五十里啓とかいう勝ち組に転生した件について   作:カボチャ自動販売機

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サブタイトルを人名にする制約のせいで、若干ネタバレになる弱点に、当時のぼくは気が付かなかったのだろうか……。


5話 司波深雪

ほぼ無理矢理、夕歌さんによって連れていかれたのは、閑静な住宅街にある一軒家。

 

道中、何を尋ねても、秘密よ、と答えてもらえず、やけに楽しそうなこの人を見て、もしかしてぼくは遊ばれているだけなのではないだろうかと、不安を感じずにはいられないが、そもそも半場拉致するようにして、連れ回されている現状、結局ぼくは夕歌さんの思いのままなわけで、考えても仕方のないことだった。

 

 

「会わせたい人がいるのよ、彼に会えば貴方の考えも少しは変わるかもしれないわよ?」

 

 

どうやら、夕歌さんは、コミュ障気味の悩める青少年を、名前も知らない誰かと会わせる、という鬼畜の諸行をしたいらしい。

 

「かなり普通じゃない子だけど、今の貴方に必要なのは、そういう『普通じゃない人』の話を聞いてみることだと思うから」

 

 

普通じゃない子って、それヤバイ奴ってことですよね!?

一抹どころじゃない不安を抱えたまま、ぼくは夕歌さんに引きずられるようにして、連行されていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

反則的なまでの魅力、美しさの権化。

流れる黒髪と白い肌のコントラストは、日本人らしい美しさを残しつつ、人種や性別を超越した美は、正しく女神の様で、同じ人間であるとはにわかには信じられない。

 

 

「……エグイくらいの美少女ですね、正直引きました」

 

「ねー、本当にエグイわよね」

 

「え?え?何故私は急に押し掛けてきた、それも初対面の方に引かれたあげく、身内からもそんな目で見られているのでしょうか!?」

 

「美少女税だよ(適当)」

 

「そんなものはありません!」

 

 

軽快なツッコミだった。しかし涙目だった。未だに状況に付いてこれていないのだろう。安心して欲しい、ぼくもだ。

 

 

「達也さんは?お仕事かしら?」

 

「お兄様はもう間もなくお帰りになると、連絡がございましたが……」

 

「ああ、『家』の用事じゃないから、そんな顔しないで。彼を達也さんに会わせたいだけなのよ」

 

「彼……ですか?」

 

「うん、この子、これで男の子なのよ。それも、深雪さんの一個上」

 

「先輩だぞ、敬いたまえ」

 

「……啓くん、なんだかキャラがおかしくなっているけど、大丈夫?」

 

「全く、全然大丈夫ではないですが、もうどうしようもないので大丈夫です」

 

 

ぼくは間違いなく、頭が足りない。

まさしく大後悔時代に突入したぼくは、もうテンションが色々おかしくなっている。

だってさ、目の前にいるの司波深雪ですよ。四葉とかいう関わりたくないものランキング堂々の第一位、四葉家の次期当主ですよ。

家の花音やエリカだって美少女だし、学校内や地域でも飛び抜けて可愛いと思う。でも、彼女はステージが違うのだ。国や世界、そういう単位でも類を見ないほどの美少女。こうして現実に前にすると、その凄さが分かる。これはヒロインですわ。

 

 

「で、夕歌さん、ここで悩みが解決できるんですか?」

 

「解決できるかは啓君次第だけど、何かの役には立つんじゃない?とりあえず達也さんが帰ってくるのを大人しく待ってなさい」

 

 

夕歌さんは出された紅茶を飲みながら、既におくつろぎモードで、他人事の様に言う。

ここまで連れてきたんだから、最後まで責任取ってくれませんかね!?

大体この人、司波兄妹が四葉の関係者だと知っているのだろうか。先程の、『家』の用事ではない、という言葉から考えればそうなのだろうが、だとしてこの人のポジションは?四葉との関係は?ぼくの読んでいた原作15巻までで登場はあったのか?

そんなことがグルグルと頭を駆け回っていて、正面に座る司波さんのことが、頭から一切合切消し飛んでいた。

 

「司波深雪です」

 

紅茶の用意が終わり、席に座った司波さんが、自己紹介をする。そういえば、ぼくが一方的に知っているだけでまだお互いに自己紹介をしていなかった。夕歌さんも、あっ、みたいな顔をしているから忘れていたのだろう。

 

 

「五十里啓です」

「えー、啓君つまらない。もっと面白いこと言ってよ」

 

 

鬼の無茶振りである。大変うざったいことに頬をつんつんしてくるのだが、完全に無視していく。と、目の前の司波さんが何故か驚いたような顔をしていた。

 

 

「五十里啓さん?あの(・・)、ですか?」

 

「そ、だから連れてきたのよ。達也さん、喜ぶんじゃない?」

 

 

ぼくを置いてけぼりにして話が進んでいく。

 

 

「ぼくのこと知ってるんですか?」

 

「はい、以前論文を読みました。『投影型魔法陣の可能性とその実用性』、術式を幾何学紋様化して感応性の合金に刻む、という刻印魔法の前提を崩す、大変興味深い内容でした」

 

 

その論文はぼくが半年ほど前に発表したものだ。

五十里家は刻印魔法を得意としている家であり、この論文内容も原作の五十里啓の発想をパクっただけである。

刻印魔法というのは通常、術式を幾何学紋様化して感応性の合金に刻み、シンボルに想子を流し込むことで魔法式を構築し、事象改変を行う。

 

ぼくの論文は、刻印型魔法の発動において、刻印を刻んだ感応性合金プレートは必須ではないということを証明し、その実用性を示したものだ。

刻印はあくまで想子の流れを誘導するものであり、想子を刻印のパターンで投影することによっても同じ効果が得られるとした『投影型魔法陣』を世界で初めて発表したわけだけど、想子を大量に消費するというデメリットが大きすぎるため、現代ではあまり使われていない刻印魔法についての論文だ。革新的だとは思っていたが、あまり注目はされないとも思っていた。

 

 

「良く読んでくれてましたね、内容的にかなりコアなものだと思うのですが」

 

「お兄様が絶賛されてましたので」

 

「ぼく、お兄様のこと大好きになれそうだ」

 

 

ぼくの中で司波達也への好感度が爆上がりである。花音やエリカにはふーんや、へーで、適当に流され、摩利さんには難しくて分からん、もっと簡潔に説明しろ、と逆ギレされ、ぼくは世間の評判というものを一切耳に入れていなかったのだが、主人公である彼に認めてもらえた、というのは大きな自信になる。

 

 

「ねえ啓君、年上の私にはタメ口なのに、年下の深雪さんには敬語なの?」

 

凄いだるい絡みをされた。どうやら夕歌さんは自分が話に混ざれないとご機嫌ななめになるらしい。とんだお姫様気質である。

 

「いや、司波さんは美人だから自然と敬語に」

 

「よし啓君、今から君の頬をとても強い力で叩くわ」

 

 

少しからかってみたらとんでもないことを言われた。えっ、この人本気の目をしてるよ!いたいけな中学生の頬をビンタしようとしてるよ!

 

 

「どうしたら許してくれますか」

 

「上目使いで、お姉ちゃんごめんなさい、と言ったら許してあげる」

 

「変態じゃないですか」

 

 

蔑んだ目で夕歌さんを見る。何故か傷付いたような顔をする司波さん。えっ、司波さんも言って欲しかったの!?

そして、罵倒されているのに、これはこれでありね、みたいな顔の夕歌さんがもはや怖いよ!

 

 

「い、五十里さんと夕歌さんは随分と仲がよろしいようですが、どういうご関係なんですか?」

 

「「今日公園で会った」」

 

 

司波さんが笑顔のまま固まった。どうやら、状況を誤魔化すために出た質問の回答が予想外過ぎてフリーズしたらしい。

改めて考えると、公園で会った男子中学生を連れ回している女子大学生ってグレーゾーンな気がする。

夕歌さんも状況のまずさに気がついたのか、冷や汗を浮かべながら、強引に話題を変える。

 

 

「そうだ啓君!深雪さんにも相談してみなさい。こんなにも美人なのだからきっとモテモテよ、日替わりで男を取っ替え引っ替えよ」

 

「夕歌さんの中の私が酷くはないですか!?そんなイメージなのですか!?」

 

 

司波さん、再び涙目。何故かこの空間において、司波さんは弄られ役とツッコミ役を兼任することになっており大忙しである。

 

 

「大体私は男性とお付き合いしたこともありません!」

 

 

大きめの声で言った司波さん。静かになる室内。真っ赤になっていく司波さん。

そりゃね、大きな声で言うようなことじゃないからね。

 

そんな風に余裕でいられたのは一瞬だった。

急激に寒くなっていく部屋。その原因は真っ赤な顔のまま、目をぐるぐるさせている司波さんだ。あれ、もしかして暴走してらっしゃる?

 

 

「み、深雪さん落ち着いて!私が悪かったから!ね!」

 

「駄目だ!全然声が聞こえてないよ!」

 

 

慌てて司波さんを宥めようと奮闘するも、司波さんはもう意識がどこかに飛んでいってしまったのか相変わらず冷気を発している。

 

「夕歌さん、短い間でしたが楽しかったです」

 

「ちょっと!なんで帰ろうとしてるの!絶対逃がさないんですから!」

 

「離してください!この状況は全部夕歌さんが招いたことでしょ!」

 

「啓君が大人しくお姉ちゃんって呼んでればこんなことにはならなかったわよ!」

 

「暴論過ぎる!」

 

 

そんな風に、ぼくらが醜い争いをしていると、ガチャリとドアの開く音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはどういう状況なんですか?」

 

 

お兄様、助けて。

 

家に帰って来た司波達也さんの最初のお仕事は司波さんを宥めることだった。

お疲れのところ、本当に申し訳ない。

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