緑谷出久の法則   作:神G

37 / 40
【20万UA突破記念作】7作目!

 前回の投稿から1年という長い期間、全く更新できずお待たせさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした。

 本当は1年と6ヶ月以上に渡って更新できていない《本編の26話》を年内に先に投稿させたかったのですが、どうしても間に合いそうに無いため先にこちら(番外編)を投稿することにしました。

 今回の話を含めて最終チェックが終わり次第、《スローライフの法則》の8作目と9作目のお正月中に投稿する予定でいますので、更新を待っていてくださいませ。

 本編(26話~)に至ってもお正月中は難しいですが、来年の1月中には完成して投稿できそうです。


【番外編】スローライフの法則(7)

●緑谷家…(夜)

 

 

緑谷出久 side

 

「それで活真君、僕に話したいことって何?」

 

「………」

 

 いつもなら21時前には就寝している活真君が、今日に至っては夜の22時を過ぎているのにまだ布団に入っておらず、活真君は寝巻き姿で僕と居間にいた。

 

 真幌ちゃんは既にお母さんの部屋で熟睡している。

 

 夕食にカレーライスを作って食べ終わった僕達は、それぞれが自分の時間を過ごし、僕は以前念のために録画していた《今年の雄英体育祭(1年生の部)》を一通り見てからお風呂に入り、今日は早めに寝ようと自室を襖を開けてみたら活真君がまだ起きていて、どうしたのかと思い事情を聞いてみると、活真君は僕に話したいことがあると言ってきた。

 

 そして、今に至る。

 

「出久兄ちゃん…」

 

「何?」

 

「出久兄ちゃんは…その……僕がヒーローになるのは……反対?」

 

「え?…いきなりどうしたの?」

 

「さっきお風呂に入ってた時にお姉ちゃんが…」

 

 活真君は事の次第をゆっくりと話してくれた。

 

 僕が洗い物をしている間、2人が湯船に浸かっていた時のこと…

 

 

 

 

 

 

『…ねぇ活真?そんなにヒーローになりたい?』

 

『………』

 

『…反対だなぁ…危ないし…』

 

『………』

 

『…今日公園に呼び出してからかった《お饅頭みたいな顔のヒーロー》も……出久を別人と勘違いしていた《蛙っぽいヒーロー》も……日本一のヒーロー高校の生徒のくせに全然頼りなかったし……』

 

『………』

 

『それに…この島にいた《片足の爺ちゃんヒーロー》だって……ずっと昔にヴィランと戦って右足を切り落とされたって言ってた…』

 

『………』

 

『No.1ヒーローのオールマイトだって…あんなにボロボロにされてヒーローを辞めちゃったんだよ?……もし活真がヒーローになれたとしても…そんな危ない目に逢うのは…私…嫌だなぁ…』

 

『……お姉ちゃん…』

 

『それに私、ヒーローよりもっとカッコいい人を知ってるもん!』

 

『誰?』

 

『お父さん!私と活真のことをいつも考えて守ってくれてる!活真にはそんなカッコいい人になってほしいなぁ』

 

 

 

 

 

 

「……って…お姉ちゃんに言われたんだ…」

 

「そっか…」

 

 真幌ちゃんは、本当に《弟思いの優しいお姉ちゃん》だ。

 

 それはそれとして、忙しい雄英生を騙してイタズラを仕掛けたのは感心できないけど。

 

 しかも、真幌ちゃんは今夜にもう一度雄英生にイタズラを仕掛けようと考えていたらしい。

 

 でも、さっき帰宅の途中に出会った《緑色のヒーロースーツを着た女子生徒》が僕を見て人違いをするという醜態を晒したところを見たのもあって、今夜計画していたイタズラは止めたそうだ。

 

 まぁとりあえず、真幌ちゃんのイタズラ癖は一旦置いといて、真幌ちゃんは活真君のヒーローになりたい気持ちを1番に理解しているからこそ、敢えてヒーローを否定する言葉を活真君へ言った…

 

 きっと真幌ちゃんだって…内心は《活真君のヒーローになりたい夢を応援したい気持ち》はあるんだ…

 

 でも《オールマイトがヒーローを引退した今のヒーロー社会の現状》を踏まえて考えれば、真幌ちゃんが不安になって活真君の夢を反対する気持ちは僕にだって納得できる…

 

「出久兄ちゃんも…僕がヒーローになるのは…反対?」

 

「………僕は…」

 

 活真君から同じ質問に再度聞かれた僕は頭を悩ませた。

 

 僕は《ヒーローの夢を諦めた人間》…謂わば《落ちこぼれ》であり《負け犬》だ…

 

 ヒーロー社会からの理不尽な仕打ちに心が折れて…この島へと逃げてきた《臆病者》なんだ…

 

 そんな僕には《活真君の夢を応援する資格》も無ければ…《真幌ちゃんの意見を肯定する資格》も無い…

 

 でも…正直に言うのなら…今の僕は真幌ちゃんの意見に賛成して《活真君にはヒーローとは別の道へ進んで欲しい》と願っている…

 

 そう内心で思ってはいても、口に出して活真君へ伝える勇気なんて僕にはなかった…

 

 だから僕は脳味噌をフル回転させて僕なりの別の答えを探していると、ふと頭に植木さんとウールさんから別れ際に言われた言葉が浮かんできた。

 

 

 

『お前がどんな道に進むにしろ、最後に決めるのは出久、お前自身だ!だから俺もウールもお前が正しいと決めた未来を歩むことを応援するよ!なっ!ウール!』

 

『当然!お前の決める未来が正しいってことを俺も信じてるぜ!出久!』

 

 

 

 僕が精神世界から現実世界に戻る直前に2人が言ってくれた言葉…

 

 精神世界にて植木さんから【能力】を授かり、2人は僕のことを2年近くも間ずっと鍛えてくれて、そのお陰で僕は強くなれた。

 

 現実世界に戻ったら順序に沿って《ヒーローの道》を突き進んでいこうと決めていたんだ!

 

 でも今の僕は…結果的に《ヒーローとして活躍していく道》を諦めて《一般人として平凡に生きていく道》を進んでいる…

 

 

 

 植木さんとウールさんが今の僕を見たら、どう思うことだろうか?

 

 

 

 そんな植木さんとウールさんに対して申し訳ない気持ちしかない僕が、活真君の質問に対しての返答は…

 

「僕は……僕は活真君には…将来《幸せ》になってほしいかな」

 

「幸せに?」

 

「活真君が将来どんな大人になるにしても、その時に活真君が笑顔で楽しく生きているのなら、僕は…それで満足かな」

 

「…出久兄ちゃん……」

 

 

 

 やっぱり僕には…

 

 活真君のヒーローになりたいっていう純粋な夢を否定することは出来ない…

 

 応援する訳でも…反対するわけでもなく…

 

 正論っぽい曖昧な返答を述べて時間を稼ぐ…

 

 なんとも卑怯な手だ…

 

 悩んでいる6歳の子供が僕を信頼して相談してきてくれたと言うのに、僕は答えを先送りにして引き伸ばした…

 

 まぁ…少なくとも去年の4月にオールマイトが僕に言った発言よりかは絶対にマシだとは断言できるけどね…

 

 

 

「………」

 

「あれ?活真君?」

 

「スピー……スピー……」

 

 急に喋らなくなったと思ったら、活真君は座卓に突っ伏した状態で眠っていた。

 

 

 

 夜更かしに加えて話し疲れたからなのか?

 

 それとも僕の返答を聞けて納得したからなのか?

 

 

 

 どうか前者であってほしいと願いながら、僕はスヤスヤと眠る活真君を抱えて布団まで運び、そのまま僕も就寝することにした。

 

 布団に入った僕は暗い天井を見上げながら、ふと昔のことを思い出す…

 

「お母さんは…無個性の僕が『ヒーローになりたい』って言ってた時……どんな気持ちだったんだろうなぁ…」

 

 もう10年以上前のこと……僕が4歳になってすぐに病院で検査してもらった結果、お医者さんから《無個性》という無情な診断された僕は幼きながらに《絶望》した…

 

 お母さんみたいな《重力系の個性》か、それともお父さんやかっちゃんみたいな《炎系の個性》が発現すると信じていたのに…

 

 僕はこの世に《無個性》として産まれてきてしまった…

 

「あの時は…本当に辛かったなぁ……今でも鮮明に覚えてるよ…」

 

 隣の布団で寝ている活真君を起こさないよう僕は小声で呟いた…

 

「でも…僕よりもずっと辛かったのは…お母さんの方なんだよね。無個性の子供を育てるのは…本当に大変だったろうから…」

 

 僕は右手で前髪をかき上げながら、自分の額に刻まれた傷跡に触れた…

 

「今なら……あの頃のお母さんの気持ちが…僕にも分かる気がする…」

 

 指先に感じる《額の傷跡の凹凸》を認識する度に、僕は過去に自分が仕出かした馬鹿な行動の数々に何度も後悔させられた…

 

 

 

 僕はお母さんをどれだけ困らせてきたのか?

 

 

 

 今でこそ自分は【ゴミを木に変える能力】と【モップに掴(ガチ)を加える能力】という別世界の能力を授かったことで、この超人社会では《個性(超能力)を持った当たり前の存在》となっている…

 

 

 

 精神世界で植木さんから【2つの能力】を授かった上に、僕は植木さんとウールさんに鍛えてもらい強くなれた…

 

 今の僕は《現役時代のオールマイト》は無理でも、《シンリンカムイ》《デステゴロ》《バックドラフト》《Mt.レディ》等のヘドロヴィラン事件の現場にいた偽善者ヒーロー達相手なら戦っても確実に勝てる自信がある!

 

 これは自惚れる訳でも…調子に乗ってる訳でも無い…絶対の自信だ!

 

 

 

 精神世界での修行において、僕は植木さんに1度も勝つことは出来なかった。

 

 植木さんは【十ツ星神器・魔王】こそ使えないみたいだったけど、それを差し引いても【一ツ星神器・鉄(くろがね)】から【九ツ星神器・花鳥風月(セイクー)】という9つの神器を使う植木さんに対して、僕は全く歯が立たずに圧倒させられた。

 

 それは同じ条件(【ゴミを木に変える能力】【天界力(による身体強化)70%】【モップに掴を加える能力】)で戦っても変わらず、植木さんは十二分に強かった……いや…強すぎた…

 

 修行期間が600日目を過ぎた辺りで、僕はやっと《神器を使わない植木さん》を相手に引き分けへ持ち込めるようになれたくらいなんだ…

 

 そして結局、僕は最後まで《本気の植木さん》に勝つことは出来なかった…

 

 

 

 何千回も植木さんと手合わせした僕だからこそ分かる…

 

 

 

 偽りの正義を翳(かざ)しているシンリンカムイ達では、植木さんの足元にも及ばない!

 

 天地が引っくり返ってもシンリンカムイ達は、本当の正義を宿している植木さんに勝てはしないと僕は断言できる!

 

 

 

 そうして強くなれた僕は現実世界に戻ってきたらケジメつけてヒーローを目指していこうと意気込んでいた!

 

 

 

 でも…根津校長達が教えてくれた…《ヒーロー公安委員会からの理不尽》と…《個性社会の無情な現実》によって…僕は再びヒーローに絶望した…

 

 僕は全てが嫌になり…そして《ヒーローもヴィランもいないこの島(那歩島)》へと逃げてきた…

 

 

 

 僕は本当にワガママだ…

 

 お母さんもお父さんも決して顔や行動には出さなかったけど、心の中では僕のことを疎ましく思う気持ちがあるに違いない…

 

 

 

 そんなワガママな僕に…

 

 両親に散々迷惑をかけた僕に…

 

 活真君のヒーローになりたい夢を応援する資格なんて…真幌ちゃんの正論に賛同する資格なんて…有りはしないんだ…

 

 

 

 植木さんなら……さっきの活真君の質問に…なんて返答していただろうか…

 

 

 

 結局、僕は答えに見つけられないまま…いつの間にか眠気に負けて眠りについていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●とある病院内にある研究施設…

 

 

None side

 

 《脳味噌が剥き出しの黒い怪物》を入れたカプセルが大量に並ぶ暗い静かな大部屋で、1人の老人がモニターに移る《神野事件後に雄英高校でヴィラン連合の内通者が発覚したニュース》と《内通者の生徒とその家族が殺害されたニュース》の録画映像を見ていた。

 

「全くあの恩知らずが…オール・フォー・ワンから受けた恩を仇で返すだけに飽きたらず、最後まで余計な手間をかけおってからに…。おかげでまだ最終テストが終わってない《上位以下の脳無》達を全部使うことになってしまったわい……ハァ…」

 

 老人…《殻木 球大》こと《ドクター》は、別のモニターに映している《雄英高校にいた内通者含む人々を殺害した脳無達が駆けつけたヒーロー達によって捕まったニュース》を眺めながら溜め息をついた。

 

「あの一家の遺体は回収せんかったが、まぁ仕方がないことじゃな。彼らの葬儀は雄英の教師共が雁首揃えて警備する中で行われていた上、滅多に雄英高校から離れることない番犬の《ハウンドドッグ》も参列していた…。嗅覚の優れた奴がいては、火葬炉に入った遺体をすり変えた瞬間に気付かれる可能性が高い、リスクを冒してまで裏切り者家族の遺体を回収する必要はないからのぉ。まぁその分、彼らを護送及び護衛をしていた《警察》と《ヒーロー》の遺体は手に入ったことじゃし良しとするか」

 

 ドクターはモニターの画面を消すと、全自動椅子を操作して、奥の部屋にある《巨大なカプセルが1つ置かれた大部屋》へと移動した。

 

 

 

 その巨大カプセルの中身は空だった…

 

 しかし、このカプセルが使われるのはそう遠くはなかった…

 

 《新たな魔王》を作り出すための《破滅のカプセル》として…

 

 

 

「死柄木 弔め…本当に困ったもんじゃわい…。ワシは《抹消》の個性が欲しかったというのに黒霧の友人を塵にしてしまうとは…なんと勿体ない。《個性を無効にする個性》が現在の超人社会においてどれだけ希少であるのかは、あれ程念入りに話したというのに…本当に馬鹿なことを仕出かしてくれたもんじゃのぉ…。《抹消》の個性さえ手に入っていれば、オール・フォー・ワンがオールマイトと戦って負けることも捕まることも無かったというのに…」

 

 

 

 目の前のカプセルを見つめながらドクターは愚痴を溢すと、椅子を下りて今度は隣の部屋へと歩いて移動した。

 

 

 

 その部屋は先程までいた大部屋とは違い、《カプセルが4つだけが置かれた小部屋》だった。

 

 

 

「ふ~む………経過は順調のようじゃな。しかし、オール・フォー・ワンも無理難題を言ってくれる。『オールマイトに関わりのある者達を脳無に改造する際は、なるべく《面影》が残すよう丁重に扱ってくれ』などとは…。脳味噌を弄くる時点で《頭部》と《顔》の損傷は避けられんと言うのにのぉ…。《雄英の女教師》は後頭部を損傷しとったのもあって手間は然程かからんかったが、《インゲニウムの弟》《ワン・フォー・オール9代目》《オールマイトの元サイドキック》の3体を生前の面影を残しながら改造するのは本当に苦労したわい…。とはいえ、全員が《ハイエンド脳無》になれる器だったのは《嬉しい誤算》じゃったがな。ハイエンド脳無を作るためには《戦闘思考のヴィランの死体》でなければならんと確信しとったんじゃが、その理論は考え直さなければならんのぉ。《正義を志したヒーローの死体》がハイエンド脳無に適していた…これは貴重なデータじゃわい!」

 

 4つのカプセルの中央に備えられた装置を操作しながら、独り言を呟きつつドクターは不気味な笑みを浮かべていた。

 

 ドクターの左右に2つずつ置かれたカプセル…

 

 その中には、それぞれ姿は違えど怪しい液体に浸けられた《頭から爪先まで全身が真っ黒な脳無》達が入れられていた…

 

「にしても、折角《ワン・フォー・オール9代目の遺体》が手に入ったと言うのに、肝心のオール・フォー・ワンは今タルタロスの中とは…。いつの日か彼が脱獄してくるまで、この子の中の《ワン・フォー・オール》が消えずに残っているかどうか……いや…もしかしたら既に消えているかも知れんなぁ…」

 

 目元を左手で覆いながら、ドクターは右隣にあるカプセルの表面に右手で触れた。

 

 ドクターが触れているカプセルの中には《剥き出しとなった脳味噌の周囲に黄色の髪が生えた筋肉質のハイエンド脳無》が入っていた…

 

「こんなことになるなら、ナインのように《オール・フォー・ワンの個性因子》の適合実験をもっとやっておくべきじゃったのぉ…。ハァ…《後悔先に立たず》とは正にこの事か…」

 

 ドクターは、先日までこの実験施設にいた被験体を思い浮かべながらまた溜め息をついた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●雄英高校の職員室…

 

 

オールマイト side

 

「A組とB組の生徒達、ちゃんとヒーロー活動やっているだろうか?」

 

 私は職員室の窓際で、雪を降らす雲を見上げながら呟いた。

 

「那歩島の人口は1000人、ここ30年の事件は些細なものばかり、まぁ問題は無いでしょう。それにヒーローというものは、貴方のように大災害に単身赴いたり、凶悪なヴィランと戦うことばかりではありません。守る者との関わりは彼らにとって貴重な体験になる筈です」

 

 私の呟きに、後ろのデスクでパソコンのキーボードを打っている《顔を包帯で覆っているブラド君》が返事をしてくれた。

 

「元々は1クラス分の生徒で充分なプロジェクトだったところに2クラスの生徒を向かわせたのですからきっと大丈夫ですよ。今年の文化祭はヴィランのせいで滅茶苦茶にされましたが、その過程でA組とB組の生徒達は絆を深めることが出来ました。性格に問題のある生徒が1人いますが、それでも俺のクラスの生徒達はA組の生徒達をフォローしてくれますよ。まぁ…私のような駄目教師が…言えた立場じゃありませんが…」

 

「ブラド君…」

 

 私はブラド君の心情を瞬時に察した。

 

 今年の4月に発生したUSJ襲撃事件にて、相澤君が死柄木 弔に殺されてからというもの、ブラド君は《相澤君と黒瀬君が命懸けで守りぬいたA組生徒達を自分が受け持ったB組生徒達と共に立派なヒーローへと育て上げて無事に雄英高校を卒業させる》という決意を固めた。

 

 だが…そんなブラド君の熱意を嘲り笑うかのように…A組の不幸は連鎖している…

 

 

 

 《飯田少年》と《青山少年》はヴィランによって命を落とし…

 

 《常闇少年》と《轟少年》はヴィラン連合に誘拐された…

 

 

 

 相澤君がその身を呈して守ったA組の生徒が…1年も経たない内に4人も雄英からいなくなっている…

 

 

 

 ヒーローを目指す以上、危険は付き物だ…

 

 雄英を卒業する前に、ヒーローインターン中の事故などで《命を落とした生徒》がいることは私だって知っている…

 

 雄英の長い歴史上《ヒーロー科に入学した生徒達が誰1人欠けることなく全員で卒業式を迎えられたケース》はまず有り得ない…

 

 《インターン中に死亡するケース》もあるが、その多くは《除籍や中退で雄英を去ったケース》が殆どであり、その例題として上がるのが合理的主義者の《相澤君》だ…

 

 相澤君は雄英高校の教師の中で《一番の生徒思いで優しい教育者》であると根津校長は言っていた…

 

 彼は何よりも生徒が大切だからこそ敢えて厳しく教育し、ヒーローとしての見込みのない生徒には《除籍》という厳正な処罰を下していた…

 

 だが相澤君とて鬼ではない、除籍を決定した生徒には1度だけ《復学》というチャンスを与えていたらしい…

 

 そして除籍を言い渡された生徒達は、除籍という名の《死の経験》をバネにして研鑽を積み、各々が《自分の中に秘められた可能性》を見つけ出すことで、本当の意味で担任(相澤君)と向き合い、本物のヒーローの道を進んでいく…

 

 それこそが《相澤君の教育方針》である…

 

 教師生活を初めて1年も経ってない私が言える立場ではないが、相澤君は正に《教師の鑑》だ。

 

 

 

 なのに…私と来たらどうだ…

 

 

 

 教師らしいことなんて何一つとして出来ていない…

 

 私が雄英の教師として初めて受け持ったヒーロー授業では、雄英の歴史上1番の大失態を犯して《赤谷少年》と《爆豪少年》の人生を狂わせ、更に大勢の人々に多大な迷惑をかけてしまった…

 

 屋内対人戦闘訓練……私が《身勝手な私情》を優先せずに蛙吹少女達の言う通り《爆豪少年が赤谷少年に度を越えた暴力を振るい出した時点》で授業を即中止するべきだったのだ…

 

 

 

 

 

 私の私情…

 

 

 

 

 

 それは《爆豪少年に自分の過ちを自覚してもらうため》だったんだ…

 

 

 

 

 

 今更ながら…私はどうしてあの時にそんなことを考えてしまったのか理解できない…

 

 今年の春、入試の審査にて私は《赤谷 海雲》という緑谷少年と瓜二つの少年の存在を知った…

 

 髪色こそ違ったが、私は彼が緑谷少年だと完全に思い込んでしまい、すぐに会って1年前の件を謝罪しようとしたのだが、根津校長とリカバリーガールから彼は別人だと注意された…

 

 根津校長とリカバリーガール、塚内君とその妹さんの4人は、緑谷少年が現在何処にいるのかを知っているのだが…彼らは一切として私に緑谷少年とその御家族の居場所を教えてはくれなかった…

 

 ただし…《緑谷少年が引っ越した理由》だけは教えてくれた…

 

 

 

 その理由は単純明快…緑谷少年は飛び降り自殺を図った1週間後、奇跡的に目を覚ました!

 

 ……だが…起きて早々に根津校長達から告げられた《超人社会の無個性(緑谷少年)に対する理不尽》を全て知ったことで…彼はヒーローを嫌い…完全にヒーローの夢を諦めてしまったのだ…

 

 根津校長は緑谷少年への償いとして《ヒーローになるための補助》を提案したそうだが、緑谷少年はその提案を2つ返事で断ったらしい…

 

 それからすぐに緑谷少年と御家族は、静岡県の折寺町から姿を消した…

 

 

 

 私は…心から彼に謝りたかった…

 

 

 

 謝ることが多すぎて…何を最初に謝れば良いのか…私自身が自分で判断が出来ない程に…私は彼を傷つけてしまった…

 

 何が《No.1ヒーロー》…何が《平和の象徴》…手を伸ばせば救えた筈の緑谷少年の心を…私は救えなかった……いや…救おうとしなかった…

 

 だから私の緑谷少年に対する《懺悔の気持ち》は膨んでいく一方だった…

 

 

 

 それから1年後、私は《赤谷 海雲》という少年の存在を知った…

 

 最初こそ私は、彼が緑谷少年と似ている点だけで興味をもっていたのだが、彼のプロフィールを調べてみると、警視監と外交官の両親の元へ産まれながら、親の反対を押し退けてヒーローを目指し、自力で雄英高校のヒーロー科に合格するという努力家だった…

 

 赤谷少年は無個性ではないが、両親の役職のせいで中学校までの学校生活は悲惨と言っていい散々な年月を過ごしてきたと記録されていた…

 

 辛い学校生活を送ってきても尚、ひた向きにヒーローを目指すその姿は…正に《緑谷少年》と同じだった!

 

 緑谷少年を救うことも…ヒーローとして育てることも出来なかった私は!今度こそ間違った選択も行動もせずに!教師として彼を立派なヒーローへと育て上げようと心に決めた!

 

 

 

 ただ気がかりだったのは、赤谷少年が入学したヒーロー科1年A組に《爆豪少年》がいたことだ…

 

 

 

 1年前のヘドロヴィラン事件の後、緑谷少年の情報は全て公安委員会が隠蔽したことで、緑谷少年をイジメや差別で苦しめていた《爆豪少年や他の生徒達や教師達》は、何の罪にも問われず罰を受けることなくのうのう過ごしてきた…

 

 私は個人的に爆豪少年を嫌っていた…

 

 彼は私と同じく緑谷少年を自殺に追いやった主犯でありながら、私と違って彼は緑谷に対する罪の意識なんて欠片も抱いていなかった…

 

 

 

 

 

 なんでそんなことが分かるのかって?

 

 

 

 

 

 それは入学初日にあった相澤君の個性テスト後、マッスルフォームで廊下を歩いていた私は爆豪少年に声をかけられて話しをしたからさ。

 

『おい、オールマイト』

 

『ん?ばっ、爆豪少年!』

 

 個人的に会いたくなった少年に話しかけられた私は、歪みそうになる顔を必死に我慢しながらいつもの笑顔をつくった。

 

『こうして会うのは久しぶりだね爆豪少年!1年ぶりかな?』

 

『ああ、あのクソヘドロヴィランの事件以来だからなぁ』

 

『それで、私に何か用かい?』

 

『なぁアンタ、デクが今何処にいるか知らねぇか?』

 

『デク?誰のことだい?私の知り合いにそんな名前の人物はいないが?』

 

『すっとぼけてんじゃねぇよクソが!ヘドロヴィラン事件でヒーロー共の仕事の邪魔して叱れて!ビルから飛び降りた無個性のクソナードのことだよ!』

 

『ッ!?』

 

 爆豪少年の言葉を聞いた瞬間、私はヒーローでありながら《爆豪少年への殺意》を抱いた…

 

 爆豪少年の言っている『無個性のクソナード』とは《緑谷少年》を指しているのは確実だった…

 

 あの事件から1年…緑谷少年の事件は公安によって隠蔽されてしまい世間には公表はされなかったが、折寺中学校の関係者には《緑谷少年が飛び降り自殺を図ったこと》と《奇跡的に命を取り留めた後に緑谷少年は御家族と共に忽然と折寺町から引っ越すこと》は伝えられたと聞いている…

 

 緑谷少年を無個性だという理由で差別し虐めていた生徒や教師達も然別、イジメの主犯である爆豪少年は『この1年間を通して自分の悪行を反省し更正してくれるんじゃないか?』と私は密かに期待していた…

 

 

 

 しかし…どうやらそれは無駄な期待だったようだ…

 

 

 

 爆豪少年は…性根から腐っていた…

 

 

 

 例え、緑谷少年の自殺未遂事件が隠蔽されずに、爆豪少年のこれまでの悪行が1年前に世間へ晒されて社会的制裁を受けたとしても…《爆豪 勝己》という少年は決して反省しなかったことだろう…

 

 それは…その後の彼の発言でも明確だった…

 

『なに驚いてんだよオールマイト?アイツの名前を知ってるってことは今何処にいるか知ってんだろ?教えろや!』

 

『……すまないが、私も今彼が何処にいるのかは全く知らないんだ。私が彼の名前を知っているのは《ヘドロヴィラン事件の現場にいた少年》が同日に《無人ビルからの飛び降り自殺を図って病院に緊急搬送された少年》と同一人物だと聞いていたからなんだよ』

 

『チッ!なんだ知らねぇのかよ!使えねぇな!』

 

『………質問を返すが、何故キミは緑谷少年の居場所を知りたいんだい?彼に謝罪でもするつもりなのかい?』

 

『ハア?謝罪?何を?俺は産まれてこのかた悪いことなんざ一度もした覚えはねぇよ』

 

『………だが…私の知り合いの刑事の調べによると、キミや折寺中時代の同級生達は緑谷少年を日常的に虐めていたという情報があるんだが?』

 

『それはその刑事が無能なだけだろうがクソが!他の奴らはともかく、将来アンタを越えてNo.1ヒーローになる未来が決まっている俺が!そんな下らなねぇことする訳ねぇだろうが!』

 

 爆豪少年の発言を聞いた私は…教師の立場なんか捨てて…爆豪少年を《あの男》を殴った時と同じく全力の拳でブン殴りたかった…

 

 自分の悪行を棚にあげ、緑谷少年に飽きたらず塚内君までをも彼は侮辱したのだ!

 

 しかし…私も緑谷少年を自殺に追い込んだ主犯の1人…

 

 そんな私に爆豪少年を殴る資格なんてない…

 

 私は怒りを沈めつつ、笑顔を崩さないよう両拳を強く握り締めた…

 

 《我田引水》という諺があるが、爆豪少年は正にそれだ…

 

 《自分さえ良ければ他人がどうなろうと関係ない》…

 

 そんな心意気の彼が…私を越えるNo.1ヒーローを目指し…雄英高校を受験して合格するとは…

 

 爆豪少年のその清々し過ぎる態度は…私に《あの男》を彷彿とさせた…

 

『では話しを戻すが、何故キミは彼の居場所を今更知りたいんだい?』

 

『そんなの決まってんだろが!無個性のアイツが今も懲りずにヒーローを目指してねぇか確認するためだよ!ヒーローに叱られたくらいで自殺を図るような腰抜けのゴミカスが!ヒーローを目指すなんざ俺はゼッテェ認めねぇ!もしどっかのヒーロー育成高校に入学してようもんなら!2度とヒーローを目指そうなんて思えねぇように身の程ってもんを叩き込んでやるんだよ!』

 

 緑谷少年を自殺に追い込んだ大部分の原因である爆豪少年は、現役No.1ヒーローである私を前にしてとんでもないことを口にした…

 

 

 

 何故、爆豪少年は…そんな心無い言葉を平然な口調で言えるのか?

 

 何故、爆豪少年は…自分の言葉や身勝手な行動が《ヒーローを目指す者とはかけ離れていること》に気づかないのか?

 

 

 

 私が爆豪少年に抱いた疑問の解答を探していると、そんな私の心境などお構いなしに爆豪少年の暴論は続いた…

 

『それによぉオールマイト!迷惑をかけられたのはむしろ俺の方なんだよ!』

 

『何?』

 

『デクは昔から何の役にもたたねぇ無個性のクソナードだってぇのに、中3なっても『ヒーローになる』なんて叶いもしない夢を見てたんだぜ?俺はそんな奴に現実を見させて目を覚まさせてやるために!10年以上もこの手で教えやったっつうのに!アイツはそんな俺の優しさを無駄にしやがったんだ!』

 

『………』

 

『それに自殺を図ったならそのまま死んでくれりゃあ良かったのによぉ、しぶとく生き残りやがって!しかも意識を取り戻して早々、散々迷惑をかけた俺に謝罪の1つもなく折寺町から出ていきやがったんだ!デクは死んで詫びるべきだったよ!『無個性はヒーローになれねぇ!』って現実を10年以上も親切に教えてやったこの俺にな!』

 

『………』

 

『いいかオールマイト!俺は《謝罪する側》じゃなくて《謝罪される側》なんだよ!人間には生まれつき《強い人間》と《弱い人間》の2種類しかいねぇんだ!《弱い人間》…《カスみてぇな雑魚個性》と《生きる価値のねぇ無個性》の弱者共は!《強い人間》…《俺やアンタみてぇな選ばれた強者》の役にたつ道こそが幸せなんだよ!だから俺がデクに謝る通りは何1つとしてねぇんだ!No.1ヒーローの癖にそんな常識を履き違えてんじゃねぇわクソが!まぁ目障りなクソナードが居なくなってくれたのは精々したけどな!』

 

『………』

 

 《醜悪》と言っても過言ではない《爆豪少年の1人語り》が耳に入ってくる度に、私は怒りを通り越して頭がどうにかなりそうだった…

 

 《こんなにも醜く…心が汚れきった少年》がこの学舎の生徒となって本当に良いのだろうか?

 

 

 

 もし神が存在するのなら…私は問いたい…

 

 

 

 何故…正義の心を持つ緑谷少年に…神は個性を与えなかったのか?

 

 何故…不義の心を持つ爆豪少年に…神は個性を与えたのか?

 

 

 

 僅か5分程度の会話だった…

 

 しかし…そのたった5分で…爆豪少年が緑谷少年に対して何を思って1年間を過ごして来たのか…

 

 ほんの少しでも…爆豪少年は自分に非があったに気づいて反省し…考え直してくれているんじゃないか?

 

 そんな一途の期待を私は抱いていたが…

 

 どうやらそれは全て無駄だったようだ…

 

 爆豪少年は1ミクロ足りとも反省はおろか罪の意識すら感じていなかった…

 

 それどころか、言うに事欠いて口を開けば《緑谷少年への悪口》しか出てこない…

 

 

 

 私は理解した……爆豪少年は《他人を思いやる心》が欠如しているのだと…

 

 

 

 入学式初日で、私は爆豪少年を見限りたかった…

 

 だが……そんな勝手な判断は許されない…

 

 今の私は《No.1ヒーロー》であると同時に、今年から《雄英高校の(新米)教師》となったのだ。

 

 教師は生徒が間違った道を進んでいるのなら、正しい道へと導かなけらばならない。

 

 爆豪少年の周囲にいた大人達(爆豪夫妻、幼稚園から中学校の教師達)が、彼にどんな間違った教育をしてきたのかは定かではないが、こうして爆豪少年が雄英高校の生徒になった以上、教師である私がするべきこと……

 

 それは《爆豪少年の歪んでしまった心を更正すること》だ!

 

 そう思い直した私は…爆豪少年への怒りを沈め…両手の握り拳をほどいた…

 

 

 

 

 

 だがその数日後…雄英高校の歴史上《最悪の悲劇》が起きてしまった…

 

 

 

 

 

 私の初授業…ヒーロー授業《屋内対人戦闘訓練》…

 

 記念すべき私の初授業を受ける生徒達(ヒーロー科1年A組)は、全員が中学までは体験できなかったヒーロー授業に興奮し胸を踊らせワクワクしていた。

 

 生徒達が各々のデザインしたヒーローコスチュームに着替えてグランドβに集合、早く授業を始めてほしいのか皆がはしゃいでいた。

 

 生徒達からの質問の嵐に戸惑いつつ、私は屋内対人戦闘訓練のルールをカンペを読みながら説明した後にクジ引きで2人一組の班分けをして、いよいよヒーロー授業がスタートした!

 

 私自身も始めての教師の仕事に多少舞い上がってはいたのだが、初戦の組み合わせ(AチームvsDチーム)からそんな余裕はなくなった…

 

 

 

 ヒーロー役の《赤谷少年と麗日少女のAチーム》と、ヴィラン役の《飯田少年と爆豪少年のDチーム》の対戦…

 

 運命の悪戯なのか?

 

 初戦から《赤谷少年》と《爆豪少年》が戦うことになってしまった…

 

 

 

 私は嫌な予感がして、クジの引き直しを考えたが《授業時間は限られること》《私の個人的な思い込みであること》もあり、不安はありながらも私はそのまま授業を続行した…

 

 もしもの時は《授業を中止すればいい》…《私が止めに入ればいい》と…

 

 そんな私の浅はかな考えが…

 

 《あの悲劇》を引き起こす事態に繋がってしまうなんて…

 

 

 

 4人が所定の位置につき、ついに訓練が開始された!

 

 核を守る飯田少年がいる最上階を目指す赤谷少年と麗日少女を爆豪少年が個性を使って阻み、2人は爆豪少年の攻撃をかわしながら上の階へと続く階段に向かうも、爆豪少年の個性《爆破》が麗日少女に直撃する瞬間!

 

 赤谷少年が個性《位置変換》で自分と爆豪少年の位置を入れ替え、麗日少女を守りつつ彼女を上の階に逃がした!

 

 

 

 私はこの時《赤谷少年が麗日少女を守った姿に感動していたこと》で気づいていなかった…

 

 赤谷少年の個性で位置を入れ替わった爆豪少年の両手の爆破が壁に直撃し《建物に大きなダメージを与えていたこと》を…

 

 

 

 それから《赤谷少年と爆豪少年の戦闘訓練》が始まったのだが…

 

 それはとても訓練とは呼べない戦いだった…

 

 爆豪少年は赤谷少年に、一方的過ぎる爆破を連発で喰らわせ始めたんだ!!?

 

 爆豪少年と赤谷少年はまだ出会って数日のクラスメイトという接点しかない筈なのに、爆豪少年は復讐にでも取り憑かれたヴィランの如く、赤谷少年へ連続の爆破を浴びせていった!

 

 

 

 予期せぬ事態に蛙吹少女を筆頭に観戦していたA組生徒達は私に《訓練の中止》を要求してきた。

 

 当然、本来ならば即座に訓練を中止にして、赤谷少年をリカバリーガールの元へ連れていき、爆豪少年を叱るのが教師である私のやるべき正しい行動だった…

 

 しかし私は…正しい行動をとらずに《私情》を優先してしまい…訓練を中止しなかった…

 

 

 

 

 

 あの時の私が抱いた《爆豪少年に自分の過ちを自覚してもらう》という私情を…

 

 

 

 

 

 赤谷少年へ容赦なく爆破を何発も喰らわせている爆豪少年だったが、モニター越しの爆豪少年は《狂喜の笑み》を浮かべながらも《連発する爆破の威力が回数を増す毎に少しずつ弱まっていたこと》に私は気がついた!

 

 それを見た私は、爆豪少年が赤谷少年との戦いを通して『自分が過去に緑谷少年にしてきた自分の過ちを自覚して後悔し始めているんだ!』という《妄想》に囚われてしまった…

 

 雄英入学式の日の爆豪少年は《ヒーローを目指すものとは到底思えない発言》を私に言ってきたが、心の何処かではやはり《自分が悪いことをしていた》という感情があり、それをやっと自覚してくれたんだと私は思った…

 

 そして、爆豪少年は突然爆破攻撃をやめて赤谷少年から距離をとった。

 

 当の赤谷少年は、爆豪少年の爆破を何発も喰らってボロボロになっていたというのに、フラフラになりながらも倒れずに立っていた。

 

 モニター越しのその2人の姿を見た私は考えさせられた…

 

 もし…あの場にいるのが《赤谷少年》ではなく《私からワン・フォー・オールを授かった緑谷少年》だったならば…と………

 

 

 

 そんな妄想をしていた私の心境など露知らず、モニターに映る爆豪少年は《右腕に装着された手榴弾のサポートアイテムのピンを何の躊躇もなく引っこ抜いた》…

 

 

 

 それを目視した瞬間!

 

 私は全身の血の気が一気に引き、先程まで思い浮かべていた妄想など全て投げ捨てて、爆豪少年に攻撃を止めるよう大声で指示をした!

 

 だが爆豪少年は、私の言うことなど一切聞かず…あろうことかピンを抜いたサポートアイテムの照準を赤谷少年へと向けたのだ!!?

 

 

 

 何故、爆豪少年が爆破の威力を少し弱めていたのか?

 

 何故、爆豪少年は赤谷少年から距離を置いたのか?

 

 

 

 それは爆豪少年がサポートアイテムのピンを抜いたことでハッキリした!

 

 私は物事を都合の良い方向ばかりに捉え過ぎていた…

 

 

 

 爆豪少年が爆破の威力を少しずつ弱めていたのは…これから放つ大技のためにサポートアイテムの中に貯めている自分の汗の量を調整していたため…

 

 爆豪少年が赤谷少年から距離を置いたのは…単純にこれから自分が放つ大技に巻き込まれないようにするため…

 

 

 

 《教師として生徒の爆豪少年と向き合って更正していこう》という私の甘い考えが完全に裏目に出てしまい、それに気づいた時には自分の馬鹿な考えに後悔する間もなく…

 

 赤谷少年と爆豪少年のいる階のモニターが光に包まれると同時に、大きな爆発音と激しい地響きがモニタールームに響き渡った!!!

 

 

 

 爆発と地響きがおさまると、私は咄嗟にモニタールームにいる生徒達(A組16人)の無事を確認すると、すぐにモニターを確認した!

 

 殆どの監視カメラが壊れていたが、辛うじて生き残っていた監視カメラの映像を見て私は戦慄させられた!

 

 訓練に使われていたグランドβの建物が倒壊していたのだ!!!??

 

 その惨状を見た瞬間、私はモニタールームの変形した扉を無理矢理に抉じ開けて、4人の生徒の救出へと急行した!

 

 

 

 

 

 それからは…あっという間だった…

 

 

 

 

 

 《建物の倒壊に巻き込まれた4人の生徒達の救出》…

 

 《根津校長や相澤君達からの叱責》…

 

 《公安委員会からの情報漏洩防止命令》…

 

 《爆豪少年の除籍処分》…

 

 《赤谷少年は手術は成功したものの意識不明の重体》…

 

 《赤谷夫妻(赤谷警視監、赤谷外交官)の来訪》…

 

 《赤谷少年の中退》…

 

 《相澤君が私の大失態の身代わりとなって教育権の剥奪及び雄英教師の辞職》…

 

 《爆豪少年の刑事裁判》…

 

 《世間に公表された爆豪少年の悪行の数々》…

 

 

 

 そして…

 

 

 

 《爆豪少年のタルタロス収監》…

 

 

 

 その全てが…私のたった1度の判断ミスによって引き起こされてしまった《悲劇》…

 

 教師という立場になっておきながら…

 

 個性を使った危険な授業中だったというのに…

 

 私は私情を優先し判断を誤った結果だ…

 

 それから私は…蛙吹少女から何度も何度も同じ質問をされたが…その質問に対する返答を見つけられずダンマリを決め込むことしか出来なかった…

 

 それは彼女達が那歩島へ向かう前日もだ…

 

『ケロッ…オールマイト先生…いい加減に教えてください…。どうして…あの時すぐに…訓練を中止してくれなかったんですか?』

 

 私は彼女のその質問に…またしても無言を貫いてしまった…

 

 『私が私情を優先してしまったせいなんだ…』と正直に答えたところで…それは蛙吹少女が納得する答えにはならない…

 

 

 

 何故…私はあの時…私情を優先してしまったのか?

 

 

 

 私自身…あの悲劇からずっっっと考えてきた…

 

 だが…いくら考えたところで…ダメ教師である私の脳味噌では…私自身と蛙吹少女が求める答えを導き出すことは出来なかった…

 

 

 

 いや…私には教育者としての資格が無かったことは…もっと前に気づいて自覚していた…

 

 

 

 そう…去年の春に出会った1人の少年…

 

 個性を持たずにこの世に生を受けながらも、誰よりも真剣にヒーローを目指していた無個性の少年…

 

 そんな少年の夢を私は真っ向から否定してしまい…自殺に追いやった…

 

 言い訳のしようがない…

 

 無個性ゆえに…彼のことを思い私が言った言葉は、少年の心を…《緑谷少年の心》を完膚無きまでに破壊し…彼の生きる希望もを打ち砕いてしまった…

 

 絶望し…生きる希望を失った緑谷少年は…ビルから身投げした…

 

 ヘドロヴィラン事件の後、救急車に運ばれる《血まみれの緑谷少年の顔》が…今でも私の頭から離れることなく鮮明に残っている…

 

 瀕死の重症となった彼だったが、リカバリーガールのお陰で一命を取り止め、1週間後に目を覚ました。

 

 

 

 彼の意識が回復したと知った時は本当に安堵した!

 

 

 

 しかし…私は再び…彼を絶望させてしまった…

 

 今になって思えば、私は何がなんでも公安委員会の隠蔽工作に反発するべきだった…

 

 結果、奇跡的に意識を取り戻した緑谷少年は、公安委員会の《理不尽な隠蔽工作(無個性への理不尽)》を知ったことで完全に打ちのめされ…ヒーローの道を諦め…母親と共に静岡県から出ていき…別の場所へと引っ越してしまった…

 

 緑谷一家が何処へ引っ越したのか…私は全く知らない…

 

 知っているのは《根津校長》と《リカバリーガール》、《塚内君》と《塚内君の妹さん》の4人だけが知っているのだが、誰に聞いても彼らは私に《緑谷少年の所在》を断固として教えてはくれなかった…

 

 

 

 

 

 私は…彼(緑谷少年)のことを思い出す度に《後悔の念》に駆られる…

 

 

 

 

 

 あの時…私が緑谷少年の夢を否定することなく…ワン・フォー・オールを継承し…新たな平和の象徴として育てていたのなら…運命が大きく変わっていたのではないか?……と…

 

 

 

 

 

 だが…もう遅い…

 

 今更どんなに後悔したところで過去を変えることは出来ない…

 

 ワン・フォー・オールはこの世から消えた…

 

 私がヒーローを引退する前にオール・フォー・ワンをタルタロスにブチ込むことは出来た…

 

 だがまだ…お師匠の御家族である《死柄木 弔》が残っている…

 

 本来なら私が彼を止めなければいけないというのに…

 

 個性(ワン・フォー・オール)を失った私にはもう…

 

 出来ることは…何もなかった…

 

 

 

 《No.1ヒーロー(現役ヒーロー)》の職を失った私は…未練がましくも未だに《雄英の教師》として雄英高校にいる…

 

 私の中の《残り火(ワン・フォー・オール)》は消えた…

 

 《平和の象徴》は死んだのだ…

 

 私はもはや…このヒーロー社会の《お荷物》でしかない…

 

 先生(グラントリノ)はあの時(神野区激戦後の病室)…

 

『お前は雄英に残ってすべき事を全うしろ。平和の象徴ではいられなくなったとしても、オールマイトはまだ生きてるんだ』

 

 …と言ってくれたが…いったい私に何を全うしろと言うのか?

 

 

 

 肝心な時に私は《私情》を優先し…

 

 《生徒》も…《同僚》も…《相棒(サイドキック)》も…誰1人として守れない…

 

 

 

 お師匠の時も…

 

 

 

 緑谷少年の時も…

 

 

 

 爆豪少年と赤谷少年の時も…

 

 

 

 相澤君と黒瀬君の時も…

 

 

 

 飯田少年の時も…

 

 

 

 デイヴの時も…

 

 

 

 常闇少年と轟少年の時も…

 

 

 

 青山少年の時も…

 

 

 

 そして…通形少年と…ナイトアイの時も…

 

 

 

 私がヒーローとして良かれと思った行動の全てが裏目に出てしまう…

 

 私はいつもそうだ…

 

 失なってから……居なくなってから……全てが終わってから……初めて気がついて後悔するんだ…

 

 

 

 もし万が一、那歩島へ向かったヒーロー科生徒達に何かあったとしても……私は無力…

 

 彼らを心配したところで…今の私はこうして職員室の窓から《空を眺めること》しか出来ないんだ…

 

 

 

 

 

「緑谷少年…キミは今…何処にいるんだい?キミは…今のヒーロー社会を…今の私を…どう思う?」ボソッ

 

 

 

 空から降り注ぐ雪を見ながら…私は小声でそう呟いた…

 

 何処にいるかも分からない緑谷少年に対して私は質問した…

 

 返答が返ってこないと分かっているのに………




 《スローライフの法則》の世界にて【出久君がヒーローを目指さなかったことで《逮捕されなかったヴィラン(ステイン、オーバーホール等)》とそのヴィラン達によって《現在も被害を受けている人達(デイヴ、壊理)や犠牲となったヒーロー達》の詳細】及び【オールマイトや根津校長達が公安委員会から受けた警告内容】の2つなのですが、どちらもまだ完成はしていないため、その2つは頃合いを見て今後の《スローライフの法則》の話に組み込んでいきます。

 感想の返信につきましては、まだ返信していない皆様からの感想を含め、お正月中に投稿できる話を全て投稿し終えた後に必ず全て返信いたしますので、そちらも気長にお待ちくださいませ。

 来年度も【緑谷出久の法則】をどうぞよろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。