緑谷出久の法則   作:神G

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 まず最初に《8月中に投稿する》と書いておきながら9月になってしまい、申し訳ありませんでした。

 今回も長く書きましたので所々内容を把握するのが大変だと思いますが、楽しめたなら幸いです。


-追加-(R2/10/27)
 制裁の法則(後編)が途中から途切れていたことに気づかず修正をおこたり、皆様にご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ありませんでした。


制裁の法則(後編)

●3日前(ヘドロ事件から4日目)

 

 

None side

 

「まったく、何処へ行ったんだ!?」

 

「先輩、この店にも出入りしていませんでした」

 

「ここでもないのか」

 

 爆豪勝己の監視を任されていた2人のヒーローは、勝己を見失なってしまい探し回っていたが未だ見つけられずにいた。

 

「自宅へ連絡もしましたがまだ帰ってないみたいです、早く見つけないと不味いですよ先輩」

 

「お前が見失ったせいだろが!!」

 

「す、すいません!」

 

 後輩ヒーローを叱りつける先輩ヒーロー。既に表通りは一通り探したが見つけることができず、爆豪が消えた周辺の店や建物を探しても見つからないため、これから付近の裏路地に入って探すところなのだ。

 

「場所的に…この路地ですかね~」

 

「ですかね~じゃないだろ、お前の記憶が頼りなんだぞ。さっさと見つけるんだ!ただでさえこの前の件で叩かれてるんだからな!」

 

 爆豪を見失った近くにある裏路地へと2人は入っていった。

 

「ったく、なんで俺があんな悪ガキの面倒なんざ任されなきゃいけねぇんだ!」

 

「それ先輩のせいじゃないですか…あの事件の時に『デビューしたら是非ウチの事務所に来てくれ!』なんてあの子に言うから…」

 

「ぐっ!?」

 

「オマケにカメラで撮られてたから言い逃れ出来ないって言うのに、先日の雄英の校長から呼び出しで集まった時に『そんなこと言ってない!』なんて嘘をつくから俺まで付き合わされてこんなことに…」

 

「…あぁはいはい!俺が悪うござんした!無能先輩で悪かっ……ん?」

 

「どうしたんですか先輩?」

 

 先輩ヒーローが路地の曲がり角の隅に落ちてる学生鞄を見つけた。

 

「この鞄は確か…折寺中の…」

 

「せ、先輩!?アレ!!」

 

「なんだ?…って爆豪!!?」

 

 曲がり角の先へ目を向けると、そこには散乱しているゴミと壊れたゴミ箱の傍で倒れている《両腕があらぬ方向に曲がり全身ズタボロで血を流している爆豪勝己》がいた!

 

「何があったんだ!?とにかく急いで病院へ…ってクッサ!?」

 

 散乱した生ゴミから匂う異臭は2人のヒーローの鼻を苦しませた。

 

「先輩、今近場の病院へ連絡しました!直ぐに来れるみたいです!あとその少年の容態を話したら『下手に動かさずそのままの状態にしておくように』とのことです!なので救急隊員が通れるように、ここを少しでも片付けましょう!」

 

「分かってる!にしても見失ってから一時間足らずで何をしてたんだよコイツは…」

 

 愚痴を溢しながらも2人のヒーローは、救急隊員が来た際に邪魔にならないよう通路に散乱しているゴミを片付け始めた。

 

 救急隊員と担架が通れる程にゴミを片付けると救急車の音が聞こえ、直ぐに救急隊員がタンカーを押してやって来て、爆豪は病院へ運ばれていった。

 救急隊員が爆豪を慎重に担架に乗せる際…爆豪から匂う異臭に鼻を苦しまされていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●1時間前…裏路地…

 

 

爆豪勝己 side

 

 俺は監視されていたヒーロー達から逃れるために裏路地へ入り込み、そのままヒーローに見つからずに裏路地を通って自宅へ帰ろうとしたが、その途中《白いマスクをしたスキンヘッドの男》と《小せぇ黒いぬいぐるみ》が道を塞いでいた。俺が通せと言ってるにも関わらず、目の前にいる2人組は全く退こうとする気配を見せねぇ。

 

「なんだお前…こっから先へ行かせるわけにはいかねぇよ…」

 

「おいガキ、今なら見逃してやる…さっさと通学路に戻って家に帰りな」

 

「ウルセェ!俺がそこを通るんだ!お前らが退けよ!」

 

「分かんねぇガキだなぁ…さっさと失せろって言ってだ!キエエエーーー!!!」

 

 急に態度を変えたぬいぐるみ野郎の奇声が癇に障ったのと、鬱憤が溜まっていたのもあって俺は考えなしにぬいぐるみ野郎に向かって個性の《爆破》を発動して殴りかかった!

 

「黙れや!俺に指図すんじゃねぇよ!クソぬいぐるみ!!」

 

BOOM!!

 

 ぬいぐるみ野郎はジャンプして俺の爆破をかわし、バケツだけが粉々になった。

 

 ぬいぐるみ野郎は地面に着地するとヨチヨチと歩いて俺に近づいて来た。

 

「あ“あ“!?んだよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガッ!!

 

「がぐあっ!!!??」ゴキッ!!

 

 訳が分からなかった!?ぬいぐるみ野郎の小せぇ右足がいきなりデカイ筋肉質の足になって俺の左足を思いっきり蹴ってきやがった!

 全くの予想外なことになんの受け身もとっていなかった俺の左足からは、変な鈍い音と同時に激しい痛みが襲った!

 

「イ!イデエエェ!!?…テメェ!!…なにしやが」

 

「最近のガキってのは教育がなってねぇんだなぁ…舐めてんじゃねぇぞクソガキ!!キエエエエエーーーーー!!!」

 

 左足をおさえる俺にぬいぐるみ野郎は目を血走らせて俺を睨みつけながら怒鳴りちらしてきやがった!

 

「おい宝生!俺が許可してやる!このガキにお灸を据えてやれ!」

 

「…おいおい…俺達は堅気に手を出しちゃいけねぇんじゃなかったのかよ…」

 

「手ぇ出してきたのはコイツだ!きっと組長だって見逃してくる!それに…暴れてぇんじゃなかったのか!」

 

「…はぁ…ツイてねぇことばかりだと思ってたが…そうでもないみたいだな……おい小僧…個性使って喧嘩吹っ掛けてきたってことはよぉ…お前も個性で痛め付けられる覚悟はできてんだよなぁ…おい…」

 

 ハゲ野郎は腕から《氷》?…いや《クリスタル》がハゲ野郎の腕全体を覆った!どうやらアレが個性みたいだな…足は痛てぇが…向こうがやる気なら俺は逃げるなんざしたかねぇ!

 

「ハッ!上等だ!こちとら鬱憤が溜まってんだ!テメェでこのストレスを発散させてもらうぜクソハゲ!」

 

 俺は無理矢理立ち上がった…左足はおそらく捻挫か最悪骨折をしてるだろうが、俺は根性と貯まっていた鬱憤で痛みを我慢した!

 両手から小さな爆破を起こして戦闘態勢に入る!

 

「…なるほど…掌から《爆破》を起こす個性か…」

 

BOOM!!

 

「オラァア!!死ねやーーー!!!!」

 

BOOOOOM!!!!!

 

 両手の爆破を推進力にハゲ野郎に向かって飛び、ハゲ野郎の前で両手の爆破を喰らわせた!!

 

「ハッ!ザマァ見ろハゲ!次はテメェだ!ぬいぐるみ野郎!」

 

 左足に重量をかけねぇように着地し爆煙が少しずつ晴れてきた、無惨に倒れるハゲ野郎を嘲笑って…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…効かねぇなぁ…」

 

「なっ!!?」

 

 ハゲ野郎は倒れるどころがその場から動いてすらいねぇ!本気じゃなかったとはいえ、片手で机やコンクリートブロックを壊せる威力の爆破を喰らわせたってのに、ハゲ野郎の左腕のクリスタルは亀裂もなく無傷だった!

 

「お返しだ…!!!」

 

ズガン!!

 

「ぐうぇぽぉっ!!?」

 

 俺はハゲ野郎のクリスタルを纏った右手で顔を殴られ、さっきの曲がり角の壁に激突した!

 

ダアアアン!!

 

「ぐわがっ!!」

 

バタン…

 

「お~飛んだ飛んだ、くたばったか?」

 

「…まだだな…タフなガキだ…」

 

「…イ…イテェェ……こ…こ…こんの…!!クソハゲがあ”あ”ぁ”ぁ”!!!生きて帰れると思うんじゃねぇぞゴラ”ア”ア”ア”ァ”!!!!!」

 

 俺は殴られた激しい痛みによって怒りが最高潮に達した!!!

目先にいるハゲ野郎とぬいぐるみ野郎をブチ殺す!!!

それしか頭になかった!!

俺は体勢を立て直し、爆破で空に向かって飛び上がった!!

 

「なんだ?逃げんのか?」

 

「…いや…」

 

 空中で左手と右手を逆方向に構えて爆破を連発して身体を回転させながらハゲ野郎に突進していく!

 

「纏めて吹き飛べやーーー!!!」

 

 爆破によって生まれたスピードと回転を殺さずに、ハゲ野郎の目の前で両手を構えて最大出力の爆破を繰り出す大技!

 周囲の建物なんざどうだっていい!!!

 この技ならハゲ野郎をクリスタルごとブッ飛ばせる!!!

 

「《ハウザアアァァ!!インパクトーーーーー!!!》」

 

 俺が長年考えて完成させた《必殺技》!!!

 コイツら纏めて消し炭にしてやらあああぁ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダン!

 

「があっ!!?」

 

 必殺技を繰り出そうとした瞬間!突然の発砲音と共に俺の肩に痛みが走った!

 

ズダーーーン!!

 

 肩からの痛みでバランスを崩し、俺はさっき壊したゴミバケツの横にある屋外収納用のデカいゴミ箱に頭から突っ込んだ!

 

「…どういう状況ですかい…これは?」

 

「クロノか…生意気なガキが絡んできやがってよぉ…おいたが過ぎたからお仕置きしてやってたのさ」

 

「口の聞き方が全くなってねぇ…碌な育て方をされてねぇ証拠だな…つか補佐…今撃った《物》は…」

 

「クソがあ”あ”あ”あ”ぁっ!!!今度はなんだよ!!!?」

 

 ゴミ袋とゴミ箱(プラスチック製)の残骸を掻き分けて奴らを睨み付けて怒鳴り散らした!

 俺がぶつかった衝撃でゴミ袋の中身(生ゴミ)が散乱し、その酷い異臭によって鼻が悲鳴をあげていた!

 不幸中の幸いだったのは、ゴミ箱の中に入っていた大量のゴミがクッション代わりになって衝撃が弱まり怪我をせずに済んだくらいだ!

 

 状況を確認するとさっきまでいなかった《鳥みてぇな仮面をつけた白フードの男》が拳銃を持って、ハゲ野郎達から少し離れたところにいた。

 

「おいクロノ…《そいつ》を勝手に使っちゃあ…いくらお前でもオーバーホールにバラされるぞ…」

 

「問題ありやせん…今撃ったのは《古い試作品》です。丁度一発余ってやして効果はもって1日か2日程度でしょう…」

 

「なんだ《古い失敗作》か…それならまぁ大丈夫………なのか?未だに完成しないからなぁ…」

 

「補佐…そっちは終わったんで?」

 

「ええ、反抗してきたんで潰しときやした。今、金目の物を窃野達に集めさせてやすんで然程時間はかかりやせんが…オーバーホールが個性でまた散らかしやしたので、その後始末が終わり次第ズラかりやす………って伝えに来たんですが…2人も忙しい様子で…」

 

「シカトしてんじゃねぇよ!!クソ共が!!!」

 

 俺をガン無視して話をする3人へ怒鳴った!

 

「なんです?…今のアンタは逃げるチャンスじゃねぇんですかい?…逃げきれたら特別に見逃してやってもいいんすよ…」

 

「あ”あ”っ逃げるだ!?フザけんじゃねぇ!!テメェら全員ぶっ飛ばし確定なんだよ!!雄英トップになるこの俺が!オールマイトを越えるヒーローになるこの俺が!んな負け犬みてぇなことするわけねぇだろがクソが!!!」

 

 俺を見下す発言をしやがった白フードの野郎に怒号を放った!

 

「やれやれ…《大人が話してる時は割り込むな》ってママから習わなかったんですかいクソガキ…」

 

「まったく騒がしいぜ…グチグチ言ってねぇでさっさとかかってこいよクソガキ…」

 

「出来もしねぇことを吠えんじゃねぇよクソガキ!キエエエエエーーー!!!」

 

 

 

ブチッ!!!

 

 

 

 俺の中の何かが…キレた…

 

「があ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁ!!!!!テメエエエエらあ”あ”あ”あ”ぁ”!!!!!纏めて《ブチ殺し》に変更だゴラァ!!!!!」

 

 俺を舐めている態度と俺のことを《クソガキ》と3連続で言ったことで、俺の堪忍袋の緒が完全にブチ切れ!腹の中に溜め込んでいた《怒り》が爆発した!

 今の俺の最大出力の《爆破》でコイツらを消し炭にしてやる!!!

 

 俺は顔と足の痛みを無視して奴等に向かって突っ走った!

 

「う”お”お”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あぁ”ぁ”!!!!死ねやーーーーー!!!!!」

 

 両手に汗を溜めていき、奴等の前で両手を翳(かざ)して大爆発を喰らわせてやる!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(シーン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!!!?????(な…なんだ!!?どうしたってんだ!!!なんで個性が発動しねぇんだ!!?なんで爆破がおきねぇんだ!!!?)」

 

 突然のことに慌てた俺は、走った勢いを止められず両手を前に出したままハゲ野郎の近くまで来てた!

 

ガシッ!

 

「なぁあ!?」

 

 ハゲ野郎に俺は突き出した両腕を捕まれた!

 

「クソッ!離せや!!クソハゲ野郎!!!」

 

「なんだぁ?爆発しねぇのかよ…」

 

「俺達をブチ殺すんじゃなかったのか?キエエエーーー!」

 

 クソ共がぁ!俺が動けねぇのをいいことに煽りやがって!!

 

 …だが…んなことより!なんで個性が使えねぇんだ!?!?!?まさか!そこの白フード野郎の個性か!!?

 

「いつまで掴んでんだ!!?離せや!!!」

 

「どうやらテメェには…《痛み》ってのを分からせねぇといけねぇみてぇだな…」

 

「あ”あ”っ!!?なに訳わかんねぇこと言って…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボギッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………………あ?………なんだ………

 

 捕まれていた俺の両腕が…

 

 肘から先が何故か《下を向いている》…

 

 鈍い音と共に…俺の両手が…人形みてぇにあり得ねぇ方向を向いていた…

 

 

 

 

 

 ………それを認識した瞬間!

 

 

 

 

 

「×♯□☆※#$%○¥▲※△&★※¥●□▲×#!!!!!!!!????????」

 

 今まで味わったことのない激痛が俺の身体を襲った!!!!!

 

 自分でも何を言ったんだが分かんねぇような!言葉にならなぇ程の叫びをあげていた!!!

 

 俺は地面へ背中から倒れて悶え苦しんだ!!!

 

「どうだクソガキ?これが…《痛み》だ!!!」

 

ズドン!

 

「ぐう”え”え”っ!!??」

 

 倒れている俺の懐をハゲ野郎に思いっきり踏みつけられた!吐き気が襲ってきたが、両腕からの痛みの方がデカ過ぎて気に止めてられなかった!

 

 息が絶え絶えになる俺にハゲ野郎は追い討ちをかけてきた!制服の胸倉を掴まれ俺は無理矢理立たされた!

 

ズガン!!

 

「グアガァ!!」

 

 振りかぶられたクリスタルを纏った剛腕が容赦なく俺の顔面に喰らわされ!そのまま壁に激突した!

 

「ぐっ!…ぐぬぉ!?は…鼻が…鼻が!!??」

 

 鼻血が止めどなく流れ…感覚がなくなった鼻を両手で押さえようとしてるのに…両腕は肘から先が全く動かねぇ!!!

 

ガシッ!

 

「ゴフッ!?…ぐっ!………あっ………ぁあ……」

 

 ハゲ野郎は地面へ座ろうとする俺に、そうはさせないと今度は首を掴まれて持ち上げられた!

 

「(息ができねぇ!…身体も動かねぇ!?…)」

 

 何の抵抗もできず…俺の足は地面から離された…

 ハゲ野郎はそのハゲ頭にクリスタルを纏った!

 次に何をされるのか悟(さと)った俺は目をつぶった!

 

 ところが…

 

ドガッ!

 

「ごう”え”っ!!?」

 

 腹に激痛がはしった!

 

 俺は痛みと苦しさに耐えて視線を下へ向けると…

 

「おいクソガキ…もう一度聞くぞ…お前…俺達をブチ殺すんじゃなかったのかぁ?口先だけか!!?キエエエエエーーー!!!」

 

 ぬいぐるみ野郎の腕だけがデカくなってその拳が俺の腹にめり込んでいた!

 

ズガン!!

 

「ぶぼがぁ!!!」

 

 ぬいぐるみ野郎に意識を向けていたら、ハゲ野郎が俺の顔面へ頭突きしてきた!衝撃だけじゃなく、尖ったクリスタルが俺の顔面に突き刺さった!!!

 

「あ”ぁ”……がはっ……ぁぁ…」

 

 全身からくる《痛み》に加えて…首を絞められ呼吸が出来ねぇ……俺は意識が朦朧としていた…

 

「おい…寝てんじゃねぇ…よ”っ!!!」

 

ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!

 

「だあ”っ!?ごわ”!がほっ!ぐがっ!ぶぇ!がふぁ!!!」

 

 追い撃ちをかけるようにハゲ野郎は俺の首を掴んだまま、裏路地に置かれてある室外機に向かって俺の後頭部を何度も叩きつけた!

 

「(あ!頭が割れるぅ!!!?)」

 

 気を失うことさえ許さないと言わんばかりに休むことなく襲ってくる痛みを何度も受けさせられた!

 

パッ

 

 やっとハゲ野郎は俺の首から手を離した…俺の身体は地面に倒れると思ったら

 

「キエエエエエーーー!!!」ドガ!!

 

「ごっぐあぁあ”あ”!!!??」

 

 重力に逆らわず前屈みに倒れようとした矢先、俺の顎へ下からぬいぐるみ野郎の剛腕のアッパーが直撃した!

 顎が砕けたかと感じるような力で俺は殴り飛ばされ!後頭部から地面に叩きつけられた!!

 

「(イ!?イデエエエエエエエェ!!!!!)」

 

 頭と顎を攻撃されたせいで脳みそが揺れ、おまけに全身痛くて!もう訳がわからなかった!!

 

 

 

 どうして俺が!こんな目にあわねぇといけねぇんだよぉぉ!こんな雑魚なんかに…俺が負けるわけねぇのに!

 

 いや!!んなことよりも!!?

 

「テ…メェら…俺に何…を…しやがった…!」

 

 身体中の感覚が分からなくなりながら俺は口を動かした…うまく喋れてねぇが…んなこと気にしてる場合じゃねぇ!!

 

 俺の個性が発動しなくなったのは、奥にいてこっちを見てるだけの白フード野郎の《個性》だと俺は考えた!

 

 

 

 昔…デクが《1人ヒーロー談義》で言っていた《あるヒーロー》を俺は思い出していた…この世には《個性を消すヒーロー》がいると…ただし個性が消滅する訳じゃなく、目で見られている間だけ目視した相手の個性を使えなくさせる個性らしい…

 

 《個性を消す個性》は非常に珍しく、《治癒系の個性》同様に希少な個性らしい…

 

 ……とその時はデクがベラベラと1人で喋ってやがったが…俺はウザったくなって《爆破》を喰らわせてデクを黙らせた…だからそのヒーローの名前は知らねぇ…

 

 

 

 …だが、その個性を持っているのはあくまで《ヒーロー》だ…今この場にいる訳ない…

 つまり白フード野郎の個性はソイツと同じで《個性を一時的に使えなくさせる個性》と言うことだ!

 俺は仰向けの状態で首を無理矢理起こしながら白フード野郎を睨んだ!!

 

「まだ喋れるとは随分しぶとい…『俺に何をしやがった』っですって?そんなこと答える訳…」

 

 

PRRRRRRRR…PRRRRRRRR…(携帯の音)

 

 

「ん…電話?…若頭から? (Pi) へい、オーバーホール…」

 

 白フード野郎は俺の問いに答えずにかかってきた電話に出て俺から視線を外した!どこまでも舐めやがって!!?

 

「おい…テメェら……無視すんじゃ…グハァッ!!??」

 

 腹へ突き刺す痛みが走った!ハゲ野郎のクリスタルを纏った腕で殴られた!

 

「『他人の電話中は大声を出すな』ってことも知らねぇのか…?常識がなってねぇんだな…テメェは…」

 

「ハァ…ハァ…ク……ソが…!?教えろや!…ゴホッ!?…ハァ…ハァ…俺に…何を……したんだよ…!!」

 

 呼吸が荒くなり…血反吐も吐いた俺だったが…そんなことよりもまず知るべきことがあった!!

 

「あぁん?ったく面倒くせぇなぁ………わかった…特別に教えてやるよ…」

 

 動けなくなった俺の顔の傍へ…ぬいぐるみ野郎が近づいてきた…

 そして、俺に今何が起きているのかをソイツは話し始めた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は度肝を抜かれた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の個性はなぁ…この世から消えちまったんだよ!」

 

「(…………あ”…………?消えた………俺の個性が……)」

 

 俺はぬいぐるみ野郎から言われたことを理解することができなかった………理解したくなかった………

 

「どうだ?個性が無くなった気分はよぉ?キエエエエエーーーーー!!!」

 

 俺の個性が……無くなった………個性は消えた………………消えただと!!!!!?????

 まさか!!白フード野郎の個性は!《個性を完全に消滅させる》個性なのかよ!!!??

 

 

 

 だとしたら俺は!!!!??

 

 

 

「…へい…へい…分かりやした… (Pi) お2人共、向こうは片付いたようですよ。それとオーバーホールからの伝言です…『躾のなってない《英雄症候群》のガキには《情》をかけてさっさと帰ってこい』…だそうです」

 

「おいクロノ…その《情》ってのはまさか《愛情》じゃねぇよなぁ…」

 

「まさか………《非情》に決まってやすよ…」

 

「だよな…キエエエエエーーー!!!」

 

 

 

 ぬいぐるみ野郎の奇声を皮切りに…

 

 俺はハゲ野郎とぬいぐるみ野郎から痛めつけられた…

 

 

 

 何度も殴られ…

 

 何度も蹴られ…

 

 何度も壁や地面に叩きつけられ…

 

 身体中が悲鳴をあげた…

 

 容赦なく…休むことなく…暴力を振るわれ続けた……

 

 もう声を出すことも出来ず…

 

 顔を何度も殴られたせいなのか景色が歪んできた…

 

 脳震盪でも起こし始めているのか…

 

 過去の記憶が俺の頭の中に流れてくる…

 

 

 

 

 

《個性が消えた俺》…

 

《個性を使って容赦なく痛ぶるハゲ野郎》…

《暴言を言いながら暴力を振るってくるぬいぐるみ野郎》…

《この状況で高みの見物をする白フード野郎》…

 

 3人がかりで個性が使えない1人を痛めつける行動…

 

 俺の脳内に《ある光景》がフラッシュバックで流れる…

 

 それは何度も見て…ずっと体験してきたことだった…

 そして…その《光景》と《今の状況》が似ていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《ガキの頃から俺と取り巻き達が3人がかりで無個性のデクを痛めつけていた》光景と酷似していた…

 

 つまり…今の俺の立場は…あの時の《デク》…

 

「(…デク…お前は…こんな気持ちだったのか…なんの抵抗もできず…ただ痛めつけられるだけの…こんな思いを…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PRRRRRRRR…PRRRRRRRR…Pi…

 

 

「へいオーバーホール………へい……へい……分かりやした…直ぐに向かいやす(Pi)お二人とも時間です…行きやすよ…」

 

「このガキはどうするんだ?」

 

「ほっときやしょう…殺すと後々面倒ですからね…」

 

「…ふん!…だとよ…命拾いした…なっ!!」

 

ズガン!

 

 ボロボロになった俺はハゲ野郎に投げ飛ばされゴミ箱へ再び激突した…

 鼻を殴られて…生ゴミが散乱しているのに全く臭(にお)いがしねぇ…

 

 鼻だけじゃねぇ…

 

 身体が全く動かねぇ…

 

 腕どころか指もマトモに動かせねぇ…

 

 声も出ねぇ…

 

 目も霞んできやがった…

 

 視界が大きく揺れて意識が朦朧としてきた…

 

 俺が最後に見たのは…ハゲ野郎と白フードの男の後ろ姿と…地面に顔をつけてる俺に近づいてくるぬいぐるみ野郎…

 

「おいガキ…俺達に喧嘩売っといて生かしといてやるんだ…ありがたく思えよ!!キエエエエエーーーーー!!!」

 

 指を指して奇声をあげるぬいぐるみ野郎が…俺の肩に手を伸ばしてきたのを最後に…

 

俺は意識を失った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ

 

『ハッ!今日はこのくらいで勘弁しといてやる…感謝しろよ!クソデク!』

 

『…い…痛いよぉ…』

 

『ははっ!見ろよ無個性がのたうちまわってやがる!ダッセ!!』

 

『デクが悪いんだぜ?無個性のクセに俺達を見下さなきゃこんな目に合わなくていいのに、これに懲りたら2度と100点なんて取るんじゃねぇぞ~』

 

『デクナードが!生意気なことしやがって!俺に運動じゃ勝てねぇから勉強でテストだけでも俺の上に立とうってのか?フザけんじゃねぇぞ!100点をとったら配る前にセンコーが発表するんだよ!98点の俺は名前が呼ばれてねぇんだぞ!俺に恥かかせやがって!見下してんじゃねぇよクソデクが!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●2日前の夕方…(ヘドロ事件から5日目)

 

 

「ん…んん……ああ”っ?」

 

 …夢?…また昔の記憶を夢で…小学生の頃の…何の教科のテストだかは忘れたが…俺が98点でデクが100点をとった時……腹が立った俺は取り巻き2人と一緒にデクを無理矢理に校舎裏へ連れ込んで…3人がかりで痛め付けた過去だ…

 

 意識を取り戻した俺は重い瞼を開けて目を覚ました…

 最初に目にしたのはオレンジ色に染まった天井だった…俺の部屋の天井じゃねぇ…ベッドの感覚が違げぇし…それに薬みたいな臭いがした………つまり…今俺がいる場所は…

 

「起きたか…勝己…」

 

「?……親父…」

 

 声のした方へ顔を傾けるとそこには親父がいた…

 

「ここは…病院かよ?」

 

「あぁ…そうだ…」

 

 そっけなく答える親父に俺が部屋を見渡した…ここは病室でベッドの周囲にカーテンがねぇことから1人部屋の病室なんだと理解した…

 

「俺は…いったい?」

 

「その前に検査だ、看護師さんを呼んでくる…」

 

 そう言うと親父は病室を出ていった……ふとテーブルに置いてあるデジタルの時計を見ると時刻は夕方で日付が変わっていた。

 

 俺はゆっくりと起き上がりながら…何があったのかを記憶から引き出した…

 

「…確か…休みの日のゴミ拾いで……ガキやヒーローに難癖をつけられて……変な骸骨野郎がブツブツ言っていて……帰るときに無能ヒーロー共に尾行されて……それを追い払って……それから…………っ!!?」

 

 思い出した!

 

《白いマスクをつけたクリスタルのハゲ男》!

 

《手足の大きさを変えて奇声をあげる小せぇぬいぐるみ野郎》!

 

《俺の肩に銃弾を撃ち込みやがった白フードの男》!

 

 そして…白フードの男の個性で…《俺の個性が消えちまったこと》を思い出した!

 

 俺は咄嗟に両手を見た、包帯が巻かれてない掌に汗を貯めて個性を発動させた!

 

「(あんなの嘘に決まってる!!俺の《爆破》の個性が!消える訳)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(シーン)

 

 

 

 

 

「っ!!!!????」

 

 

 

 

 

 個性が発動しねぇ…《爆破》が起きねぇ…

 

 

 

 

 

「嘘だ…嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!嘘だーーーーーーーーーー!!!!!」

 

 俺は何度も個性を発動させようとしたが《爆破》どころか火花も散らなかった!!

 

「(俺の個性が消えた筈ねぇ!!!俺はトップヒーローに!!オールマイトを超えるヒーローになる男だぞ!!!その俺が!この俺が!個性が消えたなんて!!!絶対に嘘だーーーーーーーーーー!!!!!)」

 

バーーーン!!

 

ズダーーーン!!

 

ガッシャーーーン!!

 

 ベッドから飛び出した俺は、病室にあったものを壊しながら暴れまわった!

 

 椅子を壁に向かって投げ!

 

 ベッドをひっくり返し!

 

 テーブルを蹴り飛ばした!

 

「はぁ!…はぁ!…はぁ!………こんだけ汗をかいたんだ!これで個性を使え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(シーン)

 

 

 

 

 

「ぐっ!!!??ぐうおああああああぁぁああああああああああああああ!!!!??」

 

 こんだけ身体を動かして汗を絶対かいた筈なのに《爆破》が起きねぇ!こんなの…絶対嘘に決まってる!!!

 

ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!

 

 俺は壁に向かって何度も何度も頭をぶつけた!俺の個性が消えたと言う現実を受け入れたくないために…きっとこれは《夢》なんだと決めつけて目を覚ますために何度も何度も頭を壁に叩きつけた!!!

 

ガラッ!

 

「勝己!!?おい勝己!!!!??何をやってるんだ!!やめろ!!!」

 

 看護師を連れてきた親父が部屋に戻って、後ろから俺を羽交い締めにして取り押さえてきた!

 

「離せやクソ親父!!俺はまた夢を見てんだ!だから目を覚まさなきゃいけねぇんだよ!!!」

 

「何が夢だ!?もう起きてるじゃないか!とにかく大人しくしなさい!」

 

「俺の…俺の個性が消えたなんて…こんなの夢に決まってんだろうがよ!!」

 

「個性が消えた?何を馬鹿なことを言ってるんだ!?」

 

 親父は俺を大人しくさせようと力ずくで押さえつけようしてやがる!

 

「離せっつってんだろうが!じゃなきゃテメェをぶっ殺」

 

「いい加減にしろ!!勝己!!!」

 

ズガン!!!

 

「ぐあっ!!!」

 

ドサッ!

 

「…ッ!?…痛ェ…」

 

 俺を離した親父が右腕を振りかぶって俺の顔を思いっきり殴りやがった!?

 ババアに殴られ叩かれされたことは数えきれないほどあったが…親父は1度だって俺に手をあげたことはない…

 でも今…俺は親父に生まれて初めて殴られた…

ババアの比じゃねぇ…滅茶苦茶痛ェ…それこそ…あのハゲ男並みの力で殴られた…

 

「頭が冷えたか…勝己…」

 

「!!!??」

 

 親父を恐れたことなんざ一度もねぇ俺が…親父に恐怖していた!いつもの情けない口調とは違う…低音ながらも発せられるその言葉には今までにない圧迫感と冷たい感情しか感じられなかった…

 

「目を覚まして早々にコレか…お前が寝ている間に…世間は《大変なこと》になっているというのに…」

 

「…大変な…こと?…どういうことだよ…」

 

 親父の言葉に引っ掛かる言葉があり俺は突っかかると、親父は倒れたベッドやテーブルを元の位置へ戻して椅子へ座った。

 

「…分かった…話してやる…お前が寝ていた間の昨日と今日で何があったのかをな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●3日前(ヘドロ事件から4日目)

 

 

None side

 

 瀕死の重傷だった爆豪が運ばれた病院は、何の因果か出久が入院している病院だった。

 幸いなことに《ある患者》と《緑谷出久》の2人の術後経過を見るために来ていたリカバリーガールが手術してくれたことと、本人が学生ながらタフだったこともあって、爆豪勝己は検査次第では明後日には退院できるまで回復した。

 

 知らせを受けた母親の爆豪光己が急いで病院へ駆けつけて何があったのかを警察に聞く際、警察と共に病院へ来ていた《爆豪勝己の監視をしていたヒーロー2人》と《病院で警備をしていたヒーロー達》を交えて事情を聞いた。

 

 現段階での警察の調べでは、監視していたヒーロー2人が爆豪勝己を見失っていた約1時間……爆豪が通ったと思われる裏路地には爆豪の個性である《爆破》が使われた形跡があり、個性を使って誰かと争ったが《返り討ち》にあったと警察は捜査を進めている。

 

「2人揃って何をしてたんだ!?」

 

「人混みで見失っただと?お前らには責任感がないのか!?2日前に根津校長から言われたことをもう忘れたのか!!?」

 

「「も…申し訳ありませんでした…」」

 

 当然、爆豪の監視をしていた2人のヒーローは今回の件で《病院で警備をしているヒーロー達》からのこっぴどく叱られた。

 後日ヒーロー協会に今回のことが知られ、この2人はヒーローを辞めさせられはしなかったが評価は大きく下げられた… 

 

 そして手術後の爆豪勝己は出久とは違う病棟の病室へと入れられた…爆豪光己は面会謝絶をしている緑谷引子にどうしても会いたくて《病院で警備をしているヒーロー達》に掛け合ったが…アッサリ断られてしまい…出久のいる病室と病棟へ近づくことは許されなかった…

 

 

 

 

 

 …と…ここまではまだ…大事(おおごと)になってはいなかった…

 

 

 

 

 

 しかし…彼らは知らなかった…

 

 爆豪勝己が病院へ搬送された同時刻に…

 

 世間ではヒーロー社会を揺るがす騒ぎが起きていたことを…

 

 

 

 

 

 それは…

 

 

 

 

 

 その日の夕方(爆豪が手術を受けていた時)…

 

《折寺中の校長と教師達による校内で起きた生徒の虐めや差別問題による謝罪会見》…

 

《デステゴロ》《シンリンカムイ》《Mt.レディ》《バックドラフト》…そして《オールマイト》の5名による《ヘドロヴィランの事件の謝罪会見》…

 

 その2つが生放送で同時に行われたのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●2日前の早朝…(ヘドロ事件から5日目)

 

 

爆豪 勝 side

 

「(はぁあ…3日ぶりに自宅へ帰るのが朝になるとはな……それにしても会社の人達には本当に迷惑をかけてしまった……打ち切られはしなかったものの…危うく取引先との契約も駄目になるところだったからな……昇格や出世の話は全部取り消されたが…まぁ…クビにならなかっただけマシなのか…)」

 

 僕は正直疲れきっていた…それは3日前に遡る…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●5日前(ヘドロ事件から2日目)

 

 

 昼休憩をしている時、僕は突然上司から呼び出された。なんでも取引先から緊急の電話が入り僕に用があったらしい。

 電話を代わって話を聞くと…どうやって知ったのかは知らないが《今朝、勝己が警察へ連れて行かれた》という情報が入ったそうだ。僕はてっきり先日勝己が巻き込まれた《ヘドロ事件》の一件が関係してると思ったのだが…

 

 そうじゃなかった…

 

 《ヘドロ事件》じゃなくて、同じ日に起きたもう1つの大事件《出久君の飛び降り自殺未遂》に勝己が大きく関与しているというタレ込みがあったそうなのだ!

 

『君の息子が《同級生を自殺に追い詰めた》というのは本当なのかね?』

 

 僕はその問いに言葉を詰まらせた…父親なら息子の無実を信じて即座に言い返すところだが…僕にはそれができなかった…

 勝己は昔から出久君や他の子を虐めたり見下したりして、その度に光己が厳しく叱っていることがよくあった…

 4日前の夕食の時、勝己の様子に違和感を感じていた……

 そして今…その違和感の原因が判明した…勝己が出久君の事件に関わっていたのだと…

 

「申し訳ありません…それにつきましては私自身もまだ把握していないもので…」

 

『ふぅむ………すまないが急いで此方に来てくれないか?直接話をして、今後そちらとの会社の関係を考えさせてもらいたいのだが?』

 

「わ…分かりました…直(ただ)ちにそちらへ向かいます…それでは…」

 

 相手方との電話を切り、僕はこのあとのことを考えた…

 

 『直ちに向かう』とは言ったものの…その会社は遠くてすぐに向かうとなれば新幹線を使わなければならないことや…

 

 どうして勝己が警察署へ連れていかれたことを取引先が知っていたのか…

 

 今回のことをキッカケに取引に支障が出たらどうなってしまうのか…

 

 いや!それよりも勝己や光己はどうしたのか!?

 

 色々と悩んでいたその時…

 

 

PRRRRRRRR…PRRRRRRRR…

 

 

「ん?電話?…自宅から?(Pi)もしもし…」

 

『勝さん!』

 

 良いタイミングなのか何なのか光己から電話だった!

 

 でも…電話から第一声だけで明らかに妻の様子がおかしいことに気づいた…

 昔から近所や知り合いに《真逆な性格の夫婦》などと言われているが、僕は妻のことを理解しているつもりだ…

 本人は話してくれてはいないが…勝己が産まれて間もない頃…彼女は《自分が勝己の母親になれているのか》で悩んでいたことだって知っていた…

 

 なぜ知っていたかって?

 

 それは僕だって《自分が勝己の父親になれているのか》で悩んでいたことがあったからだ…

でも無理に聞き出すのは良くないと思い…いつか光己から話してくれるんじゃないかと僕は待っていたけれど、光己の悩みを解決したのは僕じゃなくて妻の親友であり出久君の母親の《緑谷引子》さんだった…

 

「どうしたんだい?光己?」

 

『…勝さん……実は…』

 

 光己は警察署で知った《真実》と…

 

 僕に電話する前…《引子さんとの電話》で何があったのか…

 

 その全てを話してくれた…

 

 すぐにでも帰って彼女を安心させてあげたい…

 

 だが今は無理だった…僕が勤めている会社にとって…今の取引先はとても大事な場所であり…もしもの時は僕1人の責任じゃ済まされない…

 事実…これから上司と共に取引先へ向かわないといけない…

 

「そうか……分かった……でもすまない…実は取引先から呼び出しを受けてしまって…コレから向かうことになったんだ…おそらく今回のことを含めてだと思うから…数日は帰れそうにないんだ。丁度その事で連絡しようとしてたんだけど…君から電話をかけてきてくれたからね…なるべく早く終わらせて帰るようにするよ…それまで待っててくれ…光己…」

 

 伝えたいことを伝え僕は電話を切った…

 

「(すまない…光己)」

 

 心細くなり不安定な妻を支えることができない情けない自分が嫌になった…

 

 僕は…光己の夫に…勝己の父親に…相応しくないのか…

 不意にそんなことを考えた…

 

 

 

 光己と出会い…

 

 結婚して…

 

 勝己が産まれ…

 

 2人を養うために僕は仕事に明け暮れた…

 

 だからという訳じゃないが…休みの日以外の勝己の面倒は殆ど光己に任せっきりだった…

 

 僕は勝己を……息子をちゃんと見てはいなかったのか…

 

 

 

「おい爆豪!何をボサッとしてる!さっさと準備しろ!駅に向かうぞ!」

 

「は、はい!すぐに!」

 

 光己に対して申し訳ない気持ちをしまい込みながら出掛ける準備を整え、僕は上司と共に新幹線で取引先へと向かった…

 

 

 

 取引先では本当に大変だった…

 

 会社には《イメージ》がある…特に今の取引先の担当は僕だから、僕の息子が……勝己が前々から《乱暴な性格》であることには取引先の方は目を光らせていたみたいだ…そして今回の件をキッカケにそんな息子の父親は信用できないとのことで契約打ち切りの話があがった…

 でも…数日の説得と話し合いの末…責任者を僕から別の誰かに変えることで取り敢えず契約を破棄させることはなくなった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●2日前の早朝…(ヘドロ事件から5日目)

 

 

 そして今日…僕と上司は始発の新幹線で地元に帰ってきた…

 

 昨日取引先との話し合いが終わり、ホテルで休んでいた時…僕は会社を解雇されるんじゃないかと不安な感情をもっていた…

 

 でも今朝の新幹線の中で…上司は僕にこう言った…

 

「爆豪…昨日の夜に社長と話をしたんだが…なんとかお前を辞めさせられずには済んだ…だがな…以前あったお前の昇格の件は取り消しになるそうだ…すまない…お前が良く働いてくれていたのは社長も会社の皆も知ってるんだ…でもな…こうなってしまっては…もうどうしようもないんだ…」

 

 上司は僕に気を使ってくれていた…僕の息子が原因で危うく会社が危なかったのに…それでも引き続き僕を雇ってくれるという。社長にまで気を使わせてしまい本当に申し訳なかった…

 

 それから…今回は突拍子もない呼び出しで疲れたろうからと社長から上司と僕に数日自宅で休むようにとも言われた…

 確かに疲れてはいたが、会社に散々迷惑をかけてしまったので直ぐに会社へ戻ろうとしたけど…取引先でも僕は光己や勝己のことが心配だったので…お言葉に甘えて自宅に帰ることにした…

 

 上司とは途中で別れ……今に至る…

 

 朝日が顔を出し始めた頃に自宅へ帰るのはいつ以来だろうか…

 

 そろそろ我が家が遠く見えてきた…

 

 

 

 筈なのだが…

 

 

 

 なにやら道に人が集まっていた…

 

 見間違いか…

 

 朝帰りで目がボヤけてるのか…

 

 それとも眼鏡がおかしいのか…

 

 そんなことを考えていた自分は直ぐにいなくなった…

 

 

 

 見間違いじゃない!家(ウチ)の前に人だかりが出来ていた!

 

 

 

「これは…いったい…」

 

 何でこんな朝っぱらから自宅の前に大勢の人が集まってるんだ!!?

 

「あっ!おい!あの人!!すいません!爆豪勝己君のお父さんですか!?」

 

「5日前の事件について詳しく教えてくれませんか!?」

 

「一言お願いします!あの日息子さんには何があったんですか!?」

 

「昨日のゴミ拾い中、子供に個性を使って怪我をさせようとした件について聞かせてください!?」

 

「息子さんにはどんな教育をしていたんですか!?」

 

 その大勢の人の正体は《マスコミ》だった!いきなり訳の分からない質問を沢山されて僕は動揺した!

 僕はなんとかマスコミを掻い潜って自宅へ入った!

 

「はぁ…はぁ…どうなってるんだ!?何が起きてるんだ!?」

 

「…勝さん…おかえりなさい…」

 

「…光己…」

 

 暗がりの廊下から光己が出迎えてくれた…

 

 今更気づいたが家の明かりが1つも点灯していない…

 

 そして…明らかに目の前にいる光己はいつもの光己じゃなかった!?

 僕の声なんて欠き消してしまう怒鳴り声をあげる様子もなく…ましてや《強気》という言葉自体を完全に無くしたような《別人の妻》がそこにはいた!?

 

「…勝さ……」クラッ

 

「…光己!?…」ダキッ

 

 倒れそうになる妻を僕は咄嗟に支えた!

 

 どうしたのかと顔を見ると眠っていた…でも…光己は僕よりもずっと疲れた表情をしていて目の下のクマが酷かった…

 

 何があったのか…状況が整理できなかったが、とにかく僕は光己を寝室で寝かせ休ませた。スイッチをきったかのように光己は眠っている…

 

 次に勝己の様子を見に行こうとするが…家中どこを探してもいなかった!

 

「(勝己はいったいどこに?…そういえば…さっきマスコミの誰かが《病院》やら《搬送》やらって言っていたな…)」

 

 数々の疑問が残る中…僕は何が起きているのかを知りたくテレビをつけた…

 ここ数日はずっと取引先のことばかりでテレビや新聞をちゃんと見てはいなかった。

 

 テレビをつけると丁度朝のニュース番組がやっていた…

 

 そこに流れるいくつものニュースの内容に僕は驚愕させられた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●3日前の夕方…(ヘドロ事件から4日目)

 

 

None side

 

 それぞれ別の場所で行われた2つの《謝罪会見》…

 

 

・折寺中での無個性生徒の虐めと差別問題の対処をしなかったことへの世間への謝罪と、自殺するまでに追い詰められていた無個性生徒とその家族への謝罪…

 

・ヘドロヴィラン事件に駆けつけたヒーローの内の5名が代表として出席し、《デステゴロ》《シンリンカムイ》《Mt.レディ》《バックドラフト》の4名はヒーローとして本当にとるべき行動が出来ていなかったことへの謝罪……そして、あの事件の全ての発端である No.1ヒーロー《オールマイト》の謝罪…

 

 

 この2つの謝罪会見は世間に大きな衝撃を与えた!

 

 何より一番の衝撃は《オールマイトの謝罪》だ!

 無理もない…なにせあのヘドロヴィラン事件は《オールマイトの不注意》によって起きたという事実は世間を震撼させた!!!

 

 

『オールマイトがそんなミスをするなんて!?』

 

『あの事件の発端がオールマイトだったのか!?』

 

『つまり!あの事件はオールマイトの自作自演!?』

 

 

 謝罪会見へと出席した記者やメディアからはそんな声が上がっていた!当然その中にはオールマイトに対して厳しく心無い言葉をのべる者がいた…

 

 とはいえ…これはオールマイトだからこそ《この程度》で済んでいた…

 他の4人のヒーロー達と折寺中の教師達へ向けられる記者とメディアからの批判の言葉は《そんな比》じゃなかったのだ…

 

 

 

 

 

 まず《折寺中の教師達》に対しては…

 

 

・学校内での無個性のイジメに気づいていたにも関わらず何(なん)の対策もしてなかったこと

 

・イジメをしていた主犯の生徒が将来有望な強個性をもつ生徒であったことを理由に優遇扱いし、大した注意をせずに悪事を見逃していたこと

 

・教育者である教師達が《個性の有無》と《個性の強弱》で生徒を差別をしていたこと

 

 

 他にも多々あるが大きく問題視されたのはこの3つだった…

 警察が徹底して調べたことなので、全てが嘘偽りのない真実である…

 

 

『被害者である無個性の子へのコメントはありますか!?』

 

『将来有望な個性を持つ生徒の悪事を気づいていたのに何故見逃していたんですか!?』

 

『生徒が自殺未遂をしなければ対処する気はなかったんですか!?』

 

『生徒だけでなく、教師全員も無個性を差別していたというのは本当なんですか!?』

 

『教育者としての自覚は今もあるんですか!?』

 

『個性で生徒を判断する教師がいる学校をこのまま続けていくんですか!?』

 

『子供を教育する立場でありながら《個性の強弱》《個性の有無》で判別するのが折寺中の校則なんですか!?』

 

 

 マスコミは一斉に記者会見に出席していた折寺中の校長と3年の教師達へ質問を繰り出した。

 

 当然ながら校長も3年の教師達もロクな回答が出来ず、精神的に追い込まれていったがマスコミやメディアは容赦なんてしなかった…

 

 マスコミだけでなく既にネットでも…

 

 

{折寺中は《無個性の生徒の差別》と《優秀な個性の生徒の優遇》をする学校!}

 

{個性の有無以前に子供を平等に教育しない教員しかいない!}

 

 

 …などの書き込みで埋め尽くされており、もはや教師だけの問題ではなく《折寺中学校》そのものが危うい状況になっていった…

 

 それだけじゃない…記者会見において《教師の名前》は晒されたが《問題となった生徒達の名前》は伏せられた…

 

 そう…《名前》だけは…

 

 だがマスコミは甘くはなかった…

 

 今の時代…個人を判断するのは何も《名前》だけではない…

 

 《個性》…それはその人を示すといい…オールマイトが関わった《ヘドロ事件》は大勢の人がスマホなどで撮り上げられていたため、その事件をアップした動画やSNSは大量に存在した…

 

 それが何を意味するのか…後日…その当人達が身も持って…骨の髄まで思い知ることとなった…

 

 

 

 

 

 次に《ヘドロ事件のヒーロー達》に対しては…

 

 《オールマイト》《デステゴロ》《シンリンカムイ》《Mt.レディ》《バックドラフト》の5人は、あの時に自分達が何をしていたのかを正直に語った…

 

 《ヘドロ事件》の発端が《オールマイト》であったことだけでなく、次々と明らかにされていく《いくつもの真実》にマスコミは質問の嵐をヒーロー達へぶつけた。

 

 

『シンリンカムイさん!個性の相性が悪くて戦おうとしなかったのは事実なんですか!?』

 

『目の前で苦しんでいた子供がいたのに他人任せにして逃げたんですか!?』

 

『デステゴロさん!現場に最初に着いていたというのに避難誘導以外はなにもしてなかったというのは本当なんですか!?』

 

『オールマイトが来なかったら被害者の子供を見捨てるつもりだったんですか!?』

 

『Mt.レディさん!巨大化した状態では現場へ入れなかったから棒立ちしていたのは本当なんですか!?』

 

『Mt.レディさん!シンリンカムイさんとの熱愛疑惑について教えてください!?』

 

『あなた方には本当にヒーローとしての自覚はあるんですか!?』

 

『バックドラフトさん!現場にいた際に消火活動以外で出来ることはなかったんですか!?』

 

『人任せにして戦いもせずに被害者を助けようと飛び出した子供を叱っていただけなんですか!?』

 

『ヴィランとの戦闘において個性の相性が悪かったら被害者が死んでも仕方ないと思っているんですか!?』

 

 

 マスコミ達は《デステゴロ》《シンリンカムイ》《Mt.レディ》《バックドラフト》に容赦なく質問をいくつもぶつけていく…

 しかし…彼らは反論もしなければ言い訳もせずに答えられる質問には適切に答えていった…

 2日前…オールマイト以外の《ヘドロ事件》に関わったヒーロー達は警察署に呼び出されていた…

 彼らを集めたのは《雄英高校の根津校長》だった、そして根津との話し合いの末…彼らは自分達のとった行動について深く反省させられていたのだ…

 

 そんな会見の最中に、つい先程《ヘドロ事件の被害者》である《爆豪勝己》が奉仕活動後に、裏路地にて重傷で発見され病院に搬送されるという速報も入ってきたせいでマスコミはエスカレートしていき、ヒーロー達は心身ともに追いやられていった…

 

 そんな中…オールマイトはこの記者会見に不満を持っていた…

 自分が仕出かしたことの《全て》を伝えきれていないからだ…

 ヒーロー協会から口止めされているため…世間に話したくても話すことを許されない…《もう1つの真実》…

 ヒーロー協会はヘドロ事件における《オールマイトの汚点》を世間に晒してもなお、《もう1つの真実》を全面的に隠すため…あえて《ヘドロ事件におけるオールマイトの汚点》を公(おおやけ)にすることにしたのだ…

 

 

 

 だが…これはあくまでもその2つの事件に関わった者達への《報い》いわば《制裁》でしかない…

 

 

 

 この状況を嘲笑うかのように…記者会見の直ぐあと…今まで秘密にされていた《とあるヒーローの情報》がマスコミへとバラまかれた!

 

 いったい誰がなんの目的で《この情報》を漏らしたのかは不明だが、この最悪のタイミングで事態を更に悪化させるかのような……火に油を注ぐ《とんでもない情報》が世間に知れ渡っていたのだ!

 

 それを彼ら(ヘドロ事件のヒーロー達)が詳しく知ったのは…次の日だった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●2日前の朝(ヘドロ事件から5日目)

 

 

オールマイト side

 

「ん………あぁ……もう朝か…」

 

 前日の謝罪会見での疲れがまだ残っていたが…私は重たい瞼を無理矢理開けて目を覚ました…

 私は今、根津校長が用意してくれたホテルに宿泊している…特に高級ではない普通のホテルだ…

 当然ながら《オールマイト》としてではなく《八木俊典》の名で泊まっている…

 

「はぁ…昨日は本当に大変だったなぁ……」

 

 

[デンワガキター!デンワガキター!デンワガキター!]

 

 

「ん?電話?」

 

 近くに置いていた携帯が鳴った。

 

「こんな朝早くにいったい誰だ?…非通知?(Pi)はい、もしもs」

 

『オーーールマイトーーーーー!!!!!』

 

「ぬおっ!!!???」

 

 携帯からの怒号の叫びは私を叩き起こすかのように響いていた!

朝起きたばかりでこれはキツい!

この怒号の主は直ぐにわかった!

現No.2ヒーローの…

 

『貴様のせいで!!俺は…俺はなあーーーーー!!!』

 

《フレイムヒーロー・エンデヴァー》!

 

 先程の怒号で頭がガンガンしていたが、彼が私に電話してくるなどそうそうない。

 

「あ~っと…エンデヴァー…君が私に電話をしてくるとは珍しいね…」

 

『黙らんか!!!貴様いったいどういうつもりだ!!?俺に《あの人》から譲られた1位の座をとられるのを恐れて!!俺を落とし入れようというのか!!?』

 

 必要以上に突っかかってくるエンデヴァーが何を言っているのか、訳がわからなかった。

 昨日の記者会見のことか?…いやエンデヴァーには関係ない筈だが…

 

「エンデヴァー?いったい何をそんなに怒っているんだい?」

 

『貴様、惚(とぼ)けるつもりか!!?テレビをつけろ!!ニュースを見とらんのか!!!』

 

 ヒートアップし続けるエンデヴァーに言われ私はテレビをつけた。

 

 

 

 

 

『…えぇ以上が、昨日の夕方に行われた《折寺中学校》と《ヘドロ事件》記者会見の内容でした』

 

 丁度ニュース番組をやっており、どうやら昨日の記者会見についての報道が終わったところだった。

 そして、エンデヴァーが私のもとへ電話を掛けてきた理由は次のニュースで発覚した。

 

『次のニュースです、No.2ヒーロー《エンデヴァーの家庭内での虐待と暴力》の実態が明らかになりました』

 

「…えっ……?」

 

『昨日行われた2つの記者会見終了後に、マスコミへ《エンデヴァーの家庭事情の詳細》についての情報があり、記者会見に出ていたマスコミや記者は事実確認のため直ぐにエンデヴァー事務所へ向かい、一時事務所前がマスコミと記者などで埋め尽くされました』

 

 本来ヒーローのプライベートは厳重に守られている、ましてや家庭や家族については不用意に情報が流れることはない筈だというのに、どういうことなんだ!?

 それから《エンデヴァー家庭事情》が詳しく流れる。

 

 

・エンデヴァーは奥さんの個性を手に入れるため、奥さんの家族をお金の力で無理矢理抱き込んだこと…

 

・彼が結婚したのは自分と奥さんの個性を持った子供が欲しいためだけの《個性婚》だということ…

 

・4人の子供を授かりながら、父親らしい行動を何1つしていないこと…

 

・自分の子供を《人》ではなく《物》と《道具》としてしか見ていないこと…

 

・4人目に産まれた《炎と氷の個性をもつ末っ子》へ、5歳の頃から《虐待》と《暴力》という名の《個性特訓》をさせてきたこと…

 

・家庭を省みず、目的の子供が出来て用済みになった奥さんをストレスの捌け口として日夜痛めつけて、結果ノイローゼにし精神病院へ入院させる程にまで追い詰めたこと…

 

・4人の子供の内1人が行方不明になっていること…

 

・自分に反抗及び逆らえないように幼少の末っ子の顔へ火傷を負わせたこと…

 

・末っ子を《名前》としてではなく《最高傑作》と呼んでいること…

 

 

 次々と明らかになっていくエンデヴァーの家庭の闇……家族をもつ父親とは思えない《極悪非道》の数々が白日の元へ晒されていた。

 

『これに対しエンデヴァーは『現No.1ヒーローと元No.1ヒーローを超えるためには、これくらいのことはして当然だ!!』とのコメントをしており、全てを認めております』

 

 昨日の夜遅くにエンデヴァーへインタビューした映像が流れた。

 

 

 

 

 

「こんなことが…あのあとに起きていたなんて…」

 

『ようやく理解したかオールマイト!!貴様!どうやって俺の家庭の情報を知った!?ヒーロー協会か!?それとも警察を使ったのか!?No.1ヒーローなら何をしても許されると思っているのか!!?』

 

「ち、違う!私じゃない!私は君の家庭事情は今まで知らなかった!」

 

『嘘をつくのもNo.1だなオールマイト!!昨日の今日で貴様以外に誰がいる!!?』

 

「とにかく私じゃない!というよりエンデヴァー!?君が結婚したのはやはり《個性婚》だったのか!!父親でありながら奥さんや子供にこんな非道なことをしていたなんて!!?」

 

『黙れ!!!子供がいないどころか、未だ結婚をしてない貴様だけには説教される謂れはないわ!!!!!』

 

「大きなお世話だ!!しかも《個性婚》をしたのが、私や《あの人》を超えるためなどとそんな下らない理由で!!!」

 

 エンデヴァーが歪んだ家庭を築いた原因を知った私は怒鳴り返した!

 ヒーローの1位と2位が電話越しに喧嘩しているなんて…第三者が見たらどう思うだろうか…

 

『下らない?………下らないだと!!!??貴様に……貴様になにが分かる!!!??何故貴様なんかが選ばれ!!!この俺が選ばれなかったんだ!!!《あの人》からNo.1の座を譲られた貴様に!!!あの時の俺の屈辱が!!!悔恨(かいこん)が!!!貴様に分かるものかーーーーー!!!!!』

 

(ツーツーツーツーツー)

 

 エンデヴァーからの今日一番の怒号で電話が切れた…

 

「…エンデヴァー…君はあの時…そこまで…」

 

 今のエンデヴァーを形(かたち)作ったのは20年以上前の《あのこと》が原因だったのか…

 

 緑谷少年のことだけじゃない…私の後悔は…今に始まったことじゃなかった…《お師匠》…《デイヴ》…《ナイトアイ》…思い出していけば後悔したことは数えきれない…

 

「私は…私は…どうすればいいんだ…」

 

 私は1人部屋で悩んだが…正しい答えなど見つかるわけない…《多くの人々が笑って過ごせる日々を守るための平和の象徴であり続ける》…そんな答えしか…今の私には導き出せないのだから…

 

 テレビのチャンネルを変えてみれば…《ヘドロ事件》と《折寺中》、《昨日の2つの記者会見》そして《エンデヴァーの家庭事情》でどのチャンネルも支配されていた。

 

 スマホでネットを見れば《ヘドロ事件のヒーロー》と《折寺中》の批判だけでなく、エンデヴァーに対する批判で騒がれている。

 

 

 

{エンデヴァーは《ヒーローの心》以前に《人の心》も持たない残忍な男!}

 

{自分がNo.1になりたいという理由だけで、奥さんや子供の人生を蔑(ないがし)ろにするクズ!}

 

{エンデヴァーは家族を《私物》としか見てない最低最悪なヒーロー!}

 

{エンデヴァーはこの世に必要ない!トップヒーローなら《オールマイト》《ホークス》《ベストジーニスト》《エッジショット》達がいるんだから居なくなってもらって結構!}

 

{恐怖で従わせるために幼い子供の顔を火傷させるなんて、エンデヴァーはヒーローじゃなくてヴィランだ!}

 

 

 

 今なおエンデヴァーの批判と否定する書き込みが追加されている…昨日の私のミスも重なって余計なのかもしれない…現トップヒーローの1位と2位がコレでは騒がれるのは当たり前か…

 

 

[デンワガキター!デンワガキター!デンワガキター!]

 

 

 スマホでネットを見ていると今度は《ヒーロー協会》から電話がかかってきた。

 

「はい、もしもし」

 

『オールマイト…悪いが直ぐにヒーロー協会本部へ来てくれないか?話がある…』

 

 このタイミングでヒーロー協会からの電話…決して良い話ではないだろう…

 

「分かりました…(Pi)」

 

 全ての発端が私ならば…

 

 私は受け止めなければならない…

 

 コレからのヒーロー社会を…

 

 緑谷少年を…

 

 エンデヴァーを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●数時間後…ヒーロー協会本部…

 

 

「疲れてるところ足を運んでくれて感謝するよ、オールマイト」

 

「いえ…それで私をここへ呼んだのは…やはりエンデヴァーの…」

 

「あぁ…そうだ…」

 

 ホテルを出た私はヒーロー協会へ直行した。とはいえ…昨日の記者会見でマッスルフォームを維持しすぎたため、ここへ来るまではトゥルーフォームでやって来たため時間がかかってしまった…

 

 先日呼び出しを受けた時と同じ会議室で同じ面子が再び集まった…

 

「君も知ってるだろうが、今世間では《ヘドロ事件におるヒーロー達の愚行》と《折寺中での無個性生徒のイジメ問題》そして《エンデヴァー家庭事情》の3つで騒がれている」

 

「エンデヴァーの件に対して現状で疑わしいのは君という意見があったのだが…」

 

「わ、私はそんなことしていません!!」

 

「分かっている…君はそんなつまらないことをする人間ではないことは承知している」

 

「で、では誰がエンデヴァーの情報を公(おおやけ)に?」

 

「我々も調査しているのだが…まだ突き止められてはいない…」

 

「だが確実に言えることは…オールマイト、昨日の記者会見で君が《手負い》を認めたことでヒーロー社会が一時不安定になるこのタイミングを見計らい、更に状況を悪化させるために《エンデヴァーの家庭の闇》を公にした《黒幕》がいるということだ」

 

「現No.1とNo.2の汚点が同時に発覚すれば、今の社会は困惑することが確実だからな」

 

「それを狙っていたとすれば…計画的な策略になる…」

 

「《市民への不安》と《ヴィランの暴動》を促(うなが)すことがな…」

 

 誰の仕業かはまだ分からないにしろ、目的はやはり《人々の不安を煽ること》と《ヴィランの活性化》か…

 

「どこから情報が漏れたのかは一旦置いておこう……それよりも君とエンデヴァーの件が原因で以前話した《ヒーロー社会のバランス》が予想以上に不安定になっている…」

 

「…確かに…でもエンデヴァーの家庭事情は遺憾なことですが、彼はヒーローとしてヴィラン退治を一番に…」

 

「そこじゃないんだオールマイト……君は我々と見ている視点が違う…」

 

「…と言うと?」

 

「分からないか?噂程度で半信半疑だったエンデヴァーのサイドキック達が真実を知るや否や、今次々と事務所から去っているんだ」

 

「なっ!?……んん…」

 

 私はその意見に何も言えなかった…ちょっと考えれば分かることだった…事務所を持つヒーローの中でもエンデヴァー事務所は今や日本で5本の指に入るヒーロー事務所だ…

 その主であるエンデヴァーが子を持つ親としてやってはいけないことをやっていた…

 

 失望して去る者…

 

 黒い噂を付けられたくない者…

 

 巻き添えを受けたくない者…

 

 中にはエンデヴァーに憧れ努力しサイドキックになれたヒーローもいる筈だ…

 

 私は事務所を持っていないからなんとも言えないが…私でも…信頼していたサイドキックが離れていく辛さは理解できる…

 

「それだけじゃない…エンデヴァーの一件によって一般人だけでなくヒーローの大半へ大きな影響が出始めているんだ」

 

「大きな影響とは?」

 

「はぁ…察せられないのか?オールマイト?」

 

「あ……えっと……はい……どういうことですか?」

 

 ヒーロー協会の方々が何を言いたいのか分からなかったため、私は問いを問いで返してしまった…私を除く会議室にいる全員が呆れた顔をしている…

 

「…はぁ…いいかいオールマイト、我々が懸念している《ヒーローへの大きな影響》というのはエンデヴァーのサイドキックだけでじゃない……この一件を知ったマスコミやメディアは何を考えると思う?……『《家庭や家族をもつヒーロー達》全員がエンデヴァーと同じ思考を持って《個性婚》をしたんじゃないか?』などと根拠のないでっち上げで混乱を招こうとしているんだ…」

 

「そ!?そんなことが!!?」

 

「事実だ…現に《ヒーロー一家(いっか)》や《結婚したヒーロー達》だけでなく《結婚を控えたヒーロー》や《恋愛疑惑のあるヒーロー》にまでマスコミやメディアによる要らぬ被害が出ようとしている…ついさっき《錠前ヒーロー・ロックロック》が絡んできたマスコミを怒鳴り返したという報告があった…」

 

 もう被害が出ている!これが一般のプロヒーローならばここまで騒がれないかもしれないが、エンデヴァーはトップヒーローの《No.2》、大事(おおごと)になるのは避けられないということか!

 

「そこで我々は事態の早期終息のため緊急の会議を開き話し合いをした、君に連絡する前にな」

 

「君とエンデヴァーを除くトップ10ヒーロー達にも連絡を取っての会議を開き、これ以上の事態の悪化を防ぐため《エンデヴァーのヒーロー免許の剥奪》について話をしたんだ」

 

「エ!エンデヴァーにヒーローから脱退させるのですか!?」

 

 突然の衝撃な内容に私は驚愕した!いくら事態を終息させたいとはいえ、彼にヒーローを辞めさせるのはやりすぎではないかと私は思った!

 

「そのつもりだったのだが…どういうつもりなのか《ウィングヒーロー・ホークス》が『エンデヴァーさんがヒーローを辞めるのなら、自分もヒーローを引退します』と言ってきてねぇ…」

 

「あのホークスが!?」

 

「あぁ…理由を聞いてみたんだが…『オールマイトさんが今回の件で1つ2つ順位が落ちるかもって時にエンデヴァーさんがいなくなったら、俺が無し崩しでNo.1にされる可能性があるかもしれないんすよね。俺はNo.1になんてなりたくないんで、エンデヴァーさんがヒーローを引退するならついでに俺も辞めますよ』とのことだ…」

 

「説得もしてみたんだが『俺はNo.1なんて柄じゃないんです、20位や30位でのんびりパトロールするようなヒーロー活動がいいもんでね。まぁヒーローを辞めても《警察》やら何やらになれば食って暮らしてもいけますし』と断られてしまってな。彼程のヒーローを失う訳にはいかない…《先代のNo.1ヒーロー》が君やエンデヴァー達がデビューするまで活躍してくれたように、これからの若い世代のヒーロー達へ《ホークス》は必要だからな」

 

 まさか…あのホークスがエンデヴァーをフォローするとはな…

 彼個人の私情だけにも聞こえるだろうが…彼は彼なりにエンデヴァーを尊敬しているということなのだろうか?

 

「因みに他のトップヒーロー7人はホークスのようにエンデヴァーと共に辞めるとは言わなかったのだが……『《人》としては駄目でもエンデヴァーは《ヒーロー》としてまだ必要だ』という意見があってね、エンデヴァーは引き続きヒーローを継続してもらうことになった」

 

 どうやらベストジーニストやエッジショット達も私と同様にエンデヴァーにはヒーローを続けてほしいと思っていてくれたようだ。

 

 ただし…あくまで《ヒーロー》としてだけ…

 

 それはヘドロ事件に関わったヒーロー達も同じだった…私に対しての批判の声はほとんどないが、あの事件に関わったヒーロー達への批判の声は強くなるばかり…

 《シンリンカムイ》や《デステゴロ》達への批判の声は酷くなる一方だ……その中で特に酷いのは新人ヒーローの《Mt.レディ》らしい…その理由は分かりきってる…駆け出しとはいえヒーロー活動をすればヴィラン以上に周囲への被害を出してしまっているため、熱烈ファンを除き今回の件に乗っかって《自宅》や《愛車》などを壊された人々からの不評の声が耐えないらしい…

 

 もうすぐ今年のヒーロービルボードチャートJPの前期だというのに…こうも続いてヒーローの《失態》や《愚行》が続いている…

 そんな状況じゃ…ランキングもクソもない…荒れるのは確実だろう…

 

 《あの人》には申し訳ないが…こんな事態を招いた元凶の私に《No.1ヒーロー》でいる資格なんてない…出来ることなら《あの人》に帰ってきてほしいと今の私は願っている…

 

「エンデヴァーについては君が来る前に連絡しておいた、ヒーローを継続させるかわりの《厳罰》をな」

 

「厳罰…ですか?」

 

「そうだ…まずヒーローランキングを《2位》から《最下位》に下げることだ」

 

「さ、最下位に!!?」

 

 エンデヴァーがどれだけの努力をしてトップ10へたどり着いたのかを知っている私からすれば驚きの内容だった!

 

「まぁ…我々がなにもせずとも…次のヒーロービルボードチャートJPでエンデヴァーは2位からの格下げは確実だからな。妻や子供達にしてきたことが表沙汰になった今…いっそのことドンケツまで落とした方が世間も納得するだろう…」

 

「………エンデヴァー…」

 

「それだけじゃない…これ以上の黒い噂を避けるために…エンデヴァーにはもう1つの厳罰を与えた」

 

「もう1つ?」

 

「うむ…それは」

 

バン!!!

 

「オーーーーールマイトーーーーー!!!!!」

 

「エ!?エンデヴァー!!?」

 

 会議室の扉を壊すような勢いで入っていたのは張本人であるエンデヴァーだった!そして入ってくるなりマッスルフォームの私のヒーロースーツの胸倉を掴みかかって怒鳴り散らしてきた!

 

「貴様!!!よくも!よくも!!よくも!!!この俺をどこまでも陥(おとしい)れる真似をしてくれたな!!あんな若造に助けられた俺の屈辱がお前に分かるか!!オールマイト!!!」

 

「お、おい!?エンデヴァーやめてくれ!苦しい!!」

 

「子供のいないお前には理解できぬことだろうが!!アイツは!焦凍は!お前と《あの人》を超えるため!No.1ヒーローになるために俺が作り上げた《最高傑作》なんだぞ!!来年《雄英》への入学を控えた大事な時期だというのに!?貴様の《下らない手負い》のせいで!!!どう落とし前をつけるんだオールマイト!!」

 

「エンデヴァー!!君はまた自分の子供を《物》のように!?というかなんのことだ!?」

 

「…はぁ…エンデヴァー…静かにしてくれないか…?今その事についてオールマイトに話していたところだ、それと場所を弁(わきま)えてくれ」

 

「くっ!……ちぃ!!」

 

 エンデヴァーはヒーロー協会の役員に注意されると、私を睨みながら離してくれた…

 

「ゴホッゴホッ…それで…エンデヴァーに対するもう1つの厳罰というのは?」

 

「あぁそうだったな、エンデヴァーには今後家族(身内)と共に過ごすことも接触することも一切禁ずることも決めた。もしそれを守れないのなら《ヒーロー免許の永久剥奪》をするとね」

 

「なっ!?そんなことまで!!?」

 

「何を驚いているオールマイト…むしろこれくらいのことをして当たり前だろう…ただでさえ《折寺中》の件で騒がれてるこのタイミングで、今後もエンデヴァーが自分の子供に《教育という名の暴力と虐待》をし続けたら《ヒーロー》そのものに対する信頼が揺らぐ…」

 

「《暴力》や《虐待》などでは断じてない!!!俺は焦凍をNo.1ヒーローとして育て上げるという目標のために鍛えていただけだ!!人聞きの悪い言い方をするな!!!」

 

「(エンデヴァー……君はそこまで歪んで……)ヒーロー協会の方々…エンデヴァーも1人の父親です…一生家族と会えないなんて…」

 

「余計な情けをかけるなオールマイト!!反吐が出る!!!」

 

「オールマイト…我々はなにもエンデヴァーを2度と家族と会わせないとは言っていない…」

 

「えっ?」

 

「ふん!!」

 

「それについてはエンデヴァーに《ある条件》を達成すれば、また家族と過ごせるようにすることにしてある」

 

「ある条件?」

 

「あぁ…何年かかっても…彼が再びヒーローランキングで《No.10》以内に戻れた時…この厳罰を解除するとな…」

 

 ヒーロー協会とて鬼ではない…エンデヴァーにチャンスを与えていた!

 とはいえ…今の状況で《最下位》から《トップ10》に戻るのは決して平坦の道ではない…エンデヴァーがこれから歩むのは険しい道になるだろう…

 

「はん!トップ10になどすぐに戻ってやる!少なくとも、子供を死なせかけたNo.1ヒーローなど追い越してやるわ!!!」

 

『?』

 

 エンデヴァーの言っていることが私だけでなく会議室にいるヒーロー協会役員も分からなかった。

 

「エンデヴァー、それはどういう意味だ?ヘドロ事件の被害者は無事だぞ?」

 

「戯(たわ)け!!そっちじゃない!!ついさっき俺の元へ《情報》が入った!!名前はあげられとらんが、例の飛び降り自殺を図った無個性の子供の自殺の原因がイジメだけでなく、《とあるヒーロー》に『無個性はヒーローにはなれない』と言われたことが自殺の原因だとな!!!」

 

『!!!???』

 

 なっ!なぜその事をエンデヴァーが知って!?それは私とヒーロー協会、リガバリーガールと先日警察署へ集まった面子しか知らないはず!!?

 

「その《とあるヒーロー》というのは貴様のことなんだろオールマイト!!貴様に俺を攻める資格があるのか!?子供の夢を捻(にぎ)り潰すような貴様がNo.1ヒーローだと!?笑わせるな!!」

 

「そ…それは…」

 

「ま、待ってくれエンデヴァー!まさかその《とあるヒーロー》がオールマイトであることもその情報に書いてあるのか!?」

 

「知るか!自分達で確かめろ!今ネットの至るところへその情報が広まっているぞ!」

 

 何も言い返せない私に…ヒーロー協会の役員がエンデヴァーに問いかけたが、エンデヴァーも詳細は知らないようだ…

 ヒーロー協会が隠していた《もう1つの真実》…《私が無個性である緑谷少年の夢を否定したこと》がいつの間にか知れ渡っているなんて!!!

 

「いいご身分だなオールマイト!!俺に散々なことを言っておきながら!!自分は《無個性差別》か!!?その辺にいるプロヒーローに言われたならばその子は自殺にまでは至らないだろうが!あの日現場の近くにいたヒーローの面子を考慮して、その少年が自殺するまで追い込めることができるヒーローは貴様以外にいない!!オールマイト!《No.1ヒーロー》である貴様に『無個性はヒーローになれない』と言われたとすれば、その少年の自殺を図る動機にも合点(がてん)がいく!」

 

 当てずっぽうに言っているように聞こえるだろうが、全て当たっている!まるであの日のことを見ていたかのように…エンデヴァーは言いはなった…

 

「ついでに言っておく!その情報の中には例の無個性少年を自殺に追い込んだ同級生の主犯である《爆豪勝己》の名前も記されていたぞ!」

 

「なっ!!?なんだと!!!」

 

 私もヒーロー協会も《これ以上はもうやめてくれ》という状態だというのに……油を注がれて激しく燃えさかり大きくなった炎へ…更に大量の油をぶっかけて大炎上させるまで事態が大きくなっていた!!

 

「オールマイト!どう責任をとるつもりだ!これだけのことをしておいて《No.1ヒーローの座》に座り続けるつもりか!?《ヒーロー》を続けていくつもりか!?なんとか言ってみろオールマイト!!!」

 

 私に再び掴みかかったエンデヴァーはどんどんヒートアップしていく。彼が身体へ纏っている炎が彼の感情に反応するかのように燃えさかっていく…会議室が暑くなっていき…どうすればいいのか私自身わからなくなっていると…

 

バン!!

 

「エンデヴァーさん!」

 

「なぁあぁ!遅かったか!!?」

 

「なにやってるんですかエンデヴァーさん!!」ガシッ

 

「ほら帰りますよ!ご迷惑おかけしました!オールマイト!ヒーロー協会の皆さん!」ガシッ

 

「離せ!!貴様ら!!俺はまだコイツに言いたいことが山ほどあるんだ!!!離さんか!!!」

 

 会議室の扉が再び思いっきり開き、今度はエンデヴァーのサイドキック4名が入ってきて、4人掛かりでエンデヴァーに掴みかかり、私からエンデヴァーを無理矢理引き離して連れて帰ろうとしている…

 

「オーーールマイトーーー!!!この屈辱!!!忘れないからなーーー!!!覚えてろーーーーー!!!!!」

 

 無理矢理引っ張られ会議室から出ていくエンデヴァーは帰る直前まで私に怒鳴り散らしていた…

 

「…エンデヴァー………私は………私は…」

 

「オールマイト…君は自分の心配をしたらどうなんだ?」

 

「………」

 

「我々も今から調べるが、エンデヴァーは憶測で例の無個性の少年の夢を否定したヒーローが君だと見抜いていたようだが…もし今世間に知れ渡っているその情報の中に《オールマイト》の名前があったなら、最悪暴動が起きても可笑しくないんだぞ…」

 

「……はい…」

 

 先日ヒーロー協会から口止めされた《あの事》とは…記者会見で言えなかった事件に関する《もう1つの真実》のこと…

 エンデヴァーを見ればそれがいやでも分かる…場合によっては私ではなく《平和の象徴》そのものがなくなる恐れもあったのだ…

 

 その後は…とてもじゃないが会議を続けられる状態ではなくなったのと、エンデヴァーが言っていたついさっき世間に公(おおやけ)させている2つの情報をヒーロー協会が詳しく調べるため、会議は終了となった…

 

 私は重い足取りでヒーロー協会をあとにした…

 

 

 

 

 

 それから今日という日が終わるまでに…このヒーロー社会は大きく不安定になった…

 

 昨日の《2つの記者会見》に続いて《エンデヴァーの家庭事情》だけでなく、無個性の少年(緑谷少年)を自殺へ追いやった《2人の主犯》…

 

 その主犯の1人である爆豪少年は《名前》も《住所》も《普段の行動》の全てが知られてしまい、自宅前と現在入院している病院前へマスコミや記者が大勢押し寄せている映像がテレビに流れている…それこそエンデヴァーの事務所前に集まるマスコミの数となんら変わらない…

 しかもそれだけでなく、折寺中の3年生や教師の自宅前へ押し寄せるマスコミの映像も流れていた!個性のある時代だ…エンデヴァーについてはどうやって調べたかは不明だが、学生の個人情報などマスコミからすれば簡単に調べがつくということなのか…

 唯一の救いは…爆豪少年を含めた折寺中の3年生以外……つまり折寺中の2年生と1年生の生徒は名前は伏せられていることと、爆豪少年含めて全員テレビに映る際は顔にモザイクがかかって声が変えられていたことだった………とはいっても…今まで緑谷少年にしてきたことを考えれば…これは《当然の報い》なのかもしれない……と私は思ってしまう…

 

 そしてもう1人の主犯であるヒーロー…つまり《私》が……《緑谷少年に言った失言》はこの社会の均衡を壊そうとしている……

 笑い話にもならない…《平和の象徴》たる私が《社会を壊す元凶》になるなんて…

 

 ヒーロー協会が調査した結果…《爆豪少年の個人情報》も《私の失言》も、《エンデヴァーの家庭の闇》を公(おおやけ)にした者と同じ出所であることは分かったものの…それが誰なのかは未だに分からないそうだ…

 エンデヴァーが自分の歪んだ家庭事情を認めたのを見越して、他の情報をタイミングを見計らって流したのではないかとヒーロー協会は言っていた。

 最初の情報(エンデヴァーの件)が正しかったのだから、あとの2つの情報(爆豪の件 & オールマイトの失言の件)も信憑性があると世間が信じるのは当然のことだった…

 ただし…ヒーロー協会が調べた結果によるとネットなどに拡散されている情報に私の名前は…《オールマイト》の名前はなかったそうなのだ…つまり自殺した少年(緑谷少年)に対して『無個性はヒーローになれない』という失言を言ったヒーローが誰なのかは世間は知らないということになる。

 私がその失言を言ったヒーローと知っている面子は限られている……エンデヴァーとサイドキック達には情報の漏洩はしないように注意を促したらしい。

 

 言うまでもないが…この日を境に…エンデヴァーの私に対する敵対心はさらに強くなったそうだ…

 エンデヴァーはネットでのバッシングにおいて、ヒーロー名である《フレイムヒーロー・エンデヴァー》から…《家庭内暴力ヒーロー》及び《虐待ヒーロー》…

 通称《DVヒーロー・エンデヴァー》などという汚名を世間からつけられていた…

 

 それとマスコミは、被害者である緑谷少年については全く調べてはいないらしい……《男子中学生の飛び降り自殺未遂》に関しては《虐められていた無個性の学生》としか思っていないようだ。

 不幸中の幸い…ネットのどこを見ても《緑谷出久》という名前はなかった…そのお陰で緑谷少年とそのご家族に対して無理矢理インタビューしようとするマスコミやメディアはいないらしい…

 《ヘドロ事件》の時にいた爆豪少年を助けようと飛び出した少年と同一人物だとは知らずに…

 もしかしたら気づいている者も居るかもしれないが、私達の事件を優先して…緑谷少年を完全に後回しにしている可能性もあるのやもしれない…

 

 

 

 

 

 だが…まだ終わってはいなかった…

 

 私のたった一言の《失言》…

 

 名前は伏せられても…

 

 それは世間へと知れ渡り…このヒーロー社会を崩壊させる事態が始まろうとしていたのだ…

 

 そしてそれは…すぐそこまで迫っていた…

 

 いつかは起こるのではないか…きっと誰しもの頭の中にあった筈だったのに… 

 

 その引き金を引いてしまったのが…《私》だ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●2日前の夕方…(ヘドロ事件から5日目)

 

 

爆豪勝己 side

 

「…これが…お前が目を覚ますまでにあった全てだ…勝己…」

 

「…そんな…馬鹿な…」

 

 親父から聞かされた昨日の夕方から今日の夕方…時間からすれば…たった1日でこれだけのことがあったなんて信じられなかった!

 だがテレビに写し出されているニュースが真実を物語っている!

 TVだけじゃねぇ!スマホでニュースを確認すれば、どこもかしこもあの事件に対する《俺達や学校への批判》と《ヒーロー達への失望や非難》、《エンデヴァーへのバッシング》と《家庭を持つヒーロー達の不満》で埋め尽くされていた!

 

 その中で俺に対しての一番の問題なのは!

 SNSや動画の半分近くを締めている《無個性1人を相手に個性を使い3人かがりで痛め付ける》防犯カメラや監視カメラの映像が流出している事だった!!

 《場所》や《映像の角度》、《その場所に置いてある物》や《日の明るさ》が違うことによって《それ》が複数の映像で有ることが一発で分かっちまう!

 

 俺達の顔にはモザイクがかかってるが《個性》にはモザイクなんてかけられずに堂々と晒されていた!!!

 

 名前を伏せたところで《個性》を隠せてないんじゃ《個人情報保護》もへったくれもねぇ!

 今の時代、個性は《指紋》と同じだ!似ている個性の奴はいても直ぐに誰か判明される!

 事実、どのSNSや動画にデクのことは《無個性の学生》としか書いてねぇが、《俺と取り巻き2人》の3人は《名前》も《学校》も《家の住所》までもが書かれてやがった!!!

 削除はされてる様子もあったが再生回数が物凄い数値のせいなのか、今も動画がアップされて減る様子がなく!むしろ逆に増え続けてやがる!!!

 

 そして何より衝撃だったのが!俺があのヘドロ野郎に出会(でくわ)す原因となったのが《オールマイトの不注意》という真実だった!!!

 

「…警察の方々が調べているようで…どうやってこれだけの映像を入手したのかはまだ捜査中らしいんだが………勝己…これだけ出久君を虐めて傷つける映像があると言うことは…お前が出久君を自殺に追い込んだ主犯なのは本当なんだな…」

 

「ぐっ!?………ちぃぃ!!」

 

 何も言い返せねぇ…親父はババアから警察署でのことは聞いてる筈…こうしてテレビにもネットにも《証拠》が流れてる状況で《言い逃れ》も《言い訳》も出来る筈がねぇ…

 

 

 

「勝己…お前は《ヴィラン》になりたいのか?」

 

 

 

「ッ!!?」

 

 親父からも《ヴィラン》って言われた!なんだってんだよ!どいつもこいつも!!!

 

「………はぁ…個性の検査を受けたいのなら好きにしろ…だが今日は個性の診察をしてくれる先生が帰宅していないんだ、リカバリーガールもな……明日の朝に検査を受けられるように頼んでおく…だから明日の朝までこの部屋で大人しくしていろ………スーハァー…看護師さん…待たせてすいませんでした…この子の診察をお願いします…」

 

「は…はい…」

 

 親父は看護師と入れ替わりに去っていった…明らかに先日までの親父じゃなかった…態度だけじゃない…纏っている空気そのものが変わっていた。ババア同様に…親父も別人に変わっていた!

 

 看護師から聞き出した話だとババアはぶっ倒れて今は家で寝込んでるらしい、原因は《ストレス》と《疲労》だそうだが…俺の知る限りババアが寝込むなんざ今までなかったってのにどうなってんだ?

 親父は親父で仕事をクビにはならなかったようだが…昇格と出世の話は無くなって格下げになったそうだ………俺が《雄英》に入れるくらいまでは稼げよクソ親父が!!!

 

 親父はそのあと病室に戻らず一度家に帰ったそうだ……好都合、親父がここへ戻って来る前に俺はさっさと寝ることにした…また親父から下らねぇ説教を言われる前に…

 

 寝る直前に俺はまた個性を発動させようとしたが…

 

 

 

(シーン)

 

 

 

 またしても《爆破》が起きなかった…

 

「(本当に消えちまったのかよ!?…俺の……個性は…)」

 

 不安な気持ちはあったが…明日の検査で治ると信じて俺は眠りについた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何で出来ねぇの?』

 

 俺の小さい頃から疑問だった…

 

 競争では1位になれた…

 

 自転車は補助輪を付けずに直ぐに乗れた…

 

 個性だって凄い個性だ…

 

 なんで俺に出来ることを周りの奴等が出来ないのか不思議だった…

 

『いや~これはまた凄い個性だな!コレは将来有望なヒーロー株だね!』

 

『ほんと!ヒーロー向きの派手な個性ね勝己君!』

 

 先生達は何でも出来る俺のことを誉めて称えてくれている…

 

 そんな俺は…自分でその答えを見つけ出した!

 

『あ!そっか!俺がスゲーんだ!皆、俺より凄くない!』

 

 俺は特別な存在!

 

 誰よりも優れてる!

 

 俺はヒーローになるために産まれてきた!

 

 凄い人間なんだ!

 

 皆は俺よりずっと下でいて!

 

 俺は皆よりずっと上にいるんだ!

 

 俺はスゲェんだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●昨日の朝…(ヘドロ事件から6日目)

 

 

 俺は荒れた病室で朝を迎えた…また昔の夢…幼稚園の頃から何でも1番になれた俺にとっての疑問…《なんで俺に出来ることが他の奴らが出来ないのか》…それが分からなかったが…俺は自分で答えを見出だした…

『俺が凄い!皆は凄くない!』

 それがあの頃の俺が見つけた答え…《俺のやることは全部正しい!》…

 そう信じて今まで生きてた!

 だからこそ今の俺があるんだ!

 《オールマイトを超えるヒーロー》となる俺がな!!!

 

 そんな俺は今…

 

「チユーーーーー…っうぇ…とりあえずコレで身体の傷は全部完治させたよ、タフなもんだねぇアンタ…個性検査を受けたら、さっさと家に帰ってゆっくり休むこったね…この分なら明日には学校に行けるよ」

 

 小せぇババアの治療と個性を受けていた…もっとマシな個性の使い方ねぇのかと思ったが、こうして早くに退院できるように治してもらったんだ…文句は言わないでおく…

 

「リカバリーガール、この度はありがとうございました」

 

「あいよ、それじゃあアタシはこれで失礼するさね、《あの子》の診察があるからねぇ」

 

 親父がお礼を言うと小せぇババアことリカバリーガールは病室から出ていった…

 去り際に言ってた《あの子》ってのは大方《デク》のことだろうよ…未だに意識が戻らねぇみたいだが………一生眠ってろクソデクが!!!

 

ガラッ

 

「爆豪君、個性検査の先生がいらしたので診察室へ移動してください」

 

 リカバリーガールと入れ代わりに看護師が入ってきた…

 

「(やっとかよ!ノロノロしやがって!俺にとっちゃ身体の傷よりもそっちの方が大事なんだよ!リカバリーガールも個性検査が出来んじゃねぇのか!わざわざ《個性検査専門の医者》なんざ呼んで時間かけやがってよ!!俺を待たせんじゃねぇよカス共が!!!)」

 

 制服はボロボロになったため、親父が用意していた私服に着替えた俺は親父と看護師と一緒に病室を出て検査室へ向かった。

 

「こちらです。これからの検査なのですが、今この病院で警備をしているヒーローの方も立ち合っていただくことになっています」

 

「(病院の警備だぁ?んなことしてるヒーローがいんのかよ)」

 

コンッコンッ

 

「殻木(がらき)先生、爆豪勝己君をお連れしました」

 

『入りなさい…』

 

「失礼します」

 

 看護師がドアをノックすると部屋から年老いたジジイの声が聞こえてきた。中へ入ると《変な眼鏡をかけた太ったハゲジジイ》と…《水色のコスチュームを着た体格の良い男》がいた!そいつは!

 

「デステゴロ!?」

 

「やぁ…6日ぶりだな…爆豪君…」

 

 ヘドロ事件の時に俺を助けずデクに説教をし、生放送のテレビでその事件についての記者会見をしていたヒーローの1人だ!

 

「なんでテメェがここにいんだよ!俺を見捨てやがった役立たずのクズヒーローが!!」

 

「おい!勝己!」

 

「いえお父さん…いいんです………爆豪君…その節はすまなかったな…確かに目の前で助けを求めていた君を見捨てて…何もしなかった俺は…役立たずと言われても仕方ない…」

 

「助けなんざ求めてねぇよクソがっ!!おいジジイ!さっさと検査を始めろや!!!」

 

「勝己!失礼だぞ!お前を診察するためにわざわざ遠くから来てくれたんだぞ!」

 

「るっせんだよクソ親父!黙ってろや!」

 

「ハッハッハーッ、大怪我をしていると聞いていたが元気な子だねぇ」

 

 診察室に入って早々、会いたくねぇヒーローにあった俺は機嫌を悪くし怒鳴り散らした!

 まだ言いてぇことは山ほどあるが…

 今は俺の《消えちまった個性》を治してもらうのが先だったため、俺はジジイの検査を受けることにした。

 

「個性が使えねぇんだよ!?早く原因解明しろや!!!」

 

「そんなに急(いそ)がんでもちゃんと検査するよ」

 

 それからジジイからの検査を一通り受けた…

 

 全ての検査を終えて…いよいよ検査結果が出る…

 

 俺の個性がどうなっちまったのか…

 

 これでハッキリする!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「問題ないね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はあ?……」

 

 このジジイ…今なんて言いやがった……問題ねぇだと?

 

「色々と検査してみたけど、個性因子にはなんの異常もみられなかったよ………もしかして…《仮病》かい?」

 

「……おい…クソジジイ……フザけんなよ………何が問題ねぇだよ!!!いい加減なこと言うんじゃねぇ!!!」

 

「勝己!?」ガシッ

 

「爆豪君!?」ガシッ

 

 デタラメなことを言うクソジジイへ殴りかかろうとしたが、親父とデステゴロに俺はおさえられた!

 

「離せ!離しやがれ!!クソジジイ!!嘘ついてんじゃねぇぞ!!」ジタバタ

 

「嘘なんか言っとらんよ…身体検査に加えて血液検査や色々と全部した上での結果だ…今の君の身体も個性も健康そのものだよ」

 

「そんなわけねぇだろが!!?」

 

 俺は2人に押さえられた状態で両手を前に出し見せつけるように個性を発動させる仕草をとった。

 

「見ろよ!一昨日から個性が使えねぇって何度も言ってんだろが!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BOOM!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………』

 

 

 

 個性が……………使えた………

 

 

 

 診察室にいる全員が沈黙した…

 

 

 

 爆発による煙が少しずつ晴れていく…

 

 

 

 その静寂を破ったのは…

 

 

 

「勝己……お前…」

 

 俺に冷たい視線を向ける親父だった!

 

「はぁ……爆豪君…君は今自分がどんな立場なのか分からないのか?沢山の人に迷惑をかけた上に…また嘘をつくとはな…」

 

「……う……嘘じゃ…嘘じゃねぇよ!!ホントに昨日の夜まで使えなかったんだ!!もっと詳しく調べろや!本当に昨日は個性が使えなくなってたんだよ!?そうだ!この前の俺の取り調べをした《電子メール》の個性の眼鏡の警察!ソイツに調べてもらえば嘘じゃねぇって分かんだろ!!!」

 

「あぁ…彼なら…今頃他の地方へ着いた頃だと思うぞ、彼は忙しいんだ身なんだ…今回は偶然近くの警察署に来ていたから協力してもらえただけだと聞いているぞ」

 

「クソが!ならもう一度検査しろや!ピストルで撃たれたこの肩とよく調べれば何か分か」

 

グイッ!

 

 デステゴロへこの前の眼鏡野郎を連れてくるように言うもそれは叶わず、また個性検査をするように訴えている途中に、俺は親父に胸倉を捕まれて無理矢理に親父の方を向けさせられた!

 

ドガッ!!

 

「がはっ!!!」

 

ダン!!

 

 昨日同様…俺は親父に顔を殴られ…そのまま壁に激突した…

 

「……勝己……ホントにいい加減にしておけ……誰がお前の言葉を信じる!?お前が言うこと全部が嘘だ!!!」

 

 見たこともない怒りの表情をしながら怒鳴ってくる親父に圧倒されて…俺は言い返すことが出来なかった…

 それこそ…《ババアの人格》が親父に乗り移ったみてぇに…

 

「殻木先生…この度はウチの息子がご迷惑をおかけしてしまい…大変申し訳ありませんでした…」

 

「まぁ難しい年頃じゃからなぁ…気にせんで良いぞ、ワシも職業柄で患者からの苦情なんざ慣れとるからのぅ」

 

 親父はジジイに頭を下げて謝罪していた…俺の言葉をまったく信用せず…倒れている俺を一切見ようともしない…

 

「…爆豪君…先程の行動と嘘に加え、昨日病室で暴れたことは報告させてもらう……いい加減に今の自分の立場を弁(わきま)えることだな…」

 

 デステゴロは最初から俺を信用していなかったのか…《爆破》が戻ったときの表情は《驚いた顔》じゃなくて《呆れ顔》だった…

 …まるで《こうなること》が分かっていたかのように…

 俺が嘘しかいっていないことを確信していたかように…

 

「……なんで………なんで………なんでぇ…誰も信じてくれねぇんだよぉ……」ギリッ

 

 床に倒れ込んだ俺は…起き上がりながらそんな独り言を口にして…歯を食い縛った!

 

 俺の言葉を信じてくれない…

 

 嘘なんて言ってない…真実しか言ってねぇのに全員が疑い信じない…

 

 自分で気づかねぇ内に…俺は涙を流していた…

 

 

 

 俺はそれ以上の追求を諦めた……《個性が消えた》っていう証拠はなんにも残ってねぇ……撃たれた筈の肩に弾痕はなく…虫刺されのような痕しか残ってなかった……

 

 

 

 それから数時間後…親父が退院の手続きを済ませて病院を出るまでの間に、デステゴロから奉仕活動の延長が決められたことを聞かされた…

 

 結果的に俺は一昨日から今日までの愚行…

 

 

・奉仕活動中に個性を使って子供に怪我をさせようとしたこと…

 

・監視をしていたヒーロー達から逃げたこと…

 

・個性を使って喧嘩をしたこと…

 

・裏路地と病院にあった物を壊したこと…

 

・嘘をついて混乱を招いたこと…

 

 

 その全てが連帯責任で、俺達のクラスにペナルティとして課せられ《3週間の奉仕活動の追加》が決定された…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が沈みかけた頃…病院を出て親父と共に家へ帰宅した…

 自宅の前にはマスコミがいて…家に入るだけで一苦労だった…

 ババアの様子を見に行くと…昨日看護師から聞いた通り…顔色を悪くして寝室で寝込んでいた…

 

「勝己…」

 

「…あ”ぁ”?」

 

「来なさい…」

 

 ババアの様子を見に行くなり、親父に呼ばれてリビングへ移動させられた…

 いつもの俺ならこの場合…『ウルセェ!!』だの…『命令すんな!!』だの…当たり前のように怒鳴っていたが……今の俺にはそれは出来なかった…

 今の親父はいつもの親父じゃない……ババア以上とも言っていい強い圧迫感を漂わせていた…

 俺が座ると親父はテーブルを挟んで俺と向かい合うように座った…

 

「………」

 

「………」

 

 来いと行っておきながら親父はダンマリを決め込む……そんな親父に対して俺も黙っていると親父が口を開けた…

 

「勝己……お前が一昨日まで何をしてきたかは、母さんから……警察から……ヒーローから……奉仕活動の方々から全部聞いた……」

 

 空気が重くなっていった!今まで親父に対して感じたことなどない恐怖を俺はヒシヒシと感じた!

 

「勝己……お前が出久君を虐めていた10年間……出久君は僕や母さんへ『お前や他の子達に虐められたこと』を相談したことは1度たりとも無かった……それは母親である引子さんにも…仲の良い奉仕活動の方々にもだ…」

 

「(それはデクに根性や度胸がなかっただけだろうが…)」

 

「そんな酷い目にあってなお…出久君は……お前みたいな《どうしようもない乱暴者》を…《友達》だと僕に言ってくれていたんだ!!」

 

「っ!?」

 

 親父からの強い言葉に俺は身を引いた…

 

 俺は…デクには何をしても平気だと思っていた…

 

 俺が何をしたところで…アイツは引子さんにも俺の親にもそれを伝える勇気なんざねぇ…

 

 次の日には何事もなかったかのように…また俺の後ろにいる…

 

 そんな奴が俺の《友達》?

 

 んな訳ねぇだろうが!!アイツはただの《無個性で役立たずのクソナード》だ!!!

 

「勝己…僕はお前が産まれたあの日から《父親》になろうと必死に生きてきた。母さんだって同じだ…お前の《母親》になろうと必死だったんだ………そしてお前を…《困っている人に手を差しのべられるような強くて優しい子》へ育てると決心していた…」

 

「(んなこと俺が知るかよ!!何が《優しい》だ!下らねぇ!!!ヒーローっては《孤高》だろうが!!オールマイトだって孤高だからNo.1ヒーローになれたんだ!!《助け合い》だの《馴れ合い》なんてヒーローには必要ねぇんだよクソ親父!!!)」

 

 俺は心の中で親父の発言を全否定した!

 

「勝己…お前は《恵まれた才能》を得た代わりに…《ヒーロー》にとって……いや…《人》にとって最も《大事なもの》を失っていたんだな…」

 

「んだと…」

 

「分からないのか…お前には1つも無くて…出久君は沢山持っている《もの》だ…」

 

「俺に無くてデクが持ってる《もの》だと!?俺がアイツに負けてるものがあるってのかよ!!!なんだよ《それ》はよぉ!!!」

 

 《俺に無くてデクにあるもの》と言われた親父へ怒鳴った!!

 アイツが持ってねぇものを俺は沢山持ってる!!そんな完璧な俺がアイツに劣ってるわけがねぇだろうが!!!

 

「それは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………《思いやり》だよ…勝己」

 

「ッ!!!?」

 

 親父からの答え…それはつい最近も言われたことだった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…ふん…都合が悪くなりゃダンマリを決め込むか……ヤダヤダ……ヒーローじゃない俺が言えた義理じゃねぇけどよ……

《他人を思いやる心がない人間》に…

《ヒーローになる資格》も《誰かを助ける資格》もねぇよ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのゴリラ野郎と同じこと言いやがって!?クソ親父が!!ヒーローでもねぇくせにこの俺に説教なんかしやがって!!!

 

「《他人(ひと)を思いやる心》は…ヒーロー以前に…人が持っていなければいけない必要不可欠なものだ…少なくとも私はそう思っている……ましてや今の世の中を生きる無個性の人達の気持ちを理解出来ないお前が…《ヒーロー》になれるわけないだろ…」

 

 先日のゴリラ警察と似たようなことを父親からも言われた上に、親父は俺の夢を否定しやがった!!今の今まで1度だって俺の夢を否定しなかった親父がだ!!!フザけやがって!!!!!

 

「…下らねぇ………下らねぇ!!!何が《他人(ひと)を思いやる心》だ!!何が《無個性の気持ちを理解しろ》だ!!そんなもんが《ヒーロー》に必要だと!??下らねぇこと言ってんじゃねぇよクソ親父!!《思いやり》だぁ!??そんなの何の役にもたちゃしねぇだろうが!!ヒーローってのは《孤高》なんだよ!!目の前に立ち塞がる邪魔なものはすべて排除し!敵を圧倒し完膚なきにまで叩きのめして瞼の裏にまで恐怖を焼き付ける!何て言われようと最後には勝てば良い!!生き残るのはいつもの強い奴だ!弱い奴は生きる価値なんて無ねぇ!!《1人で戦う強さと覚悟がある奴》こそが《ヒーロー》だ!!!《オールマイト》がそうだろうが!!!!!」

 

 俺がずっと思い描いていた《ヒーローの姿》の全てを親父に怒声で語った!

 

「(俺が憧れるオールマイトは《孤高》だ!1人でしか到達できない場所!それこそが《No.1ヒーロー》だ!!!)」

 

「勝己…それがお前の目指す《ヒーロー》か…」

 

「ああ!そうだ!!俺はNo.1ヒーローを超えるためにこの世へ生まれてきたんだ!!だから……って…なんだよその哀れみの目はよぉ!!!」

 

 目標のヒーローの姿を話した俺に親父はゴミ拾いにいた奴らと同じ《冷たい目》を向けていた。

 

「……勝己…自分で言っていて分からないのか…」

 

「あ”あ”ん”っ”!!?」

 

「そんなの《ヒーロー》じゃない……それは《ヴィラン》のすることだ……」

 

「っ!!!??んだと!!!(ハッ!!)」

 

 俺をまた《ヴィラン》と言った親父に殴りかかろうとしたが…一昨日の記憶がフラッシュバックで甦(よみがえ)った…

 今さっき俺が言った《俺の思い描くヒーローの姿》……それは一昨日にあった《あの3人》と酷似していた…

 俺は気づかねぇ内に…《あんな連中》になろうとしてたってのか………違う……違う……違う!!?

 

「違う!…違う!!…俺は…俺はオールマイトを超えるヒーローになりたくて…」

 

「…勝己…お前がそんな道を進みたいなら……もう勝手にしろ……少なくとも僕と母さんは…そんな道を進むお前の背中を押したりはしない……応援もしない……」

 

 親父はそれだけ言うと台所へ向かっていった…

 

 俺は1人…テーブルで頭を抱えて…先程口に出した《自分の夢》が《ヒーローになるための道から外れているのか》……俺自身がその答えを見つけ出すことが出来ずに頭を悩ませた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アンタ恥ずかしくないの?…暴言どころか憂さ晴らしのために《個性》を使って暴力まで振るうなんて………アンタは《ヒーロー》になんてなれやしないよ!アンタのやってることは《ヴィラン》そのものだよ!!!』

 

 

 

『《個性が派手で強い》…お前は将来《有望なヒーロー》になってくれると信じて…俺はお前を優遇扱いしてきた…それは俺自身のせいで勝手な妄想だ……だがお前がこんなにまで卑怯で冷徹で自分勝手なだけじゃなく、他の生徒を脅して緑谷を追い込んでいた…まるで自分の手を汚したくないかのように…これは《ヴィラン》がとる行動だぞ…爆豪』

 

 

 

『…勝己…俺達はお前と一緒にいたかねぇんだ…俺達の人生まで台無しにしないでくれ…親から『お前らまで《ヴィラン》になりたいのか?』っても言われた…』

 

 

 

『俺達がお前らみたいな悪い《ヴィラン》を『やっつけてあげる』って出久お兄ちゃんに言っても!出久お兄ちゃんは『大丈夫だよ』って言っていつも止められたんだ!』

 

 

 

『勝己…お前は《ヴィラン》になりたいのか?』

 

 

 

『そんなの《ヒーロー》じゃない……それは《ヴィラン》のすることだ……』

 

 

 

ヴィラン…

 

ヴィラン…ヴィラン…

 

ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…

 

ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…ヴィラン…

 

 

 

『うあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!???』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●今日の真夜中…(ヘドロ事件から1週間)

 

 

爆豪勝己 side

 

 

「あああああああああああああああっ!!!??は!!!!?はぁっ!!?はぁっ!!?はぁっ!!?」

 

 俺は飛び起きた!!?

 

 窓の外がまだ暗い…時計を見るとまだ深夜2時を過ぎたばかりだった…

 

「はぁ!?はぁ!?はぁあ………なんだったんだよ………今の夢は……」

 

 夢の内容をしっかり覚えてるなんてそうない…だが…ここ最近の俺は夢の内容をほとんど覚えていた…それは《過去の記憶》が夢になっていただけだからだ…

 

 だが今回見た夢の内容は《ただの過去》じゃねぇ…!

 

 

 

 辺り一面真っ暗闇の場所…

 

 その暗闇に浮かび上がる無数の冷たい目線…

 

 暗闇から聞こえてくる大勢の声…

 

 そして…そのいずれの言葉にも必ずある単語…

 

 大勢の声が同時に何度も何度もその単語を言ってきやがった…

 

 

 

 ふとベッドを見ると大量にかいた汗で、寝巻きと一緒に俺が寝ていたベッドの場所は汗で濡れていた…

 今個性を使えば大爆発が起きるなんて馬鹿げたことを考える余裕もない…

 今までは《過去》を夢で見ていただけだっていうのに《悪夢》に魘(うな)されるなんて!!

 

 

 

 

 

 

 日が昇り…朝を迎えた…

 

 目を覚ました俺は深夜に見た夢が余りにも酷かったせいで寝不足だった…

 夢の内容をこんなにも正確に全て覚えてるなんて普通はない…なのに…深夜に見たあの《悪夢》は…今も脳内にハッキリと残っていた…

 

「(なんだってんだよ!なんで俺がこんな目に会わないといけねぇんだ!!?)」

 

 親父が新しく用意した学ランに着替えて下の階に行くと親父が朝食の準備をしていた…ババアはまだ寝込んでるみたいだな…親父は俺と目があっても挨拶をせずに…

 

「早く食べろ…」

 

 それしか言わなかった…いつもと違う親父の態度に違和感を覚えながら…俺は用意されていた朝食を食べてさっさと家を出て学校へ行くことにした…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は…今日と言う日を一生忘れることはない…

 

 俺の世界が全て変わった…

 

 何もかも失って………いや…元から何もなかったことを認識した………この日を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未だに家の前に集まるマスコミを交わしながら3日ぶりに学校へ登校した…教室に入るとクラスメイト全員が俺に奇異な目を向けてきた…

 理由は分かりきっている…病院でデステゴロが言ってた…俺が原因で奉仕活動の期間が3週間延長されたからだ…

 誰も俺に話しかけようとしねぇ…少し前と見比べれば明らかな違いだ…それは担任も同じだ…教師達がこの前まで俺を優等生のように見て特別扱いしていたくせに…今は俺を《汚い物》や《腫れ物》でも見るかのような目でしか見ねぇ…

 

 そんな嫌な視線を向けられながら今日の授業を終え…放課後のゴミ拾いだ…

 そして奉仕活動中は…ヒーローだけでなく名前も知らねぇ奴等にまで当たり前のように《冷たい目》で見られた……

 

 偶然じゃないかって?

 

 被害妄想じゃないかって?

 

 んなわけねぇだろ!

 

 明らかに俺だけの扱いが違う!!

 

 周囲からの冷たい視線だけじゃねぇ!

 

 学校じゃあ、クラスメイトと教師から冷ややかな視線を向けられ!俺から必要以上に距離をおいて話しかけようとすれば逃げられ!授業で席に座ってるとき以外、誰も近くにいようとしない!!

 それは生徒だけじゃねぇ!今日の授業じゃ教師の奴らは明らかに俺だけを指名しないように授業していた。実際に教科書を音読する際に、1人1人名前の順で進んでいたってのに俺だけは飛ばされた!俺は1番後ろの席で前の席の奴が読み終わって次は俺かと思ったら、隣の列の1番前の奴の名前が呼ばれて俺は意図的に飛ばされたんだ!!?

 

 俺の待遇は明らかに変わった!

 

 しかもそれだけじゃねぇ!!…他の奴ら(クラスメイト)は周囲(親や奉仕活動の参加者)からの冷たい対応で精神的にやられたのか、昨日と一昨日だけで7人程がヒーローの目を掻い潜って無断で自宅に帰ったなどをしたらしく…それが原因で連帯責任となり…俺が追加した《3週間》に加えて…そいつらの無断帰宅の罰で《1週間》の追加…

 つまり奉仕活動はまだ5日目だというのに…既に俺達のクラスは《1ヶ月》の奉仕活動の追加が決まったという訳だ…

 それは俺達以外のクラスの連中も同じで…デクを虐めていた奴等も居れば、デクや俺にまったく関わりのねぇ奴等が《身に覚えの無いこと》で親に叱られたり、奉仕活動の奴等からは冷たい対応されたりなどで《無断で休んだり》《奉仕活動から逃げ出したり》等をして厳罰を受けて、既に《2週間~3週間》の奉仕活動が追加されたようだった…

 それに関して他のクラスの親は、原因となった《俺(自宅)》へ苦情の電話や手紙を送り続けている…昨日も帰ってから何度も電話が鳴っていた上に何通もの手紙が来ていた……恐らくババアが寝込んた原因はそれだろう………

 

 そして…今日もこの前と同じような扱いを受けながら…今日の奉仕活動を終えて帰り支度をしていると…

 

「HEY、少年」

 

「あ”ぁ…」

 

 誰かが俺に声をかけてきた…振りかえるとそこにいたのはゴミ拾いの2日目にガキ共から俺を庇った《ガリガリに痩せた金髪男》だった…

 

「んだよ…」

 

「お疲れ様、コレ良かったら飲んでくれ」

 

 ガリガリ野郎は俺にスポーツドリンクを渡してきた…

 喉は乾いていたが…今の俺に対して施しなんざ要らねぇ!……と断ろうと思った…でも…コイツが俺に向ける目は他のアイツらとは何か違っていた…

 というより…久しぶりにちゃんと会話をした気がする…

 

「あぁ…(パシッ)どうも…」

 

 俺はガリガリ野郎から引ったくるように飲み物を受け取った…

 

「…あのさ少年…少し話をしないかい?」

 

「あ”ぁ”?」

 

「あぁいや!勿論、飲み物をあげたからとかじゃなくて単純に君と話をしたいんだが…どうかな?」

 

「けっ!テメェと話すことなんざねぇよ!!じゃなぁ!!」

 

 やっぱりコイツも興味本意で俺に話しかけてきただけかよ!?もうウンザリだ!!こんな仕打ちをこれからずっと受けなきゃならねぇと思うとよぉ!!!

 

「………私もなんだよ…少年…」

 

「あ”あ”!?なにがだよ!!?」

 

「私もね…彼を……緑谷少年を自殺に追いやった要因の1人なんだよ…」

 

「なっ!!?」

 

 んだと!?デクが自殺を図った原因にこのガリガリ野郎も関係してんのかよ!?

 

「おい!どう言うことだよ!?説明しろゴラァ!!」

 

 俺はガリガリ野郎の胸ぐらを掴んで問いただした!

 

「ま、待ってくれ!その前に場所を移さないか?誰かに聞かれると色々と不味いからね…」

 

「ちぃっ!!」

 

 俺は胸倉から手を離した……

 

 俺はガリガリ野郎についていき、少し歩いた場所にある公園に着いた。

 

「(クソッ!?よりにもよってこの公園かよ!)」

 

 ここはガキの頃にデクを虐めたところをババアに見られて、ババアからトラウマを植え付けられたキッカケの場所だってのによぉ!!ここへだけはもう来たくなかったが、ガリガリ野郎から話を聞かなきゃならねぇ…幸いにも17時を過ぎていたのもあってか公園にガキどころが誰もいねぇ…

 

「おい!そろそろ聞かせろよ!テメェはデクに何をしたんだ!」

 

 周囲には人が居ねぇことを確認した俺は、公園のベンチに座ったガリガリ野郎に問いただした。

 

「デクとは?」

 

「ビルから飛び降りた無個性野郎の事だろうが!分かれよ!何も出来ねぇ役立たずの《木偶の坊》からとって俺が付けやったアイツのアダ名だよ!!」

 

「蔑称か…」

 

「てか、んなことはどうだって良いだろ!さっさと話せや!!!」

 

「……私はね…1週間前の事件のあった日に…見て…聞いてしまったんだ…」

 

「あ”あ”っ!?何をだよ!言え!!」

 

「ニュースやネットでも話題になっているだろ…被害者へ……緑谷君への自殺教唆の発言『ヒーローはいつだって命懸け…個性が無くたってヒーローになれるとは言えない…相応に現実を見なくてはな』と言った…名前が公開されてないヒーローをね…」

 

 なっ!?まさかコイツ!そのヒーローを見たってのか!!?

 

「おい!それは誰だよ!?教えろ!!!」

 

 俺に罪を全部押し付けて自分だけ逃げやがって!どこのどいつだそのヒーローは!!今すぐとっちめてマスコミにその面を晒してやる!!!

 

「目を疑ったよ…何せそれを言ったヒーローというのは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《オールマイト》だったんだからね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なん…だと………嘘だ……嘘だ……嘘言ってんじゃねぇよ!そんなのテメェの見間違えに決まってんだろが!!テメェのその窪んだ目は腐ってんか!?ガリガリ野郎!!!」

 

 オールマイトが犯人な訳ねぇだろ!コイツの勘違いに決まってる!!出鱈目を言ってるだけだ!!

 

「見間違いでも聞き間違いでもない!!ゴハァッ!?…くっ!…《No.1ヒーロー》の顔と声を間違える人間が今の世にいる筈ないだろ!?」

 

 見た目からして体調がワリィのか、デケェ声を出した途端に口から血を吐きながら説明を続けた…その視線と必死な態度から嘘は言っていないことが伝わってきた…

 

「チッ!!んで!テメェはそれを見てどうしたんだよ!まさか!それをマスコミに言いふらしたのか!!?」

 

 だとするなら!今は報道されてないだけで、オールマイトの名前はいずれ世間に暴露されるってことか!!?

 

「…マスコミになんて話してはいないさ…もしそうならとっくに知れわたってる筈だろ?エンデヴァーの一件を見れば…それは一目瞭然の筈だが?」

 

 …確かに…マスコミにしろ記者にしろ、ヒーロー個人の気持ちやヒーロー協会からの忠告なんて知ったことじゃない…ただ注目をあびるスクープや情報さえあれば他人の事情なんて知ったことじゃない奴らだ……それは俺自身が昨日から嫌と言う程に思い知らされたからな…

 

「…実はね…私はオールマイトの遠い親戚なんだよ…」

 

「あ”っ!?オールマイトの親戚だぁあ!?」

 

「そうだよ……あっ!この事は内緒にしてくれないかい?彼に迷惑をかけたくはないからね…」

 

 そう言われてみればコイツ……オールマイトが激ヤセした姿に見えなくもねぇが…ホントなのか?

 

「最初から話すよ。私はあの日はオールマイトと久しぶりに会う約束をしていてね…その道中で彼が緑谷少年をヘドロヴィランから助けるところを目撃したんだが…話しかけるタイミングを逃してしまって2人が話終わるまで暫く物陰に隠れてから見ていたんだ…」

 

 作り話に聞こえるが…オールマイト自身が《自分の不注意》でヘドロ野郎を逃がしたせいであの事件が起きたって言っていた……その事件の前にヘドロ野郎が中学生を襲っていたところを助けたとも言った……それがデクだったのか…

 

「緑谷君はオールマイトに会えて驚いていたよ…相当嬉しかったんだろうね…サインも貰えたみたいで物凄く喜んでたよ…」

 

 アイツならそうだろうな…オールマイトいわくプロヒーローを目撃しただけで興奮してブツブツ言いながらノートを書いてた奴だからな…

 

「そして緑谷君はオールマイトにこう質問していた…『個性が無くてもアナタみたいなヒーローになれますか』ってね…」

 

 デクがオールマイトにそんなことを…

 

「……彼は悩んでいた…苦しんでいたんだ…《無個性》というだけで周囲から夢を貶され続けてきたこと、《無個性》というだけで同年代からイジメられ大人から差別される人生を送ってきたことを…陰ながら私も聞いてしまったんだ……私は彼を哀れんでしまった……だがオールマイトはそんな彼に『個性が無くたってヒーローになれるとは言えない、相応に現実を見なくてはな』と言ったんだ………つまり遠回しの意味で『無個性はヒーローにはなれない』と言っていたんだよ…」

 

 

 

 

 

 ッ!!!………んだよ……それ……じゃあなにか!?アイツはオールマイトに面と向かって夢を否定されたってのかよ!!?

 

 

 

 

 

「そのあとオールマイトは、ペットボトルに詰めたヘドロヴィランをもって空へ去っていった…そのあとに君が巻き込まれる事件が起きてしまったんだろうね……緑谷君はその場で泣いていた…でも私は…その場から離れてしまったんだ。今思えば…私が彼に何か言葉をかけていれば…緑谷君は少しでも考えを改めて…ビルから飛び降りるなんてしなかったかも知れない………私は大人なのに…その少年の倍以上の人生を送っているのに…少年の苦悩も絶望も考えずに…私は彼を見捨ててしまった………本当に哀れだったのは…私自身なんだと…後になって深く思い知らされたよ……だから私も…彼を自殺に追いやった要因なんだ…」

 

 オールマイトから見限られて…こんな見ず知らずの弱そうな奴にまでアイツは見捨てられたのか!

 なのにあの時…アイツは俺を助けようと飛び出したってのかよ!?

 

 

 

 

 

 だったら…俺は…!!

 

 

 

 

 

「君は…」

 

「あ”ぁ”?」

 

「君は彼に何をしてきたんだい?」

 

「ッ!?」

 

 決して強い口調じゃなく静かに聞かれた…

 

 答える気なんてない…

 

 俺の方がこんな奴より強いに決まってる…

 

 その筈なのに…

 

 何故かコイツから感じるただならぬ威圧感に俺は押された…

 

「……俺は…」

 

 俺はガリガリ野郎に…デクが《無個性》と知った日から約10年間…俺がデクにしてきたことを断片的に話した…

 そして1週間前のあの日に…デクに対して言ったことも全て話した…

 

「…事件のあとに帰り道でアイツを探したが見つかりゃしなかったんだよ…」

 

 俺が話終えると、ベンチに座っているガリガリ野郎は下を向いて項垂れていた…

 

「おい…聞いてんのかよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギロッ!!!

 

「ッ!?」ビクッ

 

 顔を急にあげたガリガリ野郎のその窪んだ目から…一瞬…物凄い殺気と眼力で俺を睨みつけてきやがった!?

 

「………はぁ…」

 

 ガリガリ野郎は一度目を閉じて開くと、先程までの頼りない顔つきに戻った…

 

「(俺がビビった?こんな細せぇ骸骨野郎に俺がビビったのか!?んな訳ねぇ!)」

 

「少年…」

 

 ガリガリ野郎の声のトーンが下がっていた…

 

「君はわた……オールマイトに憧れて……オールマイトを超えるヒーローになるのが夢なんだよね…」

 

「あっ…ああ…そうだ」

 

「自尊心はとても大事なことだ…これからヒーローをやっていく上で自分を支えるためには必要だからね……でもさ少年…君の場合はその有り過ぎる自尊心が今回の事態を招いたんだ。…君の中のオールマイトは…他人を無闇に傷つけたりする人間なのかい?個性を使って意味もなく罪無き人へ暴力をふるっていたと思っているのかい?」

 

「オールマイトがそんな下らねぇことする訳ねぇだろ!!」

 

「そうだな、する訳ないよな……なら君が今までしてきたことはなんだい?」

 

「!!?」

 

「こんな私が言えた立場じゃないが、オールマイトを超えるというなら《強さ》だけじゃない…その《強さ》に匹敵するほどの《優しさ》や《思いやり》がなければ…《オールマイトを超えるヒーロー》になんてなれない。自分のためじゃない…オールマイトは何時(いつ)だって《多くの人々の平和な日々》を守るために戦っているんだ。でも君はそうじゃない…君は自分1人のことしか考えていない…他人のことを何1つ考えず…自分が正しいと決めたことは突き通す…それで他人が傷ついてもお構いなしにね……ハッキリ言って今の君は《ヒーローを目指す者》なんかじゃない…ただの《自己満足の子供》だ」

 

「ぐっ!?………」

 

「それに…君が今味わっている苦しみは………緑谷君がずっと味わってきたものなんじゃないか?」

 

「………」

 

「君がしてきたことは決して許されることじゃない…これからもそれは消えることはないよ…」

 

 ガリガリ野郎からの説教を受けながら…俺は昔の自分を振り返った…

 

 

 

 俺はガキの頃から…周りの奴らが出来ないことが出来た…

 

 運動や勉強だっていつも1番だった…

 

 俺は周りの奴らより優れていた…

 

 そんな俺を大人は褒めてくれた…

 

 個性が発現すると…大人は俺をもっと誉めてくれるようになった…

 

 幼稚園でも小学校でも中学校になってもそれは変わらなかった…

 

 いつしか俺は…自分を《特別な存在》なんだと思い込んでいた…

 

 俺は特別…

 

 だから何をしても許された…

 

 母ちゃんには叱られても…センコーやヒーロー達は俺を称(たた)えてくれた…

 

 俺の上に立つ奴なんかいないと…

 

 ヒーローへの道は俺だけが進んでいい《道》!俺の前を歩こうとする奴なんていない!俺の前を歩くことなんて許さない!!

 

 それが俺にとっての当たり前になっていた…

 

 

 

 だが…それは違った…

 

 俺はガギの頃から多少頭がいいだけ…

 

 ただ強い個性に恵まれただけ…

 

 それを除けば…俺はただの《生意気なガキ》でしかなかったんだ…

 

 大人達から認められていたのは《俺の外見》だけ《俺自身》を理解しようとはしていなかった…

 

 

 

 そして…俺が今…味わっているこの《苦しみ》は…アイツが…デクが…10年間ずっと!味わい続けてきた《苦しみ》!!?

そして…その元凶は………俺!!

 

 

 

「その少年が…目を覚ましてくれたなら…私は誠意をもって彼に謝りた…お、おい少年!?」

 

 俺はガリガリ野郎を無視して走り出した!ガリガリ野郎が何か言っていたが耳を貸さずに公園を抜け出して自宅まで走り続けた!

 

 

 

 雲行きが怪しくなってくる中、自宅へ帰宅した俺はリビングにいたババ……母ちゃんに頼み込んだ……

 

「母ちゃん……出久(いずく)の見舞いに行きてぇ…」

 

 母ちゃんは俺が《ババア》ではなく《母ちゃん》と呼んだこと…《デク》のことを《出久》と言ったことに驚いていた……が…それ以上に俺から《出久の見舞い》へ行きたいことを伝えたことで更に驚愕している様子だった…

 当然なのか…俺が《母ちゃん》と呼ぶのも《出久》の名を口にするのもいったい何年ぶりなのか俺自身分からねぇ………少なくとも物心つく頃から《ババア》や《デク》と言っていたから…10年以上は呼んでたんだろ…

 

 正直断られるんじゃないかと覚悟していたが…母ちゃんの暗い表情が少しだけ和(やわ)らぎ…

 

「…分かったわ…」

 

 了解してくれた…

 

 父ちゃんは仕事でいないため、俺と母ちゃんだけでタクシーを使い病院に向かうことになった…

 タクシーの運転手は俺を見た際に一瞬だけ冷たい目を向けてきた…

 

 病院に向かうまでの間に母ちゃんから色々と聞いた……実は母ちゃんは毎日アイツの御見舞いに行っていたそうだ。事件のあった次の日は出久の母ちゃんの引子さんと面会できたが…俺が出久をイジメて自殺を促した主犯だと発覚してからは一切の面会を拒否しているらしい……当たり前か……

 母ちゃんは断られると分かっていても…毎日出久のお見舞いへ病院に行った……

 母ちゃん以外にもアイツをイジメていた学年8割近い生徒の親が子供を無理矢理に引き連れて出久と引子さんに謝罪とお見舞いに来てたらしい……だが引子さんは誰とも面会せず、全員が受付で追い返されていたそうだ…

 

「お客さん…着きましたぜ…」

 

 ある程度の話を聞き終えた辺りで出久が入院している病院に到着した…母ちゃんがタクシー代の支払いを済ませてタクシーを降りた…

 

 

 

 病院に着くと…雨がポツリポツリを降り始めていた…

 

 

 

 病院に入ると周囲の目が全て俺に向けられた…

 

 

 

 目線だけじゃない…無駄に聴覚の良い俺は…周りの奴らの小言を聞き取った…

 

 

 

「ちょっと…あの子って例の自殺を促(うなが)した子じゃない…?」ヒソヒソ

 

「違うわよ…堂々と本人に自殺教唆で言ったらしいわよ…」ヒソヒソ

 

「『屋上から飛び降りろ!』なんて言うイカれた子なんだろ?」ヒソヒソ

 

「何しに来たのかしら…事件からもう1週間経ってるのに…今更…御見舞いのつもりなの…」ヒソヒソ

 

「いったいどの面を下げてココへ来たんだが…」ヒソヒソ

 

 

 

 耳を塞ぎてぇ…悪い意味で有名人になった俺に対する小言は途切れることなく聞こえてきやがる……入口から受付に着くまででここにいるのが嫌になっていた…

 

「すいません、入院している緑谷出久君のお見舞いに来たのですか」

 

「……申し訳ありません。緑谷様への面会は出来ませんので、お引き取りをお願いします」

 

「そこをなんとか!少しだけで良いんです!会わせていただけませんか!」

 

 受付は俺を見て一瞬鋭い目をしたが直ぐに表情を変えて母ちゃんへ対応をした。

 母ちゃんはなんとか出久と引子さんに会わせてもらえないかと交渉するが、受付は俺達に帰るように言っている…

 

 

 

 

 

 だから……俺は…!!!

 

 

 

 

 

「ちょっ!?勝己!!」

 

 俺は母ちゃんの声を無視して、アイツがいる病室へ走り出した!

 部屋の番号はここへ来るときに母ちゃんから聞いたため、俺は迷わず目的の部屋に向かって走った!

 エレベーターを待ってる暇はない!俺は非常階段をかけ上がった!

 

「ハァ……ハァ……ハァ…」

 

 1階から5階までかけ上がったため、息が多少荒くなったが俺は構わず走り続けて、アイツがいる病室の近くで足を止めて息を整えた…

 

「スー…ハァー……スー…ハァー……」

 

 そこの角を曲がればアイツがいる病室だ…

 

 

 

 正直……怖ぇ…

 

 

 

 眠ってるアイツに俺が何かしてやれるわけじゃない…

 

 未だに意識が戻らないアイツに会ったところでどうなる…

 

 出久の母ちゃんから…どんな暴言だって言われる覚悟もしてココまで来たが…今になって足がすくむ…

 

 

 

 だが立ち止まってはいられねぇ!

 

 すぐに母ちゃんや病院の奴らが追い付いてくる!

 

 

 

 俺は覚悟を決めて歩き出し、角を曲がった!

 

 

 

 しかし…そこには予想だにしない先客がいた!

 

 

 

 目的の病室の扉近くに腕を組んで壁に寄りかかっている《ヒーロー》がいた!

 

 

 

 ソイツが誰なのか俺はすぐに分かった!

 

 

 

 あのヘドロ野郎事件の現場にいて、先日の記者会見に出席した《シンリンカムイ》だ!

 

「ん?…っ!?君は!!…何故ここいる!?面会は拒否されてるはずだぞ!!」

 

「…退けよ…」

 

 なんでコイツがいるのかは知らねぇが、病室の前に立って俺を通さんとばかりに立ち塞がってきやがった!

 

「シンリンカムイ!」

 

 俺の後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。振りかえると、こっちに向かって昨日会った《デステゴロ》が走ってきた!

 

「デステゴロ!!何故この子を通した!?入口で警備をしてたんじゃないのか!?」

 

「す、すまんシンリンカムイ…トイレに行って入口から離れていたんだ…」

 

「言い訳はいい!それで君は何しにここへ来た!」

 

 シンリンカムイは明らかに俺に対して『さっさと帰れ』と言わんばかりの敵意を向けていた。

 

「通せよ…俺は出久に会いに来てやったんだよ…」

 

「なんだと?」

 

「会ってどうする?君が彼に会ったところで、彼は目を覚まさないんだぞ」

 

「んなことは分かってんだよ…だがなぁ俺は出久と…出久の母ちゃんに謝らなきゃいけねぇんだよ…!だから通せ!」

 

「謝る……だと……ふざけるな!!ならなんで今になって来た!?本当に謝罪の気持ちがあるというのなら!!何故彼が入院したと知った日に来なかったんだ!!!」

 

「ぐっ!?」

 

 何も言い返せねぇ……その通りだ…本当に悪いと思っているのなら…アイツが自殺を図ったと知った日に来るのが常識…既にその日から6日を過ぎてからくるなんざ…周囲から見れば《仕方なく謝りにやって来た》としか思われないのは当然だ…

分かっていたことだが…こうして面と向かって言われると言葉に詰まる…

 

「まさか君…『今日まで知らなかった』なんて言わないだろうなぁ!!」

 

 後ろにいるデステゴロが追い討ちをかけるように言ってきやがった…

 

「さぁ早く帰りたまえ!!ここは君が来るべき場所ではな」

 

「煩(うるさ)いねぇここは病院だよ、静かにしな」

 

 俺がヒーロー達から叱られていると、出久がいる病室の扉が開いて…先日俺を治療してくれたリカバリーガールが出てきた。

 

「「リカバリーガール!」」

 

「まったく、揃いも揃って何を騒いでいるんだい。アンタらがどうしてもって言うから警護をやらせてやっているのに、騒ぐんだったら他の奴に変わってもらうから、アンタらはさっさと帰りな」

 

「も、申し訳ありませんリカバリーガール!」

 

「すみませんでした!どうか警備は我々にやらせてください!お願いします!」

 

「だから静かにしなって…」

 

 大の男2人がこんな小せぇババアにペコペコを頭を下げてやがる…

 にしても《警備》ってどういう意味だ?マスコミの対応のことか?

 

「やれやれ……アンタは先日退院した子だね?また怪我でもしたのかい?」

 

「………」

 

「す、すいませんリカバリーガール…俺のミスで彼を通してしまいました、直ぐに帰らせます!ホラ来い!早く帰るんだ!」ガシッ

 

「おい!?離せよ!?俺が用があるのはテメェじゃねぇ出久だ!!」

 

 デステゴロが無理矢理連れて行こうと俺を羽交い締めにして持ち上げた!俺は抜け出そうと反抗しようとしたが…

 

シュルルルル…パシッ!

 

「あ”あ”っ!??」

 

 羽交い締めをするデステゴロへ抵抗しようとしたが、シンリンカムイが個性の《樹木》で俺の両手両足を縛りやがった!

 

「暴れるんじゃない、病院に迷惑がかかる。外へ出たらソレは外しやる」

 

 冗談じゃねぇ!!ここまで来て帰るわけにはいかねぇ!もうすぐそこに出久がいるんだ!

 

「離せや!お前らなんかに用はねぇんだよ!俺が用があんのは出久と引子さんなんだ!俺が今までしてきたこと全部謝んねぇといけねぇんだ!許してもらえねぇものを覚悟の上だ!だから俺は!」

 

「静かにしな!ここは病院だって言ってるだろ!」

 

「「「ッ!」」」ビクッ!!

 

 リカバリーガールからの強い口調に俺は口を閉じた…

 俺もシンリンカムイもデステゴロも…リカバリーガールの言葉にビビって黙りこみ…廊下が静かになった…

 

「はぁ……爆豪勝己だったね…アンタをこの中に入れるわけには行かないよ。本当になんで今更そんな気持ちなって来たかは知らないけどねぇ…今のアンタにこの扉を通る資格はないさ……とは言え…ここまで来た度胸を称えて…患者の母親からのアンタへの伝言を言ってやるよ…」

 

 出久の母ちゃんが俺に?

 

 俺の出久の母ちゃんに対する印象は《温厚》の一言だ…ガキの頃からいつも俺にも優しく接してくれた…俺の母ちゃんとは全く真逆の性格の《優しいお母さん》だ…

 

 とは言え…今の俺に対して《温厚》という面を見せることは無いだろう……『自分の子供を死に追いやった幼馴染みがどの面下げて来やがった』という《怒り》しかない筈だ…

 

 おそらく…いや確実に…俺のことは殺したいほど憎んでいる筈だ…

 

 どんな暴言を云われても文句は言えねぇ…

 

 俺はそれだけのことを出久にしてきたんだ…

 

 だから…どんなに酷いことを言われたとしても…俺は受け止めて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『もう……出久のことは忘れてほしい……どうか……2度と私達に関わらないで……』だとさ」

 

「……………え…………」

 

 それは決して暴言じゃなかった…

 

 出久を苦しめてきた俺に対して向けた言葉としては優しすぎる言葉だった…

 

 それでも…その言葉から出久の母ちゃんが俺に何を求めているのかは…ハッキリ伝わった…

 

 俺に求めているもの…それは《拒絶》だ…

 

 俺という存在と会いたくない……もう顔すら見たくないという強い《拒絶》の意思だった…

 

 俺のことは殺したい程に憎い筈なのに…それなのに…その感情を必死に圧し殺して穏便に済ませようとしてくれている…

 

 《忘れてほしい…》《関わらないで…》…どれだけ感情を抑えて出した答えだろうか……

 

「俺は…出久へ…謝り……謝りにここへ…」

 

「引子さん……やっぱり…許してはもらえないのね…」

 

 母ちゃんの声が聞こえて振り向くと壁に寄りかかった状態で…そのまま廊下へ膝をついた母ちゃんが近くにいた…今のリカバリーガールの言葉を聞いてたのか?

 

「アンタ…この子の母親だね。この子に言わなかったのかい?アンタの息子がこの病室で今も眠っている緑谷出久を自殺に追いやった主犯だって発覚したその日に、被害者の母親へ電話して同じことを言われたことをさ」

 

「そ…それは…」

 

 リカバリーガールの言葉を聞いて俺の中の謎が1つ解けた……母ちゃんが寝込んでいた1番の理由は!引子さんから今の言葉を言われたショックからだったということに!

 

 

 

 出久を苦しめたのも……

 

 引子さんを苦しめたのも……

 

 そして母ちゃんを今も苦しめているのも……

 

 その原因は………俺………

 

 全ての元凶は………この俺!!!

 

 

 

BOOM!!

 

「ぬおっ!?」

 

 俺は個性を使って両手両足の《樹木》の拘束を解き、爆破によってよろめいたデステゴロから抜け出して、颯爽とその場から逃げ出した!

 

「勝己!?」

 

「おい!どこへ行く!」

 

「ゲホッゲホッ!! 待て!」

 

 母ちゃんとシンリンカムイとデステゴロからの呼び掛けに答えずに…俺は病院の出口に向かって走った!

 

 

 

 病院を出ると大雨になっていたが、構わずに外へ飛び出して無我夢中で走り続けた!

 

 そして……疲れて足を止めた場所が…出久が飛び降りた無人ビルの前だった……入り口には立ち入り禁止のテープが貼ってあったが…俺は何かに吸い寄せられるかのようにも建物の中に入り、屋上へ来ていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●無人ビルの屋上…

 

 

None side

 

「…なぁ…さっさと目ぇを覚ませよ……出久…」

 

 雨に濡れ…爆豪はびしょ濡れになっていく…雨だけでなく頬を流れる熱い雫が爆豪の顔をさらに濡らしていた…

 

 あの日から一週間……たった一週間で爆豪の身の周りは大きく変化した…

 

 当たり前のように送れると思っていた《日常》は消え去り…

 

 自分に関わりのある人間だけじゃない…この社会すらも大きく変わってしまった…

 

 

 

 

 

 そんな爆豪は昔を……出久と過ごしていた日々を思い出していた…

 

 だが…出久との過去で思い出すのは…

 

 自分が出久を虐めていた記憶しかなかった…

 

 むしろ…爆豪には出久に対しては…虐めていない記憶が無いくらいだった…

 

「(いつからだった…俺が出久を馬鹿にするようになったのは………いつからだった…アイツに個性を使って虐めるようになったのは…)」

 

 爆豪は出久を本格的に虐めるキッカケとなった過去を記憶から引き出した…

 

 それは爆豪と出久がまだ幼い頃に、川で遊んでいた際…川で転んだ爆豪へ出久が手を差しのべて『大丈夫?』と言ってきた時だった…

 

「(俺は…あの時に屈辱を受けた!無個性のくせに!!俺よりもずっと下のくせに!!俺を見下しやがって!!その日からだ…アイツを必要以上に否定して虐めるようになったのは…)」

 

 《無個性》云々(うんぬん)以前に…その出久の行動1つが…爆豪が出久を虐め…夢を貶して…存在を否定する…全ての《始まり》だった…

 

 

 

 

 

 だが…裏を返せば…《それ》だけだった…

 

 たった《それだけ》のことを理由に…爆豪は出久を10年間も傷付け…挙げ句の果てに死に追いつめたのだ…

 

 そして今や…このヒーロー社会のバランスを崩す事態を招いてしまった…

 

 

 

 

 

 爆豪は過去の記憶を思い出していく…

 

 改めて自分がどんな人生を送ってきたのか…

 

 あの日のことをキッカケに…出久への嫌がらせと虐めはエスカレートしていった…

 

 小学校と中学校に上がった時も…わざわざ出久が《無個性》であることを学校中に言いふらした…それによって《出久を虐めること》は小学校では当たり前となっていた……中学では顔も知らない同学年へ出久を虐めるように脅したこともあった。

 そんな爆豪達を教師達は大して怒りはしなかったし注意しなかった…

 そして爆豪は…自分に逆らう同級生や気に入らない同級生に対しては、個性の《爆破》を使い恐怖させ脅すことで無理矢理従わせた…

 

 爆豪は…自分のやってることは全て正しいんだと勝手に決めつけていた…

 

 そんな間違った思考を持ったまま…考え直すこともなく…爆豪はここまで育ってしまった…

 

 

 

 

 

「俺の…俺の生き方は…間違ってたのかよぉ…」

 

 そして今…爆豪自身が出久の立場を味わってようやく理解した…

 

 天才だの秀才だの言われていた自分…

 

 周りの奴らは自分よりもずっと後ろにいるんだと決めつけていた…

 

 未来に向かって進んでいた道の先頭を歩いていた自分を…周りの奴らは追い抜こうとしていた…その中には出久もいた…

 爆豪はそれが気に入らなかった…

 

 

 

『俺の前に立つな!』

 

 

 

「(違う…)」

 

 

 

『なんの才能もねぇテメェらが、俺と同じ位置に立てると思うんじゃねぇ!!』

 

 

 

「(違う…)」

 

 

 

『俺を追い抜けるなんて、夢見てんじゃねぇよ!クソ共がああぁ!!!』

 

 

 

「違う!」

 

 

 

 爆豪は過去に自分が言った発言をその場で否定した!

 

 

 

「アイツは…アイツらは…!

俺の前に居ようとした訳でも…

俺と同じ位置に立ってた訳でも…

俺を追い抜いていた訳でもねぇ!!

《俺が勝手に立ち止まっていた》だけなんだ…

アイツらは…出久は…立ち止まっていた俺をただ通り過ぎていこうとしただけだったんだ!

それなのに…俺は…追い抜こうとするアイツらを…《無理矢理引き止めて…俺の後ろへと投げ飛ばしていた》…

《誰も俺より先へ行かせない》ために…」

 

 

 

 自分が何をしてきたのかを…爆豪はようやく理解した…

 個性を発現してから約10年という歳月が経って…ようやく自分で認識出来たのだ…

 そして《それ》に気づいたのが…余りにも遅すぎたことにも…

 

 

 

「俺が今までやって来たことは……本当にヒーローを目指していた人間のやることだったのか……他人(ひと)を貶して…出久を痛めつけていた過去しか俺にはねぇ…」

 

 爆豪は自分を責めた…こんな人として当たり前のことに今まで気づけなかった自分が嫌になっていた…

 

「何が《オールマイトを超えるヒーロー》だ…

何が《孤高の天才》だ…

何が《唯一の雄英合格者》だ…」

 

 爆豪は後悔した…心の底から反省していた…

 

 自分という人間がなんなのか…

 

 普段から『死ね』だと…『消えろ』だの…他人を平気で傷付け…暴言を吐き…暴力を振るっていただけの子供…

 

 どんなに後悔しても…今まで自分がしてきたことは許されることじゃない…まして消えることのない事実…決して変えることなどできはしない過去なのだ…

 

 

 

 全部失って…爆豪は自分の中から押し寄せる《恐怖》の正体を理解した…

 

「今まで俺を称えてた奴らも…尊敬してた奴らも…称賛していた奴らも…

全部《偽りの付き合い》でしかなかったんだ…

大人達は俺の《上っ面の顔》しか見ていなかった!

同い年の奴等は《俺》じゃなくて《俺の才能(個性)》だけを見て傍にいただけ……俺自身が分かりあえないと思えばどいつもこいつも俺を迫害した!

《人望》なんて有りはしなかった!

心の底から許し合える奴なんて誰1人いる筈がなかったんだ!

全部が俺の…勝手な《妄想》と《思い込み》だったんだ!

…結局…俺には最初から何もなかったってのかよ…」

 

 そんなことを発言しても誰も答えてくれる者なんていない…

 いや…例え誰かが聞いていたとしても…爆豪のその問いに答える者など誰もいないだろう…

 

 1週間…たったそれだけの期間で…

 

 10年間かけて自分が築きあげてきた全てを失い…

 

 社会から向けられる俺の対応は大きく変わってしまった…

 

 爆豪には心の拠り所が何処にもなかった…前日…これまで一緒にいた取り巻き2人の元へ行き…自分のプライドを押し殺し…相談にのってもらおうと話しかけて返ってきた言葉は…

 

『はっ!?冗談じゃねぇ!?お前が発端だろ!!自分でなんとかしろ!!てか!俺達を巻き込むんじゃねぇ!!あともうお前なんか《友達》じゃねぇんだよ!!!』

 

『気安く話しかけんな!《ヴィラン》が!!お前を《友達》なんて思って尊敬していた自分が大馬鹿者だったよ!!2度と話しかけんじゃねぇ!!!あと近づくな!!!』

 

 今まで一緒にいた…ついてきたのが当たり前だった取り巻き2人から向けられたのは《侮辱》と《軽蔑》…そして《拒絶》だった…

 

 爆豪の味方は誰もいなかった…

 

 誰も爆豪を信じない…

 

 

 

「出久…お前はここで何を思ってたんだよ…」

 

 爆豪は考えた…1週間前…此処で出久は何を考えていたのか…

 

「俺を死ぬほど恨んで憎んでいたのなら…ノートにでも何にでも…俺の名前や俺がやってきたことを書き残せばよかっただろうが…俺はお前をここへ来させて自殺をさせるまで追い詰めたんだぞ………なのにお前は《それ》をしなかった…俺が気づかない内に《無個性》のお前へ《それ》をさせないほどまで恐怖を植え付けていたのかよ…」

 

 《無個性》の立場…爆豪がそれを身をもって味わったのはほんの数日だった…時間で言えば2日もなかった…

 だが出久はどうだ?10年前から…周囲の皆が《個性》を発現する中で1人だけ取り残され…《無個性》として過ごしてきた…

 

 自分だけが周囲と違うという《疎外感》…

 

 無個性であることに目を見せつけられ、抵抗もできずに一方的に攻撃される《恐怖》…

 

 弱い立場であるがために同級生だけでなく、教師にまで差別をされる《悔しさ》…

 

 4歳の時から出久はずっと耐えてきた…そんな出久の気も知らずに…爆豪は何をしてきたか…

 

 

 

「…わかった………わかったよ………もう…十分わかったよ……だから………だからよぉ……」

 

 

 

 爆豪が目を閉じると思い浮かべるのは…自分に向けられる大勢からの《冷たい目》…

 

 両親…

 

 クラスメイト…

 

 教師…

 

 ヒーロー…

 

 ボランティアの参加者…

 

 名前も知らない一般人…

 

 どこへ行ってもその《冷たい目》で見られ続けられている…

 1人の時は常に誰かがその《冷たい目》で自分を見ているんじゃないかと…《被害妄想》をするようになっていた…

 

「…その目で……そんな目で……俺を………俺を……」

 

 自分の目から流す涙が大粒へと変わった…そして溢れ出て流す涙のように…心に押さえ込んでいた感情を言葉にして吐き出した!

 

「俺を見んじゃねえーーー!!!」

 

 雨を降らす雲に向かって爆豪は叫んだ…

 

 しかし…その叫びは夜の闇へ消えていった…

 

 

 

 

 

「…俺は…俺は………俺はどうすりゃいんだよーーーーー!!!!!」

 

 爆豪の問いに…叫びに答えてくれる者は誰もいない…

 

 彼が人生で初めて吐いた弱音は…誰にも聞かれることなく…雨音にかき消された…

 

 

 

 

 

 だが…この一週間で己の罪を理解し《罰》を受けたのは爆豪勝己だけではない…

 

 ヘドロ事件からの一週間…多くの人々が《己の罪》を思い知っていた…




 やっぱり爆豪というキャラを態度や口調を長く書くのは難しいですねぇ…

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