五十里啓とかいう勝ち組に転生した件について   作:カボチャ自動販売機

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3話 渡辺摩利

「なんだ、またエリカにやられたのか?」

 

 

エリカとの試合が終わって、少ししてから、人の悪い笑みを浮かべながらやってきたのは、渡辺摩利。

摩利さんとは、摩利さんがここに入門してからの付き合いになるから、それほど長い付き合いでもないのだが、門下生の中では年が近いこともあり、今では一番仲が良い。

 

 

「耳が早いんですね」

 

「君とエリカの試合は一種のイベントだからな、そこかしこで話題になっているさ」

 

「ぼくがボコボコにやられるだけのイベントが?」

 

 

ぼくの返しが面白かったのか、クスクスと笑って、ぼくの隣に腰かける。

もう帰る所だったらしく、胴着ではなく私服だ。摩利さんらしい、手堅くまとまったボーイッシュな服装で、花音が憧れているのも分かるくらいカッコいい。

 

 

「まあそう言うな、エリカとあそこまで戦えるのはお前くらいなんだぞ?」

 

「何回負けていると思っているんですか、癖も技量も理解しているからですよ。初見だったらまず勝てません。まあ、今も連敗記録絶賛更新中ですけどね」

 

「そうか?まあ自信を持て。少なくともあたしは君がここの門下生の中では一番強いと思っているよ」

 

「止めてくださいよ、買い被り過ぎです」

 

 

摩利さんはどうしてか、ぼくを強いと思っているようだけど、ぼくなんて本家千葉道場の門下生の中じゃ良いとこ、中の上くらいだろう。

そりゃ、ぼくは、エリカと同じ印可だけども、単に長くこの道場にいるというだけだと思う。

実際、摩利さんは目録だけど、他の目録の人と比べたら格が違う。

ちなみに、目録とか印可っていうのは、剣術の階級みたいなもので、千葉道場の大体の人は目録で、印可はエリカとぼくを含めて数名しかいない。印可は名目上、弟子を取ることを許されているくらいのレベルだから。

まあ、階級なんて、ぼくが印可って時点であまり宛にならないから関係ないのかもしれないけど。

 

 

「君はあれだ、エリカとしか試合をしていないから、自分の実力が分かっていないんだな」

 

「エリカが、私にも勝てないようじゃ、他の門下生と試合なんてさせられないって言うんですよ。実際、三年くらいまえに修次さんと試合してボッコボコにされたことありますし」

 

「……やっぱり君は比べる相手が悪すぎるな、千葉の麒麟児や秘蔵っ子と比べては仕方がないだろう」

 

「さりげなく彼氏自慢止めてくださいよ」

 

「な!?お、お前なっ!」

 

 

顔を赤くして、迫ってくるが迫力はない。

千葉の麒麟児、というのは千葉家の次男である修次さんのことなのだけど、その修次さんと摩利さんは交際しており、そのことはもう門下生の間に知れ渡っている。今更恥ずかしがるようなことでもないと思うのだが、いつまでも初々しいというのは良いことだ。そういう気持ちは大事にしてもらいたい。

 

 

「なんだその微笑ましいものを見たような顔は!」

 

「さて、なんでしょうか?」

 

 

あまりからかい過ぎると、拳骨が飛んでくるため、引き際を誤ってはならない。

 

 

「あっ、啓兄!ちょっと目を離した隙に!」

 

 

そんな風に摩利さんをからかっていると、着替えに行っていたエリカが戻ってきた。シャワーも浴びてきたのか、髪がしっとりと濡れている。

 

 

「全く啓兄は、そうやって摩利姉いじめてると、また兄上にボコられるよ」

 

 

どうやらぼくは引き際をミスったらしい。

摩利さんをからかっている所をエリカに見られてしまった。原作でのエリカは摩利さんを毛嫌いしていたが、今はそんなことなく、二人の仲は極めて良好。

エリカは摩利さんを『姉』と慕っているし、摩利さんもエリカを妹のように可愛がっている。

実際、何年か後にはこの二人は義姉妹になっているのだろうが。

 

 

「修次さんはエリカみたいに喧嘩っ早くないから大丈夫だよ」

 

「なんですって!」

 

「おいおい、二人が喧嘩してどうする」

 

 

ぼくがエリカをからかって、エリカが怒って、それを摩利さんが宥める。

三人の時は大体こんな感じだ。

 

 

「あっそういえば摩利さん、ぼく一高受験することになったので、合格できたら来年からよろしくお願いします」

 

「ああ、花音から聞いてたよ。啓が四高を受けることを知っていたことがバレてしまってな、随分文句を言われた」

 

「あたしは無視か!」

 

 

苦笑い気味に言う摩利さんだが、花音にはギリギリまで黙っておいた方が良い、とアドバイスしたのは摩利さんなのだから、自業自得だ。確かに花音は、ぼくが四高に行くと知ったら着いてきそうな勢いだったし、かといって、花音は家の方針で一高を受験することが決まっていたようだから、大騒ぎになったことは間違いなかった。結果、騒ぎになったし、ぼくは一高に行くことになったのだが、三日で騒ぎが収まったのだからまあ、良かったということにしよう。

ちなみに、摩利さんもエリカをスルーしているのは確信犯である。摩利さんは時折こうして、エリカをからかう側にも回るのだ。

 

 

「一高に入学したら、花音は任せましたよ、摩利さんと同じ風紀委員になるっ!て息巻いてましたから」

 

「私一人では面倒を見切れんよ、只でさえ風紀委員には馬鹿者共が多いのだ、お前がフォローしてやれ」

 

「そのつもりですよ、花音は一人にすると危うい所がありますし」

 

「ちょっと!いよいよ怒るわよ!」

 

 

普通に摩利さんと会話をしていたが、流石にエリカがキレそうだ。

よしよし、と頭を撫でればぷいっと顔を背けられてしまう。

 

 

「はは、ごめんごめん、からかい過ぎた」

 

「そうだな、すまん」

 

「むぅ、なんだか子供扱いされている気がする」

 

 

相変わらず、膨れたままのエリカだけど、どうやら機嫌は直ったようだ。

こうしていると、やっぱりエリカはどれだけ強くても、何時まで経っても妹のままだし、可愛らしい。

 

もし、四高に進学していたら、こうしてエリカの頭を撫でることも、摩利さんと二人でエリカをからかうことも、中々出来なくなっていただろう。

 

 

 

「やっぱり一高で良かったのかもしれないな……」

 

 

もう一高に進学するしか無くなったからなのかもしれないけど、ぼくは少しだけ花音に感謝した。

 

 

 

「啓兄、何笑ってんの?」

 

「ん、なんでもない」

 

 

 

胸を張ってどや顔している花音の姿を幻視して、笑ってしまったことは、内緒だ。





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