皆様、本作《緑谷出久の法則》を読んでいただき本当にありがとうごさいます!
おかげさまで20万UAを突破することができました!
そして、前回の番外編(《ロベルト・ハイドンの法則》)と同様に、20万UAを記念としてまた番外編を作成しました。
-注意-
・今回の番外編の話は、本編の《植木耕助から正義と能力を授かった出久君のいる世界》とも、10万UA記念の《ロベルト・ハイドンから悪意と能力を授かったヴィランデクのいる世界》とも違う、また別世界の物語です。今作の出久君はタイトルで分かる通り《スローライフ》を目指しております。
・この番外編もまた《爆豪アンチ》と《ヒーローアンチ》の作品となっております。
・この番外編の世界の出久君もまた記憶喪失にはなっておりません。
・今回の番外編の話に登場する《うえきの法則キャラクター》は《植木耕助》と《ウール》のみとなっております。
・この番外編でも前回の番外編《ロベルト・ハイドンの法則》までではありませんが、今作でもヒロアカの原作キャラが何人も死亡しております。
『えっ!?このキャラが死んじゃうの!?』と必ず思ってしまうことでしょう…
以上で苦手要素があるからはブラウザバックをオススメします。
それが全て大丈夫という方だけ御覧になるようお願いします。
世界は無数に存在している…
木の幹が沢山の枝に別れ…その枝の1本に《葉っぱ》や《木の実》という…《未来》ができるのだ…
しかし…たった1つのキッカケで…世界の運命と未来は大きく左右され…その枝に《葉っぱ》も《木の実》ができない場合もある…
精神世界にて本物のヒーローと出会い…
《正義の道を突き進む緑谷出久》の世界があるように…
精神世界にて本物のヴィランと出会い…
《悪の道を突き進んだ緑谷出久》の世界があるように…
そのどちらでもない世界も存在する…
これは…緑谷出久が《ヒーローでもヴィランでもない道》を進みたい(?)世界の物語である…
…
None side
個性という一種の超能力が当たり前となったこの超人社会に《無個性》で生まれてきてしまった少年…
緑谷 出久…
彼の人生の歯車は…4歳にて狂い出した…
幼馴染みや友達だった者達は、出久が《無個性》だと知るや否や、当たり前のように個性を使って一方的な暴力を出久に振るい始めた…
出久はその間、自分1人だけ周りと違う恐怖に怯えながら…大勢の同級生達からイジメのターゲットにされた…
それだけではなく、幼稚園から中学校までの教師達は…個性の強弱で子供を優遇し…無個性の子供を差別した…
教師とは、イジメや喧嘩に気づいたなら止めに入るのが当たり前…の筈なのにイジメられている生徒が《無個性》だと分かると…教師達は誰も彼もが見て見ぬフリをした…
そんな理不尽な人生を送りながらも…出久は幼い頃からの夢である《ヒーロー》を目指して前向きにメゲずに生きていた!
そう…
彼にとって憧れであり…
もっとも敬愛するヒーロー…
《平和の象徴 オールマイト》と出会う…
中学3年の春までは…
緑谷出久が折寺中学校の3年生になって間もなくのある日…
彼は同級生達に自分の夢(ヒーローになりたい夢)を嘲笑われ…
幼馴染みである《爆豪勝己》には…大事なノートを個性で燃やされた挙げ句に自殺教唆まで言われた…
彼の……出久の心は崩壊寸前となっていた…
そんな出久の不幸は続き、学校の帰り道ではヘドロヴィランに絡まれた…
出久は立て続けに起きる自分への不幸に…この超人社会そのものを呪った…
だが、そんな出久を助けてくれるヒーローが駆けつけた!
世界中の誰もが憧れるNo.1ヒーロー《オールマイト》によって出久はヘドロヴィランから救われたのだ!
本物のオールマイトに出会えた嬉しさに震える出久は、気絶したヘドロヴィランをペットボトルに積めて立ち去ろうするオールマイトに大声で1つだけ問いた!
「個性のない人間でも…あなたみたいになれますか!!!」
…っと…
出久はオールマイトに《希望の光》を抱いて質問した!
だがオールマイトの返答は…
出久の《一筋の希望》を…
「プロはいつだって命懸けだよ…『個性が無くとも成り立つ』とは…とてもじゃないがあ…口に出来ないね…」
打ち砕いてしまった…
オールマイトの返答を聞いた出久は…
《現実》という名の《絶望》を突きつけられた…
いや…本当は出久だって分かっていた…
この超人社会において《個性を持たない人間が悪に立ち向かうなんて出来ないこと》は分かっていた…
どんなに身体を鍛えたところで《無個性の人間》が《個性を持つ人間》に敵う筈がない…
《自分が無個性だと教えられたあの日》から約10年…
そんな当たり前の現実は…無個性として生まれてきた出久が身に染みて分かっていた…
無個性の人間がどんなに努力したって…
ヒーローになれないなんて現実は…
出久が一番分かっていたのだ…
それでも憧れてしまった…
目の前にいる《平和の象徴》に…『No.1ヒーローになりたい』という希望があったからこそ…
どんな酷い目に合わされても…
どんな辛い日々を送っても…
我慢して生きてこられたのだ!
だがその希望に今…大きな亀裂が入り…砕け散る寸前となった…
出久のそんな心境などお構いなしに、オールマイトはヘドロヴィラン入りのペットボトルをズボンのポケットに入れながら、空を飛んで去っていた…
残された出久…途方もない虚しさを必死に抑え込みながら…重い足取りで自宅に向かって歩き出した…
しかし…更なる不幸が出久を襲い…
出久の希望は…完全に崩れ去った…
帰路の途中、立ち上る黒い煙と人混みを見つけた出久は、何事(なにごと)かと気になり人混みを掻き分けて黒い煙の発生元へと到着した。
出久がそこで見たのは…
先程、オールマイトが倒して捕まえた筈のヘドロヴィランが、何故か《爆発》を発生させながら暴れている光景だった!
どうしてヘドロヴィランがここにいるのか疑問に思ったが、その疑問よりも先に《ヘドロヴィランに捕まって個性を無理矢理使わされている幼馴染み(爆豪 勝己)》に出久は意識を向けた!
それだけじゃない!既に現場にはシンリンカムイやデステゴロ、バックドラフトやMt.レディといったプロヒーロー達が十数人も到着しているというのに…そのヒーロー達は誰一人としてヘドロヴィランに捕まっている被害者(爆豪 勝己)を助けようとはしなかった!
ヒーロー達は、野次馬に聞こえるようにか口を開いては『相性が悪い』だの『掴めない』だの『今回は譲ってやる』だの『二車線じゃなきゃ通れない』だのと言い訳をし、他のこと(避難誘導、消化活動など)を優先し、ヘドロヴィランの対処を一切しない!
そんなプロヒーロー達のヒーロー活動に対して失望する中…出久は再びヘドロヴィランに目をやると…
幼馴染みと助けを求める弱々しい目をしていた…
その瞬間!出久の身体は勝手に動き出し、ヘドロヴィランに向かって走り出した!
出久は無我夢中で、ヘドロヴィランに捕らわれた幼馴染みを助け出そうと必死になった!
そんな矢先にオールマイトが現れ、出久と爆豪を救出しつつ、ヘドロヴィランを倒した!
これによりヘドロヴィラン事件は終わりを迎えた…
だが…出久の不幸はここからだった…
オールマイトは野次馬から声援を受け、爆豪がプロヒーロー達が称賛とスカウトを受けていたが…
出久はプロヒーロー達から叱責を受けていた…
そんなヒーロー達から叱られる出久を見て野次馬は笑っていた…
これだけで済んでいたならまだ良かった…
しかし、出久を叱っていたシンリンカムイとデステゴロは、ヘドロヴィラン事件にてヒーローらしい活躍できなかった《憂さ晴らし》なのか《腹いせ》なのか…はたまた《事件の一部始終を見ていた野次馬によって広められる世間からのヒーローとしての自分の評価を落とさないため》なのか…
2人は怒りのままに《言わなくてもいいこと》までを出久に言ってしまい…
その言葉は…出久の心にトドメを刺す言葉をなった…
「君のような考えなしの無謀な子供はヒーローになるべきではない!!!」
「お前みたいな死にたがり屋は一生ヒーローにはなれねぇよ!!!」
「ッ!!!!!?????」
シンリンカムイとデステゴロから言われたその言葉は…
出久の《希望》と《ヒーローへの憧れ》を…
粉々に壊した……
ヘドロヴィラン事件現場を去った出久は、帰路の途中にある《無人ビルの屋上》へと移動していた…
出久はそこで…自分が持っていたノートと教科書の余白に…《自分がこれまで受けてきた理不尽な人生》と《今日体験した全て》を書き記した…
・10年に及ぶ無個性としての辛苦の日々を…
・3人のヒーロー達からの言葉によって夢を踏み潰されたことを…
・ヘドロヴィラン事件の真実を…
出久が全てを書き終えた頃…空はすっかり暗くなっていた…
出久はノートと教科書を鞄にしまうと…靴を脱いで屋上の柵を乗り越え…ビルの端に立った…
しかし…今の出久に死への恐怖はなかった…
何故なら…出久にとってはこの社会で生きるが死以上の恐怖になったからである…
出久は全てを諦めてしまった…
・10年に及ぶ…無個性ゆえの理不尽…
・幼馴染みからの自殺教唆…
・No.1ヒーローからの夢の否定…
・プロヒーロー達の情けないヒーロー活動…
・そして…現役ヒーローであるシンリンカムイとデステゴロの言葉によって…夢を完全に壊された…
何のために今まで努力し頑張ってきたのか…?
何のためにずっと屈辱を耐えてきたのか…?
その問いに答えてくれる者はいなかった…
この超人社会は…出久とって《生き地獄》も同然…
自分を受け入れてくれる人達(両親、奉仕活動の人達)は確かにいる…
だがそれ以上に…この世界の人々は…ヒーロー達は…決して無個性の自分を受け入れてはくれない…
出久は生きることに疲れてしまった…
そんな絶望の末に…出久の頭に思い浮かんだのは…幼馴染みから言われた《あの言葉》だった…
『来世は"個性"が宿ると信じて、屋上からのワンチャンダイブ!』
誰がどう聞いても自殺教唆でしかない言葉…
だが出久は…その言葉を受け入れてしまった…
「来世か……もし生まれ変われるなら……ヒーローもヴィランもいない場所で…のんびりと静かに…平穏に暮らせる場所がいいなぁ…」
そう呟いた出久は…いつの間にか身体を前に倒していた…
出久の身体は重力に逆らわずに落ちていき…
グシャッ!!!
自分の全身広がる強烈な痛みと共に、人々の叫び声が耳に響いた…
血まみれとなった出久の周囲で人々は騒ぎ立てる…
当の出久は自分の死を恐れてはおらず…ゆっくりと目を閉じ…意識を闇へと沈めていった…
…
ビルから飛び降りた出久は、通行人が呼んだ救急車によって大きな病院に搬送された。
偶然にもその病院にリカバリーガールがいたため、彼女も出久の手術に立ち会ってくれたおかげもあり、出久は一命をとりとめた。
しかし、手術後の出久は昏睡状態となり…6日を過ぎても意識が戻らず…いつ目を覚ますのかはリカバリーガールでも分からなかった…
そんな現実世界の出来事とは裏腹に、出久は精神世界にて《奇跡的な出会い》をしていた。
精神世界(夢の中)にて、出久は別世界の人間《植木 耕助》と出会っていた。
現実世界で心がボロボロになっていた出久にとって、植木耕助は正に救世主そのものだった…
植木の言葉に…出久はどれだけ励まされたことか…心を救われたことか…
植木と出会ったことで…出久は『《本当の正義》とは何なのか?』を理解し心に刻み込んだ…
出久は自覚した…
植木耕助こそ…
自分の想い描き…憧れ…目指していた《ヒーローの姿》そのものであることを!
そんな本物のヒーローが持つ能力…【ゴミを木に変える能力】を見せてもらっていた出久だったが…
《木の能力》関連で咄嗟に、自分の夢と心を壊したヒーローの1人である《シンリンカムイ》を思い浮かべてしまい、咄嗟に忘れようとしていると…
「………」
「どうした?」
「うぇ!?ああいえその!!僕も植木さんと同じ力を使えたらいいのになぁって思いまして!…あはは…」
出久は誤魔化す筈が、つい植木へ本音を言ってしまった!
それに対して植木が返した言葉は…
「そうだなぁ…お前がビルから飛び降りる前に《ノートや教科書に色々書き残したこと》は誉められたことじゃねぇけどさ、それでもお前凄くいい奴だし、試したことねぇから分かんねぇけど、この【能力】ならお前に与えられるかもしれないぞ?」
植木の言葉に出久は耳を疑った!?
今さっき植木が見せた能力…【ゴミを木に変える能力】を自分へ与えられるかもしれないと言ってくれたのだ!
「ほっ…ほっ…ほほほほほほほほっホントですか!?」
「ああ、でも上手くいくかは分かんねぇぞ?それでもいいか?」
「か、構いません!どうか!よろしくお願いします!」
出久は興奮を抑えきれなかった!
別世界のヒーローである植木耕助と同じ【能力】が使えるようになれるかもしれない!
そう考えると感情を抑えられなかった!
万が一に植木から【能力】を受け取ることが出来なかったとしても…植木耕助という《本物のヒーロー》から《大切なこと》を沢山教えてもらった!
現実世界に戻って、これからも一生《無個性》として生きることになっても、植木耕助から教わった《本当の正義》が自分にはある!
…っと、出久が考え事をしている内に、植木は出久へ右手を翳し、掌から出た虹色の細い何本もの光は、出久の身体へ流れ込んでいった!
出久が自分の身に起きている現象を不思議に想って植木に質問したが、当の植木は《見よう見まね》でやってるらしく詳細は知らないようだった…
ある程度の虹色の光が出久の身体に注ぎ込まれた頃に、植木の掌から出ていた虹色の光が止まった…
「これでいい筈だけど…試してみろよ」
「は、はい!やってみます!」
出久は自分の頬に貼ってあるガーゼを剥がして右手で握り、頭の中で《木》をイメージすると…
「スゥー…ハァー…【ゴミを木に変える能力】!」
呼吸を整えて【能力】の名前を大声で言うと出久の右拳が黄緑色の光で輝き出した!!?
出久がそっと右手を開くと…
掌の黄緑色の光から【小さな木】が生えてきた!!!
出久は植木と同じ【能力】を授かることができたのだ!!!!!
「で…ででででで…出来たーーーーー!!!??」ウワアアアアアアアアア
「おお、本当に出来たみたいだなぁ。って…すげぇ量の涙だなぁ…噴水みてぇだ…」
出久は歓喜の余り、両目から大量の涙を吹き出した!
夢にまでみた超能力を使うことが出来た!
《無個性》だった自分が、ガーゼを【木】に変えたのだ!
言葉にすることの出来ない嬉しさに、出久は涙を止めることが出来なかった!
そんな出久へ植木はふと問いかけた。
「なあ、もしかしたら【神器】も使えるんじゃね?」
「…じ、【神器】ですか!!?」
感動によって溢れ出る噴水のような涙を何とか止めた出久は、植木の言葉に耳を傾けた。
【神器】…それは植木の世界において《天界人》のみが持つとされている《特別な武器》である…
しかし出久は《天界人》ではない…
「それは流石に無理だと思いますよ…」
「まぁ試しにやってみようぜ!もしかしたら【能力】と一緒に受け継いでるかもしれないじゃん!」
半ば強引ではあったが、植木にそこまで言われては出久にやらない選択肢はなかった。
植木が出久へ【神器】について要点をかいつまんで話し終えると、植木は近くの木から落ちてきた葉っぱをキャッチし右手で握りしめると…
「【鉄(くろがね)】!」
植木の右拳から【ゴミを木に変える能力】の時よりも強い黄緑色の光が放たれた!
その輝きに出久は両腕で目元を覆った!
そして光が収まり…出久が腕をどけると…
植木の右腕を巻き込んだ【木の根を支えにした巨大な大砲】があった!!!
「こ…こここっ…これが…【神器】!!!」
ドンッ!!!
【大砲】より発車された【木の砲丸】は、草原の遥か向こうまで飛んでいった!
出久は唖然として言葉を失った…
その威力は勿論、こんな凄い【武器】を使える植木への驚き、そして自分のこんな使うことが出来るかもしれないということに出久は驚きをかくせなかった!
「これが【一ツ星の神器】の【鉄】だ!じゃあ次はお前の番な!」
「はっ、はい!!」
出久は足元に落ちていた葉っぱを拾い、右手で握りしめると…
「【鉄(くろがね)】!」
【一ツ星の神器】の名前を叫んだ!
しかし…
(シーン)
何も起こらなかった…
出久の右手には…未だ葉っぱがあるだけだった…
「…も、もう一度!【鉄(くろがね)】!……【鉄】!………【鉄】!…………【鉄】!……………」
出久は諦めずに何度も何度も【神器】の名を口にした…
だが【神器】は現れなかった…
《天界人》ではない自分では【神器】まで受け継ぐことはなかった…
…やめようとしたその時…
「なぁ、お前のなりたいヒーローってなんなんだ?」
「……え?」
「さっきお前が言ってた1番強いヒーローの《オールライト》って奴みたいになりたいのか?」
植木からの問いに出久は考えさせられた…
自分が小さい頃からずっと憧れて目指していたのは…No.1ヒーローの《オールマイト》…
だがそのオールマイトも…所詮は爆豪達と同じく《無個性を差別する人間》だったのだ…
オールマイトに夢を否定され…
その後のヘドロヴィラン事件にいたヒーロー達には失望させられ、更には叱責された挙げ句に夢を壊された…
そして、出久を10年以上に渡り心身共に傷つけるだけでなく、自殺教唆まで言った爆豪勝己は強い個性《爆破》を持っているために…大人達から…ヒーロー達から…《未来のヒーロー》として期待されていた…
出久が生きていた世界は謂わば《弱肉強食》…
《個性を持たない人間》は《個性を持つ人間》に虐げられる世界…
あんな腐りきった世界において…出久はもう《ヒーローになりたい》とは思っていなかった…
だが目の前にいる《植木 耕助》は、出久の世界にいたヒーロー達とは違う!
植木の正義は、オールマイトやシンリンカムイ達とは比べ物にならない《本物の正義》を宿している!
植木は…無個性の出久を受け入れてくれた…
そして…大切なことを…《正義》とは何かを出久に教えてくれた…
それだけでなく、別世界の能力【ゴミを木に変える能力】を授けてくれた…
ヒーローの夢を諦めた…今の出久がなりたいもの…
それは!
「《植木さんのような正義を貫くカッコイイ人間》になりたいです!!!」
出久がそう言うと、出久の右拳からさっき(【能力】初使用時)とは比べ物にならない程の黄緑色の光が放たれた!
出久は自分の右手から放たれる光の眩しさに目を瞑ってしまった!
出久は右手に違和感を感じた…
いつの間にか自分が右手に何かを持っているように感じて、そっと目を開けると…
出久は右手で《木製のモップ》を握っていた…
「え?…これって…掃除用の…モップ?……大砲じゃなくて?……なんでモップが?」
出久は思考が追い付かなかった!
てっきり植木と同じく【巨大な大砲】が出てくるとばかり思っていた…しかし実際に自分の右手から出てきたのは…どう見ても掃除用具の《モップ》だった…
出久は震えた…
【ゴミを木に変える能力】という凄い能力を授けてもらえただけでも十分すぎるくらい嬉しいかった…
だというのに【神器】も授かったんじゃないかと勘違いしていまい、結果として出てきたのはただの《木製のモップ》だった…
糠喜びによるショックも去ることながら…植木の期待に裏切ってしまったショックによって…出久は落ち込んでしまった…
だが植木はというと…
「なんだ《そっちの能力》が使えるようになったのか」
「へっ?…そっち?」
「両手の掌を見てみろよ、緑髪!」
「え?はい。あと…緑谷です…植木さん…」
出久は持っていたモップを足元に置くて、自分の両掌を確認した。
出久の右手と左手の掌には、いつの間にか《丸い紋章》があり、それぞれ右手の掌には《何も書かれていない丸い紋章》、左手の掌には《漢字の掴(つかむ)という文字が書かれた丸い紋章》に浮かび上がっていた。
「う、植木さん!これはいったい!?」
「そいつは【職能力(ジョブのうりょく)】だ!」
「ジョブ…能力…?って何ですか?」
「おう!【職能力】ってのはな!…あ~…えっと~……そうだ!俺よりもアイツの方が説明するのは適任か」
「アイツ?」
「ちょっと待ってな」
植木は《自分が寄りかかって寝ていた木》に近づくと…
「おーい!ウール!起きろ~!」
「ウール?」
植木は木の上に向かって呼び掛けた。
「んあ?なんだ~…どうしたんだ植木?」
木の上から声が聞こえたと思ったら《小さな羊》が降りてきた。
「羊?」
「いや緑髪、コイツは《羊》じゃなくて《犬》だ」
「い…犬?いや植木さん…どう見ても僕には羊にしか…」
「緑髪の兄ちゃん…あっ植木も緑髪だから紛らわしいなぁ、え~っと…じゃあモジャ髪の兄ちゃん、植木の言う通りで俺は《犬》だ!名前は《ウール》!よろしくな!」
「えっと…僕は緑谷出久です、はじめましてウールさん」
出久は2足歩行で歩み寄ってきたウールと名乗る犬(?)と握手をしながら自己紹介をした。
「んで植木、なんでコイツは《ここ》にいるんだ?」
「あぁ…それがな」
状況が飲み込めないウールに、植木は出久のことを一通り説明をした。
「…って訳なんだよ、ウール」
植木さんが説明を終える頃、黙り込んでいたウールさんは…
「…うぅ…うう……ぐっ…うおぅ……」グズグズ
涙腺が崩壊したかのように泣いていた!
「お前……お前……本当に強ぇ奴なんだなぁモジャ髪。お前が最後に《今までの恨み辛みをノートに書き残したこと》は確かに誉められることじゃねぇけどよ……その爆豪やらオールマイトやらシンリンカムイっていう自分本意のクソ野郎共は《それ相応の報い》を受けたって何も可笑しくねぇさ!少なくとも俺はそう思うぜモジャ髪!そしてお前はそんな散々な人生を10年も耐えた…辛かったなぁ…頑張ったったんだなぁ…偉いぜモジャ髪……植木以外にもこんな良い奴がまだいたんだなぁ……植木の言う通り!お前はスゲェ強い奴だよ!モジャ髪!」
「あははは…ありがとうございますウールさん、あと…緑谷です…」
《出久が無個性として過ごしてきた日々》を聞いたウールは、号泣ながら出久に同情していた。
「うっし!じゃあ改めて【職能力】の説明だな!あと俺が知ってる限りの【ゴミを木に変える能力】の使い方を教えてやるよ!緑髪!」
「俺が教えられることは何でも教えてアシストしてやるぜ!いつお前が元の世界に帰っちまうか分からねぇからな!気合い入れろよ!モジャ髪!」
「植木さん…ウールさん………はい!!僕、頑張ります!!!………それと…僕は緑谷です…」
こうして出久は、精神世界で出会った《植木耕助》と《ウール》と共に【ゴミを木に変える能力】と【職能力】の特訓をしていくこととなった…
…
緑谷出久 side
あれからどれだけの時間が流れたんだろう?
100日…
200日…
300日…
400日…
500日…
600日…
僕にとっての楽しい時間はあっという間で…
ふと気付いてみれば1年なんかとっくに過ぎていて…
今日で《700日目》を迎えていた。
とはいっても、この空間には時間っていう概念が無いから、修行に疲れたら寝て起きたら《1日の経過》として僕達は過ごしている。
この空間は辺り一面《草原》しかない…
植木さんとウールさんと僕以外の生物は存在しない…
そして1年と11ヶ月近く経過しているにも関わらず、僕の髪や爪は成長しなければ…空腹にも無らず…トイレに行きたいとも思えない…なんとも不思議は場所だ…
その間に…僕は自分でも変わったと実感している。(主に癖が…)
特訓を始める前の僕は、考え事をする時にいつもの癖でブツブツと小言を言いながら考察していたけど、今は口元に右手を添えて目を瞑り無言で考えるようになった。
それにノートも書く物もないためか、いつの間にか脳内で記憶することが当たり前になっていた。
こんな場所に2年近くもずっといたならば、普通は《恐怖》や《不安》に押し潰されるのかも知れない…
でも僕は、この場所に《恐怖》も無ければ《不安》も無かった!
何故って?
植木さんとウールさんという《最高の原点(オリジン)》がいるからである!
今まで元いた世界で過ごしてきた《辛苦の10年》が何だったのかと思わせるほど、この空間での暮らしは《幸せ》だった!
あのビルから飛び降りた日…
この世界にやって来て植木さんと出会えた…
植木さんは、絶望の底に落ちていた僕の心を拾い上げて救ってくれた…
僕にとって植木さんは《恩師》であり…《本物のヒーロー》であり…僕を優しく照らし暖めてくれた《太陽》そのもの…
かっちゃんやオールマイト、シンリンカムイやデステゴロ達によって絶望という名の《闇》に覆われた僕の心に、希望という名の《光》を灯してくれた太陽なんだ!
そして何より、この場所に来てからの700日…
僕は植木さんから授けてもらえた【ゴミを木に変える能力】と【職能力(モップに掴を加える能力)】そして【天界力】という3つの能力を自分の物としてコントロール出来るようになった。
植木さんの強さにはまだまだ追い付けてないけど、それでも結構強くなることが出来た!
ただし、現状の僕が持つ【3つの能力】はまだ全ての能力を完全に解放できた訳じゃない…
今の僕は《【ゴミを木に変える能力】の【レベル2】》と《【天界力】の限界値(100%)》を使うことがまだ出来ていない…
700日近くも特訓してるのに、どうしても【ゴミを木に変える能力】の【レベル2の能力】は覚醒できず、【天界力】も《70%》までしか使いこなせていなく…70%以上の能力の解放は僕の身体が追い付かない…
1度だけ【天界力】を《100%》で使ってみたことはあったけど、その時の僕は自我を失って暴走してしまい…植木さんが止めてくれなかったらどうなっていたか自分でも分からない…
こんなにもお世話になって2人には返せない恩がある僕だっだけど、いつからか…ずっと悩み考えていたことをあり…
今日、植木とウールさんに聞くことにした…
「……あ…あの…植木さん!ウールさん!」
「ん?」
「なんだ?急に改まって?」
「こんなにも指導していただいて今更なんですが……良かったんですか?」
「なにが?」
「どういう意味だ?」
「その…僕にこんな凄い【能力(ちから)】を授けてもらった上に鍛えて強くしてもらえた。でも…僕が元の世界へ戻って…この【能力】を使って《今まで僕に酷いことをしてきた人達》や《僕の夢を否定したヒーロー達》へ僕が復讐をするんじゃないか…とか……」
「なんだそんなことか、俺はそんな心配してねぇぞ?」
「右に同じ!」
「…えっ?」
「だってお前、そんな《下らない私情》のために【能力】を使わないだろ?」
「モジャ髪!お前は爆豪って奴みてぇな器の小せぇ男じゃねぇ!お前は《器のデケェ男》だ!そんなお前が復讐なんて《つまらないこと》しないって俺は信じてる!だから俺はお前に力を貸したんだ!」
「ッ!!!」
植木さんとウールさんは当然のように僕の悩みに答えてくれた!
「お前はその【能力】をどう使うべきなのかは、お前が一番分かってる筈だろ?だから俺達が心配することはなんにもねぇよ!」
「…植木さん…」
…やっぱり…
…植木さんは…僕にとって《最高のヒーロー》だ!!!
出来ることなら……このまま元の世界に帰らずに…植木さんとウールさんと一緒に居たい…
何年でも…何十年でも…何百年でも…
そう思っている自分がいた…
でも……それは叶わないみたいだ……
「にしても本格的に《透けて》きちまったなぁ緑髪」
「触ればそこに実態はあるのになぁ」
「はい…自分の身体が少しずつ《薄まってる》って…なんか変な感じですね…」
そう……《それ》について気がついたのは数日程前……なんの前触れもなく訪れた……
僕の身体が少しずつ消えかけていたんだ…
数日程前に眠りから覚めた僕が、青空へ手を翳(かざ)した時…僕の手が透けて青空が見えた!
最初は見間違いだと思ったけど、次の日に同じことをしてハッキリした!
僕が消えかかっていることに!
僕はそれを植木さんとウールさんに伝えると…
『それってぇと、お前が元の世界へ戻れるってことじゃねぇか?』
植木さんは颯爽と答えてくれた。
『お前がここに来てからもうすぐ700日程……つまりモジャ髪の世界じゃ《1週間》しか経ってないっつーことなのか…』
ウールさんは何を思ったのか、難しい顔をして考え事をしていた。
植木さんの言うことが正しいとするなら…『僕は《元(もと)いた世界へ帰れる》…それは確かに嬉しいことだ…お母さんやお父さんの元へ帰れる!奉仕活動で知り合った人達とも会える!きっと皆心配しているだろうなぁ』…と僕は元いた世界へ戻れることに嬉しさはあった!
……そう…嬉しいんだけど…それは同時に…『僕を無個性という理由で否定してきた《かっちゃん》や《同級生達》、《先生達》や《ヒーロー達》…そして《オールマイト》がいるあの世界へと戻ることになる』…という《不安》が僕の中にあった…
第一に僕が死んでおらず生きているなら、僕が自殺を図ったことで向こうの世界では何かしらの騒ぎになっているに違いない…
僕がビルから飛び降りる前にノートや教科書の余白に書き残した《かっちゃんやオールマイト達から僕が受けた悲痛の数々》…
それをもし警察が調べ、その後マスコミやメディアなどに知られているのなら、かっちゃんやオールマイト達が社会的に叩かれてる可能性は十分に察しがつく…
あの世界での無個性の待遇は本当に酷いけど、《かっちゃん達の無個性に対するイジメ》や《オールマイトやシンリンカムイ達の無個性差別の発言》はきっと大事(おおごと)になっていることだろう…
もしそうなっているのなら、僕が元の世界に戻ってきた(目を覚ました)と知った《かっちゃん》を初め《オールマイト》や多くの人達から…怒りと妬みを言葉を散々に言われるのは確実…
『テメェ!クソデク!下らねぇことしやがって!俺の人生設計に要らぬ支障が出ちまったじゃねぇか!あ”あ”ん!!?どうせ死ぬなら誰にも気づかれずに海やら森で1人寂しく死ねやクソが!!!無個性の分際で一丁前に遺書なんざ書き残しやがって!!!フザけんのもいい加減にしろやクソナード野郎が!!!!!』
と…かっちゃんに言われ…
『緑谷少年…何故キミは《あんなもの》を書いたんだ………キミのせいで…私のNo.1ヒーローとしての信用はガタ落ちだ…。私はキミのための思ったからこそ《あの言葉》をキミに言ったというのに…キミは私の思いを理解してくれなかったとは………私は非常に残念でならないよ…』
と…オールマイトに言われ…
『緑谷君!キミは自分が何をしたのか分かっているのか!!?世の中には《やっていいこと》と《やってはいけないこと》があるんだ!キミが自殺を図る前に書き残したのはあの《メッセージ》は、我々ヒーローの存続に大きく左右する事態となっているんだぞ!!?』
『お前のせいであれから俺達は散々だ!マスコミやメディア、応援してくれたファンから毎日叩かれるのがどんなに辛くて大変か分かるか!!?どう落とし前をつけてくれんだ!?キミの行動1つで大勢の人間が迷惑しているだぞ!!そんなことも考えられないのか!?もう一度断言して言ってやる!他人を思いやれないキミにヒーローになる資格はない!!!』
と…シンリンカムイやデステゴロに絶対言われるんだろうなぁ…
「(ハァ…なんだろう…折角生き返れるかもしれないのに…心のどこかで帰りたくないと思っている自分がいる…)」
僕が現実世界に戻れたとして起きる最悪の出来事を予想していると…
「ま~た、暗いことで悩んでるな~緑髪」
「えっ!?あ、あの!?なんで分かって!?」
「なんでって?お前が暗い顔で考え事してるから、そうなのかなって思ってさ」
「モジャ髪、お前が散々な人生を送ってきたのは知ってるけどよぉ、帰った方がいいぜ。お前の帰りを待っている人だっているんだからさ」
植木さんとウールさんには…僕の考えはお見通しのようだ…
お母さん……きっと僕のせいで無理してるんだろうなぁ…
《母》のことを強く思ったその時だった!
「っ!!?こ!これは!?」
僕の身体から小さな光る粒子が出てきた!
それによって僕の身体が本格的に消えていくようだった!
ついに…お別れの時が来てしまったみたいだ…
最後くらい笑顔で別れようと…僕は涙をこらえた!
「また…会えますよね…植木さん…ウールさん」
「さぁな?」
「わかんねぇ?」
「ええ!?そこは『そうだな』って言ってくれるところなんじゃ!!?」
「ん~それは俺にも分かんねぇからなぁ?…まぁ何はともあれ!元気でな!緑髪!」
「モジャ髪!人生なんざ辛いことや理不尽ばっかだけど、強く生きろよ!お前なら必ず乗り越えられるさ!なんたって俺と植木の弟子なんだからな!」
「あの…ですから僕は緑谷ですよぉ…というか…ずーっと言いたかったんですが…植木さんの髪だって緑色で…ウールさんだってモジャモジャの毛並みじゃないですか…」
「おん?あっ!そういえばそうだったな!」
「何言ってんだ、俺はそんなモジャモジャじゃあ……モジャモジャだったわ…」
「えっ!!?自覚してなかったんですか!?」
植木さんは《自分の髪の毛の色》を、ウールさんは《自分の毛並み》を把握してなかったようだ…
「あとさ?名前なんだっけ?」
「すまねぇ、俺もお前の名前はちゃんと覚えてねぇや」
「えええっ!!?そこからですか!!?出久(いずく)!緑谷 出久(みどりや いずく)ですよぉ!!!」
「ワリィワリィ、緑谷 出久だな!よし覚えたぞ!!」
「出久だな!いい名前だぜ!」
「いや…今更覚えられても………ぷっ!あっはははは!」
植木さんとウールさんは…僕に沢山のものをくれた…【能力】は勿論だけど、それ以上に大切なものを…僕は植木さんからもらった…
砕け散った《心》を!
新しい《夢》を!
本物の《正義》とはなんなのかを!
そして…僕に《笑顔》を!
その全てを与えてくれた!
僕とっての…《最高の原点(オリジン)》!
だから別れる前に…どうしても植木さんに聞いておきたいことがあった!
オールマイトに言ったあの質問を…
「植木さん…」
「んあ?」
「僕にも…なれますか…?」
「なにに?」
「僕も…植木さんみたいな!正義を貫く人間になれますか!?」
僕は恐る恐る植木さんに聞いてみた!
オールマイトと時と少し違えど…内容は同じだ!
植木さんはオールマイトとは違う!
でも…もし…万が一にも…
植木さんにも否定させたら…
僕は…
「俺みたいな人間になることはねぇよ」
「えっ…?」
「お前がどんな道に進むにしろ、最後に決めるのは出久、お前自身だ!だから俺もウールもお前が正しいと決めた未来を歩むことを応援するよ!なっ!ウール!」
「当然!お前の決める未来が正しいってことを俺も信じてるぜ!出久!」
「!!!………はい!」
植木さんとウールさんは満面の笑みで、僕が一番欲しい言葉を言ってくれた!
その言葉だけで僕の胸は一杯になった!!
僕の気持ちを理解して…一方的な理想を押し付けたりはせず…
僕の背中を優しくソッと押して…僕が進む未来を応援してくれる…
それがどんなに嬉しいことか…
僕の世界にいた人達がくれなかった《言葉》を…植木さんとウールさんはこの上無いほど沢山僕にくれた…
この2人に出会えて本当に良かった…
僕は心の底からそう思った…
気がつくと…いつの間にか僕の身体は足から徐々に消えつつあった…
「植木さん…ウールさん…本当に…ありが」
「これはコバセンと犬のおっさんが言ってた言葉なんだけど…こういう時に言うべきだと思うから言っておくよ」
「?」
「出久……お前はお前の道を歩け!お前の人生だ!」
「っ!!!!!????………植木さん…あなたは……僕の《最高のヒーロー》です!……ありがとう…植木…耕助さん……ウールさん…」
僕が植木さん達へ感謝の言葉を述べると…僕は光る粒子と共に…植木さんとウールさんの前から消えた…
「行っちまったな…アイツ…寂しくなるぜ…」
「なぁに、また会えるさ…」
…
植木とウールと別れた出久は…無事に元の世界へと戻り…母親との再開を果たした…
そんな出久は元の世界に戻れたなら、必ずやらなければならないことが《1つ》あった…
それは《爆豪やオールマイト達への謝罪》である…
当然ながら出久は、彼らから受けた屈辱の数々を許す気など毛頭無かった…
それでも出久は《新たな目標》のため、過去の自分が犯した罪と向き合うことにした。
自分がビルから飛び降りる前に残したメッセージを世間が知ったならば、爆豪やオールマイト達も各々で辛い経験をしたと思い込み、出久は出久なりに彼らを苦しめてしまったことについては謝罪をしようと決めていた。
それは出久の本心であり、その際に彼らからどんな罵詈雑言を言われたとしても、それを全て受けて誠心誠意で謝罪する。
そうすることによって、出久は新たな目標へのスタートラインに着けるのだと確信していた。
だが……超人社会というのは…何処までも無個性を拒絶した…
個性によって成り立つこの超人社会は…出久のそんな純粋な決意をも踏みにじったのだ…
…
●ヘドロヴィラン事件から1年と7ヶ月後…
緑谷出久と緑谷引子は、静岡県の折寺町を離れて本州から遥か南にある孤島に移住し穏やかに暮らしていた。
去年の春、色々あった緑谷一家は《ヒーローもヴィランもいない場所》に引っ越すことを決意した。
その際に《あるヒーロー高校の校長》が協力してくれたこともあって《ヴィランがおらずヒーローが1人しか在中していない場所》である島…《那歩島》へと引っ越し、それからは何事もなく平穏に過ごしている。
因みに事情を知った出久の父親は、妻と息子が遠い南の島へ移住する件については異を唱えることはしなかったという。
そんな南の島で平和に暮らしている出久は、本日学校が休みなのもあり、隣の家に住んでいる幼い姉弟と散歩をしがてら島の売店へと出掛けていた。
「去年も思ったけど、11月になってもこの島は真夏みたいに暑いなぁ」
出久はそんなこと言いながら、売店でアイスを3つ買うと、売店の外にある椅子で待たせている姉弟の元へと急いだ。
「2人ともお待たせ~アイス買ってきたよ~」
出久は売店の入口そばにある椅子に座っている姉弟に声をかけた。
「遅い!!遅すぎる!!!」
「お…お姉ちゃん…」
出久が来るや否や姉弟の姉の方は出久に向かって怒鳴り、弟は姉の態度に慌てていた。
「え?そんなに遅くなっちゃった?」
「遅いわよ!なんでアイスを買ってきてくれるだけで3分以上もかかるわけ!?」
女の子は持っていたスマホの画面に映る《3分を過ぎたタイマー表示》を見せながら出久を叱った。
「あぁ~えっと~急いだつもりだったんだけど、待たせちゃったならゴメンね真幌ちゃん」
「フンッ!今度はもっと速く買えるようにしてよね出久」
「は…はい…」
「お…お姉ちゃん、落ち着いて」
不機嫌になる姉の《島乃 真幌》を、弟の《島乃 活真》が宥めていた。
そのまま3人はアイスを食べながら歩き出した。
家に帰る途中、真幌はふと出久に話しかけた。
「そう言えば出久、あの話は聞いた?」
「あの話って?」
「この島にいるヒーローのお爺ちゃんがヒーローを辞めちゃうみたいだよ、出久兄ちゃん」
「それで別のヒーローが来てくれるまで、どっかのヒーロー高校の学生がこの島に来るって話よ、知らないの?」
「そうなんだ、全然知らなかったよ~」
3人は他愛のない話をしながら、それぞれの家までの道のりを歩いていった。
出久はこの島での生活を通して《幸せ》というものを噛みしめていた。
それは《精神世界で植木とウールと共に過ごした時間》と同じくらいの《幸せ》である。
折寺町にいた頃の出久は、幼少の頃から散々な辛い日々を送りながら過ごしていた…
だがこの島に来てからは、折寺町では日常茶飯事であった《同級生からのイジメ》も《教師からの差別》も一切なくなり、出久は本当の意味で《青春》というものを理解できた。
出久個人としては、折寺町から離れたことについての未練はほぼ無く、唯一折寺町に未練があるとするのなら、無個性だった出久でも慕って仲良くしてくれた《奉仕活動の人達》や《爆豪夫妻》などに何の挨拶も出来ずに折寺町を去ったことである。
それだけ出久にとっては《折寺町での生活》と《那歩島での生活》の環境の変化が大きかったのだ。
出久はやっと…《幸せな生活》を手に入れることが出来た…
この幸せが続いてくれると…出久は疑わなかった…
しかし…
この時は出久はまだ知るよしもなかった…
1か月後…
こんなにも平穏な島が…
《惨劇の舞台》になろうとは…
まだ誰も知らなかった…
緑谷一家がどうして那歩島へ引っ越したのかは、次の話(20万UA記念の番外編2話)で判明いたします。
舞台が那歩島となれば、大半の人々はお察しになれるかと思います…
今回の話の終盤に記された《惨劇》が何を意味しているのかを…
そして今回の番外編の出久君は植木君から【ゴミを木に変える能力】と【天界力】は授かることは出来ましたが【神器】を受けとれませんでした。
ですが、その代わりに《うえきの法則+》にて植木君が使った【職能力】を授かれました。
9月までには《20万UA記念の番外編(全5話の予定)》を完結できるようにしつつ、合間を縫って本編の次の話(26話~)も投稿できるよう努力させていただきます。