緑谷出久の法則   作:神G

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 今回の話では、根津校長が【ゴミを木に変える能力】の有効活用手段を説明してもらうのですが、感想の中にあった皆様の御意見を参考とさせていただきました。

 次の話(22話)で出久君は退院いたします。



抹消とサーチと個性名の法則

●折寺町の病院…(緑谷出久が目を覚ました次の日)

 

 

None side

 

 応接室にて出久から《夢の中で体験した出来事》を、出久が覚えてる範囲で全てを聞き終えた根津校長とリカバリーガールは…

 

 自分達が考慮していた不安が《取り越し苦労》であったことを理解させられていた…

 

 

 

 

 

 それどころか…

 

 出久が現実世界で昏睡状態だった1ヶ月間…

 

 出久は夢の中の精神世界で《素晴らしい人物》と《動物(?)》に出会い…

 

 《最高の能力(ちから)》を授かったことと…

 

 《本当の正義》を教えてもらったことを…

 

 根津校長とリカバリーガールは知った…

 

 

 

 

 

「僕が植木さん達と別れる時…植木さんは僕の夢を応援してくれました…『お前はお前の道を歩け!お前の人生だ!』っと…僕にとって植木さんは原点(オリジン)であり…最高のヒーローなんです!」

 

 出久は自分が夢の中で体験した全てを話し終えた。

 

「………」

 

「………」

 

「根津校長?リカバリーガール?」

 

「…緑谷君……キミは本当に《素晴らしい人》と出会えたんだね!」

 

「はい!植木さんは僕のヒーローです!」

 

 

 

 曇りの無い真っ直ぐな視線…

 

 

 

 今の出久にとってのヒーローは《植木 耕助》だけなのである…

 

 

 

 そう…No.1ヒーローのオールマイトですら霞んでしまうほどに…

 

 

 

 そして出久の話を聞き終えた根津とリカバリーガールは、出久がオール・フォー・ワンとは何の関係性もないことに安心していた…

 

 

 

「アンタ、今話したことは他の誰にも言うんじゃないよ」

 

「え?な、なんでですか?」

 

「それについては僕が話すのさ!」

 

「そうかい?それじゃあ頼んだよ。アタシはそろそろこの子の母親の様子を見てこなきゃならないからねぇ」

 

「うん!任せるのさ!」

 

 出久の話を聞いて一安心したリカバリーガールは応接室を出ていき、部屋には根津と出久の2人だけとなった。

 

 根津は意識が戻って間もない緑谷へ負担をかけないよう分かりやすく短縮して説明を始めた。

 

 

 

 《夢の中の出来事》を秘密とする理由を…

 

 

 

「緑谷君、キミ自身考えたことはなかったかい?植木耕助君から授かった【ゴミを木に変える能力】…その能力が現代社会においてはどれだけ役に立てるのかを?」

 

「それは…勿論…初めて植木さんに能力を見せていただいた時《地球にとても優しい能力》だとは思いましたが…」

 

「そう!それ!それだよ緑谷君!!!」

 

「うぇ!?そ、それ?」

 

「うん!キミが授かった【ゴミを木に変える能力】は、将来的に地球と人類を救済へと導く、正に《希望》と言っていい能力なのさ!」

 

「希望だなんて…流石に大袈裟なのでは?」

 

「大袈裟なものか!一般常識の記憶に異常がないキミなら分かるだろ?今の地球がどんな状態なのかをね!」

 

 それから根津は教師の顔付きとなり、現代の超人社会となって尚、地球が抱える環境問題について手短に語った。

 

 

 

・将来の発電不足によるエネルギー問題…

 

・森林破壊による動物や昆虫の絶滅危機…

 

・人口増加や貧困によって食料不足となり飢餓に苦しむ人々…

 

・地球温暖化による砂漠化…

 

・海や山などに不法投棄された大量のゴミによる環境汚染…

 

 

 

 他にも上げる議題は多々あるが、根津は話の区切りをつけて出久との話の続きをした。

 

「少し長々と話しちゃったけど、改めて今の地球が抱える問題は把握出来たかな?」

 

「はい、とても分かりやすい説明だったので」

 

「うんうん!物分かりの良い子も僕は大好きさ!今話した問題の数々だけど、そのあらゆる問題に対してキミの【ゴミを木に変える能力】は、全ての問題を解決に導くことが十分見受けられるのさ。発電不足については《火力発電》に使われる可燃物として、キミの能力で《燃えやすい木》を創り出せば永遠に稼働させることだって出来る。森林破壊や食料不足、砂漠化の問題だって《ゴミ》があればいくらでも《食用に適した果実の木》や《森》を創りだすことだって出来る。その過程で海や山に捨てられている《ゴミ》を利用することによって、汚染された地球の環境を綺麗にすることだって出来る。《ゴミが消えて木が増える》…正に《地球を救う能力》なのさ!」

 

「おぉ……改めて語られると…この能力にはそんな可能性が秘められているんですね…」

 

「個性社会の発達によって大抵の環境問題については解決に向かってはいるけど、それでも限界があるのさ。特に《海洋に捨てられたプラスチックのゴミ問題》は特にね。毎年何百万トンというプラスチック性のゴミが海に捨てられ、環境汚染により海に住む生物達の生態系が脅かされている。《職業用の個性使用許可証》を持っている人達が、個性を上手く使い分けることで《ゴミの回収をしたり》《ゴミを跡形もなく燃やす》などの処理をしてはいるけど、そんな彼らの活動よりもゴミを無闇に捨てる心無い人達の方が多くてね、根本的な解決には至っていないのさ。海外でその類いの仕事に勤めているキミのお父さんなら、現地の苦労が良く分かるんじゃないかな?」

 

 出久は根津の話の中に出た《自分の父親の職業》が頭に引っ掛かった。

 

 自分のことだけでなく、出久は両親の記憶も失ってしまったため、自分の親が誰なのかも思い出せないでいた…

 

 そんな出久を気遣い、根津は出久に自分が知っている範囲の情報で《緑谷出久がどんな人間なのか》《出久の両親がどんな人間なのか》を話した。

 

 その話の中で、出久の父親の職業が《海に浮かぶゴミ(瓦礫やプラスチックなど)の処分、海洋汚染を防ぐための環境保護》の仕事をしていると出久は知った。

 

 そんな仕事をしているため、出久の父親は年中海外を飛び回っており、日本へもまともに帰国することができず、出久の育児は妻の引子が1人でしていたのだ。

 

 

 

 根津は自分が知っている範囲の出久の両親の話を終えると、元の話の続きをした。

 

 それを聞き終えた出久の反応は…

 

「お話しは分かりました……ですがいくらなんでもオーバーなんじゃありませんか?【ゴミを木に変える能力】の発動条件であるゴミの大きさは《掌で包めるサイズ》なので、大量のゴミや大きな粗大ゴミなどを木に変えるのは難しいですよ?」

 

「そんなの大した問題じゃないのさ!この世には無数の個性が存在する!その中には《物体の大きさを変化させる個性》だって存在するのさ!その個性とキミの能力を組み合わせれば、どんなに大きくて大量のゴミだって、キミの掌に包み込める大きさにすることだって可能さ!」

 

「大きさを変える個性…」

 

 根津が言っていることはオーバーかも知れない…

 

 だが根津の言う通り、自分の【ゴミを木に変える能力】と《物の大きさを変える個性》と組み合わせれば地球を救うことも不可能ではないと出久は思えてきた…

 

「だけどね緑谷君、同時にこんな凄い能力を世界が知れば、当然キミの能力を《欲しがる者》《悪用しようと考える者》が必ず現れるのさ…」

 

「…それって…私利私欲のために僕の【能力】を利用しようと考える人達が出てくる…と?」

 

「その通りさ、さっきも話した通りキミの能力は地球の将来的に《もっとも優れた能力》であり、世界中がきっと欲しがる能力なのさ。キミのような正義感のある常識人ならば決して能力の間違った使い方はしないけど、人間は決して無欲じゃない…もしキミの能力にお金の臭いを嗅ぎ付けた者が現れたなら、その者はどんな手を使ってでもキミを手に入れようとするだろう…」

 

「どんな手を使ってもって……脅迫や誘拐や人質とかですか?僕の場合は《家族》を人質に取られる…とか?」

 

「ん~、その可能性も十分あるのさ。他にも多々色んなことが考えられるけど…最悪の可能性の1つとしては…キミの意思とは関係なしに《顔も知らない女性》と縁談やら政略結婚を目論み、社会的にキミを手の内に丸め込もうと考える者も現れる可能性も捨てきれないのさ」

 

「けっ!?結婚!!?ちょちょちょっ!待ってください根津校長!!?僕はまだ中学生で!結婚なんてずっと先の話ですよ!それに…僕に好きな女の子なんて///…まだ…いないですし///」

 

 《結婚》という単語を言われ、顔を赤くし目に見えて動揺する出久の姿を根津は微笑んだ。

 

 出久も思春期の男の子なんだということに、根津は何処かで安心感を持った。

 

「フフッ…ちょっと話が飛躍しすぎちゃったかな?でも可能性の1つとしては有り得ないことじゃないから、頭の隅に置いておくことように!」

 

「…はい…///」

 

 根津の話を聞き終えて《夢の中での体験》を秘密にする理由を理解した出久は複雑な気持ちになっていた。

 

「えっと…あの…じゃあ僕の家族にも話しては駄目……なんですか?」

 

「そうなるね、この真実は公にするのはリスクが大き過ぎる。騙すようで悪いけど、キミの両親にも《植木耕助のこと》や《【能力】【神器】のこと》は伏せておくように!そして【ゴミを木に変える能力】は僕達以外には《突然変異の個性》として説明していくこと!いいね!」

 

「分かりました…」

 

ガラッ

 

 出久と根津の話が終わった途端、部屋の扉が突然開いてリカバリーガールが戻ってきた。

 

「話は終わったかい?」

 

「今しがた終わったところさ!」

 

「リカバリーガールさん、あの緑髪の女の人は大丈夫なんですか?」

 

「なんだい、その他人行儀な言い方は?あの女性が《アンタの母親》だって昨日も言っただろ?相当疲れが貯まっていたんだろうねぇ、まだ目を覚まさないけど、明日には起きるだろうさ」

 

「そうですか、良かったぁ。………分かってはいるんですけど…あの女の人が僕の母親だとはまだ実感が持てないんです…。ただ…昨日あの女の人が僕を抱き締めてくれた時に感じた《ぬくもり》は…何故だか懐かしく思えた気がします…」

 

「(記憶はなくなっても…心と身体は《親のこと》を覚えてるんだね)」

 

「(リカバリーガールから聞いた通り、緑谷君は《産まれてからあの事件の日までに関わった他人》と《テレビなどで知った他人》との記憶が完全に消えてしまったんだね。両親との記憶も思い出せないとは……せめてその記憶だけは戻してあげたいものさ)」

 

 リカバリーガールと根津は虚しい気持ちを抱いたが、根津は今日の面会の最後に出久へ伝えるべきことを伝えた。

 

「緑谷君、面会時間がもうすぐ終わりそうだから、最後にキミへ言っておくことがあるのさ!」

 

「何をですか?根津校長?」

 

「キミの退院後の生活についてさ!」

 

「といいますと?」

 

「キミが早期に意識を取り戻して退院できた場合の《転校先の学校》さ」

 

「転校?」

 

 根津は面会時間ギリギリまで出久と話をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●6日後…(出久が目を覚まして1週間後)

 

 

 出久が午前中のリハビリを終えて病室に戻ってくると、ベッドの横にある椅子に根津が座っていた。

 

「あれ?根津校長?」

 

「やあ!緑谷君!またお邪魔してるのさ!」

 

「今日も来てくれたんですね、ありがとうございます」

 

「気にしなくてもいいのさ!僕が好きでやってることなんだからね!」

 

「今日はどうなされたんですか?《植木さん達と過ごした記憶》で思い出せてない記憶ならまだ…」

 

「いやいや、それについては思い出した時にゆっくり話してくれればいいのさ!今日キミへ会いに来たのは、先日に話したシンリンカムイやデステゴロ達以外の教育者達を連れてきたから、早速キミに紹介しようと思ってね!」

 

「え!?もう決まったんですか!?」

 

「うん!とは言っても今日来られたのは5人の内2人だけどね!」

 

 出久の意識が戻ってまだ1週間しか経ってないというのに、根津は前日に話していた《高校入試前までの出久の教育者となってくれる人達》をもう連れてきた。

 

「(こんなに早く決まって連れてくるとは思わなかった…)」

 

「リハビリが終わったばかりで申し訳ないんだけど、今すぐ応接室に移動して彼らと会ってくれないかな?これからキミがお世話になる先生達なんだからね!」

 

「……あのぅ…根津校長……その前にお聞きしたいことがあるのですが…よろしいですか?」

 

「なんだい?」

 

「…どうして……どうして僕なんかのために…ここまでしてくれるんですか?」

 

「………」

 

「根津校長はヒーロー育成高校の校長先生なんですよね?沢山の生徒達を立派なヒーローへ育て上げるためにとても忙しい立場の筈です…。そんな凄い人が…何故僕なんかのために…自分の時間の削ってまで僕の御見舞いに来てくれるだけじゃなく…僕と家族の今後の生活の手助けもしてくれて…更には僕がヒーローになるための擁護をこれ以上にない程手助けしてくれる…。僕は根津校長やリカバリーガールさんには本当に感謝してもしきれません……でも同時に疑問も湧いてしまうんです……さっきも言ったように『どうして僕なんかのためにここまでしてくれるんですか?』…」

 

「………」

 

「それに根津校長も御存知の通り、僕は奇跡的に助かりはしましたが…自殺を図った人間です。都合のいい話ですが…僕には《1か月前にあった事件の記憶》も《昔の僕が飛び降り自殺を図るまでの原因である記憶》すらも無いんです。でも僕は……緑谷出久という人間は…自分から命を絶とうとしたのは事実です…。この前僕は『植木さんのような最高のヒーローになりたい』と言いましたが…改めて自分の立場を考えてみると『自殺を図るような人間が本当にヒーローを目指していいのか』…っと…僕は思うようになったんです…」

 

「(…この子、昨日の相澤君と同じことを言っているのさ…。分かっていたんだね…緑谷君、今のキミの目標であり憧れである《植木 耕助》君のような正義のヒーローになりたいと思えば思うほど…過去の自分の行動を深く後悔することとなる。例えその記憶が消えてしまったとしても…キミの中では《足枷》となってしまったんだね…)」

 

 根津は緑谷の心境を把握した…

 

 出久は今日に至るまでの間…ずっと考えていたのだ…

 

 

 

 自分がヒーローを目指してもいい人間なのかと…

 

 

 

 その答えを…出久は自分で導き出せずにいた…

 

 このまま根津が予定しているプラン通りに、雄英入試までシンリンカムイ達に特訓をさせるにしても、その答えを見つけられない限り、出久は真剣に特訓へ取り組むことが出来ないだろう…

 

「失礼なのは承知の上です……でも…どうしても僕の気持ちを伝えてから根津校長の本心を聞きたいんです。こんなにお世話になっている上、退院後は教育者を9人もつけてくれて…来年の入試まで個性特訓と教育までしてくれる………根津校長…教えてください……どうしてここまで僕のことを救(たす)けてくれるんですか?」

 

「………ふぅ……キミは本当に利口だね。……分かった…話してあげるよ…どうして僕がキミのことを贔屓するのかをね…」

 

 1度溜め息をついた根津は覚悟を決めた態度をとなり、出久の疑問に答えようとしていた。

 

 出久は身構え、根津の言葉を聞き逃さないよう神経を尖らせた。

 

 

 

 

 

 だが…

 

 

 

 

 

「っと!言いたいところなんだけど!今日は例の教育者の2人連れてきて応接室に待機させているから、彼らとの話し合いが終わった後でもいいかな?」

 

「は…はい…分かりました…」

 

 出久の心はモヤモヤしていたが、忙しい中来てもらった人達と待たせるのは不味いと判断し、根津と一緒に応接室へと向かった。

 

 

 

 応接室に向かう道中、根津は先程の出久からの疑問の答えを考えていた。

 

 とはいっても、根津の答えは単純かつとてもシンプルだった。

 

「(緑谷君……僕がキミを特別扱いする理由はね…簡単に言ってしまえば《償い》なんだよ?無論、6日前に話した通り《キミが授かった【ゴミを木に変える能力】が個性社会においては希少な個性として扱われる》等の理由も多々あるけど、プロヒーローの立場として…1つの学校の校長先生の立場として…あのヘドロヴィラン事件でのヒーロー達の愚行を僕が個人的に許せないでいるんだよ。オールマイトが参戦するまでのヘドロヴィランに対するシンリンカムイ達のヒーロー活動が絶対に間違ってた訳じゃないけど…点数をつけるなら100点満点じゃない…どう評価しても50点が限界……彼らは自分に都合のいい理由をこじつけて職務を放棄した…《人質にされ助けを求めていた被害者(爆豪君)》を見捨てたんだ……ヒーローとして1番やってはいけないことだ。まぁその事件を起こした原因はオールマイトの不注意なんだから笑えない話さ…)」

 

 根津は考え事をしながら、1か月前と数日前に警察署へ呼び出し厳しく説教したオールマイトやシンリンカムイ達のことを思い浮かべていた。

 

 1か月前は、根津からの説教を受けるまでシンリンカムイ達は自分の愚行を反省どころか意識すらしておらず、逆に自らの行動を称賛し出久のことを貶していた…

 だが説教を受けると同時に真実を話した途端、シンリンカムイ達の態度が一変、掌を返したように《自分達の行動に対する後悔》と《出久への贖罪》を始めた…

 

「(本当に大人って言うのは勝手なものさ、僕も含めてね…。先日、シンリンカムイ達は僕とリカバリーガールに土下座までして出久君の警備を懇願してたけど……あれが本心なのか…それとも僕とリカバリーガールから信用を失いたくないだけの《その場しのぎのお芝居》なのか…僕は彼らを疑っている、本来なら僕は彼らの気持ちを素直に受け入れなきゃいけない立場なのにだ。…いや彼らだけじゃない…それはオールマイトにも言えたことだ、オールマイトが《記憶を失う前のキミ》に言った失言を考えるのなら、キミにこのくらいのお節介はさせてほしいのさ。…第一…オールマイトだったなら考え無しに……いや例え考えたとしても彼はキミに対してロクでもない償いしかしないさ……そして最終的には『ワン・フォー・オールの後継者になってくれ』…って言うだろうからね)」

 

 根津はこの場にいない知人に対しての嫌悪感を抱きながら、さっき病室で出久が求めていた答えを言っても良かったんじゃないか?…と頭を悩ませた…

 しかし、そこは教育者として敢えて言わずに先伸ばしにしたのだ。

 

「(ただ答えを教えるだけでは生徒の為にならない……出来ることならその答えはキミ自身で見つけ出してほしいんだ…緑谷君…)」

 

 

 

 根津がそんなこと思いながら歩いていると、いつの間にか同じ階にある応接室の前に出久と到着していた。

 

 

 

コンコンッ

 

『根津校長ですか?』

 

「うん、緑谷君を連れてきたのさ!」

 

「(え?今の声って…)」

 

 根津がノックすると、部屋の中から男の声が聞こえてきた。

 

 出久はその声色に聞き覚えがあった。

 

ガラッ

 

 根津が扉を開けると、そこには《黒服で髪がボサボサの眠そうな顔をした男性》と《ラフな服装をした緑色のロングヘヤーで目がパッチリとした女性》がテーブルの椅子に座って待っていた。

 

 出久は《黒服の男性》とは面識はあったが、ちゃんと話しをしたこともなければ名前も知らなかった。

 

 応接室の鍵を閉めた根津が黒服の男性の向かいの席に座ったため、出久はロングヘアーの女性の向かいの席に座った。

 

「では緑谷君、改めて紹介するのさ。こっちの眠そうな顔をした不審者は、僕の学校の教員の1人でプロヒーローでもある《イレイザーヘッド》さ!」

 

「不審者は余計です根津校長…。イレイザーヘッドこと…相澤 消太だ…よろしくね…」

 

「その隣にいる女性は、同じくプロヒーローの《ラグドール》さ!」

 

「ラグドールこと!知床 知子(しれとこ ともこ)ニャン!よろしくニャン!」

 

「は、はじめまして!緑谷出久です!今日はお忙しい中わざわざ来ていただいて、本当にありがとうございます!」ペコリ

 

 自己紹介をした2人に、出久は直ぐ様に頭を上げて挨拶をした。

 

「そんなに畏(かしこ)まらなくても大丈夫ニャン!」

 

「えっと~…ラグドールさんも学校の先生なんですか?」

 

「違うニャン!私は教師じゃないニャン!今日はチームを代表してキミに挨拶に来たのと、根津校長から頼まれてキミのことを調べに来たんだニャン!」

 

「チーム?調べる?」

 

「彼女は4人一組でチームを組んだプロヒーロー集団《ワイルドワイルドプッシーキャッツ》、通称《ワイプシ》の1人なんだよ。因みに今日来れなかった3人の教育者っていうのが、残りの《ワイプシ》のメンバー3人なのさ!」

 

「えっ!?プロヒーロー集団の1チーム全員が僕の教育者になってくれるということですか!?」

 

「うん!そういうことになるさ!勿論、4人全員が快く承諾してくれたから気遣いは無用さ!そして彼女の個性は《サーチ》と言ってね!彼女はその目で見た相手の個性や弱点などの情報を瞬時に把握することができる個性なのさ!」

 

「すっ!凄い個性ですね!!それじゃあイレイザーヘッドさんもサーチ系の個性なんですか?」

 

「”さん”はいらない、あと呼ぶんだったら『相澤先生』にしろ…」

 

「わ、分かりました…相澤先生」

 

「それでいい…」

 

「ん~そうだね~相澤君の個性は後程(のちほど)話すのさ。とりあえず緑谷君、早速だけど先日に僕とリカバリーガールへ話してくれた《植木 耕助》君や【能力】や【神器】のことを、この2人にも話してあげてくれないかい?」

 

「えっ!?根津校長!それ!話しちゃって大丈夫なんですか!!?」

 

「うん!大丈夫さ!彼らには前もってキミの事情を話してあるからね!今のところ《キミが夢の中で出会った植木君達》や【別の世界の能力】を全ては知っているのは、この場にいる4人とリカバリーガールの5人しか知らないから安心していいのさ!でもねぇ…相澤君だけはその話を全く信用してくれなくてね…」

 

「俺はそんな非現実的なことは信じられないだけです。まぁ《個性》があるこの世の中で《非現実的》も《非科学的》もないですが…『夢の中で個性を授けられた』…なんて聞かされてそれを信じろと言うのなら…自分の目で確認しないことには信用できないタチなもんでしてね…」

 

「疑り深いニャンねぇ~イレイザーヘッド~。ごめんニャン緑谷君」

 

「いえいえ、気にしてないですよラグドールさん。それにこんな話…普通は信じられないのが当たり前ですよ。イレイz……相澤先生の意見にも納得できます」

 

「ほぉ…話が分かるじゃないか。なら早速、説明がてら俺達にも聞かせてくれるか?緑谷…お前が夢の中で体験した出来事や出会った人物…《植木耕助》って奴から授かった【能力】と【神器】についてな…」

 

「はい、あぁでも根津校長から聞いて御存知だと思いますが、僕も植木さんと過ごした日々の全てを思い出せた訳ではないので、所々抜けている部分がありますよ?」

 

「かまわねぇ…お前の口から直接聞きたい…【別世界の能力(ちから)】ってやつをな…」

 

「分かりました」

 

 

 

 出久は以前にも根津とリカバリーガールに話した《植木耕助とウールと過ごした日々》と【ゴミを木に変える能力】と【神器】を相澤とラグドールに説明した。

 

 説明の最中、根津が補助をしてくれたこともあって、出久はスムーズに話すことができた。

 

 

 

「ふむ…精神世界で出会った《別世界の人間》と《喋る動物》と共に10ヶ月近く共に過ごしつつ、授かった【能力】と【神器】…そして【天界力】の猛特訓をしてきたと…」

 

「凄い人だニャンね~植木君って!《正義》って言葉をそのまま人間にしたような本物のヒーローだニャン!」

 

「そうなんですよ!本当に凄い人なんです!植木さんは!僕にとって1番のヒーローでもあり、僕の最高の《原点(オリジン)》です!」

 

 ラグドールが植木を誉めると、出久は自分のことのように嬉しくなり、つい植木のことを熱弁した。

 

「緑谷…お前の原点について熱く語るのはまた今度にして、次はその恩師から授かったっていう【能力】を見せてくれ…」

 

「私も見たいニャン!」

 

「はい、でもその前に…根津校長、能力の使用を許可して頂けませんか?」

 

「うん!緑谷出久君、個性の使用を許可するのさ!」

 

「ありがとうございます」

 

 現代の個性社会において《個性で他人を傷つけたり》《公共の場での個性の使用》はルール違反であり無断使用は禁止となっている。

 

 この世界に存在する個性は多種多様、その中には《人の命を簡単に奪えてしまう個性》だって存在するため法律でも厳しく定められている。

 

 ただし、これはあくまで《他人に危害を加える意思》をもっての個性を悪用する者に対しての法律であり、《重い物を持つ負担を減らすため、個性で物体を軽くしたり》《狭い場所に落ちた小物を拾うため、個性で引っ張り上げたり》《高い場所の掃除をするため、個性で手足を伸ばしたり》などの日常生活でふとした瞬間に必要するパターンでの個性の使用はお咎(とが)め無しとされている。

 

 その上で個性を堂々と使うためには《ヒーローになって免許を所持する》または《国が定めた特定の試験に合格して個性使用許可証を所持する》、《ヒーロー免許、個性使用許可証を所持したプロヒーローなどの監督や監視の元》あるいは《個性の使用が決められている区域》でなければ個性の使用は許されない。

 

 出久の場合は《個性》ではないのだが、根津校長とリカバリーガールと話し合った結果、出久の【ゴミを木に変える能力】は名前を変えて《個性》として登録することとなった。

 

「記憶喪失とは聞いてたが…超人社会における一般常識は弁えてるようだな…」

 

「真面目な子だニャン♪」

 

 根津からの許可をもらった出久は、自分の病室から持ってきたペットボトルの水を飲み干し、空になったペットボトルを両手で包み込める大きさに潰すと…

 

 

 

 

 

「【ゴミを木に変える能力】!」

 

 

 

 

 

 室内のため出久は《小さい木》をイメージし、両手の黄緑色の光から《自分が頭の中で想像した木》を創り出した。

 

 

 

 

 

「ニャ!?ペットボトルが木に変わったニャン!!?」

 

 

 

 

 

「……………(ギロッ!)」

 

 

 

 

 

「ヒッ!?」ビクッ!?

 

 

 

 

 

 出久の【ゴミを木に変える能力】に対して、ラグドールは驚きながらも笑顔で反応したが、相澤は出久が木を成長させている途中に《物凄い眼力》で出久を睨んだ!

 

 

 

 

 

「(あ…相澤先生が…僕を睨んできてる!?なんで!?どうして!?僕何か勘に触るようなことしちゃったかな!?正直に滅茶苦茶怖いんですけどおおおぉ!!!しかも心無しか相澤先生の髪が逆立ってユラユラ揺れてる上に…目は赤く光っているし!?!ど…どうしよう…このまま《木を成長させ続けて》も大丈夫なのかなぁ?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!!!??なにっ!!!!!????」

 

 

 

 

 

「ニャニャッ!!!???」

 

 

 

 

 

「…ん~…どうやら…僕の予想は当たったようだねぇ~」

 

 

 

 

 

「?」

 

 

 

 

 

 出久が相澤の眼光にビビリながら《木》を成長させていると、相澤とラグドールは度肝を抜かれた表情となって仰天し、根津は満足そうな表情を浮かべていた。

 

「(2人共どうしたんだろう?シンリンカムイさんとやってることは対して変わらない筈なのに…いったい何に驚愕したのかな?)」

 

「…ね…根津校長…これはいったい!!?」

 

「木が…停止しなかったニャン!?」

 

「(停止?なんのことだろう?)」

 

「だから前もって言っただろ?『彼の【能力】は《個性であって個性じゃない》かもしれないよ?』ってね。それよりもラグドール、彼の【能力】については何か見えたかい?」

 

「ニャニャッ!?…そ……それは…」

 

「(どうしたんだろう?相澤先生とラグドールさんも、何だが落ち着きが無くなってきてるような気が?)」

 

 相澤とラグドールの動揺っぷりに出久は心配になった。

 

「あの~お二人共…大丈夫ですか?ラグドールさん、もしかして僕の【能力】と【神器】で…何か不味いことが見つかったりしちゃいましたか?」

 

「ニャッ!?あ~~えっとね~…なんだが今日は調子が悪いのかニャ~…《サーチ》してみたんだけど…全然キミの能力を調べられなかったみたいニャン……ごめんニャン…」

 

「そ…そうですか…」

 

 さっきまでのハイテンションは何処へやら、ラグドールは一変して悲しそうな表情になった。

 

コンコンッ

 

 相澤とラグドールの変化に出久が内心で慌てていると、面談室の扉からノック音が聞こえてきた。

 

『まだ話し中かい?』

 

「リカバリーガールさん?」

 

「緑谷君、扉を開けてくれないかい?」

 

「分かりました」

 

 出久は根津に言われた通り、扉の鍵を開けてリカバリーガールを応接室に入れた。

 

「失礼するよ」

 

「リカバリーガールさん、どうしたんですか?」

 

「どうもこうもあるかい、もう面会時間は終わりさね、病人はさっさとベッドに戻りな」

 

「え?あっ!もうこんなに時間が経っちゃってる!?」

 

 出久は応接室に備え付けられている時計をみて驚いていた。

 

「そういうことさね、異常な回復力の身体になったとはいっても、まだ大事をとってアンタは身体を休めな」

 

「はい、そうします。すみません根津校長、相澤先生、ラグドールさん、時間になっちゃったので僕は病室に戻ります」

 

「いやいや、此方も無理をさせちゃって悪かったね。例の話の続きはまた今度にするのさ」

 

「話を聞かせてくれてありがとニャン緑谷君、ゆっくり休んでニャン」

 

「はい、失礼します」ペコリ

 

 出久は3人に挨拶をしてから面談室を退出し病室へと戻っていった。

 

「(リカバリーガールが僕と交代に応接室に入って行ったけど、まだ何か大事な話でもあるのかな?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イレイザーヘッド side

 

 俺は今…困惑している…

 

 俺の個性は《抹消》、瞬(まばた)きをしない限り《目で見ている相手の個性を消す個性》だ…

 

 《生まれつきの個性》や《個性の発現により状態変化した個性》は消せないが、それでも大半の個性を消すことは出来る……

 

 

 

 …筈なんだが…その考えを改めないとならない事態が発生した!

 

 今さっき応接室を出ていった患者の個性を消すことが出来なかった!!!??

 

 

 

 緑谷出久……

 

 今から1か月前に、無人ビルから飛び降り自殺を図った元無個性の中学生…

 

 

 

 自殺の理由は2つ…

 

 1つ目は《この個性社会においての無個性の待遇》…

 今となってはニュースで頻繁に聞く折寺中学校……いや中学を含め小学校と幼稚園でも無個性故であるがために、陰湿なイジメや差別を同級生と教師達から10年以上も受け続けてきたことで精神的に限界を迎えたこと…

 

 2つ目は《ヒーローへの失望》…

 自殺を図ったその日…偶然出会った《あるヒーロー》からは夢を否定され……その後に発生したヘドロヴィラン事件では、プロヒーロー達が助けを求める被害者(爆豪勝己)を見捨てるという情けないヒーロー活動を見て《ヒーローに対する尊敬》を無くし、無謀ながらも被害者を助けるために飛び出すも結局は無駄に終わり、事件後にその《情けないヒーロー達》から説教と叱責を喰らったことがトドメとなって…

 

 絶望の末に…ビルの屋上から身投げをした…

 

 

 

 俺だって人間だ…同情の気持ちくらいはある…

 

 いくら俺でも…そんな無個性として散々な日々を送り、幼い頃からの憧れのヒーローの夢を否定されたと知ってから…『そんなことでヒーローの夢を諦めるのは合理性にかける…』なんて言える訳ない…

 

 だが…理不尽な人生を送っているのは何もソイツだけじゃない…

 

 無個性に生まれ…辛い人生を送る人間なんてこの世には沢山いる…

 

 何も緑谷出久だけが特別という訳じゃない…

 

 だが…ヘドロヴィラン事件後に根津校長とリカバリーガールが雄英内で俺だけに真実を話してくれた…

 

 ニュースでもネットでも…世間には未だ判明していない…《緑谷出久の夢を否定したヒーローの名》を…

 

 そのヒーローの名前を聞いた時は流石の俺も驚いたが…同時に《全て》を悟った。

 

 

 

 どうして根津校長とリカバリーガールは必要以上に緑谷を気遣うのかを…

 

 

 

 なぜ根津校長が俺に緑谷の家庭教師を頼んだのかを…

 

 

 

「どうだい相澤君?緑谷君の教育者及び家庭教師の件、引き受ける気になったかい?」

 

 俺が考え事をしていると、根津校長が昨日の断った案件をもう一度言ってきた。

 

「興味は持ちました……ですがまだ了承する訳にはいきません。明日、緑谷に今日言えなかったことを伝えて…それをアイツがどう受け止めるかによって決めます…」

 

「今の緑谷君ならば必ず受け止められるさ、なにせ彼は最高のヒーローから【能力】だけではなく《本当の正義》を教わったんだからね!」

 

「………」

 

「それで、ラグドール?緑谷君へはああ言ってたけど、本当は彼の【能力】や【神器】の詳細はサーチ出来たんだろ?」

 

「ニャッ…お見通しですか…。おっしゃる通りです……でも全貌を見ることは出来ませんでした…。おそらくですが…今の緑谷君の中にある《植木君から授かった能力》は…まだ半分も目覚めていないように見えました…」

 

「ふむ…ではキミの見立てで、今の緑谷君の中にある能力は何割程度目覚めているように見えたかな?」

 

「えっとですね、大雑把に言ってしまいますと…《3割》といったところですね」

 

「3割かぁ…」

 

「はい…緑谷君が説明してくれた【ゴミを木に変える能力】も【神器】も【天界力】、その全てを合わせて今の彼が使える全力は《30%》かと…。しかしその3割の力でも、10種類の内6つしか使えない【神器】という武器はいずれも強力で、他の《4つの神器》の詳細は緑谷君本人も知らないようですが…現状の彼の使える《6つの神器》よりも強力な可能性が十分あります…。加えて【ゴミを木に変える能力】には…何か《とてつもない隠された能力》があるようにも見えました…。いずれにしても使い方を間違えれば危険な代物になりかねません…」

 

「大丈夫だよ、緑谷君へ【能力(ちから)】を与えてくれた植木君は《最高のヒーロー》さ!そんな素晴らしい人から《本当の正義》を教わったんだからね!僕は彼を信じるのさ!

(《とてつもない隠された能力》…もし僕の予測が当たっているのなら…やはり緑谷君の【ゴミを木に変える能力】が覚醒した能力は!?)」

 

「根津校長がそこまでおっしゃるのなら…私も彼を信じます!将来はシンリンカムイ以上の《木の個性を使うヒーロー》になれるように!」

 

「シンリンカムイだけじゃなくて、彼は相澤君の後任にもなれる可能性も出てきたのさ!」

 

『?』

 

 根津校長がラグドールさんとの話の終盤で、昨日校長室で言ってたことも同じ発言をした。

 

「またその話ですか…」

 

「どういうこったい?」

 

「シンリンカムイじゃないんですかニャン?」

 

 根津校長の言葉にリカバリーガールとラグドールは疑問を投げ掛けた。

 

「いずれ分かるのさ!それに僕もまだ確証に至ってないことだからね!後は緑谷君が今後思い出していく《植木君達との記憶》次第なのさ!」

 

『???』

 

「(それに…もしかしたら緑谷君は…仏野君をも超える存在になるやもしれないからね…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●次の日…(出久が目を覚まして8日目)

 

 

 昨日に続き、今日も根津と相澤が出久の元を訪れて応接室に集まった。

 

「すまないね緑谷君、毎日毎日押し掛けちゃって」

 

「いえいえ病院は退屈ですから、むしろ来ていただけて嬉しいですよ。最近は奉仕活動の人達もお見舞いがてら話し相手になってくれますし」

 

「そう言ってもらえると助かるのさ!まだまだキミと話すことは沢山あるからね!でも今日は僕の前に、相澤君がキミと話したいことがあるみたいなのさ」

 

「相澤先生が僕に?」

 

「…緑谷、昨日お前に話していなかったことを伝えにきた…」

 

「伝えたいこと?」

 

「そうだ…俺がお前の教育者を引き受けるか…それとも断るかの話だ…」

 

「……分かりました……聞かせてください…」

 

「よし…ならまず最初に俺からお前に言っておくべきことがある…」

 

「?」

 

 

 

「緑谷……俺はお前のことが《嫌い》だ…」

 

 

 

「ッ!?…………はい…」

 

「俺がお前を嫌いな理由は…聞かずとも分かるんじゃないか?」

 

「………僕が…《自殺を図った人間》だから…ですよね?」

 

「そうだ、俺はなぁ…《命を粗末にする奴》は大嫌いなんだよ…。今のお前は事故の後遺症で記憶障害になって《自殺の経緯》すらも忘れちまったようだが……そんなものはなんの言い訳にならない。お前が《無個性として過ごしてきた日々》については…この1ヶ月で俺も大方は知った……幼少から中学まで劣悪な環境を10年過ごしながらも前向きに生きていたお前の精神力と忍耐力は評価する…。だがな…どんな事情があろうとも…お前が自らの命を絶とうとしたのは変えられない事実…。いくら根津校長の頼みとはいえ、俺は《命を大事しない生徒》の面倒を見てやる程お人好しじゃない…。況してや、そんな生徒が《ヒーロー科》を受験しようだなんて間違ってる…」

 

「………」

 

 相澤からの容赦なく厳しい言葉に、出久は返す言葉がなかった…

 

 出久自身、考えていなかったことじゃない…

 

 いずれ誰かに自殺の件を指摘されるんじゃないかと…

 

 

 

 それが今…正に現実となっている…

 

 

 

 応接室の空気が重くなっていく中、2人の会話に根津は口を挟まず傍観している。

 

 出久の心境を誰よりも理解しているのは根津なのだが、根津は相澤の厳しい発言に何も言わず成り行きを見守っていた。

 

 厳しいと思うだろうが…優しくするだけでは教育者は勤まらない…

 

 教師とは…時に生徒に対して厳しく接し…心を鬼にしなければならない時がある…

 

 

 

 そう…だからこそ根津は確信していたのだ…

 

 今の出久の教育者として、もっとも相応しいのは《相澤 消太》しかいないと…

 

 

 

 相澤消太という人間は根っからの《合理主義者》である。

 無駄なことを一切を嫌い、何事にも効率の良さを優先する。

 《一石二鳥》では満足せず、《一石三鳥》《一石四鳥》と1つの行動でより多くの利益を得ること、1度に複数の物事を解決させることを好む人間なのだ。

 

 そんな相澤は、昨日の一件を機に出久へ興味を持った。

 だが自分の個性が通用しないだけで教育者を引き受けるほど相澤は甘くない…

 

 なので相澤は…

 

「事情を知らない奴等からすれば、お前は《1度死のうとしておきながら…個性が発現したからヒーローになろうとしている身勝手な子供》としか捉えないだろう…。そんな軽率な判断で、夢や生き死にを決めるような奴を…俺は好きになれない…」

 

「………」

 

「だが…俺だって鬼じゃない。緑谷、お前に1度だけチャンスをやる…」

 

「チャンス?」

 

「あぁ…お前が退院した後、俺の決めたトレーニングメニューを指定された期間内にクリア出来たなら…俺はお前のことを認め…来年の入試まで教育者になってやる…」

 

「トレーニングメニュー?」

 

「元々は病院生活で鈍ったお前の身体を鍛え直すための筋トレを予定していたんだが、お前の《ヒーローを目指す覚悟》が本物なのかを確かめるため、俺が考えているハードなトレーニングメニューをお前にやってもらう」

 

「僕の覚悟…」

 

「乗り越えてみせろ…緑谷。お前が過去に仕出かした過ちを反省し、自分が信じる最高のヒーロー《植木 耕助》のような正義を貫く人間になりたいのなら…これから俺が出していく課題を全てやり遂げてみせろ!」

 

「ッ!はい!よろしくお願いします!」

 

「(相澤君…やはりキミに任せて正解だったよ。良い師弟になることを僕は願ってるのさ)」

 

 根津は心の中で安堵していた。

 

 全ての真実を知った上で、それでも緑谷君を1人の生徒として見てくれる教員は、自分の学校内で相澤しかいないと確信していたのだ。

 

 もしこれが他の教員だったなら、未だ一部の人間にしか知られていない《出久を自殺に追い込む発言をしたヒーロー》が《オールマイト》だと知った時点で、真剣に出久と向き合ってはくれなかっただろう…

 

 特に雄英の教員達の中でも、一番のオールマイトファンであるセメントスがその真実を知ったら…大きなショックを受けて寝込むのは間違いない…

 

 

 

 だからこそ根津は、出久の教育者として相澤を指名したのである。

 

 

 

「緑谷君、次は僕からの話があるんだけど大丈夫かな?あと…昨日の僕の答えは聞きたいかい?」

 

「はい、問題ありません。それと、昨日の聞けなかった答えですが…相澤先生のおかげで自分なりに答えを見つけられそうなので大丈夫です」

 

「そうかい、なら遠慮なく僕の話をさせてもらうのさ!以前にも説明した通り、キミは退院後は元いた中学校とは別の中学校に転校してもらうのさ!転校先の学校はまだ正式に決まってないけど、それはキミが退院する前に決めておくよ!あと【能力】【神器】【天界力】の特訓については、相澤君とラグドール君以外の教育者であるシンリンカムイ達には《突然変異種の個性の特訓》という解釈で進めていくから、くれぐれも彼等や外部には口外しないようにね!」

 

「はい。あ、そう言えば根津校長、気になることがあったので質問してもいいですか?」

 

「なんだい?」

 

「ラグドールさんやシンリンカムイさん達は基本的にプロヒーローの仕事に専念して、時間があるときに交代で僕の指導をしてくれると言ってましたが、相澤先生はプロヒーローであり学校の教員ですよね?もし相澤先生が僕の教育者になってくれたとしても、学校の生徒達と僕の指導を交互に教えるのは大変なのではないでしょうか?」

 

「あぁそのことかい、それについて気にする必要はないのさ!確かに相澤君は僕の学校で1つのクラスの担任をしてはいるんだけど、今は相澤君が指導する生徒がいないのさ!」

 

「…へ?…いない?」

 

「………」

 

「実はね緑谷君!相澤君ったら今年入学してきた1年生20人を、つい最近で全員《除籍処分》にしちゃったのさ!」

 

「じょ、除籍!!?…ってことは退学ってことですか!?」

 

「簡単に言うとそういうことになるのさ!実際は退学よりも重い罰だよ、僕の学校に居たこと事態が消されるってことだからね!

(まぁ『書類上は』だけど…)」

 

「…それって…その生徒さん達が何か不味いことをしちゃったってこと…ですか?」

 

「不味いことか……まぁそうだな…アイツらが教師である俺の目に叶わなかった…それが問題で除籍にした…」

 

「相澤先生の目に叶わなかった?」

 

「相澤君はね、ヒーローの才能を見いだせない生徒は直ぐに見限ってしまうんだよ。おかげで彼が除籍した生徒数は今年の20人を足して150人を越えてしまったのさ!」

 

「ひゃ、150人!!?」

 

「ビックリだよね~、相澤君の基準や判定は本当に厳しいから」

 

「俺は教育する価値ないと判断した生徒に現実を見せるためやっていることです。…生半可な覚悟ではヒーローは勤まりませんからね…」

 

「………」

 

「緑谷君、ヒーローを目指すのならば、まずは相澤君に認めてもらえるように頑張らなきゃならないのさ!くれぐれも死なないようにね!」

 

「ッ!…はい!死ぬ気で頑張ります!」

 

「期待しているのさ!それともう1つ、緑谷君、この前話したキミの【ゴミを木に変える能力】を個性として登録するための《個性名》は決まったかい?」

 

「あぁ…えっと~…そのことなんですが……コレと言うのがまだ決まってなくて…」

 

 実は出久は、根津から1つ宿題を出されていた。

 それは出久が植木から授かった【ゴミを木に変える能力】を、この超人社会に個性として広めていくための《オリジナルの個性名》を考えることだった。

 

「フッフッフッ…そういう可能性も考えて、キミの【能力】に相応しい《個性の名前》を考えてきてあげたのさ!」

 

「本当ですか!?」

 

「うん!キミが恩師である植木君から授かった【ゴミを木に変える能力】…それはとても地球に優しい能力!自然の木々とは…最初は小さな《芽》をつけることから始まる…その芽は段々と成長していくことで《木》となる…その木は人間の都合によっていつかは伐採され建築材料などに上手く使われる…そんな木が無くなった場所に植林をすることでまた《木》を育てていく…。そんな自然のサイクルを現したキミの個性の名前は……」

 

 根津は一呼吸を置いてから、個性の名前を口にした。

 

 

 

 

 

「《循環》!なんてどうかな?」




 今作のヒロアカ世界において【ゴミを木に変える能力】の個性名は、根津校長命名の《循環》となりました。



◯根津校長が選んだ出久君を雄英入試前日まで教育する人達は…

・シンリンカムイ
・デステゴロ
・バックドラフト
・Mt.レディ
・イレイザーヘッド
・マンダレイ
・ピクシーボブ
・虎
・ラグドール

以上の9人です。



◯出久君の秘密(植木君との出会い)を知るのは…

・リカバリーガール
・根津校長
・イレイザーヘッド
・ラグドール

以上の4名です。



 次の話(22話)では【ゴミを木に変える能力】が大いに活躍します。



 22話と23話の作成と投稿を急ぎますので、20話と21話の感想の返信は遅くなってしまうと思います。
 御迷惑をおかけして申し訳ありません。
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