緑谷出久の法則   作:神G

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 新年最初の更新になります。

 毎度ながらお待たせしてしまい申し訳ないです…

 最初に申し上げるのですが、今回の話ではまだ本格的に出久君は登場はしません。

 今回はヒロアカに登場した《ある記者》に重点を置いた話となります。

 爆豪やオールマイトの暗い話(ヘビーな話)が終わって、今回からは明るい話(ライトな話)を目指して書き進めていたのですが、いざ完成してみると《グレーゾーン》……いえ《暗い話》寄りになってしまいましたが、どうか御了承の程よろしくお願いします。


記者と報道の法則(前編)

●とある新聞社…(出久が目覚めて4日目の夕方…)

 

 

None side

 

「オールマイト……どうしてこんなことに…」ウルウル

 

「見いってないで資料を揃えなさい!」

 

「は!はい!!」

 

 パソコンのネット上に書かれたオールマイトのバッシングを涙目で見る《眼鏡をかけた小太りの男》が、《眼鏡をかけた女編集長》に怒鳴られていた。

 

 今、この新聞社の女編集長はとても焦っている…

 

 既に《1ヶ月早まって開催された今年度のヒーロービルボードチャート上半期》の日から2週間以上が経過していた…

 

 …のだが……今や新聞や雑誌だけでなくネットでも当たり前のように特集されている数々の情報がどこもこれも《同じネタ》ばかりであり、世間の人々は《書いてある内容が毎回同じ新聞や雑誌》などを買ってくれる訳がなく、どの新聞社も売れ行きが下がりつつあるため、記者達は《新しいスクープ、ネタ》に餓えていた。

 

 1か月前の《ヘドロヴィラン事件》と《無個性の男子中学生の自殺未遂》を始まり、次々と明らかにされた数々のスクープは既にマンネリ化してしまい、2週間以上前のビルボードチャートで《開催が急遽早まったこと》《トップヒーロー達の登壇とコメント》《ヒーロー公安委員会からの3つの報告》《オールマイトとエンデヴァーが先代No.1ヒーローにお灸を据えられたこと》は、今じゃ日本のみならず世界中の殆んどの人達が把握しているのだ…

 

 

 

 しかし、こんな状況にも関わらず雑誌の売り上げが絶好調な出版社が《1ヵ所》だけ存在する。

 

 1週間以上前に起きた《折寺中3年生達への同時集団暴行事件》を、何処よりも真っ先に取り上げた女性ジャーナリストとその仕事仲間が勤める《集瑛社》である。

 

 何故、その集瑛社のジャーナリスト達が当日に折寺町へ来ていたのか?

 

 それは当日の彼らが《事件の数日前に折寺町へと移動してきた県外のヒーロー達》にインタビューをするために訪れていたからである。

 

 その際、偶然にも事件現場の付近にいたことで《被害にあった折寺中学生達や事件現場の写真》や《各襲撃現場へ最初に到着したヒーローや一般人達のコメント》を全て独占することが出来たのだ。

 

 そのため、他のジャーナリスト達は未だに折寺中生徒の襲撃事件の有力な情報を手にすることか出来ずにいた…

 

 

 

「駄目!駄目!こんな当たり障りのない記事じゃ誰も買ってくれないわよ!今までにないスクープが必要なの!只でさえビルボードチャートから襲撃事件までの特集号は、ウチが最後発なんだから!」

 

 女編集長は、別の若い編集者が作成している記事を見て難癖をつけていた。

 

「ヒーロー公安委員会もオールマイトの関係者も全員、口が固くて……あっ!そうです!前に《エンデヴァーの次男》にインタビューした際のコメントを元に記事を作ってみるのはどうでしょうか?」

 

「それは他の新聞社がもう出版しちゃってるでしょう!!第一、ヒーローランキングが最下位になったDVヒーローの情報なんて誰が知りたがるのよ!!当人はセントラル病院に入れられちゃったせいで、退院するまでインタビューどころか顔すら見ることも出来ない状況なんだから!エンデヴァーに関する記事は無し!!!それより、例の《無個性の中学生に自殺を促す発言をしたヒーロー》については!?」

 

「ヒーロー公安委員会が重要機密にしている案件です、そのヒーローが誰なのかは全く掴めていません。手当たり次第にプロヒーロー達に聞き込みもしてみたのですが…有力な情報は何も…もしヒーロー関係者以外でそのヒーローが誰なのかを知る人物がいるとしたら……1人しか…」

 

「入院中の《飛び降り自殺に失敗した無個性の中学生》だけってことね…」

 

「はい……ですが…その被害者にはプロヒーローの《デステゴロ》《シンリンカムイ》《バックドラフト》《Mt.レディ》の4名が交代で警備をしているため、被害者にもその御家族にも近づくことは不可能です。そもそも…被害者の中学生は昏睡状態で意識不明ですし…」

 

「デステゴロ達は、被害者への《罪滅ぼし》と《償い》のつもりなのかしら?」

 

「記者会見ではシンリンカムイとデステゴロが、ヘドロヴィラン事件で『被害者を一方的に怒鳴り散らして叱った』とコメントしていましたから、その可能性はあります……ですが…確証が何も…」

 

「ネタは貰うものじゃない!取るの!取っていくの!もしかしたら、その4人の誰かが《被害者の夢を否定して自殺に追い込む発言をしたヒーロー》かも知れないじゃない!何としても真相を突き止めるのよ!」

 

 女編集長がヒートアップしていき、憶測を口にし始めていると…

 

 

 

 

 

「おやおや、編集長に怒った顔は似合いません、折角の美人が台無しです」

 

 

 

 

 

 編集室の出入口の扉に寄りかかる《左右の瞳が違う眼鏡をかけた細身の男》が女編集長に話しかけてきた。

 

「あらタネちゃん!最近、音信不通だったから心配してたのよ?」

 

「すみません編集長、ここ1ヶ月程《ある特ダネ》を求めて動いていたものでして」

 

「特ダネ!!?」

 

「はい、おそらく…今この世にいる記者の中で…私しか知らない《とっておきのネタ》をね」

 

 《特ダネ》と聞いて女編集長の目の色が変わった!

 

 

 

 女編集長はすぐに細身の男と先程怒鳴り叱っていた男性社員2人を連れて、防音対策のある特別な個室へと4人で移動し、テーブルを挟んで座った。

 

 

 

「それじゃあタネちゃん!聞かせてくれるかしら?その《とっておきのネタ》を!」

 

「勿論、その代わり《このネタ》を入手出来たのは《相当な苦労》と《偶然》があってなので、高く買ってくださいよ?」

 

「そのネタの内容にもよるけど、タネちゃんが1か月以上も探って掴んだ情報をウチの新聞社だけに提供してくれるんだから、報酬は弾むわよ」

 

「流石は編集長、話が分かりますね」

 

「って!報酬のことは後回しにして!早くそのネタを教えてよ!!!」

 

 女編集長だけでなく、同席している編集者の2人も早く知りたいのかソワソワしていた。

 

「分かりました…ではお話ししましょう。まず最初に私が調べていた内容というのは、1ヶ月以上前の4月の中旬に発生した《ヘドロヴィラン事件》と、同日に起きた《飛び降り自殺を図った無個性の中学生》についてです」

 

「無個性ってことを理由に学校で虐めと差別を受けて、ヒーローから夢を否定された被害者の?」

 

「そうです、実はその子……今から3日前に目を覚まして意識を取り戻しました」

 

「えっ!!?そうなの!!!??」

 

 女編集長はいきなりの事実に驚いた!

 

 驚くもの無理はない、事件のあとにリカバリーガールの緊急手術にて一命はとりとめたのは知っていたが、そのリカバリーガールが『被害者の子供の意識が戻る可能性は数%』とコメントをしてたため、1ヶ月程で意識が回復したなど驚かない訳がなかった!

 

「でもどうやってそれを調べたの!?その被害者と御家族には、プロヒーローの警備が着いてるから近づけない筈よね!?」

 

「落ち着いてください編集長、順を追って説明していきます。私は1か月前からその被害者の少年について調べてました。ですが私が本命として求めていたスクープは別にあります……それがなんなのかは編集長も察しがついてるのでは?」

 

「……被害者の中学生に『無個性はヒーローになれない』って発言をした《名前の伏せられてるヒーロー》のことかしら?」

 

「御名答。私はそのヒーローが誰なのかをずっと追っていたのですよ。しかし知っての通り…そのヒーローの正体は、ヒーロー公安委員会が徹底して隠しており、おそらくその秘密に関して知っているのはヒーロー公安委員会内部でも上層部の人間だけなのでしょう…。そうなると情報を手にするのは困難……なので被害者である無個性の中学生の周囲を調べていたんです」

 

「流石はタネちゃん!目の付け所が違うわね!それで!《名前が伏せられてるヒーロー》っていったい誰なの!!?デステゴロ!?シンリンカムイ!?バックドラフト!?それともMt.レディ!?」

 

「それが~…そのスクープだけは突き止めることが出来ませんでした…」

 

「ええ~…そんな~…」

 

「ですが御安心を!そのヒーローが誰なのかは突き止められませんでしたが、それに匹敵する《沢山のスクープ》を手に入れることが出来ましたので!」

 

「沢山!!!」

 

 肩透かしを喰らって落胆したと思ったら、他にスクープがあると聞いて立ち直る現金な女編集長は、再び細身の男の話へ食い付いた!

 

「実は今日も一般人を装って被害者が入院する病院内に潜伏していた際、私は《抹消ヒーロー・イレイザーヘッド》から声をかけられたんですよ」

 

「イレイザーヘッドって……確か雄英高校で教師をやってるメディア嫌いのアングラヒーローだったかしら?というよりなんでイレイザーヘッドが?」

 

「被害者の少年を治療したリカバリーガールが、少年の過ごしてきた学校環境を警察から聞いたことで、彼女の顔見知りであり教育者としてもっとも信頼出来る雄英高校の《根津校長》に相談したみたいです」

 

「根津校長に……というよりタネちゃん、よく声をかけてもらえたわねぇ」

 

「ええ、どうやら《私以外で無個性の中学生を調べている記者はいなかった》という偶然もあってですが、それはそれで巡ってきたチャンスでしたよ。私はイレイザーヘッドに連れられて病院の談話室に移動しました。そこには《根津校長》と《リカバリーガール》の2人がいたんです」

 

「根津校長とリカバリーガールが!?それでそれで!!?」

 

「根津校長は私が記者であることも、事件から1か月近く一般人を装って病院に張り込んでいたことも知ってたようでして、その時はてっきり病院に張り込むのをやめるように忠告を受けると思っていたのですが……私の予想は大きくハズレました。私を追い出すどころか、根津校長が提示した《ある条件》を引き受けることで、私に《色々な情報》を提供してきてくれたんですよ」

 

「タネちゃんに情報をくれたのは根津校長だったの!?」

 

「はい、先程も言った《被害者の少年の意識が戻ったこと》だけでなく、《被害者以外の折寺中3年生への奉仕活動》についてもです。彼等を心から反省させるために、被害者が普段から行(おこな)っていた奉仕活動に参加させているみたいなのですが……編集長も彼等の現状はご存知でしょう?」

 

「えぇ知ってるわ、今や社会的にもネット上でも袋叩きにされていて、一連の加害者でありイジメの主犯核でもある《爆豪 勝己》と《被害者以外の折寺中の3年生達全員》の奉仕活動期間が伸びて一向に終わるメドがたってないでんしょ?《無断で休んだり》《問題を起こしたり》《活動中に個性を使ったり》した場合、ペナルティとして奉仕活動期間が加算されてる上に、被害者以外の生徒達の個人情報がネットにバラ撒かれていたことで、彼らと似た個性をもった人達が復讐のために集まって、1週間以上前に折寺中の生徒達に対して《集団暴行事件》が起きたのよね」

 

「そうです、その彼等についても根津校長が語ってくれました。《被害者以外の折寺中3年生達》と《教師達》を心身とも反省させるために、奉仕活動を提案した当事者としてね」

 

「えっ!!?彼等に奉仕活動の厳罰を与えた《どこかのヒーロー高校の校長》って《根津校長》のことだったの!?」

 

「当たりです。コレについても記事にしても良いと根津校長からちゃんと許可をもらってきました。ついでに何故、生徒達を《退学》や《停学》にせず、教師達を《解雇》の処分にしなかった《理由》についても聞いてきましたよ」

 

「やるじゃない!流石はタネちゃん!それだけでも十分なスクープよ!」

 

「いえいえ、コレだけじゃありませんよ。根津校長が関わっていた案件は他にもあるんです」

 

「なになに!!他には何を言っていたの!?」

 

 それから細身の男は、根津校長から聞いてきた《世間へ公にすることを許された情報》を話していった。

 編集長はボイスレコーダーを動かしながらも興味津々で耳を傾け、編集長の両隣の席に座っている編集者の2人も手持ちのメモ帳にペンを走らせていた。

 

 

 

・1か月以上前に被害者の手術をしたリカバリーガールが、被害者の自殺の原因であるイジメや差別の内容を知り、自分が知る教育者の中でもっとも信頼における根津校長へ相談をもちかけたこと…

 

・後日、根津校長は警察署を訪れて午前中は、《ヒーロー協会》や《教育委員会》の方々と共に《折寺中学の生徒と教師達》と《ヘドロヴィラン事件に関わったヒーロー達》の厳罰の内容について会議を開いていたこと…

 

・同日の午後には、イレイザーヘッドも参加し《ヘドロヴィラン事件に関わったプロヒーロー達》を集めて《ヒーローとしての自覚が無さすぎること》を厳しく説教をした上で、ヒーロー達に《奉仕活動への参加と折寺中生徒の見張り》を命じたこと…

 

・トップヒーロー2人とプロヒーロー達の愚行によって崩れてしまったヒーロー社会の平穏を取り戻すため、《先代No.1ヒーローの神様の復帰》には根津校長とリカバリーガールも関わっていたこと…

 

・致命的なミスをしたオールマイトと、家庭内暴力をしていたエンデヴァーを、心身共に深く反省させるため、神様に2人の制裁を依頼した面子の中にも根津校長とリカバリーガールがいたこと…

 

 

 

「…これが、根津校長より頂いた《世間が知らない公開が許されたスクープ》です」

 

「まさか…根津校長がそんなに裏で動いていたなんて…」

 

「私も驚きましたよ。ですが…改めて考えてみれば、イジメや差別は《教育者》として…雄英のOBであるオールマイトとエンデヴァーには《ヒーロー高校の校長》として…根津校長は見過ごせなかったのでしょう…」

 

「そうねぇ……にしてもそんなに沢山のスクープを手に入れてくるなんて、本当に凄いわタネちゃん!!報酬は弾むわよ!!」

 

「ありがとうございます編集長。ですが、まだ終わりではありませんよ?」

 

「そうそう!目を覚ました被害者についてはどうなの!?」

 

「それについては、リカバリーガールが話してくれました。当然ながら被害者の御家族からの許可をもらっての情報です。先程も言ったように、その少年が目を覚ましたのは3日前、リカバリーガールが被害者の検査を終えて部屋を出ようとした正にそのタイミングで目を覚ましたそうですよ。リカバリーガールいわく、意識が戻ったのは《奇跡》だと言っていました」

 

「名医が《奇跡》なんて言葉を口にするなんて………意識が戻って良かったわ…」

 

「本当ですよ、私も泣きそうになりましたから」

 

「で?その子が目を覚ましたなら《自分を夢を否定したヒーロー》について話してくれたんじゃないの?」

 

「いえ、残念ながら被害者の少年と御家族に接触することは叶いませんでした。それに……例え会わせていただけたとしても…そのヒーローが誰なのかを聞き出すのは不可能です…」

 

「どうして?誰かに口止めされてるとか?」

 

「いえ、誰も口止め等はしていないみたいですよ。……リカバリーガールが事件から1か月の間に個性《治癒》を使って定期的に治療してくれたこともあって身体に異常はないらしいのですが………どうやら事故のショックで脳に障害が出てしまい…後遺症で《記憶喪失》になってしまったんですよ…」

 

「きっ!?記憶喪失!!?」

 

 女編集長は被害者の後遺症に驚愕した!

 

「はい、リカバリーガールと脳専門の医者が検査した結果、被害者は正真正銘の《記憶喪失》と判明されたのです。まぁ一言に記憶喪失とは言っても、何もかも忘れてしまった訳ではなく《日常生活に必要な記憶》や《これまで世間や学校で学んできた知識の記憶》は異常無しだそうです」

 

「成る程、それなら普通の生活は送れるってことなのね。……あら?じゃあ《喪失した記憶》っていうのは《事件があった当日の記憶》全部ってことかしら?だから《自分の夢を否定してしたヒーロー》が誰なのかを分からない?ってこと?」

 

「いえ……その少年が《失った記憶》はそんな軽いレベルではありません…」

 

「どういうこと?」

 

「被害者の少年が失った記憶………それは《自分自身》と《産まれてから関わってきた他人との記憶》が全て消えてしまったそうなんです…」

 

「…えっ………それって…」

 

 

 

「はい…その少年は《自分》も《自分の親》も《親と過ごしてきた14年以上の記憶》も全て忘れてしまった……ということです…」

 

 

 

『………』

 

 

 

 予想外の展開に女編集長も編集者2人も黙り混んだ…

 

 一命をとりとめ…奇跡的に意識を取り戻したというのに…その代償として《大切な記憶》が消えてしまった…

 

 こんなに悲しいことがあっていい訳ない…

 

「リカバリーガールの話では、記憶喪失になった原因は《ビルから飛び降りて地面に頭を激突させたこと》だけでなく…《無個性であることを理由に10年近く理不尽な虐めと差別で精神的に追い詰められて限界だったこと》に加え…《名前が伏せられているヒーローには夢を踏み潰されたこと》…《ヘドロ事件の現場にいたヒーロー達の愚行を見たこと》…《そのヒーロー達から怒鳴り散らされて叱られている姿を野次馬の見世物にされたこと》による精神的ショックが記憶を失った大きな原因だと言っていました…」ポロポロ…

 

「………」ポロポロ…

 

「………」グズグズ…

 

「………」グズグズ…

 

 改めて話を整理し口に出すと…何故か細身の男の目からは涙が流れ出ていた…

 それは話を聞いていた3人も同じく、女編集長は静かに涙を流している反面、他の2人は号泣していた…

 

 被害者である無個性の中学生が…どれだけ理不尽な人生を送ってきたのかが…垣間(かいま)見えたのだろう…

 

 記者の立場上、過去に《無個性の学生が理不尽なイジメと差別を受けて自殺を図った》というスクープを取り扱ったことはあれども、ここまで感傷に浸ったことはなかった…

 自分達は個性を持って産まれ生きてきた……だから無個性の気持ちを知ることは出来ても理解することは出来ない…

 こんな騒ぎにまでなって…やっと少しだけ理解できた…

 だから余計に涙が溢れ流れ出てきてしまうのだ…

 

「……ねぇタネちゃん……その被害者の子だけど…《自分が産まれてきてから関わってきた他人の記憶》が全部消えちゃったってことは…《今まで自分を虐めて差別してきた人達のこと》も綺麗サッパリ忘れちゃったってこと……なのかしら?」

 

「…えぇ…その通りです。色々診察した際…自殺教唆の発言をしたイジメの主犯核である《爆豪 勝己の写真》を見せても…一切動揺せず…顔色も変えず…精神が不安定になる様子は何一つ見られ無かったそうです…」

 

「そう…なの………でもその子にとっては《嫌な記憶》は忘れられたことだけは……良いこと…なのかしら……」

 

 先程までの勢いが嘘のように女編集長は力無く返答する…

 部屋の空気が完全にシンミリとしてしまった…

 

 

 

 そんな空気を一変させる《最後のスクープ》を細身の男が語り出した。

 

 

 

「編集長、確かに被害者の少年は散々な人生を過ごしてきただけでなく…記憶を失ってしまいました。……ですがその代わりに彼は《あるもの》を手にしたんです」

 

「あるもの?」

 

「はい、被害者の《緑谷 出久》君は…《個性》を発現したんです…」

 

「こっ!?個性を発現した!!!???というかタネちゃん!!!今!被害者の名前を!!?」

 

 女編集長はさっきのシンミリとした雰囲気から一変して、急に興奮し始めた!

 

「1ヶ月もの間ずっと調べてたんですよ?被害者の名前を知っているのは当然です。といっても被害者の本名の掲載はしないようにと根津校長からは忠告を受けてますがね」

 

「個性の発現………それって《自殺を図ったから個性が発現した》ってこと?」

 

 

 

 

 

 女編集長のふとした発言を効いた途端、細身の男は表情を険しくして目付きを鋭くした。

 

 

 

 

 

 

「………編集長……今の発言に…貴女は責任を持てるんですか?」

 

「え?だってぇ……そうじゃないの?」

 

「…確かに…傍から聞けばそのようにしか思えないでしょう………しかしそれは《編集長の憶測》です。編集長ともあろうお方が…そんな軽弾みな発言を口するとは……私は貴女を見誤ってましたよ…」

 

「え?」

 

「…はぁ……いいですか編集長?もし《今の憶測》をそのまま記事にしていたら、今の世に差別されて苦しみ生きている無個性の人々は何をすると思いますか?」

 

「?………ッ!!!??」

 

「どうやら気づいたようですね……そう…『自殺未遂をすれば個性が発現するんじゃないか』などと解釈をしてしまい、場合によって《とんでもない大惨事》になりますよ?編集長…」

 

「ご……ごめんなさい……勝手な憶測で…無責任に決めつけちゃったわ……」

 

「気を付けてください。根津校長達から出された《ある条件》の中でも、そんな妄言を掲載することだけは絶対しないようにと釘を刺されてるんですから…《口は災いの元》と言います…況してや我々はジャーナリスト、思い込みによる勝手な判断の責任は、事と次第によっては編集長やこの会社だけでは済みません……編集長や社員達の御家族や身内にも被害が拡散する恐れがあります。……根津校長からそう忠告されました」

 

「……………」

 

 細身の男から語られた正論を聞き、無神経な発言をしてしまった女編集長は項垂れ黙りこくってしまった…

 

 今の忠告を聞かず…後先考え無しに先程の憶測を掲載していたならば…自分だけでなく大勢の人々の未来は壊し…《取り返しのつかない事態》になっていたことに…女編集長は恐怖していた…

 

 それは彼女の両隣に座っている男性社員2人も他人事ではないため、細身の男から語られた言葉を真剣に受け止めていた。

 

「えっと……タネちゃん……改めて確認したいんだけど…被害者の……緑谷出久君…だっけ?…その子が個性を発現した経緯を聞かせてもらえるかしら?」

 

「……………分かりました。その話についても順を追って説明しましょう…」

 

 細身の男は少し間を置いて、険しい顔付きから先程までの陽気な顔付き戻った。

 

 女編集長の無責任な発言によって、細身の男の機嫌を損ねてしまった。

 なので《残りのスクープ》を話してはくれないのではないかと不安になっていたため、女編集長と男性社員2人は内心ホッと胸を撫で下ろした…

 

「その少年が個性を発現したのは、飛び降り自殺を図った日から約1か月後、意識が戻った日に個性が発現したとのことです」

 

「じゃあ、ほんの数日前に個性を発現したばかりなのね。でも…なんで目を覚ましたその日に個性が発現したって断言できるの?もしかしたら眠っている1か月の間に個性が発現した可能性だってあるんじゃあ?」

 

「それについては私も気になったので確認しました。先程も言いましたが、被害者の手術をしたリカバリーガールが手術後も定期的に診察へ訪れては、治療と一緒に《個性因子の検査》もしていたそうなのです。守秘義務のため診察記録は見せてはもらえませんでしたが『昏睡状態の間、患者の身体に《個性因子》は一切見られ無かった』とリカバリーガールが断言しています」

 

「リカバリーガールが……成る程、彼女が診察してたのなら間違いないわね。それでいったい《どんな個性》を発現したの?」

 

「残念ですが、緑谷出久君の《発現した個性》が何なのかは教えてもらえませんでした。ただ《御両親のどちらとも類似しない個性》を発現したそうです」

 

「類似しない?………それじゃあ…その緑谷君が発現した個性は…《突然変異種》…ってこと?」

 

「そうです。個性の詳細は教えてはもらえませんでしたが、緑谷君とその御両親が《どういう系統の個性》なのかは何とか教えてもらえました」

 

「粘ったわねぇ…タネちゃん」

 

「ですから苦労したんですよ。リカバリーガールの話によると緑谷君は稀にある《個性を遅れて発現する体質》の人間だったんです。ただ《10年も個性の発現が遅れるケース》は前例がないため、まだ完全な原因解明には至ってはいないようです。現状の考察では緑谷君が《個性の発現が遅れる体質であること》と《突然変異の個性を宿していたこと》の2つが重なっていたために、10年も遅れて個性の発現したんじゃないかとリカバリーガールは推測しておりました」

 

「成る程、無個性の子供が数年後に個性を発現するのは最近の研究で判明してるけど、緑谷君の場合は《個性の発現が遅れる体質》な上に、希少な《突然変異の個性》を宿していたなら、《10年も遅れて個性を発現した》というのは辻褄が合うわね」

 

「まだ断定は出来ていないようですが何せ前例がないため、《可能性の1つ》としてはこの説が一番高いともリカバリーガールはおっしゃっていました」

 

「確かにそれなら納得できるわね。…でも…タネちゃん…《もしも》のことは考えなれない?緑谷君が…そのぅ……緑谷夫妻の子供じゃないって可能性も捨てきれないんじゃ…」

 

「それはありえませんよ。そんな誤解をされないためにと、前もってリカバリーガールから言われていることがあります。リカバリーガールを通して緑谷夫妻の許可をいただき、個性検査と同時に行(おこな)われた《DNA鑑定の結果》も掲載して良いと許可をもらっております。鑑定結果は99.99%でDNAが一致しているとのことで、緑谷出久君は正真正銘の緑谷夫妻の子供です」

 

「そう…だったの……ごめんなさい…失言だったわ…」

 

「いえ…一昔前は《突然変異種の個性》を発現した家庭は何かと騒がれてましたからね…。そう言った誤解をされても仕方ないでしょう…」

 

「…それで…タネちゃん?…その緑谷一家の個性って言うのは《どんな系統の個性》なのかしら?」

 

「はい、母親の個性は《重力系》、父親の個性は《炎系》、そして緑谷君が発現した突然変異種の個性は《植物系》です」

 

「《植物系の個性》……確かに《重力系の個性》とも《炎系の個性》とも全く関連性がないわね…」

 

「一応言っておきますが、緑谷君の御両親は《プロヒーロー》ではありません。母親は至って普通の主婦であり、父親は海外で仕事をしているようですが、息子のことを聞いて何とか時間を作り一時的に日本へ帰国しています。ただかなり無理をして休みをとったらしく、どうやっても明後日には日本をたって海外に戻らなければならないそうです。更に言いますと父親は《炎系の個性》であるがために…《あの騒ぎ》の被害を多少なりとも受けたようでして…」

 

「爆豪勝己とエンデヴァーの同じ《炎系の個性》だったものあって、1ヶ月近くも日本へ戻ってくるのが遅れたって訳ね」

 

「そう考えて間違いないでしょう。本当なら事件があった次の日にでも日本に帰国して、大切な我が子の近くにいてあげたかったでしょうからね。ですが、そんな迷惑をかけた加害者達である《爆豪勝己や折寺中の生徒達や教師達》に対して、緑谷夫妻は被害届を出さなければ裁判沙汰にはしないと言っているようです」

 

「え?どうして?息子を死に追い詰めた人達を訴えないの?」

 

「ええ…御両親共に…もう加害者達とは『関わりたくない』とのことです…」

 

「……そう…なの……まぁ被害者家族がそう言うなら私達がとやかく言う必要はないわよね。ところでタネちゃん、今回のスクープは《どこまで》の掲載を許されてるのかしら?」

 

「はい、最初に話した《根津校長が関与していたスクープ》については全て掲載しても大丈夫ですが、根津校長から言われた《ある条件》、《先程の編集長への忠告》と《緑谷出久君の公開する情報の制限》を言い渡されました」

 

「うっ………も…勿論、私のさっきの失言については掲載するに当たって十分に気を付けるわ…。それで…その緑谷君の情報制限っていうのは?」

 

「《緑谷出久君と緑谷夫妻の名前》などの個人情報は掲載しないこと。その代わり《緑谷君の意識を戻ったこと》《記憶障害の詳細》《個性を発現したこと》《常人よりも遥かに遅れて個性を発現する希少な体質であったこと》《発現した個性が突然変異種の個性であったこと》そして《緑谷一家の個性の系統》までは掲載しても良いと許可をもらって来ました」

 

「被害者の家族の名前は出せなくても、殆どの情報は掲載良しってことなのね。ありがとうタネちゃん!《緑谷君を自殺に追いやる発言をしたヒーロー》は分からなくても、もう満腹よ!このネタは高く買い取らせてもらうわ!あとでいつもの口座に振り込んでおくからね!」

 

「毎度ありがとうございます」

 

「さあ!これから忙しくなるわ!2人とも着いてきなさい!」

 

「「はい!」」

 

 細身の男からもらった情報に満足した女編集長はテーブルに置いていたボイスレコーダーを持って編集者2人を連れて部屋を出ていった。

 

 だが細身の男…《特田 種夫》は椅子に座ったままテーブルに両肘をつき項垂れていった…

 

「はあああぁ……『そのスクープだけは突き止めることが出来ませんでした』…『残念ながら被害者の少年と御家族に接触することは叶いませんでした』……か…」

 

 特田種夫は、この部屋で自分が序盤に言った言葉をもう一度口にした…

 

「出久君の夢を否定したヒーローが…《オールマイト》だと知ったなら…貴女はどう受けとりましたか?…編集長…」

 

 自分以外誰もいない部屋で…特田種夫はそう呟いた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●数時間前…

 

 

特田種夫 side

 

 病院にて根津校長、リカバリーガール、イレイザーヘッドから《沢山のスクープ》を頂いた私は、御社である重工新聞へと向かっていた。

 

 

 

 私はこれまで、数々のスクープを物にしてきた。

 特に《オールマイトが活躍したスクープ》には我ながら力を入れている。

 

 私にとってのオールマイトは《眩しいほどに強くてカッコ良いヒーロー》であり、17年前に起きた塚城コンビナートの爆発事故で従業員だった私の父親を救ってくれた《命の恩人》でもある。

 

 感謝してもしきれない!

 

 オールマイトは《最高のヒーロー》だ!

 

 

 

 その最高のヒーローが、1ヶ月程前の4月中旬に発生した《2つの事件》の内の1つで致命的なミスをする…という何とも耳を疑うような騒ぎが起きた…

 

 

 

 私は信じられなかった…

 

 オールマイトが捕まえたヴィラン(ペットボトルに閉じ込めたヘドロヴィラン)を、空を移動中に《うっかり》落としてしまい、ヴィラン事件を再発させてしまったなんて…

 

 オールマイトがそんな下らないミスをする訳ない!

 

 私はその真実を受け入れることが出来なかった…

 

 そんな折、ヘドロヴィラン事件と同じ日に起きた《もう1つの事件》…《無個性の男子中学生が無人ビルから飛び降りる》という事件。

 ヘドロヴィラン事件が発生した現場の近くで起きた悲惨な事件であり、私を始め記者の誰もが無個性の男子中学生が飛び降り自殺を図ろうとした原因は《無個性》と聞いた時点で大方の予想はつけてしまっていた。

 

 この個性社会にて《無個性》であることはとても珍しい………のだが…それは良い意味ではなく悪い意味でた…

 特に子供ならば《周囲とは違う》という理由だけで、同年代の無個性に対して《差別》や《イジメ》のターゲットにするというのが、この個性社会では当たり前になってしまっている…

 それは時代を重ねる毎に悪化の一途を辿り…大人もいつの間にか…無個性の人間に対して《差別》や《不遇な扱い》をするのが常識になっていた…

 

 そんな不条理な常識が広まったこの個性社会にて発生した《無個性の男子中学生の自殺未遂》…

 

 更に事件の数日後に行われた《ヘドロヴィラン事件に関わったヒーロー達》と《自殺を図ろうとした男子中学生が通う折寺中学校の教師達》による2つの記者会見を通して、私の頭には《ある推測》が芽生えてしまった。

 

 

 

 もし私の推測が正しければ《無個性の男子中学生の夢を否定し…自殺に追い込む発言をしたヒーロー》というのは……

 

 

 

 

 

 《平和の象徴・オールマイト》なんじゃないか……とね…

 

 

 

 

 

 最初は《一時(いっとき)の妄想》かと思ったが…次第にその憶測は核心へと近づきつつあった…

 

 

 

 簡単な消去法だ……

 

 

 

①被害者である無個性の少年は、普段の学校生活にて《イジメ》や《差別》に苦しんでいた。

 だが4歳の頃からずっとその苦しみ耐えて前向きにヒーローを目指すほどの忍耐力を持つ少年が、自殺を図ろうするということは…当日に相当な《絶望》と《ショック》を味わったことを示す。

 

②オールマイトはヘドロヴィラン事件の起きるほんの少し前、然程離れてない場所でヘドロヴィランに捕まっていた《ある学生》を助けたと記者会見でコメントしていた。

 

③無個性の少年が自殺を図るに至った1番の原因は《名前が伏せられているヒーロー》に『無個性はヒーローになれない、現実を見ろ』と発言されたため。

 

 

 

 この3つを照らし合わせて導きだされる答えは…

 

 

 

 

 

 2つの事件があったその日、無個性の男子中学生は学校からの帰宅途中、ヘドロヴィランに襲われていたところをオールマイトに助けられた。

 

 助けられた少年はオールマイトに問いた。

 

 おそらく…『無個性でもヒーローになれますか?』と…

 

 そして、その問いに対するオールマイトの答えが『無個性はヒーローになれない、現実を見なさい』という…無個性の少年を気遣った上での発言だった。

 

 

 

 

 

 勿論…これは私の完全な憶測だ…

 

 だが…こう考えれば全ての辻褄があってしまう…

 

 しかも《ヘドロヴィラン事件の現場にいた自殺を図った被害者と思われる緑髪の男子中学生が映っていた映像》だけが、いつの間にかネットから全て削除されている。

 

 まるでその《緑髪の少年》が、ヘドロヴィラン事件には関わっていないかのように…

 

 私のような《オールマイトが関わった事件》は必ずデータとして保存している者でない限り、《その緑髪の少年がヘドロヴィラン事件に関わっていた》などとは、当時事件現場にいた人達しか分からないだろう。

 《ネットから消えた動画》と《保存していた動画》を改めて調べてみれば、それは一目瞭然。

 

 

 

・野次馬の中から1人の少年が飛び出した映像…

 

・飛び出した少年は、ヘドロヴィランに取り込まれて苦しんでいた少年(爆豪 勝己)を必死に助けようとしていた映像…

 

・オールマイトによってヘドロヴィランから助けられた2人の少年の映像…

 

・デスデゴロとシンリンカムイに怒鳴られ叱られて、野次馬の笑い者にされていた映像… 

 

 

 

 そのいずれの映像にも必ず《緑髪の少年》が映っていた。

 

 そして、その映像だけがネットから消されている…

 

 こんな不可思議なことが起きれば、疑問が湧くと同時に《その緑髪の少年》に対して興味が湧いてしまう。

 他の記者達は軒並み《オールマイトや他のヒーロー達の話題》にしか目がいっておらず、《自殺を図った無個性の男子中学生》を調査している記者は私だけでだった。

 

 

 

 

 

 《2つの記者会見》があった次の日、私は本格的に調査を開始した。

 

 そして、調査を開始してすぐに《自殺を図った無個性の男子中学生》が、《ヘドロヴィラン事件の現場にいた緑髪の少年》である《緑谷 出久》だと突き止めた。

 

 

 

 え?どうやって被害者の本名を突き止めたのかって?

 

 

 

 私はジャーナリストだ、この御時世で調べようと思えばいくらでも手段はあるさ。

 

 …なんて、別に非合法な手段なんて使ってないよ。

 

 普通に折寺町の住人から聞き込みをして知ったのさ。

 

 それにこの個性社会では《無個性》というのは良くも悪くも目立つもの、いざ調べてみたら初日で《緑谷 出久》君の名前が判明したよ。

 

 それだけじゃない……緑谷君が《どんな人間》なのか…《どんな日常》を送っていたのか…《家族構成》など色々と知ることに成功した。

 

 その末に《緑谷 出久》という1人の人間像を理解することが出来た。

 

 

 

・性格は引っ込み思案で大人しく、心優しい真面目な少年。

 

・父親は海外赴任しているため、幼少の頃から母親と2人で暮らしている。

 

・成績は優秀であり、早朝はマラソンなどをしている。

 

・重度のヒーローオタク(特にオールマイトの大ファン)でもある。

 

・幼い頃から奉仕活動やボランティア等には積極的に参加しており、地域の人々からの評判はとても良く、特に小さい子供達からは『出久お兄ちゃん』と呼ばれ慕われている。

 

 

 

 1週間以上をかけて折寺町に住む100人以上の人達から話を聞いた結果、緑谷君が《善良な人間》であることが、会ったことの無い私にも理解することができた。

 奉仕活動に参加していた人達に聞いた際も、誰1人として緑谷君を悪く言う人間はおらず、子供連れの親に聞いた際は母親と一緒にいた子供が緑谷君の名前を聞くや否や泣きそうな顔をしていた。

 子供は正直だ…緑谷君のことを本当に心配しているからこそ悲しんでいた。

 しかも1人や2人じゃない、聞き込みをした親子の子供は全員が緑谷君のことを思って涙を流していた。

 『早く目を覚ましてほしい…』『また一緒に遊んでほしい…』『出久お兄ちゃんに会いたい…』などの子供らしい…純粋で無垢な言葉を語っていた。

 

 名前を聞けば悪い噂しかない《爆豪 勝己》とは正反対の存在であり、緑谷君は地域の人達から本当に愛されている。

 

 

 

 

 

 そんな緑谷君のことをより詳しく調べるために、折寺町での聞き込みをしながら《緑谷君が入院している病院》に、私は記者であることを隠し一般人を装って探りをいれていた。

 

 私の個性は《全身レンズ》、身体中の至るところからカメラのレンズを出して写真を撮り、私の左胸から写真をプリントすることが出来る個性だ。

 

 決してヒーロー向きの個性ではないが、カメラを持たずともシャッターチャンスを逃すことがなく、記者だとも怪しまれることなく、堂々と病院で潜索することだって出来るのだ。

 

 私はジャーナリストだが守銭奴じゃない…

 

 『マスコミや記者は人の心なんて持ってない』なんて冷たいことを言う人達がいる…

 

 確かにジャーナリストというのは、スクープやネタを得ることにより、稼いで暮らしている…

 

 

 

 だが記者にだって《人の心》はある、少なくとも私はスクープ以上に《真実》が知りたいのだ…

 

 どうしても知りたい…

 

 いや…知らなければならない…

 

 証明しなければならない…

 

 私の憶測が間違いであることを…

 

 《平和の象徴オールマイトが子供の夢を否定する発言をしたために、その子が自殺をする結果になった》…など信じたくないのだ…

 

 

 

 病院での調査を始めてから暫くすると《有力な情報》を手にすることが出来た。

 

 雄英高校に勤める名医であるリカバリーガールが事件当日、偶然にも折寺町の病院に来ていたため救急で運ばれてきた緑谷君の手術に彼女も参加したお陰で緑谷君の命はとりとめられた。

 しかし手術は成功したが、緑谷君は昏睡状態となってしまい、リカバリーガールですら『いつ目を覚ますか分からない』と診断した。

 その後もリカバリーガールは、定期的に緑谷君の元を訪れては、診察と個性での治癒をしていた。

 

 この病院では、常にプロヒーロー4人(デスデゴロ、シンリンカムイ、バックドラフト、Mt.レディ)が2人交代で《病院の出入口》と《緑谷君の病室前》で警備しているため、病院内には入れても《緑谷君の病室》へは近づくことは出来ない。

 しかし、緑谷君がいる病院の階からは、決まって《緑髪の女性》の姿が伺えた。

 おそらく、その緑髪の女性は《緑谷君の母親》と見て間違いないだろう。

 だがその母親は日を追う度…明らかに痩せ細っていき…病院の医師達から心配されるほど弱りつつあった。

 大切な一人息子の介護に専念しすぎてマトモに食事をとろうとしないらしく、このままではいずれ母親も入院しなければならなくなる…と看護師達が話しているのを耳にした。

 

 

 

 世間では《1ヶ月早まったヒーロービルボードチャート》に加え、《伝説のNo.1ヒーローの短期間の復帰》や《オールマイトとエンデヴァーが伝説のNo.1ヒーロー神様にお灸を据えられる騒ぎ》、《ヒーロー狩りによる引退した若手ヒーローの襲撃事件》や《折寺中学生が襲撃を受ける事件》によって大騒ぎになっていた。

 

 記者として気になりはしたが、私は構わずに緑谷君の調査のみを続けた…

 

 

 

 

 

 そして3日前、調査を開始してから約1ヶ月が経過しようとしてた頃…

 

 私はいつものように一般人を装って病院内に回っていたら、突然女性の大声で『いずく』という言葉が病院全体に響き渡った!!!

 

 『いずく』……それは私がずっと調べている《緑谷 出久》君のことだ!

 

 今の叫びが緑谷君の母親の声だとして、1ヶ月で別人のように痩せ細っていた母親があんな大声を出したということは、息子である緑谷君が目を覚ましたと確定して間違いなかった!!!

 

 私は急いで緑谷君の病室へ足を動かした!幸いなことに大声が聞こえた時、私は1つ下の階の休憩所にいたおかげで、階段を使い目的の場所へとすぐに到着できた!

 やはりと言うべきか、緑谷君の病室前には人だかりが出来て群がっていた。

 お昼時のためなのか、この日に病室前を警備していたバックドラフトの姿が見えなかった。

 私はチャンスだと思い、ドサクサに紛れて病室の扉へと近づくことに成功した。

 流石に扉を開けて中に入るまではしないが、病室の中から聞こえる声を私は聞き逃さなかった!

 

 

 

『ちょっと引子さん、落ち着いて……ってのは無理だろうけど…少し話を聞いてくれないかい?』

 

『出久!!出久!!!…はっ!!リカバリーガールさん!ありがとうございます!ありがとうございます!貴女のお陰で出久が目を覚ましてくれました!!!』

 

 

 

 聞こえてくる2人の女性の声と会話から状況を察するに、昏睡状態だった緑谷君が目を覚まし、母親はその嬉しさのあまり感情が爆発してパニック状態になりながらも、リカバリーガールに感謝の言葉を叫んでいるようだ。

 

 だが肝心な緑谷出久君の声が聞こえず、私が耳を済ませていると…

 

 

 

『ゴミを…木に変える能力…』

 

 

 

 か細い声で聞こえた男の子の声を…私は聞き逃さなかった!

 

 だが次の瞬間の出来事に私は驚かされた!

 

 病室の扉の隙間から《黄緑色の光》が灯されたのだ!!!

 

 

 

『…夢じゃ……ない…』

 

 

 

 病室の中からの光と共に、また男の子の声が聞こえた!

 

 いったい病室の中では何が起きているのか!?

 

 とても気になったが、扉の隙間からの黄緑の光が消えると同時に、バックドラフトと病院の出入り口で警備をしたMt.レディがやって来てしまったため、私は退散せざるを得なくなった。

 

 

 

 昏睡状態だった緑谷君の意識が戻ったのが判明した!

 

 私はそれからも病院に来ては、目を覚ました緑谷君の情報を求めて探りを入れ続けた!

 

 あと1歩で掴めそうな大スクープを逃すなどジャーナリストとしての魂が許さなかった!

 

 《緑谷君のスクープ》を誰にも横取りされたくないという願望もあったが、今思えばそれについては焦る必要がなかった。

 

 何故ならヘドロヴィラン事件からの1ヶ月、私以外の記者がここ(折寺町の病院)へ来たのは《爆豪勝己や折寺中学生達が襲撃を受けて運ばれてきた時》にしか来ておらず、その際どの記者達も緑谷君のことを調べようとはしていなかったのだ。

 

 マスコミもだが…私以外の記者は緑谷出久君のことは全く調べてはいないらしい…

 《男子中学生の飛び降り自殺未遂》関しては《虐められていた無個性の学生》としか思っていないようだ。

 《不幸中の幸い》というべきか、ネットのどこを調べても《緑谷 出久》という名前は一切なく、そのお陰で緑谷君とそのご家族に対して無理矢理インタビューを求めるマスコミやメディアはいないらしい。

 多分だが、ヘドロ事件の時に《爆豪勝己を助けようと飛び出した少年》と《飛び降り自殺を図った少年》が同一人物だとは、記者もメディアも突き止めていないのだろう…

 もしかしたら気づいている者も居るかもしれないが、オールマイトや爆豪勝己などの事件を優先しているために、緑谷君は完全に後回しにされている可能性もあるのやもしれない…

 

 

 

 

 

 そして今日、私がいつものように病院で調査をしていると…

 

「ちょっとすみません…」

 

「えっ?」

 

 私が病院のエントランスホールにある椅子に座っていると、突然後ろから声をかけられた。

 

 振り向くと、そこには《ボサボサな黒髪に黒い服装をし首元に包帯のようなマフラーを巻いた眠そうな男》が立っていた。

 

「あの?私に何かご用で?」

 

「失礼ですが…貴方は《記者》の方ですね?」

 

「ッ!!?(見抜かれた!!?)」

 

 この1ヶ月…見舞い客のフリをして服装や髪型も毎日変えて変装していたというのに、この男は私の正体を見破ったのだ!

 

 私の勘からするにこの男は多分プロヒーローだ!

 ただしオールマイトのような大々的に活躍しているヒーローではないのだろう…

 活躍しているヒーローならば記者である私が知らない筈がない。

 

 私は咄嗟に嘘をついて身分を偽ろうかと思ったが、男は眠そうな顔つきとは裏腹に…その目付きは《嘘など簡単には見破るような目》をしていた…

 

 ここで嘘をつくのは為にならないと悟った私は…

 

「はい…おっしゃる通り……私は《記者》です…」

 

 

 

 この時の私は、てっきり忠告をされて病院から追い出されるとばかり思っていた…

 

 しかし!このあと男が次に口にした言葉に、私は驚愕させられた!!!




 前書きで書いていた《ある記者》は、アニメオリジナルキャラクターである《特田種男》であります。

※リカバリーガールのセリフの『お母さん』という部分を『引子さん』と修正いたしました。
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