緑谷出久の法則   作:神G

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 《制裁の法則(後編)》と一緒に進めていた今回の話も同時に投稿しました。

 今回の話は《一部のヒーロー》に対するアンチ要素が含まれておりますので、苦手な方はプラウザバックをおすすめいたします。

-報告-  今度、タグを追加します。


真実と過ちの法則

●ヘドロ事件から1週間後の病院…

 

 

シンリンカムイ side

 

 私は今…病院にいる…

 

 病気や怪我をして来た訳じゃない、私は至って健康だ………まぁ…ある意味病気なのかもしれないがな…

 今日の私は、この病室の扉の向こうにいる親子の警備をしている…

 

 ヒーローが病院で警備の仕事をする必要があるのかって?

 

 病院の警備員に任せればいいんじゃないのかって?

 

 その通りなんだが…リカバリーガールに無理を言って…ここの警備をやらせてもらっている…勿論お金など貰わないし…出されたとしても受け取らない…いわば私が勝手にやらせてもらってるだけだ…

 それともう1つ…今の私は《ヒーローであってヒーローじゃない》…

 

 ヘドロヴィラン事件からの1週間…私は…いや…あの事件に関わった私を含めたヒーロー達は…『アナタはヒーローなんですか?』という問いの答えを見つけられずにいた…

 5日前の午前中までの私ならばその問いに即答で『私はヒーローだ!』と言えただろう……

 

 子供の頃…《あの人》に憧れてヒーローに目指し、夢を叶えてヒーローになった私は…気づかぬ間に有頂天になっていた…

 そして…いつの間にか自分のやることなすことが全て正しいという傲慢な思考を持っていた…

 そんな愚かな自分に気づくことなく…私は《過ち》を犯した…

 

 今の私は……《幼き頃の私自身》や……憧れの《あの人》に……胸を張って『私はヒーローだ』なんて口が裂けても言うことは出来ない…

 

 私は《ヒーローを名乗る資格》なんてないのだから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●5日前(ヘドロ事件から2日目)

 

 

 あの事件の日から2日が経ち、私は警察からの呼び出しを受けて昼前に警察署へとやって来た。

 受付を済ませて指定された会議室へ入ると既に何人かのヒーロー達が来ており、大きな長方形のテーブル周囲(スクリーンのある前側以外)の椅子に座っていた。

 スクリーンのある前の椅子以外で空いている椅子が1つだけなので私はその椅子に座った。どうやら呼び出されたのは他にもいたようで私が最後みたいだな。

 『12:00から先日の事件について話がある』との連絡だったので昼食を早め済ませて余裕を持ってきた筈だったが、まだ11:40頃で他の全員が来ているとは思わなかった。

 

「シンリンカムイ、お前も呼ばれたのか?」

 

「デステゴロか、昨日電話があって12時までにここへ来てくれとな」

 

「そうか、今日はなんでここ(警察署の会議室)へ呼ばれたのか分からないんだが、何か聞いてないか?」

 

「いや、私も詳しいことはこの場所で話すとしか…」

 

 右側に座っている《デステゴロ》が話しかけてきた、どうやら彼も何故呼ばれたかは分からないらしい…先日の事件については当日に全て話したというのに、なんのために我々は呼ばれたのだろうか?

 

「あぁんもぅ~なんでこんなとこにいなくちゃいけないんですか~しかもよりによってお昼ご飯の時間に開始するなんて~あんまりじゃないですか~私お腹ペコペコなのに~」

 

「場所を弁えろMt.レディ!大体オメェは遅刻するから俺が早めに連れてきたんだろうが、昼飯は後にしろ!」

 

 デステゴロから注意を受ける私の左側に座っている女性…先日デビューしたばかりの後輩ヒーロー《Mt.レディ》だ…

 後輩…後輩なのだが…これ以上にないくらい手のかかる後輩だ…

 新人だから仕方ない?…そうだとしても彼女の場合は度が過ぎている…

 彼女は個性は《巨大化》、個性を発動させると20M程の巨人になれるというパワー系のヒーローだ。

 デビューして間もないというのに既に人気が出ているだけでなくファンもかなりいる。《強さ》だけでなく、その《美しさ》と《スタイルの良さ》もあって今もファン(ほぼ男性)が増え続けていると…世間からすれば《期待のヒーロー》だ…

 

 だが…先輩ヒーローである私達に対して敬語は使ってはいても、その口調と態度と行動には《敬意》はまるで感じられず、私から言わせれば『礼儀がなっていない』の一言だ…と、ソレだけならまだいい……だが…《手のかかる》と言うのはソレじゃない…彼女に対して我々が一番迷惑していること…それは…

 

「ふああぁ……眠っ……昨日も報告書を遅くまで書かされたせいで寝不足ですよ私…寝不足はお肌の天敵なんですよぉ…」

 

「お前が建物や車を壊すからだろうが!!巨大化してヴィランを倒すのに周囲のことを考えずに暴れるから、その分の請求やら被害の件で報告書が増えているんだ!!ヒーロー活動において《周囲への被害を最小限かつ無しにする》のは常識だろ!!」

 

「ちょっと先輩…大声出さないでくださいよぉ…頭がガンガンするじゃないですかぁ…」

 

「誰のせいだ!!!」

 

 そう…彼女の個性《巨大化》は確かに強く、同じように巨大化したヴィランを倒すにはとても有効なのだが、彼女は主に市街地で活動しているため建物や道路への被害が大きく『どっちが町を破壊しているんだ』と何度も疑問に思ってしまうくらいだ…

 Mt.レディを叱るデステゴロの目元が黒くなっている…彼女の報告書などを書く手伝いを遅くまでしてしたのだろう。彼も寝不足の様子だ…

 

「(…というより2人共…さっきから私を挟んで口喧嘩するのはやめてくれないか…)」

 

ガチャッ

 

 そんなことを思っていると会議室のドアが開いた。

 そして入ってきた2人の人物に私達は驚いた!

 

「イレイザーヘッド!?…と…根津校長!!?」

 

「YES!ネズミなのか?犬なのか?熊なのか?その正体は…校長さ!」

 

「校長…それ…コイツらに言う必要あるんですか?」

 

「僕のアイデンティティだからね!絶対に必要なことなのさ!」

 

「そうですか…」

 

 会議室へ入ってきた人物は、日本では1位2位を争う難関なヒーロー校《雄英高校》の校長である《根津》と、教員である抹消ヒーロー《イレイザー・ヘッド》だった!

 

「我々を呼んだのはアナタだったんですか、根津校長…」

 

「その通りさ!君達とは面と向かってどうしても先日の事件について話をしたくて、こうして来てもらったのさ!」

 

 2人が誰も座っていない前側(スクリーン側)の席に座った。『何故アナタがあの事件を聞きたいのですか?』と口から出そうとしたが、根津校長から漂わせる禍々(まがまが)しい雰囲気に…私はその言葉を飲み込んだ…

 

「では改めて《ヒーロー》の諸君、今日は忙しい中こうして集まっていただき感謝しているよ。お昼時に呼び出してしまった訳だからね、早速本題に入ろうじゃないか!」

 

 根津校長という人物(?)を知っている者なら、彼が普段とは違うというのが分かる筈…

 

「僕が君達に聴きたいことはただ1つさ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君達は…本当に《ヒーロー》なのかい?」

 

 表情こそ変わらないが…その瞳には我々へに対する強い《怒り》で満ちていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●数分前…警察署会議室の隣の部屋…

 

 

根津校長 side

 

「校長…どうやら全員集まったようですよ…」

 

「うん…そうみたいだね…行こうか…」

 

 僕は相澤君と共に警察署会議室の隣部屋にいる。

 午前中は《折寺中の3年生達と担任達と事件に関わったヒーロー達の厳罰を決める会議》をしていた。会議中、爆豪君とその母親がやって来て取り調べを受けていたみたいで、会議が長引いたせいもあって終わる前に2人は帰ってしまったみたいだ。

 

 その午前中の会議において僕は《ヒーロー協会》と《教育委員会》の人達と共に警察が集めた情報を聞き入れて長い会議をした…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●午前中…警察署会議室…

 

 

 警察の方々からあの2つの事件の日から2日間の段階で知り得た情報を聞き終えて、本格的に《男子中学生の飛び降り事件》の会議が始まった。

 

「被害者のクラス担任は即刻《解雇》するべきでしょう!教育者が個性の有り無しで子供の優不遇を決めるなど言語道断!《教育権》も剥奪するべきだ!」

 

「その担任だけではない!折寺中の教員達には子供を教育するに値(あたい)しない者達ばかりだ!」

 

「そうですね、警察の情報と《電子メール》の個性を使う警察による彼らの《思考》を調べた結果、教員の半数近くが《無個性差別者》であり《強個性の優遇者》ですし」

 

「ならば、その優不遇の思考を持つ教員達は《謝罪会見》を開かせた後に《解雇》及び《教育権の剥奪》の処分とし、残りの教員は《減給》に処するというのはいかがでしょうか?」

 

「ん~…彼等にはそれくらいは罰を受けてもらわなければな…」

 

「それでは教員達についてはその提案を考慮するとして、次に現在入院中の被害者を除いた折寺中の3年生一同についてはいかがなさいますか?」

 

「ふぅむ…学年全員ではなくとも…彼が聴取しただけの生徒達の《思考》内容がコレではなぁ…特にその虐めの主犯であるこの《爆豪勝己》…さらにその爆豪とつるんでいるこの2人は《退学処分》とするべきなのは決定だろう…」

 

「えぇ…彼らは大人の目の届かないところで虐め以外にも何かと喧嘩や暴力がらみの事件をおこしていたという報告もありましたからね」

 

「《未成年だから許される》…とでも思っていたのでしょうか…他校の生徒で彼らに怪我や火傷を負わされたという情報もありますし、これは《退学》にしてもいいでしょう」

 

「他の生徒に至っても《退学》若しくは《停学》になるな…これだけの証拠が揃っているんだ…今更言い逃れなどできまいよ…」

 

「無個性の《虐め》と《差別》…コレはなくなることはないというのか…」

 

「爆豪勝己…これだけの悪事をしておきながら《雄英》を受けようとしていたのか…愚(おろ)かな…我々からすれば差し詰め《ヴィランの卵》だな」

 

「彼は自身を《天才》だの《選ばれた人間》だの《オールマイトを超える存在》などと学校の帰り道に大声で周りに聞こえるように喋っていたとの聞き込みを商店街の方々が供述しています」

 

「思い込みもそこまで聞くと…もはや病気だな…頭と精神の…」

 

「…とは言え、彼をそんな思考にさせたのは彼の周囲にいた大人や教育者達でもあります。警察の調べだと、発現した個性が《爆破》という攻撃性のある個性故に担任から『派手な個性』『将来はNo.1ヒーロー』等の《軽口》や《安っぽい言葉》、《薄っぺらな言葉》や《根拠のない言葉》にのせられて増長し、あのような《救いようのない子供》へと育ってしまったという解釈もできます」

 

「なるほど…表面しかみていない大人の言葉によってそのような歪んだ性格なったか…だがそれを言うなら彼を育てた親にも問題があるんじゃないのか?優秀すぎる上に甘やかして育てたとか」

 

「いえ警察の聞き込みによる情報では、彼の母親とても厳しい人間であると近所では有名だそうです…この少年はそんな親を警戒し決して気づかれないように注意してしていたのでしょう…」

 

「1番タチが悪いな…幼少の頃からそんなことを覚えてしまったがために…母親は息子の悪事には気づけなかった訳か…」

 

「厳しすぎる教育は逆に我が子の心を駄目にする…親や大人の前では猫をかぶり、そうでないなら本性を晒し…目の届かないところで悪事を働くなど…正に《ヴィラン》そのものだな…』

 

「やれやれ危ないところでしたなぁ…我々は危うく《ヒーローの仮面を被ったヴィラン》の花を咲かせてしまうところだったんですからねぇ…今ならまだ《花を咲かせる前に摘み取る》ことができると…」

 

「この子達は全員《ヒーロー》を目指しているようですが…そうするべきではありませんね…今回のことで気づかずにヒーロー校へ入って卒業を迎えてしまい…プロヒーローになりでもしたら《地位》や《名誉》、《金銭》を得るために《仲間のヒーローを盾や踏み台にする愚行》や《助けを求める人々を気分次第で見捨てる》などを平気で行う…正に《ヒーローの仮面を被ったヴィラン》になっていましたね…我々はそんな彼らに未来を任せてしまうところだったんですね…」

 

 ヒーロー協会と教育委員会はそれぞれの意見が飛びかわせた、僕は黙って彼らの意見を聞いている…とはいえ…このままいけば折寺中に未来はない…

 今回の件で来年からの生徒数が減り…そう遠くなく《廃校》になる可能性が非常に高い…

 

 そうなれば何が起きるのか…

 

 彼らは予測できていない…

 

 だから僕は…

 

「それでは、折寺中の例の教員達は《謝罪会見》の後に《解雇》及び《教育権の剥奪》、他の教員は数年間の《減給》、そして3年生の生徒達は《退学》と《停学》に決定としま」

 

「待ってくれないかい?」

 

「?…どうしました根津校長?雄英高校の校長である貴方なら、我々が述べた厳罰は彼らに対してもっとも適した処分だと思われませんか?」

 

「そうじゃないさ、《教育者》としての僕の意見を聞いてほしいのさ」

 

 僕がそういうと全員が黙ってくれた…分かっているのか…それとも知らないふりをしているのかはさておき…ちゃんと伝えないとね…

 

「確かにアナタ方が今述べられた厳罰は一般的には常識的で間違ってはいないさ、でも僕はそれを聞いた上で言わせてもらうよ。僕は折寺中の教員達への《減給》はともかく、《解雇》や《教育権の剥奪》はやめた方がいいと思う。同様に3年の生徒達に対しても《退学》や《停学》にはせずに何か別の内容にした方がいいと思うのさ」

 

 僕の発言に《ヒーロー協会》と《教育委員会》の全員が表情を変えた。

 

「何を甘いことを言ってるんだ根津君!アナタも教師ならわかる筈だぞ!ましてや《雄英高校の校長》ならば、彼らがしでかしたことに関しての罰としてはまだコレは軽い方なんだぞ!その軽い罰を更に軽くしてどうするつもりなんだ!自分が何を言っているのか分かっているか!?」

 

「うん、分かっているさ!君達が《後先考えていないこと》と、彼らだけでなく被害者である《緑谷君》のことも《どうでもいい》としか思っていないことくらいは十分理解しているのさ!」

 

『!!?』

 

「な、何を言っているんです!?教員や生徒はともかく、我々は被害あった無個性の少年を死に追い詰めた者達にそれ相応の厳罰を決めるためにこうして集まったんじゃないですか!」

 

「まぁ落ち着いてくれ、説明するさ。まず『君達が後先考えていない』と言ったのは、君達の意見を通った後にその《教員と生徒達の未来》を全く考えていないから言ったのさ」

 

『ッ!?………』

 

 教育委員会の方々が渋い顔をしていた…

 

「確かに教師や生徒に問題があるのは事実さ、そして以前にもこういった会議があって君達が出した厳罰と同じように《解雇》や《退学》処分にされたケースがあった。でも…教師や生徒達がその後どんな人生を送ったのかも…君達は知ってる筈だよね?」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 会議室を沈黙が支配した…それは《ヒーロー協会》と《教育委員会》だけでなく立ち会っている《警察》の方々もだ…彼らはよく知っている…今回のような事件をキッカケに学校から追い出された教師や生徒達に何があったのかを…何をしたのかを…

 

「内容にもよるが《解雇》や《退学》なんてものは一生付き纏うもの、そんな汚点を背負って人生をやり直せる人はそういないさ。大抵は社会から爪弾きされるのが当たり前、教師は家庭を築いている者なら家庭を失って1人となり、生徒側は《退学》の内容によって両親は仕事を失い家庭が崩壊…親から暴力を振るわれることとなるか…最悪勘当されてしまうケースもある。そして事実が知られた社会では《ヒーロー》どころか《職》に就くことすらもままならず生活が困難になるだけじゃない…マスコミや世間は容赦なく彼らを追い詰めていく…そうなれば彼らを世間の目を恐れながら細々と生きていかなければならなくなってしまう……そして最後には《自殺を図る》か、そうでない者は《ヴィラン》になってしまう……君達が知らなくてもそれが現実には起きているのさ…」

 

 僕にこんなこと言われなくたって彼らは分かっていた筈だ…ただ彼らは知ろうとしなかっただけ…目を背けていただけ…

 《罪》を犯した者は《罰》を受けなければならない…でも…

 

「ヴィランになった教師や生徒達が最初にすることは何か…それは《復讐》さ…自分達の人生を狂わせた者達を憎む《復讐者》となってしまう…つまり彼らが死んだりヴィランになるのは、我々が決める《厳罰》次第ということになるんだよ。君達は本当にそこまでのことを考慮して意見を出し…結論を出したのかい?」

 

『………』

 

 反論の言葉が1つもない…僕の言っていることが綺麗事なのは僕自身が一番分かってるさ…

 しかし…かつてそういった形でヴィランになって過ちを犯した教師と生徒達を…最終的に倒して捕まえるのが《ヒーロー》であり《警察》だ…

 

「何より、親身になって被害者である《緑谷出久》を心配していると言ってる割に、彼の名前が君達の口から一度も出ないじゃないか……その時点で君らが緑谷君を……《無個性の子供なんてどうでもいい》という気持ちしか僕には伝わってこないんだよ…」

 

『!!?……』

 

 全員が確信を突かれたような痛い顔をした…どうやら彼らも少なからず《無個性》を差別する傾向があるみたいだ…

 

「それにさっき説明があった筈だよ、事件前に緑谷君へ…結果的に『無個性はヒーローになれない』と言って彼を自殺に追いやった原因である《ヒーロー》の存在を…」

 

「そ…それは…」

 

 そう…《無個性》と聞いた上で緑谷君にその発言をしてしまった《ヒーロー》…今この会議室にいる人達(ヒーロー協会3人、教育委員会3人、警察3人)は承知している…当然そのヒーローの名を聞いた時はヒーロー協会と教育委員会の方々は度肝を抜かれていた様子だった…まぁ信じたくなかったんだろうね…

 

 

 

 それから改めて教師と生徒達についての厳罰を話し合った結果…

 

 

 

「では改めまして…折寺中の教員達は《謝罪会見》と、担任以外の教師は《3年間2割減給》、例の担任は《5年間4割減給》と《教育者の再教育》とします、ただしその担任が次に同様のことをした場合は《教育権の永久剥奪》とします。3年の生徒達全員は根津校長の提案である《被害者の緑谷出久が参加していた奉仕活動》の参加をさせる……よろしいですか?」

 

『意義なし!』

 

 とりあえず彼ら(折寺中の教師と生徒達)の《最悪の未来》の可能性は避けることは出来ただろう、とはいえ彼らがこれから味わっていく《世間からの冷たい風》を多少弱めただけで解決にはなってない。特に《爆豪勝己》君と友達2人…そして彼らの両親や親族と、例の担任は《汚点》を背負うことになってなる…

 でも反省してもらわなければならない…自分達がしてきた過ちを…

 

「ヒーロー達の《厳罰》については先程根津校長が述べられた内容を考慮し、《ヒーロー免許の剥奪》と《謹慎処分》ではなく《減給》と《奉仕活動の参加及び生徒達の見張り》といたします…こちらもよろしいですか?」

 

『意義なし!』

 

 ヒーロー協会は彼らを折寺中の教師や生徒達と似たような処分を考えていたみたいだけど、僕の話を聞いてそれも改め考え直し、僕が考えていた意見を通してくれた。《ヒーロー》が《ヴィラン》に転職する可能性なんて絶対避けたいことだからね。お陰で《ヒーロー》達の《厳罰》の話し合いはアッサリ終わったのさ。

 

「では今回の会議はここまでにしましょう…皆さん…お疲れさまでした…」

 

 長い会議が終わって席を立とうとする者がいる中…

 

「そういえば根津校長、今日の昼頃に例のヒーロー達を集めココで改めて会議をするようですが、先程話した《厳罰》の他に何を話されるんですか?」

 

 ヒーロー協会の1人が帰る前に僕へ質問をしてきた。午後イチに行われる《1名のヒーロー》を除くヘドロ事件に関わったヒーロー達全員をここへ集まってもらうように警察に頼んでいる。

 

「僕は彼らに…どうしても聞かねばならぬことがあるのさ…《ヒーローであるという彼ら》に《教育者である僕》がね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな会議を午前中に終えて、午後からはこの会議室へ集まってもらったヒーロー達との話し合いが始まる。今度は長くならないといいんだけど…

 

「相澤君」

 

「はい」ガチャッ

 

 午前中の会議が終わった頃に来てもらった相澤君に扉を開けてもらい共に入室した。

 

「イレイザーヘッド!?…と…根津校長!!?」

 

 入ると《デステゴロ》君が僕達を見て驚いており、他のヒーロー達も同じ反応した。彼らは警察からの連絡で呼ばれたというだけで、自分達に用があったのが僕だとは知らせてないからね。

 

「YES!ネズミなのか?犬なのか?熊なのか?その正体は…校長さ!」

 

「校長…それ…コイツらに言う必要あるんですか?」

 

 僕の口癖に相澤君が解釈してくれた。

 

「我々を呼んだのはアナタだったんですか、根津校長」

 

「その通りさ!君達と面と向かって先日の事件について話をしたくてこうしてきてもらったのさ!」

 

 シンリンカムイの問いに答え、僕と相澤君はスクリーン側の列に2つしか置いてない椅子に座ったところでそろそろ本題入っていく…

 

 彼らには《真実》を知ってもらい…自分達の《過ち》に気づいてもらわなければならない…

 

「僕が君達に聴きたいことはただ1つさ…」

 

 僕が《教育者》の立場として…彼らに伝えなければならない最初の言葉…

 

「君達は…本当に《ヒーロー》なのかい?」

 

 何を言ってるんだ…

 

 そんなことを聞くために忙しい彼らに態々(わざわざ)集まってもらったか…

 

 …と…誰しも思うだろう…

 

 でも…これはとても大事なことなのさ…

 

 全ての始まりは一昨日リカバリーガールが1人の少年を手術を終えたあとに連絡をしてきたことさ。

 一旦雄英に戻ってきたリカバリーガールから大方の詳細を聞き、その次の日…つまり昨日…塚内君と2つの事件に大きくか変わっているヒーローである《オールマイト》から全てを聞いた。

 

 ヘドロヴィラン事件の《真相》と…

 

 飛び降り自殺を図った少年…《緑谷出久》君の《心境》を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●昨日の夕方(ヘドロ事件の次の日)

 

 

 空がオレンジ色に染まり生徒達が下校している頃、会議室に集まった4人で話し合いをしていた。その話の内容は昨日起きた2つの事件の両方に大きく関わっている《オールマイト》のことだった。

 

「なるほど…そういうことだったのか…」

 

 今、雄英高校の会議室には現No.1ヒーローの《オールマイト(トゥルーフォーム)》と、我が校に長く勤務してもらっている《リカバリーガール》、昨日オールマイトを事情聴取をしてくれた《塚内警部》、そして私を含めた4人が集まって昨日おきた2つの事件《ヘドロヴィラン事件》と《男子中学生の飛び降り事件》について話し合いをしていた。

 オールマイトと塚内君から語られた事件の詳細と、重要参考人である2人の中学生について話を一通り聞き終えたところさ。

 

「はぁ……まったく呆れたもんだよオールマイト……アンタ、自分が今を生きる子供達とっていったいどんな存在なのか把握してなかったってのかい?」

 

「ぐっ!…んん…」

 

「まぁ確かに…改めて話を整理すると…緑谷君が自殺を図るのには…十分過ぎる理由ですよね…」

 

「うっ!!?……うぅ…」

 

 昨日リカバリーガールが手術した少年《緑谷出久》君は、ある無人ビルの屋上から飛び降りて自殺を図ろうとした…

 そして偶然なのか奇跡なのか、緑谷君が緊急搬送された病院に名医であるリカバリーガールがいたのだ。

 リカバリーガールは昨日、その病院に入院している《ある患者》が数日前に長い昏睡状態から意識を取り戻したため、その術後経過を見るために訪れていた。そして検査を終えて帰ろうとしていた時に緑谷君が搬送されてきたのだ。

 瀕死の重症だったがリカバリーガールの手術と個性《治癒》によって緑谷君は奇跡的に命をとりとめることが出来た。

 

 

 

 でも、本題はここからさ。

 

 

 

 緑谷君の手術を終えて更衣室で休んでいたリカバリーガールだったけど、彼女がロッカーに入れた携帯が鳴ったので携帯を見ると《オールマイト》からの電話だった、何の用かと思って出てみると電話に出たのはオールマイトではなく塚内君だった。

 オールマイトは例の無人ビルの前で座り込んでいた際に、現場検証をしていた警察に声をかけられて我にかえり、警察から緑谷君が運ばれた病院を聞き出してリカバリーガールへ電話したようなのだが、丁度その時リカバリーガールは緑谷君の手術中だったため何度連絡に出てもらえなかった……次に馴染みのある警察の塚内君へ連絡を入れて『これから私はどうしたらいいのか』という相談をした。当然ながら塚内君も訳がわからなかったが、電話越しに聞こえるオールマイトの弱々しい声から何かを察し、その日の夜に警察署で塚内君はオールマイトから2つの事件の詳細を聞いた。

 

 そして今日、急遽《雄英》に集まり、このメンバーで改めて話をすることになった。

 

『根津校長、お手数をかけさせてしまい、申し訳ありません』

 

『いやいや気にすることはないさ塚内君。さてオールマイト、何があったのか話してくれるね』

 

『オールマイト、アンタ何をしたんだい?』

 

『……私は……私は…許されぬことを……取り返しのつかないことを…してしまったんです……』

 

 オールマイトは昨日の出来事を話し始めた。

 

 発端はオールマイトがヘドロヴィランを発見したものの取り逃がしてしまったことが全ての始まりだった。

 

 それから語られたことを順をおって説明するとこうなる…

 

 

 

① ヘドロヴィランとの戦闘中、敵は個性を駆使して下水道に逃げ込み、オールマイトも下水道へ入り追いかけた。

 

②追い詰めて捕まえようとしたが、流動するヘドロヴィランを素手で掴むことが出来ず、今度は地上へ逃げられてしまった。

 

③マンホールを開けて地上に出ると、例の飛び降り自殺を図った少年《緑谷出久》君がヘドロヴィランに襲われており、咄嗟に風圧のパンチで少年を助けると同時に敵を気絶させ、落ちていたペットボトルに敵を詰め込んだ。

 

④風圧のパンチによって緑谷君の鞄から彼の私物が散乱してしまい片付けて、黒焦げのノートに自分のサインを書いてから彼の意識が回復させ、その場から去ろうとした際に、彼はオールマイトに向かって『無個性でもヒーローになれますか』という質問をした。

 

⑤オールマイトはその質問に対し《ヒーローの立場》として考え答えた…『個性が無くたってヒーローになれるとは言えない、相応に現実を見なくてはな』と緑谷君へ言った。

 遠回しに『無個性の君はヒーローになれない』と言ってしまったのだ…

 そして、沈黙した彼を放置してオールマイトはその場を立ち去った。

 

⑥緑谷君と別れて空を移動中、ズボンのポケットにヘドロヴィラン入りペットボトルをしまっている際に、突然吐血してしまい咄嗟に手で口を押さえた!それと同時に身体から蒸気が溢れ始めて《時間切れ》だと判断したオールマイトは目に見える着地に良さそうなビルの屋上を見つけて着地。

 

⑦着地後、マッスルフォームが強制的に解除されトュルーフォームになったオールマイトは仕方なく歩いてビルを降りることにした。

 だが、ここで問題が起きた!ポケットに入れていた《ヘドロヴィラン入りペットボトル》がなくなっていたのだ!

 オールマイトは吐血しながらも急いで階段を降りてビルから出た瞬間、自分が飛んできた方角で爆発音が聞こえた!

 

⑧爆発がした方へ向かうと、例の《ヘドロ事件》の現場へ遭遇した。

 その事件の重要参考人である《爆豪勝己》君がヘドロヴィランに取り込まれ、彼の個性である《爆破》によって周囲に被害が出ていた。

 

⑨現場には既に何人かのヒーロー達がいた……のだが……誰も爆豪君だけは助けようとせず、周囲の人々の避難誘導と消火活動しかしていなかった。

 オールマイトは助けに行きたかったがマッスルフォームを使うには、まだ多少の時間が必要だった。

 

⑩爆豪君が苦しんでいるのを見ていることしか出来ない自分の不甲斐なさを噛み締めていると、人ゴミの中から誰かが飛び出した!

 それが《緑谷出久》君だったのだ!

 

⑪《無個性》であるにも関わらず、現No.1ヒーローから夢を否定されたというのに苦しんでいた爆豪君を助けようとする緑谷君の姿にオールマイトは感銘を受けた!

 オールマイトは緑谷君へ『ヒーローになれる』と『自分の個性を継ぐべきヒーロー』だと伝えることを決心した!

 その決心と共にマッスルフォームが使えるようになり、緑谷君と爆豪君を救出しつつヘドロヴィランを倒して《ヘドロ事件》は幕を閉じた。

 

⑫その後、オールマイトは取材と野次馬に囲まれ、爆豪君はヒーロー達から褒められて将来のスカウトの声まであった。対して緑谷君は爆豪君を助けなかったヒーロー達からこっぴどく叱られた上に野次馬から指を指されて笑われていた。オールマイトはすぐでも緑谷君へ伝えたかったが、出来れば2人っきりで話をしたかったのでタイミングを見計らって抜け出そうなどと考えていた…だがヒーロー達からの説教が終わった緑谷君は野次馬に後ろ指を指されながらその場を走り去ってしまったのだ!

 

⑬緑谷君を追いかけようとしたオールマイトだったが、思った以上に人が集まりすぎたため抜け出すのに時間がかかってしまった。

 なんとか取材陣と野次馬をまき、トゥルーフォームの姿で緑谷君を探し始めたのだが…

 

⑭…時すでに遅し…オールマイトが緑谷君を次に見たのは…《ヘドロ事件》の現場から然程離れてない無人ビルの前……救急車へと運ばれる…血まみれの緑谷君だった…

 

⑮放心状態になってしまったオールマイトだったが現場検証をしていた警察に声を掛けられ肩を揺さぶられて我にかえり、警察から緑谷君がどこの病院へ運ばれたのかを聞き出して、顔見知りの名医であるリカバリーガールへの電話にしたが繋がらず、その次に塚内君へ連絡を入れたという訳だ…

 

 

 

 これは…何て言えばいいのか…ここまで深刻な内容だったとは…特に《緑谷出久》君の件がね…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

塚内 side

 

 私と《オールマイト》…本名《八木俊典》こと《トシ》の話を一通り聞いた根津校長とリカバリーガールは…目を閉じて深く考え込み始めた…昨日の私とまったく同じ反応だ…

 まぁ当たり前の反応だろう…一概に《トシが全ての原因》という訳ではないのだが…大部分はトシの《無責任な発言》と《無神経さ》、そして《無用心》によって起きたことなのだから…

 

「トシ…君が緑谷君に対して言ったことは確かに間違っていないよ…《ヒーロー》としてはね。でもさ…君だって《無個性》だったんだから分かってた筈じゃないのかい?ましてやNo.1ヒーローの君から『現実を見ろ』なんて言われたら、《無個性》として生きてきた彼がどう受け止めるのか察しが付く筈だろう?」

 

「言葉はちゃんと選びなオールマイト!今のアンタの言葉1つはそれだけ重いんだ!アンタの何気ない一言で人生が大きく変わる人間だっているんだ!それにアタシが処置しなきゃあの子は死んでたんだよ!アタシに連絡することより、自分が放心状態になる方が優先なのかい!!」

 

「っ!!?……わ…私は………私は…」

 

 リカバリーガールからのキツい言葉にトシは更に項垂れて自分を攻めていた…

 

「…まぁ緑谷君が自殺を図った理由はオールマイト1人だけの責任ではないだろうけど、ヘドロ事件に関しては完全にオールマイトの不注意だね」

 

「ぐはぁっ!!!」

 

 根津校長の的確なド正論にトシは血反吐を吐いた…確かに校長の言う通りだ…

 

 人は咄嗟の時にどっちの手を使うかは区々(まちまち)だが、恐らくトシは緑谷君と別れたあと空を移動中に血反吐を吐いた際、ペットボトル(ヘドロヴィラン入り)をポケットに押し込んでいた手で口を押さえてしまい、その時誤ってペットボトルがポケットから落ちてしまった…

 そして運悪く、その落下付近に爆豪君がいて《ヘドロ事件》が起きてしまったということだ…

 

 この2つの事件…『どちらもトシが原因』と言ってしまえば、それだけになってしまうが世間はそうはいかない…

 

 トシは言わずと知れた《現No.1ヒーロー》であり《平和の象徴》…その存在だけで《ヴィランの抑制》に大きく貢献してくれている…今や日本のみならず世界で彼を知らぬ者などいないだろう…

 

 だが、そんなトシにも……オールマイトにも……本当に命の危機に晒されたことがあった……

 5年前の《あの男》との死闘の末にトシは勝利したが…腹に穴を開けられるという重症を負った…

 

《負傷した臓器の摘出》…

 

《ワン・フォー・オールの活動時間の制限》…

 

 結果、マッスルフォームは持続時間が限られてしまい…トシの身体は《限界》だった…

 

 オールマイトのサイドキックであった《ナイトアイ》ですら、手術後のオールマイトに《復帰》ではなく《引退》を進めていたくらいだ。

 だが…それだけの痛手を負ってもなお、大勢の人々の笑顔と平和を守るために今も《ヒーロー》を続けてくれている…

 しかし…この一件は《極秘》のため、知っているのはここにいるメンバーを除けば、トシの現役時代の相棒であり親友の《デヴィット・シールド》と、トシの《師匠》、元サイドキックの《サーナイトアイ》、ヒーロー協会と警察の上層部、そして《士傑高校の現校長》だけだ…

 

 なので今回の件を《トシの事情》を知らない人が聞けば《オールマイトの不注意》としか受け取らない…

 何より緑谷君の事件に至っては『仕方がない』等では済まされない……さっき知り合いの刑事から《緑谷君》の身辺調査結果の情報を教えてもらうと共に《ある物》を預かってきた…

 

「緑谷君の事件について調べている刑事から現在までで分かったことを全て教えてもらいました」

 

 私は現段階で《緑谷出久》君がどういった人物でどんな人生を送ってきたのかを3人に説明した。

 

 

・無個性としてこの世の中を生きてきた彼の人生…

 

・緑谷君がトシに会うまでに何があったのか…

 

・地域の人達からはどう見られていたのか…

 

・学校ではどんな扱いをされてきたのか…

 

・幼馴染みである爆豪君との間に何があったのか…

 

 

 例の《黒焦げのノート》についてだけは伏せて、私は事実の全てを話した。

 

『………』

 

 緑谷君について話終えると3人とも黙りこくっていた。

 トシに至っては《この世の終わりを見たような顔》をしている。

 

「《無個性》と診断されてからの10年…どんなに酷い目に遭わされても…常に前向きに生きる真面目な優しい子だったわけだね…緑谷君は…」

 

「なんだかねぇ…どうして《無個性の差別》ってのは無くならないんだか…」

 

「………」

 

「オールマイト」

 

「?」

 

 これ以上にないくらい落ち込んでいるトシに根津校長が語りかけた。

 

「君…まさかとは思うけど…まだ緑谷君へ《ワン・フォー・オール》を譲渡させたいなんて思っているんじゃないだろうね?」

 

「!!?…そ…それは!………ないと言えば嘘になります…」

 

 トシは今の話を聞いてもまだ緑谷君を《後継者》にしたいようだ…それを聞いたリカバリーガールはため息をついて呆れている様子だ…

 

「はぁ…まったく…オールマイト!昨日も電話で言ったろ!その子は意識不明の重体で、助かったって言ってもまだ《治癒》を繰り返して治療が必要な状態なんだよ!第一、あの子の意識がいつ戻るのか分からない状況だっていうのに何を考えてんだい!!」

 

 怒りを露にするリカバリーガール…彼女は《医者》としてオールマイトの発言を許せないようだ…

 流石のトシもリカバリーガールにここまでと言われれば考えを改め…

 

「私は…私はようやく見つけたんです…《後継者》を!」

 

…てないようだ…

 

「アンタ…自分が何を言っているのか分かってんのかい!?またその子を追い詰めるって言うのかい!」

 

「私は…彼以外にこの個性を譲渡させる気はありません!彼が目を覚ますまで!私は何年でも何十年でも待ち続けて!彼に《ワン・フォー・オール》を譲渡させ!《ヒーロー》として育てあげたいのです!」

 

 普段のトシならリカバリーガールに逆らうことはしない…

 しかしトシは自分の意見を決して曲げようとしなかった…

 それはトシなりの《信念》なのか…

 それとも緑谷君に対する《誠意》なのか《償い》なのか…

 

 今の彼の心境が私には分からない…

 

「いい加減にしなオールマイト!!5年前にナイトアイが言ったことを忘れたのかい!?アンタのもう長くは」

 

「リカバリーガール…」

 

 ヒートアップするリカバリーガールを止めたのは根津校長だった…

 

 5年前にナイトアイが個性で見たという《トシの未来》…

 

 その未来と先程のトシの発言は…

 

 《矛盾》しているのだから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オールマイト side

 

 私とリカバリーガールの言い合いに根津校長が止めに入った…リカバリーガールが先程何を言おうとしていたのかをご存知だからか…それとも私の発言に呆れてなのか…

 どっちしろ私は緑谷少年に《ワン・フォー・オール》を受け取ってほしい!その決心は絶対に変えることは出来ない!

 

 あの時…緑谷少年は私に夢を否定された後にも関わらず…ヘドロ事件で幼少から自分を散々虐めてきた爆豪少年を助けるために飛び出した!

 私を含め…あの場にいたヒーローの誰も爆豪少年を助けようとしなかった…

 ヒーローが随時心掛ける教訓…《考えるより先に身体が動いていた》…

 彼はそれをあの場にいたヒーローの誰よりも持っていた!

 

 だから…私は!

 

「塚内君…例の物を預かってきているんだろ?それをオールマイトに見せてあげてくれないかい?」

 

「校長…ですが…それは…」

 

「彼には口で言うよりも…自分の目で《現実》を知ってもらった方がいい…このまま話していてもラチがあかないからね…」

 

「………分かりました」

 

 塚内君が持ってきていた鞄から透明なビニールに入った何がを取り出していた……!!!あ…あれは…緑谷少年が所持していた焦げたノート!!?

 

「オールマイト…それを改めて見れば君も納得する筈だよ…緑谷君が何を思ってビルから飛び降りたのかを…」

 

 塚内君からノートを受けとる際、根津の発言に私は違和感をもった…

 

 見るも何もこのノートの中身は一昨日にサインを書くために少し拝見した。

 書かれていた内容は《現在活躍しているプロヒーロー達の詳細》であり、個性を使った行動の一つ一つを細かく書き記してあった。

 彼がどれだけ熱心に《ヒーローになりたい》というその思いが文字と書き記されているノート…

 表紙を捲(めく)った1ページ目からその思いがビッシリと書いてあ……………

 

 

 

 

 

…えっ?…

 

 

 

 

 

…これは…

 

 

 

 

 

…いったい…どういうことなんだ…

 

 

 

 

 

…なぜ…

 

 

 

 

 

なぜ!?ページが《真っ黒》に染まっているんだ!!???

 

 

 

 

 

 何本もひかれた黒く太い線がページを埋め尽くしていた!

 

 それは最初のページだけじゃない!!

 

 1枚1枚ページを捲(めく)ってみると、そのどのページにも何本も重なった黒い線があり…ページ毎に書かれていた《イラスト》と《文章》を見えなくなるほどに黒く塗り潰されていた!

 

 そして、ページを捲り続けていると《あるページの一面》に目が止まった…そのページだけは何が書いてあったのかを分からなくなるほどに一面真っ黒に染まっていた………

 

 そして気がついた!

 

 このページは……私が《自分のサイン》を書いたページだということを!!?このページだけは…まるで黒ペンキをひっくり返したかのようにページの余白すら見当たらない程《真っ黒》だった…

 

「………だ…誰がこんなことを…」

 

「オールマイト…その問いの答えは分かりきっているよね?」

 

 私の疑問の答えは…根津校長から無情にも告げられた…

 

 今までの話を聞いて…その答えが分からないほど私だって馬鹿じゃない…

 

 ただ…分かりたくなかっただけ…

 

 私自身が《それ》を理解したくないだけなんだ…

 

「…今…君が手にしているそのノートこそが…緑谷出久君がビルから飛び降りる前に…《君》と《ヘドロ事件の現場にいたヒーロー達》に向けた《最後のメッセージ》さ…」

 

「緑谷少年からの…メッセージ…」

 

「僕はまだそのノートの中身を見てはいないけど…昨日電話越しに塚内君から聞いたさ…今君が開いているだろうページに《何が》書いてあったのか…警察の方々に復元してもらってそれも聞いたのさ………僕にはそのノートの焦げた表紙だけで《緑谷君の気持ち》が痛いほどに伝わってくるよ…中身を直接見ずともね…」

 

 コレが………私があの日…彼にかける《言葉》を間違えた結果…

 

 緑谷少年………君は私を恨んでいたのかい…怒っていたのかい…憎んでいたのかい…

 

 君と話した時間は…ほんの数分だった…でもそのたった数分だけで…

 

 

《君が私をどれだけ尊敬してくれていたのか》…

 

《無個性として辛い人生を送ってきたのか》…

 

《どんなヒーローを目指しているのか》…

 

 

 その全てが私に伝わった…

 

 君が私に《希望》を求めていたことも…

 

 私も無個性だったから君の気持ちはわかっていた…

 

 

 

 

 

…わかっていた…筈なのに…

 

 

 

 

 

 私は君に…《絶望》に与えてしまったんだね…

 

 

 

 血まみれになった君を見たあの時に…私は…昔のことを…《お師匠の最後》を思い出したんだ…

 

 手を伸ばせば…《お師匠を救えたかもしれない》というあの時の気持ちが鮮明に甦った…

 

 もうあんなことは二度と繰り返さない!…そう心に決めてヒーローになったんだ…

 

 

 

 しかし…私は結局…何も変われてはいなかった…

 

 

 

 多くの人々の平和な日々を守ってきた…

 

 助けを求める声を聞き…

 

 手を伸ばせば届く《命》を救える限り救ってきた…

 

 人々が安心して暮らせるように…

 

 当たり前の日常を過ごせるようにと…

 

 

 

 でも…手を伸ばせた届いた君を…助けを求めていた君を…私は2度も見捨てた……救えなかった……

 

 リカバリーガールの言う通り、あんなところに座り込んでいた暇があったならリカバリーガールを君の元へ連れて行くくらい出来た…なのに…私はそれをせずに…ただ地面を見つめていただけ…

 

 もし君の搬送された病院にリカバリーガールがいなかったらと思うと…今でも恐ろしいよ…

 

 

 

 2度ならず3度までも君を助けられなかった………いや…助けようとしなかった…

 

君の《夢》を否定し…

 

君の《心》を壊し…

 

君の《命》を………救おうとしなかった…

 

 

 

 こんなんじゃ…あの世にいる《お師匠》へ合わせる顔がない………

 

 

 

 昨日塚内君と話終えてから…いくら考えても結局は私には後悔しかなかった…

 もし…時が戻ってくれるのなら…私は…あの時の私を《デトロイト・スマッシュ》で殴ってやりたい………なんて馬鹿なこと考える始末だ…

 

「オールマイト…あの子のためを思うなら後継は他を探しな…例え意識がすぐに戻ったとしても、アンタを含めて色々と精神的に追い詰められてきたのと、事故の怪我が重なって何かしらの障害が出るやも知れないんだ。アタシの個性は《身体の傷》は直せても《心の傷》は治せない………あの子はもうアンタの顔なんざ見たくもないだろうからね…不謹慎だけどお見舞いには絶対に行くんじゃないよ…ご家族もアンタが来たら何かと迷惑だろうからね」

 

「以前も話したことだけど、後継者の件ならウチ(雄英高校)でいくらでも探すといいのさ。絶対とは言わないけど、ナイトアイの元へインターンへ行っている2年生ではダメなのかい?彼は来年には《ビック3》確定といっても過言じゃないからね」

 

「あのナイトアイが1人の学生に相当な力を育てている…おそらくナイトアイはその学生に君の後継を…《ワン・フォー・オール》を継がせるに相応しい《後継者》にするために鍛え育てているんだ。トシ、ナイトアイは君に安心して引退をしてもらい…ゆっくりして休んでほしいと願っている筈だ…僕はそう思ってるよ」

 

 リカバリーガール…根津校長…塚内君からの言葉……3人が共通して私に伝えたいのは《もう緑谷少年にはもう関わるな》という結論だ。

 ナイトアイ本人から直接聞いてはいないが、喧嘩別れした後に彼が1人の雄英生をインターンで育成しているのは知っていた…塚内君の言った通りでナイトアイはその学生に私のあとを継がせようと考えているのだろう…

 仲違いしていても…誰よりも私のことを尊敬してくれて…私を支えてくれたサイドキック。私が安心して次の時代を託せるようにと《後継者》の育成までしてくれている。

 本当に嬉しいことだ…

 

 だが!

 

「私は決めたのです!次なる《平和の象徴》…それは《緑谷出久》少年なのです!!!」

 

 それでも私は意見を曲げない!例え…ナイトアイから見捨てられたとしても…コレだけは変えることは出来ないのだ!

 

「こんなに言ってもわからないのかい!?いったいどれだけ周りに迷惑をかければ気が済むんだい!いいかいオールマイト!アンタは」

 

「もういいさリカバリーガール…僕らの言葉では納得してくれないのさ…」

 

 根津校長!貴方だけは分かってくれたのですね!

 

「と言うわけで!オールマイトの《先生》に説得してもらおうじゃないか!」

 

「……へあっ?……」

 

 根津校長がおっしゃった《先生》…実名やヒーロー名を気がずとも…私の身体が勝手に反応して震え出した!

 

「ぬえええええぇ!!?そそそそそ、それだけは!!!」ガタガタガタガタガタ

 

「なるほど、そりゃ良い案さね」

 

「最近お会いしていませんが、校長は連絡をとってるんですか?」

 

「うん!先月用事があって電話した時に『こちとら都心より仕事がなくて身体が鈍(なま)っちまってる』とか『ここんところ全力で個性使ってねぇから加減がわからねぇ』とか『《俊典》が何か馬鹿をやらかしたらいつでも連絡をよこしてくれ』って言ってたのさ!」

 

「しししししし、しかし根津校長……《先生》はもうかっかかかかかか、かなりのご高齢ですので…都心まで御足労していただくのは申し訳ないと言いますか……きゅきゅきゅきゅきゅ急に呼び出されても《先生》もごごごご、ご迷惑になるのでは…」ガタガタガタガタガタガタガタガタ

 

「心配いらないさ!明日の《ヒーロー協会》での話し合いが終わった頃合いに君へ連絡をするように頼むからね!コッチへ来てもらう時は迎えの車をこちらで用意して高速道路で来てもらうから問題ないのさ!本人もほぼ暇だって言ってたし!」

 

「いや!そういうことでなくて!ゴバッ!!」ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ

 

 興奮(恐怖)していきなり大声を出してか吐血して言葉がつまってしまった!

 永遠に封印したかった記憶をどんどん思い出してしまい、思い出したくないトラウマが甦ってきた!《ヒーロー名》も《名前》も聞かずとも身体が情景反射で震え出したというのに!昔の記憶を思い出す度に震えが増していき…

 

「(……怖ぇ……!…怖ぇよぉ……!!……足の震えが!!…止まらない!!!)」

 

「じゃ!今日の話し合いはここまでということで解散するよ!塚内君!リカバリーガール!お疲れ様なのさ!」

 

 足が震えて動けない私をそっちのけで会議は終了してしまった!

 

「あの!?ちょっと!?待って!?待って!?待ってくださいーーーーー!!!」

 

 私の叫びも空しく…根津校長とリカバリーガールは会議室から出ていってしまった…残ったのは…未だに足の震えが加速する一方の私と、そんな私に哀れみの視線を向ける塚内君だけとなった…

 

 明日の電話…私は怯えながら過ごさなければならない…最近連絡を全くしてない…

 さっきはああは言ったものの…おそらく《先生》は今も現役だ…身をもって体験した私のトラウマセンサーがそう伝えてくる!

 それに、今日すぐに電話させてこないところをみると…根津校長はなにか企んでいるのだろう…

 

「(あぁ…怖ぇ……!…怖ぇ……!!怖ぇよおおおおおおおーーーーーーー!!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●5日前…警察署会議室(ヘドロ事件から2日目)

 

 

シンリンカムイ side

 

「僕が君達に聴きたいことはただ1つさ…君達は…本当に《ヒーロー》なのかい?」

 

 会議室へ入ってきたのは雄英高校の根津校長とイレイザーヘッドだった。2人はスクリーンがある方の椅子へ座り、我々に挨拶をし終えると根津校長から早々にそんな質問を言われた。

 

 さすがの私も疑問をもった…何故いきなりそんなこと聞かれたのかと。それは私だけではなく他のヒーロー達も同じことを思ったようで根津校長に講義した。しかし…

 

「今日の僕は《ヒーロー》としてだけでなく…《教育者》としてもやって来たのさ…」

 

 根津校長の態度と雰囲気が急変した…表情こそ変わらないが…明らかに我々に対して何やら大きな《怒り》が読み取れた…

 

「質問を変えよう、ヘドロヴィラン事件において君達はそれぞれ何をしていたんだい?1人ずつ答えてくれたまえ、まずは…」

 

 そこから進めされていく話は…《ヘドロ事件》で我々が何をしてのかを順々に聞かれ…1人1人順番に答えた。

 

「………なるほど…それが君達があの事件現場にいた上でのヒーロー活動ということだ…」

 

「あの…根津校長…そろそろ教えては頂けませんか?我々をここに呼び出した用件を…」

 

 根津校長がさっきから何を言いたいのか理解できず、私は質問をした。

 

「分からないのかい?シンリンカムイ?君達は《ヒーロー》以前に《大人》としてやってはいけないことをやってしまったことを……あの日にあったもう1つの大事件である《男子中学生の飛び降り自殺未遂》についてね…」

 

 どういう意味だ?確かにヘドロ事件が起きたあとに近くで無人ビルから男子中学生が飛び降りたという事件は聞いたが、確かその中学生は《無個性》だったため周りから馬鹿にされ、名前は伏せられてるが《とあるヒーロー》から『無個性はヒーローになれない』などという発言をされたのが自殺の原因であるとしか警察からは聞かされておらず、顔も名前も我々は知らない。

 何故その事件を持ち出したのか私は分からなかった。

 

「分からないなら教えてあげるさ、その子がビルから飛び降りた原因の1つが……《君達》だからなのさ…」

 

『……えっ?……』

 

 会議室にいた根津校長とイレイザーヘッド以外のヒーロー全員が疑問をもった。

 

「根津校長!その子が誰かは知りませんが!言いがかりはやめてください!私は《ヒーロー》として間違ったことはしていないと断言できます!第一に私が何をしたというのですか!?」

 

「そうですよ!それにその子が自殺を図ったのだって《無個性》ってことを理由に虐められたことと、《どっかのヒーロー》に『無個性はヒーローになれない』とか『現実を見ろ』だとか言われたからですよね!結局、その子の心が弱かったってだけじゃないですか!私達はまったく関係ないですよ!!」

 

「無個性ながらもヒーローを目指していたのは素晴らしいですが、たかが《ヒーロー》に夢を否定されたくらいでビルから飛び降りるなど、愚か者がすることです!所詮その子が目指していた《ヒーローの夢》がその程度でしかなかった!仕方ないことでしょう!」

 

 根津校長の言葉に、私と《Mt.レディ》と《デスデゴロ》は抗議した!

 

「………《シンリンカムイ》…《Mt.レディ》…《デスデゴロ》………今の発言に君達はヒーローとして責任を持てるのかい?一度口から出した言葉は変えることは出来ないし…取り消すことは出来ないよ………君達は忘れてしまっている…ヒーローとはなんなのかを…」

 

 根津校長の心境が理解できなかった…いったい彼は何を言いたいのか?いい加減にハッキリしてほしいものだ!

 

「……《間違ったことはしていない》……《関係ない》……《仕方ない》……か……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…その無個性少年に『無個性はヒーローになれない』と言った《とあるヒーロー》が……《オールマイト》だったとしても同じことが言えるのかい?」

 

『!!!!!?????』

 

 根津校長から語られた《ヒーローの名》に会議室にいる根津校長とイレイザーヘッド以外の全員が驚愕した!!!

 

「オ、オールマイトが!?」

 

「まさかっ!?そんな!!?」

 

「じゃあ…その子はNo.1ヒーローに…夢を否定させた!?」

 

「そうだよ…あぁそれと…今の僕の発言はヒーロー協会から固く《口外禁止》とされてるから…もしこの場にいる誰かが外部へ情報を漏らしたりしたら…そのヒーローと君達全員は《ヒーロー免許の剥奪》になるから…うっかり喋ったりしないようにね…」

 

 突然語られた自殺教祖の発言をしたヒーローの判明だけでなく、それが世間に知られようものなら自分達はヒーローでなくなるという宣告を告げられた!

 

「言うまでもないと思うけど、ヒーロー協会なら《トップヒーローであるオールマイトのミス》と《その辺のプロヒーローのミス》なら、どちらを優先する隠そうとすると思う?そんなの君達なら分かるだろ?」

 

 どっちを隠蔽したいかって…そんなの《オールマイトのミス》に決まってる…もし公になれば今の社会が崩壊する恐れだって考えられるからだ。

 

 いや、そんなことより!私は止めどない罪悪感に襲われた!

 

 誰もが憧れる現No.1ヒーローから『ヒーローになれない』と言われる…夢を否定される…いったいその少年がどれだけ絶望したことか…

 私だってオールマイトや《あの人》に夢を否定させたなら、落ち込むどころではない…

 

「それとシンリンカムイ、君はさっき『その子が誰かは知りません』って言ってたけど…それは間違ってるよ……少なくとも君とデスデゴロの2人は面識がある筈さ」

 

「え…?」

 

「お、俺も…?」

 

「そうさ、君達はその《無個性の少年》に会っている。ヘドロ事件が解決したあとに怒鳴りつけて叱っていたことをもう忘れたのかい?」

 

「「ッ!!!!?」」

 

 根津校長から畳み掛けるように告げられた言葉が何をしてしているのか…

 

 根津校長が我々に対して向けている《怒りの正体》…

 

 それをようやく理解した…

 

 私とデスデゴロ以外のヒーロー達も把握してようだ…

 

 あの事件で私が怒鳴りつけ叱りつけた少年は1人しかいない!

 

 ヘドロヴィラン事件の時に人混みから飛び出してきたあの緑髪の少年を!

 

「ようやく思い出したかい?…そうだよ…無個性故に虐められ…オールマイトから夢を否定され…君達の情けないヒーロー活動に失望されながらも…イジメっ子の主犯である《爆豪勝己》君を助けようと飛び出した緑髪の少年…《緑谷出久》のことだよ!」

 

 呆れた態度をとりながら根津校長が宣言した少年の名前…《緑谷出久》の名前は私の心へ突き刺さった…

 

「ねぇ君達…ヘドロヴィラン事件の時に何をしてたんだい…?」

 

『っ!!?』ゾッ!

 

 さっきと同じ質問だというのに!今度はただならぬプレッシャーが私達を襲った!

 

 

 

 一般人の避難…?

 

 消火活動…?

 

 個性の相性が悪いから被害者に耐えてもらう…?

 

 自分が助けられないなら誰がに任せればいい…?

 

 

 

 私達はさっき何を言った!!?

 

 あの時、我々がなにもしない中でその少年は………緑谷君は自分を虐めていた同級生を助けようとした!

 

 しかし我々がしたことはなんだ……

 

 緑谷君は《無個性》だったにも関わらず飛び出した……《無謀》と言ったらそれだけだろう……

 緑谷君は《ヒーロー》じゃなかった…だが私達はどうだ!?私達は《ヒーロー》なのに!何かと理由や言い訳をして、苦しんでいた被害者を助けようとしなかった!!……《ヒーロー》なのに……

 あの時……私なんかより緑谷君の方がどれだけ《ヒーロー》であったことを痛感させられる…

 

 そして…事情知らなかったとはいえ…私は心が既にボロボロだった緑谷君を叱りつけ追い詰めた!

 

「答えられないのかい…?…《シンリンカムイ》…《Mt.レディ》…《デスデゴロ》…」

 

「「「………」」」

 

「さっき自分達が口から出した言葉…忘れてないよねぇ…」

 

「ッ!?…そ、それは…」

 

「わ、私…そんな…つもりは…」

 

「俺は……俺は……」

 

「君達はヒーローとして《間違ったことはしていない》と断言できるんだろ?緑谷君の心が弱かっただけで自分には《関係ない》んだろ?オールマイトに夢を否定されたくらいで自殺を図るのは、愚か者のすることで《仕方ない》ことなんだろ?」

 

 根津校長から追い討ちの発言に…私達は心が締め付けられていった…

 

「君達からすれば緑谷君のことは『知らなかった』で済むだろうけど…

彼はそうはいかない…

君達は《ヒーロー》という存在を侮辱し…

《ヒーローの基礎》すら忘れている………

君達さぁ……舐めてるのかい…《ヒーロー》を?」

 

『!!!!???』ゾワッ!!!

 

 根津校長から今までにない恐ろしいプレッシャーによって皆(根津校長とイレイザーヘッド以外)が呼吸がしづらくなった!

 

 

 

 根津校長は…緑谷出久君がどんな人生を送ってきたのか…警察が今の段階で調べあげた情報をたんたんと語り始め…私達はそれを黙って聞くことしか出来なかった…

 

 その中で…私が…いや……私達の心に一番響いて痛くなったのは…緑谷君がビルから飛び降りる前に記したとされる《最後のページ以外が黒く塗り潰され表示が焦げたヒーローノート》だった…

 個性がある世界だ……塗りつぶされたページに《誰が塗り潰したのか…》《何が書いてあったのか…》などは簡単には簡単分かる…

 

 イレイザーヘッドが正面のスクリーンを稼働させ、そのノートの表示が大きく写し出された…

 

 ページを塗り潰したのは誰でもない…《緑谷君》本人…

 

 そして復元されてページに書いてあった内容…それは…《私達のこと》だった………そう…そのノートには《ヒーローとしての私達の特徴や個性など》の詳細が記されていた……それだけ私達に憧れていたと言うことだ…

 そのノートの中で…《1面黒く塗り潰されたページ》には事件の当日に書かれたとされる《オールマイトのサイン》が記されていた…

 

 つまり…それが全て黒く塗り潰されているということは…どういうことなのか…

 ここまで聞いて分からない人間はここにはいない…

 

「…彼が《君達へ向けた最後のメッセージ》……飛び降りる前にいったい《どんな気持ち》だったか…理解できたかい?」

 

『………』

 

「幼馴染みや同級生に夢を貶され笑われ…教師には差別され助けてもらえず…《平和の象徴》から夢を否定され…君達ような《助けを求める人を助けない…格好だけのヒーロー》に失望させられた挙げ句に…君達はそんな自分を棚にあげて彼のとった行為を全面的に否認して叱りつける始末………彼にとっては身を切られるより辛く…苦しい思いをしたんだよ…」

 

『………』

 

 私達は…何も答えることが出来ずに項垂れて落ち込んた…Mt.レディは涙を落としている…

 

「……はぁ…あの事件でも君達がとった行動も相性を考えるなら間違ってはいないよ…でもさ…君達は《プロヒーロー》なんだよ?本当にオールマイトが来るまで爆豪君を助ける術は何1つなかったのかい?今の君達は緑谷君と爆豪君へ『自分は《ヒーロー》だ』って胸を張って言えるのかい?」

 

 知らなかったとはいえ…私はそこまで追い詰められていた緑谷君の行動を全否定して叱りつけてしまった。只でさえイジメにあっていて…その日は昔馴染みのイジメっ子から自殺教唆の発言を言われて心が不安定になっていた…

 

 情けない話だ…あの事件で自分が何も出来ずにいた…大勢の人達が見ていたこともありヒーローとしての今の立場である信用を失いたくなくて…オールマイトがヘドロヴィランを倒してくれた後に私は緑谷君に怒鳴り叱った……

 …その時の私には私情が混じってた…要は緑谷君へ《八つ当たり》を交えて叱りつけたのだ…《ヒーローとしての私の面子》を守りたかったために…

 

 今思えば…大人げないことをした…

 

 彼の人生を聞いていくと…私の心は締め付けられた…

 

 私は…彼が自殺をする《最後の一押し》をしてしまったんだと……

 

 『《炎》系の相手なら、個性が《樹木》の私は何も出来ない』…誰がそんなことを決めた!?

 そんなの私が勝手に決めつけていただけじゃないか!!

 

 私達は取り返しのつかないことをしてしまった…

 緑谷君は搬送先の病院に偶然いたリカバリーガールによって一命をとりとめたが…未だに意識は戻らず眠り続けている…

 

 次々と判明していく事実に…私は頭が追い付かなかった!

 

「…こうして集まって話をしなくては…君達は自分を見直そうとはしないと思って呼んだのさ…最初に聞いた質問をもう一度させてもらうよ…

君達は…本当にヒーローなのかい?」

 

 2度目言われたその言葉が…大きくのしかかってきた…

 会議室に入る前までのシンリンカムイは…もういない…

 私は…《ヒーロー》ではない…

 

「…俺は…なんてことを…」

 

「…うぅ…」グズッ…

 

 デステゴロとMt.レディも他の奴等も私と同じことを考えたのか…デステゴロのように頭を抱えてうなだれる者もいれば……Mt.レディのように泣いている者もいた…

 

「(なにが《ヒーロー》だ……言い訳をして助けを求める声を蔑(ないがし)ろにし……我々よりもずっとヒーローに必要な志を持っていた少年の行為を全否定し……自分の身の安全が第一の私なんかに…《ヒーロー》である資格なんて…)」

 

「君達がどう思うかは自由だよ…でも僕は今回の件…《ヒーロー》としても《教育者》としても見過ごすことが出来なかったからこそ…君達に集まってもらったのさ…」

 

 根津校長とイレイザーヘッドは席をたち、扉へ向かった。

 

「…今の君達に…《ヒーロー》を名乗る資格はないよ…」

 

 根津校長が扉を開けて出ていく最中…我々に向けて言った言葉……

 

 その言葉はとても重かった…

 

 ヒーローの重圧というものを忘れていた我々に…重く…重く…押し潰すかのように重くのしかかった…

 

 根津校長とイレイザーヘッドが部屋を出ていったが…私も…誰もすぐには帰ろうとしなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●同時刻のヒーロー協会…(警察署で根津とヒーロー達による午後の会議終了時…)

 

 

オールマイト side

 

「何故です!?何故謝罪会見で《私と緑谷少年にあったこと》を話してはいけないんですか!!?」

 

 私はヒーロー協会から呼び出しを受けて、ヒーロー協会本部へやって来ていた。

 そして今、私は後日に予定させれいる例の事件の謝罪会見の出席について言い争っていた。

 

「(緑谷少年を自殺に追い込んでしまった私も会見に出るべきだというのに、ヒーロー協会は私の出席を禁じた!納得がいかず、私はここへ来た!長い説得の末に、なんとか謝罪会見に出席させてもらい《ヘドロヴィラン事件の発端》について語ることは許してもらえたが、もう1つ…私が緑谷少年に言ってしまった《失言(自殺教唆)》については語ることを断固禁じられてしまっているのだ!)」

 

「オールマイト、君が自殺を図った少年に対して何をしたのかは塚内君から聞いた。それは承知しているよ」

 

「なら私が世間に真実の全てを語ることは当然ではないですか!?」

 

「それは絶対に許可できない」

 

「何故です!?」

 

 私は私は目の前にいる協会の人達が口にする言葉を理解できなかった!私が彼に……緑谷少年にかける言葉を間違えてしまった……彼の人生を滅茶苦茶にしてしまったんだ!!…私には償わなければならない罪と責任があるんだ!!!

 

「オールマイト…それは君1人の意見だ…君がヒーローとして誠心誠意を現したいと思う気持ちは分かる…」

 

「ならば!?」

 

「だがねぇオールマイト…それで君は少しでも《罪の意識》から解放されるかもしれんが……君がその真実を話してしまった《あとのこと》を考えているのか?」

 

「あとのこと?」

 

「そうだ…現No.1ヒーローである君が子供の夢を…ましてや《無個性の子供の夢》を否定したなどという事実が世間に知られようものなら、君とヒーロー達の《信頼の欠落》だけでない……同時に《ヴィランの活性化》に繋がってしまう恐れがあるのだよ」

 

「なっ!?…そ…それは…私が責任をもって《ヴィランの活性》を抑えます!」

 

「はぁ…あのねぇオールマイト…《ランキングが下のヒーローが非を認めること》と《No.1ヒーローが非を認めること》ではまるで違うんだ。君は今や日本だけでなく世界中の人々から期待されている、そんな君の失態を1つでも世間に漏らすことがどれだけの人々を不安にさせると思ってるんだ。この日本でヴィランによる犯罪発生率が低いのは君という精神的な支柱があるからだ」

 

「では!私はその少年に《謝罪》もなにもするなと言うのですか!!?」

 

「いい加減にしろオールマイト!!君が後先考えずにベラベラと真実を話したところでなんの解決にもなりわしない!世間は君をただ《無個性の差別者》としかとらえないんだぞ!!そうなれば《平和の象徴》も《No.1ヒーロー》も関係ない!!君は……いやヒーロー全体の信用が失われるんだぞ!!!」

 

「そうなるとしても私は!!!」

 

 私はその後も自分の意見をヒーロー協会へぶつけた!

 

 だが…どんなに説得してもヒーロー協会は首を縦にはふってくれることはなかった…

 

 結局…私は根負けし《緑谷少年との会話》だけは話すことを禁じられた…当然許可なく外部へ話すことも禁止された…

 

「オールマイト、今日は帰ってこれからのことを考えていてくれ。私達は記者会見のための準備があるのでな」

 

 部屋を出る際に役員からそう言われ…私はヒーロー協会を出た…

 

「どうして…分かってくれないんだ…私は許されないことを言ってしまったのに…」

 

 

 

[デンワガキター!デンワガキター!デンワガキター!]

 

 

 

 ヒーロー協会から出た途端に、タイミング良くスマホが鳴った!

 

 忘れてた………ヒーロー協会との長い会議で完全に頭から抜けていた………昨日根津校長が言っていたこと………《先生》からの電話!!!

 

「お…おおおおおおおおお落ち!落ち!落ち着つつつつつつつけ!!オールマイトよ!!これは私が受けるべき制裁なのだ!!!」ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ

 

 足を震わせながらも急いで人目につかない近くの路地裏へと移動し…スマホをポケットから取り出そうとするが…

 

「おっおおおおおおおお大人しくしてくれ私の腕ぇえええ!!ち…畜生!ポッポポポポポポポポケットに手が入らねぇ!!?畜生!!!」ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ

 

[デンワガキター!デンワガキター!デンワガキター!]

 

 足だけでなく手まで震えすぎるせいで、ポケットからスマホを取り出すだけでも一苦労だった!おまけに自分の声をモチーフにした着信が余計に焦らせれた!

 

「大丈夫だ…大丈夫…《先生》ならきっと…私の心境を理解してくれ……………る…」ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ…ガタガタガタ……ガタガタ………ガタ…

 

 苦戦しながらもスマホを見た私は一瞬思考がとんだ…スマホの画面に記されたのは《名前》を見て…私の震えは少しずつ止まっていった…

 

 何故なら…その着信相手の名が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《サー・ナイトアイ》

 

 

 

 もう何年も会ってなければ…連絡もとっていない…私のサイドキックであり…デイヴに匹敵する程の相棒である《ナイトアイ》からの電話だった…

 

 何故今になって……そんな考えたが頭をよぎったが…ずっと鳴り続ける着信音に…これ以上待たせるわけにはいかないと思い…私は電話に出た…

 

「あ…えっと…も…もしもし…」

 

『お久しぶりです、オールマイト』

 

 久しぶりに聞く懐かしい声…

 

 5年前まで近くで聞くのが当たり前だった声だ…

 

 だが…彼が昔話をしたくて電話を掛けてきた訳ではないようだ…

 

 電話から聞こえてきた第一声だけで分かる…

 

 ナイトアイの機嫌が悪いことに…

 

「ナイトアイ…本当に…久しぶりだねぇ…」

 

『えぇ…あの日からもう5年近く経っていますからね…』

 

「…その…ナイトアイ…こんな聞き方は失礼だと思うが…何故私に連絡してきたんだい?あの日から1度だって連絡してもらってないんだが………まさか…」

 

『そのまさかです。アナタの《先生》から私の元へ連絡があり、話合いの末に私がアナタを説得することになりました…』

 

「(先生……ナイトアイに何を言ったのですか…)…話を聞いているなら分かるだろナイトアイ…私は…例の《無個性》の少年に《ワン・フォー・オール》受け継がせようと思っているんだ」

 

『…アナタは……アナタは!自分が何を言っているのか!!本当に理解しているのか!?』

 

「…ゴッホ……あぁ…十分理解しているよ」

 

『分かっていない!オールマイト!アナタがやろうとしていることは!ただの自己満足だ!』

 

 《自己満足》か…いつかは言われる言葉だと思ってたが……まさかナイトアイに言われるとはな…

 

「私は…彼の…緑谷少年の夢を壊した挙げ句に…自殺に追いやる《最後の一押し》をしてしまったんだ………もし…彼の意識が戻ってくれるのならば…私は残りの生涯の全てを彼の育成に」

 

『それがその少年に対するアナタの《贖罪(しょくざい)》のつもりなのか!?《罪滅ぼし》のつもりなのか!?《詫び》のつもりなのか!?自分を死に追い詰めた人間からの《個性》も《指導》もいる訳ないだろ!それが《現No.1ヒーロー》だろうと!!』

 

「ナイトアイ…私は彼にかける言葉を間違えてしまったんだ…。私は《ヒーロー》以前に《大人》だ…自分の口から出した言葉には責任を持たなくてはいけない…」

 

『アナタがその少年に言ったことは間違ってなどいない!その少年のことを思い、アナタなりに出した最善の答えだ!』

 

「でも…未来ある子供の《夢》を…《未来》を奪ったのは…誰でもない…この私なんだ…」

 

『アナタがその少年に対して謝罪の気持ちがあるというのなら!それはアナタが《No.1ヒーロー》として!《あの人》同様に《伝説》のまま安心して引退できるように、新たなる《平和の象徴》を見つけだすことだ!アナタの《意思》と《個性》を受け継ぐに相応しい逸材は他にもいる!』

 

「…私は…彼の中に《真のヒーローに必要なもの》を見たんだ…だから私は彼を…」

 

『『無個性はヒーローになれない』などと言っておきながら、手の平を返すように『君はヒーローになれる』と言って《ワン・フォー・オール》を受け継がせるなんて考えは間違ってる!!あの時、私が言ってたことを忘れたのか!アナタの身体は…もう…』

 

「……忘れてなどいないさ…」

 

『なら尚更!その少年ではなく!他の後継者を探して見つけるべきだ!その子にまた辛い思いをさせるつもりか!その少年がアナタの背負っている《重み》を受け止められるとは思えない!アナタを必要としている人は星の数ほどいる!オールマイト!アナタの利に叶う後継者は必ずいる!!!』

 

 冷静沈着のナイトアイがここまで熱くなるなんて…喧嘩別れしたあの日以来だろうか…

 

「緑谷少年は!未来に必要なヒーローなんだ!この先、どれだけ恐ろしいヴィランが現れたとしても《彼》ならば乗り越えて!多くの人々の未来を守ってくれる!…分かってくれ…ナイトアイ…」

 

『……………分からない…』

 

「ナイトアイ?」

 

『…分かりたくない!!!』

 

(ツーツーツーツーツーツー)

 

「…ナイト…アイ…」

 

 本当に久しぶりだというのに…結局また喧嘩してしまった…

 5年前と同じだ……緑谷少年の《心の叫び》だけじゃない……ナイトアイの《優しさ》を私は蔑(ないがし)ろにした…

 ナイトアイから言われた《最後の警告》を振り切ってまで、ヒーローを続けているというのに…私は彼と別れたあの時から本当に何も変われていないんだな…

 

 

 

 そんな気持ちになりながらも…私は根津校長が待つ警察署へと足を運んだ。

 警察署に着き、会って早々に根津校長は私がヒーロー協会にて何があったのかを全て見抜いていた!

 

「(そんなに私は分かりやすい人間なんだろうか?)」

 

 …と内心ではまったく自覚がない私だが、そんなことよりも根津校長が今日警察署で教育委員会とヒーロー協会を交えて決めたという《折寺中の教師達と生徒達への厳罰内容》を聞いた…

 

 最初に言われた《折寺中の教師達》が受ける厳罰が余りにも軽い内容で納得がいかなかった…(そんな私の考えも根津校長に見抜かれた…)

 

 そして《折寺中の3年生達》が受ける厳罰は…

 

「話し合いの結果、彼らに対しての罰は《緑谷出久君が幼少の頃から参加していたという奉仕活動を条件付きで1ヶ月間参加してもらうこと》さ」

 

 根津校長から告げられた《爆豪少年達3年生》が受ける厳罰の内容を聞いた私は、まず緑谷少年が幼い頃から地域貢献を当たり前のようにしていたことに感動した…だが同時にそんな緑谷少年をイジメ続けてきた《爆豪少年達》に下された厳罰がさっきの《教師達》よりも物凄く軽すぎることに私はまったく理解出来なかった!

 根津校長は彼らに《自分達の罪の重さと過ち》を理解させるためにと、説明してくれていたが…それでも私は『いくらなんでも、それは罰として甘すぎるんじゃないですか』と抗議しそうになった……が…きっと根津校長には深い考えがあるのだと思い口には出さなかった。

 その読み通り、根津校長から語られた《彼らへの甘過ぎる罰の真意》を聞かされて、この罰は決して《軽い罰》ではなく…彼らが一生背負っていかなければならない《物凄く重い罰》であることを理解させられた。

 

「いいかいオールマイト、この罰の《真意》は《今の彼ら》よりも《未来の彼ら》に対しての重い罰なのさ。さっきも言ったけど《自分達の罪の重さと過ち》…それを彼らに身体と心で体験してもらうには《奉仕活動》はうってつけなのさ、それこそ緑谷出久君が参加していたとなれば尚更ね。緑谷君の人柄を知る者達からすれば、爆豪君達は《完全な悪》だからねぇ。最初の日こそ気づかず理解しない生徒もいるだろうね…例の爆豪君みたいにさ。でもそんな彼だって…今まで当たり前だった《日常》や《待遇》が大きく変われば分かる筈だよ…もう《自分の世界》は元に戻らないってことを……彼だけじゃなく他の生徒達も…《自分達が思い描いていた未来》にはもう到達すること決してが出来ないのさ…。今まで《無個性の緑谷君》にしていたことが自分達へ《大き過ぎる枷》となって返ってくるんだからね…」

 

 根津校長が説明してしてくれた《奉仕活動の真意》……全貌を聞き終えた私は…今度は逆に《重い過ぎる罰》なのでないかと先程までとは180度違う考えになっていた……そんな単純で馬鹿な自分が嫌になる…

 《当然の報い》…そう思えばコレは彼らにとっては最適な罰なのだと理解した。

 

 

 余談だが《先生》はこちらへは来なくなったらしい…本来なら安堵することなのだが……あんなに怖がっていた私が…今は《先生》とゆっくり昔話をしたいと思っていた…

 

 

 その後は根津校長へ私も《奉仕活動》へ参加したいと説得するが直ぐに打ち負かされた……だがそれでも粘り続けて…なんとか私も(条件付きで)奉仕活動へ参加させてもらえるようになった。

 

 

 

 警察署から出た私は例の無人ビルへ足を運んでいた…屋上へ登り…あの日(2日前)…緑谷少年が見ていた景色を眺めながら……彼が味わった《苦しみ》と《恐怖》を思い浮かべ…私は私自身を責めた…

 

「緑谷少年…君はここで…いったい何を思っていたんだい?」

 

 私はこれから起こる現実受け止めていかなければならない…このヒーロー社会は大きく変わってしまうかもしれない…そんな《恐怖》を感じながら…私は屋上からの景色を眺めていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●4日前~1日前(ヘドロ事件から3日目~6日目)

 

 

None side

 

 前日の警察署とヒーロー協会にて、それぞれ精神的に参り…自分達の立場を深く見直したヒーロー達(オールマイトやシンリンカムイ達)は後日の夕方に、生放送で《ヘドロ事件関係者のヒーロー5名による謝罪会見》の会場へ来ていた。

 

 言うまでもないがオールマイトが謝罪会見に出席することで多くのマスコミとメディアが集まり、日本だけでなく世界的に報道される謝罪会見になっていた。

 オールマイト、シンリンカムイ、デスデゴロ、Mt.レディ、バッグドラフトの5名から語られたのは《ヘドロヴィラン事件の詳細》だけじゃない…《事件の発端》《ヒーロー達の対応》《現場での活動と発言》…その全てを彼らは嘘偽りなく答えた…勿論《爆豪勝己》と《緑谷出久》の名前は伏せてだ…

 そして…そのいずれもが結果的に何を示すのか………それは《ヒーローの不甲斐無さ》と《ヒーローとしての自覚の無さ》だった…

 

 後日…当然のことながら彼ら(オールマイト含めたヘドロヴィラン事件のヒーロー達)は世間から大きくバッシングを受けた…

 オマケに同日同時刻に行われた《折寺中の教師達の謝罪会見》を含めて、《爆豪勝己が大怪我をして病院に運ばれる》という速報もあって世間もネットも騒ぎになった。

 更に、未だに犯人は特定させていないが《エンデヴァーの家庭事情》をこの最悪のタイミングでネットに拡散した者がいたことによって《エンデヴァー》だけでなく《家庭を持つヒーロー全員》に被害が出始め、オールマイトが恐れていた《ヒーロー社会の変化》が起ころうとしていた。

 だというのに、更に事態を悪化させるかように後日に立て続けで、今度は《ビルから飛び降り自殺を図った折寺中の無個性の生徒が、とあるヒーローから『無個性はヒーローにはなれない』などという自殺教祖を言われていた事実》と《爆豪勝己を含めた個性を持つ折寺中3年生達の個人情報》までもがネットに拡散されたことで、世間のあちこちで大騒ぎやパニックが起きてしまった…

 

 事態の鎮圧のためヒーロー協会だけでなく警察までも大々的に動くことになった…

 要はヒーローだけでは人手が足りなくなったため警察に協力を求めたのだ。

 ヒーローの活躍によって今では《ヴィランの受け取り係》などと言われている警察だが、今回の事態へ大きく貢献したこともあり世間は《警察》の見方を改めていた。

 だが逆に…《ヒーロー》達は世間から冷たい風に晒されて立場が危うくなり、オールマイト達の謝罪会見から僅か2日で何十人ものヒーロー達が同時に引退してしまった……その中には今年デビューしたばかりの新人ヒーローもいたという…

 

 そんな辛い現実をオールマイトやシンリンカムイ達は全て受け止めながら日々を過ごしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●今日(ヘドロ事件から1週間後…)

 

 

 根津に無理を言って奉仕活動へ参加させてもらっていたオールマイト。《本当の姿(トゥルーフォーム)でのみの参加》と《正体を知られてはいけないこと》を条件に時間があるときだけの参加を許してもらっていた。

 そんなオールマイトは今日の奉仕活動後に、自分のミスによって今や世間に悪い意味で名が広まった《爆豪勝己》と公園で先程まで話していた…当然ながら自分がオールマイトであることを隠して…

 

 しかし…話の途中で爆豪が走り去ってしまった…

 

 公園に1人残されたオールマイトは…爆豪から聞き出した《緑谷出久と爆豪勝己の過去》を知ってショックを受けていた…

 

 今やネットの至るところに書かれている爆豪の異常とまで言える《自分主義者のイカれた行動の数々》と《10年間に及(およ)ぶ無個性(出久)に対するイジメ》………

 そのほとんどが《出任せ》ではなく…ほぼ《事実》であったことにも衝撃を受けていた…

 張本人から聞いたのだから余計にショックが大きかった…

 

 

 

『来世は個性が宿ると信じて屋上からワンチャンダイブしろ!』

 

 明らかな無個性差別…

 

 明らかな殺意…

 

 明らかな自殺教唆…

 

 

 

 まだ学生だから……

 

 まだ子供だから……

 

 強力な個性を持っているから……

 

 雄英に入れる優秀な人材だから……

 

 そんなことなどで済まされることでは断じてない!

 

 

 

 爆豪勝己本人から真実を聞いたオールマイトは、爆豪が今も受けている《辛さ》や《苦しみ》は『当然の報いだ!』と思っている…

 

「(緑谷少年……君はあの日……爆豪少年に学校でそんな酷いことを言われた上で…私から夢を否定されたんだね……)」

 

 オールマイトはベンチに座りながら両手を組み額につけながら項垂れていた…

 1週間前の出久の立場を思いながら…

 

「(なのに君は!君の心はもうズタボロたったというのに!それでも爆豪少年を助けようとあの時飛び出した!………本当に素晴らしいよ緑谷少年!!!君はあの場にいたヒーロー達よりも……いや!こんな私よりも《真のヒーロー》だった!あの時の君の《ヒーローになりたいという思い》は…世界広しと言えど誰も上回ることはなかった筈だ!!!)」

 

 出久があの時のとった行動は無謀だったかもしれない…命を粗末にする行動だったかもしれない…

 だが少なくともオールマイトだけは…出久を大きく評価し尊敬していた………でも…

 

「(それなのに………私は………私は君の………夢を踏みにじった………心を傷つけた………助けを求める君の手を払い除けてしまった!)」

 

 オールマイトは深く後悔した…人々の笑顔を守るためにヒーローになったというのに………1週間前に初めて会ったあの時に、すぐ傍で助けを求めていた出久を助けようとしなかった…結果的に出久は自分ではもう手の届かない遠くへと行ってしまった……どんなに悔やんでも悔やみきれない…

 

「(もし…時が戻ってくれるのなら……私は……あんな失言を君に言った《あの時の私》を…《ユナイテッド・ステイリアス・オブ・スマッシュ》で殺してやりたいよ!!!)」

 

 オールマイトは己自身をこの世から消しても構わないという程までに自分を追い込んでいた……

 

 しかし、どんなに願っても過去を変えることはできない………

 

 自分が師匠を救えなかったように…

 

「(頼む…緑谷少年…目を覚ましてくれ…起きてくれ………今更謝るなんて遅いのは分かってる…………君にとって私はもう迷惑な存在でしかないだろう………)」

 

 オールマイトは出久へどんな謝罪をすればいいのかをずっと悩みに悩んでいた…

 自分の秘密を知る者達へ『どうすればいいのか』を聞いてみれば、自分の意見は真っ向から全否定され、その末に皆が《出久には2度と関わるな》と言われてしまう………

 彼らがどうして自分の意見を否定するのかはオールマイトだって内心分かっていた…《本当に出久へ謝罪をしたいのなら、これ以上出久を苦しませることをするな》と言っていることに…

 そんなことは《百も承知》だった…その上でオールマイトは自分なりの答えを出した!

 

「(だから!せめてもの《償い》をさせてくれ緑谷少年!君が目を覚ましてくれたなら、面と向かって誠心誠意で君に謝罪する!許してもらわなくたっていい!恨んでくれたって構わない!だがその上で私からの《お願い》を聞いてくれ!私の残りの人生の全てをかけて、君を《ヒーロー》にさせてくれ!!!私のような《偽物》じゃない…君という《真のヒーロー》を私に育てさせてくれ!!!)」

 

 これがオールマイトが導きだした答えである…

 

 

 

 そして…

 

「(緑谷少年!私がお師匠より授かったこの個性《ワン・フォー・オール》を受け取ってくれ!新たなる《平和の象徴》は…君なんだ!!!……それしか…もう私に出来ることはないんだ………君が目覚めてくれるまで私は何年でも何十年で待つよ!ナイトアイが言っていた《私の運命》なんて乗り越えて生き続けてみせる!!!)」

 

 オールマイトの考えは変わらなかった…長きにわたり受け継がれてきた《ワン・フォー・オール》…それを受け継がせるに相応しい人材が出久であることに…

 

 

 

 

 

『アンタ…自分が何を言っているのか分かってんのかい!?またその子を追い詰めるって言うのかい!』

 

 

『後継者の件なら雄英高校(ウチ)でいくらでも探すといいのさ!』

 

 

『トシ…ナイトアイは君に安心して引退をしてもらい…ゆっくりして休んでほしいと願っている筈だ…僕はそう思っているよ』

 

 

『アナタがその少年に対して謝罪の気持ちがあるというのなら!それはアナタが《No.1ヒーロー》として《伝説》のまま安心して引退できるように、新たなる《平和の象徴》を見つけて育てることだ!アナタの《意思》と《個性》を受け継ぐに相応しい逸材は他にもいる!』

 

 

『俊典…お前……アイツを………奈菜を裏切るのか…』

 

 

 

 

 

 自分を支えてくれた人達からの言葉がオールマイトの心へ突き刺さる…でも…それでも…

 

「私は……私は…絶対に諦めない…緑谷少年……君が望まなくても…私は君に…《ワン・フォー・オール》を…《平和の象徴》を受け継いでほしい……君は私が認めた…私の人生における最初で最後の後継者であり、未来に必要とされる《ヒーロー》なんだ!!!」

 

 辺りが暗くなり…誰もいない公園でオールマイトはそう宣言した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし…オールマイトが何を言おうと…その声は出久には届かない…

 

 今の出久に…届いている声は…




 本当は8月中にここまで書き上げたかったのですが無理でした…

 ともあれ、一番大変だった《爆豪勝己の1週間》と《ヒーロー達の1週間》の所謂、今作の《前置き》が大方書けたので、今後はスムーズに書けるようにしたいですね。

 ここ数話は【うえきの法則】とあんまり関連なしに進んでますが、次の話では【うえきの法則】要素が含まれておりますので、次の投稿をお待ちください。

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