緑谷出久の法則   作:神G

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【20万UA突破記念作】9作目!

 スローライフの法則の世界にて、林間合宿で火傷を負った雄英生達がそれぞれどんな火傷跡が残ったかにつきましては、皆様のご想像にお任せいたします。

 ただ、包帯グルグル巻きのブラドキングが負った火傷を私個人で例えるのならば《るろうに剣心》の《志々雄 真実》に近いですかね。



 前回の話(スローライフの法則8話)でも思いましたが、やはりB組を含む34人の雄英生達の会話シーンは中々難しいですね。



 前回の前書きで書いた通り、スローライフの法則の世界では《那歩島に駐在していた高齢のヒーロー》は《とあるアニメキャラクター》として登場いたします。

 《右足が義足のお爺さんのアニメキャラクター》となれば、既に感づいている方もいらっしゃるかもしれませんが、今回の話も楽しんでいただけたら幸いです。


【番外編】スローライフの法則(9)

●那歩島…(明朝前)

 

 

緑谷出久 side

 

 那歩島に日が差し込む前の時間帯…

 

 2週間ぶりにこの時間に外へ出た僕は、この島にある空き家…《義足を着けたプロヒーローのお爺さんが住んでいた家》の前へとやって来た…

 

 僕の悩みを誰かに聞いてほしい…

 

 本音を言うのなら…植木さんとウールさんに聞いてほしい…でもそれは叶わない…

 

 かといって真幌ちゃんや活真君へ話せる内容じゃない…

 

 どうすればいいのか分からなくなった僕は…この島でお世話になった《ヒーローのお爺さんが住んでいた家》に足を運んだ…

 

「ここに来たって…何かが解決する訳じゃないのに…」

 

 当のお爺さんはもうこの島にはいない…

 

 そんなことは分かってる…

 

 でも…

 

 それでも…

 

 植木さん達や根津校長達以外で僕が本心を話せたのは…

 

 この島では《ヒーローのお爺さん》しかいないんだ…

 

 

 

 僕はこの島にいたヒーローのお爺さんと過ごした日々を思い返した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この島に勤めていた《義足を着けたプロヒーローのお爺さん》とは、僕が今年の7月に個性使用許可免許証の取得するまでの約1年3ヶ月の間、海岸での個性使用の許可をもらうためもあって交流があった。

 

 ヒーローとの関わりは極力避けて生きていこうと決めた僕だけど、この超人社会のルールは守らなければならない。

 

 普通、現役のプロヒーローが《ヒーローを目指していない一般人の個性特訓の監視》を引き受ける義理はないんだけど、根津校長の口添えもあったおかげか、そのお爺さんは条件付きで僕の個性使用を認めてくれた。

 

 その条件というのは、個性特訓をする場所は《人がいない時間帯(夜明け前、真夜中)の海岸》で行い、かつ《海岸に落ちているゴミもしくは流れ着いたゴミを掃除すること》、そしてヒーローのお爺さんの趣味である《将棋》の相手をすることが条件だった。

 

 僕としては《将棋の相手》はともかく、《特訓は人目を避けたかったこと》と《能力の発動条件》もあったから願ったり叶ったりだった。

 

 そんなヒーローのお爺さんは70歳を超えた高齢であり、今年の11月をもって50年以上勤めてきたヒーロー業務を引退した。

 

 島の人達は、長きに渡り那歩島の平和を守ってくれたヒーローのお爺さんを、引退する11月末まで手厚く労っていた。

 

 僕は7月に個性使用許可の免許を取得して以降は、たまに誘われる将棋の相手以外でそのお爺さんとは会っていなかった。

 

 ヒーロー不信になってしまった僕だけど、そのお爺さんには本当に色々とお世話になったから、免許を取得した後も将棋相手での交流は続けていた。

 

 まぁ実を言うと、僕はこの島に来るまで将棋のルールは全くといっていい程分からなかったけど、ヒーローのお爺さんが素人の僕でも分かるように将棋を教えてくれたんだ。

 

 お爺さんの教えもあって、僕は将棋が多少強くなれたけど、ヒーローのお爺さんには到底及ばず、お爺さんがこの島を去るまで結局一度も勝てなかった…

 

 お爺さんは僕の将棋の腕前については『筋は良いぞ』とか『お前さんとの勝負は一瞬も油断できんわい』と言って称賛してくれていた。

 

 

 

 そして、そのお爺さんがヒーローを引退して那歩島を去る前日、僕はお爺さんから連絡を受けて『この島を去る前に最後の将棋相手をしてくれんか?』と頼まれた。

 

 僕は二つ返事で了解し、お爺さんの家に行くと既に家の中の家具や荷物が無くなっており、縁側にお爺さんが将棋盤を置いて僕を待っていた。

 

 僕とお爺さんは将棋を指す際は、一切会話することなく黙って打つのが当たり前だった。

 

 でもその日のお爺さんは、何故か僕へ《自分の昔話》を語りながら将棋を指してくれたんだ。

 

 

 

・30代の時に《とあるヴィラン》との戦いによって片足を失ったこと…

 

・片足を失って以降は、この島でのヒーロー活動を含めて、本州にいる若いプロヒーローやヒーロー育成高校の学生の指導と後進育成に情熱を注(そそ)いでいたこと…

 

・5年程前、最後に指導していた《新人ヒーロー》と《お爺さんが養子として引き取った身寄りの無いヒーロー高校の学生》の2人の弟子のこと…

 

 

 

 勝負の間、お爺さんは自分の過去を僕に淡々と話し続けてくれた…

 

 何故、ヒーローのお爺さんは僕に自分の昔話を語ってくれたのか?

 

 《ヒーローを目指している人間》に話すならともかく、どうして《ヒーローを諦めた僕》にそんな話をするのか…僕には理解できなかった…

 

 お爺さんがこの島で《若いヒーローや学生を指導していたこと》は島の人達から聞いていたから僕も知っていた…

 

 でもあの日、僕が次の一手に頭を悩ませて手が止まっていると、お爺さんはこの島の誰にも教えていない《世間には伏せられている機密情報》を僕に話し始めたんだ…

 

『30年以上前に片足を失ったワシは、一時期はヒーローの引退を考えておった……じゃが親友からの薦めで引退はせず…この島でヒーロー活動をしつつ、後進育成に取り組むことにした…』

 

 パチッ

 

『島の人達が教えてくれました。貴方が臨時の教官として日本中の《ヒーロー高校の生徒》や《新人ヒーロー》の教育をなさっていたんですよね』

 

 パチッ

 

『そうじゃ、まぁ5年前に指導していた生徒達を最後に臨時教官の職を下りたがな』

 

 パチッ

 

『この島でのヒーロー活動に加えて後進育成と指導まで、本当に長い間お疲れさまでした』

 

 パチッ

 

『なぁに、その礼を言うならワシではなく、当時片足を失ったショックで引退を考えとったワシを奮い立たせてくれた親友に言ってくれ』

 

 パチッ

 

『その親友の方はまだヒーローを続けているんですか?』

 

 パチッ

 

『いや5、6年程前に自分のヒーロー事務所を弟子に託してすぐに引退したそうでな、今はのんびりと老後を過ごしとるらしい』

 

 パチッ

 

『その人も将棋を指すんですか?』

 

 パチッ

 

『ああ、老後はアイツと将棋を指すのも良いかも知れん』

 

 パチッ

 

『………あのぉ…桑島さん……どうして…僕にそんな話を?』

 

 僕は将棋を指す手を止めて、ヒーローのお爺さんこと《桑島 慈悟郎(くわじま じごろう)》さんに疑問を訪ねた。

 

 この人は根津校長から僕の事情(【別世界の能力】を除く)を全て聞いて知っているため、僕の心境を察して個性特訓と将棋以外では必要最低限の会話しかしてこなかった…

 

 なのに、今日に限っては自分の過去の話をこれでもかと言うくらいに話してくれている…

 

『……出久、お前さんはワシが最後に指導した教え子の1人によく似ておる…』

 

『えっと~…それって桑島さんが特に目をかけていたっていう《新人ヒーロー》と《ヒーロー高校に通っていた学生さん》のことですよね?どちらのことですか?』

 

『ワシが養子として引き取った方じゃ』

 

『学生さんの方ですね』

 

『今はプロヒーローになって活躍しておる。最近第一子が産まれて父親になったそうじゃ』

 

『そうなんですか!?おめでとうございます!ってことは!実質的に桑島さんのお孫さんっていう訳ですね!』

 

『そうなるな、まさかあの泣き虫がこんな別嬪(べっぴん)さんと結婚できた上に父親になるとはな……正直な話、ワシが生きてる間にアイツが身を固めるのは無理じゃと思っとったんじゃがのぉ』

 

 

 

 桑島さんは将棋盤の傍に置いていた自分のスマホを何度かタップすると、スマホの画面を僕に向けて《1枚の写真》を見せてくれた。

 

 その写真には《ボロ泣きしながら赤ん坊を抱っこする金髪で短髪の男性》と《黒髪で長髪の八方美人な女性》が写っていた。

 

 

 

『…桑島さん…僕は《ヒーローの夢を諦めた出来損ない》です…。プロヒーローになって家庭まで築けた…こんな立派なお弟子さんとは似ても似つかないですよ…』

 

『出来損ないか……コイツもそうじゃったわい。儂は長年若い奴を大勢見てきたが、コイツは一生忘れられない一番の問題児じゃった』

 

『?』

 

 話の意図が掴めないでいる僕を尻目に、桑島さんはスマホを将棋盤の横へ置くと、外の景色を見ながら昔を懐かしんでるような表情になった。

 

 桑島さんが何を考えているのかサッパリ分からない僕は、目の前の将棋に意識を戻して次の一手を指した。

 

 パチッ

 

『今日お前さんを呼び出したのは他でもない……儂がこの島を去る前に……お前さんにだけは話しておきたいことがあったからじゃ』

 

 パチッ

 

『え?どうして僕だけに?…そんなに僕がそのお弟子さんと似ているからですか?』

 

 パチッ

 

『それもあるが……そうじゃなぁ…強いて言うのなら…理由は他に2つある』

 

 パチッ

 

『2つ?』

 

 パチッ

 

『《1つ目》は、お前さんには儂が最後に指導したもう1人の弟子のようになってほしくないからじゃ』

 

 パチッ

 

『もう1人……当時デビューしたばかりの《新人ヒーロー》ですね』

 

 パチッ

 

『そうじゃ、ソイツは儂が見てきた弟子の中でも類を見ない努力家でな、ヒーロー高校には首席で合格しつつ1年生の時点で仮免を取得し、インターンにも積極的に参加して活躍しとった天才じゃった』

 

 パチッ

 

『そんな天才が桑島さんの元に指導を受けに来たんですか?』

 

 パチッ

 

『ああ、奴はプロヒーローとしてデビューしても尚、自分の実力に満足しておらんかった。奴はヒーロー協会と当時就職したヒーロー事務所にかけあって、この島で《電気系の個性持ちの指導》をしておる儂の元で修行させてほしいと頼み込んでこの島へとやって来た。ヒーロー協会からの要望もあった儂は、ソイツを1年間だけ指導してやったんじゃ』

 

 パチッ

 

『天才な上に強くなるために努力を惜しまないなんて、正にヒーローになるために産まれてきた凄い人なんですね』

 

 パチッ

 

『その点は儂も高く評価していた。じゃが…その反面で奴は性格に問題があり過ぎた…』

 

 パチッ

 

『え?……それって…まさか…《自分より弱い立場の人を見下すような思いやりがない人間》だった…ってことですか?』

 

 パチッ

 

『……その通りじゃ、奴はある種の天才じゃった…じゃが…根性は腐っとった…。プライドが高いというのか…自尊心の塊というのか…自分より劣る人間を下に見る傾向があってな。儂に対しては敬意を払っておったが、もう1人の泣き虫な弟子に対しての接し方や言動は誉められたものではなかった…。儂は気になってヒーロー協会にソイツの学生時代について確認をとった。その結果、奴は学生時代は小学校から高校までの間、クラスメイトに対しての暴言や暴力を当たり前のように働いていたようでな、奴の言動と行動が原因で同級生でヒーローを目指す者は目に見えて減っていたそうじゃ』

 

 パチッ

 

『(《かっちゃん》みたいな手前勝手な人が他にもいたんだなぁ…。いや、僕が知らないだけで今のヒーロー社会はそんな人達が当たり前なのかもしれない…。当のアイツは今タルタロスの中だけど…)』

 

 パチッ

 

 僕が内心でもう名前すら口にしたくない幼馴染のことを思い浮かべる中、桑島さんは将棋の手を止めて俯き表情が暗くなっていく。

 

『儂はな…将来あの2人が協力して…今後のヒーロー社会を支えてくれることを願っておった。じゃが…もうその願いは一生叶うことはない…』

 

『え?…それって…』

 

 桑島から発せられた言葉の意味を僕は察した… 

 

 《一生叶うことはない》…

 

 つまり、その《かっちゃん》みたいな人はもう… 

 

『…あのぉ…もしかして……亡くなられたんですか?そのもう1人のお弟子さんは…』

 

『ん?あぁ違う違う、ソイツはまだ死んどらんよ』

 

 僕はてっきり、今年の春から各地で暴れている《ヒーロー殺し》によって命を落としたんじゃないかと重く受け止めていたのだが、桑島さんはさっきの暗い雰囲気は何処へやら、ケロッとした態度で颯爽に答えてくれた。

 

『えっ?じゃあ復帰できないほどの大怪我をして入院しているとか?』

 

『それも違う、奴は五体満足の健康体じゃ』

 

『???…では…どういう意味ですか?《最後に指導したお弟子さん2人がこれからのヒーロー社会を支えることが一生叶わない》というのは?』

 

 他にも色々な予想はあったけど、あの時の僕は《その答え》を自分で導き出せなかった…

 

 

 

 いや、本当は僕が予想した考えの中に答えはあったんけど、まさか《アイツと同じ末路を辿ったなんてあり得ない》と僕は勝手に決めつけていたんだ…

 

 

 

 僕の問いに暫く無言だった桑島さんは、少し間を開けてから答えを教えてくれた。

 

『もう1人の弟子はな……今は《タルタロス》に収監されとるんじゃよ』

 

『タッ!?タルタロスに!!?』

 

『シーッ!声がデカイわい!!!(小声)』

 

『あっ…す、すいません…』

 

 桑島さんの発言に僕は思わず声をあげてしまった!

 

 まさか《かっちゃん》と同じ末路を辿っていたなんて!?

 

 《現役ヒーローがタルタロスに収監された》なんて、元ヒーローオタクの僕でも聞いたことがない…

 

 つまり《世間には公表されていない》って訳だ…

 

 そうなると…導き出される答えは1つ…

 

『ヒーロー公安委員会が事実を隠蔽した…ってことですね…』

 

『そうじゃ…お前さんの時と同じようにな…』

 

 パチッ

 

 桑島さんは皮肉を込めた発言をしながら、次の一手を指した。

 

『《ヒーローがタルタロスに収監された》なんてニュースや情報は聞いたことがありません。そのお弟子さんは公安が隠蔽する程に不味いことをした…ということなんですか?』

 

 パチッ

 

『詳細までは言えんが…ソイツは《とある政治家》に騙されて悪事に手を染めてしまったんじゃ…ヒーローでありながらな…』

 

 パチッ

 

『せっ、政治家!?…どんな事件なのかは存じませんが…その政治家も逮捕されたんですか?』

 

 パチッ

 

『いや…その政治家は警察の調査の結果、証拠不十分で裁判にはかけられなかった。しかもその事件は公安委員会が揉み消したために世間へ公表されることはなかった……しかし、悪事に手を染めたその馬鹿弟子は最終的に全ての罪を被せられてしまい、結果タルタロスにブチ込まれたんじゃ…』

 

 パチッ

 

『(経緯は違えど、その人は本当に《かっちゃん》とよく似てるなぁ…。似た者同士、案外タルタロスの囚人部屋が隣で仲良くなってるのかもしれない………いやアイツの性格を考えれば、それはないか…むしろ延々と口喧嘩をしてて五月蝿そうだな…)』

 

 パチッ

 

『何故アイツがあんな馬鹿なことを仕出かしたのか…奴を指導していた師範の儂には到底理解できんわい』

 

 パチッ

 

『……そのお弟子さんは警察が捕まえたんですか?』

 

 パチッ

 

『それがお前さんにこの話をする《2つ目》の理由じゃ』

 

 パチッ

 

『え?どういう理由ですか?』

 

 パチッ

 

『ソイツを捕まえた……いや…倒したのは警察ではなく…デビューしたばかりの《駆け出しヒーロー》だったんじゃよ』

 

 パチッ

 

『駆け出しヒーロー………えっ?まさか!』

 

 僕は《歩兵の駒》を指先で持ったままの状態で固まった…

 

 桑島さんが話してくれたこれまでの内容を聞いた上でその答えが分からない程、僕は馬鹿じゃない…

 

 《悪事に手を染めたお弟子さん》を倒したヒーロー…

 

 それは…

 

『そう…コイツじゃ…』

 

 桑島さんはスマホを手に取って、さっき見せてくれたスマホ画面の写真をもう一度僕に見せてきた。

 

『この金髪のお弟子さんが……兄弟子さんを倒したと…』

 

『そうじゃ、本来なら奴を指導していた師範の儂が止めに行くのが筋じゃった…。じゃが…泣き虫で臆病者だったがコイツが…悪事に手を染めた兄弟子を…師範である儂に代わって見事に倒し…ケジメをつけてくれたんじゃ』

 

『……本当に…立派なお弟子さんですね』

 

『あぁ……コイツは……儂の誇りじゃ…』

 

 桑島さんはそう言うと、スマホの画面に映るお弟子さんを見ながら優しい笑みを溢した。

 

『………』

 

 でもすぐにその笑みは消えて桑島さんは表情を曇らせていく…

 

 当然だろう…

 

 

 

 手塩にかけて育てた弟子の1人が《ヴィラン》となって悪事を働いた…

 

 

 

 教育者にとってこれ以上に辛く悲しいことはない…

 

 事件の詳細を知らない他人の僕がとやかく言う資格はないけど…

 

 確かなのは《桑島さんには何の落ち度もないこと》…《ヴィランとなった兄弟子さんの尻拭いを師範である桑島さんに代わって引き受けた弟弟子さんは立派であり尊敬に値すること》…そして《桑島さんを苦しめた元凶が、兄弟子さんをヴィランの道へと引き込んだ政治家と、その政治家に騙されてプロヒーローでありながらヴィランにもなった兄弟子さんであること》だ…

 

 僕は桑島さんと知り合って1年程の付き合いしかないけど、桑島さんは義理人情に厚い人だ。

 

 本州に比べて娯楽が少ないこの那歩島で、30年以上に渡りヒーロー業務を勤めながら、次の世代のヒーロー達の指導までしていた。

 

 

 

 それは決して誰にでも出来ることじゃない…

 

 

 

 ヘドロヴィラン事件に関わったヒーロー達(シンリンカムイ、デステゴロ、バックドラフト、Mt.レディなど)然別、近年のヒーロー達は《派手な活躍して世間から注目されたい欲求》を優先し、ゴミ拾いなどの《地味な地域貢献》は劣後されている。

 

 東京や大阪などの人口の多い都市部(都会)を活動区域とするヒーローが多く、那歩島のような地方(田舎)を活動区域として望むヒーローは少ない。

 

 人口密度が高ければ犯罪(ヴィラン事件)が多いのは事実だけど、過疎化の影響で犯罪率が低いとはいえ《ヒーローの助けを求めている人は大勢いる》…それは都会だろうと田舎だろうと同じ…

 

 

 

 つまり僕が何を言いたいかというと…

 

 《活動区域》や《(世間からの)評価》なんて関係なく…

 

 《誰かのために役に立とうって思える人》こそが《本当のヒーロー》なんだ…

 

 

 

 

 

 桑島さんは謂わば、僕の尊敬する最高のヒーロー《植木 耕助》さんが《ヒーローの道を全うした未来の姿》なんじゃないか?

 

 …っと僕はいつしか思うようになっていたんだ…

 

 

 

 

 

『………桑島さん……最後まで聞いておいて何ですが…この話ってかなりの機密情報ですよね?どうして僕みたいな一般人に話してくれたんですか?』 

 

 桑島さんにかける言葉が見つからなかった僕は話題を逸らしつつ、手に持っていた《歩兵の駒》を指した。

 

 パチッ

 

『確かにな、じゃから今話したことは儂とお前さんだけの秘密じゃ』

 

 パチッ

 

『………』

 

 パチッ

 

『出久よ……儂はな……次にこの島の平和を任せられるヒーローがいるとするのなら……それは《お前さん》だと考えておるんじゃ』

 

 パチッ

 

『えっ……僕が……ですか?』

 

 桑島さんの突拍子のない発言には、僕は再び将棋を指す手が止まった。

 

『そうじゃ、この島にどんな災いが訪れたとしても…お前さんがきっとこの島の人々を守ってくれると儂は信じておる。出久…お前さんは…この島の《守り神》じゃ…』

 

『…桑島さんにそう言っていただけるなんて光栄です。…でも僕が持っている《個性使用許可免許証》はあくまでも職業用の免許なので、プロヒーローみたいに《ヴィランとの戦闘》で使えるものではありません…。それに《守り神》なんて…僕みたいな凡人には荷が重すぎますよ…』

 

 パチッ

 

『………』

 

 次の手を指しながら言った僕の返答に桑島さんは無言だった…

 

 僕に言われなくたって、50年以上プロヒーローを務めてきたベテランの桑島さんならそんな当たり前の常識は承知している…

 

 この先…もし一般人の僕がヴィランと戦ってしまったのならば最後、苦労して取得した《免許の剥奪》なんて甘い処罰では済まされない…

 

 理由がどうであれ、資格(ヒーロー免許)未取得者が保護管理者の指示なく個性で危害を加えることは、例え相手がヴィランであろうと《立派な規則違反》と見なされて厳正な処罰が下される…

 

 そしてその処罰の重さは、最悪の場合ヴィランと同じ水準として扱われ《逮捕》される可能性だって十分に有り得てしまう…

 

 そうなってしまったならば…何もかも終わりだ…

 

 《平穏な人生》なんて2度と望めない…

 

 《犯罪者(前科者)》として残りの人生は後ろ暗い生活を虐げられることとなる…

 

 

 

 そう…無個性として4歳から過ごしてきたあの辛苦の10年……それを上回る《地獄》をだ………

 

 

 

 そんな生活なんて送りたくないし、想像もしたくもない!

 

 第一、ヒーローを諦めて一般人として生きていくと決めた僕は、ヴィランと戦うなんて真っ平御免だ!

 

 僕は…今の幸せを絶対に手放したくはない!!!

 

 

 

 そんな僕の気持ちを桑島さんは根津校長から聞いて知っている筈…

 

 なのに桑島さんの発言は…ハッキリ言って矛盾していた…

 

 

 

 この島にどんな災いが訪れても僕がこの島の人々を守ってくれるだって?

 

 僕がこの島の《守り神》だって?

 

 

 

 そんなの無理に決まってる…

 

 

 

 だって僕は…

 

 

 

 辛い現実から逃げた《負け犬》で《臆病者》なんだから…

 

 

 

『悲観するでない出久、儂は何の根拠も無しにこんな無責任なことは言わん。出久、お前さんはその若さで…人の痛みを…この個性社会で生きるヒーローに慣れなかった人々の辛さを誰よりも理解しておる…』

 

 桑島さんは右手を伸ばして、前髪で隠していた僕の《額の傷跡》に触れながら話を続けた。

 

『だからこそ、お前さんは誰よりも人の苦しみや恐怖を理解することができるんじゃ。そういう人間は《此処一番という正念場》では何者より強くなり!そして…決して負けることがない!』

 

『………』

 

『泣いていい…逃げてもいい…ただ諦めるな…。お前さんの中に眠っているその小さな《芽》が…いつの日か《大きな勇気》という《花》となって咲いた時、この島をお前さんが必ず守ってくれると…ワシは信じておるぞ』

 

『桑島…さん…』ポロポロ…

 

 心に響く桑島さんの言葉に…僕は涙をこらえることが出来ずに泣き出してしまった。

 

 桑島さんが僕の額から手を離すと、改まって僕にこう言ってくれた。

 

『出久、お前さんのその個性(ちから)は、いつか多くの人々の役に立つ時が必ず来る。その時にお前さんがどんな選択するかはお前さん次第じゃが…決して道を踏み間違えてはならん!いいな?』

 

『……はい!!!』

 

 僕は袖で涙を拭き取って力強く返事をした!

 

 

 

『しかし将棋の腕はまだまだ甘いのぅ、ほれ王手じゃ』

 

 パチンッ!

 

『えっ……あっ!?』

 

 将棋盤に視線を戻すと、僕の《王将の駒》の前に桑島さんの《金将の駒》が指されていた!

 

 油断なんてしてなかった…

 

 僕なりに完璧な盤面を組んでいた…

 

 それでもやっぱり、桑島さんの方が1枚も2枚も上手であり、結局僕はこの島に来てから1度も桑島さんに将棋で勝つことは出来なかった…

 

 

 

 勝負の後に桑島さんは『将棋が上手い奴は戦略を立てるのが上手い』とか『次に会う時までにはワシに勝てるようになっておれ』と僕に言ってくれた。

 

 そして帰ろうとした時、僕は桑島さんに呼び止められた。

 

『待て出久』

 

『何ですか、桑島さん?』

 

『最後に聞くべきことがあったのを忘れとった。《あの技》を体得することは出来たのか?』

 

『はい、お陰さまで……と言いたいところ何ですが…1日2、3回ならともかく、それ以上連続で使うと足が痛くて暫く動けなくなってしまいますね』

 

『そうか…お前さんの発現した個性が電気系ならば、今頃全ての型を教えることも出来たんじゃがなぁ』

 

 桑島さんは残念そうな顔をしながら溜め息をついていた。

 

 桑島さんの言っている《あの技》とは一種の《高速移動技》であり、その速度は僕の知る限りでは《インゲニウム》や《ホークス》の速度を遥かに上回る程だ!

 

 現に、片足が義足な上に高齢の桑島さんのスピードに僕は未だに全く追い付けていない…

 

 《現役時代の桑島さん》や《現役のプロヒーローとして活動している桑島さんのお弟子さん達》がいかに超高速で動けるのか…想像するに余りある…

 

『僕なんて全然、始めてこの技を教えてもらった頃は、毎日足が筋肉痛になってしまう体たらくでしたし』

 

『確かにお前さんが覚えた《壱ノ型》はまだ完璧とは言えん…。しかし電気系の個性を持たない人間がここまで習得できたのなら、贔屓目無しに見ても上出来じゃ。儂はヒーローとして、最後にお前さんという弟子を教育する事ができて良かったわい』

 

『桑島さん……本当に…本当にお世話になりました!本州に戻っても身体に気をつけて過ごしてください!』

 

 僕は桑島さんにお辞儀をしてお礼を言った。

 

『うむ!お前さんも達者でな!出久!』

 

 

 

 そうして次の日、桑島さんは長年勤めた那歩島を離れて本州へと帰っていった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕が桑島さんが住んでいた家の前で立ち尽くしながら、桑島さんと送った日々を思い返していると、水平線が明るくなって那歩島に薄い光が差し込んできた…

 

「ん?夜明けかな?…って!もうそんな時間なの!?今何時だっけ?あっ!しまった!腕時計もスマホも置いてきたんだった!とりあえず早く帰らないと!!」

 

 今更ながら腕時計とスマホを家に忘れてきたことに気づいた僕は、今何時なのか?いったい何時間ここに突っ立ってのか?は分からないけど、真幌ちゃんと活真君が起きる前に急いで家に帰って朝食の支度をしないといけない。

 

 僕の家から桑島さんの家の家はかなり距離があるから、今から普通に走って帰っても7時を過ぎてしまう。

 

 どうしようかと頭を抱えようとしたけど、よくよく考えてみれば《あの技》を使えばすぐに帰れるじゃないかと思い至った。

 

 この島に移住して桑島さんと出会い暫く経った頃、個性トレーニングの最中に桑島さんは自分が現役時代に使っていた《必殺技》の1つを僕に伝授してくれたんだんだ。

 

 ただ、その必殺技は《電気系の個性を宿した人》に適した技であるため《植物系の個性を宿す僕》がそれを身に付けるのは死ぬ程に苦労した…

 

 今の時間ならまだ誰も出歩いてはいないだろうし、僕は桑島さんから教わった《高速移動の型》を2週間ぶりに使って帰ることにした。

 

 

 

 右膝を前に出し…

 

 左足を後ろに伸ばしながら背を低くし…

 

 歯を食い縛りながら息をゆっくりと吐いた…

 

 そして…

 

 

 

「【雷の呼吸 壱の型…」

 

 

 

 《足の血管の1本1本全てに力を籠めるイメージ》をしながら、右足に《地面を踏み抜く程の渾身の力》を籠めて踏み込みをいれた!

 

 

 

「…霹靂一閃】!!!」

 

 

 

 僕は物凄い勢いスタートダッシュを切って走り出し、桑島さんの家から急激に離れて自宅へ向かった!

 

 

 

 僕は何とか太陽が顔を出す前に最速で自宅へ帰ってくることが出来た。

 

 だけど、2週間以上トレーニングを開けていたツケの反動は大きかった…

 

 自宅に到着して足を止めた瞬間!

 

「足つったーーー!!!??」

 

 僕は両足を盛大につってしまい、久しく感じていなかった足の筋肉から伝わってくる激痛に耐えられず、家の玄関の前で倒れてしまい、そのまま足を抑えながら悶絶させられた…

 

 桑島さんから【雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃】の教えを受け始めてから約1年が経過した頃、厳しい特訓の成果なのか、1日数回程度ならこの技を使った後に足を痛めることはなくなってきた!

 

 …っと思っていたのに…こうしてトレーニングに少しの間を開けてから技を使っただけでこんな有り様になるとは…僕の鍛練がまだまだ足りていない証拠だね…

 

 というより、そもそもの話…やっぱり桑島さん達が使う【雷の呼吸】とは《電気系の個性持ち》だけに対して適しており、それ以外の人達には足への負担が半端ないんだ…

 

 そんな考え事(現実逃避)をしたところで、足の痛みがすぐに引くわけもなく、やっとこさ起き上がれた僕はさっきの電光石火の動きは何処へやら…今度は亀のように遅くなり…足を必死に動かしながら家へと入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●九州地方…(朝)

 

 

None side

 

 昨夜突如として発生した稲妻の雨によって破壊された町は、まだ火災がおさまっていない建物があるために消火活動が続いており、翌日の朝を迎えてもまだパトカーや消防車や救急車のサイレン音があちこちで鳴り響いていた。

 

 九州地方へと戻ってきたホークスはすぐに現場へ急行し、稲妻が発生した中心部にて《破壊された軽トラック》と《病院に搬送されたそのトラックの運転手と思われる男性》がいた事故現場で1人考え込んでいた。

 

「(被害者の中にまた個性消失者が、ただ今回の被害者はヒーローではなく一般人…しかも身元の分かる物が全て奪われている…。犯人は奪った個性が何なのかを知られたくない?何故隠す必要が?いずれにしても被害にあった一般人が目を覚ましてくれないことには進展は難しいか…)」

 

 そんな悩むホークスの背中を…瓦礫となった建物の上から《死柄木 弔》と《白のローブを着た男》が見下ろしていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●いおぎ荘…

 

 

 今日も今日とて、雄英ヒーロー科生徒達は忙しい時間を送っており、それはお昼を過ぎた後も変わらず仕事の電話が鳴り響き、事務所にいた芦戸はかかってきた依頼の電話の応対をしていた。

 

「はい、雄英ヒーロー事務所です!………旅行バックの紛失ですね!分かりました!すぐに向かいます!(ガチャッ)商店街で観光客の荷物がなくなって…」

 

「私、行く行く!希乃子ちゃん、一緒に行こう!」

 

「了解ノコ!他にも誰か手が空いてるなら来て欲しいノコ!」

 

 芦戸から通達された依頼に葉隠は手を上げながら了承し、そのままB組の小森に声をかけた。

 

 小森は2つ返事で了解しつつ、事務所に残っているメンバーの中から手伝ってくれる面子を募った。

 

「なら俺も行くよ」

 

「僕も手伝う、凡戸も行こうぜ(^-^)」

 

「うん、分かったぁ」

 

 小森からの誘いに円場、吹出、凡戸の3人も名乗りを上げた。

 

「ま~た忘れ物かよ~そのくらい自分で…」

 

「依頼者の声、スッゴく可愛かったなぁ~」

 

「うっひょーーー!困ってる人は放っておけねぇぜえええ!!!」

 

 依頼内容を聞いて愚痴を溢していた峰田だったが、芦戸の独り言を聞いた瞬間に態度を急変させ、葉隠達と共に事務所を出ていった。

 

「障子さんからビーチに2人程応援が欲しいとの連絡がありましたわ」

 

「なら俺が行くよ」

 

「俺も行く」

 

「私も定時パトロールに行ってきマース!」

 

「私も新島さん家の畑の手伝いに行ってくるね」

 

 スマホで障子からの連絡を受けた八百万は、事務所に残っている面子に声をかけると、尾白と回原が名乗りを上げ、それに釣られて角取はパトロールに、麗日は畑仕事の手伝いに事務所を出ていった。

 

「いってきま~す」

 

 麗日は事務所を左に出てすぐ左の角を曲がり新島さんの畑に向かおうとしたが、角を曲がるとそこには昨日公園で会った活真が佇んでいた。

 

「あれ?キミは昨日の?確か…活真君やったっけ?どうしたの?またお姉ちゃんとはぐれちゃったん?」

 

「あ…あのぅ……き…昨日は…ごめんなさい…」

 

「へっ?」

 

 麗日は活真がなぜ自分に謝ってきたのか理解できずに気の抜けた声を出した。

 

「あ…あのね……昨日のことなんだけどね……実は…アレ………」

 

 活真はソワソワしながら麗日に、昨日の《迷子探し》が姉の真幌が仕組んだ《イタズラ》であったことを麗日に打ち明けた。

 

「な~んだ、そういうことだったんやね~。私が騙されただけか~。でも偉いねぇ~ちゃんと謝りに来てくれたんやから。大丈夫やよ、別に怒っとらんから」

 

 真実を告げられた麗日は、活真を叱りはせず逆に謝りに来てくれた活真を笑顔で誉めた。

 

「他のヒーローのお姉ちゃん達にも…ごめんなさいって言ってくれる?」

 

 活真は怒られるのを覚悟して謝りに来た手前、それを笑顔で許してくれた麗日に申し訳なさがあってなのか、まだ緊張している様子だった。

 

「うん、ちゃんと言っておくよ。でも活真君、どうして昨日のあんなことしたん?」

 

 麗日はしゃがんで活真と目線を合わせながら質問をした。

 

「…僕のお姉ちゃん…ヒーロー嫌いなんだ。昨日の夜もね…お姉ちゃん…個性を使って『ヴィランが出た』ってイタズラをしようとしてたから…」

 

「えっ!そうなん!?」

 

「でも!でもね!お姉ちゃんは何もしてないよ。『気が変わったからやらない』って言ってた」

 

「…活真君のお姉ちゃん…真幌ちゃんやったっけ?真幌ちゃんはなんでそんなイタズラしようとしたん?」

 

「…『ヴィランが出た』って言ったら…『ヒーローは怖がって助けに来ない』って…『今年の雄英1年生はダメダメ』だって…」

 

「………」

 

 麗日は活真を通して真幌がヒーローを嫌う気持ちを理解した…

 

 今年の雄英高校ヒーロー科1年生(A組)が世間からどんな印象と評価をされているのか?

 

 今年に発生した事件の数々を考えれば、真幌がヒーロー(雄英生)を嫌っているのは当然のことだった…

 

 いやむしろ…自分達が知らないだけでこの島には真幌ちゃんの他にも《ヒーロー嫌いな人》がまだいるのかも入れない…

 

 この島(那歩島)の人達は本当に優しい人達ばかりだったものあって、麗日はそれを忘れそうになっていた…

 

 自分達は本来…《世間から煙たがられる存在》などだと…

 

「出久お兄ちゃんも……本当は僕がヒーローになるのは…嫌なのかもしれない…」

 

「出久お兄ちゃん?活真君ってお姉ちゃんだけやなくてお兄ちゃんもおるん?」

 

「…本当のお兄ちゃんじゃないけど…いつも僕と遊んでくれる…隣の家に住んでる優しいお兄ちゃんだよ…。お姉ちゃん達と同じくらいの」

 

「そうなんや、その出久ってお兄ちゃんもヒーローが嫌いなん?」

 

「……分からない……昨日ね、出久お兄ちゃんに聞いたの…『僕がヒーローになるのは反対?』って…」

 

「…それで?その出久お兄ちゃんはなんて言ってくれたん?」

 

「…出久お兄ちゃんは…『活真君には幸せになってほしい』って言ってた…」

 

「幸せに?」

 

「うん…《僕が大人になった時に笑顔で楽しく生きているのなら満足》って言ってた…」

 

「………」

 

 麗日はまだ会ったこともない、活真が兄のように慕う《出久》という人物に感銘を受けた。

 

 今の御時世…オールマイトがヒーローを引退してもまだ純粋にヒーローを夢見る子供達はいる…

 

 だが、そんな子供の夢を素直応援する親や身内が現状まだいるだろうか?

 

 否、自分達の親ですら雄英高校内での寮生活の提案を先生達から受けた際は、決して快くは承諾してはくれなかったのだ…

 

 現状のヒーロー社会を踏まえれば、ヒーローを目指す幼き子供の夢を受け入れない親や身内がいるのは当然のことだった。

 

 真幌が活真の夢を否定しているように…

 

 しかし《出久》という少年は、まだ幼い活真の夢を肯定も否定もせず、ただ《活真の幸せを願う》という…《活真の夢を壊さない》選択肢をとった…

 

 そんな《出久の優しさ》に麗日は勝手な思い込みながらも元気付けられた。

 

 その《出久》という少年がどんな人間なのか?ヒーローを嫌っているのか?は不明だか…それでも《現状のヒーローやヒーロー育成高校の学生を受け入れようとする心意気の人間》が1人でもいてくれたことに、麗日は心の何処かで安心感を抱いていた。

 

 黙って考え事をしていた麗日は、ふと活真が服の胸元に着けている《バッジ》の存在に気がついた。

 

「あっ、そのバッチ《忍者ヒーロー・エッジショット》やよね?」

 

「うん!」

 

 今まで悲しそうな顔をしていた活真の顔が明るくなり、それに釣られて麗日も再び笑みを浮かべた。

 

 しかし…すぐに活真の顔から笑顔が消えた…

 

「僕は…大人になったらヒーローになりたい……でも僕の個性はヒーロー向きじゃないし……だからお姉ちゃんも危険だって…」

 

 落ち込んでいく活真に対し、麗日は昨日公園で真幌が言っていた言葉がフラッシュバックした。

 

 

 

『雄英ヒーロー科のくせにダメダメじゃない!』

 

 

 

「(そうか…真幌ちゃんはヒーローが嫌いだからじゃなくて…活真君のことを心配して…)」

 

 咄嗟に真幌の気持ちを察した麗日は、しゃがんだまま事務所の塀に背を預けると、活真に質問した。

 

「ねぇ、活真君」

 

「?」

 

「活真君は《どんなヒーロー》になりたいん?」

 

 麗日に質問された活真は、俯きながらも目を輝かせて《自分のなりたい夢のヒーロー》を口にした。

 

「…悪いヴィランをやっつける…強いヒーロー…」

 

「そうなんや、私はね《困ってる人を助けて笑顔にするヒーロー》になりたいんよ」

 

「困ってる人を助けて…笑顔に?」

 

「うん、私はね《人の喜ぶ顔》が好きなんよ。だから活真君の《敵に勝って人を助けるヒーロー》と、私の《人を助けるために敵に勝つヒーロー》は順序こそ違うけど、目指してるものは同じ《最高のヒーロー》なんやと私は思うよ」

 

「………」

 

 麗日の言葉に活真はぽかんとしていた。

 

「まぁ、私みたいなダメダメな雄英生がこんなこと言ったところで説得力は全然ないんやけどね!」

 

 麗日は自虐を言いながら立ち上がり、活真に手を差し伸べた。

 

「お互いに頑張ろう!活真君!」

 

「…うん!」

 

 活真は笑みを浮かべて麗日が差し伸べた手を握り握手を交わした。

 

「あっでも、なるべく家族には心配をかけない感じで」

 

「うん!」

 

 活真は麗日に手を降りながら笑顔で走り去った。

 

 そんな活真と入れ替わりに鈴村さんが《袋に積めた野菜》を持ってやって来た。

 

「活真ちゃん、本当にヒーローが好きなんだねぇ。はい、コレ」

 

「あ、ありがとうございます!鈴村さん!」

 

 鈴村さんは麗日に持って野菜を渡した。

 

「優しくしてあげてね」

 

「えっ?」

 

「あの子ん家ね、母親を早くに亡くして、父親は年中出稼きで、姉の真幌ちゃんと2人で暮らしているんだよ」

 

「そう…だったんですか…」

 

「勿論アタシら近所の者も面倒見てるよ。けど…あの歳で親がいないってのは…寂しいだろうから…」

 

「………」

 

「とは言っても、今は去年に隣へ引っ越してきた《緑谷さん》っていう家族が活真君と真幌ちゃんの普段の面倒を見てくれているから、私達は安心してるよ」

 

「緑谷さん?」

 

「去年の5月辺りにこの島へ引っ越してきた家族でね。3人家族らしいんだけど旦那さんは海外赴任をしているから、母親と息子さんの2人暮らしをしているんだよ。緑谷さん家の息子さんは今年で高校生になって手間がかからなくなったからなのか、緑谷さん家の奥さんが父親がいない間の活真君と真幌ちゃんの面倒を四六時中で見てくれていてね」

 

「へー、会ってみたいです私!その緑谷さんの奥さんと息子さんに!」

 

「奥さんは今、旦那さんがヴィラン事件に巻き込まれて入院したらしくて海外に行ってていないけど、息子さんの出久君なら自宅に行けば会えると思うよ」

 

「にゅ!入院!?大怪我をしたんですか!?」

 

「あぁいや、怪我をして病院に運ばれたそうだけど、当人は意識もハッキリしていて、手術が必要とされる程の大怪我じゃない軽症だそうだよ」

 

「そうなんですか…良かった…」

 

「それでも心配だったみたいで、緑谷さん家の奥さんが1人で旦那さんの入院する海外の病院へ行ってるんだよ。本当は息子さんの出久君も母親と一緒に行く予定だったみたいだけど、活真君と真幌ちゃんの面倒を見るものあったから、奥さんだけが旦那さんの元へと行って、出久君はこの島で留守番することにしたみたいだよ」

 

「その緑谷さんの奥さんってあとどのくらいで帰ってくる予定なんですか?」

 

「出久君の話だと《3週間くらい向こうに滞在する》らしくてね、もう2週間経っているから今日を含めてあと1週間くらいで帰ってくる筈だよ。丁度貴女達がこの島に来る前日に慌てて出ていったそうだから」

 

「私達の活動期間もあと1週間ですから、タイミングが合えばもしかしたら会えるかも知れないですね」

 

「そうだねぇ。……ホント…緑谷さんがこの島に来てくれて良かったよ…」

 

「え?どういう意味ですか?」

 

 急に思い詰めた顔をする鈴村さんに麗日は違和感を抱いた。

 

「さっき、活真君達のお母さんが亡くなってるのは話したろ?」

 

「はい」

 

「実はねぇ何の偶然なのか、出久君の母親の引子さんが、活真君達のお母さんとソックリなんだよ」

 

「え…ええっ!!?」

 

 いきなりの事実に麗日は驚き、危うく持っていた野菜を落としそうになった。

 

 だが、よくよく考えてみれば麗日はその事実に納得した。

 

 普通、いきなり隣へ引っ越してきた家族と一緒に暮らすなんて言われても、すぐに受け入れるなんて無理な話だ。

 

 それが幼い子供なら尚更である。

 

 しかし、どんな運命のイタズラなのか、隣に引っ越してきた家族の母親が、死んだ自分達の母親と瓜二つの顔をしていた…

 

「私も初めて会った時は驚いたよ。《活真君達のお母さんが蘇ったんじゃないか》ってくらい似ていたんだからね」

 

「そんな偶然が本当にあるんですねぇ」

 

「だからなのか、活真君も真幌ちゃんも引子さんに母親の面影を感じたのかも知れない。本当の母親じゃないのは分かっても…やっぱり2人共まだ親に甘えたい年頃だからねぇ。特に活真君は、お母さんと過ごした時間が真幌ちゃんより短かったのもあってなのか…引子さんのことを本当の母親のように慕っているんだよ」

 

「………」

 

 麗日は鈴村さんの話を通して《島乃一家》と《緑谷一家》の関係性を知った。

 

 

 

 一方、事務所の2階ベランダでは、アイスを食べながら《麗日と活真の会話から今まで会話》をずっと聞いていた物間が、音を立てずに事務所の中へと戻っていった…

 

「参ったなぁ、これじゃあ蛙吹さんの発言を反論できないよ」

 

 偶然とは言え、昨日に続いてまたしても《盗み聞き》をしてしまった物間は、罪悪感を抱きながら1階への階段を下りていった。

 

 

 

 

 

 

●丘の上にある公園…(夕方)

 

 

 空の色が変わってきた頃、公園では真幌が活真が戻ってくるのを待っていた。

 

 昨日作ったカレーの残りを3人で昼食にした後、出久が夕飯の買い物に出掛けるのと一緒に、真幌と活真は公園へと出掛けた。

 

 しかし、公園に向かう途中で活真が『ちょっと用事があるから先に行ってて』と真幌に言い残して何処かへ行ってしまった。

 

 真幌は活真の言う通り、公園の遊具の傍で活真を待っているのだが、なかなか来ない活真を心配し、不安な顔をしながら辺りを見渡していると…

 

「お姉ちゃーん!」

 

 弟の声が聞こえた方を見ると、活真がやって来た。

 

「何処行ってたの活真?」

 

「ウラビティお姉ちゃんのとこ」

 

「え?」

 

「昨日のこと、謝ってきた」

 

 活真は立ち止まりながら、自分が何処へ何をしに行っていたのかを真幌に伝えた。

 

「…どうして?」

 

 活真の予想外の返答に真幌は動揺した。

 

 そして、いつもと様子が違う活真を不思議に思った真幌は、活真の顔を覗きこみながら問いを投げた。

 

「…僕…お父さん好きだよ……お父さんのようなカッコいい人になりたい……でも!……でも!」

 

 強い意思を込めた視線を向けながら自分の気持ちを精一杯伝えようとする活真の態度に真幌は唖然とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガーーーーーン!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャア!な、何!?」

 

 漁港より突然鳴り響いてきた轟音に、真幌は悲鳴を上げ驚きながらも活真を守ろうと抱き寄せた。

 

 2人は恐怖しながらも、何が起きたのか知るために公園から見える漁港を確認した。

 

「なに…どういうこと!?」

 

 真幌と活真が目にした光景は信じられないものだった!

 

 さっきまで何事もなかった漁港は今…

 

 フェリーが横倒しとなり、漁港が破壊されていたのだ!!!




 原作のヒロアカ映画2作目にて、那歩島に駐在していた《お爺さんヒーロー》の詳細についてなのですが、《高齢でヒーローを引退したこと》と、島乃 真幌いわく《高齢の身でありながら迷子を見つけ出すのには1時間もかからないこと》しか情報が無く、どんな姿でどんな個性を持っているのかも不明でした。

 なので今作の番外編の世界では、その《お爺さんヒーロー》を、《鬼滅の刃》に登場した【鳴柱】こと【桑島 慈悟郎】として登場させました。

 前作の番外編の世界(ロベルト・ハイドンの法則)では《僕のヒーローアカデミア》と《植木の法則》以外のキャラクターは登場させませんでしたが、スローライフの法則の世界では《鬼滅の刃》のキャラクターを何人か登場させる予定でいます。
 とはいえ、あくまでも番外編なので《鬼滅の刃の主要キャラクター達》については、名前や存在を匂わせるだけで、なるべくは登場しない方向になると思います。

 そして、この世界の緑谷 出久は桑島 慈悟郎より【雷の呼吸】の【壱の型】だけを教わっており、血の滲むような努力の末に完璧ではありませんが【霹靂一閃(日輪刀なし)】を修得しておりますので、六ツ星神器の【電光石火(ライカ)】がなくても《スローライフの法則の出久君》は高速移動ができます。



 とりあえず現代階で投稿できる話(スローライフの法則7話、8話、9話)は投稿いたしましたので、今後は皆様からいただいた感想の返信しつつ、次は《本編の26話》を投稿を目指していきます。

 もし《スローライフの法則の10話》が先に完成した場合はそちらも投稿いたしますので、ゆっくり待っていてくださいませ。
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