少し加筆。
---七草真由美---
狸親父と呼ばれている父親に呼び出されて、父の書斎へと向かった。
「よぉ、元気にしていたか?」
「えぇ」
今年高校に入学したばかりの娘に掛ける言葉では無い。
「お前に頼みがある」
「どんな?」
身構える。政略結婚に向けた婚約か?
「身構えるな。お前、家庭教師をしてくれないか。相手は、中2の男子だ」
家庭教師?どこかとのコネの為か?
「どこの家系?」
「うっ…どこになるんだ?う~ん…」
言い淀む父。こんな姿は珍しい。
「まぁ、兎に角、やってくれないか?」
「どこの家系ですか?」
再度、訊いてみた。行ってみたら、既成事実を作られたでは困る。うさん臭い家系はパスしたい。
「まぁ、結果から見れば、俺の息子になるかな?」
それは…不倫の末の?愛人がいたのか?母さんがいるのに…
「愛人さんに泣きつかれましたか?」
カマを掛けてみた。
「アイツは泣かないだろうな。依頼主は土御門家の当主だ」
アイツ?誰だ?陰陽師の土御門家か…それは、大きなコネだな。だけど、娘さんがいたとは初耳である。それに、土御門家に私が行っても、家庭教師として役立てない。やはり、身体目当てなのか?
「その坊主の後ろ盾になっているのが、土御門家なんだが…受けてくれないか?」
教え子候補は、土御門家では無いのね。じゃ、どこ?でも、土御門家の申し出を断ると厄介かな?呪いを掛けられたらマズいよね。魔法師は呪いに関しては無防備である。
「で、誰との…いや、どこの家系の女性との子なの?」
「それは難しい問題だな。そうか、そういう考え方もあるな。俺の孫になるんだな、アイツは…」
はぁ?息子と言ったり、孫と言ったり、なんかうさん臭いんだが…
「真由美、他言無用で頼む。下手にバレると、俺達が消されるからな」
うさん臭さ満載のようだ。消すって、なんかヤバい子じゃないの?狸親父ですら消すような勢力って…マズいって。私のような小娘向きの仕事では無いかもしれない。まさか、アッチの家庭教師なのか?まだ、体験したことが無いのに…
「俺と四葉の女の間に生まれた子に、九島の男がやって、出来たガキだ」
あぁ~、目眩がする。いきなりのビッグネームである。なんか修羅場で無いのか?四葉の女との間に出来て、九島の男にやられた?魔法師を代表する家系絡みの犯罪?その犯罪で出来た子なのか?で、土御門家にバレているの?絶対にヤバいって…
「四葉の女って、深夜様?だとすると、ダブル不倫よね?!」
深夜様にも中2の子供がいらっしゃるし。
「そっちじゃない」
深夜様でないと…おいおい、当主の真夜様なのか?って、彼女って、生殖機能が事故で失われたはず。そう歴史の授業で習ったけど。
「どうやって?真夜様は子供が授かれない身体でしょ?」
「あぁ、あの女、内緒でやりやがった。俺の保存してあった精子と、自分の細胞で作った万能細胞を卵子にして、受精だってよ。俺も、今日知ったばかりだよ」
なんか、色々と問題がある発言である。その中でも、我が家的に問題なのは、この父はなんで精子を保存してたんだ?既に息子二人、娘が三人いるのに…
「なんで、精子を保存したのですか?」
「えっ…いや、お前達の母親が事故か病気で早死になった時、ほら…次の妻にタネを蒔けないと、ダメだろ?その保険だ…よ」
「ふ~ん…私達の母さんを消すの?ねぇ、新しい愛人が出来たら…」
「おい、待て!真由美…おちつけぇぇぇぇ~!」
落ち着く?私は落ち着いているわよ!
◇
私の暴走によって、騒ぎに気づいた母、妹達、兄達までもが、知る事態になった。そのような状況に陥り、漸く狸親父は全部を自白した。
「教会の女教皇が、そのガキの行く末を見守っているんだ。教会としての判断も揺らいでいるんだよ。ガキには罪は無いが、教会的には大罪人に当たるってよ」
そりゃ、そうだろ。3歳で誘拐され、十字軍に救出されたのに、隔離施設に幽閉って…教会サイドも非を認めざる負えないだろう。それでも、大罪人認定は解除されないのか…なんか、理不尽。だから、魔女裁判みたいな事件が起きたんだろうな。
「まぁ、結果的に認知はした。だが…扱いに困っている。七草家には息子は二人いるし、四葉の後継でいいと思うんだが、認知をした以上、何もしないって訳には…だから、高校入学までの間、七草家で教育をサポートすることになって…真由美、家庭教師をしてやってくれ。いや、やれ!」
命令なのか。まぁ、私も兄達とは異母兄妹であるから、その子も異母姉弟と思えば問題は少ない。だけど、問題はそこでは無い。
「その子の能力は優秀なの?」
狸親父が、引き取らないっていうことは、能力に見込みが無いんだろう。優秀な子なら、七草家で引き取ると言いそうだし。
「魔法師としては最低だ。一高を受けても三科生入り決定だな」
えっ、そこまで…四葉と七草と九島の結晶が最低クラス?三科生って、魔法師としての価値はゼロな存在が通うクラスであるのだが。
「父さん、それはそれぞれの家の能力が打ち消し合ったのか?」
長兄の智一兄さんが訊いた。
「違う…アイツはモンスターだよ。魔法師キラーと言ってよい。七草家では手にあまる存在ってことだ」
父の顔が強ばっている。何か怖い体験をしたようだ。
「俺の目の前で、九島烈を簡単に潰した。もう、烈は魔法は使えない」
九島烈…我が国のトップランクの魔法師であり、魔法師協会の重鎮である。その人物を魔法師として潰したって…
「アイツは魔法師では無い。トップランクのウィザードだ。魔法師の物差しでは測れねぇ」
ウィザード…本物の魔法使い…魔法師が目指す先にいるジョブである。そして、物差しで測れないから、三科生入りなのか?
「だから、真由美は、アイツに魔法師としての常識とタブーを教えて欲しい。今のまま、暴走すると、この世界から魔法師は消えるぞ」
ち、ち、ちょっと…私の身は安全?
「注意事項は1つだ。アイツと敵対はするな。消されるぞ…」
父の言葉に、その場の空気は凍り付いた。この狸親父は、そんな相手から、よく生きて戻って来られたな。
真由美の口調は…反抗期ってことで(^^;;