---司波深雪---
叔母様は帰って行かれた。その置き土産の真実…真一が生きていた…って…
「深雪…大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫です、お兄様…」
少し目眩を感じ、よろけた。あの日の真一の笑顔を忘れたことは無い。
『僕がニィ二とネェネを護る…深雪、幸せになれよ…』
って…
「叔母様のように、狂気に染まっていなければ良いが…」
あの笑顔が悪魔の微笑になっていたら、怖い。そんな真一は見たくない…
「叔母様の表情から、真一は叔母様好みだったんだろうな」
魔法師を憎み、全人類を呪っている叔母様…
真一…私の弟…と、思っていた。だけど、事実は違っていた。真一の母親は叔母様だった。子供の産めない叔母様は、万能細胞に一縷の望みを掛けて、子供を造る決心をしたそうだ。通常の交配で生まれていない。異質な人間な真一。真実を知ってしまった私は、あの時のように接することが出来るだろうか?とても怖い…
「深雪…会わないと言う選択肢もあるぞ」
「無いでしょう。叔母様の言葉は絶対ですよ。拒否して、お兄様に害が及ぶことになるのが怖いのです」
自分の気持ちを偽るようなことを、お兄様に言ってしまった。今の私はお兄様のことを考えている余裕は無い。
真一はあの時のように、接してくれるだろうか?とっても怖い。
「あの時、本当はお兄様が狙われていたのに、真一がお兄様の身代わりで…」
『僕がニィ二とネェネを護る…深雪、幸せになれよ…』
あの時、初めて、名前で呼んでくれた。なのに…真一は目の前から消えた。
「深雪、大丈夫か?」
床に屈んで泣いていた私。涙が止まらない。恐怖、不安しか浮かんで来ない。どうしよう…
お兄様のサポートで、自分の部屋に連れて行かれた。でも、涙が止まらない。恐る恐る、本棚からアルバムを出し、真一の写真を見つめる。あの頃のことを思い出すと、楽しかった想い出、嬉しかった想い出が浮かんでは消えていく。そう、総ては過去のこと。今現在では無い。
「深雪…俺はアイツの代わりは出来無いぞ」
能力のせいで感情がうまく出せないお兄様、何の縛りも無く表情が豊かだった真一。
愛情を出せないお兄様、私に思いっきり甘えてくれて、私のことを大好きと言ってくれた真一。
そう、お兄様では真一の代わりにはならない。だけど、お兄様とは一緒にいたい。私は欲深いです。
「お兄様とも一緒にいたいのです。でも、叔母様の将来には私と真一はいて、お兄様はいないんです」
私は欲張りである。お兄様も真一も欲しい。だけど、今はお兄様しかいない。
「私はお兄様と添い遂げたいのです」
「アイツがいないからだろ?」
お兄様は私の総てを知っている。私の心の闇も…
「お兄様はずるいです。私の心を覗くばかりで、ご自分の心の内は見せないなんて」
「俺は読心術は持っていないぞ。覗いてはいない。深雪の行動からの判断しただけだぞ」
行動に出ていたのか?
「アイツはこの10年、どう過ごしていたんだ?俺の身代わりで、拉致された後…」
真一が消えた日、お兄様の姿を見て狼狽えた者達…叔母様は、真一を誘拐した者を見つけ、行方を追ったが、国外に運ばれた後だった。叔母様のように実験されたのか?叔母様のように心が壊されてしまったのか?それすら、知るのが怖い。
だけど…
「お兄様、私、会ってみようと思います。それで、その結果で、あの日の気持ちと決別します」
あの日、真一に、お兄様へ言ったことを言った。
『私、真一の傍にずっといる。だから、放れないでね。いい?真一のお嫁さんは私だけだからね』
って…3歳児にしては大人びていたかもしれない。だけど、あの時の私の夢は…そういうことである。お兄様と私と真一で暮らすマイホーム。そんなことを夢見ていた少女だった。
どこかにメールをしていたお兄様の顔が困惑している。何を聞いたのか?
「葉山さんにメールで訊いたんだが…真一はあの日のままらしい。姿は変わったが、アイツの記憶はあの日のままだそうだ。成長は感じられないって」
どこか嬉しそうなお兄様。姿が変わった?10歳も成長したんだものね。でも、記憶があの日のままって…時間が止まっていたのか?いや。止められていたのか?
「ニィニとネェネに会いたいと、せがまれているそうだよ」
その呼び方は…今だと恥ずかしいかな。