緑谷出久の法則   作:神G

11 / 40
 雄英入試までの話の流れですが、今のところは…

・オールマイトや爆豪が過ごした1ヶ月間…

・意識が戻った出久君のこれからの生活…

・出久君の雄英入試までの特訓期間…

・ヒロインの登場…

を主な内容として書き進めております。



 ネタバレになるので多くは言えませんが、出久君の特訓期間中に《オリジナルの話》を加える予定です。


ランキングと鉄槌の法則(後編)

●ワイルドワイルドプッシーキャッツの私有地の山中…

 

 

オールマイト side

 

 私とエンデヴァーは、久しぶりにお会いした《先代No.1》こと《ゴッドヒーロー・神》……通称《神様》に…有無も言わずに顔面をブン殴られた…

 

 私もエンデヴァーもいきなりのことで受け身をとることも避けることが出来ず、神の拳をモロに喰らってしまった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぶっちゃけて言わせてくれ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 滅茶苦茶痛いーーーーー!!!!!?????

 

 

 

 

 

 久しく感じたことのない激痛に頭がおかしくなりそうだ!!?

 

 それにもしマッスルフォームでなかったら…私は間違いなく死んでいた!!!

 

 先日に電話で声は聞いたが、5年ぶりの再会でいきなり殺されそうになるなんて!!?

 

 

 

 

 

 神に殴られて吹っ飛ばされた私達は《隣の山》へ激突し、頭から突き刺さっていた!

 

 だが、そこは《現No.1》と《No.2へ登り詰めた男》!

 ギリギリのところで意識を失いはしなかった!

 

 

 

 

 

 この時点で気絶していれば…どれだけよかったことか…

 

 それを後々(のちのち)に嫌と言うほど思いしらされた…

 

 

 

 

 

 私達は山の地面に突き刺さった上半身を何とか引っこ抜き、呼吸を整えた…

 

「ハァ…ハァ…ハァ……うぅ!?……やっぱり痛いーーー!!?」

 

「ぐっ!?ぐおおぉっ!!!」

 

 エンデヴァーも無事のようだが…明らかに痛そうな様子だった…

 

「どうじゃあ?痛いか?」

 

「「ッ!?」」

 

 施設からここ(隣の山)までかなり距離があるというのに、気がつけば神はすぐ近くにいた!

 

 まだまだ神は現役(げんえき)だということを私は改めて認識した!

 

「あた……当たり前だろ!!イデデッ!!くっ!!何のつもりなんだ!?」

 

 神から問答無用のパンチを喰らったエンデヴァーはご立腹のようだが、怒鳴りながらも神に対して敬意を持っていた。

 

「何のつもりじゃと?お前ら…自分の胸に手を当てて考えてみろ……心当たりがないとでも?」

 

 神はエンデヴァーからの質問を質問で返していた…

 

 やはり《そういうこと》なのかと私は理解した…

 

 神は私とエンデヴァーにお怒りなのだと…

 

「どういうことだ!?俺はアンタに殴られる筋合いなんてない!」

 

「……はぁ……無駄な質問をしたな……え~っと『何のつもり』だっけか?そいじゃあ率直に答えてやる。オールマイト、エンデヴァー、お前ら2人への仕事はあの施設についた時点でスタートしとるんじゃ……んでその内容は…

 

『《一時間》…俺と戦って負けるな』…

 

それだけじゃ…」

 

「ッ!!!???ア…アナタを…相手に…」

 

「負けるな……ですと!!!???」

 

 

 

 

 

 神から告げられた今回の仕事の内容…

 

 それは…

 

 私とエンデヴァーの…

 

 《死刑宣告》にも聞こえた…

 

 

 

 

 

「そうじゃ、今回の仕事を依頼してきた本当の依頼主は…………お前らももう気づいとるじゃろうが《ヒーロー公安委員会の責任者》じゃよ。俺にお前ら2人へお灸を据えてくれと頼まれたんじゃよ!

(本当は《根津》と《リカバリーガール》、あと《グラントリノ》の3人からも念押しで頼まれたからなんじゃがのぉ…)」

 

「お灸だと……フザけるな!この《馬鹿》はともかく!何故俺までが!!!」

 

「こんな状況になってもお前はまだ分からんのかエンデヴァー………いいじゃろう…最初はこんな仕事やる気なんぞなかったが…こうなりゃ俺がテメェらのその《腐りきった根性》を徹底的に叩き直してやる!」ゴギッ!バキッ!

 

「叩き直すだと…フザけるな!いつまでも獅子王面(ししおうづら)をするな!この《老いぼれ》!!!」

 

「ゴラッ!!?誰が《老いぼれ》じゃ!!!俺はいつでも新鮮ピチピチじゃ!!!ボケッ!!!」

 

 神は首や拳をバキバキと鳴らして戦闘態勢をとった!

 

 私とエンデヴァーも瞬時に戦闘態勢を取った!

 

 神から感じされる殺気が私の肌をビリビリと刺激する……

 

 本能的に伝わって来るのだ…

 

 このお方は…私達を本気でブチのめそうとしているのだと…

 

 というかエンデヴァー!?神様を煽るのは止めてくれ!!?

 

 本気の神を相手に《一時間》…

 

 この場所に着いた時点で、既にスタートしてたとするのなら…先程施設内を10分程フラフラしてた時間を引いて…残る時間は《約50分》…

 

 

 

 

 

 元No.1ヒーローが相手とはいえ、現役No.1ヒーローとNo.2ヒーローが2人掛かりで戦うのだから、50分なんて余裕だろうって?

 

 

 

 

 

 ここは『YES』と答えるのが、現役No.1の私がするべき返答なんだろう…

 

 だがすまない…このお方が相手では…私の返答は『NO』だ…

 

 何故って?

 

 それは10分も経てば分かることさ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや…10分も経たない内にその答えが出てしまったよ…

 

 私にとってその10分は1時間以上にも匹敵したがね…

 

 なぜって?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10分も経たない内に…

 

 私とエンデヴァーは…

 

 ズタボロになって地面に倒れ伏せていたからだよ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ……!?…がっは!!……うぅ…」

 

「ぬぅ…!?ぐおっ…!!!…ごはっ!!」

 

「どうした?あと40分も残っとるぞ?現役のNo.1とNo.2はその程度か?」

 

 多少息切れをしているが、我々とは対照的に神にはまだまだ余裕がある様子だった。

 

 それに、私達が戦っていた《山》は削られて、いつの間にか《谷》になってしまっていた…

 

 たった10分で山が谷になるなんて信じられないだろうが…本当のことだ…

 

 24年前に引退なされた元No.1である《神》を相手に、《現No.1》と《現No.2(今回で最下位)》が2人掛かりで挑んでも全く歯が立たない!

 

 私の渾身の《デトロイト・スマッシュ》は《片手》で受け止められ、エンデヴァーの《必殺の炎技》は《拳圧》や《息》で吹き飛ばすという…なんとも人知を超えた強さ!

 

 やはり…この人の強さは現役時代から衰(おとろ)えてなどいないのだ!!!

 

「どうしたエンデヴァー?さっきまでの大口はもう言わんのか?」

 

「くっ!?…ぬおおおおお!!!」

 

 誰が見ても重傷な身体を無理矢理に動かしてエンデヴァーは立ち上がった!

 

「ほぅ立ったか…流石は実力だけでNo.2に登り詰めた男じゃのう…」

 

「ハァ…ハァ…こんなことをして……ハァ…何の意味があるというんだ…ハァ……ハァ……俺達を痛めつけて何の意味がある!ゴハッ!?」

 

「《痛めつける》じゃと?お前の奥さんや子供達が受けてきた《痛み》に比べれば、まだまだ序の口じゃぞ?」

 

「なっ!?なんでアナタに俺の家族のことを……ハァ……ハァ…口出しされなければいけないんだ!俺の息子は!…ハァ……オールマイトを…そしてアナタを超えるために!……ハァ…俺が長年かけて作り上げてきた!俺の《夢》なんだ!!!」

 

「それが子を持つ親の言うことか!!ふっざっけんじゃねえええ!!!!!」

 

「「ッ!!???」」ビクッ!!!

 

 神は怒号でエンデヴァーに返答した!

 

 エンデヴァーだけでなく、私もその怒号に身震いしてしまった!

 

「何故……何故《個性婚》なんて下らない真似をしたんじゃ!!!お前は!!お前は奥さんと子供も愛しとらんのか!!!??」

 

「ッ!!?結婚もしてなければ子供もいないアナタに何が分かる!!?」

 

「んなもん知るか!!俺には奥さんもいなけりゃ子供もおらん!俺が惚れた女は!生涯ただ1人じゃ!!!」

 

「だったらアナタに!親子のことでとやかく言われる筋合いはない!!」

 

「ああそうじゃ!確かに俺にはその筋なんてねぇ!!じゃがなぁ!こんな俺にだって!《自分の子供に愛情を注ぐことも、育てることも出来なかった奴の辛さ》くらいは分かるんじゃよ!!!」

 

「(っ!!?…神……まさか……それは…)」

 

「どういう意味だ!!?」

 

「俺が惚れた女は…俺の親友であり…プロヒーローであり…そして俺の…《初恋の相手》じゃ…」

 

「?」

 

「(…神……やはりアナタは…今でも《お師匠》のことを…)」

 

「じゃが…ソイツは既婚者じゃった…俺の恋はアッサリと散ったよ。じゃがなぁ…それでも俺はソイツが幸せなら!それでいいと思っとったんじゃ!………じゃが…ソイツの夫は…《ある凶悪なヴィラン》によって殺された!夫が殺されたことで、ソイツは我が子にそのヴィランの手が及ばないよう里子に出したんじゃ……その子の行方(ゆくえ)を知ってるのは《ソイツ》と《ソイツの盟友》だけ…今何処で生きとんのか全く分からん。……………くっ…!…いいかエンデヴァー!!!《自分が腹を痛めて生んだ我が子の傍にいること》も!《愛情を注ぐこと》も!《育てることも出来ないというのがどんなに辛いこと》か!そして!《親の愛情を貰えないことが、子供にとってどれだけ寂しいこと》なのか!子供を持つ父親のお前なら分かるはずじゃろ!!?どうなんじゃ!!!答えてみろ!!!」

 

「………フッ……アンタが惚れた女と言うのが誰かは知らないが……結局は子育てを放棄してまでヒーローの道を選んだということじゃないか……どちらも両立できないとはなぁ……その女こそ…親として失格じゃないのか?」

 

「なっ!?ぐっ!!エンデヴァー!貴様!!!」

 

 知らないとはいえ、お師匠を侮辱する発言をしたエンデヴァーに私は無理矢理起き上がって掴みかかろうとした!

 

 ……だが…私が動こうとすると、神は私に『動くな』と視線を向けてきたため…私は動かず大人しくした…

 

「……エンデヴァー…俺は昔、その親友から《未来の大切さ》を教えられた…」

 

「…ふん……それで俺にも…その女のように未来を大切にし…家族を愛して幸せに生きろというのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや…死んだよ……29年前…その《凶悪なヴィラン》に殺されてな…」

 

「ッ!!!??」

 

「(………お師匠…)」

 

 悲しみを圧し殺しながら神は言った…

 

 神は今でも…29年前のあの日のこと…

 

 後悔し続けているのだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●29年前…

 

 

 その日は…私にとって…永遠に忘れることない《運命の日》だった…

 

 お師匠と先生と私が…《あの男》と戦った決戦の日!

 

 その際、当時のNo.1ヒーローであった《神様》も協力してくれた!

 

 《神様》は《あの男の側近(右腕)》を相手に1人で戦い押さえ込んで、我々に活路を開いてくださった!

 

 《神様》は私達に『ヤツを倒せ!必ず生きて帰ってこい!』と激励してくれた!

 

 お師匠も先生も『当たり前だ!』と返答し、私は2人に着いていった…

 

 そして《あの男》との決戦が始まった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし……ことは上手く運ばなかった…

 

 お師匠と先生から事前に聞いていた《あの男》の強さは……明らかに桁違いだった…

 

 激戦の末…我々は追い詰められた…

 

 あの時…私もそうだが…お師匠も先生も既に限界寸前だった…

 

 あと一撃!強力な一撃を放つことが出来れば!《あの男》を倒すことが出来たんだ!

 

 だが…当時の未熟な私では…《あの男》に勝つための力はまだ無かった…

 

 窮地に追い込まれ…『ここまでか』と私が思ったその時!

 

 

 

 突然、先生は私を連れて《あの男》から逃げようとしていた!

 

 

 

 お師匠を置き去りにして…

 

 

 

『先生!?何を!まだお師匠が!!?』

 

『……ッ!!…』

 

 先生は何も答えてくれなかった…

 

 そして…お師匠も私達へ振り返ることなく…背を向けたまま…私達に指を差してこう言った…

 

 

 

 

 

『次は…お前だ……

(…俊典…後は頼んだよ………ごめんな…神(しん)………お前との約束………守れそうにない…)』

 

 

 

 

 

『お師匠ーーーーー!!!!!』

 

 お師匠が捨て身で時間を稼いでくれたおかげで…先生と私は逃げ切ることができた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな逃げきった私と先生を待っていたのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガッ!!!

 

『ぐおっ!!?』

 

『せっ!!先生!!!??』

 

 病院に運ばれた我々を最初に迎え入れたのは…重傷を負いながらも《あの男の側近》を倒してくれた《神》だった…

 

 しかし《神》は…傷だらけの先生を容赦なくブン殴った!

 

『神様!?いったい何を!?』

 

 私の呼び掛けに耳を傾けず、神は先生の胸ぐらを掴んで強引に立たせた!

 

『…神(しん)……』

 

『テメェ……どの面(つら)下げて…帰ってきやがった!グラントリノーーー!!!』

 

 ドガッ!!!

 

『ぐおっぼ!!?』

 

『先生!!?神様!!やめてくださ…ッ!!?』

 

 私は止めに入ろうとした……

 

 だけど神様の顔を見て…私は動けなくなってしまった…

 

 怒りに満ちた表情の神様が……

 

 泣いていたから…

 

『なぜじゃ!?どうしてじゃ!!?なぜ菜奈を見殺しにしたんじゃ!!?なぜアイツが死ななきゃいけなかったんじゃ!!?答えろグラントリノ!!!』

 

 こんなにも感情的に怒り狂う神様を…私は見たことがなかった…

 

『神(しん)……志村は俊典に……希望を…未来を託したん(ドガッ!!!)ぐごばっ!?』

 

『何が……何が《希望》じゃ!?何が《未来》じゃ!?それが菜奈を見捨てた理由か!?菜奈を見殺しにした理由か!?ふざけんじゃねぇよグラントリノ!!何が盟友じゃ!!くたばれ!この人殺しーーー!!!』

 

ボガッ!!ドガッ!!ドスッ!!ズガッ!!

 

『ぶえっ!!がほっ!!ぐへっ!!がは!!』

 

 神は何度も何度も先生を殴り続けた……

 

 だが…先生はなんの抵抗もせずに殴られるままだった…

 

 先生は顔を殴られる度に《血反吐》と《歯》が口から出てくるのを…

 

 私はただ見ていることしか出来なかった…

 

『もうその辺にしときな!仏野(ほとけの)!』

 

『リカバリーガール!!』

 

 先生を殴り続ける神を止めてくれたのは、リカバリーガールだった…

 

『2人(志村菜奈、八木俊典)を同時に失うわけにはいかなかった!《あの男》を倒すためには…《ワン・フォー・オール》は途絶えさせちゃならない!それはアンタも知ってるだろ!辛いのは…アンタだけじゃないんだよ!!!』

 

 リカバリーガールが止めに入ってなのか…神様は先生を離してくれた…

 

『………違う…』

 

『?』

 

『…違う!……違う!!違う!!!』

 

『?…神様?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『1番辛いのは…《菜奈の子供》じゃろうが!!!』

 

『『『!!!??』』』

 

 神の口から出た言葉に私も先生もリカバリーガールも驚いた!

 どうして神がお師匠の御家族のことを知っているのだ!?

 

『なっ!?なぜ!!アナタがそのことを!!?』

 

『…神(しん)……お前…』

 

『知ってたのかい……仏野…』

 

『あぁそうじゃ……知っとるよ……1年前に……俺がアイツに告白した時に…教えてくれたんじゃ…』

 

『こっ!?告白!!!??』

 

『『………』』

 

 驚愕した私と違い、先生とリカバリーガールは全然驚いてはいなかった…

 神様のお師匠への恋心……私は全く気づかなかった…

 

『1年前……俺はアイツに告白と同時に指輪を見せた……じゃが菜奈の返事はこうじゃった…『神(しん)……ゴメン!!!アンタの気持ちは本当に嬉しい!!!……嬉しいんだけど………実はさ……私…もう結婚してて…子供がいるんだ……だから…アンタの気持ちを受け取ることは出来ない…ごめんな!!!』…ってな……俺の一斉一代の告白じゃったのに…アッサリとフラれたんじゃ…』

 

 神様は悲しそうな顔をしながら…自分の失恋話をした…

 

『放心状態になった俺を…菜奈が励ましてくれた時に色々話してくれたんじゃ……《アイツの夫が《あの男》に殺されていたこと》……《我が子を危険な目にあわせたくない一心で自分の手で育てることを放棄し里子に出したこと》………そして《本当は自分がその子を立派に育てたかったこと》も……《もうヒーローを引退して…その子と一緒に平穏な日々を送りたいってこと》もな。………じゃが…その子が今どこにいるのかだけは…絶対に教えてはくれなかったがのぉ…』

 

『…お師匠……そんなにまで自分を追い込んで…』

 

『『………』』

 

 弟子であった私ですら知らないお師匠の《本音》と《弱音》を……神は知っていた…

 無言の先生とリカバリーガールの反応からするに…この2人もお師匠の事情を知っていたのだろう…

 この場にいる4人の中で《それ》を知らなかったのは……私だけ……

 

『俺の恋は終わった……じゃが俺は菜奈を嫌いにはなれんかった……俺はアイツのことが大好きじゃ………じゃから俺は1年前から…アイツにヒーローを引退するように何度も説得した……じゃがアイツは聞き入れてはくれんかった。じゃから……今回の戦い……《あの男》を倒せても倒せなくても…アイツにはヒーローを引退してもらうと約束させたんじゃ。……これからは…《1人の母親》として…我が子と一緒に…親子として生きてほしかった……………アイツは幸せになるべきだったんじゃ!!今まで大勢の人々を救ってきた!俺はアイツに……菜奈に幸せに生きてほしかったんじゃ!!!』

 

 神様は再び大粒の涙を流し始めた…

 

 神様はそんなにまで…

 

 お師匠のことを愛していた…

 

 お師匠に幸せになってほしいと願っていた…

 

 その思いと感情が決壊し…涙となって流れ出ていた…

 

『馬鹿じゃよ…あの女は………我が子の成長を見届けずに…死に急ぎおってからに…』

 

 神はお師匠に向けて…侮辱混(ま)じりの言葉を吐いた…

 

 でも…私はその言葉に抗議することが出来なかった…

 

 その言葉には…《侮辱》ではなく《悲しみ》の感情と…《幸せになってほしかった願望》という思いしかなかった…

 

 だから私も…グラントリノも…リカバリーガールも……なにも言えなかった…

 

 

 

 

 

 《ヒーロー》としてではなく…《1人のお母さん》として…我が子と一緒に暮らし…幸せな日々を送ってほしかった…

 

 それが神様の…1番の願いだったのだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てを話してくれた神様は、その後病院を飛び出した…

 

 そして…《冷たくなったお師匠》を連れて帰ってきた…

 

 神様はお師匠の遺体を何処かへと埋葬し…お墓を建てたようだが…

 

 私は1度たりとも…そのお墓へ行けたことがない…

 

 その場所を知るのは《神様》と《先生》の2人だけだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 29年前の出来事を私は思い出していた…

 

 神様がエンデヴァーに対して《途方もない怒り》をぶつけている理由…

 

 それは、我が子を育てることができずに亡くなったお師匠の《親としての責務を果たせなかった無念》…

 

 父親であるエンデヴァーが、妻と子供に愛情を向けず…あろうことか家族を《物》や《道具》として扱い…子供に自分の理想を押し付けて暴力をふるい…家族を泣かせてきた…

 

 神様はそれが許せないのだ…

 

「《強い個性の子供》欲しさに…奥さんの意思も関係なしに金の力で無理矢理結婚させ…産まれてきた子供達を個性で差別し…あろうことか我が子につまらん《理想》と《夢》を押し付けるじゃと!?何様のつもりじゃ!!お前は!!!」

 

 29年前と同じ……いや……あの時以上に神様は激情している…

 その迫力に…私もエンデヴァーも口を開けることが出来なかった…

 

「俺のせいか?俺があの時…お前に《No.1の座》を譲らなかったせいなのか!?だからお前はそんな馬鹿なことを仕出かしたのか!!?お前だって分かっとった筈じゃぞエンデヴァー!!…いや炎司!!!あの時どうして俺が!お前をNo.1に選ばんかったのか!?お前が一番分かっとる筈じゃろ!!!」

 

「ッ!!!??………」

 

「(神様が…エンデヴァーをNo.1に選ばなかった…理由?)」

 

「お前はその《答え》がなんなのか知っとったというのに、《それ》を受け入れようとせず…結果!間違った道を進んだ!」

 

ドガッ!ボガッ!ズドッ!ビダンッ!!

 

「どあっ!!がは!!ぐあ!!?ぶぼっ!!」

 

「どうじゃ!殴られると痛いじゃろ!蹴られると痛いじゃろ!叩(はた)かれると痛いじゃろ!今まで散々!!お前が奥さんと子供にしてきたことじゃ!!!」

 

 神様の攻撃がエンデヴァーに炸裂した!!!

 

 手加減はしているようだが…

 

 容赦なんて一切ない…

 

 エンデヴァーによって長年苦しめられてきた《エンデヴァーの奥さんと子供達》の痛みを思い知らせるかのように…

 

 神様はエンデヴァーに殴る蹴るを続けた…

 

 

 

 

 

 それから何分後だろうか…

 

 

 

 

 

 神様は満身創痍のエンデヴァーの胸ぐらを掴み片手で持ち上げた!

 

「……う………あぁ…………がぁ……」

 

 エンデヴァーはまだかろうじて意識を保(たも)っていたが、もはや反撃することも避(よ)けることも出来ない状態にされていた…

 

 

 

 

 

 そして…

 

 

 

 

 

「コレは自分の間違いを改善せずに、失望させた《俺》の分!!!」

 

ドガアッ!!!

 

「ごわあ!!!」

 

 

 

「コレはお前に散々人生を振り回された《お前の奥さん》の分!!!」

 

ズガアッ!!!

 

「どうっうぇ!!!」

 

 

 

「そしてコレが!お前によって産まれながらに!人生を弄(もてあそ)ばれ!未来への希望を奪われた!《お前の子供達》の分じゃ!!!頭冷やせ!!!この馬鹿親が!!!!!」

 

ボガアアアアアッ!!!!!

 

「ぐごああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!????」

 

 

 

ドガアアアアアアアアアアン!!!!!

 

 

 

「【ゴッド・ワーザー】!!!略して【神技(かみわざ)】!!!!!」

 

 

 

 神様の強烈な連続パンチを喰らったエンデヴァーは、トドメの強烈な一撃によってまた隣の山に向かって盛大(せいだい)に吹き飛ばされて再び激突した!

 

 死んではいないだろうが…重傷は確定だろう…

 

 エンデヴァーを吹っ飛ばした神様は、隣の山へ物凄いスピードで走っていき、すぐにボロボロになったエンデヴァーを担(かつ)いで私の所へ戻ってきた…

 

ドサッ

 

 乱雑に地面に置かれたエンデヴァーは…全身血まみれで虫の息状態…全身の炎は消え…白目を向き…完全に気を失っていた…

 

ポタッ

 

 そんな意識を失ったエンデヴァーの目から…1滴の涙が溢れ落ちたのを…私は見逃さなかった…

 

 

 

 

 

 《残り30分》…エンデヴァーは神様に敗北した…

 

 

 

 

 

「オールマイト……いや…俊典…」

 

「ッ!?……はい…」

 

「お前……俺がこの前言ったことを……理解してねぇのか…」

 

 この前と言うと…あの電話の件で間違いない…

 

 

 

 

 

『俊典…お前……アイツを………菜奈を裏切るのか…』

 

 

 

 

 

 私はこれから…緑谷少年にどう向き合い…償っていけばいいのか…その答えを自分では見つけられず…私の秘密(ワン・フォー・オール)を知る方々へ相談した際、神様にも電話をしたら…そのように返答された…

 神様も根津校長達と同じく《緑谷少年には関わるな》と言ってきたのだ…

 

 私はゆっくり立ち上がって神様と向かい合った…

 

「…十二分に理解しております……私は緑谷少年にかける言葉を間違えてしまいました……彼を絶望させ自殺に追いやってしまったのは…紛(まぎ)れもなく《私》です………今の私をお師匠が見たら…きっと失望することでしょう…」

 

「………」

 

「でも…だからこそ!私は深く反省し、あの日からずっと考えるに考えて答えを導きだしたのです!彼に《ワン・フォー・オール》を譲渡させ、新たなる《平和の象徴》に育て上げること!それが私に出来る…緑谷少年への唯一の償いなのです!私は……私の残りの人生の全てを!彼の育成へと注ぎたいのです!!!」

 

 私は自分の本心を嘘偽りなく全て語った…

 

 《ヒーロー》としてじゃない…

 

 《1人の大人》として…

 

 《子供の夢》を否定してしまった責任を取らなければならない…

 

 それしか…私に出来ることがないのだ…

 

 

 

 

 

 電話越しでは反対されたが…こうして面と向かって私の本心を話せば、きっと神様も理解してくださる筈!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……残念じゃよ…オールマイト………ちったぁ考え直してくれると信じとったが……期待した俺が馬鹿じゃったな…」

 

「えっ…?どう言う意味ですか?」

 

「『どう言う意味』じゃと?…自分で言っとって気づかんのか?お前もこの馬鹿親(エンデヴァー)同様に間違った道に進もうとしとるんじゃよ!」

 

「なっ!!?何をおっしゃるのですか!私はエンデヴァーとは違います!」

 

「違うじゃと?子供に自分の理想と夢を押し付けることの何処(どこ)が違うんじゃ?」

 

「ッ!!!??…ち…違います!!私は!?…私は……」

 

「『私は』?…なんだ?コイツ(エンデヴァー)と考えが違うと言いきれんのか?それにお前はコイツ以上にタチの悪いことを仕出かそうとしていることに気づかんのか?」

 

「?」

 

 ど……どういうことだ?

 

 私がエンデヴァーより最低なことをしようとしているなんて…

 

 神様はいったい何を言いたいんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…分からないようじゃな……ならお前の頭でも分かるような言い方に変えてやる!俊典!俺にはお前が……その無個性の子供に《個性を無理矢理与えて従わせようとしてる》ようにしか思えんのじゃよ!」

 

「ッ!!!??……そ…そんなこと……それじゃあ!?…それじゃあ…まるで!……まるで…」

 

「そうじゃ、お前のやろうしてることは………菜奈を殺した《あの男》と同じ………個性を強引に与えて無理矢理に服従させようしている……お前はそれをやろうとしているのか?…っと俺は聞いてるんじゃ!!分からんのか!!?」

 

「違う…違う違う違う違う違う…違う!!!私は!!!私は緑谷少年に償いを!!!ヒーローとしての…大人としての…責任をとらなければならn…」

 

「それはお前の都合じゃろうが!!?第一にお前はなんで被害者の子供が許してくれることを前提条件に話を進める!?なにが《償い》じゃ!なにが《責任をとる》じゃ!笑わせるな!!!『この世の中には人々が笑顔で平和に暮らしていくための《柱》が…《象徴》が必要』…お前は菜奈や俺にそう言っとったじゃろうが!!!奈菜はお前の覚悟を受け止めて、お前を信じたからこそ!《ワン・フォー・オール》を継承した!!!じゃがなぁ…菜奈は顔には出さなかったが、無個性のお前に《ワン・フォー・オール》を託すことは最後まで躊躇(ためら)い迷っていたんじゃ!なのにお前ときたら、そんな菜奈の苦悩も知らずに!被害者の子供の意思も関係なく!自分の一方的な都合で《紡(つむ)がれてきた個性(ワン・フォー・オール)》を無理矢理譲渡させようとしておる!断言してやろう!!お前がやろうとしてることは《オール・フォー・ワン》と同じじゃ!!!」

 

「うっ!!!!!?????」

 

 

 

 2度と聞きたくなかった《ヴィラン名》…

 

 それをよりによって神様から言われただけでなく…

 

 あろうことか…私がオールフォーワンと《同類》だと断言されたのだ!

 

 

 

「(私は……私は…自分で気づかぬうちに…《個性婚》よりも最低な過ちを犯そうとしていたのか…)」

 

 

 

 神様にここまで言われて……

 

 自分より強い人に言われて…

 

 やっと自覚できた…

 

 《ヒーロー》がどうだの《大人》がどうだのじゃない…

 

 それ以前に私は……《人》として大事なことを見失っていた…

 

 根津校長も…

 

 リカバリーガールも…

 

 塚内君も…

 

 先生も…

 

 ナイトアイも…

 

 私が自分で気づいてくれると信じていたのだ…

 

 《自分の一方的な考えこそが正しい》…なんて間違いを……私は今の今まで理解できなかった…

 

 

 

「俊典……聞くが菜奈はお前の夢を否定したことがあったか?」

 

「?…いえ……ありません…」

 

「じゃあ菜奈は、他人の夢を踏みにじるような愚かな女じゃったか?」

 

「なっ!!?神様!!いくらアナタでも!!お師匠を侮辱することは許しません!!!お師匠がそんなことする訳!」

 

「侮辱しとるのはお前じゃろうが!!!アイツは無個性のお前に『ヒーローになれない』なんぞ言ったのか!!?」

 

「ッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 私の《原点(オリジン)》……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは…とある冬の河川敷だった…

 

『みんなが笑って暮らせる世の中にしたい…この日本から犯罪が完全に無くならないのは…国民に拠(よ)り所がないからです。そのためには《平和の象徴》が……《柱》が必要なのです。………だから…僕がその《柱》となります!』

 

『だからヒーローになりたいと?無個性なのに?』

 

『…はい!』

 

『…でも…《アイツ》がNo.1になってからは、この国のヴィラン発生率は10%になっているぞ?』

 

『も、勿論!《あの方》のおかげで日本は平和な国になりつつはあるのは確かです!ですが!《あの方》は象徴とは少し違うと私は思うのです!』

 

『ん~…確かにそれは言えてる。アイツはお調子者(もん)だからなぁ』

 

『なので、僕が《平和の象徴》となります!そして《あの方》を越えるヒーローになってみせます!』

 

『…アイツを……神を超える?』

 

 

 

 当時の私は…我ながらあの場にいなかった現No.1に対して…余りにも失礼な発言をしてしまった…

 

 だが…私のそんな発言を…お師匠は…

 

 

 

『…………プッ!…ククッ!アッハハハハハハッ!!アイツを超えるだって!??そんなこと言って返り討ちにされた《個性持ちのヒーロー》は何人も見てきたけど、《無個性の人間》で神を超えようなんて言った奴はお前が初めてだよ!』

 

 無個性である私の無謀すぎる宣言をお師匠は否定しなかった…

 

『フフッ!面白い奴だな!八木俊典!お前、イカれてる!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだ……お師匠は私の《ヒーローになりたい夢》を否定はしなかった…

 

 お師匠無くして《今の私》はいなかった…

 

 《無個性だった私》に……手を差し伸べてくれた…

 

 お師匠は!私を選んでくれた!

 

 それは…私も望んだからだ!

 

 長きに渡り紡がれてきた意思……《ワン・フォー・オール》をこの身に受けつぐことを!

 

 

 

 それなのに私は…《緑谷少年への一方的な謝罪》と《許してほしいという願望》と《後継者にしたいという妄想》によって…自分を見失い…大切なことを忘れてしまっていた…

 

「俊典、お前はその子が無個性だと知って突き放しておきながら、事情を知った途端に受け入れようと《手の平返し》をする……お前はその時点で《ワン・フォー・オールを受け継いだ者としての立場》を見失っとるんじゃよ!罪から逃げようとするな!!!」

 

「わ…私は…緑谷少年に…償いを…」

 

「それが迷惑じゃと言っとんじゃ!!!自分の夢を否定した奴からの《施し》なんざいるか!!俺だったら全力でお断りじゃ!!!」

 

「……………」

 

 神様からの正論に私はもう…何も言えなかった…

 

ガシッ

 

 神様は無言となった私を…先程のエンデヴァーと同じく左手で胸ぐらを掴んで持ち上げ…右手を握り拳にして構えていた…

 

 

 

 これから私が神様から受けるのは《暴力》じゃない…

 

 罪を犯し…間違った道を進もうとしていた私が受ける《制裁》だ…

 

 

 

「俊典!コレは《菜奈の分》じゃ!お前も十分に反省しろ!!!この恩知らず!!!!!」

 

ドガアァ!!!

 

「ごっべええええええええええぇ!!!!!」

 

「【ゴッド・ジャッジメント】!!!訳して【神の裁き】!!!!!】」

 

 神様の拳骨を脳天に喰らった私の意識は…闇に沈んでいった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟焦凍 side

 

 俺には大切な家族がいる…

 

 お母さんと……姉さんと……兄さんがいる……

 

 もう1人兄がいたけど……俺が小さい頃にいつの間にかいなくなっちまった…

 

 だから今の俺にとっての大事な家族は3人だけだ…

 

 

 

 

 

 えっ?…父親はいないのかって?

 

 

 

 

 

 ………いる…

 

 

 

 

 

 俺の親父は《ヒーロー》をやっている…

 

 今の世じゃ知らぬ者などいない…

 

 ヒーローランキング2位…

 

 《フレイムヒーロー・エンデヴァー》…

 

 それが俺の親父だ…

 

 

 

 

 

 トップヒーローの息子で羨ましいって?

 

 

 

 父親がNo.2ヒーローで誇らしいだろうって?

 

 

 

 そんな家庭に産まれて幸せだろうって?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冗談じゃねえ!!!!!

 

 俺はアイツを《父親》だなんて絶対に認めてない!!!

 

 《家族》だなんて思ってない!!!

 

 ましてや!アイツと《血》が繋がっているなど考えるだけでも吐き気がする!!!

 

 俺にとっては永遠に絶ち切ることのできない《血縁》という名の《呪い》だ!!!

 

 そして、なにより!《幸せ》なんかじゃ断じてない!!!

 

 俺はアイツの子供として産まれて来たことを、5歳の頃から嫌と言うほど後悔してきた!!!

 

 

 

 

 

 9年前、俺の個性が発現して1年ほど経ったある日…

 

 俺は親父に家の中にある特訓部屋へ連れてこられた…

 

 

 

 

 

 その日から始まったんだ…

 

 俺にとっての《地獄》が…

 

 

 

 

 

 その日を境(さかい)に…姉兄と一緒にいることは許されず…親父が家にいるときは毎日のように《個性特訓》という《虐待》を受けてきた!!!

 

 決められた特訓の基準がクリア出来なければ、問答無用で《暴力》を振るわれた…

 

 最初こそ軽く叩く程度だったが、次第にエスカレートしていき…1ヶ月が経つ頃にはゲロを吐くまでの威力で殴られたし蹴られるようになった…泣いても喚(わめ)いてもお構い無しにだ…

 

 来る日も来る日も…それが続いた…

 

 思い出すだけでも忌々(いまいま)しい!!!

 

 俺は幼きながら自覚した…

 

 親父は…俺のことを愛してなんかいなかった…

 

 No.1ヒーローの《オールマイト》を超えたいという願望だけのために…俺は産まれてきたにすぎないんだ…

 

 俺は親父の《オモチャ》なんだってことに気づいたんだ……

 

 

 

 

 

 毎日毎日…傷や痣だらけになり…泣いてばかりいた俺を心配し庇ってくれていたのは《母さん》だった…

 

 だが…親父は母さんの言葉に聞く耳を持たず…俺を助けようとする母さんを邪魔者のように扱い…俺以上に母さんへ暴力をふるった!

 

 

 

 

 

 それからすぐのことだった…

 

 

 

 優しかった母さんは……変わっちまった…

 

 

 

 今でも母さんから受けた…あの《痛み》だけは忘れることができず…俺の身体に………この顔に……深く刻みこまれてる…

 

 

 

 

 

 それは母さんが台所で電話をしていた時…

 

『お母さん!!私もう限界!!日に日にあの子の《左側》が!あの人に似てくるの!!』

 

 悲痛な声を出しながら…必死に声を絞りだし…電話の相手に助けを求めていた…

 

 そんな折…俺が後ろにいることに気づいたのか…母さんは振り返った…

 

 《優しい母さんが初めて見せた怖い目線》は…俺の脳裏に焼き付いた…

 

 今でこそ…あの目から感じられたものが何だったのか分かる…《憎しみ》…《怒り》…《恨み》…《妬み》…《悲しみ》…そして《絶望》だ…

 

 そして…母さんが次にとった行動…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 母さんは俺の顔に《煮え湯》をかけた………

 

 熱いなんてもんじゃなかったよ…

 

 俺にとって…それは一生消えない《心の傷》になった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛みと熱さに泣き叫ぶ俺の叫び声を聞いてか…正気を取り戻した母さんは慌てて個性を使い俺の顔を冷やしてくれた…

 母さんは大泣きしながら…何度も…何度も…何度も…俺に謝っていた…

 でも…あの時の俺は顔からの《痛み》で何も考えらず…ただ泣き叫ぶことしか出来なかった…

 

 

 

 それから間もなくして…母さんは俺の前から姿を消した…

 度重なるストレスによって《ノイローゼ》になってしまい、親父が強制的に母さんを精神病院へ入れたのだ…

 

 母さんがいなくなって…俺は悟った…

 

 俺は親父の意のままに動く《生きた人形》になるしか道はないんだと…

 

 そうしないと…また母さんが傷つき…いつか壊れてしまう…

 

 それだけじゃない…俺が姉さんと兄さんに助けを求めれば…今度は親父の暴力が姉さんと兄さんに向けられて壊されてしまうかもしれない…

 

 それだけは絶対に阻止しなきゃならなかった…

 

 当時の俺には余裕なんてなかった…それこそ兄が1人いなくなったことにも気づけないほどに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから俺は親父のいいなりになった……

 

 《母さん》を……いや《俺の家族》を《親父》から守るために……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな地獄の日々を送り続け…9年の月日が流れたある日(つい最近)…

 

 唐突に俺は………俺達《家族》は……親父から解放された…

 

 《それ》はなんの前触れもなく訪れた…

 

 ことの発端は大きく分けて《2つ》……中学の3年生になってからすぐに起きた《ヘドロのヴィラン事件をオールマイトが解決した事件》と《同い年の無個性の子供が飛び降り自殺を図った事件》だ…

 

 オールマイトがヴィラン事件を解決することも、無個性が自殺を図ることも、この御時世(ごじせい)では珍しいことじゃない…

 

 だけど、俺達(家族)にとって事態が急変したのはその数日後、自殺を図ったっつう無個性の中学生が通う《中学校教師達の謝罪会見》と、ヘドロヴィラン事件に立ち合った《オールマイトを含めたヒーロー5人の謝罪会見》が生放送されていた時だ…

 

 

 

 

 

 いったいどうやって俺達の情報を調べたかは知らねぇが……俺の家のこと…《親父の俺達(家族)にしてきたこと》が世間に公(おおやけ)にされた…

 

 俺も最初は夢か幻かと信じられなかった!

 

 だけど現実だった!

 

 TVのニュースに表示されている内容は、アイツが今まで俺達(家族)にしてきた仕打ちの殆ど(1番上の兄貴のこと以外)が記され報道されていた!!!

 

 続けて自分の事務所前に集まったマスコミや取材陣の対応をするアイツの姿が映し出された!平静を装(よそお)っていたが…どう見ても慌てた様子だった!

 

 それもそうだろう…アイツは色んな手(手段)を使って、家庭内での情報が外へは絶対に漏れないよう手を回していた…《児童相談所》や《警察》や《マスコミ》などに知られないようにと…

 

 

 

 

 

 その日を境に…俺達への待遇は大きく変わった…

 

 母さんがどうしてるかは知らないが、ご近所さんや…姉さんが勤める小学校で…兄さんが通う大学…そして俺が通う中学校にて、周囲の人達が俺達への《同情の言葉》をかけてくるようになった…

 俺達はてっきり批判を受けるばかりだと思ってたため多少戸惑いはしたが…マスコミやメディアが絡んでくることに比べたら気にする程のことでもなかった…

 

 更にヒーロー協会からの通達で、アイツは次のビルボードチャートでヒーローランキングを《2位》から《最下位》へ格下げされることが決定された…

 そしてもう1つ…俺達にとっては願ったりかなったりのアイツへの厳罰…《ヒーローランキング10位以内に戻らない限り、俺達(身内)への接触を一切禁じられたこと》…それを破った場合ヒーロー免許を永久剥奪されるという厳罰も決定された…

 

 

 

 

 

 自分の親がヒーローで《ランキング》が下がったなら…その身内にとっては《不幸》の筈だ…

 

 でも俺個人は何一つ《不幸》だとも《災難》だとも思わなかった…

 

 

 

 

 

 なぜって?

 

 

 

 

 

 アイツにとっての《不幸》は、俺にとっては《幸せ》だからだ!!!

 

 俺はアイツに対して《父親》としても《ヒーロー》としても《尊敬》なんて感情を思ったことが一度たりともねえ!!!

 

 むしろ《当然の報い》としか思ってねぇんだよ!!!

 

 それは夏兄も同じだったようで…

 

 

 

『天罰がくだったんだ!ざまぁ見ろクソエンデヴァー!!!』

 

『隠しに隠してきた自分の極悪非道の悪事が世間に晒されたんだ!トップ10以内なんて一生戻れやしねぇんだよDVヒーローが!!』

 

『焦凍!俺達は!…いや!お前はアイツから解放されたんだ!!もう個性特訓を強制されることなんてない!!お前はもう自由なんだ!!!』

 

 

 

 夏兄は今まで見たことがないくらいに大はしゃぎで喜んでいた…

 

 いつからだったろうか…夏兄は親父のことを『親父』とは絶対に呼ばない。いつも『アイツ』とか『あんな奴』とか『エンデヴァー』としか言わない……それこそ赤の他人としか認識してないように…

 それも当然と言えば当然、親父は俺のことは名前以外で『最高傑作』と呼んでいた……だが他の姉弟のことは『失敗作』と呼んでいた…

 

 《世の中の父親が自分の子供に向ける愛情》がどんなものなのかは、俺には分からねぇけど…少なくともアイツが俺達にしてきたことが《父親としての愛情》じゃねぇってことだけは断言できる!

 

 

 

 なのに何故か姉さんだけは喜ぶ素振りなんて一切見せず……むしろ悲しそうな表情していた…

 時折…自宅では姉さんの泣いている声が聞こえる…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのクソ親父から解放されて2週間近くが経った今日、急遽1ヶ月早まって開催されるビルボードチャートJP上半期…

 去年までは俺と夏兄は、見る気なんて1㍉たりともなかったが、今日は家で姉さんと夏兄と一緒に居間のTVで生放送を見ていた。

 

 

 

 どうして見る気になったのかって?

 

 

 

 今回のチャートにて親父は《最下位》にされる……だから本来アイツが出ることはねぇんだが、どうもアイツは今回のビルボードチャートに出席するようにヒーロー協会から呼び出しを受けているらしい…

 詳しいことは俺も知らされてねぇが、どうやら《世間の色んな団体》から《謝罪会見》を求められたとかなんだとかで、全国が注目する会場にて謝罪をすることになったらしい。

 

 アイツの俺達への仕打ちが世間に晒されて以来……ずっと苦労の絶えないの日々を送っていた………

 いや違うな…そんな《踏んだり蹴ったり》の思いをしているのは…アイツの事務所に勤める《サイドキック達》の方か…

 

 言うまでもねぇだろうが…アイツの親としての本性を知られるや否や、評判がガタ落ち、失望した社員達が次々と事務所を去ってあっという間に半分以下になって、《世間からの苦情電話》や《押し掛けてくるマスコミ》の対応がまったく間に合っておらず、残ったアイツのサイドキック達は《ヒーローの仕事》よりもそっちの対応で、肉体的にも精神的にも追い詰められてるらしい…

 

 当の本人のクソ親父は、全国を飛び回って《ヴィラン退治》に勤しんでやがる始末…

 

 面倒事のすべてをサイドキック達に押し付け、自分は《事件解決率》の数値を少しでも上げて、1秒でも早く俺達の元へ………いや…正確には《俺の個性特訓》に戻りたいだけっつぅ《願望》を叶えたいだけ…

 

 

 

 救いようのねぇクソ親父であり…とんでもねぇブラック企業の社長だ…

 

 そう遠くない内に…アイツの事務所にはサイドキックどころか社員なんて誰も居なくなるだろうよ…

 

 

 

 

 

 っと…話がズレちまったな…

 

 つまり俺達3人が今回のヒーロービルボードチャートをTVで見ようと思ったのは《アイツの謝罪会見》が目的だ…

 

 姉さんは違うだろうが、俺と夏兄は世間を騒がせた1人であるアイツがどんな謝罪をするのかを見て、その上でアイツが会場にいる人々からバッシングなどを受けるサマを見るためだ…

 

 こちとら散々アイツには苦しめられてきたんだ…父親だろうが関係ない…アイツの苦しむサマを俺が見たってバチは当たらねぇだろ…

 

 

 

 

 

 そんなこと考えているとTVの向こうで今年最初のビルボードチャートが開催された。

 

 どうやら今年から《トップ10(1位~10位)のヒーロー》達は、必ず出席とステージへの登壇、ヒーローとしてのコメントが求められるらしい。

 

 No.10から順番に1人1人名前を呼ばれていくトップヒーロー達。

 アイツの後釜の席としてNo.2に位置付けられた《ベストジーニスト》の名前が発表され、遂に1位が発表される。

 ベストジーニストが2位ならば1位はあの人しかいない…

 

『そして!2週間前の一件があってもなお!その順位は揺らぐことのない不動の1位!会場の皆さん!盛大な拍手でお出迎えください!

No.1!平和の象徴!《オールマイト》!!!

…………あれ?……オールマイト?』

 

 何やら様子がおかしい、名前を呼ばれてるのにオールマイトが出て来ない。

 

「どうしたんだ?」

 

「何かあったのかしら?」

 

 夏兄と姉さんもオールマイトが登場しないことに不信をもち始めた。

 No.1ヒーローが予定を忘れるとは思えないし、いったい何が起こってるんだ?

 

 

 

 

 

 そんな疑問を持つ俺達に、TVから衝撃の内容が報道された!

 

 

 

 

 

『え~~~っと…皆さん…大変申し上げにくいのですが……先程ヒーロー協会より緊急の知らせが入りまして……本日いらっしゃるはずだったオールマイトさんとエンデヴァーさんは………来られなくなってしまったようです…』

 

「っ!!?」

 

「えっ!!?」

 

「なんだと!!?」

 

 あのクソ親父に加えてオールマイトまで来てないと発表されて訳が分からなかった!??

 俺達もそうだが、会場はそれ以上にパニック状態になっていると…

 

『皆さん…静粛にしてください』

 

 アナウンサーとは違う女性の声が突然聞こえてきた。

 

『オールマイトとエンデヴァーの件につきましては、ここにいらっしゃった《No.10》から《No.2》のヒーロー達のインタビューのあとに、私から詳細をご説明いたします。ですので、どうぞ皆様…静粛にお願いいたします』

 

「この金髪の人って……確かヒーロー公安委員会のお偉いさんだったような?」

 

「やっぱり…2人に何かあったのかしら?」

 

 夏兄と姉さんがそれぞれ疑問符にかけてるのをお構いなしに、会場ではNo.10の《ラビットヒーロー・ミルコ》から順番にコメントが始まっていき、No.4の《忍者ヒーロー・エッジショット》のコメント中にNo.3の《ウィングヒーロー・ホークス》が割り込んできて、正論を長々と語っていた。

 

 俺はそこまで詳しくは知らないが、ホークスは別名《神の後継者》とも呼ばれているらしい。神っつっても、それはオールマイトの前のNo.1ヒーローのことだ。なんでもその《神》はヒーローの歴史上最速最年少でNo.1に登り詰めた男のようで、俺どころか姉さんが産まれる前に引退しており、今は雄英と肩を並べる士傑高校の校長を勤めてるそうだ。

 そしてホークスは、神と同じくデビューしたその年の下半期でトップ10入りを果たしたことから《神の後継者》と世間から言わられてるそうだ。とは言え、神の最速No.1記録を塗り替えることは出来なかったようだが…

 

 俺がホークスの2つ名の由来を考えてると、TVの向こうでホークスはベストジーニストにマイクを渡した。

 

 俺がこんなこと思うのは変だが…ベストジーニストには申し訳なく思ってる…

 オールマイトが今回もNo.1を維持することは大体分かってたが、ベストジーニストはあのクソ親父が長年居座ってた《No.2の座》に位置付けられたことは、名誉なことなのかと悩まされる…

 そんなことを俺が気にする必要はないかもしれないが……それでも何故か……後釜としてNo.2にされたベストジーニストは居心地が悪いんじゃないかと考えてしまう…

 オマケに何故かオールマイトは欠席で、トップヒーロー達のコメントの締めくくりを押し付けられてしまった状況だ…

 

 俺も姉さんも夏兄も罪悪感にかられる…

 

 そんな折…ベストジーニストが言った発言は…

 

 

 

 

 

『ふぅ……後輩にここまで言われては…先輩ヒーローとして…私から皆さんへ伝えることは1つです……………私達を…信じてくれ…』

 

 

 

 

 

 ベストジーニストが言ったのはそれだけだった…

 でも俺は…素直に『カッコいい』と思えた…

 彼のヒーローとしての《強い覚悟》が伝わったからだ…

 

 あのクソ親父には…ベストジーニストのような《覚悟》はあったのだろうか?

 

 ベストジーニストに向けられた会場の拍手が終わると、さっきの金髪の女性が再びステージの中央にやって来た。

 オールマイトとクソ親父のことを話す前に、何やら重大な発表が3つあるそうだ。

 

『まず1つ目、若手ヒーロー達の確保ために、過去《仮免試験》にて惜しくも合格を逃した受験者の方々へ、ご希望があればもう一度《仮免試験》を受験させること。そして、ヒーロー高校に通っていない生徒達にも、個性を生かした《救助活動》《避難誘導》《ヒーローのサポート》という立場での《プロヒーロー》の就職を許可することを決定いたします』

 

 1つ目からいきなりヒーロー社会の常識を壊す内容だった!!

 俺達で例えるのなら、医者になるために勉強している夏兄にだって《ヒーロー免許》を手に出来る可能性があるってことだ。

 まぁ夏兄は俺以上にアイツを憎んでるから…アイツと同じ立場の《プロヒーロー》になるのだけは絶対にないけどな…

 

『次に2つ目、実践経験と現場経験をふまえたベテランヒーロー達の代役として、警察と自衛隊などに所属する方々に、ヒーロー協会からの試験を受けていただき、その結果次第で《個性使用許可証》の配布をいたします』

 

 2つ目の内容は、俺達に対してはそこまで関係ないことだ。でも…そこまでの無謀な手段を使わなければならないほどに、今のヒーロー社会は追い詰められているってことだ。

 

 ヒーローが減少している原因の大部分が、あのクソ親父のせいだからな…

 

 一応は身内である俺達も絶対に関係ない訳じゃない…

 今はアイツだけに向けられてる多くの《負の感情》だって、俺はともかく…母さんと姉さんと夏兄に向けられるんじゃないかって俺は不安な気持ちになる…

 

 

 

 最後に3つ目に発表された内容は…

 

『そして3つ目は、皆さんもご存知だと思いますが、現在この社会のバランスは不安定になっております。それに加えて、20年以上トップヒーローとして君臨していたヒーロー1名が本日よりトップの座から下ろされました。国民の方々は、平穏が崩されたことに不満を持たれてることでしょう……そこで我々はこの状況を打破するため…1日も早く皆さんの平和な日々を取り戻すための最善策を導き出しました』

 

 そんなことは当たり前…言われなくても誰だって分かってる…

 そう……分かってるからこそ、誰もが『これからどうすればいいのか…』っていう解決策が見つけられずにいるんだ…

 《壊すのは簡単だが…元に戻すのは決して簡単じゃない》、この日本には《平和の象徴》である《オールマイト》がいるからヴィラン発生率も低く平和なんだ…

 しかし、2週間前の《No.1ヒーローらしからぬミス》が報道された途端にヴィラン発生率が目に見えて上がってしまった…

 世間で暴れだしたヴィラン達は口を揃えて『ヒーローの衰退』『オールマイトも完璧じゃない』と言って悪事をしていると、ニュースで聞いたからな…

 

 こんな状況を打開出来る策なんてあるわけ…

 

『降格したエンデヴァーの代役、そしてヴィラン発生率を下げるため………先代のNo.1ヒーローである《ゴッドヒーロー・神》を一時的に復帰させることを決定いたしました』

 

「ん?」

 

「え?」

 

「は?」

 

 突然聞こえてきた《元No.1のヒーロー名》に俺も姉さんも夏兄も思考が停止した…

 

 

 

 それから数秒後に、画面の向こうの会場で人々がざわめきだした。予想外の発表だったのか会場にいる大勢の人達だけじゃなく、ステージに登壇した9人のトップヒーロー達も明らかに驚愕している様子だった。特にNo.5の《ヨロイムシャ》は相当驚いたようで、腰を抜かし尻餅をついていた。

 俺もついさっきホークスのことを考えた時に《元No.1》のことを頭に浮かべた……

 でも俺も姉さんも夏兄も別にそこまで驚きはしてない…

 

 

 

 なぜって?

 

 

 

 噂で色々聞いていても、俺達の世代じゃ《神》ってのが《どんな人物》かは知らないからだ。

 

 それに年齢だってオールマイトやクソ親父よりも年上で既に50歳は過ぎており、ヒーローを引退して20年以上も経過している。

 いくら《元No.1ヒーロー》とはいえ、そんなにブランクがある人を復帰させて大丈夫なのかと俺は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが…そんな悩みや心配事は、このあとのヒーロー公安委員会の偉い人の発言で吹き飛んじまった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 TVの向こうでは、ヒーロー公安委員会の偉い人に、黒スーツにサングラスをした男が耳打ちで何かを伝えていた。

 

『…………』ヒソヒソヒソヒソ

 

『……コホンッ…皆さん、突然ですが前もってお伝えしていた《オールマイトとエンデヴァーの欠席理由》をお伝えいたします』

 

 黒スーツの男が離れていくと、急に話が変わった。

 

 《ベストジーニストのコメント》と《3つの報告》で頭から少し抜けてたが、俺の本命はそれだ。

 

 なんであの2人が突然欠席したのか…

 

 

 

 

 

『簡潔に述べましょう、先程までオールマイトとエンデヴァーの2人は……神と戦っていました』

 

 

 

 

 

 はっ?………今……なんて言った?

 

 固まった俺達3人を置いて話は進む。

 

『皆さん落ち着いてください、《戦っていた》と言っても、それは我々ヒーロー公安委員会が《神》に依頼して《エンデヴァーにお灸を据えさせること》が目的でした。その立会人としてオールマイトが同行しております』

 

 耳に入ってくる情報を処理しきれねぇ…

 

 元No.1にクソ親父を叱らせる…

 

 んでオールマイトはそれに立ち会ってる…

 

 自分で解釈してなんだが…訳が分からねぇ…

 

『そして先程連絡が入りました。神から『エンデヴァーへの叱り付けは終わった、ついでにつまらないミスをしたオールマイトも厳しく叱っておいたぞ』…っとのことです。現在2人は病院に搬送され手術を受けています』

 

 前の内容が纏まってねぇのに、それを混乱させるかのように追撃の内容が発表された。

 

 しかも言葉の内容から《元No.1》は、《現No.1》と《元No.2》の2人を相手に勝利したって言ってるのだ!

 オールマイトとクソ親父の2人を相手に《病院送り》にするなんざ常識では不可能……

 

 でも…《神》に常識は通用しない…

 

 これを驚かずして、いつ驚けってんだ!

 

 姉さんと兄さんも今日一番に驚愕している!

 

 

 

 

 

 何で驚いてるかって?

 

 俺が心の中で驚いているとしたら、さっきは《年齢》だの《ブランク》だの考えていたが…

 

 今はただ《神》は強いんだってことを認めようとしているからだ!!!

 

 

 

 

 

 その後は長々とした演説が有ったのち、今年のビルボードチャート上半期は幕を閉じた…

 

PRRRRR…PRRRRR…PRRRRR…

 

 そしてタイミングが狙ってなのか、ビルボードチャートの中継が終わった途端に、居間に置いてある電話(ヒーロー協会から提供されていた専用の電話)が鳴った。

 電話の近くにいた姉さんが電話に出た。

 

「はい…もしもし……はい、轟家の者です………はい………はい………はい………はい………えっ!?お父さんが!?……はいっ……分かりました……御連絡ありがとうございます…」

 

ガチャ

 

 姉さんは電話越しに話をしながら表情を何度か変えて電話を切った。

 

「………」

 

「…姉さん?」

 

「ヒーロー協会からだったんだろ?アイツがなんだって?」

 

 姉さんは難しい顔をしながらも、電話の相手と話した内容をポツポツと語ってくれた…

 

 これは世間には口外されてない内容らしく、他言無用にするようにということで、ヒーロー協会は《ことの顛末(てんまつ)》を教えてくれた…

 

 

 

 今から約2週間前の4月頭に起きた《事件》を始まりに、《この国の平穏》と《ヒーロー社会のバランス》は不安定になった…

 

 その元凶は大雑把に分けて3人…

 

 

 

 1人目は、俺と同い年で無個性の同級生を自殺に追い詰めたっていう《爆豪 勝己》だ。

 俺はソイツに興味ねぇから詳しくは知らねぇが、世間じゃ《歪んだ個性社会が産み出した無個性差別ヴィラン》なんて言われ、今じゃ1日1回は必ず耳にする名前で…俺が聞いたソイツの汚名は《存在そのものが罪の子供》…と聞いた…

 

 2人目は、ことの始まりとなった《ヘドロ事件》を《うっかりなミス》で起こしてしまった《オールマイト》だ。

 No.1……平和の象徴とは思えぬ失態によって、ヒーロー全体の信頼が揺らぎ、人々は不安を隠しきれてない…

 

 そして3人目は……あの《クソ親父》だ…

 俺達にしてきたことが世間に知られ、国民だけじゃなくヒーロー全体に大きな打撃を与えた……特に《家庭を持つヒーロー》や《結婚を控えたヒーロー》には多大な迷惑をかけ……その他に《若いヒーロー達が大人数で引退した件》もある…

 

 

 

 3人の元凶の内、ヒーローが2人もいる……こうなってしまっては生半可の手段での早期解決は望めない…

 

 だが1つだけ確実な方法があった、その全ての解決策としてヒーロー協会が出した答えは《元No.1ヒーローの復帰》だ。

 

 説得には相当骨を折ったらしいが、《オールマイトの旧友だが何だか》からの説得もあり、結果《1年間だけの復帰》を了承してくれたようだ。

 

 その《復帰の肩慣らし》という言い方はアレだが、《現在の神の実力》を世間に知ってもらうために広告塔としてオールマイトとクソ親父を利用し、《叱りつけること》と《反省させること》を考慮して2人を病院送りにしたそうだ…

 

 因みに病院へ運ばれたアイツの容態は…《全身打撲複雑怪奇骨折》っつう、常人だったら普通は死んじまう重体だってよ…

 前もって病院に待機してた名医のリカバリーガールは命を取り止める最低限の治療はしてくれた………しかし、彼女もアイツの愚行には怒り呆れてたようで、それ以上の個性を使った治療は断念したのだ…

 それはリカバリーガールだけじゃなく、《ヒーロー協会の上層部》と《今回の件を知っていた4人1組のヒーロー集団》…そして《アイツの残り少ないサイドキック達》も了解し、アイツには反省期間として長期入院をさせることが決まったらしい…

 

 

 

 

 

 それからも話を聞いていくと、クソ親父を神に会わせるための釣るエサとして《俺達に会えない厳罰の解除》をエサにしたそうだ。

 最初にそれを耳にした時は『何を勝手な約束をしてるんだ』と、俺と夏兄はヒーロー協会に対して怒りをもった…

 でも現実、クソ親父は神に敗北して逆に《厳罰》の条件がより厳しくされて、《No.1ヒーローにならない限り俺達には会えないこと》が決まった。

 その絶対の証拠して《契約書(本名と実印込み)》もあるらしい。

 

 

 

 

 

 

 全てを聞き終えた俺達は…

 

「うっ……うぅ…」ポロポロポロポロ…

 

 姉さんはその場に座り込み、両手で顔を覆いながら静かに泣き出した…

 俺には分かる……姉さんが流してる涙は《嬉し涙》じゃないってことを…

 姉さんは…こんなバラバラの家族が…いつの日か《全員が仲良く暮らす》なんて…夢のまた夢の未来をずっと望んでいた…

 でも…その未来への可能性が砕け散り…万に一つも叶わないと確信したことで《悲しみの涙》を流しているんだ…

 

「は…ははは……アハハハハハハハハッ!…無様だな…エンデヴァー、自分が憧れた《元No.1》には痛め付けられるわ!《リカバリーガール》にも《ヒーロー協会》にも《自分のサイドキック》にも見捨てられたなんざ!呆れるのを通り過ぎて泣けてくるぜ!まぁ全部がテメェの日頃の行(おこな)いのせいだがな!!!………」ポロポロ

 

 姉さんとは真逆に、夏兄は狂ったように笑いだしてこの場にいないクソ親父に向かっての皮肉と暴言を叫んだ…

 

 …っと思ったから急に静かになって…夏兄も泣き出した…

 

「これでやっと……燈矢兄も浮かばれる………そうだ!燈矢兄へ報告してこねぇと!」

 

 夏兄は涙を拭(ぬぐ)いながら居間から出て行き、《仏壇が置いてある部屋》に走っていった…

 

 

 

 俺はどんな気分だって?

 

 

 

 ……俺も少しだけ心がスッとしたよ…

 

 でも夏兄程までに…喜びを露にすることは出来ない…

 

 

 

 何故って?

 

 

 

 …アイツは重傷を負いながらも生きている…

 

 …アイツが生きてる限り…俺は……いや俺達はアイツから解放されることはない…

 

 …半年もすれば…アイツはすぐにでもヒーローとして復帰する…

 

 …世間からどれだけ叩かれようと…アイツは自分の《腐りきった性根》によってヒーロー活動を始める…

 

 …アイツはどうしようもないクズだが…それでも実力でNo.2に登り詰めたのは事実…

 

 …この世に《絶対》なんてない…

 

 …今後《アイツがNo.1になれない》という保証はない…

 

 …どれだけの時間がかかろうと…アイツは《No.1》を……いや《厳罰の解除》を目指すに決まってる…

 

 

 

 また俺達を苦しめるために…ここへ戻ってくる気なんだ…

 

 俺達(自分、母親、姉、兄)は…アイツから完全には解放されていない…

 

 だから俺は…夏兄のように喜びに浸(ひた)ることは出来ないんだ…

 

 

 

 

 

 そう考えていた時…

 

 ふと俺の頭に《簡単かつ単純な解決策》が浮かんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『俺がNo.1ヒーローになればいいんじゃないか?』…と…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは…とてもシンプルな解決法だった…

 

 今はオールマイトが《No.1の座》に鎮座してくれるから、アイツがNo.1になることは絶対にない!

 でもオールマイトは親父よりも歳上……いくらトップヒーローでも年を重ねれば老いて…いずれは引退してしまう…

 

 ならば俺がオールマイトの後を次いで、No.1ヒーローになれば《親父が俺達の前に現れること》も《この家の敷居を跨(また)ぐこと》も一生ない!

 

 なんでそんな簡単なことをすぐに思い付かなかったんだ!

 

 

 

 えっ?…俺がNo.1ヒーローを目指すのは親父の《思う壺》じゃないかって?

 

 

 

 確かにそうかも知れねぇが…それはアイツのためなんかじゃ断じてねぇ…

 

 アイツに2度と会わねぇために…

 

 アイツのいない日々を守るために…

 

 アイツの顔を2度と見ねぇために…

 

 お母さんと姉さんと兄さんを……俺の家族を守るために…俺は《No.1》にならねぇといけねぇんだ!

 

 そして親父を否定するために!

 

 俺は右(母さんの個性)だけで強くなる!!!

 

 

 

 それを決心した時、俺の進むべき道と目標が決まった!

 

 

 

『2度とアイツと関わらないために!アイツと赤の他人となるために!そして俺の家族を守るために!俺はNo.1ヒーローを目指す!!!』

 

 

 

 それが俺の夢になった!

 

 

 

 

 

 あと…どこの誰かは知らねぇが…いつか会えるのなら…俺達から親父を遠ざけてくれた…《俺達の家庭事情を世間にバラまいた奴》に…俺は心から感謝の言葉を伝えたい…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●とある廃墟…

 

 

??? side

 

『今回の件…《身内》の情報を提供してくれた《君》には…本当に感謝しているよ…』

 

「別に…どうってことはない…」

 

 人気のない廃墟にて…《ツギハギだらけの男》がノートパソコンを通して《ある男》と密会していた…

 

『僕としては予想以上の成果だよ……ここまで社会が混乱してくれるとは…』

 

「…これはまだ《序章》…アイツを絶望させるための御膳立てだ…」

 

『フフフッ…その通りだね……その為に《君》の情報だけは伏せたんだ…』

 

「アイツを地獄の底に突き落とすのは俺だ………俺もアンタには感謝してる…手間を掛けさせたな…」

 

『な~に…これくらい容易(たやす)いことだ…』

 

 未だヒーロー協会が血眼になって探している《エンデヴァーの家庭事情を公にした犯人達》は、この1ヶ月でのヒーロー社会の変わりようについて語り合った…

 

『気が変わったらいつでも僕達の元へおいで…その時は歓迎するよ………轟 燈矢君…』

 

「その名前は捨てた……今は荼毘だ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●ヒーロービルボードチャートJP会場の外…

 

 

None side

 

 衝撃の連発ばかりだった今年度のビルボードチャート上半期は終了した。

 

 会場から出てくる人々の中に、《猫耳メイド服》を着た4人組の女性達(?)がいた。

 

「今回は驚愕の連続だったねぇ」

 

「いきなり1ヶ月も開催が早まったのも驚いたけど、トップ10のヒーロー達が登壇することになったのも驚いたニャン!」

 

 水色の猫耳メイド服を着た女性の《ピクシーボブ》と、黄色の猫耳メイド服を着た緑髪の女性の《ラグドール》が話し始めた。

 

「でもトップヒーロー達の覚悟が本物だってことを知る良い機会だったじゃない」

 

「ベストジーニスト……奴はこの国の人々が本当に求めているものが何なのかを十分に理解している…」

 

 赤い猫耳メイド服を着た女性の《マンダレイ》と、茶色の猫耳メイド服を着た巨漢な男性の《虎》も話しに加わった。

 

「ベストジーニストさんも災難よね、急に大トリを押し付けられちゃったんだから」

 

「今回は《トップヒーローの番付》が完全にオマケみたいになってた気がするニャン」

 

「そりゃ会場に来てた半数以上のヒーローは、《エンデヴァーさんの謝罪会見》を目的で来てたんだからね」

 

「昨日まで県外にヴィラン退治へ行っていたようだが、見方を変えれば《謝罪会見から逃げていた》だけなのだな……本当にどうしようもない男だ。……そんな男に少しでも憧れを持っていた自分が恥ずかしい…」

 

「気に病むことはないわよ虎、腐っても《実力だけでNo.2に上り詰めた男》なんだし、憧れてた人だって大勢いたわよ。もう誰もいないでしょうけど…」

 

「あんな酷い家庭環境が白日の元に晒されちゃったんだし、ファンだっていなくなるニャン」

 

「その《エンデヴァーの家庭事情》だけど、《イジメ問題があった折寺中生徒の個人情報》とかをネットに拡散した犯人って、まだ見つかってないのよね」

 

「ヒーロー協会が総力をあげて探したけど、相当腕の立つハッカーらしくて全然足が掴めないそうよ?」

 

「《人手不足》というのもあるのだろう……あの騒ぎ以降…ヒーロー協会は息つく間もなく激務(げきむ)続きと聞く。エンデヴァーの一件では《家庭を持つヒーロー》達はマスコミ被害を受け…職務を全(まっと)う出来ていない。ヘドロ事件ではオールマイト以外のヒーロー達の愚行が公(おおやけ)にされ…世間の人々はヒーローへの信頼を失い批判が強くなっている。その2つによって対応だけでも手一杯な時に《若手ヒーロー達の引退》が重なっている……トドメにホークスが言っていた《ヒーロー狩り》による《引退した若い元ヒーロー達への被害》……《警察》に協力を要請していたのも妥当ということか…」

 

「そうは言っても、ヒーロー公安委員会も思いきった決断をしたニャン。ヒーローじゃなくても警察や自衛隊に《個性の使用許可》をさせるニャンて、試験っていったいどんな試験ニャンだろう?」

 

「私達なりに言うなら『猫の手も借りたい』って程に忙しいってことなのよ。仮免に合格できなかった《元受験者》達にもう一度チャンスを与えるくらいだし、早期のヒーロー人材確保の為には仕方ないことなんじゃない?」

 

「思いきったことって言えば、さっき直前までオールマイトさんとエンデヴァーさんが欠席することを知らせてないってこともそうよ。何もビルボードチャートが開催されるっていう今日に、神様に頼んでエンデヴァーにお灸を据えさせるなんてさ」

 

「私達へ『場所の提供をしてほしい』って連絡も数日前だったからねぇ」

 

「でもエンデヴァーさんには《良い薬》だニャン!」

 

「左様(さよう)…父親でありながら自分の子供に愛情を注がず……あまつさえ自分の夢という欲望を叶えたいがために家庭を省(かえり)みず、奥さんと子供に暴力を振るうなど《ヒーロー》としても《親》としても《漢(おとこ)》としても恥だ!《神様》からの制裁を受けたのは当然と言えよう!」

 

「でも何か腑に落ちないよのねぇ、事情が事情だけどオールマイトまで神様のお叱りを受けるなんて……オールマイトよりも他に神様の天罰を受けなきゃいけないヒーローが1人いるんじゃない?」

 

「例の《無個性の学生に自殺教唆を言った名前が伏せられてるヒーロー》のことか?」

 

「本当に誰ニャンだろう?もしかして、もう神様が《そのヒーロー》に鉄槌をくだしたかもしれないニャンね!」

 

「あ~有り得るかもね、私達が知らない間に《そのヒーロー》は再起不能にされてるのかも」

 

「子供の夢を真っ向から否定するなど!ヒーロー以前に大人として失格だ!」

 

 

 

 彼らは未だに名前が伏せられている《無個性の男子中学生を自殺に追いやった主犯1人であるヒーロー》に対して怒りを向けていた。

 

 その《名前が伏せられたヒーロー》が3人の言う通り、既に……というかさっき《神の鉄槌(ゲンコツ)》を受けたとは知らずに…

 

 

 

「大丈夫かしら?」

 

「?なによマンダレイ、オールマイトは巻き添えかも知れないけど、エンデヴァーは然るべき罰を受けなきゃならないんだから、心配する必要はないんじゃないの?」

 

「その通りだ、ランキングを《最下位》にすることと、家族への接近を禁止にするだけじゃ物足りないと我も思っていた、これは《当然の報い》なのだ」

 

「違うわよ、心配なのは《そっち》じゃなくて私達の《私有地(山)》の方よ。『自由に使っていい』って許可はしたけど、あの3人が戦ったとするなら《山》が1つや2つ無くなってる可能性もあるかも知れないわよ?」

 

『あっ……』

 

 マンダレイの心配事を把握した3人は…今更ながら不安になってきた…

 

 《元No.1》《現No.1》《元No.2》の3名が暴れたとするならマンダレイの言う通りな現状になっていても過言じゃないのだ…

 

 まだ自分達がまだ幼い頃(5歳、6歳)に、元No.1こと《ゴッドヒーロー・神》は引退してしまったため、現在の実力は不明だったが…この国を平和にした立役者の1人……《世界最強のヒーロー》と言っても間違いはないのだろう…

 

 そんな彼が、ヒーロー社会の均衡を壊した主犯の3人の内の2人(オールマイトとエンデヴァー)へお灸を据えたとなれば、《自分達の私有地の山々》が原型を留(とど)めているのかどうか心配になるのは当たり前である……

 

 

 

 

 

 心配になった4人は、ビルボードチャートの会場を出てすぐ、私有地の山へと向かった…

 

 

 

 

 

 そして、嫌な予感は的中してしまった…

 

 

 

 

 

 施設のある場所から見て、隣の山は1つ無くなって《谷》へと姿を変えていた…

 更にその周辺の山の木々は《エンデヴァーの炎》によって炭にされて…ほぼ更地と言う丸坊主になっていた…

 

 変わり果てた山々を見て…4人の反応はそれぞれ違った…

 

 

 

 ある者は、今回場所を提供したことを後悔し、どうやって復旧しようかと頭を抱える者…

 

 ある者は、数日前まで見慣れた自分達の山が半壊したことで開いた口が塞がらなくなった者…

 

 ある者は、どんなお灸の据え方をしたらこんな惨状になるのかと疑問と恐怖を持つ者…

 

 ある者は、引退して20年以上も経つというのにその実力が全く衰(おとろ)えてない元No.1ヒーローに対し、改めて憧れと敬意を持つ者…

 

 

 

 …っと、内心最初に考えてることはバラバラだったが、結局最後には『これからこの場所をどうすれば元に戻せるか』と考えるマンダレイの思考と同じになった…

 

 《谷になってしまった場所》はともかく、その周囲の木々が無くなってしまった山々をどうしようと悩ませた…

 

 それこそ…ヒーロー公安委員会の会長たるマダムが、3つ目に発表された今日一番の重大な内容が頭から抜けてしまう程に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼らの悩みは、1か月後に解決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●とある病院…

 

 

None side

 

 神様によって重体にされたオールマイトとエンデヴァーの2人は、山の梺(ふもと)にある大きな病院へと運ばれ、そこで待機していたリカバリーガールの処置と手術を受けた。

 

 神様は2人をリカバリーガールに預けると、自分は処置を受けずにヒーロー協会に向かった。

 

 手術後、オールマイトとエンデヴァーはその日の内にヒーロー公安委員会によって運び出され、現在日本で最先端と最高峰の治療を施してくれるという《セントラル病院》へと入れられた。

 

 流石長年トップヒーローに君臨しているだけあるのか、2人共《神のお叱り》を受けた次の日には目を覚ました。

 

 オールマイトはリカバリーガールの個性と最先端の医療処置によって《1週間》程で退院できることとになった。

 

 しかし、エンデヴァーは瀕死の重傷までの連続攻撃を受けたせいで、リカバリーガールの個性による処置があっても1ヶ月は復帰することが出来なくなっていた…

 

 

 

 

 

 そう…リカバリーガールが個性《治癒》を使ってくれれば……《1ヶ月》で退院できたのだ…

 

 

 

 

 

 当のエンデヴァーは意識を取り戻して早々、いつヒーローに復帰できるのかが気がかりだった…

 

 だが自分の身体は、全身包帯を巻かれて指1本マトモに動かせず、顎の骨は砕かれていて喋ることが出来ない……唯一動かせるのは《目》だけあった…

 

 エンデヴァーの意識が戻ったと知り、リカバリーガールとヒーロー公安委員会の目良(めら)という男がエンデヴァーの元へやって来た。

 

 元No.1ヒーロー(神様)にお灸を据えられズタボロになったエンデヴァーに、2人は容赦なく…冷たく…厳しい宣告を下した…

 

 

 

 その宣告とは《リカバリーガールは、個性によるエンデヴァーの処置をしないこと》と《ヒーロー協会の目良からは、仕事が失敗に終わったため厳罰の解除条件が厳しくなったこと》が無情にも告げられた…

 

 

 

 当然のごとく、エンデヴァーは納得なんてせず口が利けない分《目を血走らせて》2人へ訴えた!

 だがそんな目線をリカバリーガールも目良も微動だにせず…

 

「アタシが治すのはココまでさね。あとは自分で治しな」

 

「ッ!!?フ!?ムガ!?ゴア!!?」ジタバタ

 

 包帯まみれのエンデヴァーは《鋭い目付き》に加えて、痛む身体をベッドの上で無理矢理動かし、リカバリーガールへ『何故だ!?すぐに治せ!!』…と訴え続けた!

 

「『早く治せ』ってかい?医者としてはそうするのが当たり前だけど……こりゃアタシが望んだことなんだよ、ヒーロー公安委員会もコレを承諾してくれてる。そうだろ?」

 

「はい…その通りです…リカバリーガール…」

 

「グゴッ!?」

 

 本来、実力あるヒーローが負傷して入院した場合、早期復帰を望むのがヒーロー公安委員会の考えである…

 

 だが悲しいことに…今回のリカバリーガールの発言に反対する者は、ヒーロー公安委員会には誰もいなかったのだ。

 しかも、それはヒーローサイド全体の話であり…エンデヴァーの残り少ないサイドキック達もしかり、全員が《エンデヴァーの長期入院》を望んだ…

 

 勿論それは《エンデヴァーにゆっくり休んでほしい》なんて優しい考えでは断じてない…

 

 ヒーロー公安委員会は『彼には良い薬になるだろう…』や『反省する期間と自分を見つめ直す時間も必要だ…』と返答し、リカバリーガールの意見を通した結果である。

 

 そして、リカバリーガールの個性治療なしで《現状(全身打撲複雑怪奇骨折)のエンデヴァー》が退院出来るのは何時(いつ)になるのか?

 現代の最新医療では…どんなに早くても《半年》はかかるらしい…

 

 単純に言うと《今年のビルボードチャート下半期》近くまでは病院生活になるということ…

 

 当の本人は『冗談じゃない!』と目線で訴えるが、リカバリーガールは知ったことじゃないという態度をとりながら病室の扉に向かっていく。

 

「自分のこれまでの行(おこな)いを反省しな!それが出来るまで戻ってくんじゃないよ!」

 

「フモガーーーーー!!!!!」

 

 エンデヴァーの必死の訴えも虚(むな)しく…リカバリーガールは病室を出ていってしまった…

 

 リカバリーガールが退室後、今度は目良がエンデヴァーに話し始めた。

 

「エンデヴァーさん…私からも……いや…ヒーロー公安委員会からもアナタに一応は伝えておくことがあります…」

 

「ホガッ!?」

 

「まぁ…何を言われるかは大体の察しは付いてるでしょう…」

 

 そう言うと目良は鞄から《1枚の紙》を取り出してエンデヴァーに見せた…

 

「これは昨日…アナタがサインした契約書です……覚えていらっしゃいますよね?…今回の仕事に成功した場合は…厳罰を解除するという条件でした………ですが…失敗した場合は…厳罰の内容を重くすること…忘れていませんよね?」

 

「!!?」

 

「残念ですが…アナタは依頼された仕事である《神様を相手に1時間負けない》を達成出来なかった………なので…この紙に書いてあるとおり…厳罰の解除条件である…《トップ10以内に入るまで》という内容を…《No.1ヒーローになるまで》に変更することになりました…」

 

「ゴガッ!!フゥ!!?モガーーッ!!!」

 

 褒美に目が眩んで、《楽な仕事》だと勝手に決めつけていたツケにして重すぎる罰であった…

 

 だが、自分が昨日記入したばかりの《名前》と《指印》が動かぬ証拠…

 

 今すぐにでも、目の前にある1枚の紙も《燃やす》なり《破く》なりしたいのに、今の自分はそれすら出来ない…

 

「あぁ…それと他にも知らせておくことがあります……昨日のビルボードチャートについてです…」

 

「グッ?」

 

 目良は昨日の《ヒーロービルボードチャート上半期》での内容のすべての話した。

 

 

 

・今回ランクインしたトップヒーロー10名…

 

・オールマイト以外のトップヒーロー達のコメント…

 

・ヒーロー公安委員会が世間に告げた《3つ》の発表…

 

 

 

 3つの発表の内、最初の2つを聞き終えたエンデヴァーは《納得出来ない目付き》になった…

 自分が今すぐにでも復帰すれば、寄せ集めのヒーロー達を用意する必要などないと決めつけているからである。

 

 だがその決意も…3つ目の内容によって砕け散ることとなった…

 

「そして3つ目……それはアナタの代役として…元No.1ヒーローである…《ゴッドヒーロー・神》を復帰させることが決定されました…」

 

「グガッ!!???」

 

 これにはエンデヴァーも仰天した!

 昨日久しぶりにあった《神様》が現役に復帰するというのだ!

 衝撃と驚愕が連発だった昨日のビルボードチャートにて、この発表は一番に人々の度肝を抜いた!

 若い世代こそ、20年以上前に引退したトップヒーローが役に立つのかと考える者もいるだろうが……会場で《3つ目》の発表の最中に神様から連絡が入り、《自分とオールマイトの2人が神様を相手に敗北したこと》がヒーロー公安委員会のマダムの耳に入るや否や、《オールマイトとエンデヴァーの欠席の理由》として発表された…

 

 

 

 つまりどういうことかというと…オールマイトとエンデヴァーは《この社会を壊した一件で神様からお叱りを受けた》だけでなく、《今の神様の実力を世間に知らしめるために利用された》と言うことだ…

 

 

 

 実際に、神様が一時的にとは言え復帰すると知って、国民だけでなくヒーロー達も目に見えて《喜び》を露(あらわ)にしていたそうだ。

 

 《神様は強い》…それはエンデヴァーがその身で嫌と言うほど体験させられた…

 

「まぁ復帰と言っても一時的…次の年のビルボードチャート上半期までの《1年間》だけの契約ですがね………本人の希望でランキングにはカウントしないことなど色々と条件は出されましたが……アナタの代役として勤めてくれるのならば大した条件ではありません。それに今の不安定になってしまった社会を戻す為には…オールマイトさんだけでは心許(こころもと)ない……《現No.1》と《元No.1》の2人が揃ってくれれば…社会の平穏を取り戻すことに時間はかからないでしょう……実力も申し分ない…オールマイトと2人掛かりで挑んだにも関わらず…アナタは《この有り様》ですからねぇ…」

 

「グッ!………」

 

 エンデヴァーは何も言い返せなかった…(元より喋れないが…)

 

「えぇでは…伝えることは伝えましたので…私はこれでお暇(いとま)させていただきます……どうぞ…リハビリを頑張ってください……それでは…」

 

「フゴッ!グガーーー!!!」ジタバタ

 

 さっきのリカバリーガール同様に、エンデヴァーの足掻(あが)きは無駄に終わり、目良も病室を出ていってしまった…

 

 

 

 

 

 1人……病室に残されたエンデヴァー…

 

 

 

 

 

 こんな状態になって…やっと状況を理解し始めた…

 

 《こうなること》がヒーロー協会の目的だったのだと…

 

 自分は手の平の上で踊らされていただけ…

 

 腸(はらわた)が煮え繰り返る怒りを滾(たぎ)らせるも…身体は思うように動かせない…

 

 国民にも…ヒーロー達にも…リカバリーガールにも…そして家族にも見放された…

 

 退院までの半年のリハビリ生活で…エンデヴァーは何を思うのだろうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●警察署(ヒーロービルボードチャートJP上半期から2週間が過ぎたある日…)

 

 

オールマイト side

 

「私がーーー!警察署にーーー!!来た!!!」

 

(シーン)

 

 ………誰も何も反応をしてはくれない……か…

 

 それもそうか…今の警察組織は個性を使ったヴィラン対応が出来るようになり、その分の仕事が増えて殆どが出払って、警察署ですら人が全然いない…

 

 っと…そんなこと考えてる場合じゃない、早く根津校長が待つ会議室へ向かわなければ!

 

 

 

 ヒーロービルボードチャートJP上半期から……いや…《神様によって心身共にズタボロにされた日》から早2週間……私はリカバリーガールの治療を受け、1週間前に退院出来た。

 

 ヒーローに復帰してから1週間経つが…私は未だに本調子ではなかった…

 ヒーローとしての仕事はちゃんとやっている…この1週間で何十人ものヴィランを倒した…

 

 とはいえ…《神様》がヒーローとして復帰した途端にヴィラン発生率は半数近くに減った…

 その理由は明確…《年配のヴィラン》達は《神様の実力》を知っているため身を潜めたのだ…

 《単純に強いヴィラン》よりも、そういった《賢いヴィラン》というのが1番厄介だ…

 あの男と同じようなヴィランが…もう現れないことを…私は願うばかりだ…

 

 そんな私は、退院後に1度ヒーロー協会に呼び出され、先日の《神様》の件についての詳細を聞かされた…

 あの日神様が言った通り《私とエンデヴァーにお灸を据えるため》と《社会を不安定にした責任という名目で身をもって反省させるため》に神様へ依頼したことだった…

 《当然の報い》と言われたらそれだけになってしまう……実質…私とエンデヴァーはそれだけの罪を犯したのだ……殺されずに生かしてもらっただけ有り難い(ありがたい)と思わなければ…

 更に詳しく聞いていくと…なんと!以前こちらに来られなかった《先生》こと《グラントリノ》も絡(から)んでいたことが判明した!1か月程前に先生は私への説得をナイトアイに任せたあと、その足で《神様》が勤める士傑高校へと向かい《私にお灸を据えてもらう》ように頼みに行ったらしい…

 多分…先生自身では私相手に加減出来ないと判断したからなのだろう…

 グラントリノも今回の私の失態にお怒りのようだ…

 

 

 

 先生(グラントリノ)のことを思いだして身震いしていると、いつの間にか《1か月前のあの会議室》の前に着いており、私は中に入った…

 

ガチャッ

 

「失礼しま…す!?君たちも呼ばれたのか!?」

 

「…オールマイトさん…」

 

「来ましたか…オールマイト…」

 

「久しぶり……でもないですか…オールマイトさん」

 

 会議室の中には何十人ものヒーロー達がいた!入って早々《Mt.レディ》《シンリンカムイ》《デステゴロ》が挨拶してきた…

 この3人を見て…この場にいるヒーロー達の《共通点》に気がついた…

 

 ヘドロヴィラン事件…

 

 この1ヶ月間、その事件の名を聞かない日は1日足りともなかった…

 

 予定されていた時間よりも30分早めに来たというのに、用意された椅子の数を見る限りでは、根津校長と私以外の全員が揃っていた…

 聞くと1時間以上前には集まってたらしい…

 

 彼らはあの事件以降、連日のように《世間》や《元ファン》や《ネット》等で酷いバッシングを受け続けているため…精神的にかなり追い詰められている状況らしい…

 中には《結婚して子供がいるヒーロー》もいたが、今回のことが原因で相手側の家族から離婚を申し出られ…結果、独り身になったヒーローもいると言う…

 彼らによって社会が受けた迷惑の1つを例題として上げると、《ヒーローの商品(おもちゃ、フィギュア)を扱う企業》は大打撃を受けた。特にこれから売れると予想されていた《Mt.レディ》の商品を大量に生産していた会社は赤字となって、生産会社と販売会社が《Mt.レディ》に対して訴訟を起こしたという話もある…

 

 それによって2週間前に発表されたヒーロービルボードチャート上半期では、私以外の事件に関わったヒーロー達の支持率が軒並み下がり、《エンデヴァー》が最下位にならなければ《Mt.レディ》が最下位になっていたらしい…

 だがランキングがそこまで下げられたのにはもう1つ理由がある……それは《ここにいる誰かが私の情報(緑谷少年への失言)をリークしたんじゃないか?》と疑われたためだ……しかし全員『言ってない』と断言したにも関わらず、結果として疑いは晴れないまま順位を下げられたらしい…

 

 プロヒーローなのに…そんな散々な日々を生きる彼らは…何度もヒーローを辞めようかと…本当に思い悩んでいるらしいが…それは絶対に出来ない…

 

 引退した若い元ヒーロー達の現状を知れば尚更のこと…

 

 自称《ヒーロー狩り》と呼ばれているヴィランに狙われながらも根気強く就活をしているのだが……ヒーローが悪く言われているこの状況では《元ヒーロー》を受け入れてくれる職場はほぼ無いため…社会復帰が困難となり…今も苦労の耐えない生活を送っているそうだ…

 

 だが皮肉にも…その若手ヒーロー達が引退したこともあって…彼らは《例の奉仕活動での監視の仕事》は一旦中断され、プロヒーローとしての《ヴィラン対処》の仕事に取り組んでる…

 

 その代わり…助けた人々は彼らに対して《感謝やお礼を言ってはくれず》、その視線からは《ヒーローとして必要としてる》という感情が全く籠ってないそうだ…

 

 辞めたくても辞めることが出来ない…

 

 彼らは既に《ヒーロー》という仕事に就(つ)いたことを深く後悔しており…《一生消えない呪い》だと愚痴を言っている始末だ…

 

 

 

ガチャ

 

 

 

「やぁ!諸君!時間通りに全員揃ってるね!」

 

「根津校長」

 

 私が深々と彼らの現状で考え込んでいると、根津校長が会議室の扉を開けて入ってきた。

 会議室の時計を改めて確認すると、いつの間にか30分経過して予定の時間になっていた。

 

 そして根津校長が席に着くと、早速私達が集められた内容が話された。

 

「さて、忙しい君達をまたこの場所へ呼んじゃったことだし、さっさと用件を伝えようじゃないか」

 

『………』

 

 私は1か月前、彼らが帰った後にこの会議室へ来たため知らなかったが、当時お昼頃に呼び出された彼らは《不満タラタラ》で来ていたようだ……まぁ会議室から出る時にはそんな感情は無くなってたらしいが…

 大方(おおかた)、根津校長からの《静かな威圧感》と《禍々(まがまが)しい圧迫感》によって追い詰められながら…緑谷少年のことを聞いたことが相当堪(こた)えたんだろう…

 

「その通りさ!オールマイト!」

 

「なっ!?」

 

 またしても心を読まれてしまった!!?…これ以上余計なことを考えるのは止めて…根津校長の話をちゃんと聞くことにしよう…

 

「じゃあ早速本題に入るのさ、当然のことだけど、今から話すことは他言無用だよ?1か月前に《飛び降り自殺をした被害者》である《緑谷 出久》君が先日意識を取り戻したのさ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………えっ?…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 根津校長は今……なんとおっしゃられた?

 

 緑谷少年の……意識が戻った!!!

 

 目を覚ましてくれたんだ!!!

 

「み!緑谷少年の容態は!?」

 

「リカバリーガールが定期的に個性を使って治療してるとは聞いていましたが!?」

 

「どうなんですか!?根津校長!!」

 

「後遺症とかは無かったんですか!?」

 

「彼は元気なんですか!?」

 

 私を含め、全員が根津校長に質問した!

 

「落ち着いてくれ諸君、まだ話してる途中だよ、質問は全部話し終わってから受け付けるのさ」

 

 緑谷少年が起きたと聞いて、つい気持ちが高ぶってしまった…

 いかんいかん…ちゃんと最後まで聞かなくては…

 

「今はリカバリーガールが彼を診(み)てくれているのさ。《古傷》と《事故の際についた額(ひたい)の傷痕》以外で身体に異常はないみたいだよ。逆に驚く程の早さで回復に向かっていてリカバリーガールも驚いていたさ!今後の検査結果次第では、早くて今月末に退院できるみたいさ!」

 

 良かった……本当に良かった……一時は2度と目を覚まさないかも知れないともリカバリーガールは言っていたため、本当に心配だった…

 身体に傷は残っているみたいだが、本人は元気と聞いて…ずっと心の中にあった《不安》が消えていった…

 

 

 

 でも…その《不安》を完全に拭(ぬぐ)い去るには早すぎた…

 

 

 

「でもね《彼のお見舞いに行くこと》も《無断で会うこと》も君達は許されないよ?」

 

『ッ!!!???』

 

「な、何故ですか!?」

 

「お願いです!彼に謝罪をさせてください!!」

 

「俺達は緑谷君に誠意を持って謝りたいんです!!」

 

「お願いです!根津校長!彼に会わさせてください!謝るチャンスをどうか私達に!!」

 

 私に続いて、バックドラフト、デステゴロ、シンリンカムイが根津校長に緑谷少年に会わせてもらうように頼み込んでいた…

 

「あのぅ…根津校長……もしかして緑谷君本人が私達に会いたくない……って言っていたんですか?」

 

『………』

 

 Mt.レディの発言に私達は口を閉じた…

 

 その通りだ……彼は私達のことを憎んでいるに決まってる…

 私には、ヒーローになりたいという夢を《否定》され…

 シンリンカムイやデステゴロ達には、ヘドロヴィランに捕まってた爆豪少年を助けず半(なか)ば見捨てていた行動を見て《ヒーローに失望》し、私が事件を解決すると、緑谷少年の勇気ある行動をシンリンカムイ達は一切称えることなく怒鳴って叱り……終(しま)いには野次馬の見せ物にされた…

 

 緑谷少年からすれば…私達は《ヒーロー》じゃない…

 

 私達は彼に《絶望》しか与えていないのだから……会いたくないのは当たり前だ……

 

 

 

 

 

「いや……話はそんなレベルじゃないのさ…」

 

 

 

 

 

 根津校長からの雰囲気が変わった!

 

「Mt.レディ…さっさ君が言ってたように…緑谷君には《ある後遺症》が出てしまったのさ…」

 

「えっ!?」

 

 なっ!やはり後遺症があってしまったのか!?いったい!緑谷少年に何があったと言うんだ!?

 

「…はぁ……引き延ばしたところで意味なんかないか……じゃあ、ハッキリ言うよ!諸君!心して聞いてくれたまえ!」

 

 根津校長からの言葉を聞き漏らさないように、私は耳に神経を尖られた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意識を取り戻した緑谷出久君はね……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 根津校長が語ってくれた緑谷少年の《後遺症》を聞いた私は……

 

 この世から消えたい……っと思ってしまった…




 次の話では、爆豪勝己を含めた周囲の人々が《ヘドロ事件からの1ヶ月》をどう過ごしたかの話です。場合によっては前編(12話)と後編(13話)に分けて投稿するかもしれません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。