緑谷出久の法則   作:神G

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【20万UA突破記念作】5作目!

 今回の話は、全て《蛙吹 梅雨》の《雄英高校に入学してから8月までの回想シーン》となります。

 前回(スローライフの法則2話、3話)は《一般人(緑谷 出久)の視点》で、主人公がいない雄英高校の4月から11月までの出来事をお送りしました。
 なので今回(スローライフの法則5話、6話)は《雄英生(蛙吹 梅雨)の視点》で、緑谷出久がいない雄英高校での4月から11月までの辛苦の日々を書き上げました。

 回想シーンが思っていたよりも長くなってしまったため、次の話(スローライフの法則6話)の半分以上も《蛙吹 梅雨の回想シーン(9月~那歩島到着まで)》となっております。
 




 実を言いますと、今回(スローライフの法則5話、6話)の回想シーンにつきましては、最初はインターン組の3人(蛙吹 梅雨、麗日 お茶子、切島 鋭児郎)にそれぞれ《4月から11月までの回想》を交互に思い浮かべる予定で製作していたのですが、製作の途中で『1人の回想シーンにした方が良い』と考え直した結果、蛙吹 梅雨1人の回想シーンへと書き直しました。





 ここまで書き上げたた私が言うのも何ですが、出久君が雄英高校に入学していないだけで、この番外編のヒロアカ世界が《こんなにも酷い状況》になってしまうのは、流石にオーバーだったかなと考えています…


【番外編】スローライフの法則(5)

●那歩島…

 

蛙吹梅雨 side

 

 浜辺でヒーロー活動をしていた私は、体調管理を怠ったせいで熱中症となり倒れてしまった…

 

 そんな私を心配した同級生の1年B組の《取蔭 切奈》ちゃんから、事務所に戻って休むように提案された私は今、自転車を押しながら事務所《いおぎ荘》へと歩いて向かっているわ。

 

 1人で事務所に帰る最中、私は雄英高校に入学した《4月》からこの島に来るまでの《11月》までの《8ヶ月間の出来事》を思い返していた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今年の4月、憧れの雄英高校ヒーロー科に入学できた私は《ヒーローになるための勉学に励みながらも友達を作って楽しい高校生活を送りながらプロヒーローを目指していける》…と思い込んでいた…

 

 中学までとはレベルが違って一般の勉学もヒーローの勉強も大変だけど、それでもすぐ新しい友達を作ることが出来たわ。

 

 クラスメイト女子5人とはすぐに仲良くなれて、その中でも一番のお友達は出席番号6番の《麗日 お茶子》ちゃんね。

 

 昼休みや昼食の時とか何かと一緒にいることが多くなった大切なお友達…

 

 でも…そのお茶子ちゃんは…皆の前でこそ明るく振る舞ってはいるけど…

 内心は…とても苦しんで泣いているのよ…

 

 

 

 なぜって?

 

 

 

 それは…

 

「赤谷ちゃん…いつになったら貴方は目を覚ましてくれるの?もう…お茶子ちゃん…限界なのよ?…お願い…どうか1日でも早く…意識を取り戻してちょうだい…」

 

 私は今年の4月…ヒーロー科に入学して1週間も経たない内に、雄英高校を去っていった《2人の男子生徒》の内の1人を思い浮かべながら、虚空に向かって言葉を口にしたわ…

 

 お茶子ちゃんが心の中で泣いている理由…

 

 それは4月にあったオールマイトの最初の授業として行われた《屋内対人戦闘訓練》で起きた悲劇が原因なのよ…

 

 その悲劇の一部を始終モニター室で全て見ていた私達もそれを理解しているわ…

 

 お茶子ちゃんは、ペアの赤谷ちゃんが《あんな重体》になった原因は自分のせいだと思い込んでいるのよ…

 赤谷ちゃんがあんなことになった原因は、赤谷ちゃんを執拗に痛め付けた上に爆破の威力を誤って建物を壊した《爆豪ちゃん》と、訓練を途中で止めなかった《オールマイト》の責任の筈なのに、お茶子ちゃんは自分を責め続けているわ…

 

 あの日のヒーロー授業、最初に選ばれたのは《お茶子ちゃんと赤谷ちゃん》がヒーローサイドで、《飯田ちゃんと爆豪ちゃん》がヴィランサイドの組み合わせで訓練が開始されたの…

 

 訓練が開始されて、お茶子ちゃんと赤谷ちゃんは慎重に建物の中を進んでいたわ。

 そんな2人へ爆豪ちゃんが容赦なく攻撃をしてきたの、戦闘訓練だから多少の怪我をすることはしかたない事なのかも知れないけど…爆豪ちゃんは度が過ぎてた。

 爆豪ちゃんは訓練であることなんて関係なしに2人へ爆破を連発していたの、特に赤谷ちゃんに対しては何故か異常なまでの殺意を持っているように私には見えたわ。

 2人は爆豪ちゃんの攻撃をかわしながら上の階に向かおうとしてたけど爆豪ちゃんの爆破で2人は分断され、赤谷ちゃんを何度も庇いながら逃げていたお茶子ちゃんに対しては爆豪ちゃんは両手の爆破を食らわせようとしたの…

 

 モニター室で見ていた私やクラスメイトの皆も『危ない!』と思ったその時!

 

 

 

 突然《爆豪ちゃんと赤谷ちゃんが入れ替わった》のよ!

 

 

 

 そして、爆豪ちゃんは建物に向かって両手の爆破攻撃をした。

 モニター越しで音声は聞こえなかったから赤谷ちゃん達の会話は聞き取れず、後から知ったことなんだけど、赤谷ちゃんはお茶子ちゃんへ核の回収をお願いして、爆豪ちゃんの相手を自分に任せてほしいと、お茶子ちゃんに言ったらしいわ。

 

 赤谷ちゃんの個性は【位置変換】、【自分の位置と相手の位置を逆の位置に変える個性】だって本人から聞いたわ。

 個性の発動条件は詳しく教えてもらえなかったけど、かなり発動条件が難しいみたいで、現状によっては連続で使うことは出来ず、それが出来るようになるために雄英高校のヒーロー科に頑張って合格したって赤谷ちゃんは話してくれたわ。

 

 私がモニタールームにいるクラスメイトの皆へ、知っている限りの赤谷ちゃんの個性を説明すると皆驚いていたわ。

 使い方によっては《戦闘面》よりも《救助作業》にて大活躍できる個性ですもの。

 授業が終わったら皆も赤谷ちゃんと仲良くなりたいって言ってたわ。

 

 

 

 でも…

 

 私達が赤谷ちゃんの個性を見たのはその一度きりになった…

 

 

 

 モニターに視線を戻すと…お茶子ちゃんが階段を上っていってすぐ…《赤谷ちゃんが爆豪ちゃんからの一方的な暴力を受けていた》のよ!

 

 爆豪ちゃんは最初から真面目に訓練をする気なんてなく《赤谷ちゃんを痛ぶること》しか考えていなかったのは明白だったわ!

 

 いくら戦闘訓練とはいえ、爆豪ちゃんの愚行を見過ごせなかった私やクラスメイト達は、オールマイト先生に訓練を中止するように懇願したけど、オールマイト先生は何故か中止にしようとしなかったの!

 

 

 

 そしてそれが…《最悪の悲劇》を起こす結果になってしまった…

 

 

 

 別のモニター画面に映る《飯田ちゃんのヴィラン役の仕草》なんて全く気にならず、私達はただ赤谷ちゃんが傷ついていくのを見ていることしか出来なかった…

 それでいて爆豪ちゃんは赤谷ちゃんを痛め付けながら、何故か生き生きとして《狂喜の笑み》を浮かべていた。

 ヴィラン役とはいえ、それは演技なのかと思った矢先…

 

 爆豪ちゃんは腕の手榴弾の形をしたサポートアイテムのピンを引っこ抜いたわ…

 それを見た途端、オールマイトは血相を変えて爆豪ちゃんに攻撃を止めるよう指示を出したけど、爆豪ちゃんはそれを聞かず、次の瞬間モニターが閃光に包まれて大きな爆発音が響き渡った!

 

 いったい何が起きたのかと状況を知ろうとモニターを見たら、モニターに映る建物の壁に亀裂が入り始めて崩れだしたの!

 

 それから数秒も経たない内にさっきの爆発音とは比べ物にならない轟音と一緒に地下のモニタールームが激しく揺れたわ!

 

 幸いなことに私達がいたモニタールームは頑丈に製作されていたおかげて、私達は怪我をせずに済んだわ…

 でも…この建物の倒壊にお茶子ちゃん達が巻き込まれてしまったと気づいた瞬間、私は血の気が引いたわ!

 建物の倒壊によって、モニタールームのモニターが全て壊れていて外の状況が分からなかった…

 

 そんな最中、オールマイト先生は倒壊によって変形し壊れた扉を無理矢理抉じ開けて出ていったわ。

 

 

 

 当然ながら授業は中止となり、騒ぎを聞き付けた先生達が沢山集まってきて、地下にいた私達16人はお茶子ちゃん達の安否を教えてもらえないまま教室に戻されたの…

 

 お茶子ちゃん達が心配で…私は本当に生きた心地がしなかった…

 他のクラスメイトの皆も同じく気が気じゃない様子だったわ…

 

 教室に戻ってどれくらいの時間が経ったのか…

 

 教室の扉が開いて相澤先生と一緒に《お茶子ちゃん》と《飯田ちゃん》が入ってきた!

 

 2人が無事であったことが分かった瞬間、席に座りながらも私は腰が抜けちゃったわ…

 

 私は『2人共、無事で良かったわ!』と言いたかったんだけど…教室に入ってきた3人の深刻そうな表情に…その言葉は飲み込んだわ…

 

 そして彼らが深刻そうな表情をしていると言うことは、この場にいない《2人のクラスメイト》に何か良からぬことが起きてしまったことを意味している…

 

 聞くのはとても怖かったけど…私は恐る恐るに手を上げて相澤先生に質問したの…

 

『ごめんなさい先生…赤谷ちゃんと爆豪ちゃんはどうなったんですか?』

 

 私の質問に教室は沈黙のままだったわ…

 

 その静寂を破って相澤先生は難しい顔をしながら、私の質問に答えてくれたの…

 

『…まず爆豪の方から説明する。あの馬鹿は自分が倒壊させた建物の瓦礫に左腕と右足を挟まれていた重症で発見され、現在はセントラル病院で緊急手術を受けてはいる。場合によっては左腕と右足は根元から切断する必要があるかもしれない容体とのことだ…。まぁ自業自得だな…』

 

 相澤は愚痴を含めながら《爆豪ちゃんの容体》から教えてくれた…

 

 でも本番は次…相澤先生は一呼吸つけて《赤谷ちゃんの容体》を話し出したの…

 

『そして赤谷についてだが…誤魔化したところでいずれは知ることだからハッキリ言わせてもらう………赤谷の命が助かる可能性は…リカバリーガールいわく《五分五分》だそうだ…』

 

 相澤先生は赤谷ちゃんの詳しい容体は話してくれなかったけど…その言葉を聞いただけで私は気が動転していったわ…

 

 

 

 数時間前まで普通にお喋りをした男の子が…今《生死の狭間》をさまよっている…

 

 それに名医のリカバリーガールが《五分五分》なんて言葉を使うなんて…

 

 私は最初…受け入れることが出来なかったわ…

 

 相澤先生は、他にも《爆豪ちゃんとオールマイトの処罰》について何か言っていたけど…

 

 私はそれを聞き取ることは出来ずに呆然となってしまったわ…

 

 

 

 気がつけば皆も帰り支度をしており、私の肩を叩いて起こしてくれた三奈ちゃんの話だと《今日の出来事は口外してはならないこと》と《私達はそのまま早めの下校になったこと》を教えてくれた。

 お茶子ちゃんと飯田ちゃんは大事をとって、赤谷ちゃんと爆豪ちゃんが搬送されたセントラル病院とは違う、雄英高校の近くにある病院に一泊することになったらしいわ…

 

 

 

 私はその日…就寝まで自分が覚えている範囲での《赤谷ちゃんのこと》を思い出していたわ…

 

 初めて彼(赤谷 海雲)を見た時の第一印象は…ハッキリ言って《暗い雰囲気の地味な男の子》だった…

 

 でもそんな彼にお茶子ちゃんは積極的に話し掛けてたの…

 事情を聞いてみると、お茶子ちゃんは入試の実地試験の最中に足が瓦礫に挟まって動けなくなっているところに0ポイント敵が現れたため、受験者の皆が我先にと逃げていった。

 でも、その時に赤谷ちゃんだけはお茶子ちゃんを助けるために戻ってきてくれたみたいなの。

 

 もしかしたらお茶子ちゃんは…その時から《赤谷ちゃんに惚れていた》のかも知れないわね…

 

 出会ってまだ数日しか経っていなかったのもあって、私も赤谷ちゃんとお喋りをした時間はとても短かったけど…赤谷ちゃんが《優しい男の子》だってことはすぐに分かったわ…

 

 そんな彼が今どんな状況なのか…考えるだけで私は心臓が締め付けられる思いだった…

 

 

 

 次の日、私は昨日に続いて憂鬱な気持ちになりながらも雄英高校に登校した…

 

 昨日の一件については、やっぱり学校内でも噂になっていたようで他の科の同級生や上級生達から私達1年A組は奇異な目で見られたわ…

 

 そんな学校内からの視線に耐えながら私達(18人)は朝のホームルームを迎えたの…

 

 クラスの皆がソワソワしていたわ…爆豪ちゃんの怪我は自業自得にしろ、赤谷ちゃんの安否が心配だったのよ…

 

 特にあの時近くにいたお茶子ちゃんと飯田ちゃんは1番責任を感じている様子だったわ…

 

 建物が倒壊した時、2人は上の階にいたことが功を奏して、幸いにも大怪我はせずに《軽い捻挫》程度のケガで済んだ……でもその代わりに赤谷ちゃんが重体になったんだから、昨日今日では気持ちの整理がつかないに決まってる…

 

 私が2人の心情を考えていると、相澤先生が教室に入ってきて早々に《私達が知りたい情報》を臆面もなく話してくれたわ…

 

『おはよう…早速だがキミ達が知りたいであろう情報を先に話すとしよう…』

 

 まだ1週間も経ってないけど、相澤先生がこういう先生だってことを私達は受け入れているわ…

 

『話す情報は3つ、《爆豪 勝己》《オールマイト》そして《赤谷 海雲》の件だ…』

 

 私は正直、赤谷ちゃんの話だけでも良かったんだけど、相澤先生は《爆豪ちゃん》の話から始めたわ。

 

『まず《爆豪》だが…結論から言おう…爆豪勝己は昨日をもって雄英高校を《除籍処分》となった…。理由は聞かなくても分かるな?』

 

 話の冒頭から《爆豪ちゃんの除籍》についてだったけど、これに関しては皆『やっぱりか…』って納得した顔をしていたわ…

 いくら成績が優秀で個性が強くても、あんな悪行をしたなら許される訳がない…

 

『続けるぞ、爆豪の左腕と右足についてだが手術は成功し、後遺症は残るようだが腕と足は切断せずに済んだそうだ…。まだ意識は戻ってないようだが、麻酔が切れれば今日中には目を覚ますだろうとリカバリーガールは言っていた…』

 

 普通、瓦礫に手足を挟まれたら大抵の場合は切断することになるって聞いたことがあるけど、日本一の最先端最高峰の治療をしてくれるセントラル病院の医師達のおかげで、爆豪ちゃんは手足を失わずに済んだみたいね…

 

『次に《オールマイト》だが、これから話すことはお前達にとってとても大事な話だ…心して聞くように…』

 

 相澤先生は《オールマイト》の話を始める前に、私達に対して鋭い眼光を向けてきた!

 あの時は分からなかったけど、今思えば相澤先生のあの目は…《先生》としての目じゃなくて…《プロヒーロー》としての目だったんだわ…

 

『まず最初にお前達に伝えることは、昨日の屋内対人戦闘訓練の授業を担当した教師が《オールマイト》であることは、ヒーロー公安委員会からの命令で今後も口外してはならず箝口令が引かれた…』

 

 相澤先生から告げられた《公安委員会からの身勝手な命令内容》に私は納得することが出来なかった!?

 

 1生徒の身分でこんなことを言うのはなんだけど、あの時のオールマイト先生の選択は『間違っていた』と断言できるわ!

 

 オールマイトがあの時、訓練を中止にしてくれれば《あんな悲劇》は起こらずに済んだ…

 

 《オールマイトへの尊敬》が崩れていったのは、きっと私だけじゃない筈…

 

 《No.1ヒーロー》だろうと《新米教師》だろうとそんなものは関係ない!

 

 あの《悲劇》を起こした原因の1人は《オールマイト》なのよ!

 

 なのにヒーロー公安委員会は、問題を起こしたオールマイトを庇うようにとの命令を私達に下してきた!

 

 当然そんな横暴なんて認められる訳がなく、私を含めクラスの皆が騒ぎ出したわ!

 

『話は最後まで聞け!(ギロッ!)』

 

 でも相澤先生がさっきよりも強い眼光で睨んできて、私達の口を無理矢理閉じさせてきたわ…

 

『よし……まぁ納得できないのも当然だろうが…キミ達もこれからヒーローを目指していくと言うなら…こういった《大人の事情》は受け入れるようにしてくれ…。俺も根津校長も、そしてオールマイトも公安委員会からの箝口令については納得なんてしちゃあいないが、上が決めた命令に俺達は意見するなんざ限界があるんだ…。今回の一件が《オールマイトの失態》だと世間に知られようものなら、日本のヴィラン発生率が《6%》から急激に上がる可能性を示唆したためでもあるらしい…。公安委員会いわく『No.1ヒーローは信用が第一』なんだとよ…。まぁそれはそれとして、雄英はオールマイトに対して相応の厳罰を与えることを決定したがな…』

 

 相澤先生は言葉の最後を皮肉げに語ったわ…

 

 相澤先生から聞かされた公安委員会の意見は分からなくはないけど…

 

 それでも私は納得できなかった…

 

 だって…これじゃあ余りにも赤谷ちゃんが可哀想だもの…

 

 そんな私の気持ちを察してなのか、相澤先生は最後の《赤谷ちゃん》の話を語り出したわ。

 

『最後に《赤谷》だが、アイツの方も手術は成功したようで、現在は集中治療室にいるとのことだ…』

 

 赤谷ちゃんが助かったことに、クラスメイト全員が歓声を上げた!

 

 私も赤谷ちゃんが《命を繋いだ》と知れた途端、身体の力が抜けて動けなかったもの…

 

 生きててよかった!また赤谷ちゃんと一緒に授業を受けることが出来る!そう思えたら本当に嬉しかったの!

 

 そして私以上に、クラスの中でも特に彼の無事を喜んでいたのは《お茶子ちゃん》と《飯田ちゃん》で、2人は涙を止めどなく流し喜びを露(あらわ)にしていたわ。

 

 

 

 でも…喜ぶのはまだ早かったわ…

 

 

 

『おい…話は最後まで聞け!…赤谷の手術は成功した……が…アイツの容体は決して芳(かんば)しくはない…。《爆豪から受けた暴行と火傷による大怪我》と《瓦礫に挟まれたことによるショック症状》によって瀕死の重症だったアイツは、手術こそ成功したが意識が戻る可能性は最新の医療を持っても低いとのことだ…』

 

 赤谷ちゃんが助かったことを喜ぶのも束の間…無情にも伝えられた赤谷ちゃんの深刻な容体に…私達の喜びの感情はアッサリ消えていったわ…

 

 《上げて落とす》っていうのはこの事ね…

 

 いえ…相澤先生の話をちゃんと最後まで聞いていなかった私達が、勝手に《糠喜び》しただけだけど…

 

 お茶子ちゃんと飯田ちゃんは喜びから一変して…また絶望の表情に戻ってしまったわ…

 

『赤谷は今後もセントラル病院で長期に渡り治療を受けるために入院となった。そして今日、雄英高校に《赤谷の両親》が来ることになっている…。んでお前ら、唐突だが赤谷から聞いていないか?あいつの両親が何の仕事をしているのかを?』

 

 相澤先生は私達にそう聞いてきたけど、クラスの誰もその問いに答えられなかったわ。

 

 まだ入学式(個性テスト)から1週間も経ってない上、赤谷ちゃんは元々無口な男の子だったから、1番彼と話をしていたお茶子ちゃんが知らないとなれば、それは誰にも分からないことだもの。

 

『俺達教師は入学式の前に担当する生徒の両親の職種を一応把握している…。そして赤谷の両親の職種だが…最初に知った時は俺も仰天したよ…』

 

 あの相澤先生をここまで言わせるなんて…《赤谷の両親》っていったい何者?

 

 もしかして《トップ10に近いランキングのヒーロー》なのではと私は想定していたけど、それは間違いだったわ…

 

 相澤先生から語られた《赤谷ちゃんの両親の職種》は、私達の予想の遥か上の答えだったのよ…

 

 

 

『アイツの両親の職種は…父親は《警視監》っていう《警察組織のNo.2》で、母親は《外交官》という日本を代表して海外で多くの交渉をする《かなりの権力を持った偉い立場の人間》らしい…』

 

 

 

 赤谷ちゃんの両親の職種を聞いたA組は驚愕したわ!!?

 

 警視監と外交官……そんなビックなお父さんとお母さんが赤谷ちゃんの両親だなんて誰も予想できなかった!

 

 でもそうなると疑問が浮かんだわ…そんなに凄い両親の元に産まれながら、何故赤谷ちゃんは危険を伴う《プロヒーロー》を目指していたのか?

 

 私の疑問については、相澤先生が補足として説明してくれたわ…

 

 

 

 元々赤谷ちゃんの両親は息子がヒーローを目指すことには反対していたらしいの、でも赤谷ちゃんはそんな両親の反対を押し切って、身分を隠し自力で雄英高校のヒーロー科に合格したそうなのよ。

 

 因みに、彼が自分の身分を私達に話してくれなかったことについては、赤谷ちゃんの雄英の志望理由を拝見した相澤先生からするに『親の職種など関係なしに、新しいクラスメイト達とは対等の立場で一緒に切磋琢磨してヒーローを目指していきたいから』…だと書いてあったらしいわ…

 

 他にも赤谷ちゃんは中学を卒業するまで、教師達からは両親が《警視監》と《外交官》であることを理由に何かと要らぬ特別扱いをされて、それが原因で毎回クラスメイトからは陰湿なイジメと嫌がらせをずっと受けたらしく…そのせいで友達が1人も出来ないという辛い学校生活を送ってきたみたいなのよ…

 

 

 

 赤谷ちゃんが《純粋にヒーローを目指して努力していたこと》を知った私達は、気づけば男女問わずクラスの殆どが涙を流していたわ…

 

 

 

 でも、赤谷ちゃんへの同情の念を抱いていたと同時に冷静になって考えてみたら、今の雄英高校は相当に不味い状況に立たされているんじゃないかと即座に気付いた!

 

 

 

 聞けば赤谷ちゃんは《1人っ子》で兄弟はいないという…

 

 つまり赤谷ちゃんの両親からすれば、大切な1人息子が雄英の不手際で死にかけたことになるんだからタダで済む訳がない…

 

 

 

 

 

 それからの出来事は…

 

 《不幸の連続》なんて言葉ではとても済ませられない…

 

 私達は1年A組にとっては《地獄》と言ってもいい辛い学校生活が始まっていったわ…

 

 それは雄英の入学式(個性テスト)のあった4月から那歩島に来る前の11月まで続いたの…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◯4月…

 

 屋内対人戦闘訓練の悲劇に悲しむ間もなく…雄英高校には災難が降りかかったわ…

 

 相澤先生が私達に《爆豪ちゃん》と《オールマイト先生》と《赤谷ちゃん》について説明してくれた後、赤谷ちゃんの御両親が雄英高校に到着したらしいの。

 

 そして結果を先に言うと、赤谷ちゃんは本人の確認なしに雄英高校を《中退》となり、被害者家族である赤谷ちゃんの御両親は、雄英高校に《多額の賠償請求》だけでなく、加えて爆豪ちゃんのクラス担任…つまり《相澤先生》の教育権を剥奪した上で雄英高校を辞職させることで話をおさめたらしいのよ。

 

 こんな言い方は何だけど『相澤先生は《オールマイト先生の尻拭い》のために全ての責任を負わされて雄英高校を追い出された』ってことになるわ…

 

 更にその次の日、前日に目を覚ました爆豪ちゃんが退院を迎えたそうだけど、彼は病院を出て早々に警察と相澤先生と一緒にパトカーに乗せられて、裁判所へ連れていかれ有無も言わさず裁判にかけられた。

 

 何でも赤谷ちゃんの御両親が爆豪ちゃんを訴えたらしく、爆豪ちゃんの屋内対人戦闘訓練で見せた行動が余りにも悪質で残忍なことから、家庭裁判ではなく刑事裁判にかけたそうよ。

 

 証拠映像(屋内対人戦闘訓練の録画映像)も残っている上、赤谷ちゃんのお父さんである《赤谷警視監》からの直属の命令があったようで、県内の警察を総出で使い調査した結果、僅か2日で《爆豪ちゃんが幼稚園から高校までに犯してきた罪の数々》が全て明かされた…

 

 言うまでもないけど、証拠が十二分に揃った爆豪ちゃんの判決は当然《有罪》、そのまま逮捕され…なんと《タルタロスに無期懲役での収監》が決定されたの!

 

 そして爆豪ちゃんの有罪判決と同時に《爆豪ちゃんのこれまでの犯してきた全ての罪》が世間に公開されたわ…

 その際、爆豪ちゃんの本名は公式では伏せられてたけど、ネットなど何故か《爆豪勝己》という名前が特定されていた…

 警察が調べた結果、爆豪ちゃんの本名を晒したのは、中学三年の時に爆豪ちゃんからイジメをうけたという《個性持ちの折寺中生徒》達だったみたいよ。

 

 そして…爆豪ちゃんが犯した罪だけど…その内容の1つ1つを見て…私は爆豪ちゃんが《どれだけイカれた同い歳の人間》であったのかを理解させられたわ…

 幼少の頃から個性を使った悪行が絶えず…それは歳を重ねて行くにつれてドンドンとエスカレートしていき、彼は《個性:爆破》を使ったイジメをするのが当たり前になっていた…

 しかも信じられないことに、彼が折寺中学校という学校で3年生になってすぐ、当時彼のイジメターゲットとしていた《無個性の男子生徒》に対して爆豪ちゃんは自殺教唆を言ったらしいわ。

 しかもそれが原因で、その無個性の男子生徒は本当にビルから飛び降りたらしいのよ。

 

 でもおかしいのよね?

 

 いくらネットを調べても、1年前に《無個性の男子生徒が飛び降り自殺未遂の事件》なんてニュースは一切放送されておらず、同日にあった《ヘドロヴィラン事件》のニュースだけしかなかったわ?

 

 色々疑問はあるけど、自殺を図った例の無個性の男の子は奇跡的に助かり、1週間で意識を取り戻したらしいけど、彼とその家族は折寺町を離れて何処かに引っ越したみたいだわ。

 

 その無個性の男の子の名前は、ニュースやネットを調べても結局分からなかったけど…きっと何処かで静かに暮らしているのね…と私は思っているわ。

 

 

 

 …っと…入学して早々に沢山のことがあったけど…

 

 本当の悲劇はここからだったのよ…

 

 

 

 爆豪ちゃんの裁判があった次の日…

 

 私達ヒーロー科1年A組18人は、雄英校内の施設の1つである《USJ(ウソの災害や事故ルーム)》にてレスキュー訓練授業を受けることなったわ。

 

 スペースヒーロー《13号先生》と、4月いっぱいをもって辞職する《相澤先生》と、遅れてくるという《オールマイト先生》の3人が担当として授業を受けることとなり、13号からの説明を聞き終えて授業開始かと思ったら、そこへ《ヴィラン連合》という本物のヴィラン達が襲撃して来たの!?

 

 最初は訓練の一環かとA組の皆が勘違いしてたけど、それも《黒い靄のヴィラン》にワープさせられたことで、相手が本物のヴィランだってことを思い知らされた。

 私は峰田ちゃんと一緒に《水難ゾーン》へとワープさせられたけど、私は泳ぐのが得意だったから峰田ちゃんと担いだまま、ヴィランの隙をついて大急ぎで水難ゾーンから脱出することができたわ。

 でも、もし峰田ちゃん以外にもう1人来ていたら、流石の私でも2人の人間を抱えて泳いで逃げるのは無理だったかもしれないわね。

 

 運良くヴィラン達から逃げることに成功した私と峰田ちゃんは、施設の中心部にある《セントラル広場》付近へ到着したわ。

 相澤先生が1人でヴィラン達と戦っていた場所だけど、プロヒーローの先生の近くにいるのが安全だと私は考えたの。

 

 

 

 でも…私は…その選択を後に死ぬほど後悔することになったわ…

 

 

 

 水難ゾーンの水辺から顔を出して、セントラル広場の様子を確認すると…

 《相澤先生が脳味噌が剥き出しの化け物に襲われて重症を負わされていた光景》だったのよ!

 

 それからのことは思い出すのも辛い…

 

 《身体中に手のアクセサリーを着けたヴィラン》が《黒い靄のヴィラン》と帰るようなことを言った矢先、そのヴィランは突然私達の方にやって来て、私の顔に左手で触れてきたわ。

 相澤先生の肘をボロボロにしていたヴィランの手が私の顔に乗せられた…

 私は死んだしまったのかと思ったけど…そうはならなかったわ…

 

 相澤先生が…ズタボロになりながらもそのヴィランの個性を《抹消》で消してくれていたの!

 

 そして相澤先生は、化け物に折られていた右腕をナイフで切り落として化け物から脱出した!?

 

 あまりの光景に私と峰田ちゃんだけじゃなくて、ヴィラン達も驚いていたわ!

 

 そんな血塗れの状態にも関わらず、相澤先生は私達に向かってこう言ったの…

 

『蛙吹!!!峰田!!!逃げろ!!!』

 

 血反吐を吐きながら物凄い大声で相澤先生はそう叫んだ…

 

 瀕死の重症の相澤先生を置いていきたくなかった!

 

 でも…私と峰田ちゃんではとても太刀打ちできるヴィラン達ではなく…ヴィランに恐怖していた私達には戦える勇気なんてなかった…

 

 私と峰田ちゃんは相澤先生の言う通りに、水辺を出て近くの森へと死に物狂いで走って逃げたわ…

 

 

 

 私達が森の中に隠れて震えている間に、オールマイトがやって来てヴィラン達を退治してくれたことで事件は解決した…

 

 でも今回の事件による犠牲は…大き過ぎた…

 

 相澤先生と13号先生が…

 

 命を落としてしまったの…

 

 

 

 しかも相澤先生は遺体も残っておらず…ヴィランの個性によって塵にされてしまったのよ…

 

 余りにも悲惨な事件が起きてしまい世間は騒ぎ立てた…

 

 その大半が《心無い言葉》を言う人達ばかりで…精神的にも追い詰められていったわ…

 

 私達A組は…事件のショックもあって…一時は《ヒーローを目指すことを諦めよう》としていた………でも…自分の命を犠牲にしてまで私達を守ってくれた相澤先生と13号先生の思いも無駄には出来なかった!

 A組の皆、相当悩んだみたいだけど…それでも結果A組18人の誰も雄英高校を去ることなく雄英に留(とど)まったわ!

 

 相澤先生と13号先生に恥じないヒーローになろうって皆で決めたの!

 

 

 

 USJでヴィラン事件が発生した後日、私達1年A組は《相澤先生》と《13号先生》の葬儀に参列したわ…

 相澤先生の遺体は無かったから、火葬は《13号先生》だけ行われたんだけど、火葬炉に不手際があったとかで多少モタついたみたい…

 

 

 

 入学して早々、クラスメイト2人と担任がいなくなってしまったA組18人は、相澤先生の代役としてA組の臨時担任となった《ブラドキング先生》の指導を受けながら勉学に励んでいたわ。

 

 ブラドキング先生は本来《1年B組ヒーロー科の担任》なのだけど、掛け持ちでA組の担任を引き受けてくれたみたいなの。

 

 そんな折、雄英高校のメインイベントである《雄英体育祭》を来月に控えていた私達はそれぞれが特訓を積んで、体育祭に備えていったわ。

 一度、B組を含めた他の科の1年生達がA組の前に密集する騒ぎはあったけど、A組の委員長として選ばれた《飯田ちゃん》と、副委員長の《百(もも)ちゃん》が何とかその場をおさめてくれたお陰で揉め事は避けられた。

 

 ただその中にいた1人、普通科の《藍色の髪の眠たそうな顔をした男の子》が相澤先生と似ていたことが私の頭に残ったわ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◯5月…

 

 そして私達は待ちに待った《雄英体育祭》の日を迎えたの!

 

 私は1回戦の《障害物競争》では、A組B組のヒーロー科全員(38人)と、普通科の生徒3人、サポート科の生徒1人が2回戦へと勝ち進んだわ!

 

 続く2回戦の《騎馬戦》は、障害物競争で1位になった轟ちゃんに《1000万ポイント》っていう飛び抜けた点数が背負わされたけど、A組トップの轟ちゃんの実力を知っているA組の大半が轟ちゃんとペアになろうと集まっていたわね。

 私はお茶子ちゃんと常闇ちゃんの3人でペアを組んで騎馬戦に挑んだわ。

 その結果、私は最終種目へと進むことが出来た!

 

 でも…私は最終種目では《1回戦落ち》で呆気なく負けちゃったの…私の1回戦の相手は《轟ちゃん》だったわ…

 

 私の個性は《蛙》…蛙っぽいことが出来る個性…そしてこれは小学生でも分かることだけど《蛙は冬になると冬眠をする生き物》…

 そして轟ちゃんが持つ個性の1つは《氷》…私にとって轟ちゃんは相性最悪の相手だった。

 現に試合開始と同時に、私は轟ちゃんが瞬時に作り出した《巨大な氷の壁》に四方を囲まれて閉じ込められた…

 私は自分の意思とは関係なしに《冬眠状態》になって眠ってしまい、戦闘不能と見なされて1回戦敗退となってしまったのよ…

 

 私が冬眠状態から目を覚ました時には、既に最終種目の決勝戦が終わっていた…

 

 今年の雄英体育祭1年生の部門で優勝したのは、全ての試合を氷の個性だけで圧倒し完全勝利をした《轟ちゃん》だったわ。

 

 1回戦落ちな上に…試合では何も出来なかったことに、私は《自分の不甲斐なさ》と《悔しさ》で感情を支配されそうになったけど…

 そこは気持ちを切り替えて、表彰台に上がった1位の《轟ちゃん》2位の《常闇ちゃん》そして3位の《切島ちゃん》の3人へ称賛を送り、雄英体育祭は幕を閉じたわ。

 

 

 

 でも…体育祭を楽しんでいたのは《私達(雄英生)》や《観戦に来てくれた身内》や《プロヒーロー達》だけだったのかもしれないわね…

 

 

 

 なぜって?

 

 

 

 それは…体育祭の観戦に来ていた《一般の人達》の殆どが雄英高校に対しての罵詈雑言で終始騒いでいたからなの…

 

 私達は真剣に体育祭の競技に励んでいたけど、会場に来ていた一般市民の人達は、4月に発生した事件の数々に不満があったようで、態々体育祭の会場に来てまで野次を飛ばしに来たのよ。

 解説のプレゼントマイク先生が、何度も野次を飛ばす市民に対して注意をしてたけど、結局最後まで市民の不満が尽きることは無かったわ…

 

 終わってからこんなこと思うのも何だけど…

 

 《後味の悪い体育祭》になってしまったわ…

 

 相澤先生なら…彼ら(野次を飛ばしていた一般市民達)に対して何て言っていたのかしらね…

 

 それと、優勝した轟ちゃんは何故か嬉しそうじゃなかったわ…

 

 

 

 でもこの時の私は思いもしなかった…

 

 雄英体育祭から1週間も経たない内に…

 

 体育祭での《市民からのバッシング》がマシだと言える不幸が起きてしまったんだから…

 

 この5月の内に…

 

 A組からまたクラスメイトがいなくなるなんて………

 

 

 

 雄英体育祭が終わった後日、久しぶりの雨が降った日、ブラドキング先生から《プロヒーローの元での職場体験》という行事についての説明があったの。

 

 体育祭での活躍による1年A組のプロヒーローの指名数だけど、やはりというべきか優勝者の轟ちゃんの指名数は群を抜いていたわ。

 

 因みに私は青山ちゃんと三奈ちゃんと同じく、最終種目まで勝ち残れたけど指名はもらえなかった…

 

 『最終種目まで進んでも指名がもらえない場合はある』ってブラドキング先生は言ってたけど、私の場合は轟ちゃんを相手に何も出来ず、蛙の個性ゆえに寒さに負けて寝ちゃった(冬眠しちゃった)から、指名が来ない可能性は覚悟してたんだけどね。

 

 とはいえ、プロヒーローから指名をもらえなかったからといって職場体験にいけない訳じゃないわ。

 指名をもらえなかった生徒は、事前に雄英がオファーした《受け入れ可能の事務所》の中から選んで職場体験に行けるみたいよ。

 

 そんなプロヒーローの指名数が発表された時も轟ちゃんは嬉しそうじゃなかった…

 あと、飯田ちゃんも何処か様子もおかしかったわ。

 

 飯田ちゃんについてはお茶子ちゃんが教えてくれて、一昨日の体育祭の最終種目で私は保健室で寝ていた(冬眠していた)から知らなかったけど、飯田ちゃんは最終種目の決勝戦前に3位決定戦を辞退して、そのまま早退したみたいなの。

 

 そしてその理由は…飯田ちゃんのお兄さんであり現役のプロヒーローである《インゲニウム》が《ヒーロー殺し》っていうヴィランに重症を負わされたからだったのよ…

 

 飯田ちゃんのことを心配しつつも、私達はあっという間に職場体験の日を迎えたわ。

 

 私は職場体験先として《海難ヒーロー・セルキー》さんの元を訪れたの。

 セルキーさんともサイドキックのシリウス達とも仲良くなれて、仕事では密航者を捕まえるヒーロー活動にも参加でき、私は充実した職場体験を送れたわ。

 でも不思議なのよねぇ、セルキーさんのあんなに可愛い仕草をサイドキックのシリウスさん達は可愛いと思ってないみたいのよ、何故かしら?

 

 

 

 そんな充実した職場を終えたのも束の間、私のスマホに《悲しい知らせ》が突然入ってきたわ…

 

 

 

 飯田ちゃんが…ヴィランに殺されたの…

 

 

 

 しかも飯田ちゃんを殺害したヴィランは、飯田ちゃんのお兄さんの《インゲニウム》を再起不能にした《ヒーロー殺し・ステイン》だったのよ!

 

 ニュースで報道されていた事件の内容によると、ステインはプロヒーローの《ネイティブ》を抹殺しようとした正にその時、《兄を再起不能にされたことで復讐心に燃えた飯田ちゃん》がその場に現れたんじゃないかと言っていたわ。

 

 そう…体育祭後の飯田ちゃんの様子がおかしかった原因については、A組の皆がおおよその検討がついていた…

 

 でも真面目な飯田ちゃんは《きっと大丈夫》だと、私達は決めつけて声をかけなかった…

 

 《後悔先に立たず》…職場体験1日目の駅で私達の誰か1人でも飯田ちゃんに強く言葉をかけてあげていれば、飯田ちゃんは踏み留まって死なずに済んだかも知れない…

 

 オマケに飯田ちゃんを殺したステインは、捕まっておらず今も逃亡しているそうなの。

 その事件現場である保須市には《No.2ヒーローのエンデヴァー》と《炎のサイドキッカー》達が来ていたんだけど、《ステインを逃がしてしまったこと》で世間から叩かれる結果となっていたわ…

 

 

 

 そして、また雄英関係者に…しかも今度は生徒に死者が出たことによって、雄英高校はまた一段と世間からのバッシングを受けることになったの…

 

 

 

 職場体験後、私達A組は《飯田ちゃんの葬儀》に参列した…

 

 先月《相澤先生》と《13号先生》の葬儀があったばかりだというのに、こんなにも早くまた葬儀があるなんて思いもしなかったわ…

 

 参列した遺族の中には…飯田ちゃんのお兄さんと思われる《車椅子に乗った携帯用酸素マスクを着けた飯田ちゃん似の男の人》もいたの…

 

 その人は葬儀中ずっと大粒の涙を流していて…それが私の頭から離れなかったわ…

 

 そして前回の《13号先生》の時と同じく火葬場まで私達は見送った…

 

 ただなんの偶然なのか、またしても火葬炉に問題が起きたみたいで少しゴタついたみたいだけど…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◯6月…

 

 飯田ちゃんがいなくなった悲しみを…私達はそう簡単に受け入れられることなんて出来なかった…

 

 それでも…私は前に進まないといけない…

 

 爆豪ちゃんは違うけど、未だ昏睡状態の《赤谷ちゃん》の分も、命を落とした《相澤先生》と《飯田ちゃん》の分も、残された私達は頑張らないといけないのよ…

 

 クラス委員長だった《飯田ちゃん》がいなくなったことで、A組の委員長は副委員長の《百ちゃん》に引き継がれて、副委員長には何故か《私》が選ばれたわ。

 てっきり、百ちゃんと飯田ちゃんの次に成績が優秀な轟ちゃんが副委員長になるのかと私は思っていたんだけど、A組の皆からの推薦で私が副委員長に選ばれたのよ。

 

 《副委員長になったこと》と、この月は《中間テスト》もあったからとっても大変だったわ。

 

 この6月はコレと言った事件は何も起きず、普通の学校生活を送ることが出来た。

 

 

 

 でも…その普通な学校生活は…《嵐の前の静けさ》だったわ… 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◯7月…

 

 世の中の高校生は《夏休み》を楽しんでいるんでしょうけど、ヒーロー高校に通う私達に長い休日を楽しんでいる時間なんてない。

 

 夏休み、私達は《林間合宿》に加えて、百ちゃんの誘いで《Iアイランド》に行けることになったわ!

 

 雄英に入学してから辛いことばかりだったけど、こういった行事やイベントは楽しまないといけないからね。

 

 私達A組は林間合宿のため、《期末試験》に加えて《演習試験》を受けたわ。

 演習試験で私は常闇ちゃんとペアとなって、エキトプラズム先生と闘い苦戦しながらもなんとかクリアすることが出来た。

 4人だけクリア出来なかった生徒もいたけど、それはそれとして結局は皆で林間合宿に行けることになったわ!

 

 

 

 そして、私にとって嬉しいことがまた起きたのよ。

 

 

 

 それは《他のヒーロー高校との合同ヒーロー訓練》を行うことになったのだけど、やって来た勇学園の4人の生徒の中に、中学の時に出来た私の親友である《万偶数 羽生子(まんぐうす はぶこ)》ちゃんと偶然にも再会することが出来たの!

 雄英に来て嫌なことが多かったからなのか、親友に会えた時の嬉しさは言葉にできなかったわ! 

 訓練事態では羽生子ちゃんと一緒にやって来た《怖い顔の男の子》の個性で一悶着はあったけれど、それでも親友と一緒に訓練が出来たことで私にとっては最高の1日だったわ!

 

 

 

 でも…そんな浮かれた私を…世の中のヴィラン達は嘲笑っていった…

 

 

 

 後日、林間合宿の買い物をするため、参加しなかった轟ちゃん以外のA組全員で《木椰区ショッピングモール》にやって来たわ。

 

 周囲から向けられる視線は色々あったけど、私達はそれぞれを堪能した………と思っていたら、なんと私は偶然にも《常闇ちゃんがヴィラン連合の人間(相澤先生を殺したヴィラン)に絡まれていた場面》に出くわしてしまったの!?

 

 その時の私は《常闇ちゃんを助けたい思い》と《相澤先生を殺された怒り》に感情を支配されてパニックになる寸前だった…

 

 でもそのヴィランは戦う気がなかったのか…すぐに常闇ちゃんを解放して私達の元から去り…人混みの中へと消えていったわ…

 

 その後、私が連絡した警察がやって来て買い物どころではなくなった私達は強制的に帰宅することになった…

 

 因みに常闇ちゃんは、ヴィランと何の話をしたのかは私達には教えてくれなかったわ…

 

 

 

 

 

 それから暫くして、私達A組は世界中の科学者達が住んでいる人工島《Iアイランド》へとやって来た。

 

 とはいっても、百ちゃんからのパーティーの参加券をかけて女子5人でジャンケンをした結果、負けちゃった私と三奈ちゃんと透ちゃんは当日のパーティには参加できず、3人でIアイランドを巡った後はホテルにいたんだけどね。

 

 だから私達は次の日まで知らなかった…

 

 まさか難攻不落な島のIアイランドにヴィランの集団が襲来して《大惨事》になっていたなんて…

 

 次の日の朝、私達がホテルから出ると…

 

 Iアイランドは滅茶苦茶にされていた…

 

 パーティーがあったタワーは倒壊して、死傷者が大勢出ていたのよ…

 

 不幸中の幸い、昨日のパーティーに参加していたA組の生徒達(お茶子ちゃん、響香ちゃん、百ちゃん達)は無事だったわ…

 

 でも、ヴィラン達には全員逃げられた上に、オールマイトの元サイドキックである《デイヴィット・シールド》という世界的な科学者が誘拐されてしまったそうなのよ…

 

 事件当時、Iアイランドには《オールマイトを含む何百人ものヒーロー達》がいたにも関わらずにね…

 

 後日、日本へと帰国した私達は、テレビでIアイランドの一件について記者やメディアに囲まれた《オールマイトとプロヒーロー達のインタビュー》を拝見したわ。

 オールマイト達は『襲撃してきたヴィラン達が余りにも用意周到であったこと』や『大勢の人質を捕られていたために何も出来なかったこと』をコメントしていた…

 でもそんな彼らに対して世間は…いえ…世界中はオールマイト達ヒーローを非難したわ………

 

 

 

 

 

 オールマイトがIアイランドの一件で日本への帰国が遅れていた頃、私達ヒーロー科A組B組は予定されていた《林間合宿》が世間的には秘密裏に開始されたのよ。

 

 でも…ヴィランは何処までも私達を貶めて行ったわ…

 

 ヒーロー科の全員が、ヒーローチーム《ワイルドワイルドプッシーキャッツ》の4人の指導の元、各々の個性の強化に阿鼻叫喚しながら特訓に励んでいた。

 

 そんな私達の合宿中にまたしても《ヴィラン連合》が襲撃してきたのよ!

 

 それはヒーロー科A組B組対抗での《肝試し》をしていた時に起こったわ!

 

 5組目の私とお茶子ちゃんのペアがスタートしてすぐのことだった…

 《私達と同い年くらい女の子》がナイフを持って私とお茶子ちゃんに襲いかかってきたのよ!

 相手は1人だったけど、ナイフに加えて変な注射器の装備をしていた女の子に私達は苦戦を余儀なくされた。

 

 そんな私達のピンチを森の中から突然現れた《ボロボロの障子ちゃん》が助けてくれたの!

 

 ヴィランは状況を把握してか逃げていった。

 

 そんな障子ちゃんはどう見ても大怪我をしているにも関わらずに、1人でヴィランの女の子が逃げていった方向へ走っていこうとしたわ。

 

 どうしたのかと咄嗟に聞いてみると《常闇ちゃん》と《轟ちゃん》が別のヴィランに拐われたみたいだったのよ!?

 

 事態を把握した私とお茶子は、障子ちゃんに頼まれて個性を連携し障子ちゃんをヴィランが逃げた方向へ投げ飛ばしたわ!

 障子ちゃんは6本の腕を広げて滑空しながら飛んでいったの。

 私とお茶子ちゃんも障子ちゃんの後を追って森の中を走った!

 

 

 

 そして私達は…障子ちゃんを1人で行かせたことをすぐに後悔することになったわ…

 

 

 

 私達が森の《開けた場所》に到着して見たもの…

 

 それは《全身に火傷を負い…重症となった障子ちゃん》だったんだから…

 

 救急隊が来るまでの間、私とお茶子は障子ちゃんに出来る限りの応急処置をした。

 

 それから救急隊が来て後に知ったの…

 

 

 

 今回のヴィラン連合による被害が《甚大》であったことを!

 この林間合宿で《怪我人》が多数に加えて《死者》まで出てしまったのよ!

 

 

 

 私達ヒーロー側の被害については、ヴィランに襲われ重軽傷を負わされた私達だけじゃなく、マタタビ荘にいたブラドキング先生と補習を受けていた三奈ちゃん達と広場から避難してきた尾白ちゃんと峰田ちゃん達は《青い炎を使うヴィラン》によって火傷を負い、肝試しで森の中にいた生徒達は2人を除いてほぼ全員が《毒ガスを使うヴィラン》の有毒ガスによって昏睡状態になったのよ。

 

 今回のヴィラン襲撃で唯一無傷で済んだのは、ヴィランの毒ガスを吸って気絶した響香ちゃんと透ちゃんを守りながら森の中に隠れていた《青山ちゃん》と、同じく毒ガスを吸って気絶していた塩崎ちゃんと骨抜ちゃんを交互に背負って運びながらマタタビ荘を目指して森の中にいた《小大ちゃん》の2人だけだったの…

 何でも百ちゃんが創ってくれたガスマスクのお陰で、2人はヴィランの毒ガスの被害を受けずに済んだらしいわ。

 

 でも…広場でヴィランと戦っていたプッシーキャッツの3人は《重傷》で発見されただけでなく、マンダレイの従甥である出水洸汰君が崖の上で《死体》として発見されたのよ…

 

 そして…《轟ちゃん》《常闇ちゃん》、プッシーキャッツの1人である《ラグドール》がヴィラン連合に拐われてしまった…

 

 しかも襲撃してきたヴィランはなんと《たった10人》で、その内捕まえることが出来たのは《2人》だけ…

 その内の1人《毒ガスを使うヴィラン》は拳藤ちゃんと鉄哲ちゃんが怪我をしながらも倒してくれたみたいなのよ。

 

 

 

 《生徒と教師の重軽傷者》だけでなく…

 

 《一般人の死者》と…

 

 《生徒とプロヒーローの誘拐》…

 

 そして《襲撃してきたヴィランの殆どに逃げられてしまう》という…

 

 結果からすれば…《ヒーロー側の完全敗北》でこの林間合宿は終わりを迎えたわ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◯8月…

 

 いつの間にか7月が終わり、林間合宿で生き残った私達は全員が一時的に病院へ運ばれた…

 

 比較的無傷だった青山ちゃんと小大ちゃんを始めとし、治療が終わった軽傷者である5人(《私》《お茶子ちゃん》《泡瀬ちゃん》《拳藤ちゃん》《鉄哲ちゃん》)はすぐに自宅へと帰されたわ。

 

 それと、酷い火傷等を負ったとされる《三奈ちゃん》《尾白ちゃん》《上鳴ちゃん》《切島ちゃん》《砂藤ちゃん》《瀬呂ちゃん》《峰田ちゃん》《物間ちゃん》そして《ブラドキング先生》は9名は、別の病院へと搬送されて治療を受けているみたい。

 

 重傷者である《障子ちゃん》《百ちゃん》《ワイプシの3人》は暫く入院することになって、ヴィランの毒ガスが身体からまだ完全抜けずに意識が戻らない《口田ちゃん》《響香ちゃん》《透ちゃん》そして《B組15人》も入院することになったわ。

 

 

 

 退院した私は次の日、お茶子ちゃんと青山ちゃんを誘って皆の御見舞いへと誘った。

 お茶子ちゃんは参加してくれたけど、青山ちゃんは都合が悪くて来られないと言っていたから、私とお茶子ちゃんの2人で御見舞いに行くことになったわ。

 

 私達はクラスメイト全員の御見舞いに行く予定でいたんだけど、雄英高校に《三奈ちゃん達が搬送された病院の場所》の確認をしたら、ブラドキング先生以外まだ全員意識が戻ってはおらず、三奈ちゃん達が運ばれた病院は《病院関係者以外は患者の身内しか入れない》という厳しい規定があるらしく、私とお茶子ちゃんは三奈ちゃん達の御見舞いは断念せざるを得なかったわ…

 

 三奈ちゃん達には申し訳ないけど、私達は障子ちゃんと百ちゃん、口田ちゃんと響香ちゃんと透ちゃんのお見舞いに向かうことにした。

 

 2人でお金を出しあって5人分のお見舞い品を買っていた丁度その時、私のスマホに青山ちゃんからの連絡がきたの。

 何の用かと思い、電話に出てみると青山ちゃんいわく青山の御両親が《入院している生徒達とプロヒーローの全員に速達で御見舞い品を手配した》との連絡だったわ。

 今更だけど、青山ちゃんの家は百ちゃん程では無いけどお金持ちのようで、青山ちゃんが親に御見舞いの件を相談したら、現在入院している全員に御見舞い品を用意してくれることになったみたい。

 だから、青山ちゃんは私達に『何も買わずに皆も元へ御見舞いに行ってあげてよ☆』と言われたの。

 

 私とお茶子ちゃんは、青山ちゃんからの提案を承諾して何も買わずに急いで病院へと向かったわ。

 

 病院についた私達は、最初に病室が近い口田ちゃんと響香ちゃんと透ちゃんの病室をそれぞれ訪れたけど、3人ともまだ意識が戻ってはおらず、私達は看病をしていた3人の母親へ挨拶をしてから病室を後にしたわ。

 

 次に病室が近い百ちゃんのお見舞いに行くと、百ちゃんは既に意識を取り戻して順調に回復へと向かっていて『明日にでも退院できますわ』って言ってたわ。

 

 百ちゃんのお見舞いを済ませて、最後に障子ちゃんがいる病室へと皆で向かったその時…

 

 

 

『ふざけるなっ!!!!!キサマーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!』

 

 

 

 病院全体に響き渡る程の怒号が私達の耳に聞こえてきたわ!?

 

 その声は何処かで聞いたことのある声で、しかもその声の出所は私達が向かっている《障子ちゃん病室》だったのよ!!?

 

 私達は急いで障子ちゃんの病室に駆け込んで目に飛び込んできた光景…

 

 それは…

 

 

 

 《包帯を全身に巻かれている重傷の障子ちゃんの頭を掴んで持ち上げていたエンデヴァー》がいたのよ!

 

 

 

 エンデヴァーは物凄い激怒の形相をしていて、その怒りに比例してなのか、身体から吹き出す炎も凄まじかったわ!

 

 私達は障子ちゃんを助けたかったけど《エンデヴァーから発せられる圧》と《吹き出す炎の熱》で近づくことが出来なかった!

 

 そんな怒り狂っているエンデヴァーを《炎みたいな黄緑色の髪をした女性ヒーロー》や《ミイラのように顔を包帯で覆っている男性ヒーロー》達が4人係りで掴みかかって止めようとしていた!

 

 エンデヴァーの怒号を聞いてか、病院の医師達が何人もやって来て、8人係りでエンデヴァーから障子ちゃんを離しつつ無理矢理に病室の外へ連れていったわ…

 

 あまりの出来事に私達が言葉を失い茫然としていると、ベッドに放り出された障子ちゃんが私達に声をかけてきてくれた…

 

 

 

 それから意気消沈していた障子ちゃんは、さっきまで何があったのかを私達にゆっくりと語ってくれたの…

 

 障子ちゃんが目を覚ましたのは今日のお昼頃らしく、昨日の夜に病院へ重傷で運ばれて大手術を受けたというのに、1日も経過しない内に目を覚ましたのは障子ちゃんの体格からして分かる通り、A組の中でも1番《耐久力》に優れていたからだって私は思ったわ。

 

 障子ちゃんは意識を取り戻した後、病院の医師からの診察を受けた矢先、待機していた警察からの事情聴取を受けて…それが終わって暫くするとエンデヴァーが有無も言わさずにズカズカと障子ちゃんの病室に入ってきて、病人の障子ちゃんの頭を掴んで持ち上げたそうなのよ!

 

 エンデヴァーと一緒にやって来た4人のサイドキック達が止めようとしていたけど、エンデヴァーは止まることなく障子ちゃんへ色々と質問を投げかけてきたみたい。

 

 エンデヴァーの質問の内容は当然《ヴィラン連合に誘拐された自分の子である轟ちゃんのこと》…

 

 障子ちゃんは痛む身体に鞭を打って、昨日の夜に何があったのかを全てエンデヴァーに話した…

 

 そして…障子ちゃんの発言に対するエンデヴァーの返答が…さっき私達が聞いた《怒号》だったって訳なのよ…

 

 

 

 障子ちゃんは…私とお茶子ちゃんに昨日の肝試しで何があったのかを話してくれたわ………

 

 

 

 昨日の夜、肝試しのトップバッターとして常闇ちゃんと森の中を進んでいたら、突然《歯を伸ばしてくるヴィラン》に襲われて《障子ちゃんの複製椀の腕》が切り落とされてしまった!

 

 クラスメイトの血が流れる瞬間を見てしまった常闇ちゃんは、感情が爆発させて《黒影(ダークシャドー)》が暴走状態になってしまったそうなの!?

 

 障子ちゃんはヴィランと黒影によって怪我を負いながらも、涙を流して苦しんでいた常闇ちゃんを見捨てることが出来ず、森の中に隠れながら助ける機会を伺っていた…

 

 しかし、いつの間にかいなくなっていた《歯を伸ばすヴィラン》は、次の肝試しのペアの1人である轟ちゃんと戦いながら常闇ちゃんと黒影の元へ移動していたのよ

 

 轟ちゃんとペアだった口田ちゃんの姿は見えなかったけど、障子ちゃんは常闇ちゃんの黒影の弱点が《光》であることを知っていた!

 だから咄嗟に轟ちゃんへ『炎の個性を使って黒影の暴走を止めてくれ!』と叫んだそうなの!

 

 一瞬、障子ちゃんに気を取られたヴィランは、暴走した黒影の攻撃を直撃で受けてしまい気を失ったそうよ…

 

 思わぬ形でヴィランの撃破に成功し、あとは黒影の暴走を止めるだけだった!

 だけど…何故か轟ちゃんは、障子ちゃんの頼みを聞き入れてはくれずに《氷の個性》だけで黒影を抑え込もうとしていた!

 《炎の個性》を使えば一瞬で解決するのに、轟ちゃんは《炎の個性》を使ってはくれなかった…

 

 そのまま轟ちゃんと黒影の戦いをただ見ていることしか出来なかった障子ちゃんだったけれど、《シルクハットを被った紳士のようなヴィラン》が突然現れたと思った矢先、轟ちゃんと常闇ちゃんが姿を消してしまったの!勿論、黒影も!

 

 何が起きたのかと障子ちゃんは困惑したけど、そのシルクハットのヴィランが手の中に《ビー玉》を2つ持ちながらスマホを取り出して『目的の子供と強そうな子の確保完了!』とスマホ越しに話していた。

 

 それを聞いた障子ちゃんは、シルクハットのヴィランが手に持っている《2つのビー玉》が個性よって変化させられた《常闇ちゃん》と《轟ちゃん》であることを察して取り返そうとした!

 でもシルクハットのヴィランは、まるで忍者のように素早く逃げてしまい、それを追って森の中を進んでいたら《私とお茶子ちゃんが女の子のヴィランに襲われている場面》に偶然鉢合わせたってことなのよ。

 

 

 

 でも…重要なのはこの後だったわ…

 

 

 

 私とお茶子ちゃんの個性で夜空を滑空しながら《シルクハットのヴィラン》に追い付いた障子ちゃんだったけど…着地した場所が《最悪》だった…

 

 障子ちゃんが着地した場所には、なんと《他のヴィラン達》もいたの!

 よりにもよって《ヴィラン達の集合場所》に障子ちゃんは飛び込んじゃったのよ!

 

 障子ちゃんは1人でも常闇ちゃんと轟ちゃんを助けようと戦ったけれど、負傷している上に多勢に無勢では勝ち目がなく…《筋肉質のヴィラン》に力業で押されボコボコにされて、《ツギハギだらけのヴィラン》の青い炎によって大火傷を負わされた障子ちゃんはそこで意識を失った…

 

 そして次に目を覚ましたら…この病院のベッドの上にいたって訳…

 

 

 

 障子ちゃんに汚点はなかった…

 

 むしろ、ズタボロになってでも常闇ちゃんと轟ちゃんの2人を助けるために、たった1人で必死に戦った!

 

 でも…息子(轟ちゃん)を誘拐されたエンデヴァーは、障子ちゃんの《過程の行動》を評価するどころか、一方的に非難してあの怒号をあげて叱責したってことなのよ…

 

 エンデヴァーの気持ちは分からなくはないけど、それでも障子ちゃんを責めるのはお門違いだわ!

 悪いのはヴィランなのに!どうしてエンデヴァーは障子ちゃんを責めたのか理解に苦しむ!

 

 

 

 落ち込んでいる障子ちゃんに私達が掛ける言葉が探していると、扉をノックする音が聞こえてきた。

 

 

 

 誰かと思い私が扉を開けると、そこには《オールマイト先生》が立っていたわ!

 

 4月の屋内対人戦闘訓練の事件以降、私達は授業以外でオールマイト先生とは関わろうとはしなかった…

 No.1ヒーローとしては尊敬していても、教師としては《あんな致命的なミス》をして、赤谷ちゃんを昏睡状態にした原因はオールマイト先生にもある!

 しかもオールマイト先生は公安委員会の力によって立場を守られたけど、その代わり相澤先生に全ての責任を押し付けた!

 更に言えば、オールマイト先生が遅刻することなくUSJに来てくれていれば、相澤先生も13号先生も死なずに済んだ!

 私もお茶子ちゃんも…A組の皆も、オールマイト先生に対して好意を持っていないのは《自明の理》なのよ!

 

 そんなオールマイトは障子ちゃんに用があったみたいで、私達は病室から追い出されちゃったわ…

 

 腑に落ちなかったけど…ただの学生の私達に出来ることは何もなかった…

 

 きっとヒーロー達は今、ヴィラン連合に誘拐された3人を救助するために捜索と準備をしている筈よ…

 

 結局、私とお茶子ちゃんはそのまま病院を出て大人しく自宅へ帰ることにしたわ…

 

 

 

 

 

 その日の夜!

 

 超人社会の歴史に残る大事件が!

 

 神奈川県横浜市の神野区で発生したの!

 

 

 

 私が自宅のTVで《根津校長達の謝罪会見の番組》を見ていた時だったわ…

 突然、画面が変わって《神野区の大崩壊した町》が全てのチャンネルで緊急生放送されたの!

 

 《根津校長》と《顔を包帯で覆われたブラドキング先生》が、記者やメディア達からの心無い質問をされる映像に…私は胸が苦しくなったけど…雄英生として目を逸らしちゃいけないと思った私は、雄英高校の謝罪会見の番組を最初からずっと見ていた…

 

 見ているだけでも辛かったけど最後まで見届けようと思った矢先…番組の映像が切り代わって…神野区で繰り広げられていた《オールマイトvsヴィラン連合のボスの激戦》の映像が流れたわ!

 

 平和の象徴であるオールマイトをたった1人で圧倒する《ヴィラン》の存在に私は恐怖した…

 

 あんなに《強いヴィラン》がこの日本にずっと潜み隠れていた…

 

 それでも『オールマイトなら何とかしてくれる』って私は…いえ…世界中が信じていたわ…

 

 教師としては過ちを犯したけど…ヒーローとしての実力は《No.1》…

 『オールマイトは絶対に勝つ!』…そう私は信じて疑わなかったわ…

 

 

 

 

 

 激戦の中…オールマイトに異変が起きるまではね…

 

 

 

 

 

 ヴィランの強烈な衝撃波を受けたオールマイトは…

 

 萎(しぼ)んでしまったのよ!!!??

 

 

 

 

 

 最初は《見間違い》かと思った…

 

 《TVの故障》かと思った…

 

 《映像の不手際》かと思った…

 

 

 

 でもそれは全部違った…

 

 オールマイトが萎んだのは《現実》だった!

 

 いったい何が起きたのか私にはサッパリ理解できなかったわ!

 

 私達が知っているオールマイトは《鍛え抜かれた逞しい身体をしている筋骨隆々》の筈なのに、TVに映っているオールマイトは《骸骨みたいに痩せ細ってしまい…とてもNo.1ヒーローとは呼べない情けない姿》になっていたのよ…

 

 

 

 今のオールマイトの姿を受け入れることが出来なかったのは…きっと私だけじゃない…

 世界中の人達が受け入れられていないと思うわ…

 

 そうして困惑しながらもTV画面に意識を戻すと、いつの間にかエンデヴァーやエッジショット達がオールマイトの援軍に駆けつけていて、ヴィラン連合のボスと戦っていたわ。

 

 

 

 オールマイトはボロボロになりながらも右腕を構えてヴィラン連合のボスと向き合っていた… 

 

 

 

 私はいつの間にか…口を押さえて涙を堪えていたわ…

 

 あんな凶悪なヴィランを相手に…オールマイトはまだ戦おうとしていた…

 

 オールマイトのボロボロな姿に…私は《USJの相澤先生の姿》を重ねたわ…

 

 どんなにズタボロになろうと…

 

 どんなに血反吐を吐こうと…

 

 《誰かを守るために命をかけて戦うヒーロー》の姿に…

 

 私は沸き上がってくる涙を抑えることが出来なかった…

 

 

 

 そしてTVの向こうで《右腕を巨大化させたヴィラン連合のボス》と《右腕だけが筋肉質になったオールマイト》の拳が激突した!

 

 でもパワーはヴィランの方が上で、オールマイトのヴィランの攻撃を受け止められずに後ろへ押されていったわ!

 

 オールマイトは身体中から大量の血飛沫(ちしぶき)を撒き散らしながら踏み留まり!

 

 

 

 No.1ヒーローとしての最後にして最強の必殺技をヴィランの顔面に喰らわせて勝利したわ!!!

 

 

 

 激戦の後も報道のカメラはずっと回っていて、ヒーロー達による神野区での救助活動が進められていた…

 

 そんな中…痩せ細ったオールマイトは血反吐を吐きながら…テレビに向かって人差し指を刺しながらこう呟いた…

 

 

 

『次は………次は…キミだ……』

 

 

 

 朝日の光を浴びながら…オールマイトは一言そう言ったの…

 

 オールマイトのその一言は《まだ見ぬ犯罪者への警鐘》と《平和の象徴の折れない姿》を現した言葉だったわ……

 

 でも…それにしては言葉使いが《優し過ぎる》って思った私は違和感を持ったの…

 

 

 

 私はオールマイトが言ったあの言葉は…

 

 《誰かへの個人的なメッセージ》にも聞こえたのよ…

 

 …と言っても、それは私の勝手な勘違いだと思うけどね。

 

 

 

 そんなオールマイトの尊敬を取り戻していたのも束の間、ニュースに速報として流れた情報に私は落胆してしまったわ…

 

 

 

 今回、神野区を舞台で繰り広げられたヴィラン連合との戦い…

 

 それは勿論《誘拐された3人(常闇踏陰、轟焦凍、ラグドール)の救出》と《ヴィラン連合の壊滅》を目的としてヒーローと警察が連携した作戦だったのよ。

 

 そして作戦の結果は…

 

 プロヒーローの《ラグドール》の救助は成功したらしいんけど…

 《常闇ちゃん》と《轟ちゃん》の救助は失敗し、2人は今もヴィラン連合に捕らえられたままなのよ…

 

 しかも《ヴィラン連合の壊滅》について、オールマイトが戦った《ヴィラン連合のボス》しか捕まえられておらず、他のメンバーには全員逃げられてしまい消息不明となったらしいわ…

 

 今回の作戦にはトップヒーローの《オールマイト》《エンデヴァー》《ベストジーニスト》《エッジショット》に加えて、若いながら順位を急激に上げている《シンリンカムイ》や《Mt.レディ》を含めた多くのプロヒーロー達が参加していた。

 

 だけど作戦は失敗に終わり…ヒーロー側は負傷者が多数に加えて、神野区に住んでいた一般人には多くの死傷者が出てしまったのよ…

 

 今回の一連の事件は、日本の歴史に永遠に残る《ヒーローの敗北》となったわ…

 

 

 

 

 

 更に、近々開かれる《平和の象徴・オールマイトの引退会見》の話が世間に流れた頃と同時に、何者かによって《エンデヴァーの……轟ちゃんの家庭事情》がネット上に上げられたことで、ヒーローの立場は日に日に悪くなっていった…

 

 

 

 

 

 オールマイトの引退会見の後日…

 

 雄英高校から家庭訪問で《スーツ姿の痩せたオールマイト先生》と《スーツ姿のミッドナイト先生》が私の家を訪れた。

 

 こういう場合は《担任の先生(ブラドキング先生)》が来る筈じゃないかと私は思ったけど、その理由は後で分かったわ。

 

 今回、先生達が家庭訪問として訪れた内容は、《生徒の安全のために雄英高校の全校生徒達の全寮制》についての話だった。

 

 私が《プロヒーローを目指すこと》については家族全員応援してくれている。

 雄英高校に合格した時だって大喜びして盛大にお祝いしてくれたもの。

 

 だけど…いくら日本一のヒーロー高校の《雄英高校》とはいえ…今年から何度も問題や事件が多発していることもあって、お父さんもお母さんも…弟の《五月雨》も妹の《さつき》も…今の雄英高校に対しては不満を抱いているのよ…

 

 家庭訪問の前日、私は《今の雄英高校でプロヒーローになりたい覚悟》を家族に話して説得したわ。

 

 それでも両親は雄英高校の不満を口にしつつ『雄英以外にもヒーロー高校はありますよね?』という言葉を先生達にぶつけた…

 

 お父さんもお母さんも本当は分かっているの…《雄英高校に全ての非がある訳じゃない》…そんなことは私達家族全員が分かっていることなのよ…

 

 入学してすぐヴィラン連合の襲撃にあった時、その身を犠牲にして私達を守ってくれた《相澤先生》と《13号先生》には感謝してもしきれない…

 

 それに私の家族皆オールマイトのファンで、先の戦いだってオールマイトには本当に感謝しているの…

 

 だから両親は雄英高校に対しての非難はせず『娘を守り…立派なヒーローへ育て上げて…卒業させてくれると約束してもらえるのならば…全寮制を許可しましょう』と結論を出してくれたわ…

 

 オールマイト先生もミッドナイト先生も、お父さんの言葉を重く受け止めてから…2つ返事で了承してくれた…

 

 

 

 家庭訪問が終わり、五月雨とさつきがオールマイトにサインを書いてもらった後、先生達が別の生徒の家庭訪問に向かおうとした際、私はミッドナイト先生に《ブラドキング先生のこと》を聞いたわ。

 

 ミッドナイト先生は難しい顔をしながらも話してくれた…

 

 記者会見を終えたブラドキング先生の元に、《怒り狂ったエンデヴァー》がやって来たらしく、有無も言わさずブラドキング先生に暴行を加えたそうなのよ。

 

 エンデヴァーの暴行の理由は勿論、現在は《A組の臨時担任でもあるブラドキング先生》が林間合宿で生徒である轟ちゃんを守れなかったことについて激怒していることであり、まだ完治はしておらず会見後は病院に戻らなければならない容態のブラドキング先生を、エンデヴァーは個性を使いながら何発も殴ったらしいわ…

 

 それによってブラドキング先生の入院期間が延長されてしまい、結果ブラドキング先生は私達の家庭訪問には参加できなくなってしまった…という事情だったのよ…

 

 しかもエンデヴァーの怒りはおさまりがつかないようで、ブラドキング先生だけでなく《意識を取り戻したワイプシのメンバー3人》と、今回の作戦に参加した《警察やプロヒーロー達》に対しても激怒しているらしいわ…

 

 加えて何者かが神野事件から数日後、ネット上の至るところに《エンデヴァーの家庭の闇》が拡散されたせいで、エンデヴァーはもはや手に負えない状況みたい…

 

 

 

 《神野事件の作戦の失敗》…《オールマイトの引退》…《エンデヴァーの家庭の闇》…これだけのことが立て続けに起きてしまったため、日本のヒーローの信頼は急落していったのよ…

 

 

 

 世間が遅かれ早かれ大変なことになるのは分かってはいたけど、それ以上にエンデヴァーに負傷を負わされたという《ブラドキング先生》が心配になった私はお見舞いに行くことをミッドナイト先生にお願いしたけど、許可はしてくれなかった…

 

『また会えるから、その気持ちは胸の中にしまっておきなさい』

 

 …とミッドナイト先生は言い残して、オールマイト先生と一緒に次の家庭訪問先へと向かって行ったわ…

 

 

 

 

 

 それから暫くして、私は雄英高校へと登校したわ。

 

 林間合宿の肝試し以来、お茶子と障子ちゃんと百ちゃん以外のクラスメイトとはお話ししていなかったから、皆にまた会えたのは本当に嬉しかった!

 

 でも彼らの中には、あの事件で負った《傷跡が身体に残ったクラスメイト》がいたのも事実だったわ…

 

 ヴィランの毒ガスを吸ったことで昏睡状態となった口田ちゃん、響香ちゃん、透ちゃんの3人は外傷は無かったんだけど、事件当時ヴィランの炎によって大火傷を負った8人(《三奈ちゃん》《尾白ちゃん》《上鳴ちゃん》《切島ちゃん》《砂藤ちゃん》《障子ちゃん》《瀬呂ちゃん》《峰田ちゃん》)は顔や手足を含めて全身の至るところに火傷跡が残っていたの…

 

 轟ちゃんが左目に負ってた火傷の跡よりも酷い有り様だったわ…

 見るだけでも痛々しい傷跡だけど、リカバリーガールや専門の医師達の懸命な処置によって、火傷跡の範囲は縮小できた方だと言っていたのだから、病院に運ばれた時は《どれだけ酷い火傷》を負っていたのかと思うと…私は戦慄されられた…

 

 ただ、三奈ちゃんだけは幸いなことに《顔》には火傷は負わずに済んだようで、制服では見えない《背中》に火傷の跡が残っちゃったらしいわ。

 何でも切島ちゃんが身を呈して守ってくれたみたいで、三奈ちゃんは背中の火傷だけで済んだそうよ。

 

 そして…8人の中で1番酷い火傷を負っていたのは…《障子ちゃん》だったわ…

 障子ちゃんの場合は、クラスで1番身体が大きいこともあってか、特徴的な6本の腕の所々に《大火傷の跡》が残っていて…本当に痛々しかった…

 

 私とお茶子ちゃんもヴィランのナイフに切りつけられて怪我はしたけど…障子ちゃん達の負った怪我に比べれば、私達の怪我なんて無傷も同然だったわ。

 

 

 

 それに…《常闇ちゃん》と《轟ちゃん》はまだ戻ってきてはいない…

 

 警察とヒーローが引き続き捜索しているようだけど…

 

 2人共に大丈夫なのかしら?

 

 早く見つかって無事に帰ってきてほしい限りだわ…

 

 

 

 こうしてA組のクラスに2つの空席ができてしまいながらも、私達は雄英高校内に建てられた寮へとやって来た。

 

 寮の前で《ミイラ状態(包帯だらけ)のブラドキング先生》から説明を受けた私達は、それぞれが前日に自宅から搬送した《私物》でお部屋作りを始めたわ。

 

 でも何故か《青山ちゃん》は、ブラドキング先生に話しかけて、寮へと入っていく私達とは逆に、先生と一緒に学校へと戻っていったわ。

 

 その夜、皆がそれぞれの自分の部屋を完成し終わった頃、青山ちゃん以外のA組のメンバー(14人)が1階の共同スペースに集まって、三奈ちゃんと透ちゃんが突如《お部屋披露大会》が開催して、楽しい一時(ひととき)を過ごせたわ。

 

 だけど…青山ちゃんは夜になってもまだ寮には戻っておらず、同じ2階の峰田ちゃんの話によると、峰田ちゃんが部屋作りを始める前から終わるまで、青山ちゃんの部屋の前に積み重なった《青山ちゃんの私物が入ってると思われる段ボールの山》が部屋の前にずっと置きっぱなしのままだったみたいなのよ。

 

 もしかしたら青山ちゃんに何かあったんじゃないかって皆で心配していた時、1階のエントランスにある固定電話が鳴って、偶然近くにいた私が電話を取ると、ブラドキング先生からの電話だったわ…

 

『はい、もしもし』

 

『その声は…蛙吹君かい?ブラドキングだ…』

 

『ブラド先生、どうしたんですか?』

 

『うむ…キミ達が寮に戻って来ない青山君を心配して待ってるんじゃないかと思ってな…。青山君なんだが…諸事情があって寮には戻れないんだ…』

 

『ケロッ?戻れない?…いったいどういうことですか?』

 

『…すまないが…今は話すことは出来ない。だが後日に必ず報告するからそれまで待っていてくれ…。それと急遽予定が変更されて、明日は《休校》になり寮からの外出は禁止となった。皆にも伝えておいてくれ…それでは(ガチャ)』

 

『ケロッ!?ブラド先生!?』

 

ツー…ツー…ツー

 

 私の問いの返答を濁しつつ、ブラドキング先生は伝えることだけを伝えると有無を言わさず電話を切っちゃったわ。

 

 

 

 私はこの時点で嫌な予感がした…

 

 

 

 電話越しだから気のせいかも知れないけど…私にはブラドキング先生がなんだが《焦っている》ようにも《心に余裕がない》ようにも思えたわ…

 

 ブラドキング先生の声が焦っているように聞こえたのと、寮に戻ってこない青山ちゃんが関係しているんじゃないかって考えたの…

 

 

 

 私は電話を切った後、ブラドキング先生から言われた内容を皆に伝えた。

 

 当然ながら皆は訳が分からずにいたけど『雄英高校の全寮制で青山ちゃんと両親の間に何かあったんじゃないか?』って皆思っていたわ。

 

 まだクラス全員には聞いてないけど、A組の女性人から聞いた限りでも《雄英での寮生活》については、皆両親を説得するのはかなり苦労したみたい…

 

 青山ちゃんは林間合宿でヴィランの襲撃があった際、唯一A組の中で無傷だったけど、怪我をしてようがしてなかろうが、親からすれば『ヴィランの襲撃を何度も許す雄英高校から突然全寮制の話を持ち出されても信用できない』『授業をマトモに受けることができない雄英高校に自分の子供を任せなれない』という考えを持つのは自明の理…

 

 私もクラスの皆の両親もその考えだったそうだわ…

 

 だから青山ちゃんが寮に戻ってこれないのは、それが大きな原因なんじゃないかって、A組の皆が思っていた…

 

 そうこう考えている内に就寝時間となっていた私達は、青山ちゃんのことは先生達に任せてその日は休むことにしたの…

 

 

 

 

 

 だから…この時は予想もしてなかったわ…

 

 常闇ちゃんと轟ちゃんがいなくなったばかりだというのに…

 

 また《1人》………《クラスメイト》がいなくなるなんて…

 

 

 

 

 

 次の日…

 

 私達は《青山ちゃんが寮に戻ってこない理由》を…

 

 最悪の形で知ることになったわ…

 

 

 

 

 

 突如休日になった私達は、今日は寮からの外出禁止を言い渡されていたものあって、それぞれの自室で自分の時間を過ごしていた。

 

 でも…そんな平穏な時間は《お昼頃》に崩されることになったわ…

 

 昼食の時間になり、私達は1階の共同スペースに集まった。

 共同スペースには大きなTVが備え付けられていて、上鳴ちゃんや切島ちゃん達がニュースを見ていたの。

 

 それは12時になってすぐのことだった!

 

『おっ!おい!コレ!?』

 

『マジかよ!?』

 

『嘘だろ!!?』

 

 TVを見ていた上鳴ちゃんや切島ちゃん達が大声をあげたのよ。

 

 何事かと皆がTVの近くに集まったわ。

 

『どうした~切島~?』

 

『芦戸!皆!コレ!?このニュース!?』

 

『へっ?』

 

 切島ちゃんは後ろに集まっていた私達に気がつくと、リモコンを使ってTVの音量をあげながら放送されているニュースを示していたわ。

 

 私達がTVに意識を向けると…

 

 そこに流れていたニュースの内容は…

 

 

 

{繰り返しお伝えします、先程10時頃《◯◯市の高速道路》と《◯◯市の高速道路》の2ヶ所で護送車2台、パトカー4台がそれぞれヴィランに襲撃される事件が発生しました}

 

 画面が変わり、上空から撮影されている《2ヶ所の高速道路》が交互に表示され、それぞれの黒煙が立ち上り大破した車の消火活動がされている映像が映し出されたわ。

 

{事件の映像を撮影した高層ビルに住む住民によりますと、先日神野区に出現したとされる《脳味噌が剥き出しとなった怪人》10体程が、高速道路を走行していた護送車とパトカーに襲いかかった模様です。護衛をしていたプロヒーローの内1人を除いて全員の死亡が確認されました}

 

 また画像が変わり《USJに現れた黒い怪人》ではなく《白と灰色の怪人達》が護送車とパトカーに襲いかかる映像が2つ交互に映し出された。

 

 数人のプロヒーローが怪人と戦ってもいたけど、相手の数が多すぎるのか苦戦しており、そのプロヒーローの内の1人は!なんと!《プレゼントマイク先生》だったのよ!!?

 

 それから車のガソリンが引火したのが黒煙で何も見えなくなったわ。

 

{発見された遺体は性別不明のため、現在警察は身元の確認を急いでおり、唯一身元が確認できたのは…}

 

 

 

{雄英高校ヒーロー科1年A組所属《青山 優雅》16歳…}

 

 

 

『……………え……?………』

 

 私は思考が停止した…

 

 ニュースで発表された名前…

 

 それは昨日会った《青山ちゃん》だったのよ…

 

 そのあと、ニュースキャスターが何か言ってたけど…

 私はその内容を聞き取ることができなかったわ…

 

 私達は状況把握することができずに立ち尽くしていると…

 

 

 

 寮の扉が開いて《包帯だらけのブラドキング先生》が入ってきたわ!

 

 ブラドキング先生の姿を見た途端、私達は身体を動かして先生に駆け寄り問い詰めたわ!

 

 

 

 昨日、ブラドキング先生と一緒に学校に戻った青山ちゃんに何があったのかを!?

 

 

 

 ブラドキング先生は《全て》を話してくれたわ…

 

 そして…先生が説明してくれた《内容》を…私達は受け入れることができなかった…

 

 

 

 

 

 青山ちゃんが…ヴィラン連合のボスによって差し向けられた《内通者》だったなんて…

 

 

 

 

 

 《青山ちゃんの死》に続いての驚愕な事実に、私の頭は処理が追い付かなかったわ…

 

 《内通者》…青山ちゃんはヴィラン連合のボスに命令されて《USJのカリキュラム》や《林間合宿の場所》を教えていた…

 

 

 

 つまり…

 

 

 

 《相澤先生》と《13号先生》と《洸汰君》が死んだのは…

 

 

 

 《常闇ちゃん》と《轟ちゃん》と《ラグドール》が誘拐されたのは…

 

 

 

 林間合宿で…私達(雄英ヒーロー科1年生)がヴィランに襲われて…何十人も負傷者が出たのは…

 

 

 

 全部《青山ちゃん》のせいだったのよ!!!

 

 

 

 信じたくなかった…

 

 認めたくなかった…

 

 

 

 でもブラドキング先生から語られた内容を理解せざるを得ない…

 

 

 

 昨日ブラドキング先生は青山ちゃんに呼び止められて…

 

『大事な話があります…』

 

 …っと言われ、それが《深刻な話》であると察したブラドキング先生は、青山ちゃんと共に学校へと戻り、根津校長やオールマイト先生、ブラドキング先生やプレゼントマイク先生達を集めて会議室へと集まったらしいわ…

 

 そこで青山ちゃんから語られた《真実》…

 

 

 

・自分がヴィラン連合から送られた《内通者》であること…

 

・USJと林間合宿の情報をヴィラン連合のボスに報告していたこと…

 

・自分とヴィラン連合のボスとの関係性…

 

 

 

 青山ちゃんはその全てを昨日…先生達に打ち明けたそうなのよ…

 当然の真実に先生達は誰もが冷静さを保てなかったそうだわ…

 特にプレゼントマイク先生は青山ちゃんに殴りかかろうとしたけど、他の先生達に止められたみたい…

 

 突如判明した内通者の存在に雄英高校は青山ちゃんを即座に拘束し、次の日に青山ちゃんの両親を含めて警察署に連行されることが決定したそうなの…

 

 そんな大変な時に…私達は呑気に部屋作りをしていた…

 

 

 

 青山ちゃんがどうして、自分が《内通者》であることを明かしたのか?

 

 

 

 それは一言で言えば…《自責の念》だったらしいわ…

 

・USJでは《相澤先生》と《13号先生》が死亡…

 

・林間合宿では《出水 洸汰君》が死亡…

 

・クラスメイトである《常闇ちゃん》と《轟ちゃん》はヴィラン連合に捕まったまま…

 

・そして私達はA組だけじゃなく多くの死傷者が出たこと…

 

 

 

 ヴィラン連合のボスに対する恐怖で逆らえなかったとはいえ…

 

 自分のせいで大勢の人達を危険に晒し…あまつさえ重傷者だけでなく死者まで出した時点で…青山ちゃんの精神は限界だったみたい…

 

 そんな《自責の念》に耐えきれなかった青山ちゃんは…神野事件でヴィラン連合のボスをオールマイトが倒してくれたことを機に、全ての罪を雄英高校に自白した…

 

 

 

 青山ちゃんは先生達によって身柄を拘束され、その後も知っている限りの情報を全て話したという…

 

 そして次の日、《青山ちゃん》と《青山ちゃんの御両親》を隔離保護するために警察署へと連行されることとなり、それぞれの護送車1台とパトカー2台が用意され、青山ちゃんの御両親の護衛をしたプロヒーローが誰かは知らないけど、青山ちゃんの護送による護衛には《プレゼントマイク先生》が名乗りをあげたらしいわ…

 

 

 

 

 

 そして…今も速報でTVに流れている事件に至るという訳なのよ…

 

 

 

 

 

 ブラドキング先生の説明は続き…《英雄高校の生徒にヴィラン連合からの内通者がいたことを世間に公表すること》や《内通者が青山ちゃんであることは公表しないこと》などを話していたけれど…

 

 色々なショックが重なり過ぎて…心がグチャグチャになった私は…先生の話を半分も聞き取れなかったわ…

 

 

 

 先生が帰ってから…ふと時計を見ると…既にお昼を過ぎて13時過ぎになっていた…

 

 お腹は空いてる筈なのに…今の私達は食欲が一切湧かなかったわ…

 

 皆が皆…ショックを隠しきれず…それぞれが自室へと戻っていった…

 

 

 

 部屋に戻った私は《受け入れられない現実》に頭がどうにかなりそうだった…

 

 気づけば私は《青山ちゃん》がどんな人間だったのかを振り返っていた…

 

 でも…いざとなって思い返してみると…私は青山ちゃんとお話ししたことが殆どないってすぐに理解させられたわ…

 

 青山ちゃんは典型的な《ナルシスト》で、いつも《マイペースな男の子》だった…

 当人は《フランス出身》って言ってたような気がするけど真偽は不明…

 

 ただ…青山ちゃんはクラスの誰かと積極的に仲良くしようとはせず、いつも1人で過ごしていた印象が残っているわ…

 

 今思えば…青山ちゃんが私達に関わろうとしなかったのは、自分が内通者だって《後ろめたさ》があったからなのかもしれないわね…

 

 そんな青山ちゃんは…内通者であることをバラしたことで、ヴィラン連合から《裏切り者》と認識され…家族もろとも殺されて…命を落とした…

 

 

 

 

 

 後日、雄英高校は記者会見を開いて《ヴィラン連合からの内通者が雄英生徒の中にいた事実》を公表した…

 

 根津校長が内通者の一件を包み隠すことなく公表した真意は…私には分からなかったわ…

 

 言うまでもないけど…《轟ちゃんと常闇ちゃんの救助の失敗》…《オールマイトの引退》…《エンデヴァーの家庭の闇》…そんなヒーローサイドからすればマイナスの出来事ばかり起きていたというのに…更に追い討ちをかけるかのごとくに突如発覚した《内通者》…

 

 それは完全に…世間からの雄英高校の信頼がガタ落ちするトドメとなっていった

 

 もし…オールマイトがヴィラン連合のボスを倒していなければ雄英高校は廃校にされたと連日ニュースで言っていたわ…

 

 

 

 

 

 私達(ヒーロー科1年A組)は…

 

 雄英高校に入学して半年も経たない内に…

 

 《担任》と《クラスメイト6人》を失った…

 

 後にブラドキング先生から《A組の数日の休学》と《先生達からのカウンセリング》について電話があった…

 

 正直な話、あの時の私は…来月まで雄英高校に居られるかの自信がなかった…

 

 

 

 

 

 そして…私達の不幸は…まだまだ続いていったのよ…




 《赤谷 海雲の個性》なのですが、公式でも判明していないため、今作では《うえきの法則キャラクター》ロベルト十団参謀総長の《カルパッチョ》がコピーしていた能力の1つである【自分の位置と相手の位置を逆の位置に変える能力】とさせていただきました。

 現在放送されているアニメで例えるなら、ONE PIECEのトラファルガー・ローが使う【シャンブルズ】という瞬間移動の技と言ったところですかね。
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