緑谷出久の法則   作:神G

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 皆様、大変お待たせいたしました。

 前回(19話)の前書きで書いた通り、今回より(記憶喪失になった)出久君が本格的に登場していきます。

 今回の話(20話)と次の話(21話)では、まだ出久が病院に入院している話となります。

 ゴールデンウィーク中に投稿できませんでしたが、その分22話と23話の作成を進められたので、5月以内にその2話も投稿させるようにいたします。


記憶を失った少年の法則

None side

 

 世界総人口の約8割が何らかの特異体質《個性》を発現した現代…

 

 

 

 かつて人はその《個性》…またの名を《異能》と呼ばれた一種の超能力を手にした…

 

 しかし…その《個性》を使い方を間違えてしまった故に…必然的に訪れた《暗黒の時代》があった…

 

 

 

・強力な個性を手にし…悪事に手を染める者…

 

・個性によって姿形が変わってしまい…周囲の人々からは《化物》や《怪物》扱いをされ…迫害を受ける者…

 

・個性が発現せず…《無個性》という烙印を押され…個性を持つ者達から理不尽な目にあわされて…個性を持つ者を嫌い恨む者…

 

・世代を重ねる毎に…個性も持つ人々は傲慢な思考となっていき…次の世代となる子供に《強力な個性》を持たせるため…《個性婚》を求める者…

 

 

 

 その暗黒の時代に…《平等》や《人権》など存在し無かった…

 

 町中では争いが絶えず…治安は悪化の一途を辿り…警察や自衛隊などでは対処できる限度を遥かに超えていた…

 

 

 

 

 

 それが後に語られる《超常黎明期》という時代である…

 

 

 

 

 

 そんな暗黒の時代に《1人の男》が現れた…

 

 

 

 

 

 彼の発現した《個性》は、個性社会の常識を根本から覆す《最強の個性》であった…

 

 彼はその《個性》によって、他人の心を掌握し、気づけば多くの味方をつけていた…

 

 しかし…その男は《平和》を目的として己の個性を使っていた訳ではない…

 

 

 

 

 

 その男の望みは…《独裁支配》である…

 

 

 

 

 

 時が経つにつれ…男の支配は着実に広がっていき…遂に男は《悪の支配者》とも呼ばれる最強のヴィランとなって…大きな組織を結成した。

 

 だが皮肉なことに…その男が支配を始めたことによって…人々は《一時(いっとき)の平和な時間》を得ることが出来た…

 

 しかし…社会が不安定であることも…治安が悪いことも…日常茶飯事のままである…

 

 

 

 

 

 人々は…《本当の平和》を求めていた…

 

 

 

 

 

 そんな人々の願いが叶い…

 

 《2人の英雄》の登場によって…

 

 《悪の支配者》と《ヴィラン組織》は壊滅した…

 

 これにより人々は《平和な日々》と《当たり前の日常》を取り戻すことが出来たのだ!

 

 

 

 

 

 世界は《平和》となった。

 

 だが…個性は今でも親から子供へ脈々と受け継がれている…

 

 現代における個性の種類は未知数…

 

 子供達の発現する個性のパターンを大きく分けて《5つ》である…

 

 

 

①両親のどちらかの個性を色濃く受け継ぐパターン…

 

②両親の個性が混ざり新たな個性を発現するパターン…

 

③両親の個性をどちらも受け継ぐパターン…

 

④両親の個性とはどちらも類似せず、全く関連性の無い個性を発現するパターン…

 

⑤今の時代では絶滅危惧種とも呼ばれている個性を持たないパターン…

 

 

 

 このように…子供が4歳になった際に発現する個性は様々である…

 

 一般的には①と②のケースが常識であり、全体の《50%》を締めている。

 ①の場合は単純に《母親》か《父親》のどちらかの個性を色濃く受け継いた個性となる。

 ②の場合は《母親》と《父親》の個性が混ざりあった新たな個性となる。

 

 ③と④は珍しいケースなのだが、③の場合は全体の《29%》と確率が絶対に低いわけではない…。

 何故かというと《個性婚》という非人道的な考えを持つ者が、己の野望や目的のために《強力な個性を2つ宿した子供》を求めた故にこの数値なのである。

 

 ④は5つのパターンの中では特に珍しいケースであり、両親の個性にも両親の家系にも存在しない個性が発現するという《突然変異》であるため、その発現の確率は全体の《1%》にも満たない。

 最初に④が発見された際は、両親のどちらかが浮気や不倫などの疑惑が発生したり、更には両親の家系(ご先祖)の中に似たような個性があるのでは無いかと調べても類似する個性が存在しない…という事態が過去にはある。

 とはいえ今の時代には《DNA鑑定》があるため、血の繋がった親子かなんて1発で突き止められる。

 最初に発見された当時こそ騒ぎになったが、今となっては大した騒ぎにはならない。

 

 そして⑤は全体の《20%》しか産まれず、個性が発現しない体質のケースであり、その数は年々減りつつある。

 だが、その中には《個性の遅開き》というケースもあり、4歳の時に発現できなかっただけで歳を重ねてから個性を発現するというケースが最近の科学者の研究によって判明された。

 1年後に個性が発現する人も入れば…3年後…5年後に個性を発現した人も確認されている。

 なのでこの《20%》という数値はアテにならず、その10%が《純粋な無個性》であり、残りの10%は《不明》と言う解釈が正しいとされている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてそんな当たり前の話をするのかって?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは《ある無個性の少年》が…10年以上の時を経て…両親のどちらとも類似しない《突然変異種の個性》を発現したからである…

 

 のちに…その突然変異種の個性は…

 

 《伝説の支配者の個性》にも匹敵する…

 

 『世界最強の個性』とも呼ばれることともなるのだった…

 

 そして…

 

 その個性を発現した少年の名は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●折寺町の病院…(出久が目を覚ましてから1週間後…)

 

 

緑谷出久 side

 

 

 

 

 

        僕の名前は…

 

 

 

 

 

        緑谷 出久…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       という名前らしい…

 

 

 

 

 

 なんで自分の名前に不信感を持っているのかって?

 

 

 

 

 

        実は僕…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   《記憶喪失》になってしまったんだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フザけてるわけでもトボけてるわけでもない。

 

 病院の先生達から何度も検査を受けた結果、正真正銘の記憶喪失と診断されたんだ。

 

 でも、一言に《記憶喪失》とは言っても何もかも忘れてしまった訳じゃない。

 

 《日常生活に必要な記憶》や《これまで培ってきた知識の記憶》については異常無かった。

 

 試しに検査の過程で、小学校のテスト問題(国語、算数、理科、社会、英語)を解いた結果、《社会の歴史》以外のテストは満点を取れた。

 

 《超常黎明期》等のヒーローやヴィランの歴史、個性社会の現状もほとんど覚えていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 じゃあ僕が失ったのは《何の記憶》なのかって?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは《昔の僕自身》と《他人の記憶》だ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《他人との記憶》については、自分の両親のことはおろか…僕がこの世に生まれてきてから関わった他人の記憶が全て記憶から消えてしまったらしい…

 

 因みに満点を取れなかった歴史のテストで解けなかった問題というのは…

 

 

 

〔問1〕

[ 去年のヒーロービルボードチャート下半期にて、トップ10に選ばれたヒーローを5人までの《ヒーロー名》で答えよ。 ]

 

〔問18〕

[ 現役の女性ヒーローを3人まで《ヒーロー名》で答えよ。 ]

 

〔問30〕

[ チームを組んでヒーロー活動をする《ヒーローチームの名前》を1つ答えよ。 ]

 

〔問44〕

[ 個性《ヘルフレイム》を持つヒーローは誰か《ヒーロー名》で答えよ。 ]

 

〔問50〕

[ 先代No.1ヒーローの《ヒーロー名》《本名(フルネーム)》《個性名》を答えよ。 ]

 

 

 

 歴史……と言っても《つい最近のヒーローの人物像についての問い》、このヒーロー社会に産まれた人間ならば誰でも解けるサービス問題らしいんだけど…

 僕はこの問題の解答欄を全て空欄にしてしまったために満点を逃してしまった…

 

 日本の歴史の一般常識レベルの問題は難なく解けたけど、今の僕にはどうしても現代に生きる《ヒーロー》や《ヴィラン》は誰1人として《名前》も《顔》も思い出すことが出来ないんだ…

 

 

 

 

 

 そして…もう1つ…

 

 僕は《自分がどんな人生を送ってきた人間》なのかを全然思い出せない…

 

 

 

 

 

 昔のことを必死に思い出そうとしても…

 

 その部分の記憶だけは…ポッカリと穴が空いていて…虚空のように何も無くなっていた…

 

 

 

 自分の名前が《出久》ということすらも検査で教えてくれるまでは分からず、昔の自分を…《緑谷 出久という人間》を思い出せないんだ…

 

 

 

 一緒に暮らしてきた家族…

 

 幼稚園や学校へ通っていた記憶はあっても…その時近くにいた人達…

 

 今までに関わって会話をした人達…

 

 

 

 その全員の顔も名前も…頭に思い出すことが出来ない…

 

 

 

 リカバリーガールっていう優しいお婆さんのお医者さんが、質問形式の検査の問われた《オールライt……じゃなくて《オールマイト》っていう現代人なら知らぬ者なしと言うNo.1のヒーローですら僕の記憶には無いんだ…

 

 

 

 だって…一週間前に僕が目が覚めた時、僕を見て大声を上げなから大泣きして抱きついてきた《痩せこけた女の人》が《自分の母親》だってことに実感が湧かなかったんだから…

 

 あと、昨日で海外に戻っていっちゃったけど、僕のお母さんである《緑谷 引子》さんが倒れた2日後に《僕の父親である男の人》がやって来た。

 

 僕のお父さんは、僕が記憶喪失になったことを知ってなのか、気を使ってくれて昔の僕のことを色々話してくれた。

 でも僕のお父さんは、長い間ずっと海外赴任をしていたようで《昔の僕との過ごした思い出話》は少なく、海外にいる時に《僕のお母さん》から送られてきた手紙で知ったことを含めて話をしてくれた。

 だけど…お母さんの時と同じく…僕は話をした男の人が《僕のお父さん》であることに最後まで実感を持つことが出来なかった…

 

 でも…その男の人が僕のことを力一杯にギュッと抱き締めてくれた時……何故だか僕は懐かしい気持ちになった…

 

 それからもお父さんは《僕が生まれてからの日々や思い出》を僕に沢山話してくれた。

 

 

 

 そして昨日…お父さんは海外へ戻ることを躊躇(ためら)っていた…

 そんなお父さんに、体調が回復したお母さんはこう言った。

 

『出久のことは私に任せて!必ず私達家族の絆を取り戻して見せるわ!』

 

 …とお母さんから言われたお父さんは、僕とお母さんの2人を大きな身体でギュッと抱きしめながら…

 

『ゴメンな…引子…出久……家族なのに……2人にはいつも寂しい思いをさせて……傍にいてやれなくて……本当に…ゴメンな…』ポロポロ

 

 …と…涙を流しながら謝っていた…

 

 記憶は無い筈なのに…何故か僕の心はとても温かくなった…

 

 それからお父さんは、飛行機の時間ギリギリまで病室にいてくれたけど、お昼過ぎには病院を出て空港へと向かった。

 

 

 

 

 

 あと今更だけど、普通記憶を無くしたら恐怖するんだろうけど……何故だが僕は《失った過去》に対しての損失感があまり無かった…

 

 勿論《家族》のことや、昔の僕が参加していたという《奉仕活動で知り合った人達》と過ごした記憶が無くなってしまったことは…とても悲しい…

 

 でも…その《大切な記憶》以上に、昔の僕が送っていた《辛い過去》をリカバリーガールが教えてくれた…

 

 

 

 リカバリーガールから聞いた話によると《記憶を失う前の僕》…つまり《昔の緑谷出久》は4歳から約10年の間ずっと酷いイジメにあっていた…

 

 

 

 …らしいんだけど、今の僕にはそんな記憶すら無いから全く自覚がない…

 

 でも入浴の際には嫌でも目に入ってしまう…

 

 僕の身体の至るところにある《火傷痕》や《色んな暴行を受けたとされる沢山の傷痕》が…

 

 特に1番多い火傷が誰につけられたものなのか…それすらも僕は思い出せない…

 

 その火傷についてだけはリカバリーガールが教えてくれて、以前僕の病室の窓を割って飛び込んできた《爆豪》っていう恐い顔をした乱暴な人が《イジメの主犯》であり《加害者》らしいんだけど……

 

 その時の僕は、彼に対して《怒り》も無ければ《憎しみ》も《恨み》も何も無かった…

 

 だって記憶がないんだから、僕が彼にイジメられていたなんて実感が一切湧かなかったんだ…

 

 

 

 でも…何故だが僕は爆豪君に対して強い嫌悪感を持っていた…

 

 記憶を失った僕にとって彼とは初対面の筈なのに…

 

 どうしてなんだろう…?

 

 

 

 あと僕のお母さんは、僕の昏睡状態の間に謝罪や御見舞いで訪れてきていた人達全員に対して面会謝絶をしてたけど、僕の容態が安定したことをキッカケに《昔の僕が参加していたという奉仕活動で知り合った人達》だけには面会を許したようだ。

 

 それからというもの、リハビリの後以外はほぼ毎日のように面会時間中、子供から老人まで沢山の人達が僕のお見舞いに来てくれた。

 

 でも僕が《記憶喪失》になったのを聞いて、お見舞いに来た人達は皆涙を流していた…

 

 お見舞いに来てくれて嬉しい反面、僕は沢山の人達が泣いている姿を見るのは辛かった…

 

 その中でも特に辛かったのは…

 

『あんなに遊んでくれたじゃんか!なんで俺のこと覚えてないんだよ!』ポロポロ

 

『転んで怪我をした僕を…お家までおんぶしてくれたよね出久兄ちゃん。僕のこと…忘れちゃったの…?』ポロポロ

 

『カラスに取られた《お婆ちゃんのお手玉》…一生懸命探して見つけてくれた時…本当に嬉しかった。だから『ありがとう』ってまた言いに来たんだよ…。私のこと…思い出してよぉ…出久お兄ちゃん…』ポロポロ

 

 小さな子供達が…僕に泣いてすがり付いてくることだった…

 

 

 

 そんな子供達に対して《今の僕》は…

 

『思い出せなくて…ごめんね…』

 

 …と謝ることしか出来なかった…

 

 

 

 そして、奉仕活動の人達も《昔の僕》がどんな人間だったのかを話してくれた…

 

 僕の両親からも聞かされた話と照らし合わせて《昔の僕》の人物像が分かってきた。

 

 

 

 

 

 僕が無個性と診断されてから約10年…

 

・無個性ゆえに…幼稚園や学校の同級生や先生達から…僕はイジメられ…差別をされてきたこと…

 

・無個性でも関係なく…両親や地域の人達は…僕のことを受け入れてくれたこと…

 

・町のゴミ拾いに参加して奉仕活動の人達と仲良くなったこと…

 

・無個性でも諦めずに…ずっとヒーローを目指していたこと…

 

・《楽しい時間》より……《辛い時間》が沢山あったこと……

 

 

 

 

 

 知れる限りの《緑谷 出久という1人の人間の過去》を僕は聞き漏らすことなく記憶していった…

 

 

 

 そして…今から1ヶ月と1週間程前……

 

 僕は《あること》をキッカケに…

 

 生きることに絶望して……

 

 無人ビルから飛び降り自殺を図った……

 

 奇跡的に助かったものの……

 

 その日から1ヶ月間ずっと眠り続けていた…

 

 

 

 

 

 目を覚ましてから今日で1週間…

 

 僕は大勢の人と沢山話をした…

 

 けれど…

 

 僕は未だに《昔の僕》を思い出すことが出来なかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも実は、今の僕でも《2人》だけ記憶に残っている人達がいる!

 まぁ、その内1人は《羊の姿をした喋る犬》だけど…

 

 とは言え、その2人は《この世界》にいる人達じゃない…

 

 僕がその人達と出会ったのは…《夢の中》なんだから…

 

 信じられないかも知れないけど、この世界で1ヶ月間眠っていた僕は、夢の中で《最高のヒーロー》に巡り会い、300日程の時間を一緒に過ごしていたんだ!

 

 それだけじゃない!

 

 昔の僕は《無個性》だったけど…今は違う!

 

 

 

 《原点》…

 

 僕のオリジンであり…

 

 恩師であり…

 

 師匠でもある…

 

 僕に生きる希望をくれた…

 

 最高のヒーロー《植木 耕助》さん!

 

 僕はその人から【別世界の能力】を授けてもらったのだ!

 

 

 

 【ゴミを木に変える能力】と【神器】を!!!

 

 

 

 それが今の僕にはある!!!

 

 そして何より僕は、植木さんから【能力】以上に《素晴らしいもの》を伝授してもらった!

 

 

 

 《本物のヒーロー》とは何なのか…

 

 

 

 《本物の正義》とは何なのか……

 

 

 

 それを植木さんは教えてくれたんだ!

 

 

 

 植木さんとウールさんと過ごした日々は本当に楽しかった!

 

 出来ることなら…あのまま精神世界で植木さん達とずっと一緒にいたいと願っていた…

 

 でも…その願いは叶くことなく…僕はこの世界へと帰ってきてしまった…

 

 そして僕は…この世界に戻ってきて記憶喪失になっていた…

 でも《植木さん》と《ウールさん》との思い出だけは僕の記憶の中に残っていた…

 

 

 

 植木さん達と別れた僕は…この世界で一人ぼっちの気分になってとても寂しい気持ちとなった…

 

 記憶のない僕を慕ってくれる人達(両親、奉仕活動の人達)は確かにいる……それでも心の底からの安心感を持つことが出来ずに不安になることがあった…

 

 

 

 でも!そんな僕は今!《昔の僕》が目指していた夢であるヒーローになろうと、寂しさを乗り越えて前向き生きようとしている!

 

 なぜなら…精神世界にて植木さん達との別れる最中…植木さんが僕に言ってくれた《あの言葉》が僕を支えてくれているからだ!

 

 僕が心に刻み込んだ言葉!

 

 

 

 

 

『お前はお前の道を歩け!お前の人生だ!』

 

 

 

 

 

 植木さんのその言葉に…僕はどれだけ勇気付けられたことか…

 

 離れ離れになっても植木さん達がいつでも傍に居てくれるような安心感を持てる言葉…

 

 植木さんは僕を認めてくれたんだ!

 

 僕が《最高のヒーロー》になれると!

 

 満面の笑みで送り出してくれた!

 

 

 

 そして僕は決心した!

 

 いつかまた植木さん達に会えるその日までに!

 

 僕自身が植木さんのような《最高のヒーロー》になってみせる!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …っと…ここまでの件(くだり)…

 

 僕が精神世界で体験した出来事を、この世界に戻ってきた次の日にリカバリーガールというお婆さんと、根津校長というスーツを着たネズミさんの2人に全てを話した。

 

 正直、夢の中で体験した出来事なんて他人に話したところで信じてもらえないと思っていた…

 

 でも僕の予想とは裏腹に、リカバリーガールと根津校長は僕の話に一切の疑いを持たずに最後まで聞いてくれた。

 

 

 

 あと、植木さん達と過ごした記憶があるんだから、僕が自分の名前に違和感を抱くのはおかしいと思うだろうけど…

 植木さんとウールさんは僕のことを名前ではなく『緑髪』や『モジャ髪』というアダ名でしか呼んでくれなかったからなのか、《緑谷》という名字はともかく『出久』という名前には未だ自覚が持てずにいた…

 むしろ『緑髪』や『モジャ髪』と呼ばれたいと思ってしまうのは、僕が変なんだろうか?

 それとも…植木さんとウールさんに影響されてしまったからなんだろうか?

 

 

 

 まぁ僕のアダ名のことはさておき《夢の中で僕が過ごした最高の時間》を聞いたリカバリーガールと根津校長からは、今後《精神世界で体験したこと》を無断で外部に話すことを禁じられてしまった。

 

 僕としては《植木さん達のこと》を両親には話したかったんだけど、《植木さんやウールさんのこと》は勿論、【能力】や【神器】のことについては勝手に他人へ喋ってはいけないと、リカバリーガールと根津校長から念押しで忠告されたため、2人以外に話せていない。

 

 どうして秘密にしなければならないのか?…その疑問は根津校長がとても分かりやすく教えてくれた。

 

 何故、植木さんから授かった【ゴミを木に変える能力】と【神器】を無断で話してはいけないのか?

 根津校長からの話を聞く前の僕は不思議だったけど、話を聞いた後の僕はどうして《植木さん達との出来事》を秘密にしなければならないのかを理解した…

 

 

 

 そうそう、不思議と言えば…

 

 他にも気になることがあった…

 

 それは、リカバリーガールと根津校長に説明している過程で『【ゴミを木に変える能力】は人から貰った超能力です』って言った途端、2人の顔が真っ青になっちゃったんだけど……何か勘に触るようなことを言っちゃったのかな?

 

 あの驚き方は尋常じゃなかった気がする…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●1週間前…(出久が目を覚ました日の夜)

 

 

None side

 

 夕日が沈み…月が夜空に輝く頃…1人の医師が病院の廊下を歩いていた。

 

「やれやれ…本当に全く手の焼ける親子だよ…」

 

 リカバリーガールは愚痴をいいながらも嬉しそうな様子だった。

 

「まぁでも…何はともあれ意識が戻ってよかったさね」

 

 4、5時間前まで、目を覚ます可能性が絶望的と思われていた少年の意識が戻った。

 

 リカバリーガール自身、少年の意識が戻る可能性は限りなく低くく、場合によっては植物人間になるという可能性も考えていたが、奇跡的に1ヶ月間という期間で昏睡状態から目覚めてくれたのだ。

 

 それによってリカバリーガールは忙しい時間を送っていた。

 

 

 

 何が忙しかったかって?

 

 

 

 いつ目を覚ますか分からない我が子の意識が戻ったことで、色んな感情が爆発し疲労と驚愕で気を失い倒れた母親と、目を覚ました少年を同時に処置したためである。

 

 母親の処置に至ってはすぐに終わり、今は別の病室に寝かせ休ませている。

 

 昏睡状態から意識を取り戻した少年《緑谷出久》の診察もついさっき終えて、取り敢えずは本格的な検査は明日となった…

 

 

 

 だがリカバリーガールは頭を悩ませていた…

 

 ちゃんとした検査はまだにしろ、長いこと医者をやっている彼女にとっては、患者である緑谷出久が発症した後遺症が何なのかは見当がついていた…

 

 明日の検査の後、根津校長を含めて緑谷出久と話し合いをしなければならない。

 

 緑谷出久の《発現した個性》……いや…《人から貰った【能力】》についての話を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●6日前…(緑谷出久が目を覚ました次の日)

 

 

 リカバリーガールに呼び出された根津が折寺町の病院に到着した丁度その頃、色々な検査を受け終わった出久はリカバリーガールと共に応接室にいた。

 

「リカバリーガール、いったい誰を待ってるんですか?」

 

 応接室のテーブル椅子に座った出久はリカバリーガールへ疑問を投げ掛けた。

 

「アンタの今後について話をするために呼んだ人物さね、もう少し来るだろうから待ってな。ソイツが来たら詳しく聞かせておくれ、アンタが《夢の中で体験した出来事》をね」

 

「はい」

 

コンコンッ

 

「誰だい?」

 

『僕だよリカバリーガール、遅くなってすまない』

 

「来たかい、入りな」

 

『失礼するのさ』

 

ガラッ

 

「えっ?」

 

 扉を開けて入ってきた人物に出久は呆気にとられてしまった。

 応接室に入ってきたのは《スーツを着た二足歩行の白いネズミ》だった。

 

「やあ!緑谷出久君!こうして話すのは初めてだね!」

 

「えっと~どちら様で?」

 

「おや?驚かないのかい?」

 

「え?なにがですか?」

 

「ほほぅ…記憶喪失になったとは昨日の電話で聞いてはいたけど、随分落ち着いてるねぇ。てっきり僕を見たら驚くと思ってたよ」

 

「今日の検査の結果で《日常生活に必要な記憶》と《社会に関しての記憶》に異常が見られなかったのは不幸中の幸いだっだよ。もし全部忘れちまってたら、アンタのような《異形型の個性持ち》の対応が出来ないだろうからねぇ」

 

「?」

 

 根津とリカバリーガールの話についていけず、緑谷は疑問符にかけていた。

 

「ハッハッハ!何はともあれ、意識を取り戻してくれて本当に良かったのさ!」

 

「あの~リカバリーガール?こちらの方は?」

 

「コイツはアタシが知る《教育者》の中で最も信頼のおける男さね、ヒーロー高校の校長でもあるんだよ」

 

「こ、校長先生なんですか!?」

 

「YES!ネズミなのか熊なのか犬なのか、かくしてその正体は……校長さ!僕のことは《根津校長》と呼んでくれたまえ!」

 

「ね…根津…校長?」

 

「うんうん!素直な子は大好きさ!それでね緑谷君、今日僕がここに来たのは他でもない!キミが昨日の診察中にリカバリーガールへ話そうとしていた《夢の中で体験した出来事》を聞きたくてやって来たのさ!昨日キミが目を覚ますと同時に発現したとされる《木の個性》が、夢の中で会った人物から授かった【別世界の能力】だとリカバリーガールから連絡を受けてね。それについて色々教えてほしいんだけど、いいかな?」

 

「はい、勿論です。ただ…僕自身《植木さん達と過ごした日々》の全てを覚えている訳ではないので……所々は中途半端な説明になってしまいますが…それでも良いですか?」

 

「いやいや十分だよ、時間はたっぷりある!ゆっくり覚えてる範囲を教えてくれないかい!

(『能力をもらった』……リカバリーガールから昨日連絡をもらった時はもしやと思ったけど…この子が《あの男》と接触したという可能性が出てきた以上は…全てを聞かないとね…)」

 

 根津校長は応接室の扉に鍵をかけ、出久が座る向かいのテーブル椅子に座った。

 

 

 

 

 

 この時、根津校長とリカバリーガールは内心で《最悪の可能性》を考えていた…

 

 もしかしたら…

 

 出久は《あの男》…

 

 《オール・フォー・ワン》から個性を与えられたんじゃないか……という可能性を…

 

 だが、出久は昨日目を覚ますまで《無個性》だったという事実は、リカバリーガールが絶対の証人であり、しかも無個性だった出久に個性が発現するまでの間、リカバリーガールと出久の母が出久の近くにいた…

 

 昨日、まだ無個性だった出久の検査を終えたリカバリーガールが、出久から目を離したのは病室の扉へ向かうまでのほんの10秒足らず、そんな僅かな時間にオール・フォー・ワンが出久に個性を与えるなんてまず不可能…

 

 

 

 しかし相手が相手だ…

 

 

 

 あの男には常識が通用しない…

 

 

 

 万が一の可能性を考慮し、根津校長とリカバリーガールは出久が語る話に神経を尖らせた…




 次の話で出久君の教育者となる残り4人が判明いたしますが…おそらく皆様が予想していた人物達だと思われます。
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