前後編どころが色々付け足していたら中編まで内容が長くなってしまい、分かりづらい内容があった場合は重ね重ね申し訳ないです。
後編は今月中には投稿できそうですので、それまでどうかお待ちください。
●5日前(ヘドロ事件から2日目)
爆豪光己 side
警察署から自宅へ帰ってきた私はリビングで昔のことを思い出していた…
私は昔から…周囲に《気が強い》とか《勝ち気》だと言われてきた…私自身そう思っている…言いたいことはハッキリ言うし…自分でも五月蝿いと思う声で喋るのが当たり前だった…
でも…そんな私でも不安で押し潰されそうになった時期があった…
それは…我が子を身籠り出産して…この腕に初めて勝己を抱っこしてから数ヶ月経った頃…
お腹を痛めて産んだ我が子……勝己の産声を聞いたあの日のことを忘れたことはない…
私と勝(まさる)さんの子供…
我が子の顔を見た時の…心から止めどなく沸き上がってきた《嬉しさ》…
我が子をこの腕で初めて抱っこした時の…どんな言葉でも現すことの出来ない《喜び》…
あの時に私は決心した…必ずこの子を立派に育てる!…勝さんのように優しく!…困っている人に手を差しのべられるような強い子に育てると!
勝己が産まれたあと…私と勝さんの両親や親族一同が盛大にお祝いをしてくれた。
その後も両親は遠い実家から来ては何かとサポートもしてくれた。
勝さんは私が妊娠してから出産までの間は仕事の残業はなるべく減らし、飲み会などは断って早く帰ってきては家事や身の回りのことは進んで手伝い私を支えてくれた。それは出産から約1ヶ月程経ち、私が落ち着くまでの間もずっと続けてくれた。贔屓目に見なくても優しすぎる《父親》であり、本当に理想の《お父さん》になってくれていた。
でも…私は…不安で不安でしょうがなかったことがあった…
私はちゃんと《母親》になれているのだろうか…
勝己の《お母さん》をやっていけるのだろうかと…
そう思ってしまうことがよくあった…
両親は勿論、勝さんが傍にいてくれた時は本当に安心できた…
でも勝さんも両親達も四六時中ずっと私や勝己に付きっきりと言う訳にはいかない…
家族が増えたということもあって勝さんは前以上に仕事を頑張るようになった。
両親も実家が遠いため毎日来れる訳じゃない、私が勝己と2人だけになるのは当たり前だった…子育てをしながら家事をすることは最初はとても手間とったがすぐに慣れて自分ではもう《お母さん》としての日常を送り始めた…
しかし…当時の私にはまだ親しいママ友はいなかった…
私は《勝ち気》だと思われている…
近所の人達は私を『強いお母さん』だと言ってくれる…
でも…そんなんじゃない…
私だって不意に《不安》で《弱気》になることだってある…
私の本性を知っているのは…私の両親と勝さんだけ…
不意に赤ん坊の勝己と2人っきりになると…何の前触れもなく不安になって弱気になってしまう…
両親と勝さんには言えなかったし聞けなかった…『私はちゃんとこの子のお母さんになれてるのかな?』と…それを心の奥に閉じ込めたせいなのか…《弱気》になるとその気持ちで一杯になってしまっていた…
そんな私を心の不安から救ってくれたのは…私の数ヵ月後に《お母さん》になった…私の1番のママ友である…出久君の母親《緑谷引子》さんだった…
『光己さん、私だって同じですよ』
彼女は…引子さんは私の本性をすぐに見抜いた…
そのたった一言は…私の心の奥底の感情を全て理解してくれるようだった…
幾度となく《お母さん》としての相談にのってくれた…
彼女は…私を救ってくれた…
私も彼女の助けになりたくて相談にのった。
そして彼女が私よりも苦労しているのを知った。
引子さんの旦那さんは自宅にはいないらしい…夫婦の仲が悪いという訳ではなく旦那さんは海外で仕事をしている上に海外赴任をしているため、自宅どころか日本へもマトモに居られないだけらしい。私ですら引子さんの旦那さんの顔は覚えてるが、勝己と出久君が中学生に上がるまでに会った回数は両手の指で数えるよりも少ない。
つまり彼女は《女手1つ》で1人息子を育てているということだ。
数ヵ月早く《お母さん》になった私の引子さんへの印象は…《私よりもずっと強いお母さん》になった…
それから時は過ぎていき、勝己と出久君が4歳になる年…子供達にとっては人生でもっとも大事な時期である《個性の発現する年》がやってきた。
《個性》…それは今の社会では当たり前に存在するもの、私の個性は《グリセリン》、勝さんの個性は《酸化汗》、勝己がいったいどんな個性が発現するのか正直わからなかった。
成長していく勝己は個性が芽生える前から勝ち気でヤンチャな子で運動神経も良く、同い年の子達が出来ないことが何でも出来る元気な子に育っていた。私は勝己に対してダメなことはダメと叱り、悪いのことをしたならそれなりのお仕置きをして反省をさせてきた。
そんな勝己が発現した個性は《爆破》という派手で攻撃的な個性だった!
勝己自身、自分の得た個性を大いに喜んでいた!出久君同様に《No.1ヒーロー・オールマイト》に憧れて『将来はヒーローになる』と口癖のように言っていたのだから!
その数ヵ月後、出久君が4歳になった日から数日経った日に引子さんから電話が入った、その時の私は『出久君はどんな個性を発現したのだろう』としか頭になかった………が、引子さんから弱々しい声で語られた衝撃の事実に私は驚愕した…
出久君は個性を持っていない…《無個性》と診断されたことを…
電話越しでも分かる…電話の向こうにいる引子さん…あの時の…《昔の弱い自分》と同じことに…
でも…あの時とは状況が違う…
私は彼女の気持ちを理解してあげることは出来ない…
お世辞や励まし等の上っ面の言葉なんて何の救いにもなりはしない…
それでも彼女が私に電話してきてくれたのは、彼女が私を頼ってくれているからだと…助けを求めているからだと理解した…だから私は…
『個性が無くても…出久君は出久君でしょ?』
聞く人によっては無神経な言葉にしか聞こえない…強い個性をもった息子をもつ母親からの嫌みでしかないんじゃないかと思うだろう…
そんな私の言葉を引子さんは…
『ありがとう…光己さん…』
電話越しに聞こえた涙声の引子さんの返事は少しだけ落ち着いたように聞こえた…
後日、私は1人で引子さんの家を訪ねた…
引子さんと出久君は私を迎えてくれた…
悲しみを圧し殺した笑顔で…
そんな2人を私は有無を言わさずギュッと抱きしめて頭を優しく撫でてあげた…
2人は大泣きしてくれた…
つられて私も泣きそうになったが堪えた…
私は2人が泣き止むまで抱き締めて優しく頭を撫で続けた…
引子さんが…あの頃の私を助けて支えてくれたように…今度は私が!彼女を…いや…引子さんと出久君を助けて支えてあげようって!
それから2年の月日が経ち、勝己と出久君が小学生となった。
勝己は《爆破》という強い個性と、私譲りなのか《勝ち気》で《強気》な性格になり、なんにでも挑戦して勉強もスポーツも優秀な成績、クラスでは人気?というか《リーダー》的な存在だと小学校の先生から聞いていた。
でもその反面、出久君は《無個性》で《大人しく》《引っ込み思案》な性格だったものあり、周りの子から何かと《仲間外れ》にされたり《虐め》られていることがよくあると…当時の1年生の先生は話してくれた…
その虐めている中に…勝己がいることも…
勝己は学校での自分のことは話しても《友達》や《出久君》のことは全く話してはくれない…直接聞いても惚(とぼ)けるだけだった…
どうやったら真相を知ることができるのか悩んだけど…それを知るのはそう遠くない内に訪れた…
勝己と出久君が小学生になって最初の夏休み…私はその日、買い物を終えてギラギラと照りつける太陽からの猛暑と戦いながら帰る途中、公園で遊んでいるで勝己や出久君へ飲み物やアイスを渡そうと思って立ち寄った…
その日は私が実の息子に裏切られた日であり…
勝己が私を騙し…嘘をついたあの日でもあった…
公園の前について勝己と出久君を見かけて声をかけようとしたその瞬間、勝己がとった行動に私は目を疑った!
引子さんから聞いていた出久君がお小遣いを貯めて買ったという《オールマイトのフィギュア》を勝己が無理矢理取り上げて、それを取り返そうとする出久君を個性の《爆破》を使って攻撃した!
そして謝りもせず走って私がいる公園の出入口まで走ってきた!
公園から出てきた勝己は私に気づくや否や顔を青く染めた…正直、あの時の私がどんな顔をしてたのかは自分でも分からない…
勝己は慌てた様子で、手に持っている《オールマイトのフィギュア》と《公園で泣いている出久君》に対しては私にこう言った…
『デ…デクが知らない奴に虐められていて!助けたお礼にコレを貰った!』
…と…あの時の勝己自身は…その場で自分が考えた最善の答えを出してきた…
なにが『知らない奴に虐められていた』だ…
なにが『助けたお礼に貰った』だ…
自分のしたことに対して全く悪びれる様子がないどころが…見えすいた嘘をつく息子に対して…私は怒りが頂点に達し!まだ小さかった勝己に問答無用の拳骨を喰らわせた!
当然勝己は頭を押さえて痛がっており、涙目にながらも私に怒鳴って文句を言ってきた…
そんな勝己に…猛暑も忘れさせるような冷たい言葉で…
『全部見てたわよ勝己…』
そう言うと勝己は静かになり…気の抜けた顔をして黙りこんだ…
私は買い物袋を持ちかえて利き手で勝己を担ぎ上げて近くの細い路地に入り、勝己にキツメのお仕置きをした…泣いても喚(わめ)いてもお構いなしにだ…
『出久君にコレを渡して『ごめんなさい』って謝ってきなさい…』
勝己を叱り終わったあと、公園のベンチでまだ泣いている出久へ《オールマイトのフィギュア》とさっき買ったお菓子を入れた袋を渡して謝るように言ったのだけど、あれだけ叱ったにもかからず勝己はまだ不満そうな顔をして言うことを聞こうとしなかった…まるで《俺は悪いことなんてしていない》との意思表示をするように…
『勝己…アンタは悪いことをしたの…だから謝らないといけないのよ。そのオモチャは出久君のでしょ?《人の物を盗るのは泥棒》で…《ヴィラン》なんだよ!』
『!?』ダッ
《ヴィラン》という単語を聞いてなのか勝己は走ってベンチに座って泣いている出久君のところへ行った…『今度勝己を連れて、ちゃんと出久君と引子さんに謝り行こう』と考えていると……呆れたことに勝己は謝りもせずにフィギュアとお菓子を乱暴にベンチへ叩き置いてその場から走り去った…
程々(ほとほと)呆れた私は公園から出てきた勝己を捕まえて家に帰宅し、勝己に無理矢理正座をさせ時間を忘れて叱りつけた!『足がシビれた』だの『尻が痛い』だと言っていたがそんなのお構いなしに、足を崩そうとしたら『出久君がさっきアンタから受けた《爆破》の方がずっと痛かったんだよ!!』と怒鳴って体制を崩すことを絶対に許さなかった!
それから何時間経っただろう…
玄関の扉が開いて勝さんの声が聞こえた、時計を見ると既に夜の7時を過ぎていた。勝さんは私と勝己の状況を見るや否や何事かと慌てていたがすぐに事情を話した…勝さんは悩んでいたけど、勝己が涙やら鼻水やら涎やらで大泣き一歩手前の顔をしているのを見て…私のこれ以上の説教へ止めに入った…
まだ、叱り足りないという気持ちが私にはあったけど『これ以上は《勝己の人格》を変えかねない』と判断してその日はこれ以上の説教をやめた。
後日、嫌がる勝己を無理矢理連れて引子さんの自宅(マンション)へ謝罪にやって来た。
リビングへとあがらせてもらいテーブル椅子に親子(母子)向かい合わせに座った。
昨日のことについて私が話すと引子さんは驚いていた。どうやら出久君は怪我やお菓子のことは詳しく引子さんに話しておらず、ケガについては『転んだケガ』で、お菓子については『ボランティアの人から貰った』ということにしてたみたいで昨日の詳細を聞いて驚いていたのだ。
出久君は勝己のことを思って、昨日のことを引子さんへ話していなかった…
《あんな酷い目にあわされたというのに、それでも勝己を友達だと思い気を使ってくれていた…なんて優しい子なんだろう》と私は感動してしまった…
私は勝己と共に頭を下げて謝った…でも懲りずに勝己は謝ろうとしなかった…我が子ながら《なんて性根の腐った息子なんだろう》と思った。私は椅子から降りて床に膝をついて勝己の後頭部を掴んで無理矢理フローリングの床に額を叩き付けて謝らせた!勝己は私に怒鳴ってきたが後頭部を掴んでいる手の握力を強めると勝己はやっと出久君に対して口を開いた…
『悪がったよ!』
明らかに誠意などない…嫌々言った《謝罪》だった…
それを聞いた私は床に穴を開けるような気持ちで勝己の額をもう一度思いっきり床へ叩きつけた!
私のとった行動に引子さんと出久君が止めに入ったくらいだ…見方によっては子供に対する暴力でしかないだろう…しかし、幼きながらもここまで性根が腐ってしまった子供を……ましてや我が子を正すため、これからはより一層に厳しく教育していこうと決めた。
その日、自宅に帰ったあと前日同様に勝己を叱りつけたが相変わらず勝己は反省の様子を見せようとはしなかった…
そんな日々を過ごしてまた時は過ぎていき、勝己と出久君が中学3年生になった。
勝己の乱暴な性格と生意気な口調は治らずのままだったが、夢である《ヒーロー》に向かって努力し真っ直ぐに進み続ける勝己は…私の《自慢》であり《誇り》でもあった…
そう………昨日までは………
それは何の前触れもなく…突然やって来た…
2日前の夕方、勝己の帰りが遅くまた寄り道をしているのかと思っていると、警察から勝己がヴィラン事件に巻き込まれたとの連絡が入った。しかし現場に居合わせたオールマイトが助けてくれたと言われ安心した。
すぐに帰ってくるのかと思ったら、何故か日が沈んだ頃に勝己は帰ってきた。
《弱味を見せない》性格だったもので、帰ってきた勝己は事件については答えてくれなかった…
次の日(昨日)の朝、勝さんと勝己が家を出て洗濯物を干していると電話が鳴った、学校からの電話でてっきり昨日の勝己が巻き込まれた事件について聞きたいのかと思っていたが…
『はい爆豪です』
『もしもし、こちらは◯◯警察署の者ですが爆豪勝己君のご家族の方ですか?』
電話の主は学校関係者ではなくどういう訳か《警察》だった…『どうして警察が学校の電話を?』と疑問をもっていると…
『落ち着いて聞いてください…実は昨日息子さんの《爆豪勝己》君が巻きこれたヴィラン事件の他に折寺中の生徒の………《緑谷出久》君が無人のビルから飛び降りるという事件が起きまして…』
『(え………飛び降りた…出久君が…)』
私の思考は停止した…『どうして…なんで…』…頭が自問し続けたけど、すぐに我にかえり!
『出久君は!!?緑谷出久君はどうなったんです!!?生きてるんですか!!?まさか!!!??』
『お、落ち着いてください!緑谷君は病院に運ばれて奇跡的に一命をとりとめて今は◯◯病院に入院中ですよ』
『生きて……生きてるんですね……良かった……』
生きていてくれたと分かり、安心したのと気が抜けたので私はその場にへたり込んだ…
『それで今日連絡したのは、緑谷君のクラスメイトを含めた同学年の生徒全員の事情聴取をとる際に、偶然県外から出張で来ている《電子メール》の個性をもつ警察がおりまして、彼も事情聴取に協力してもらうことになったのです』
『《電子メール》?』
『はい、《相手の思考を電子メールに変換し、携帯やパソコンなどの機器にメールとして送信できる》という個性なのですが、その個性をお子さんに対して使用をする許可をもらいたく、ご家族の方々へ連絡をしているのですが、よろしいでしょうか?』
勝己の思考…普段学校のことはおろか、友達のこともロクに話そうとしない馬鹿息子が普段何を考えているかとても気になる。
普通、自分の子供の思考を晒すなど親なら迷うところだろうが…
『わかりました、よろしくお願いします』
私は迷わずに許可した。
警察の方との電話を終え、今日の学校は昼前には終わって勝己は帰れるとのことだったので急いで勝己の昼食を作り、書き置きを残して出掛ける準備を済ませタクシーで出久君が入院している病院へ向かった。
病院に着き、受付を済ませて出久君の病室へ直行して1人部屋の病室の前に来た。
コンコン
『……どなた…?』
『私よ、引子さん』
『光己さん…どうぞ…』
ガラッ
引子さんの返事に答えて中へと入った。
『わざわざ来てくれてありがとう…光己さん…』
ベッドの窓際にある椅子に座っている引子さんは私に《笑顔》を向けてくれた…でも…目元が赤くなってるし…左手にはハンカチが握られている…それに心なしか引子さん本人はゲッソリしていた…
無理もない…ベッドに横たわり顔や手までに痛々しく包帯を巻いている出久君がそれを物語っているのだから…
ここへ案内してくれた看護師さんから聞いた話だと…引子さんは食事もとらずにずっと出久君の側にいて介抱してあげてるみたいだ…
『出久…勝己君のお母さんがお見舞いに来てくれたわよ…良かったわねぇ…』
引子さんは眠っている出久君の頭を優しく撫でながら話しかけていた……私は切なくなる気持ちを押さえきれず部屋を見渡した、昨日今日で既に何人かお見舞いに来ていたのか…果物の詰め合わせやお菓子、飲み物や手紙などがテーブル一杯に置いてあった。
『あぁそれですか…昨日の夜と今朝早くに来てくださったボランティアの人達が持ってきてくれたの…』
『ボランティアって、出久君が参加してる《ゴミ拾い》の?』
『えぇ…昨日出久が飛び降りた現場に居合わせたみたいで、それを知ってか昨日だけでも何十人もの方が来てくれたんだけど、手術が終わったばかりの出久へ押し掛ける形になるのは申し訳ないってことで、こんなにお見舞いを持ってきてくれたんですよ。小学生や幼稚園のお子さんも一緒に来てくれて…出久に『早く元気になって』とか…『退院したらまた一緒に遊んで』とか…『また来てあげるから、その時は起きててね』とか………みんな…優しい子ばかりで……皆さん…出久のことを心配してくれて……』グスッ
話の途中で引子さんは泣き出してしまった…
出久君がどれだけ地域の人達から愛されているのかが伝わってくる…10年前に《無個性》だと診断されてもなお、出久君はヒーローになることを諦めずに前向きに生きていた。幼い頃からランニングや筋トレなどのトレーニングをしがてら、地域のボランティア活動にもすすんで参加していた。休みの日のボランティアが終わったあとは参加していた子供達の遊び相手にもなっていたとも聞く…真面目で本当に優しすぎる子だと深く痛感させられる。
『………捜査中みたいだけど…出久が飛び降りたビルの屋上に出久の《靴》と《鞄》が綺麗に並べて置いてあったらしいの…警察は『自殺を図ろうとした可能性が高い』って言ってたわ…』
『それって…』
『…えぇ…警察は出久が《無個性》なのが原因で…それを理由に《虐め》や《差別》があったのが…自殺の原因じゃないかって…』
この時…私は…心のどこかで嫌な予感がした…
勝己は学校のことは全く話してはくれない…担任の先生も三者面談の時は『勝己君はとても優秀な生徒です』や『将来《雄英合格》は間違いありませんね』みたいなことしか言わず、『勝己が学校で虐めやら暴力などをしてないか?』という質問をしても誤魔化されるばかりで教えてはくれない…
もしかしたら勝己が…と私の頭をよぎった…
『今…警察の方々が調べてくれているみたいで…今日の夜か明日の朝には真相を突きとめますって言ってたわ…』
『それは…随分と躍起(やっき)になってるみたいね…』
『ホント…どうしてそこまでしてくれるのって言うくらい捜査をしているみたいで…』
そう言って引子さんはTVをつけると丁度ニュース番組が流れ、速報で昨日は全く報道されてなかった《男子中学生の飛び降り自殺未遂》が報道されていた。昨日の夜から今朝まで《オールマイトが解決してくれた勝己が巻き込まれたヘドロヴィラン事件》しか報道されてなかったというのに、今はどのニュースチャンネルも出久君のニュースが報道されていた。
『まったく!同じ日にこんな大事件が起きたって言うのに!出久君のことを完全に後回しにするなんて何考えているのかしら!』
『…仕方ないわよ…何せ…No.1ヒーローのオールマイトが関わった事件ですもの…』
TVに対しての愚痴を溢しながら、私は出久君のことも心配だけど、引子さんにも身体を大事にしてほしいと説得してコンビニで買ってきたおにぎりなどを渡し食べて貰いながら面会時間が終わるまで引子さんと話をした。『明日また来るわね』と言って部屋を出る私に引子さんは笑顔で見送ってくれた…
彼女の心からの笑顔を見るのが…これで最後になるなんて…この時は思いもしなかった…
自宅に帰ると鍵が空いており玄関には勝己の靴があった、先に帰ってきたみたいで勝己の部屋に行ってみると本人は私服に着替えベッドで寝ていた。『友達が大変だっていうのに熟睡するなんていったいどんな神経をしているのか』と息子の正気を疑った…
その後、夕食の支度をしていると勝さんが帰ってきた。料理中だったので断片的にだけ出久君のことを説明すると…勝さんは重く受け止めていた…
出久君は小さい頃からお父さんと一緒にいることがほとんどなくて、勝さんが休みの時にウチへ遊びに来ると勝己や私よりも勝さんの側にいることが多かった。きっと勝さんに自分のお父さんを重ねているんだなと…
勝さんもそれを知ってか勝己と同じくらい出久君を可愛がっていた…
だから今回の事件を聞いてショックを隠せていないみたい…
そして次の日の今日…
私は全てを知った…
そう…全てを…
今朝、勝さんが出勤し間も無くのことだった…
ピンポーン
まだ朝の7時前だというのにインターホンが鳴った、誰かと思いながら玄関のドアを開けると…そこにいたのは2人の警官だった…
『朝早く申し訳ありません、警察の者ですが《爆豪勝己》君はご在宅ですか?』
『えっと……はい……いますが……勝己に何か?』
この時の私は、一昨日の勝己が巻き込まれたという《ヘドロ事件》のことでまだ聞きたいことがあってやって来たのだと瞬時に思ったが、それは違っていた…
『一昨日起きた事件の《被疑者》として、息子さんの取り調べを行いたいので署まで御同行をお願いします』
『(《被疑者》?《被害者》じゃなくて?)』
『詳しいことは署でお話いたしますので、とりあえず息子さんを起こしてきていただけませんか?』
私は一旦考えることをやめ、すぐに階段を掛け上がりドア越しに勝己を叩き起こして玄関に無理矢理つれてきた、勝己は私に対して怒鳴っていたけど玄関にいる警察に気づいて言葉を失っていた…
『爆豪勝己君だね、寝起き早々で申し訳ないが我々と一緒に署まで来てくれないかい?』
勝己は警官からの問いかけに呆然としていた。私自身状況が全く飲み込むことが出来なかったが、急いで身支度を整えて勝己と警察の方々と共に警察署へ向かった。
警察署に着き、勝己とは別れて警察の方から《勝己が巻き込まれた事件》とは別の1つの事件…《出久君の飛び降り自殺未遂事件》の詳細を教えてもらった…
そして《真実》を知った…
勝己が8年前のあの日以降…私の目の届かないところで何をしてきたのか…
一昨日の事件のあった日に勝己が出久君に何をしたのかを知った…
信じたくなかった…
でも…警察の方が見せてくれたいくつもの証拠と物証…
・昨日電話であった《電子メール》の個性によって明らかにされた《勝己の思考》…
・町の監視カメラと防犯カメラに映っていた…勝己が友達と3人がかりで個性を使い出久君を痛めつけていた《複数の暴力映像》…
・一命をとりとめた後にリガバリーガールの診断で判明した、出久君の身体にあった《いくつもの痣や火傷跡を写した写真》…
・そして……勝己が個性で燃やしたという出久君の《ノート》……証拠品のためカラーコピーで写した紙だったけど、そのほとんどのページがマジックかサインペンで黒く塗り潰されており…唯一塗り潰されてなかったのは最後のページだけ…私はそこに書いてあった内容を最後まで読むことが出来なかった………
出久君が引子さんに向けて書いた《遺書》だったから…
勝己の取り調べが終わる頃には、私は全てを理解した…
小さい頃から《オールマイトを越えるヒーローになる》と耳にタコができるほど言っておきながら、やっていることは《ヴィラン》のソレと何ら変わらない勝己の全てを…
あの子は《自分》のことしか考えていないことを…
『いったい、どんな教育をしてきたんですか?』
『《無個性の人間》と《自分より弱いと決めつけた人間》には暴力を振るっても、見下しても問題ないと教えてきたんですか?』
『あなたは本当に《母親》なんですか?子供は親を見て成長するんですよ?』
証拠と物証を見せてくれた婦人警察の人達から言われたことが心に突き刺さった…
あの子は…勝己は…他人を見下し…気に入らないことがあれば個性を使い平気で他人を傷つける人間へとなった…
そんな子に育ててしまったのは………《私》…
今朝家を出てから帰ってくるまでの合間に…私の世界は大きく変わった…
私は帰ってきて家に上がるなり勝己を問答無用で殴り飛ばした!
勝己に対する負の感情を爆発させて力の限りで我が子を殴り、胸ぐらを掴み無理矢理立たせて勝己に怒鳴りながら言いたいことを全部言った!その末に…私は息子を《ヴィラン》と言ってしまった…
その場から逃げるように私はリビングへと飛び込んでから直ぐに崩れ落ちてソファーに突っ伏した…正直…もう…立っていることすら限界だった…頭の処理が全く追い付かなかった…
そして今に至る…お昼を過ぎていたが食欲などなく…勝己は空腹なら『飯を作れ!』と怒鳴ってくるが今日は食欲などないだろう…朝食は勝己同様に警察署で用意されたおにぎりや味噌汁を頂いていた…
いや!昔のことを思い出してる場合じゃない!
無理矢理身体を動かして私は家の電話の前に移動し…
引子さんへ…電話をかけた…
PRRRRRRRR…PRRRRRRRR…PRRRRRRRR…
受話器から聞こえてくる呼び出し音に私は恐怖していた…本当は引子さんと話すのは怖い…このまま待機音が続いてくれれば良いなんて思っている自分がいた…
『…………はい…』
「…も…もしもし………引子さん…」
引子さんは電話に出ててくれた…引子さんの声を聞いた途端に話そうとしていた内容が頭から消えそうになる…
謝らないと!
私の息子が出久君を死に追い込んだことを!
私の育て方が悪かったせいで!勝己はあんな人間へと育って…10年もの間…出久君を苦しめていたことを!
そんな息子の悪事に…母親の私が気づけなかったことを!
そして昨日…その元凶の母親から心配や施しを受けるなんて…《ありがた迷惑》以外の何でもない!
出来ることなら!電話越しじゃなくて!ちゃんと面と向かって謝りたい!
心から謝りたい…謝りたいのに…声が出ない…
『……………』
電話の向こうにいる無言の引子さんに私は言葉をつまらせた…
引子さんがどんな顔をしているのか…
引子さんはどんな気持ちで電話に出てくれたのか…
彼女の今の心の内を考えれば考える程…何を言っていいのかで頭を悩まされた…
普段から大きい声なんて当たり前のように出し、言いたいことをハッキリと言っていた私はどこに行ったのか…
「…ごめんなさい…引子さん…」
『………』
「…謝って…許してもらえないのは分かってるの…」
『………』
警察署で真実を聞いた際、私は自宅に帰る前に病院へ行こうと決めた。例え何を言われようと!迷惑だとしても!面と向かって引子さんと出久君へ土下座をして心から謝罪したい!
でもそれはもう叶わないことだった…婦人警官から《引子さんが面会を全面的に謝絶》するとの連絡があった…特に加害者とその親とは会いたくない…つまり私は会うことすら許されなくなってしまった…
電話することすらいけないことだというのに…私はこうして通話している…
「…本当に……本当に…ご」
『ごめんなさい…光己さん…』
「えっ……?」
自分でももう何を言ってるのか分からなくなっている私に対しては引子さんが謝ってきた!?
「ど…どうして引子さんが…謝るの?」
『分かってるの…光己さんがどんな気持ちで私に電話を掛けてきてくれたのか…同じ母親だもの……それに私にとって光己さんは…1番のママ友だから…出来ることなら…このまま仲良くしていたい………でも私は…勝己君を…貴女の息子を許すことはできない……絶対に…』
「!!!………」
引子さんからの言葉に何も言えなかった…ただ…ハッキリしているのは…今の静かな言葉とは裏腹に…彼女の計り知れない程の《怒り》と《憎しみ》を感じ取れたということを…
その《怒り》と《憎しみ》を必死に圧し殺し…穏便に済ませようとしてくれている…
分かっていたことだった…
引子さんは出久君と同じで優しすぎる…暴言なんて使わないし…人を傷つけるような乱暴な言葉使いをする人じゃないって…
私を罵倒でも何でも言って追い詰めてくれたっていい…
私を精神的に追い込んでくれたっていい…
訴えてくれていい…
裁判を起こしたっていい…
そんなことで償いきれないことをしてしまったんだから!
どんな粛清も受ける!
…でも…引子さんはそれをしない…
『だから…光己さん…お願いしたいことが…約束して欲しいことがあるの…』
「なっ!なにっ!?」
引子さんから《願い》!それがどんな内容だとしても私はすべて受け入れる!
『それは…………………』
「っ!!!??」
彼女からの《願い》…
それは決して酷いことでも…難しいことでもなかった……愛する一人息子を死なせかけた加害者家族に対して余りにも軽すぎる《願い》であったが、それは私とって心に大きな穴を空けてしまう《願い》だった…
『それじゃあ…さよなら…光己さん…』
(ツーツーツーツーツー)
電話が切れ不通音が私の耳に響いた…
一度受話器を戻し、私は心に空いた穴を塞ぎたくて仕事中の勝さんへ電話を掛けた!
『もしもし…』
「勝さん!」
夫の声が聞けて私は少しだけ安心できた。心細くなってしまったのか…10年以上も心の内へしまい続けて表に出さなかった《弱い自分》に私は戻っていた…
警察署での勝己の真実と…早く帰ってきてほしいという意思を勝さんへ伝えた…
でも運命は優しくはなかった…
『そうか……分かった……でもすまない…実は取引先から呼び出しを受けてしまって…コレから向かうことになったんだ…おそらく今回のことを含めてだと思うから…数日は帰れそうにないんだ。丁度その事で連絡しようとしてたんだけど…君から電話をかけてきてくれたからね…なるべく早く終わらせて帰るようにするよ…それまで待っててくれ…光己…』
それだけ言って勝さんは電話をきった…
数日前に勝さんから出世についての話があったと聞いたが、勝己のことで勝さんの仕事にも支障が出たのやもしれない…
私の心に空いた穴を冷たい風が吹き抜けていくような感覚がした…
なぜって?
勝さんも引子さんと同じく私に怒鳴らなかったからだ……どうして…どうして……どうして………どうして!!私は許されるべき人間じゃないのに!!
私が気づかぬ間に再び涙を流していた…
私は…勝己を…いや…私自身を許せなかった…
《母親失格》だと…自分を責めた…
自分の育て方が間違っていたから勝己はあんな人間へと育ってしまった…
『子供は親を見て育つ』…さっきの婦人警官の1人がそんなことを言っていた…
その通りかも知れない…
勝己は勝さんの《優しい》面ではなく、私の《粗暴で乱暴な》面を見て育ってしまった…
結果的に言えば…私が出久君を死なせかけてしまったということだ…
「勝己は…私の性格や態度を見たからあんな性格に育った………なら…私は…」
自分がこれからどうするべきなのか…私は自分なりに答えを見つけた…
今更遅いのは分かってる…
でも…私が勝己にしてあげられるのは…もうコレしかないと…
私が変われば勝己もきっと変わってくれると信じて…私は自分を変えることにした…
《物静か》で…《怒鳴らない》…そんな人間に変わろうと…
…
●4日前(ヘドロ事件から3日目)
爆豪勝己 side
朝から最悪の気分で登校して担任から今回の一件による俺達への厳罰が発表された。内容はどこぞのヒーロー校の校長が考案したらしく、どんな厳罰なのかと多少の不安はあったが…その必要はなくなった。
「お前達の厳罰の内容は………緑谷が参加していた《奉仕活動》をやってもらうことになった」
『……えっ?』
クラスが唖然とした…担任から告げられた厳罰の内容は俺の予想していたものとはまるで違った。
てっきり《退学》やら《停学》にまでなるんじゃねぇかと考えていたからだ。
それはクラスの奴らも同じようだっだ。
「…先生…それって《地域のゴミ拾い》ってことっすか?」
「あぁ…そうだ…」
クラスの誰かが担任へ質問をし、それを聞いてクラスの反応は2つに別れた。
『それだけのことで本当にいいのか?』と疑問に思う奴…
『そんな簡単なことで済むんだな!』と軽く受け止める奴…
当然、俺の反応は後者だ!
デクがやっていたことをやらされるのは気に喰わねぇが、そんな大したことのない簡単な厳罰で今回の件が帳消しになるなら安いもんだ!と俺は内心喜んだ。
所詮、今時のセンコーや大人が俺達生徒へ厳しい厳罰を下すことなんざ出来やしない!高校受験を控えた俺達…特にこの俺は来年《雄英》に入ることが決まっているも同然の生徒!この学校からの《唯一の雄英合格者》に余計な汚点を背負わせたくないとセンコー達が手を回してくれたんだろうよ!役にたたねぇと思っていたセンコーもたまには使えるじゃねぇか!
「今からその《奉仕活動》についてのプリントを配る。今日の学校が終わってからスタートになるので、プリントに目を通しながら説明していく。」
担任は手元のプリントを1番前の席の奴等に渡し、一昨日俺が壊したデクの席以外へプリントが渡り終えると担任が説明していく。
長々と説明する担任だが、プリントに書かれている内容を大袈裟に言ってるだけにすぎない。
〔奉仕活動についての内容及び注意事項〕
○活動期間
・1ヶ月間(土日と祝日も含む)
○活動時間
・学校のある平日は、終わり次第体操着に着替えてグラウンドへ集合。今回の奉仕活動を手伝ってくださるヒーローの方々と共に決められた区域のゴミ拾いを《明るい内》だけ作業する。休日はボランティアの方々も参加する。
・休日及び祝日はクラス毎に《午前》と《午後》に別れて活動すること。
(午前) 9:00~12:00
(午後) 13:00~16:00
○注意事項
・毎日必ず参加すること
※期間中、奉仕活動及び学校問わずに問題(喧嘩や暴力行為など)を起こした生徒がいた場合は、連帯責任としてその生徒とクラスメイト全員へ活動期間の延長とされる。
※相応の理由がなく活動を休んだ生徒がいた場合もクラス全体の連帯責任として活動期間が延長される。
・期間中の部活は休部扱いとし、部活への参加は禁止とする。
◎最重要
・奉仕活動中の個性の使用は絶対に禁止とする。
プリントに書かれた内容を一通り読み終えたところで、クラスの奴等は小言を喋りだした。
「1ヶ月間かぁ…」
「おいおい休みもやるのかよ…」
「毎日参加って…マジ?」
「部活そっちのけで出なくちゃいけないの…」
「ヒーローと一緒ってのはまぁ悪くないけど…」
「今の時期に暗くなる前までとすると…」
「土日はボランティアの人も手伝って…いや来るのか…」
「休日は午前と午後のどっちかだけ参加して3時間ぶっ続けかよ…」
「休日の8分の1をゴミ拾いに使えっての…」
「1人でも問題を起こしたらクラス全体の連帯責任って…」
「喧嘩や暴力行為って…ウチのクラスには《それを人間にしたような奴》がいるのに何も起こらない訳ないじゃん…」
「下手すりゃ一生終わらないぞコレ…」
全員じゃねぇがクラスの連中の半数近くは厳罰内容に不満をもって愚痴をこぼしている、俺だって同じだ。
「奉仕活動は今日の放課後から開始となる。クラスごとにわかれて担当のヒーローの元で活動をしてもらう。それと、この活動で一番重要なのは最後に記されてる《奉仕活動中の個性使用は絶対に禁止》という内容だ。プリントに書いてはいないがそれを破ったなら、最悪の場合はヒーロー校どころか高校にも行けないと思えよ」
担任は俺達へ釘を刺してきた。《高校へいけない》…つまり進学が出来ず《中卒止まり》になるということ。
「(けっ!どうせ大袈裟に言って馬鹿真面目にゴミ拾いをやらせようってだけで、実際にそんなことを出来はしねぇんだろ!そんな見えすいた脅しが通用するかよ!)」
俺はそう決めつけていた…
でも…それは大きな間違いだった…
俺は…俺達は正直舐めていた…
気づいちゃいなかったんだ…
たかが《ゴミ拾い》程度…
そんな簡単で…大したことなんてないことが…
俺達の心を深くえぐる《恐怖》を…
自分の居場所をジワジワと失っていく《恐怖》を…
多くのものを失っていく《恐怖》を…
その全てを身をもって思い知ることになったのだから…
そして…今まで俺達がデクにしてきたことが…何十倍…何百倍…何千倍…にもなって俺達に跳ね返り…報いを受けることになるなんてよ…
「それと…爆豪」
「あ”ぁ”?」
「今すぐ一緒に職員室へ来てくれ、一時間目の授業はでなくていい」
「んだよ、どういうことだ?なんで俺だけ」
「説明は向こうでする、とにかく来い」
「チッ!めんどくせぇなぁ!」
俺は偉そうな口を利く担任に連いていき職員室へ移動した。入り口で待つように言われ待つこと数分、担任と数人のセンコー共が一緒に出てきて今度は職員室近くにある応接室へと移動した。
「(クソが!!ここに来ると思い出す!!あのムカつく眼鏡野郎から受けた屈辱を!!!)」
2日前、この場所であの眼鏡野郎に個性の《電子メール》で俺の頭ん中を覗かれた忌々(いまいま)しい場所!
「(思い出すだけでも腸(はらわた)が煮えくり返ってくる!あのクソ眼鏡野郎、すました顔して俺のこと騙した上におちょくりやがって!!次会ったら絶対にブチ殺す!!!)」
俺は応接室に入っただけで機嫌が悪くなりながらもソファーに座り、センコー達も全員ソファに座った。
「あ~っと爆豪…早速だが…なんでお前だけ呼び出されたか…分かってるよな」
「はん!昨日警察署へ連れていかれたことかよ!?」
「それもあるが…それだけじゃない…」
「あ”ぁ”?」
担任の訳のわからない戯れ言を聞きながら、昨日のゴリラ野郎が言っていたことを少しだが思い出した。コイツを含めこの学校のセンコー共の厳罰は《減給》で、コイツに至っては教師を辞めさせられはしないが教育委員会から厳しい厳重注意を受けた上に《減給》の額が他の教員よりも多いらしいが、そんなの俺には知ったこっちゃねぇ。
「お前は一昨日の事情聴取を受ける前、緑谷の机を壊して生徒達を脅し自分のことを口止めさせたんだよな」
「ちっ!それがなんだよ!?」
昨日のゴリラ野郎が言っていたことと同じことを言われて俺は更に機嫌を悪くした!また遠回しに俺のことを犯人だのなんだのとグチグチ言うつもりなのかよ!
「……爆豪…俺は教師としてお前を優遇してきた自分が恥ずかしい…」
「んなもん俺が知るかよ!!テメェが勝手にやってきたことだろうが!!」
「……そうだな…お前には知ったことじゃない……だがな、これから話すことはお前にとっては知らないことじゃない」
「なんのことだよ!」
「俺達3年の教師は昨日、緑谷を虐めていたと判明した生徒の家へ赴き、どうして《緑谷を虐めていた》のかの理由を聞きに行ったんだ」
「はあ?そんなことしてる暇あんのかよ!テメェら相当暇なんだな!?」
俺の言葉が癇に障ったのか応接室のセンコー全員が俺を睨んできた。
「……爆豪…昨日生徒達がなんて答えたと思う?」
「んなこと知るわけねぇだろうが!!さっさ言えや!」
「…ほぼ全員がこう答えた…『爆豪にやれって言われた』となぁ…」
…はっ?…んだと…
「俺のクラスだけじゃなかったぞ…」
「ウチのクラスの生徒も君に脅されていたと言っていた」
「私のクラスの生徒もよ」
「俺のクラスの生徒も同じだ」
担任を始めとして…他のセンコー全員が同じ返答をしやがった…
「全員が中学1年の時にお前から…
『デクは無個性で役立たずのクソナードだ!俺が将来この学校からの唯一の《雄英合格者》になるために目障りなんだよ…だからテメェらが何とかしろや!あとテメェらも命が惜しけりゃ《雄英》を受けんじゃねぇぞ!分かったがゴラァ!!!』
…と怒鳴って脅されたとな…そしてそれを断ろうとしようものなら…
『没個性の分際で俺に意見すんじゃねぇよ!!』…
『俺の言うことが聞けねぇってか!あ”あ”ん!!?死にてぇのかゴラァ!!』…
『俺に指図するんじゃねぇ!できねぇならテメェをぶち殺すぞ!!』…
『消されたくねぇなら大人しく言うことを聞けばいいんだよ!社会のクズが!!』…
『テメェは所詮、3年後は俺の踏み台になることでしか役に立てねぇんだよ!そんなお前に《ヒーロー》になる俺が役に立つ道を与えてやってんだ!むしろ感謝しろや!!!』…
などの暴言や恐喝によって脅されていた故に無理矢理緑谷を虐めるメンバーになったと供述しているんだが…これは本当なのか?爆豪?」
「…ふっ…ふっ…ふざけんな……ふざけんじゃねぇ!!!俺はんなこと言った覚えは………」
………その先の言葉が出てこなかった…気に入らないことがあれば暴言やら怒鳴り散らすなんざ…俺には日常的な言葉だった…
散々『死ね』だの『消えろ』だの平気で言ってきたのは俺だ…だから俺自身が本当に言っていないという確証がない…
「………」
「爆豪…無言ということは…これは真実なんだな…」
「…くっ!?」
「…《個性が派手で強い》…お前は将来《有望なヒーロー》になってくれると信じて…俺はお前を優遇扱いしてきた…だがそれは俺の勝手な妄想だ……お前がこんなにまで卑怯で冷徹で自分勝手なだけじゃなく、他の生徒を脅して緑谷を追い込んでいた…まるで自分の手を汚したくないかのように…これは《ヴィラン》がとる行動だぞ…爆豪」
「(!!?また!俺を《ヴィラン》だと!好き勝手言いやがって!!)」
「この事を踏まえて…お前への厳罰は他の生徒より厳しくする。お前には休日の奉仕活動では午前と午後のどちらにも出てもらうぞ」
「んだと!ざけんな!なんで俺が」
「分がったな!!!?」
ビクッ!
「……チッ…クソが!…分かったよ…」
担任の怒鳴り声に俺は一瞬だけビビった…コイツも教師の端くれって訳かよ…気に入らねぇ!!教師の分際で俺に指図なんざしやがって!!!
…
その後教室へ戻り、2時限目から授業へ出た俺だったがクラスメイトも他のクラスの奴等も誰一人俺に関わろうとしなかった。以前は煩せぇくらいに話しかけて来たってのに…今は顔すら合わせようとせず、俺を避けていやがった!
「(どいつもこいつも生意気なことしやがって!!いつか覚えておけよ!!!)」
俺は腹の中にドス黒い《怒り》を溜め込んだ!いつの日かコイツら全員に制裁を下してやると決めて今は我慢した!
それから今日の授業を終えて、ついにデクが参加していた奉仕活動をやる時間になった。帰り支度と共に体操着へ着替えて校庭に行くと既に30人程度のヒーローが待っていた。
デク以外の3年全員が集まった頃に校庭においてある台の上に校長が立ってマイク越しに話し始めた。
『えー…それではこれより3年生の皆さんには《町内のゴミ拾い》を行ってもらいます。清掃する範囲は事前にヒーローの方々へ説明しておりますので、生徒の皆さんはクラス毎に別れて担当のヒーローと共に移動して奉仕活動を開始してください。注意事項を必ず守ってヒーロー達の言うことはちゃんと聞くこと!今朝配布したプリントにも書いてあるように、個性の使用は絶対に禁止!それを決して忘れように…以上です』
校長のつまらない話を聞き終え、俺達の担当のヒーロー達から各自掃除道具を渡されて掃除場所まで移動した…掃除が終わったらそのまま帰れるように制服入りの鞄を持ってだ…邪魔だし重いったらありゃしねぇ!
「じゃあ皆さん、これから明るい内だけ《ゴミ拾い》をしていただきます。清掃の範囲は移動中に説明した場所だけとし、その範囲からは出ないようお願いします。分からないことは我々に聞いてください。それでは作業開始します」
清掃する場所へと移動し、ヒーローの掛け声と共に各自ゴミ拾いが始まった…
「(正直めんどくせぇ…大体!なんでこの俺がクソナードのデクがやってたことをやらなきゃいけねぇんだよ!)」
俺は不満タラタラで作業をした…
ふと周囲に目をやると近くに取り巻きの2人がいた!俺は2人へ近づき声をかけた。
「ようお前ら、俺に責任擦り付けて自分達だけ逃げようなんざ随分といい御身分じゃねぇか…あ”あ”っ!?」
俺は近くにいるヒーローに気づかれない声で2人へ突っ掛かった。
「「………」」
「(コイツら揃って俺をシカトしてやがる!俺に逆らうなんざ!いい度胸してんなぁ!!?)おい!シカトしてんじゃねぇよ!」
俺はソイツらの肩を掴んで無理矢理俺の方を向かせた!
「聞こえてんだろテメェ……ら…」
だが…ソイツらの顔を見て言葉を詰まらせた…
「んだよ…その顔…」
教室じゃ気づかなかったが、コイツらの顔には青たんや痣などの暴行の跡があった!
「…この傷か…これは昨日担任が帰ったあとの夜に父ちゃんと母ちゃんからボコられた傷だよ…」
「…散々叱られて…父ちゃんに殴られるなんざガキの頃以来だった…ただ容赦なしに思いっきり殴る蹴るをされた。お前と一緒になってデク…緑谷を虐めていたことが全部バレてよ…」
「…『やめてくれ』って言っても止めてくれなかった…代わりに『お前がしてきたことはこんなもんじゃないだろ!!』って言われて…反論できずボコボコにされたんだよ…」
「…そんで…お前と縁を切らないなら…高校へは行かせないって言われたんだ…」
俺も昨日ババアに殴られて似たようなことを言われた…コイツらの傷と態度を見た限り嘘を言ってねぇみたいだ…
「…勝己…俺達はお前と一緒にいたかねぇんだ…俺達の人生まで台無しにしないでくれ…親から『お前らまでヴィランになりたいのか?』っても言われた…」
「…頼むから…もう俺達に関わんなよ…お前が俺達を《友達》だと思ってるかは知らねぇけど…《絶交》だ…勝己…」
2人は小声で必死に伝えてきた…幼稚園から今までデクと同じく勝手に俺のあとをついてきただけの没個性野郎が俺に口答えしやがって!!!
「…なに…勝手なこと言ってんだ!そんなの許すと思ってんのが!!」
「おい君達!何をしてる!?無駄話してる暇があるなら早く作業に戻りなさい!」
近くにいたヒーローが俺の大声で気づいてかこっちへ来やがった。
「あ”あ”っ!?テメェには関係ねぇだろ!失せろや!!」
「…君は…期間の延長が嫌ならさっさと作業へ戻りなさい!」
「んだと!俺に指図しやがって!!おい!お前らもなんとか言え…って…」
取り巻きの2人は俺から逃げるように走って離れていっていた。
「ア”イ”ツ”らああぁ!!!」
「ほら!早くに持ち場に戻りなさい!」
「クソがあああぁ!!!」
こうして俺は…最悪のスタートで1日目の《ゴミ拾い》を終えた…
だが…こんなのは始まりにすぎなかった…これからだったんだ…この厳罰の本当の意味を思い知ることになった…
…
●3日前(ヘドロ事件から4日目)
爆豪勝己 side
今日は土曜で休みだっつうのに朝から学校に来て早々にヒーローに連れられて《ゴミ拾い》をやらされている!今日からボランティアの連中も参加することになってるが、俺は昨日センコー共のせいで昼休憩の1時間を除いて、午前と午後の合計6時間も《ゴミ拾い》をやらされることになっている!本当に嫌になるぜ!それもこれも!あのクソデクのせいだ!!!
「ちっ!」
そんなことを思いながら1人でゴミ拾いをしていると…
「あぁ?」
4、5歳くらいの小せぃガキ3人…俺に近寄ってきた…
「んだよ…イッテェ!?」
ガキ1人がいきなり俺の足を蹴ってきやがった!
「テメェ…クソガキ!なにしやがんだ!!」
「お前!出久お兄ちゃんをイジメてた奴だろ!」
「なっ!?」
俺を蹴りやがったガキが俺に指を差して怒鳴ってきた!
「あそこにいる2人と一緒になって、出久お兄ちゃんへ缶とかペットボトルとか投げつけたりして酷いことしたの何度も見たぞ!」
もう1人のガキが怒鳴りながら指差す方向に取り巻き2人がいた。こっちの会話が聞こえたのか、それとも周囲から向けられる目線に耐えられなかったのか、取り巻き2人はそっぽを向いてそそくさとその場から離れていきやがった!
「俺達がお前らみたいな悪い《ヴィラン》を『やっつけてあげる』って出久お兄ちゃんに言っても!出久お兄ちゃんは『大丈夫だよ』って言っていつも止められたんだ!」
「お前が来たって出久お兄ちゃんは起きないんだぞ!!」
「どうして…どうして!優しい出久お兄ちゃんがあんな目にあわないといけないだよ!?」
「出久お兄ちゃんはゴミ拾いが終わったあとに俺達と遊んでくれたりしてたんだぞ!!」
「返せ…返せよ!出久お兄ちゃんを返せよ!!!」
ガキ共は俺に滅茶苦茶なことを言いながら俺の足を何度も殴る蹴るを始めやがった!別に痛かねぇのに…
なんでだよ…なんでこんなに胸がイテェんだよ!しかもこんなガキにまで《ヴィラン》呼ばわりされた!!
「いい加減にしろよ…!このクソガキ共おおおぉぉ!!!」
ガキ共に好き勝手叩かれてることと、訳のわからない胸の痛みを誤魔化すために俺は両手から《小さな爆発》を起こし、ガキ共を脅して追い払おうとした!
「おい!君!何をしてる!その《爆発》は個性を使ってるな!この子達に何をしたんだ!返答次第では期間の延長じゃ済まないぞ!」
見覚えのあるヒーローが俺に怒鳴りかかってきた!つか…このヒーロー…どっかで?
「個性の使用は禁止と言われていただろ!!忘れたのか!!」
「ウルセェ!このガキ共が俺に絡んで邪魔してきたんだよ!!!」
「だからなんだ!?それで個性を使って怪我をさせようとしたのか!!こんな小さな子供を相手に!!!」
「脅して追い払おうとしただけっての!!勝手に決めつけんじゃねぇ!!!」
「嘘をつくな!!この悪ガキ!!!」
ヒーローと口喧嘩しながら俺は思い出した!
「(そうだコイツ!あの事件でヘドロ野郎から助けられた後に、俺のタフさを誉めて『将来、ヒーローになったらウチの事務所に来ないか』って馴れ馴れしく言ってきた無能ヒーローだ!でもこの前とまるで態度が違う!)」
そして周囲を見渡せば《オールマイト》《シンリンカムイ》《デステゴロ》《Mt.レディ》あと《バックドラフト》がいなくて気づかなかったが、このボランティアに参加しているヒーロー達はあのヘドロ事件現場にいた無能なヒーロー共だった!
俺がヒーローともめているとガキ共の母親達が来て、ガキを抱き上げて俺から遠ざけていった。母親達は俺に対して何も言わなかったが…その目は…いや…その母親達だけじゃねぇ、ボランティアに参加している全員が俺に対して冷たい目線を送っていた!
「(やめろ……やめろよ……そんな目で……俺を……俺を……俺を見んじゃねぇよ!!!)」
心の中の叫びも虚しく…認識したことで常にその視線に晒されているのだと自覚すると俺は気分が悪くなった…
個性を使った件に関しては、初犯ということもあり今回だけは見逃されたが次に問題を起こしたら本当に延長されることになった…
ボランティアに参加している奴らは俺と話をしようとはしなかった…クラスメイトも同じだ…ヒーロー達は必要最低限なこと以外は何も言ってこない…それは午後になっても同じだった!
そしてまたガキ共にデクのことで絡まれた!午前中の二の舞になりたくねぇと思い、どうするか考えていると…
「HEY、子供達?暴力を振るっちゃいけないよ?緑谷少……緑谷お兄ちゃんもきっと君達にそんなことを望んでないと私は思うよ?」
そんな俺を庇ったのはガリガリに痩せた金髪の男だった…
「ガイコツ!?」
「オバケ!?」
「怖いよおぉーーー!!?」
ガキ共はガリガリ野郎から注意されて大人しくなったかと思えばそうじゃなくて、ガリガリ野郎に怖がって黙ってただけ…そのまま走って逃げていきやがった…まぁ結果的にガキ共は追い払えたけどな…
「…こ…子供達を怖がらせてしまった……緑谷少年……君を苦しませ……子供達を怖がらせるような…こんな私は……やはりヒーローに相応しくはないのか……」ブツブツブツブツ
何を言ってんだが聞こえねぇが、ガリガリ野郎がデクみてぇに小声でブツブツ何か一人言を言い始めたことに俺は嫌気がさし無視することにした。
そんな嫌な思いをしながらも今日の活動は終わらせたんだが…俺の不満はまだ終わっていなかった…
それは…
「クソが…今日もかよ…」
自宅への帰り道…昨日は気のせいかと思ったが…今日もいることで確信した!奉仕活動に参加していたヒーローが後方の離れたところで俺を見張っていやがる!
俺はヒーローに見張られている…
ヒーローからマークされている…
フザけんじゃねぇ!!
これじゃあまるで…まるで…まるで…
本当に《ヴィラン》じゃねぇか!!!
その現状を理解した俺の行動は速かった!
人混みに紛れてから屈(かが)んで姿勢を低くし、近くの細い路地に急いで入り込んだ!
息を潜めて気づかれないように路地から外の様子を伺うと、俺を見失って慌てている尾行していたヒーローが見えた。
「ど、何処にいったんだ!?先輩!大変です!先輩!」
「どうした?」
「例の少年を見失いました!」
「なんだと!?馬鹿野郎!なにやってんだ!」
「す、すいません!人混みが多かったもので…その…」
「言い訳なんか聞いてねぇ!早く見つけるぞ!そんなに遠くへは行ってない筈だ!」
「は、はい!」
俺を10メートルほど離れた位置から尾行していたヒーローが、更に後ろから尾行していた上司と思われるヒーローに叱られているのが見えた。しかもその上司は午前中にいた無能ヒーローだった。
「ハッ!ざまぁ見ろ!クソヒーロー共が!」
俺を見失い慌てて探しているヒーロー達を見て少し気分が晴れた。
だが表通りに戻れば見つかる恐れがある…
仕方なく俺はこのまま路地裏を通って帰宅することにした…
今思えば…この時点で俺は…文字通り…道を間違えたのかもしれない…
だが皮肉なことに…今日この道を通ったことで…俺はアイツが今まで味わってきた痛みを…この身をもって思い知ることになった…
暗がりの路地を歩いて数分…出口は見えずに曲がり角が見えてきた。
「クソ!こんな人通りもねぇ薄暗れぇ狭い道を通らなきゃならねぇなんてよぉ…それもこれも全部アイツの!」
『しかしまぁ……若頭も補佐はともかく…窃野と多部を連れてくなら俺も連れてってほしかったぜ……乱波じゃねぇが…俺もたまには暴れてぇのによぉ…』
「あ”あ”?」
路地の曲がり角から男の声が聞こえてきた。そっと歩いて曲がり角から覗いて見ると…
「そう言うな宝生、今回の取引相手は《投げた物》を色んな物と変換させる個性の集団だ。向こうが反抗してきても、窃野の個性だけで十分対処できる。俺達はここで逃げてくる奴をとっちめりゃいいんだ」
「分かってるさ…はぁ…それにしても4日前の取引が今日にまで伸びるたぁな…今回は本当にツイてねぇよ…夜に取引をする筈だった例の無人ビルからは中坊が飛び降りて、おまけに近くで起きたヴィラン事件にはオールマイトが現れて…そのせいで警察やらヒーローが余計にウロウロしている始末なんだからなぁ…」
「まったく迷惑なもんだ!俺達に余計な面倒かけやがってよぉ!キエエエエエーーーーー!!!」
壁に寄りかかる白いマスクをした筋肉質のハゲ男が、ゴミバケツの上に乗って奇声をあげる白い顔の黒いぬいぐるみみてぇな奴と話をして道を塞いでいた。
この路地は一本道だったから他に道がない、かと行って戻ればヒーローに見つかり、また監視と尾行をされる…
それが嫌だった俺は…
「おい!」
「ん?」
「ア?」
「退けよ!通れねぇだろうが!」
まだ引き返せたかも知れねぇのに…
下らない意地を張らずに元の道へ戻っていれば良かった…
だが…俺は間違った選択をした…
そして…コイツらと関わったことを…
俺は後悔することになった…
本当は早く雄英高校編を書きたいんですが、やはり順をおって書いていかないといけませんので雄英高校編はまだ先になってしまいそうですね。