緑谷出久の法則   作:神G

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 今回の話が《変えられない過去と戻れない日常の法則》のラストとなります。

 本当は今回投稿した《疑惑》~《喪失》までの3つの話なのですが、実は1つの話として投稿しようと作成していました。
 ですが、毎度のことながら長くなってしまったのと、読んでいただく方々に読みやすい長さを考えて3つに振り分けました。

 少しでも読みやすくなっていたならば幸いです。


変えられない過去と戻れない日常の法則(喪失)

●折寺町の病院…

 

 

爆豪勝己 side

 

 

 

 

 

「……誰…キミ?…」

 

 

 

 

 

「…………………は?……」

 

 今……出久の奴………なんて言いやがった…?

 

 俺はてっきり…出久は怒り狂って…暴言の類(たぐ)いを怒鳴ってくるとばかり思っていた…

 

「(目の前にいるのは…間違いなく《緑谷 出久》だ!………だけど…何か違う。…同じ顔だが…コイツは俺が知ってる《緑谷 出久》とはちがう!?)」

 

 1ヶ月ぶりに聞いた出久の声…

 

 間違いなく《出久の声》だった…

 

 その出久が俺に言った第一声…

 

 初めて俺に対面したかのような言葉…

 

 何より…俺を見る出久の目には…《怒り》も《憎しみ》も感じられなかった…

 

 頭が真っ白になりそうだった俺は…気づけば出久の両肩を掴んでいた!

 

「おい……ざけんなよ……トボけてんじゃねぇよ!《デク》!!!」

 

 俺は頭の処理が追い付かず…目の前の現実を受け止めたくなくて…出久の両肩を掴んだ両手に力を入れて、出久の身体を前後に揺さぶった!

 もう言わないと決めていた《出久の蔑称》を口にして俺は怒鳴った!!

 

「ちょっ!?やめて!痛い!離してよ!!!」

 

 目の前にいるのは紛れもなく出久だ!!

 

 だが《何か》違う!!?

 

 コイツは誰なんだ!!!??

 

「いい加減にしな!!」

 

バキィ!!!

 

「ぐわあっ!!???」

 

 出久に集中していた俺は、リカバリーガールのことをすっかり忘れていた。

 リカバリーガールは杖で俺の左足の脛を思いっきり叩きやがった!?

 打ち所が相当悪かったのか、俺は出久の肩から手を離して、足を押さえて踞(うずくま)った。

 

「いっ!?いでえええええええ!!!???」

 

「随分な挨拶じゃないか…ええ?爆豪勝己!」

 

 リカバリーガールは俺の心配を一切せずに怒鳴ってきた…

 俺はリカバリーガールに怒鳴りかかろうとしたが……リカバリーガールから発せられる謎の威圧感に押されて何も出来なかった…

 

コンコン

 

「あ”ぁ”?」

 

「今度は誰だい?」

 

 こんな状況で病室の扉からノック音が聞こえた。

 

「はい、どうぞ」

 

 出久が返事をすると扉が開いた。

 

ガラッ

 

「緑谷君、失礼するよ…ってなんだコリャ!?」

 

「デステゴロ、病院で騒ぐなとリカバリーガールからあれほど……この状況はいったい!?」

 

「2人とも、入口で止まるのはやめ……って!?なんでガラスが病室に散乱してるの!!?」

 

 病室に入ってきたのは、声からしてデステゴロとシンリンカムイとMt.レディの無能ヒーロー共だった…

 

「リカバリーガール!?いったい何があったんですか……ってお前は!!!??」

 

「ちょっと!なんでアンタがここにいるのよ!?まさか!?窓ガラスを割って入ってきたの!!」

 

「何故君がここにいる!!学校はどうした!!今日は折寺中の生徒は登校日のはずだぞ!!?」

 

 3人の無能ヒーローは俺の存在に気づくや否や、明らかな敵意を向けて怒鳴ってきた。

 

「うるさいね!ここは病院だよ!静かにしな!何回言わせるんだい若造共!」

 

『す…すみません……』

 

 そして、前と同じように大の大人達はリカバリーガール相手には頭が上がらない…

 

「皆さん、また来てくれたんですね。嬉しいです」

 

「当然だとも…君が目を覚ましてくれて…私は本当に嬉しいんだ」

 

「毎日だって君のお見舞いに来たいんだぜ?俺達は!」

 

「ヤッホー!出久君♪」

 

「来てくれるのは本当に嬉しいですが、プロヒーローはお忙しいんですから、無理に毎日来なくても大丈夫なんですよ?」

 

 出久に話しかけられたことで、無能ヒーロー共は俺から出久へ意識を向けた。

 

 

 

 俺は何か違和感を感じた…

 

 

 

 今の会話で何か《不審な点》があったからだ…

 

 

 

 何かがおかしい…

 

 

 

 何がだ…?

 

 

 

 普通の会話をしているだけなのに…

 

 

 

 なんで違和感を感じたんだ…

 

 

 

 ただ…出久がヒーロー共と普通に話してるだけなのに…

 

 

 

 

 

 その瞬間!

 

 俺は俺自身が感じていた違和感の正体に気づいた!

 

 

 

 

 

 それは…出久の反応が《普通》過ぎたことだ!

 

 いつもの出久なら…ヒーローを見かけただけで気色悪りぃくらいに興奮して騒ぎ、喜びを露にしている筈なのに……今は目の前にはプロヒーローが3人いるにも関わらず、出久の反応とその対応があまりにも《普通》だった!!?

 

 どうなってやがるんだ!?

 

 コイツは別人なのか!!!???

 

「いや!これは我々なりの誠意なんだ!」

 

「今の俺達は…ヒーローであってヒーローじゃねぇ………ガキの頃から憧れた《本物のヒーロー》になんて…これっぽっちもなれていなかったんだからな…」

 

「つれないこと言わないでよぉ~♪それともお姉さんがお見舞いに来るのはイヤ?」

 

「いえいえ、迷惑なんかじゃないですよ」

 

「アンタらねぇ…限度ってものがあるだろうに、この子を疲れさせるつもりかい?毎日毎日1人変わりで押し寄せて…プロヒーローの仕事はどうしたんだい?」

 

 俺の内心穏やかじゃないのを他所に、シンリンカムイ達は出久と会話をする。

 出久だけじゃなく、シンリンカムイ達も前と雰囲気が違う。ヘドロ事件の際に出久を叱りつけていたシンリンカムイとデステゴロは申し訳なさそうな態度を常にとり、Mt.レディはフザけているようにしか見えないが明らかに様子が変わっている。

 

 そんな状況をリカバリーガールは呆れていた。

 

 リカバリーガールの言葉から察するに、どうやら出久が目を覚ましたのは昨日今日じゃねぇみたいだ…

 おおよそ3日前か4日前くらいに起きたってところか…

 

 

 

 そんなことを考えていると、リカバリーガールは俺に鋭い目を向け、すぐにいつもの優しい顔つきで出久に話しかけた。

 

「緑谷、アンタはこの目付きの悪い奴とは知り合いかい?」

 

「いえ、知らないですよ?こんな乱暴な人」

 

「ッ!!!!!?????」

 

 

 

 知らない…

 

 

 

 知らないだと…

 

 

 

 どういうことだよ!!?

 

 

 

 いったい何がどうなってんだよ!!!

 

 

 

 …まさか……まさか出久……お前…………

 

 

 

「……はぁ……Mt.レディ…アンタは患者の警備をしてな。シンリンカムイ…デステゴロ…この乱暴者を連れてアタシと一緒に談話室に来な…」

 

『はい!』

 

 頭の中が困惑している俺を無視して、リカバリーガールは無能ヒーロー共に指示を出した。

 

 Mt.レディを出久の病室に残し、俺とリカバリーガール、シンリンカムイとデステゴロの4人は出久の病室を出た。

 

 移動中、俺はシンリンカムイの個性《樹木》で顔以外全身を縛られた状態でデステゴロに運ばれた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シンリンカムイとデステゴロによって中半(なかば)強引に病室から連れ出された俺は、同じ階にある談話室に一緒に着いてきたリカバリーガールの4人で入室した。

 俺は樹木に全身縛られたまま…椅子に座らされた。

 

 俺はその間…一切抵抗はせず…大人しくしていた…

 さっきの出久からの発言に…俺の考えが追い付かず…思考が停止していたから…

 

「まったく…嫌な予感は当たるもんさね…」

 

 他の3人もテーブルの椅子に座り、リカバリーガールは2人へ《俺が出久の病室にやって来てからの状況》を説明しだした…

 

「……爆豪君……自分が何をしたか分かってるのかい?」

 

「緑谷君への面会は謝絶されてるにも関わらず、それを無視しての接触、更に個性の使用禁止を破った上に、窓ガラスを割っての無断侵入という強行手段、それだけに飽きたらず…やっと意識を取り戻した緑谷君への《暴行》及び《恐喝》……これは列記とした《犯罪行為》だ!」

 

 リカバリーガールに続いて他の2人を話始めた。

 何が《暴行》だの《恐喝》だよ!ただ肩を掴んで問い詰めただけだろが!一々大袈裟に捉(とら)えやがって!!

 つか今の俺にはそんなことはどうだっていいんだよ!!!

 

「…アイツに……出久に何があったんだよ…」

 

 俺が発した言葉を聞くと…3人は目に見えて呆れた態度をとりやがった。

 

「『何が』…だと?………本当に君は……救いようが無いな…」

 

「ここまで来ると…怒りを通り越して……もう何も言えん…」

 

「……はぁ…その様子だと担任の話を《最初》だけ聞いた途端、考え無しにここまで来たってことかい…」

 

「あ”ぁ?《最初》だけ?」

 

「そうさね…アンタは担任からの話を最後まで聞いてないようさね。………分かったよ、これ以上騒がれちゃあ…こっちが迷惑だからねぇ。アタシが代わりに説明してやるよ…」

 

「?」

 

「いいかい…聞き逃すんじゃないよ?よ~く聞きな、アンタのクラスの担任が伝えようとしてた内容は全部で《7つ》。1つ目は《昏睡状態だった緑谷出久の意識が回復したこと》さね」

 

 

 

 1つ目は学校でセンコーが言っていた内容だった…

 

 だが2つ目に告げられた内容は……さっき俺が体験したことが間違いだと思いたかった真実だった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2つ目は《目を覚ました緑谷出久が事故の後遺症で記憶喪失になった》…ってことさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 間違いじゃ……なかった……

 

 信じたくない現実を突きつけられた…

 

 リカバリーガールは…今確かに…

 

 『記憶喪失』って言いやがった…

 

 

 

「んな………そんな馬鹿なことが…」

 

「信じられないかい?でも…これは事実さね、あの子が目を覚ましたのは今から4日前、昨日までアタシや他の医者が別々に検査したけど、結果はどれも同じ………緑谷出久は正真正銘の《記憶喪失》になっちまったんだよ…」

 

 

 

 受け入れたくなかった…

 

 でも俺は…それを目認した…

 

 アイツは…自分を死に追い込んだ俺を…殺したいほど恨(うら)み…憎(にく)んでいてもおかしくない筈…

 

 

 

 なのに…

 

 ついさっき…

 

 1ヶ月ぶりにあったアイツの目には…

 

 《怒り》や《憎しみ》の感情が一切無かった…

 

 アイツの目に宿っていたのは…

 

 初めて会う人間に対する《無関心》という感情だけだった…

 

 

 

「一言に記憶喪失とは言っても検査の結果、《日常生活に必要な記憶》や《これまでの義務教育で培ってきた知識》には何の異常も見られなかったよ。……あの子が失った記憶は《自分自身》と…《これまでの人生で関わってきた他人と過ごしてきた記憶》さね……《自分の両親》も含めてね…」

 

 な……なんだと!!?

 

 アイツは自分のことも!?俺のことも!?クラスの奴らも!?……引子さんのことも忘れちまったってことかよ!!???

 

「記憶喪失ってのは、基本的に《過度のストレスによる精神的ショック》や《事故などによる頭部の損傷》によって発症する記憶障害さね。今回そうなった原因だけど……態々(わざわざ)言わなくても成績の良いアンタだったら分かるだろ?当然ながらアンタら2人もね」

 

「「「………」」」

 

 アイツを記憶喪失にした大きな原因が…この部屋にだけで3人もいる…

 

 言わずもがな…精神的ショックの要因は《無個性ってことを理由に俺が10年以上もアイツを心身共に傷つけて差別してきたこと》だ…

 

 リカバリーガールは俺だけじゃなく、シンリンカムイとデステゴロに対してもその言葉を向けた…

 

 その言葉に対して…俺達は何も言えねぇ…

 

「正直、あの子がアンタに……加害者本人に会ったなら…精神が不安定になってパニック症状を起こすとばかり思ってたけど、あの態度を見た限りじゃ…アンタのことも全部綺麗サッパリ忘れちまってるみたいで要らぬ心配だったよ…」

 

「………」

 

「おっと長々と《2つ目の話》の内容を語っちまったけど、あと5つも大事な話が残ってるよ?3つ目は《緑谷出久の容態》さね。記憶喪失になったのは確認されたけど、眠っていた1ヶ月間にアタシが個性で定期的に治療してたのもあって《事故の際に負った額の傷》と《古い火傷痕》以外は完治したってことさね。んで驚いたことに…目を覚ましたあの子は《とんでもない回復力》を身に付けたようでね、リハビリもほとんど必要ない状態で早ければ今月末には退院できるよ」

 

「……退院したら……アイツは折寺中へ戻ってくるのかよ…?」

 

「………面白い冗談を言うね…アンタは?……アンタを含めた折寺中の人間がどれだけ反省したのかは…アタシにとっちゃ知ったことじゃないさね。…常識的に考えて《今のこんな社会状況》で、誰があの子を《無個性差別の中学校》へ復学させようと考えるんだい?馬鹿も休み休み言いな!!」

 

「ッ!!??」

 

「あの子は退院したら《他の中学校への転校》と《この町からの引っ越し》がもう決まってるんだよ」

 

「て、《転校》!?《引っ越し》!?なんだよ!それ!!?」

 

「それが4つ目の話さね、緑谷出久は折寺中から他の中学校へと転校すると同時に、御家族と別の場所へ引っ越してもらうことになったのさ。これは緑谷夫妻も了解してくれてるさね」

 

「んな……ど…何処の中学校へ転校するんだよ!?何処へ引っ越すんだよ!?」

 

「アンタのその質問に対しては、5つ目の話が関与されてるよ。あの子を散々苦しめてきたアンタら《加害者達》と《その加害者の親や関係者》は『金輪際、被害者の緑谷出久とその御家族に関わってはならない』。コレは《警察》も《教育委員会》も《ヒーロー協会》も承諾済みさね」

 

「んだと!?そんなの勝手に決めてんじゃねぇ!!」

 

「最終的に決めたのは被害者家族の緑谷夫妻さね、アタシに怒鳴んじゃないよ!」

 

「ぐっ!?……」

 

「はぁ……あぁそれと《その件》を承諾したこともあってなのか……元からその気が無かったのか母親同様に、先日日本に帰国してきた父親も加害者であるアンタらを《訴えること》も《裁判沙汰にはしない》とさ……アタシが言うのもなんだけど《最後の情け》ってヤツだろうさね…」

 

「………」

 

 前にも考えたことだ…

 

 俺が知る引子さんに対する印象は《温厚》…

 

 出久の父ちゃんには今までで数回しか会ったことはねぇけど…引子さんと同じで…温厚な性格だったと思う…

 

 そんな夫婦が揃って俺達(出久を死に追い詰めた人間達)に対する《復讐心》を押し殺して、出した結論が《5つ目の話》だ…

 

 いや……その真意は…『俺達とは2度と関わりたくない』ってのが正しいのか…

 

「まだ2つ残ってるよ。6つ目の話は、あの子以外の折寺中3年生が厳罰として行(おこな)っている奉仕活動だけど……それが強制終了になるんだとさ」

 

「は?…終了?」

 

「そうさね、アタシは反対したけど…この厳罰の終了を言い出したのは他の誰でもない、厳罰内容を考案した《ヒーロー高校の校長》が『このままじゃ《鼬ごっこ》になるのさ…』って提案して決定されたんだよ。初日に渡された用紙に書いてあったろ?1ヶ月の活動期間中に《個性を使ったり》《勝手に帰宅したり》《許可なく無断で休んだり》した場合、ペナルティーとして奉仕活動期間を延長する注意事項を………それをアンタら全く守れちゃいない。連帯責任でペナルティーが増えに増えて、アンタらのクラスの延長期間は《半年以上》、他のクラスは《3ヶ月~4ヶ月》も延長されてるのが現状……ここで止めなきゃ永遠に終わらないと悟って可決された訳さね。……アンタ…《反省》って言葉の意味を本当に理解してんのかい?」

 

「………」

 

「アンタらもだよ!デステゴロ!シンリンカムイ!何を《自分達は今の話に関係ない》みたいな顔をしてるんだい!?本来ならアンタらとバックドラフトとMt.レディの4人も監視として参加しなきゃならなかった厳罰だったんだよ!それなのにアンタら4人は、無理を言って《被害者》と《その家族》の護衛をさせてほしいと直談判をして、結局1度も奉仕活動には参加しなかったんだろ!?」

 

「「………」」

 

「何が『相性が悪い』だい……何が『今回は譲ってやる』だい……何様のつもりなんだよアンタらは!!?結局はオールマイトに全部丸投げした上に、尻拭いまで押し付けた。まぁ…そのヘドロヴィランを間抜けにも逃がしたのはあの《大馬鹿者のNo.1ヒーロー》だけど、事件現場にはアンタらを含めた他のヒーローが何人もいた。なのにアンタらは揃いも揃って、そのヴィランと被害者である《爆豪勝己》から目を背けた。ただ呆然と突っ立ってるだけなら案山子(かかし)にだって出来るんだよ!!!」

 

「「……………」」

 

「なんとか言ったらどうなんだい?警察署に集められた時には、随分とまぁ生意気な口を叩いたそうじゃないか?ええ?その時にアンタらがどんだけフザけたことを言ったのかアタシにも聞かせてほしいねぇ!」

 

「「…………………」」

 

 俺がリカバリーガールからの《6つ目の話》に何も言えなくなっていると、その矛先はシンリンカムイとデステゴロに向けられた…

 

 コイツらが出久や引子さんの護衛をしていたのは…俺が身をもって知っていた…

 

 だが…それをしたからと言って周囲の人間が許してくれる訳じゃない…

 

 現にリカバリーガールは2人に対して説教を始めたが、シンリンカムイもデステゴロも無言を貫いていた…

 俺が警察署へ連れて行かれた時、事情聴取でゴリラ野郎から《沢山の証拠》を突きつけられてグウの音も出ず…何も言えなくなったように…

 

「………はあぁ……まぁそんなわけで…アンタらの《短すぎる厳罰》は終わったから、もう町のゴミ拾いはしなくていいってことさ。良かったねぇ、これで心置き無く自由に休日を過ごせるよ?」

 

「………」

 

「シンリンカムイ、デステゴロ、本当に今更だけどね……緑谷出久に対して《謝罪の気持ち》があるのなら…アンタらがすべきことは《被害者と御家族の護衛》じゃなくて…《加害者の爆豪勝己とその家族を…マスコミやメディア…そして世間からのクレームやバッシングから守ること》…だったんじゃないのかい?」

 

「えっ?…何故この子を?」

 

「コイツは緑谷君へ非道な悪行をしてきたサイコパスですよ?」

 

「そんなことも一々説明しなきゃ理解できないのかい?……はぁ…なんでアイツはこんな奴らを《教育者》に選んだんだかねぇ…」

 

 教育者?なんのことだ?

 

「シンリンカムイ……デステゴロ……アンタらは何者だい?」

 

「そ……それは…」

 

「ヒ………ヒーロー……です…」

 

「そうさね、じゃあ聞くけど…ヒーローのアンタらにとって……爆豪勝己は《守るべき市民》じゃないのかい?」

 

「「ッ!!!!???」」

 

 核心を突かれたようにデステゴロとシンリンカムイは顔を歪めた…

 

「自覚して無かったのかい…全く…見下げ果てた奴らさね…」

 

「「………」」

 

「数年前に起きた士傑高校の事件を覚えてるかい?」

 

『!?』

 

 リカバリーガールは突然、2人へ質問した。

 

「先代No.1ヒーローである神に倒されたヴィランが刑務所を出所して間も無く、単独で士傑高校に襲撃した事件があっただろう?」

 

「…はい……覚えています…」

 

「ですが…再び神様に倒されて…そのヴィランは…重罪となって今度はタルタロスに収監された筈…」

 

「そうさね、でもアタシが言いたいことはそれじゃない。《憎しみ》や《恨み》ってのは何十年経とうと絶対に消えることは無いんだよ。それこそ……記憶喪失にでもならない限りはね…」

 

「「……………」」

 

 リカバリーガールは…この状況において…《これ以上に無い程の皮肉》を口にした…

 

「刑務所で改心するヴィランは確かに存在するけども…そんなのは一部だけさね。大抵は《自分を捕まえたヒーローへの復讐心》を増大させ、出所した瞬間にその復讐心を爆発させるのさ。神だけじゃない…過去にだって《刑期を終えたヴィランの多くは出所して直ぐに復讐に走って再度事件を起こす》…ってはヒーローの長い歴史じゃ何度もあったことで避けられないのは証明しているさ」

 

「「………」」

 

「アタシがさっきから何を言いたいのか理解できたかい?アンタらは自分の勝手を優先して…他人への配慮が《適当》なんだよ。そんなでよくプロヒーローになれたもんだ……ある意味《あの大馬鹿者》と良い勝負してるよ。他人の気持ちを理解せず…自分の考えを押し付ける《自己中》っていう点がね」

 

「「………」」

 

「アタシは長いこと医者をやってるけど…《馬鹿につける薬》は永遠に作れやしないさね」

 

「「………」」

 

 リカバリーガールにボロクソ言われているデステゴロとシンリンカムイはどんどん落ち込んでいく…

 

 と思ってたら…リカバリーガールの意識は俺に戻った…

 

「爆豪勝己……アンタの場合は色々言われてるだろう?入院してたアンタのところへ、ヒーロー公安委員会委員会の目良っていう眠そうな男が会いに来て、世間的には名前が伏せられている《緑谷出久に自殺教唆の発言をしたヒーローの名前》に対しても箝口令(かんこうれい)がひかれていることをね」

 

「………」

 

「アンタも……ここにいるヒーロー2人も知ってたんだろ?……緑谷出久へ『無個性はヒーローになれない』って言ったのが…《オールマイト》だってことを…」

 

『……………』

 

「……アタシの場合は、事件の次の日に本人から直接聞かされたんだ。念のため言っておくけど、《オールマイト》が主犯の1人だと現状で把握してるのは《アタシを含めたオールマイトに昔馴染みである者達》と《そこにいる2人(シンリンカムイとデステゴロ)を含めたヘドロヴィラン事件に関わったヒーロー達》と《警察と教育委員会とヒーロー協会の上層部》あと《エンデヴァーとそのサイドキック4名》…そして、アンタさね…」

 

 結構知ってる奴いるんじゃねぇか…

 

 何が秘密だよ!あのクソマイト!!!

 

「おっと…また長々と話しちまったさね…。全く年を取ると駄目だね…。グチグチ言わないでおこうと思ったことが口から出ちまってさ…」

 

 だったら言うんじゃねぇよクソババア!!!

 

 …っと…1ヶ月前の俺だったら考えなしに思ったことをそのまま口から大声出してたが…

 

 今の俺にはそんな度胸なんてない…

 

 しかもリカバリーガールは《正論》しか言っておらず、何1つとして突っ掛かれる要素が見つからない…

 

 

 

 

 

「んじゃ最後に7つ目の話さね。それは目を覚ました緑谷出久が……《個性を発現したこと》さ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……は?

 

 …このババアは…

 

 …今なんて言いやがった…

 

 『出久が個性を発現した』……だと?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい……嘘は辞めろよ……アイツは《無個性》だろうが!!?」

 

「嘘じゃないよ、4日前に目を覚ましたあの子は個性因子を宿したんだ。脳検査と一緒に個性検査もした結果、あの子は《突然変異種の個性》を発現したんだよ」

 

「突然変異だ!?…ちょっと待て!じゃあなにか!?アイツは自殺を図ったから個性が…」

 

「黙りな!!!!!」

 

「ッ!??」ビクッ!!!

 

 俺の発言をかき消すような怒号をリカバリーガールが発した!!!

 

「アンタ……今なんて言おうとした?……もしアタシが想定している言葉だったなら……タダじゃ済まさないよ……」

 

 今まで生きてきて感じたことのない《覇気》をリカバリーガールから受けたことで…俺は口を開けることが出来なくなった…

 

「その軽口をいい加減に治さないと…いつか取り返しのつかない後悔を産むよ…。あの大馬鹿者が先代No.1にブッ飛ばされて病院送りされたようにね…」

 

「………」

 

「根拠も無しに後先考えず…思いついたことを口にするアンタらみたいな大馬鹿者がいると…アタシら医者は大迷惑なんだよ。仮に今アンタ言おうとした発言が広まったとして…それを真に受けた新聞記者が『無個性の人間が自殺を図ったら個性が芽生えた』…なんて馬鹿げたこと掲載されてみな…。いったい何が起きるのかを考えつかないかい?」

 

「……………ッ!!?????」

 

 その先を考えた俺はゾッとした…

 

「今更把握したかい?《口は災いの元》……アンタが今考えているだろう《最悪の事態》になったとしたら…どれだけ多くの人間の人生が狂うことか……そして最悪の事態を招いた原因である発言者のアンタは……一生多くの人達から恨まれて生きることになるんだよ…」

 

「………」

 

「《言葉》ってのは口から出すのは簡単だけどね、1度口から出したら2度と取り消せないんだよ。アンタはそれをこの1ヶ月間…身をもって思い知ったんじゃないのかい?何にも学んでないのかいアンタは!!?」

 

「……………」

 

「あ…あのぅ……リカバリーガール…」

 

「そろそろ《7つ目の話の続き》をされた方が…よろしいのでは…」

 

 今の俺を見かねてなのか……それとも先程の忠告を受けてなのか……デステゴロとシンリンカムイは俺をフォローをしてきた…

 

「………はあああぁ……そうさね…。じゃあ続きを話すよ。簡潔に言うと…緑谷出久は《個性が遅れて発現する体質》だったんだよ。《10年以上も遅れて発現するケース》は始めてだけどね。個性の発現が遅れた原因はまだハッキリと解明してないけど、可能性の1つとしては《両親の個性と類似していない個性》ってのが原因じゃないかとアタシは推察しているよ」

 

 《無個性の人間が数年後に個性を発現する》ってのは聞いたことがある…

 

 だがその遅れる期間が《10年》っては聞いたことがない…

 

 出久は無個性じゃなかった…

 

 ただ個性の発現が遅れていただけだったのか…

 

「変な考えを起こさないために一応話しておくけど、緑谷出久と緑谷夫妻のDNA鑑定をした結果は99.99%一致しているさね。記憶喪失の件同様に、アタシや他の医者達も検査したけど全部結果は同じ。緑谷出久は正真正銘の緑谷夫妻の子供さね。ただ…あの子は稀(まれ)にある《両親のどちらの系統にも属さない突然変異型の個性》を宿していたんだよ」

 

 なんだよ……それじゃあ俺が今まで……10年以上もアイツにしてきたことは何なんだよ!?

 

 俺はただの《人騒がせ》じゃねぇか!!!

 

 俺がこれまでしてきたことは、今更《勘違い》で済まされるレベルじゃねぇんだぞ!!!

 

「この事実は《ある信頼における記者》が新聞社を通して後日に掲載される予定さね。あの子が眠っていた1ヶ月間、アタシが定期的に治癒と診察をしていたけど、その期間中にあの子が個性因子を発現した傾向は一切見られなかったよ。診察記録は守秘義務で見せられないけど『緑谷出久は昏睡状態の間は無個性だった』…『事故後に目を覚ましたその瞬間が個性が芽生えるタイミングだった』……その事実はアタシやこの病院の医者が絶対の証人さね。当たり前のことだけど《緑谷出久の名前》と《個性の詳細》だけは伏せることになってるけどね」

 

「………どんな個性なんだよ……アイツが発現した個性ってのは…」

 

「それこそアンタが知る権利は無いよ。知ってどうするんだい?」

 

「………」

 

「分かったかい?分かったらさっさと帰りな。アンタがあの子をどれだけ苦しめていたのか…アタシは全部知ってるんだよ。あの子は意識が戻ってまだ4日、ストレスの元凶が来たんじゃ治るものの治らないよ」

 

 リカバリーガールは俺に釘を指してきた…

 

 その意味は『2度と出久に近づくな』という意味だ…

 

「アンタの担任は…朝のホームルームでこれを全部話そうとしてたんだよ。なのにアンタは最初の話だけ聞いてあとは耳も持たずでここに突っ込んできた…。今回の罰は高く付くよ……覚悟しておくんだね…」

 

「………」

 

ガラッ!!!

 

「おい!爆豪!!やっぱりここに来てたのか!?この問題児!!!」

 

 談話室の扉が勢いよく開き、クソ担任が息を切らしながら怒鳴り散らして入ってきた。

 

「うるさいね!ここは病院だよ!静かにしな!」

 

「うぅ……は…はい……すみませんでした……」

 

 だがそのクソ担任も…リカバリーガールからの忠告で弱々しくなった…

 

 ただし…クソ担任は俺を病院から連れ出す際…

 

「やってくれたな爆豪……これからどんな処罰を受けるのか……覚悟しておけよ!!!」

 

 …っと…さっきリカバリーガールが言っていたことと似たようなことを口にしていたが、病院から俺は…ずっと上の空になっていたから…クソ担任の言葉は右から左へと聞き流した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●ヘドロヴィラン事件から2か月半後の6月末…

 

 

None side

 

 爆豪勝己が…緑谷出久の入院している病室に窓から侵入した日から1ヶ月以上が経過…

 

 折寺中学校の生徒は…爆豪勝己だけとなってしまい、他の生徒達は緑谷出久を除いて全員が《愛知県の泥花市にある中学校》へと転校してしまった。

 それは生徒だけでなく、折寺中の教師達も同じである。

 教師達は転校していく生徒達の後を追うように折寺中から出ていき、泥花市にある学校へと転任していった。

 ただし…爆豪勝己が卒業を迎えるまでは《3年生の教師陣》だけは転任が許されず、折寺中にはまだ教師が何人か残っている…

 

 

 

 本来なら折寺中の教師達は…

 

《無個性の子供を差別していたこと》…

 

《個性で生徒の優不遇を決めていたこと》…

 

《生徒の間で起きていたイジメを知っていたにも関わらず見て見ぬフリをしてきたこと》…

 

《生徒達へ何の対処(忠告とケア)もしていなかったこと》…

 

 その全てが世間に知られた時点で…転任どころか…どこの学校も受け入れを拒まれて無職になっていた可能性は十分にあった…

 

 そしてそれは現実となり、その全ての事実が何者かによって世間に晒されてしまい、彼らは生徒の保護者や世間から相当に叩かれて…辛く苦しい日々を送っていた…

 

 特に家庭を築いていた教師は《離婚を迫られたり》…《奥さん又は旦那さんが子供をつれて黙って実家に帰ってしまう》などの転落人生を送っていた…

 

 

 

 そんな教育者として失格な教師達にも…花畑党首は手を差し伸べた。

 

 花畑によって…多くの教師達が救われた…

 

 

 

 しかし…折寺中学校の校舎そのものは…場合によっては来年の今頃には無くなる可能性が出てきてしまっている…

 現状の生徒が1人しかいないのと、来年入学してくる新入生が絶望的なため…

 既に《廃校》や《取り壊し》や《別の施設として再利用》などの話がチラホラと噂になっている。

 

 

 

 えっ?爆豪勝己と緑谷出久のクラスメイト28人は折寺中学校にいないのかって?

 

 花畑党首から救いの手を差し伸べてもらえなかったのなら、彼らはまだ折寺中学校にいる筈じゃないのかって?

 

 

 

 その問いに対しての解答をザックリ言うと、クラスメイト28人とその家族達は《突如として折寺町から姿を消した》のだ。

 《姿を消した》と言っても『厳罰が解除されたことで転校や引っ越しが許されたため颯爽と折寺町から離れたんじゃないか?』……と世間的には言われている。

 噂では『花畑党首以外の《お人好し》が内密に彼らを保護したんじゃないか?』……とも言われており、どんな手を使ったのか…姿を消した彼らの足取りについては、警察やヒーローがいくら調べても未だ掴めずにいる…

 

 

 

 え?爆豪勝己は転校しなかったのかって?

 

 

 

 《転校しなかった》のではなく…

 

 《転校ができなかった》のだ…

 

 散々騒がれている問題児を転校させてくれる中学校なんて何処にも有りはしない…

 『慈悲深い政治家』とも呼ばれるようになった花畑党首ですら、爆豪勝己には救いの手を差し伸べなかった程なのだ…

 

 更に言えば、今から1か月前…奇跡的に意識を取り戻したイジメの被害者である緑谷出久の元へ、イジメの加害者である爆豪勝己は無断で個性を使い空を飛行しながら被害者のいる病院に窓から侵入した挙げ句に、懲りずにまた被害者へ《暴行》と《恐喝》を働いたことによって、爆豪勝己の印象は更に酷くなり、日本中の教育者から《精神異常者》との印象を持たれてしまった。

 

 故に爆豪勝己は《折寺中学校で卒業を迎える》という選択肢しか無かったのだ。

 

 

 

 4月までは生徒で一杯だった折寺中学校は……今では閑古鳥が鳴いている…

 

 

 

 本来なら爆豪勝己は…1か月前に仕出かした数々の罪…

《病院への不法侵入》…

《病院の窓を割った器物破損》…

《個性の無断使用》…

 …などの多くの罪によって、学生であろうと重い罰を受けなければならない…

 況してや《雄英入学のチャンス》なんて破棄されて当然だった…

 

 だが…爆豪勝己を《一部のヒーロー達》が懸命にフォローしたために、今回の罰は見送りとされた。

 納得しない者は大勢いた。……しかし爆豪をフォローしたヒーローというのは《ヘドロヴィラン事件に関わったプロヒーロー達》だった…

 あの事件現場にいながら…爆豪を助けなかった《贖罪》と《償い》なのか、警察と教育委員会とヒーロー協会を全員で周って説得したらしい。

 

 その説得に動いたヒーロー達の中には…なんと《オールマイト》の姿もあった…

 

 結局、爆豪勝己の罪は《見送り》という形となり、《雄英高校に入学できるチャンス》も取り消しになることはなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな爆豪勝己は今…

 

 中学卒業まで自分の監視と教育の担当ヒーローである《オールマイト》からの御指導を受けながら、来年の雄英入学に向けて学校以外の時間のほとんどを、身体強化と個性強化の特訓を受けている。

 

 オールマイトに対しての不満しかなかった爆豪だったが、雄英高校に入学するための苦肉の策として、もはや憧れですらなくなったオールマイトを十二分に利用して合格を掴み取ってやろうと決断していたのだ。

 

 オールマイトからのトレーニング指導が始まったのは5月の中旬からであり、爆豪が出久の病室で騒ぎを起こした数日後だった。

 爆豪はオールマイトから渡されたトレーニングメニューの資料(《平日と休日における1日のスケジュール》《食事メニュー》《セットプラン》など》)に従って日々の特訓に勤しんでいた。

 

 しかし爆豪は、オールマイトにはつくづく失望していた

 

 

 

 なぜって?

 

 

 

 それはオールマイトとの特訓が始まって数日後のことだった…

 

 その日は私服でやって来たオールマイトのズボンの尻ポケットに《付箋が沢山挟まっている本》が見えたからだ…

 

 爆豪にとって《オールマイトが本を読むこと》は気にすることではなかった…

 

 …のだが…問題だったのはポケットから見えた《本の名前》…

 

 

 

 その本の名称は…

 

 【駄目な子供の心が分かる本!】…

 

 という名前だったのだ…

 

 

 

 オールマイトがそんな本をポケットに忍ばせているのを知った時点で…爆豪はオールマイトへの信頼をなくし…完全に見限っていた…

 

 それを知ったからなのか……それとも前から決めていたことなのか……爆豪は《ある目標》に向かっての人生の道を歩みだしていた!

 

 それが《破滅の道》だと分かっていてもだ…

 

 

 

 

 

 爆豪の目標……それは…

 

 

 

 

 

 緑谷出久の失った記憶を取り戻すこと…

 

 

 

 

 

 第3者が聞けば、爆豪の目標など理解できないだろう…

 《イジメの主犯である爆豪のこと》も《10年以上も虐められた過去》も《出久が飛び降り自殺を図った日の出来事》も……その全てを出久は忘れてしまっている…

 改心する前の爆豪ならば、コレについて《自分にとって都合の悪い記憶を忘れてくれた出久》に不謹慎ながら高笑いをして感謝しただろう…

 

 だが今の爆豪勝己は違う…

 

 ヘドロヴィラン事件後から数々の辛い経験と苦しい経験を通し…個性を発現して10年以上の時を経て…自分の考えを改めた…

 

 物凄く " 今更 " のことだが………

 

 そんな爆豪が…記憶を失った出久に対しての《償い》というのが…

 

 

 

 

 

 全ての記憶を取り戻した緑谷出久に…誠心誠意で謝罪すること…

 

 

 

 

 

 記憶を無くした出久にいくら謝ったところで意味はない…

 

 出久が記憶を無くしたとリカバリーガールから聞いた瞬間、爆豪の中にある時間は止まってしまった…

 このままでは…爆豪は一生先へは進むことはない…

 

 《出久に失った記憶を思い出させて謝る》…それが爆豪の《目標》となり、プロヒーローを目指すことに匹敵する《夢》となっていた…

 

 しかし、失った記憶を取り戻すと言っても…それは簡単なことではない…

 爆豪は医者でもなんでもない、ただの中学生だ…

 

 そんな爆豪が出久の記憶を取り戻すための手段は…《昔の自分で有り続けること》…《出久をイジめていた爆豪勝己で有り続けること》である。

 万に1つもない可能性だが、それが爆豪なりの出久の記憶を取り戻す手段なのだ…

 

 

 

 ただでさえ世間から叩かれているというのに…記憶を取り戻すために…爆豪はこれからも出久をイジめていく…

 

 どう考えても…自分の人生をドブに捨てるようなものだというのに…

 

 《破滅》という名の地獄の終着駅に向かう片道切符だと分かっている筈なのに…

 

 爆豪の決心に揺るぎはなかった…

 

 

 

 

 

 緑谷出久への償いのために生きる…

 

 これが爆豪勝己の物語となっていくのだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●とある研究室…

 

 

爆豪勝己の取り巻き side

 

「(……………ん?……あれ……ここ何処だ?)」

 

 目を覚ますと…俺は仰向けで知らない天井を見ていた…

 

「(なんで俺…こんな所にいるんだっけ?…確か…先月にカツキの野郎が教室の窓から飛び出した日に…厳罰だった奉仕活動の終了が決まって…親はすぐに折寺町から出ていくことを決めたけど…俺達はカツキのせいで花畑党首からの誘いを受けられなかったから…引っ越し先も転校先も宛がなくて途方に暮れていた…)」

 

 正直あの時の俺は…奉仕活動が無くなったところで何の解決にもならないと思っていた…

 

 俺達は世間から迫害をされていた…

 

 もう《プロヒーローの夢》なんてどうでもいい…

 

 普通の生活に戻りたい…

 

 それが俺の願いだった…

 

「(そんなある日…《氏子 達磨(うじこ だるま)》っていう医者から1本の電話がかかってきた。その医者は…花畑党首からも見捨てられたことを哀れに思い…俺達を助けてくれると言ってくれたんだ!)」

 

 それを知った時!俺の心は一気に軽くなった!

 

「(更にその氏子って医者は、カツキと緑谷以外のクラスメイト28人の家庭にも連絡しているようで、学校はともかく俺達に対して《静かな住み場所》を提供してくれるとまで言ってきた!)」

 

 

 

 怪しくないかって?

 

 

 

 そうかもしれないけど、花畑党首のような善人だっているんだから、他にもそんな善人がいたっておかしくはない!

 

 俺も俺の家族もそうとしか考えられなかった!

 

 これでやっと普通の生活に戻れるんだ!

 

 そんな淡い考えしか俺の頭にはなかったんだ!

 

「(だが、その《氏子》と名乗る医者にも立場があるようで『君達を匿うことは内密にしてほしい…』との条件をつけてきた。まぁ…今の俺達が世間からどう見られているのかを考えれば、その医者の言う条件はもっともだった…)」

 

 だから俺達(クラスメイト28人とその家族達)は氏子医師の指示通りに動き、荷造りも自分達で済ませ、いつ折寺町から離れても問題ないように準備をした。

 

「(そして後日、氏子医師からの連絡で指定された時間に人気の無い場所へと俺達は集まった…。これだけの大人数が集められたんだから…迎えが来るなら大型バスが来るとばかり俺は思っていたら……突然俺達を《黒い靄》が飲み込んだ………)」

 

 そこからの記憶は思い出せない…

 

 ただ…微(かす)かに覚えているのは…

 

 《カツキとデク以外のクラスメイトの男子達と一緒に…冷たい檻の中に閉じ込められていた…》

 

 そんな馬鹿げた記憶が何故だか頭の中にある…

 

 

 

 

 

 冷静に考えて…思い出そうとしても思い出せない…

 

 俺は考えることをやめて状況を把握することにした。

 

 今になってようやく理解したが、どうやら俺は病院の手術室にある台の上に寝かされているみたいだ…

 

 どういう訳か、身体は何かに固定されていて身動きがとれない…

 

 口を何かで塞がれているせいで声が出ないが首だけは何とか動かせたため、辺りを見渡す…

 

 顔を左に向けると数メートル先は壁だった…

 

 テレビの医者ドラマで見たことがある病院の手術室らしき壁だ…

 

 『やっぱりここは病院なのか…』なんて呑気なことを思いながら…今度は顔を右に向けると…

 

 俺は一気に血の気が引いた!!!??

 

 

 

 隣には別の手術台があって…その上には俺と同じく身体を固定された《まだ顔で誰か判別できる見慣れたクラスメイト》が見るも無惨な姿にされていたんだ!!!!!

 

 それだけじゃない!

 

 更にその奥には3つの手術台があり、その上には《クラスメイトだと思われる何か》がいた!?

 

 

 

 今…俺は悪夢を見ているのか!?

 

 俺はこの状況は夢だと思い込み、目を覚まそうと試しに下唇を歯で思いっきり噛んだ!

 

「イデデッ!!?」

 

 痛い…

 

 確認できないが…恐らく噛んだ唇からは血が出ている…

 

 夢じゃない!?これは現実だ!!?

 

 俺は自分が置かれている状況がやっと理解できた!!!

 

 子供の頃にテレビ番組でやっていた《悪の秘密結社に拐われた正義のヒーローが悪の科学者に改造されて怪人にされたシーン》に酷使している!

 

 勿論それはフィクション…仮想の出来事だ…

 

 だが今の俺が体験しているのは仮想でも夢でもない!!!

 

「おや…ドクター、この子には薬を射たなかったのかい?」

 

「なんですと?…ほぅ……あの薬を注射されておきながら自力で意識を取り戻すとは……これは期待できますかなぁ…」

 

 突然聞こえてきた男2人の声!?

 

 その内の老人らしき声の男が意味不明なことをいっていた!!

 

「(期待!?何言ってんだ!!?)」

 

「やれやれ、どうやらワシは結果を急ぎすぎていたようですのぉ…」

 

「まだ始まったばかりだよドクター…焦ることはない………さて…」

 

 動けない俺に頭の後ろから聞こえてくる別の男の声の主が、俺の頭に手を乗せてきた!?

 

 次の瞬間!

 

 俺の頭から身体全体に向かって《何か》が流れ込んでくるのを実感した!!?

 

「ぐおあああああああ!!!!!???」

 

「………おぉ…これは凄い……この子は《5つ》までの個性が入りそうだよ」

 

「なんと!これは大当たりですな!やっと《上位》を作ることができる器が出ましたか。さっきから《下位》の器ばかりで肩透かしを喰らってましたが、5人目で《上位》が出るとはあれだけの金を使ったかいがありましたな。となると…この子の両親も《上位》の器の可能性があるかのぉ」

 

 痛みに苦しむ俺を余所に男2人はベラベラと話をしてやがる!!?

 

「(痛ぇ……痛ぇよ……なんで俺がこんな目にあわねぇといけねぇんだよ………そうだ……アイツだ……アイツのせいだ!!!カツキ!!!何もかもお前のせいだ!!!呪ってやる!!!お前を呪ってやるからなああああああああああ!!!!!!!!!!)」




 大抵の人は予測できていたと思いますが…タグに書いてある通り、出久君は記憶喪失になってしまいました。

 記憶喪失になった出久君の現状は《日常生活に必要な行動》《義務教育で習ってきた知識》《ヒーロー社会についての常識》等の記憶には異常はなく、失った記憶というのは《ヘドロ事件があった日の記憶》と《自分と関わってきた他人の記憶(植木耕助とウール以外)》ということにしています。

 本編の次の話は、出久君の個性(能力と神器)特訓をする残り5人の担当者が登場する話の予定なのですが………もしかしたら《別の話》が入るかもしれません。
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