びナーガと融合したフローラは静かに手を胸の高さまで掲げ、その様子を身じろぐ事も事も出来ず眺めるだけの二人は最後を悟った様に目を閉じた。

 

「ザクッとしますね?[ポイズンフィスト]!」

「ゴフッ!」

 

フローラの謎の理の後に抜き手を突き立て体を刺し貫き、相手の体にエネルギーを流し込んでいく。

 

「ぐっ!……ん?何だ……力が戻ってくる?回復してる?」

「お隣さんも[ポイズンフィスト]!」

「ガァ!」

 

予想に反して起きた変化は一向に自分に最後の一瞬を訪れさせない、不審に思いながら目を開け自身の状態を確かめると不思議と力が湧いてくるではないか、体力が戻り始めてる事に驚い思わず上半身が起き上がった、その横で倒れていたプレイヤーにも抜き手を突き立てエネルギーを送っていくともう一人も驚きで起き上がる。

 

「一体何を……。」

「さっき迄、毒に侵されてた筈だよな……。」

 

上半身が起き上がった事でこの少女が自分達に何某かを行い、自分達は何故か毒状態から回復するに至っていた、ついさっきまでからは考えられない状況に自身の体を見つめながら困惑の意を溢す。

 

「ナーガ君との憑依時の時限定で使えるスキル[ポイズンフィスト]、通常時だと普通の毒攻撃なんだけど毒状態の相手に使うと毒効果を反転させ回復状態にするんだよ。」

「なっ!そんなスキルが?だが成る程な、だから毒状態から回復したのか。」

「ありがたい、しかし何故?バトルロワイヤルでは、敵を助けても意味が無いんじゃ。」

 

疑問符が幾つも浮かぶ二人に対しフローラは特に気にした様子を見せずに解説し、それを聞いた二人は当初の疑問は解決し新たに浮かんだ疑問を口にした。

 

「え?何でって、それは私が全力で楽しむためだよ。」

「全力で?」

「楽しむため?」

 

その疑問にも当たり前の事に様に理由を語るフローラ、その回答の内容を理解できず二人でオウム返しの様に続ける。

 

「そう、だって体力が少ないないし状態異常に掛かった相手と戦ってもちっとも面白くないよ、寧ろ全然つまらないよ盛り上がれない、だったら相手に元気になって貰う他ないじゃない?」

「「……。」」

 

フローラは親切から彼らを回復させた訳じゃない、彼女は自分が楽しむために一方的に彼らを直した……全快した彼らに甚振って貰う為に敢えて回復させた、詰まる所フローラの我が儘なのである。

そんな彼女の一方的な独白を黙って聞き続ける二人は、何か神々しいものを見る視線を向けていた。

 

「……この人達じゃ無理か、まっ他にも人は居るし他何人か回復させれば一人か二人ぐらいは……じゃあね。」

 

その視線の類が何たるかを察すると、少し残念そうな表情を浮かべ毒で侵された大地を見渡して気を持ち直し、他の相手を求めて歩き出す。

 

「あっ!待ってくれ!」

「俺達も一緒に!」

「[ミストイリュージョン]。」

 

追う事は出来ればされたくないフローラは今回も[ミストイリュージョン]を使い、背をぼやかし姿を晦まして次なるプレイヤーを探す。

 

「結局、皆ダメだったか~。」

 

アレから何人か見つけだし[ポイズンフィスト]を使用、回復させ対戦を試みるが皆一様に闘気を向けてはくれなかった。

 

「何処かに居ないかな~思いっきり戦えて飛んじゃう位凄い一撃を撃てる人。」

 

フローラは求めていた体を揺さぶり心を穿つ強烈な技を放つ強者を、ここに至るまで道程で針で突かれるような痛みから小刀で斬られる様な痛みはごまんと感じたし堪能した、だがそれはやはり彼女にとっては前座で前菜、魔法の痛みは総合では確かに味わい深いのだがその分雑多な要素が絡み痛みそのものがぼやける為メインとは言い難く、そろそろ最大の旨味を持った一撃を受け被虐心を充足させたい。

 

「おっ!見晴らしのいい場所に出た、それじゃここからメインディッシュを探しますか?って!早速いい人見っけ!」

 

気付けば小高い丘の上に出ていたフローラ、ならば丁度いいと丘の上から周囲を見通すと視界の中心より左の位置に大剣を振るうプレイヤーの姿を見つけた、彼の周囲には複数のプレイヤーが侍ており期を窺いながら挑んでは討たれまた次の誰かがやって来ては別の誰かが討たれる、一対多数の状況で圧倒的力量差で他を押しのける正にフローラが求める最大の一撃を持つ者、そうと決まれば留まる意味も無しにその大剣使いの元へ馳せる。

 

「強い……。」

「流石はゲーム内最強か。」

「次、お前が行けよ……。」

「おい、押すな……。」

 

一方の大剣のプレイヤーの元に集る有象無象のプレイヤー達は膠着していた、相手はゲーム内でも最強或いは最も先を行く者、一人で挑んでも無駄骨ないし犬死同然であり同じ事を考える者は当然のように存在した、故に彼らはその場限りで結託し複数人で囲いジリジリと攻めようとしていたのだ。

 

「もう半数が突っ込んだぞ?まだばてないのかよ……。」

「少しも慌ててねぇ、まだまだ余裕って感じだ。」

「ちっ!目算が甘かったか……こうなりゃ、強引に切り崩すしか。」

「つーてもな、じゃあ誰が最初に切り込むよ?俺は無理だぞ……。」

 

これだけの人数で囲めば多少な焦れて宿毛つくれると踏んでいた彼らは、大剣のプレイヤーの胆力が彼らの忍耐を上回っていた事で計算が狂い、作戦の変更を余儀なくされ誰を切り捨て役にするかで揉めはじめていた。

 

「ふぅ、そろそろ終わりそうだな……あと少し付き合うか。」

 

そんな会話を耳にしていた大剣使いは、この膠着状態からの脱却が近い事を感じ始め静かに体験を構え直す。

 

「クソッ、もうお前が行け!」

「はぁ!何でだよ、お前が行けよ!」

「ちょっ!ここで揉めんなよ!」

 

ここで無駄に立ち尽くす間もイベントの所要時間は過ぎている、流石に動かない状況に痺れがキレたプレイヤー達も目の前の大剣使いではなく囲んでいる隣のプレイヤーに当たりそれが全体に伝播し始めた。

 

「もう無茶苦茶だ、誰でもいいから特攻してくれたら……。」

「じゃあ、私が行くね?」

 

同士討ちまで秒読みと言う絶妙なタイミングでその嘆願に応える声がかかり、横をすり抜けて一団を飛び出す白い人影が一直線に大剣使いに向かっていく。

 

「新しい乱入者?誰が来ようと……。」

 

その少女の出現は大剣使いも見てた、自制を失いつつある烏合の衆の隙を縫い現れた少女は周りに脇目を振る事なく真っ直ぐ突き進んでくる、ここで少し面を喰らった大剣使いではあったが直ぐに冷静になって体験を振り上げ待ち構える。

 

「はっ!」

「っ!よっ!せーい!」

 

大剣使いの正面に迫った少女目掛け振り下ろされた大剣、それを少女は体を横へずらしギリギリ掠らせながら拳を突き出した。

 

「くっ!ダメージ自体は大した事は無いが当てて来たか……この子はデキる!」

 

胸を衝いた拳打に驚き数歩、後退する大剣使いはただ一回の会敵で少女の実力を推し量り、他と違うと確信したそれは周りも同じで。

 

「おいおい、誰だよあの子なんか可愛い子だけど今まで居たか?」

「否いなかった、つかあんな白尽くしの装備着てたら目立つし気付く。」

「てか、今あのペインを退かせてなかったか?」

「何もんだよあの子……?」

 

周囲の注目を集めている中フローラは一人、心中を悦びで満たしていた。

 

『ちょっと掠っただけでこの痛み……コレは滾る!もっと欲しい!』

 

ただ少し大剣の刃先が掠めただけでこれ迄とは比にならない鋭角な痛み、これこそフローラがメインに求めた極上の痛み、一回では満足できない何度も何度も味わいたい倒れない限り何度でも、その渇望が彼女を前へ押し出すその痛みをもっとよこせと。

 

「攻め手が激しく⁉……少し本気を出すか。」

 

被虐の本能に湯がったフローラの連撃を躱し、大剣を振るって応戦するペインの太刀筋にも一層の鋭さが加わる。

 

『フフフ、さっきよりももっと鋭く深い……まだまだ上があったんだ!じゃあ、その隠してる分も堪能させて!』

 

痛みをその身で味わう為ならどんな無茶でも遣って退ける、狂喜に満ちた被虐性を盛らせて最強のプレイヤーに挑みかかるフローラの様子を周囲のプレイヤーは呆然と見つめる事しか出来ない。

 

「なんだよ……アイツ、全然ビビッてねぇ。」

「俺達は、多勢で挑んでやっと立ち向かえたってのに……。」

「挙句、それでも劣勢になると直ぐに引っ込んで……。」

「情けねぇ……カッコ悪いぜ俺ら。」

 

目の前で格上相手に一歩も退かず足を突き出し体を前に倒す少女の姿は、さっきまでの自分達とは真逆であり勇ましいとすら感じたと同時に、それまでの不甲斐なさを悔いる一人ではダメで集団で行けば勝てるなど甘い幻想、一人で戦う度胸もない奴が最強に挑み勝てよう筈もないと勝手に思い込み始めた。

しかし、彼らが勇ましいと思ったフローラはただ自分が楽しみたいが為に今まで動いてきた、楽しみたいがためにソロプレイヤーからダメージを攫い、楽しみたいがために毒の波を割り苦しむ者たちを治療した、そして今も己が悦び楽しむために最強のプレイヤーと遊んでいる……言うなれば最狂の快楽主義者、痛みは悦び苦しみは楽しさただ一時の苦痛に流されるままに……そして、残り時間が一時間に迫るころ。

 

「現在の一位はペインさん二位はドレッドさん三位はメイプルさんです!これから一時間上位三名を倒した際、得点の三割が譲渡されます!三人の位置はマップに表示されています!それでは最後まで頑張ってください!」

 

この緊張が張り詰めた状況を壊すように告げられたタイムリミットと追加ルール、それに触発された血に飢えた獣の様なプレイヤーがフローラと果し合う現在一位のプレイヤーペインの元へ呼び寄せられる。

 

「人が増えた?……関係ないな、今はただ目の前の戦いに集中する。」

「ふふふ……賑やかで楽しいわね。」

 

互いの存在に釘付けでその間のアナウンスなど聞こえていなかった、だから急に増えた周辺の人口密度の増加でようやく変化に気が付いきその二人の周りでも一悶着起きていた。

 

「あの二人の間には、割り込ませねぇぞ!」

「くそっ!何だテメェ等!アイツを倒おしゃアイツのポイントの三割が取れんだぞ邪魔すんな!」

「俺達は、アイツに怯えただから勝てなかった!……それでも、怯えず恐れず戦い挑める彼女の戦いを邪魔させない事は出来る!」

「何言ってんだよ!おかしいぞお前等!」

 

周りを囲んでいた元々居たプレイヤーが後から来た、ペインのポイント狙いのプレイヤーの進路を塞ぐように迎撃していたのだ、そんな彼らの乱闘の騒がしさが伝わったのか周囲のプレイヤーも集まってくる。

 

「なんか騒がしいね?あっここだ、って何が……あの人は!」

「戦ってる、一位の人とあの人が……。」

「やっぱり凄い……。」

「おい!居たぞペインだ!」

「もう誰かと戦ってる?急げ、ポイントを取られる!」

「クッソ出遅れた!あの白尽くめに気が集中してる、今なら隙を付けばやれるぞ!」

 

それは様々、例えばイベント開始直後の頃にフローラの介入で助かった者たちから、ペインを狙う血気盛んな兵まで実に雑多な人間が集まる。

 

「あの人達……行くよ皆!」

「あの人の戦いを……!」

「邪魔なんてさせない!」

 

時は過ぎれば過ぎる程に周囲は騒がしくより混沌が濃くなる、ペインを討ちポイントをモノにしたい者たちと二人の戦いを水を注させたくない者たち、今この場が一番の熱量を持っていると思っても過言ではない。

 

「あはは!まるでお祭りね……いいえ、イベント(お祭り)だったわね。」

「あぁ、ずっと忘れていたよ……楽しいなこのイベント(お祭り)はもっと戦って(遊んで)いたい……だけど!」

 

多くの時間、刃と拳を交わし合った二人の顔は晴れやかだ、途切れる事無く繰り出される殴打と斬撃の交差、フローラの両の瞳は一方は紅く一方は碧く光を宿し体は無数の切り傷を作っていた、対するペインにも多くの打撃痕を残し肩で息をする。

 

「楽しい時間はあっという間か、アレから何人か他の人も挑んで来て面白かったよね?」

「あぁ、虚を使いて来るからハラハラしてドキドキした!」

 

他愛のない会話を挟む中でも互いに交戦の意思は緩めず、寧ろ闘気はこれまでに無く高まってきている。

 

「そろそろ終わり……なら[リベンジソウル]バースト!」

「最大の一撃で締めくくる![会心の聖剣]!」

 

互いが高め合った熱い血潮を吐き出すように最後の一撃を放つ構えを取り一呼吸が入る、そしてゆっくりと歩み寄りフローラは拳をペインは剣を相手目掛けて繰り出した。

 

「終了!結果、一位から三位までの順位変動はありませんでした。それではこれから表彰式に移ります!」

 

それは後僅かで互いの一撃が決まると言う絶妙なタイミング、イベントの時間の終わりを告げフローラ達は通常フィールドに引き戻される。

 

「…………あ~ぁ、終わっちゃった。」

 

ペインと交差するように放とうとした拳を何度も広げて握るそして広げて暫く無言を続けた後、残念のそうに呟くさっき迄の血の昂ぶりが嘘の様に冷静になり、表彰台に立つ三人を見ずに背を向けて会場を離れた。

 

「惜しかったな~最後の一撃、決まってたらきっと気持ちよかったのにな~。」

 

誰が聞く訳でもない為吐き出す独白、今回のイベントをフローラは概ね満足していた。

常に味わえる精神的緊張感の苦しみと肉体的な痛み、彼女の被虐心をこれでもかと盛り立ててくれたがただ一つ唯一の心残りがあった、それは最後にペインが放った一撃を味わえずに終わった事、あの一撃さえ体感できれば残念に感じる事の無く終われたのにと感じる。

 

「まっ!焦らしだと思えばこれはこれで……それに、ゲームを続けていれば次の機会もあるでしょ?」

 

今回はお預けだと思う事で別途被虐心を満たし、次なる苦痛に期待を寄せ身を躍らせるフローラの直ぐ横で黒い鎧の少女が通り過ぎた、だが自分の世界に浸るフローラは気付かず少女も溢れる羞恥心から周りが見えておらず互いに気付かない。

そして、二人の少女が居ない表彰台の上では最後の一位ペインのコメントが大きな話題を呼んだ。

 

「今回のイベントは大変愉快でした。ですが、最後あの白いガントレット使いとの決着が着かなかった事は心残りです。願えるなら彼女とは再戦がしたい。」

 

最強に食らいつき最後まで生き残った白い少女、フローラはもう一人の少女と共にイベント後の話題の中心なったのは言うまでもない。

 




status
Lv20 HP875〈+40〉 MP18〈+40〉
[STR0]〈+30〉[VIT0]〈+30〉[AGI0]〈+30〉[DEX0]〈+30〉[INT0]〈+30〉

装備
頭[神樹の冠(未覚醒)]胴[神樹の軽鎧(未覚醒)]
右腕[神樹の籠手(未覚醒)]左腕[神樹の籠手(未覚醒)]
足[神樹の腰マント(未覚醒)]靴[神樹の具足(未覚醒)]

skill
[激昂]
[正拳]
[完全抗体]
[毒無効]
[混乱無効]
[|大物喰らい〈ジャイアントキリング〉]
[勇猛果敢]
[ミストイリュージョン]
[電撃鱗]
[ダメージアブソーバー]
[マギアコンバートライフ]
[バイアップチャレンジ]
[リベンジソウル]

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