緑谷出久の法則   作:神G

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 大変長らくお待たせさせてしまい申し訳ありませんでした…

 今回の話でいよいよ出久君が目を覚まします。

 11月ギリギリになんとか3つ目も投稿できました。


別れと目覚めと……の法則

●ヘドロ事件 及び 無個性の中学生の飛び降り自殺未遂から1ヶ月後の病院…

 

 

None side

 

 緑谷出久の母《緑谷引子》は、今日も息子の介抱をしていた…

 

 事件から早1ヶ月…

 

 出久の意識は未だ戻らない…

 

 包帯はとれたものの…医療ベットで今も眠り続けている…

 

「出久…今日は何の話をしましょうか…」

 

「………」

 

 引子は毎日欠かさずに息子へ語りかけていた…

 

「ずっと辛い思いをしてたのよね…痛かったわよね…出久…気づいてあげられなくて…ゴメンね…」

 

「………」

 

 1ヶ月前の手術で判明した事実…息子の身体中にあった痣や火傷の跡…

 それは《無個性》だと診断されてからの10年間…息子があげていた《悲鳴》に気づくことが出来なかった《自分の罪》なんだと…引子は自分を許せないでいた…

 

「出久…あなたは優しい子だから…お母さんに心配をかけたくなかったの?それとも…《あの時》のお母さんの言葉を聞いて…お母さんのことを信用できなくなっちゃった?」

 

 10年前…出久が個性検査で《無個性》と診断されたあの日…家に帰宅後、部屋を暗くしてパソコンでオールマイトの動画を涙を流しながら見ていた息子の姿が、今でも引子は記憶に深く刻み込まれ忘れることができなかった…

 

『ちょう…かっこいい…ヒーローに……なれるかなぁ…』

 

 大粒の涙を浮かべて無理に笑う息子から問われた。…悲しく…切なく…辛い質問に引子はただ謝ることしか出来なかった…

 …怖かったのだ…『どうして無個性に産んだの!?』…そう言われるのが引子は怖かったのだ……出久がそんなこと言う子ではないのは母親の自分が1番分かっている筈なのに…

 …それなのに…あの時の自分は『ごめんね…ごめんね…』と謝り…小さな息子の身体を抱き締めてあげることしか出来なかった…

 

「………」

 

 引子は眠る出久の頭を撫でながら前髪を上げて《額の傷》に触れた…

 

「リカバリーガールさんが…日をおいて何度も怪我を治してくれたんだけど…《この傷》だけは治しきれなかったみたいなの…事件の時に出来たもので相当ひどいケガだったけど…ここまで傷跡を小さくなるまで治してくれたのよ…これなら前髪で十分隠せるわね…」

 

「………」

 

 リカバリーガールの個性によって出久は《古傷(身体中にあった痣や火傷)》と《事故による怪我で額に出来た傷跡》以外はすっかり完治していた…

 

「今朝…お父さんから電話があったわよ…今の仕事が一段落したら帰ってこれるって…出久…久しぶりにお父さんに会えるわよ…前に出久がお父さんに会えたのはいつだったかしら…?」

 

「………」

 

 生活費や学費は夫が工面してくれている、子育てを妻の引子へ任せきりの分…生活で苦労をしてほしくないと夫は生活資金をずっと送っている…

 

 

 

 引子は今日も何度も息子へ話しかける…

 

 しかし…

 

 愛する我が子は返事をしてくれない…

 

 

 

「…ねぇ…出久……お願いだから……目を覚まして……声を聞かせて……『お母さん』って…また呼んでよ……出久…」ウゥ…ウウ…グズ…グズ…

 

 引子は今日も泣き崩れた…

 

 毎日毎日眠り続ける息子にずっと語りかけ…

 

 ある程度話しかけると現実へと戻されて絶望する…

 

 この繰り返しが1ヶ月も続いていた…

 

 身体の傷は治っても出久本人の意識が回復する傾向がなく……命は助かっても意識が戻る可能性は数%……いかに名医のリカバリーガールでもこればかりはどうしようもない……出久本人の気力で目覚めるのを待つことしか出来ないのだ…

 

 引子はこの1ヶ月の間、着替えと洗濯で自宅に戻る以外は、片時も出久の側から離れずに介抱を続けていた…

 その間、引子はロクに食事をとろうとしない…病院の医者や看護師だけでなくリカバリーガールも引子を心配して必要最低限の栄養をとらせるようにはしているのが、引子は驚く程に痩せてしまい…1ヶ月前に病院へ駆け込んだ時とはまるで別人の姿へと変わり果ててしまった…

 病院の医師達も引子の体調を気づかって休ませようとしているのだが…

 息子を思う母親の行動が余りにも健気過ぎて無理に引き離すことなど出来なかった…

 

 

 

 息子の名を呼び続け…話かける母親…

 

 悲しきことに…その声は息子へは聞こえていなかった…

 

 今…出久の心に…聞こえている声は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●精神世界…

 

 

緑谷出久 side

 

「随分使いこなせてきたな!緑髪!」

 

「出会ったばかりの頃と比べるとまるで別人だぜ!モジャ髪!」

 

「はい!植木さんの御指導のおかげです!僕が【能力】と【神器】をここまでコントロール出来るようになったなんて!僕自身驚いてるんですから!……あと…緑谷ですよ……植木さん…ウールさん…」

 

 あれからどれくらいの時間が流れたんだろう…

 

 僕がこの世界に来てから結構な時間が経過した…

 

 因みに植木さんの足元にいる喋る子羊は《ウール》という名前で、どう見ても《羊》にしか見えないんだけど…本人いわく《犬》らしい…

 

 僕が初めて神器の【鉄(くろがね)】を使って大泣きしていた時、木の上で寝ていたみたいで僕の大泣きした声で目が覚めたらしい…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『騒がしいな…どうしたんだ植木?』

 

『おっウール、やっと起きたのか』

 

 植木さんから【能力】だけでなく【神器】まで受け継げたことに感激して大泣きし声にならない叫びをあげていると、さっきの木から突然声が聞こえてきた、僕と植木さんの他に誰かいるのかと目を向けると、木の上から《小さな羊》が降りてきた。

 

『羊?』

 

『いや緑髪、コイツは《羊》じゃなくて《犬》だ』

 

『い…犬?いや植木さん…どう見ても僕には羊にしか…』

 

『緑髪の兄ちゃん…あっ植木も緑髪だから紛らわしいなぁ、え~っと…じゃあモジャ髪の兄ちゃん、植木の言う通りで俺は《犬》だ!名前は《ウール》!よろしくな!』

 

『えっと…僕は緑谷出久です、はじめましてウールさん』

 

 ウールと名乗る犬(?)は2足歩行で僕の前にやって来たので、僕は屈(かが)んでウールの右手(前足?)を右手で握り握手をした。

 

 動物が2足歩行で歩き、人間の言葉を話していたら常識では驚くことだろうけど、僕のいた世界では人だけでなく動物にも《個性》が宿ることがあるため、別に珍しいことじゃないから動揺も驚きもしない。

 どっちかというと《羊》の見た目で《犬》だと言うことへの《疑問》と、動物のウールさんに《モジャ髪》と呼ばれることへの《違和感》はあったけども…

 

『んで植木、なんでコイツは《ここ》にいるんだ?』

 

『あぁ…それがな』

 

 植木さんは一旦【神器】のことは置いといて、僕がさっきの植木さんに話した内容をウールさんへ話し始めた。所々うろ覚えだったところは僕が補足をいれながら説明をした。

 

『…って訳なんだよ、ウール』

 

 植木さんか一通りの説明を終えた…黙り込んでいたウールさんはというと…

 

『…うぅ…うう……ぐっ…うおぅ……』グズグズ

 

 涙腺が崩壊したかのように泣いていた!

 

『お前……お前……本当に強ぇ奴なんだなぁモジャ髪。そんな散々な人生を10年も耐えて…苦労したんだなぁお前…頑張ったったんだな…偉いぜモジャ髪……植木以外にもこんな良い奴がまだいたんだなぁ……植木の言う通り!お前はスゲェ強い奴だよ!モジャ髪!』

 

『あははは…ありがとうございますウールさん、あと…緑谷です…』

 

 どうやらウールさんは涙脆いタイプのようで、《僕が無個性として過ごしてきた日々》を聞いて同情してくれている様子だった。

 

『うっし!じゃあ【神器】の続きだな!お前が【どれ】まで使えるか調べてさ!俺が知ってる限りの【ゴミを木に変える能力(ちから)】と【神器】の使い方を教えてやるよ!緑髪!』

 

『俺もアシスト出来ることはなんでもやるぜ!いつお前が元の世界に帰っちまうか分からねぇからな!気合い入れろよ!モジャ髪!』

 

『植木さん…ウールさん………はい!!僕、頑張ります!!!………それと…僕は緑谷です…』

 

 それから僕と植木さんとウールさんの3人(?)による《僕の【能力】と【神器】の特訓の日々》が始まった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな2人との出会いから…かなりの時間……1年は経過してないと思うけど、感覚的には300日程度の日数と時間が経過したように僕は感じている…

 

 それだけの時間が経過しながらも、僕は植木さんとウールさんに『ここが何処なのか』という質問だけをする気には何故かなれなかった…

 この場所に来てから…疲れて眠くなることはあれど…髪や爪は伸びないし…お腹は空かない…トイレに行きたいとも思わない…不思議な場所だ…

 

 その間に…僕は自分でも変わったと実感している。(主に癖が…)

 特訓を始める前の僕は、考え事をする時にブツブツと小言を言いながら考察する癖があったけど、今は口元に右手を添えて目を瞑り無言で考えるようになった。

 それにノートも書く物もないためか、いつの間にか脳内で記憶することが当たり前になっていた。

 

 そんな自分の変化をよそに、僕は植木さんから貰った【ゴミを木に変える能力】と【神器】の詳細や使い方を教えてもらいながら植木さんの指導の元で特訓に励んでいた!

 

 

 

 

 

 まず【ゴミを木に変える能力】については《手に握り込めるサイズのゴミ》で《僕がゴミだと判断する物》ならば【木】へと変換することが出来る。

 出現させる《木の種類》や《材質》等は僕が頭の中でイメージした【木】となり、《大きさ》や《形状》もイメージすることで自由な木々を出せるようになれた。

 ただし《一般の大きさの木》ならば消えることは無いけど、《必要以上に大きすぎる木》や《複雑な形状の木》等は数十秒後には消滅してしまう。

 ゆっくりと時間をかけて創り出した《木》ならば《どんな形の木》でも消滅することはなく存在し続ける。

 覚えたての頃こそ、《大樹》や《複雑な形状の木》を創り出してもあっという間に消えてしまったが、今では瞬時に創り出しても数分単位で維持することが出来るようになった。

 

 

 

 

 

 次に【神器】については、当所こそ僕は【二ツ星の神器】までしか使えないと思っていた。

 でも植木さんから『もしかしたら他の神器も使えるんじゃねぇか?』という言葉を聞き入れ、植木さんが【三ツ星の神器】を見せてくれた際に僕も真似してやってみたら……僕も【三ツ星の神器】を出せたのだから自分でも驚いた!!?

 

 

 

 その後も試してみると、僕は【六ツ星】までの【神器】を使うことが出来たのだ!!!

 

 

 

 でも【七ツ星の神器】の時点で、会得する条件の詳細を聞いて何度も試してみたけど、植木さんのように地面に【黄緑色の升目(ますめ)】の出現は、僕にはどうやっても出来ず…今の僕は《天界人》で言うところの【六ツ星】であることが判明した。

 

 

 

 そして植木さんは自分が知ってる限りの神器の詳細も教えてくれた。

 

 

 

【一ツ星神器・鉄(くろがね)】は《鉄(てつ)》と書いて【くろがね】という名前、ねじれ重なった木を支えとして木の砲丸を発射する《巨大な大砲》。

 

 

 

【二ツ星神器・威風堂堂(フード)】は《威風堂堂(いふうどうどう)》と書いて【フード】という名前、地面を割って出現する《腕の形をした巨大な盾》。

 

 

 

【三ツ星神器・快刀乱麻(ランマ)】は《快刀乱麻(かいとうらんま)》と書いて【ランマ】という名前、日本刀のような鋭い刃(やいば)の《巨大な剣》。

 

 

 

【四ツ星神器・唯我独尊(マッシュ)】は《唯我独尊(ゆいがどくそん)》と書いて【マッシュ】という名前、昔のロボットの頭部をイメージさせる正四角形の巨大な赤い顔で、その大きな口で相手を挟み込み、強力な圧縮力で相手の身動きを封じたり気絶させたりできる《四角い生物》。

 

 

 

【五ツ星神器・百鬼夜行(ピック)】は《百鬼夜行(ひゃっきやこう)》と書いて【ピック】という名前、踏み切りを連想させる黄色と黒の正四角形の巨大なブロックが猛スピードで交互に伸びていき、【鉄(くろがね)】以上の威力で強烈な一撃を喰らわせる《突きの武器》。

 

 

 

【六ツ星神器・電光石火(ライカ)】は《電光石火(でんこうせっか)》と書いて【ライカ】という名前、この神器だけは巨大という訳ではなく両足に出現する木をデザインとした《高速移動ができるスケーター》。

 僕の知る限りでは《ターボヒーロー・インゲニウム》並のスピードを出せる神器なのだが、コレを使っている間はジャンプすることが出来ないため《地形の悪い場所》や《障害物が多い場所》での活用は難しいみたいだ。

 

 

 

 どの神器も手にゴミが有れば出現させることができる。

 

 神器の名称は漢字や四字熟語の読み方を変えたり区切ったりした名前になっていた。

 

 植木さんとの特訓において、最初こそ僕の神器の【鉄】から【百鬼夜行】の5つは、植木さんの神器より《大きさ》が1周り小さくて《デザイン》や《形状》も少し違っていたけど、今日までの特訓の成果もあってか《大きさ》も《デザイン》も《形状》も植木さんと同じ物になれた!

 ただし、植木さんいわく《神器のサイズ調整》は出来ないようで、神器のほとんどはその大きさ故に使い所は限られるから注意しろとの忠告を受けた。

 

 あと、不用意に【神器】の名前を口に出しても《手にゴミを握った状態で【神器】を使うという気持ち》にならなければ出現はしないため、誤って出現することはないみたいだ。

 

 それと【神器】も【能力(ちから)】の時と同様に、最初こそ出現させても10秒も経たずに《小さな木》になっちゃったけど、今は【神器】もある程度の時間は継続させることが出来るようになった。

 

 

 

 

 

 そして最後にもう1つ…【天界力】という能力についても教えてもらった。

 ただし、植木さんも自分が持っていた能力(ちから)の全ての詳細を把握してる訳ではないみたいだった。

 一緒にいて分かったけど、植木さんは頭ではなく身体で覚えていくタイプのようだ。

 

 【天界力】とは、その名の通り植木さんの世界にいる《天界人》がもつ【特別な力(能力や神器)】であり、【能力】や【神器】を使うための《一種の身体強化》なんだと僕は推測した。

 重すぎる神器を自由自在に使うなんて常人の人間には無理だけど、《天界人》はその【天界力】をコントロールし腕の筋力を一時的に強くすることで、あの重たい神器を振り回したり出きるんだと。

 

 植木さんの場合は、植木さん自身が《天界人》として最初から持っている【天界力(神器)】に、コバセンという植木さんの恩師から貰った【ゴミを木に変える能力】の【天界力】が+(プラス)され、2つの【天界力】が合わさったことで植木さんの【天界力】は倍増した。

 その倍増した【天界力】をコントロールすることによって、植木さんはあんな重たい【神器】を空中でも自在に操ることが出来るのだ。

 

 そして僕の場合は、植木さんからもらった【ゴミを木に変える能力】と【神器】の【天界力】を授けてもらえた。

 でも植木さんと全く同じというわけではなく、植木さんは【植木さん自身の天界力】と【コバセンの天界力】の【2つの天界力】をもち、僕は【植木さんの天界力】の【1つの天界力】しか持っていない。

 

 つまり何が言いたいかと言うと、今僕が持っている【天界力(能力と神器)】を【1】とするのなら、植木さんの【天界力(能力と神器)】は【2】。

 要するに《天界人》じゃない僕が使える【天界力】の限界は、植木さんの《半分》ということだ。

 

 事実…かなり鍛練と修行したのに…未だに僕は【能力】はともかく、【神器】はその超重量な故に《空中》では使うことが出来ずにいた…

 オマケに未だ【七ツ星の神器】を発動させることが僕には出来なかった…

 

 植木さんとウールさんは『十分コントロール出来てる』と言ってくれてるが、僕も植木さんと同じく空中でも【神器】が使えるようになりたい!

 

 

 

「それにしても植木さんは本当に凄いですよ!神器を空中で自在に操ったり!神器を複数同時に出すことも出来るですから!」

 

「あぁそれか、まぁ神器を空中で使えるようになったのは前に話した【天界力】で身体と能力(ちから)を強くしたから、超重量級の神器も空中で使えてるんだよ」

 

「じゃあ《神器の同時出し》も、その【天界力】が関係してるんですか?」

 

「う~ん……俺も半分くらいしか覚えてねぇんだけど、それは【神器】の【レベル2】みたいなんだ」

 

「【レベル2】?」

 

「そう、なんだっけかなぁ?確か…自分のもつ超能力が成長することで【神器】の【天界力】も成長して別の能力が加わることが【レベル2】って言ってたなぁ…」

 

「なるほど…つまり【能力】と【神器】を使って鍛えることで、自分だけじゃなくて【神器】も進化して新しい力が芽生えるってことですね。そして植木さんの場合は《神器を複数同時に使う》ことが出来ると!」

 

「まぁ、そういうことだな」

 

 僕の世界でも個性を鍛え上げてヒーローになった人達がいるように、僕も成長次第ではいつか植木さんと同じように《神器の同時出し》が出来るようになるかも知れないってことだ!もっともっと頑張らないと!!

 

「それにしてもお前って本当に器用だよなぁ、俺も【木の能力】で色んな形状の木を創り出したことはあったけど、お前の場合は俺が思い付かねぇような形の木を作り出せてるし」

 

「工夫が多いっつーか?考えが幅広いっつーか?モジャ髪、お前ってスゲェ頭良いんだな!」

 

「いえいえ、そんなことないですよ。その…昔から色々と調べたりしてたのが…役に立ったのかなぁ…」

 

 実を言うと…いつの日か個性が発現してくれるんじゃないかと信じて…どんな個性が発現しても直ぐに把握して使えるようにって長年個性に関する勉強もしていた。

 《動物》や《科学的なこと》だけでなく《植物》に関する個性についてもだ…

 

「ホント、よくここまで会得できたもんだよなぁ、植木の言う【レベル2】にはなれてねぇみたいだがよ」

 

「その【レベル2】だけど、【神器】をもった状態で【能力】と【神器】をどっちも【レベル2】にすることが出来るのは《ほんの一握りの天才》だけなんだってさ、俺の場合は出来なかったから一時的に【神器】を手離した状態になって【ゴミを木に変える能力の天界力】を【レベル2】にするって荒業(あらわざ)をしたんだ。まぁ緑髪は頭良いから、その内どっちも【レベル2】にしちまうかもな」

 

「ちげぇね、【能力】と【神器】を組み合わせた技まで完成させてるし」

 

「あはは……えっと~色々試したいことが頭に浮かんできて、挑戦してみたいって思っちゃったんですよ。それに【能力】と【神器】を貰えたことが嬉しくて張り切りすぎちゃったみたいです…」

 

 とんだ皮肉ってものだよ…10年間《個性》について勉強したことは元の世界では全くといっていいほど役に立たなかった…

 

 だけど!

 

 この世界で植木さんとウールさんに出会えて!

 

 授けてもらえた【能力】をすぐに把握して使いこなせている!

 

 あの10年間は決して無駄じゃなかった!

 

 僕は《この場所》に来て!

 

 その努力が報われたのだ!

 

 なにより植木さんとウールさんと一緒にいると、あの10年の《苦しみ》や《辛さ》なんて全部忘れられた……

 

 『あの辛い日々がなんだったのか…』と思えるくらい今の僕は《幸せ》だ!

 

 そして何度も思い知らされた…『どうして僕は《かっちゃん》や《オールマイト》に………《あんな奴ら》に憧れて…尊敬なんてしていたんだろう』って…

 

 植木さんを見ていると《かっちゃん》や《オールマイト》だけじゃない……あのヘドロヴィラン事件の現場にいた《シンリンカムイ》や《デステゴロ》や《Mt.レディ》達がどれだけ小さな存在で、植木さんがどれだけ偉大で…《本物のヒーロー》なのかを理解させられる…

 

 私利私欲のためじゃない…他人(ひと)のために…誰かのために【能力(ちから)】を使い…守り…助ける…それこそが《真のヒーロー》なんだ…

 

 

 

 要するになにが言いたいのかというと…

 

 

 

 『僕は憧れる人を間違えていた…』ということだ…

 

 

 

「……あ…あの…植木さん…」

 

「ん?」

 

「ここまでして指導していただいて…今更なんですが……良かったんですか?」

 

「なにが?」

 

「その…僕にこんな凄い【能力(ちから)】を授けてもらった上に鍛えて強くしてくれた。でも…僕が元の世界へ戻って…この【能力】を使って…今まで僕に酷いことをしてきた人達へ復讐をするんじゃないか……とか…」

 

「なんだそんなことか、俺はそんな心配してねぇぞ?」

 

「…えっ?」

 

「だってお前、そんな《下らない私情》のために【能力】も【神器】も使わないだろ?」

 

「ッ!!!」

 

「お前がその【能力】をどう使うべきなのかは、お前が一番分かってる筈だろ?だから俺が心配することはなんにもねぇよ!」

 

「…植木さん…」

 

 

 

 …やっぱり…

 

 …植木さんは僕にとって《最高のヒーロー》だ!!!

 

 出来ることなら……このまま元の世界に帰らずに…植木さんとウールさんと一緒に居たい…

 

 …そう思っている自分がいた…

 

 

 

 

 

 でも……それは叶わないみたいだ……

 

 

 

 

 

「にしても本格的に《透けて》きちまったなぁ緑髪」

 

「触ればそこに実態はあるのになぁ」

 

「はい…自分の身体が少しずつ《薄まってる》って…なんか変な感じですね…」

 

 

 

 そう……《それ》について気がついたのは数日程前……なんの前触れもなく訪れた……

 

 

 

 

 

 僕の身体が少しずつ消えかけていたのだ…

 

 

 

 

 

 数日程前、青空へ手を翳(かざ)した時…僕の手が透けて青空が見えたのだ!

 

 最初は見間違いだと思ったけど、次の日に同じことをしてハッキリした!

 

 僕が消えかかっていることに!

 

 僕はそれを植木さんとウールさんに伝えると…

 

『それってぇと、お前が元の世界へ戻れるってことじゃねぇか?』

 

 植木さんは颯爽と答えてくれた。

 

『お前がここに来てからもうすぐ300日程……つまりモジャ髪の世界じゃ《3日》しか経ってないっつーことなのか…』

 

 ウールさんは何を思ったのか、難しい顔をして考え事をしていた。

 

 植木さんの言うことが正しいとするなら…『僕は《元(もと)いた世界へ帰れる》…それは確かに嬉しいことだ…お母さんやお父さんの元へ帰れる!奉仕活動で知り合った人達とも会える!きっと皆心配しているだろうなぁ』…と僕はあの世界へ戻れるのは本当に嬉しいんだ!

 

 ……そう…嬉しいんだけど…それは同時に…『僕を無個性という理由で否定してきた《かっちゃん》や《同級生達》、《先生達》や《ヒーロー達》…そして《オールマイト》がいるあの世界へと戻ることになる』…という《不安》が僕の中にあった…

 

 第一に僕が死んでおらず生きてるなら、僕が自殺を図ったことで向こうの世界では何かしらの騒ぎがあったかもしれない…

 とはいえ《無個性の自殺未遂》なんてあの世界では珍しくはないし、もしかしたら大した事件として扱われず、ニュースにもなっておらずに数日過ぎた頃には皆から僕のことなんて忘れられてるかもしれない…

 

 だって…それが…あの世界での《無個性》に対する待遇なんだから…

 

 だからきっと…《かっちゃん》は僕のことを凄く恨んでる…

 

『テメェ!クソデク!下らねぇことしやがって!俺の内申に支障が出たらどうしてくれんだ!あ”あ”ん!!?無個性の分際でよ”ぉ!!!』

 

 とか…

 

『チッ!生きてやがったのか!テメェなんざこの先、生きてても意味なんざねぇんだからよ!くたばりゃよかったんだよ!クソナードが!!!』

 

 とか…

 

『自殺もマトモに出来ねぇのかテメェはよぉ!やっぱお前は役立たずで何も出来ねぇ木偶の坊の《デク》だな!!!』

 

 とか絶対言ってくるよなぁ…

 

「(ハァ…なんだろう…折角生き返れるかもしれないのに…心のどこかで帰りたくないと思っている自分がいる…)」

 

「ま~た、暗いことで悩んでるな~緑髪」

 

「えっ!?あ、あの!?なんで分かって!?」

 

「なんでって?お前が暗い顔で考え事してるから、そうなのかなって思ってさ」

 

「お前が散々な人生を送ってきたのは知ってるけど、帰った方がいいぜ。お前の帰りを待っている人だっているんだからよ」

 

 植木さんとウールさんには…僕の考えはお見通しのようだ……《お母さん》……きっと僕のせいで無理してるんだろうなぁ…

 

 

 

 《母》のことを強く思ったその時だった!

 

「っ!!?こ!これは!?」

 

 僕の身体から小さな光る粒子が出てきた!

 

 それによって僕の身体が本格的に消えていくようだった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ついに…お別れの時が来てしまったみたいだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後くらい笑顔で別れようと…僕は涙をこらえた!

 

「また…会えますよね…植木さん…ウールさん」

 

「さぁな?」

 

「わかんねぇ?」

 

「ええ!?そこは『そうだな』って言ってくれるところなんじゃ!!?」

 

「ん~それは俺にも分かんねぇからなぁ?…まぁ何はともあれ!頑張って《ヒーロー》になれよ!緑髪!」

 

「モジャ髪!帰ったら《オールライト》って奴を追い越して!そのまま《No.1ヒーロー》になっちまえ!」

 

「あの…ですから僕は緑谷ですよぉ…というか…ずーっと言いたかったんですが…植木さんの髪だって緑色じゃないですか…」

 

「おん?あっ!そういえばそうだったな!」

 

「えっ!!?自覚してなかったんですか!?」

 

「自分の髪の毛の色も把握してなかったのかよ植木…」

 

「(ならなんで初対面の時に僕を鏡と見間違えたのぉ!??)」

 

「あとさ?名前なんだっけ?」

 

「えええっ!!?そこからですか!!?出久(いずく)!緑谷 出久(みどりや いずく)ですよぉ!!!」

 

「ワリィワリィ、緑谷 出久だな!よし覚えたぞ!!」

 

「いや…今更覚えられても………ぷっ!あっはははは!」

 

 植木さんは…僕に沢山のものをくれた…【能力】と【神器】は勿論だけど、それ以上に大切なものを…僕は植木さんからもらった…

 

 砕け散った《心》を!

 

 諦めてしまった《夢》を!

 

 本物のヒーローの《正義》を!

 

 そして…僕に《笑顔》を!

 

 その全てを与えてくれた!

 

 

 

 

 

 僕とっての…《最高の原点(オリジン)》!

 

 

 

 

 

 だから別れる前に…どうしても植木さんに聞いておきたいことがあった!

 

 オールマイトに言ったあの質問を…

 

「植木さん…」

 

「んあ?」

 

「僕にも…なれますか…?」

 

「なにに?」

 

「僕も…植木さんみたいな!他人(ひと)を助けられる人間になれますか!?」

 

 僕は恐る恐る植木さんに聞いてみた!

 

 オールマイトと時と少し違えど…内容は同じだ!

 

 植木さんはオールマイトとは違う!

 

 でも…もし…万が一にも…

 

 植木さんにも否定されたら…

 

 僕は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なれるよ」

 

「えっ…?」

 

「お前は最高のヒーローになれる!俺が保証する!」

 

「!!!………はい!」

 

 植木さんは満面の笑みで最高の返事を言ってくれた!

 

 その言葉だけで僕の胸は一杯になった!!

 

 やっぱりこの人は『本物のヒーローなんだ!』と僕は心に深く刻み込んだ!

 

 

 

 もう諦めたりしない!

 

 

 

 最高のヒーローから…

 

《本当の正義》を!

 

【能力(ちから)】を!

 

【神器】を授けてもらえた!

 

 また会えると信じて…

 

 そして…次に会うときまでに…

 

 必ずなってみせる!

 

 植木さんのような《正義のヒーロー》に!!!

 

 

 

 そう決意した時には、僕の身体はもう足から消えつつあった…

 

「植木さん…ウールさん…本当に…ありが」

 

「これはコバセンと犬のおっさんが言ってた言葉なんだけど…こういう時に言うべきだと思うから言っておくよ」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出久……お前はお前の道を歩け!お前の人生だ!」

 

「っ!!!!!????………植木さん…あなたは……僕の《最高のヒーロー》です!……ありがとう…植木…耕助さん…」

 

 僕が植木さんに対する感謝の言葉を述べると…僕は光る粒子と共に…植木さんとウールさんの前から消えた…

 

 

 

 

 

「行っちまったな…アイツ…寂しくなるぜ…」

 

「なぁに、また会えるさ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●現実世界の病院…

 

 

リカバリーガール side

 

「今日でもう1ヶ月経つのかい…早いもんさね」

 

 アタシは今日もこの病院を訪れた…

 

ガラッ

 

「…はぁ…今日もかい…」

 

 1か月前の手術から何度も来ている病室へ入ると…ベッドで眠る息子の手を右手で握りながら…ベッドに突っ伏して眠ってしまっている母親がいる…

 また泣いていたのか…左手には鼻をかんだとみられるティッシュが握られている…

 …というか彼女の傍のゴミ箱には毎度のこと入りきらずに飛び出したチリ紙がいくつが落ちていた…

 

 あの事件から早1ヶ月…この子の母親の容姿は急変しちまったよ…会いに来る度にどんどん痩せちまって…まるで別人さね…

 食事をとるように言ってもまるで聞く耳を持ちやしない…病院の連中も手に負えなくなって…

 最終的にアタシがカウンセリングで…

 

『この子が目を覚ました時に…アンタが元気じゃなくてどうすんだい?』

 

 その言葉を聞き入れてくれてなのか…毎日こちらが用意した食事を食べてくれるようにはなった…でも本当に最低限しか食べないようで…いつ倒れるのかこっちは気が気じゃないよ…

 

 でもこればっかりはアタシの《治癒》でもどうにもできない…《心の病》は…アタシの個性じゃ治せない…

 彼女を元気にさせられるのは《この子》しかいない…

 全ては《この子》の……《緑谷出久》の気力次第さね…

 

 定期的に経過を見て《治癒》を続けたのもあって身体の傷は《古い傷跡》と、個性の使用条件上で治すために日をおいて治癒したせいで《額に残っちまった傷跡》以外全部完治はさせたけど、当の本人は未だに目を覚まさない…

 

 このままこの状況が続けば…母親の方も入院させる事態にもなりかねないからねぇ…

 

 

 

 

 

 とは言っても…変わったのはその子の母親だけじゃないけどさ…

 

 

 

 

 

 1か月前の2つの事件(《ヘドロヴィラン事件》と《無個性の男子中学生の飛び降り事件》)……

 

 あの《大馬鹿者》と《事件に関わったヒーロー達》の《愚行》を皮切りにヒーロー社会は大きく変化しちまったさね…

 

 何よりあの《馬鹿》の名前は世間的には伏せられているものの、アイツの《無責任な発言》は世間に知られ、今まで社会に不遇な扱いをされてきた《無個性》の人々の《ヒーロー》と《無個性を見下す傾向のある個性持ち》への不満が爆発し、ヒーロー達への非難の声が日に日に増え続けてしまっている…

 それは昔からあったことだった…最初こそは気にも止めない小さなことだったけど、溜まりに溜まってしまった《この社会に対する不満》という《火薬》は…今や小さな爆発などでなく《大爆発》となって今のヒーロー社会へとその《火の粉》がバラまかれた…

 

 そして、その《爆発》に油を注ぐかのように《No.2ヒーロー》の家庭事情まで世間に晒されて《ヒーローへの非難》が更に加速した…

 

 おまけにそれは《家庭を持つヒーロー達》全員へも矛先が向けられて、至るところで大騒ぎになっている…

 

 もうすぐ第一子が産まれる《錠前ヒーロー・ロックロック》がマスコミの失礼な態度にキレて怒鳴り返したという報道はまだ耳に新しい…

 

 どうしてトップヒーローってのはこう問題ばかり起こすのかねぇ…アイツが《No.1ヒーロー》だった頃がマトモに思えてきちまうよ…

 

 とはいえ…まだ《この程度》で済んでいるとアタシは思っているよ…

 もし《無個性差別の発言をしたヒーロー》の正体があの《大馬鹿者》だと……《オールマイト》だと世間に知られようものなら…

 このヒーロー社会は崩壊してもおかしくなかっただろうねぇ…

 

 

 

 

 

 そんなことを思いながらアタシは診察を始めた…

 一通り診察を終えるとアタシは患者の《緑谷出久》へ語りかけた…

 

「なぁアンタ…そろそろ起きてやりなよ。アンタが散々な人生を送ってきたのは聞いたさね…辛かったろうねぇ…でもアンタは強く生きてた…誠実で前向きにさね。それでも限界が来ちまったんだね……すまないねぇ……殆(ほとん)どはあの《大馬鹿者》のせいで。アタシもアンタのノートを見せてもらったよ…本当によく耐えてたもんだ…偉いよアンタは………でもねぇ…お母さんを泣かしちゃいけないよ。アンタのお母さん…もう限界さね……早く目を覚ましてお母さんを安心させてやりな…」

 

 眠っている相手に何を言っているんだと思うだろうけど、こりゃアタシの《本心》さね…《医者》としてでなく《人》としてのね…

 

 ともあれ今日の診断結果は以前来た時と大差がない結果だった。他の人の診察もあることだし…そろそろお暇(いとま)するかね…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ん……んん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?」

 

 扉を開けようとしたその時、後ろから声が聞こえた…

 

 今の声は?…母親の声?……

 

 …いや違う…

 

 アタシは咄嗟に振り返った!

 

「むおっ!!!??」

 

 危うく腰を抜かしそうになったよ!

 

 なにせそこには!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ん…………ぁ……?」

 

 ほんの少し前まで瞼(まぶた)を固く閉じて、意識が戻る傾向がまるで見えなかった《緑谷出久》が目を半開きで開いて、上半身を起こした状態で辺りをゆっくり見渡していたんだからね!

 

 アタシが扉へ向かう10秒も経たない合間に目を覚ましていた上に起き上がっていたんだから本当にビックリしたさね!!

 

「ア…アンタ!?…目を覚ましたんだね!」

 

「………?…」

 

 アタシの声に反応してこっちを見てはいたけど明らかに様子が変だった…

 それもそうだ…1か月も寝てれば意識がボヤけてるだろうからまだハッキリしてないんだろうさね。

 

 目を覚ましたのは本当に良いことだけど、今は大きな声や衝撃を与えるべきじゃない、事件の際に頭を強く打っていたことから何かしらの障害がある可能性が高い。

 

 それは母親もだ…息子をどれだけ大切にしているのかはこの1ヶ月でよく理解できた…だけど今すぐには対面させるのは双方に悪いと思い、母親を起こさないようにこの子を再度診断をしようとした…

 

 その時…

 

「……ん……いけない…寝ちゃってたのね……ふあ~あ……あら?…リカバリーガールさん…いらしてたんですね…」

 

 今一番起きてほしくないタイミングで母親が起きちまった!

 ベッドを挟んで正面にいるアタシに気づいて挨拶をしてきたけど、これは不味い!!

 

 このまま母親が横を向いたら!!!

 

「すいません…気がつかなくて…ついウトウトして寝ちゃってました……私ったら出久が眠り続けてい…………る…………の……………に………」

 

「………?……」

 

 目を覚まし起き上がっている息子と目があった瞬間…母親の動きが停止した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い………い…………い!……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……えっと…引子さん…落ち着」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出久ーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」ダキッ!

 

 母親は意識が戻った息子を目にした途端、病院全体に響き渡るような大声で息子の名前を叫び、両目から物凄い量の涙を流し出して息子に抱き付いた!

 

「良かった!!!良かった!!!目を覚ましてくれて!!!本当に良かった!!!!!」

 

 ここが病院だってことを忘れているのかという位の大声をあげながら、噴水のような涙を吹き出し続ける母親。

 こんな状況でなんだけど…その涙の量に『脱水症状になるんじゃないか?』ってアタシは思っちまったよ…

 

 このまま2人っきりにさせて親子の時間をとらせた方がいいんだろうけど…やはり診察しないことにはそうさせるわけにはいかない…

 

「ちょっと引子さん、落ち着いて……ってのは無理だろうけど…少し話を聞いてくれないかい?」

 

「出久!!出久!!!…はっ!!リカバリーガールさん!ありがとうございます!ありがとうございます!貴女のお陰で出久が目を覚ましてくれました!!!」

 

 母親は一旦息子から離れ、アタシに対して何度もペコペコと頭を下げてくる…興奮しているようで全く落ちつきがない…

 

 どうしたもんかと悩んでいると…さっきまでずっと眠っていた当の本人は、母親が左手に持っていていつの間にかベッドの上に落ちていた《鼻をかんだティッシュ》を右手で拾い上げた…

 

 もう一杯のゴミ箱へ捨てるのかとアタシは思った…

 

 

 

 

 

 でも…それは違っていたよ…

 

 

 

 

 

 何せこの子が次にとった行動に…アタシは度肝を抜かれたからね…

 

 

 

 

 

 その子は手にしたティッシュを手で握った瞬間…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【ゴミを…木に変える能力】…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かを口走った途端にその子の右拳から黄緑色の光が放たれた!!!

 アタシだけじゃなく母親も驚いていた!

 

「(いったい何が起きてるんだい!!!??)」

 

 長年医者をやっているアタシでも、今の状況を把握することが出来ず混乱していた!!!

 

 でも…これはまだ始まりだった…

 

 今日一番驚かされたのはこのあとだよ!!!

 

 その子は黄緑色の光を放つ右拳をそっと開くと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度は!光を放ち続ける右手から【小さな木】が生えてきた!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだい!!?

 

 どういうことだい!!?

 

 この子は確か《無個性》だった筈!!!

 

 それはついさっきの診断でもアタシが確認したばかりだった!!!

 

 この子は《個性因子》をもっていない!!!

 

 ならどうして!!!??

 

 

バタンッ!!

 

 

「!?」

 

 頭の処理と状況判断が追い付かずに慌てていると何が倒れた音がした…

 

 母親が倒れてしまったみたいだ……

 

 …当然か…

 

 …いつ目覚めるかわからないでいた息子の意識が戻り…

 

 …更に無個性の我が子が《個性》を使ったのだから…

 

 …オマケに今まで溜まっていた《疲れ》が一気に吹き出てしまったのもあって…

 

 …彼女は電池が切れたかのように気を失っていた…

 

「…夢じゃ……ない…」

 

 掌から生やした【小さな木】を見つめながら…その子はそう呟いていた…

 

 …こりゃ……忙しくなりそうさね…




 《植木君とウールと出久君がいる精神世界の100日》は、《植木君達の世界》からすると《1日》しか経過していない時間系列になっています。
 今作では《出久君が精神世界で過ごした100日》は、《ヒロアカの世界》からすると《10日》しか経過していない設定にしています。
 つまり《ヒロアカの世界で1ヶ月(30日)眠っていた出久君》は、《植木君がいる精神世界》で《300日》過ごしたことにしています。





 年内に次の話を更新できるように頑張ります。





-追加-(R4/2/28)

 今回の話の終盤にて、引子さんと出久君の名前を叫ぶ前の台詞である…

『あ……えっと…お母さん…落ち着』

 という台詞なのですが、この台詞を言ったのは【出久君】ではなく【リカバリーガール】の発言として私は書きました。
 ですが、感想のいくつかを拝見しますと読者の中にはこの台詞を《出久君の発言》と勘違いしてしまった方々もいらっしゃいました。
 皆様にこの台詞が《リカバリーガールの発言》としてちゃんと伝わるように書けず、誤解をさせてしまったこと、本当に申し訳ありませんでした。

※リカバリーガールのセリフの『お母さん』という部分を『引子さん』と修正いたしました。
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