これは萃香の思い出話
※これは作者が魂音泉の名曲「愛き夜道」を聞いて思い付いたものです
はじめましての方ははじめまして。
蓮山です。
「そういえばさ、なんであの店、気に入ってるんだ?」
親友が問うてくる。
そういえば話してなかったねぇ…
そうだね…まずはあいつとのことを話さなきゃね
○●○●○●○●○●○
私とあいつが出会ったのはあの酒場だった。
と言っても何となく入った店でたまたま相席しただけだけど妙に話が合った。
波長が合う、ってやつだったんだろうね。
それ以来月に2回くらいの頻度で相席しては一緒に飲んで騒いでって感じだったね。
楽しかったさ。
2、3年くらいはそんな感じだったねえ…そこから少しずつ頻度が上がっていってほぼ毎日呑んだくれてたねえ。
なんだかんだで私はあいつが好きだったんだろうね。いないときは少し酒がまずく感じたよ。
え?恋愛的な意味かだって?
……さぁねぇ…私にもわからないよ…。友人としてなのか男女としてなのか…今でもわからないよ。
でもまあ、一緒にいると気分がいい人間は後にも先にもあいつだけだったよ。
そこから…10年くらいかな?あいつは結婚した。
そんなにショックではなかったねえ…もともとそういう年頃だったしむしろ遅いほうだったと思うね。
その日は飲んで飲まれての大宴会をそこの酒場でしたよ。
その日から…少しずつ一緒に呑む頻度は下がっていったね。まあ、私みたいな妖怪と一緒だなんて風聞が悪いし何より奥さんに止められてたんだろうね。
それでも待ったよ。でも…
あいつはある日を境にぱたりと来なくなった。
それから…いくら待ったのかね…。ひとつわかるのは1年や2年程度じゃないってことだね。
そんで、待って待って待って………
待って待って待って待って待ったさ。
毎日同じ時間に同じ席に座って…
時の流れって残酷だね…私は同じように生きてるのに周りの人間たちはどんどん変わっていく。
私だけが取り残されて私だけが変わらない。
でもね…何十年も経ってあいつはふらりとやってきたのさ。
昔と違ってしわくちゃな顔にぼろぼろの服をまとってたけど…それでもあいつだってわかったんだ。
懐かしくてねぇ…涙がこぼれそうだったんだよ。思わず服の裾で拭っちまったよ。
隣にやってきたあいつは「久しぶりだなぁ…」って言って昔っから好きだった安酒を頼んだんだよ。
そこからは半日ぐらいずっと酒呑んで、喋って、騒いで…
いなかった分の話のネタはたんまりあったからね。会話の華が咲くってもんだよ。
でも、なんか…悟ったような…諦めたような…そんな空気を醸し出してた。
なんだかその姿が妙に目に染みてね…今生の別れでもないのに涙がほろりと…ね?
あいつが帰ると言ったから途中まで送っていったんだよねぇ…。
あの時通った道の…薄い月明かりに照らされたあいつは穏やかな笑みで私を見て、少し迷った後「またな」
そう言って帰っていった。
翌日、あいつは息を引き取った…らしい。
老衰…だそうだ。
穏やかな表情で死んでいったそうだよ。
あいつとの思い出があるからこそあの店に通ってるんだ。
○●○●○●○●○●
「そうかい」
親友は少しおとなしくなって酒をあおった。
――ま、そんなところだね。
「にしても、萃香にそんな相手が居たんだねえ…」
――意外だろう?実は霊夢にも話してないんよ。
たぶん、大事な‘思い出’ってやつだからかね?
「そういえば……毎年この時期になると1日くらい見かけないのってもしかしてその人間絡みかい?」
――勘が鋭いねえ…そうだよ…1日ずっとあいつの墓の前で酒を呑むのさ。あいつに萎れた姿なんか見せたら笑われちまうからね。元気な姿を見せに行くのさ。あたしは元気だぞ。酒を呑んで生きてるぞってね
「あっはっはっは。そりゃ鬼は酒を飲んどきゃ病気なんぞにかかりはしないからねぇ。心さえ元気なら、だけど」
――そういうこと。…そろそろ帰らないと霊夢にどやされちまう。じゃあね、勇義。
能力を使って自分を散らす。博麗神社の周りは結界で覆われてるし、何より今日は歩きたい気分だった。
萃まった場所はあいつの家があった場所の近く。
――…ここも変わったね。人の手が入らなければこんなもんか。
――今日の月が綺麗だね。帰ったら月見酒とでも洒落込もうか。
なんだか、ここに来ると寂しくなって独り言が増える。ああ、まったく――
――綺麗な月だ。砕きたいくらいに。
気づいたら博麗神社の近くに来ていた。
……どうやら霊夢は寝てるみたいだね。
秘蔵の酒を出して縁側でゆっくりと月を見ながら酒を楽しむ。独り酒もまた乙なもので。
――…うん。今宵の酒も最高だね‼
きっとこんな感じだといいな…