五十里啓とかいう勝ち組に転生した件について   作:カボチャ自動販売機

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急に真面目モードになってみたりする。



6話 司波達也

「司波達也です」

 

徹り良い深みのある声は、その姿勢の良さもあって、どこか武人のような印象を漂わせる。

実際、彼は九重八雲の元で修練を積む武人であり、体は明らかに良く鍛えられていて、ぼくが見上げるくらいに大きい。

にも関わらず、その冷静さと畏まった表情のためか、どこか理知的な雰囲気もあり、本当にぼくの一つ下なのかと、疑ってしまう。

 

彼こそがこの世界の主人公。ヒロインとしての圧倒的美貌を持つ司波さんの横に並んでいる姿は、ぼくには不思議としっくり来ていて、やはり『原作』という知識がぼくに与えている影響の大きさを感じずにはいられない。

 

 

「まさかお会いできるとは思っていませんでした。『投影型魔法陣の可能性とその実用性』、大変興味深い内容で、感服しました」

 

「いや、そう言ってくれるのは司波君と司波さんくらいだよ」

 

 

両親に散々褒め称えられ発表に踏み切った論文であったが、こうして彼に評価されるまではそれが親の贔屓目だと思っていた。

司波君は「深雪もいますし達也で良いですよ」と気遣いをしてくれ、司波さんもそれに続く形で名前呼びを許してくれた。勿論、ぼくもこのビックウェーブに乗って名前呼びを頼んだ。

なんか感動だ。この二人と名前で呼び合うとか、原作キャラっぽい。

 

 

「啓さんは謙遜しますが、俺はここ数年で一番の魔法的発見だと思っていますよ。魔法師の新しい可能性を示唆する素晴らしい内容です」

 

何なんだろう、この大絶賛。お兄様からの好感度が爆高いのだが。

 

 

「直近でも基本コード仮説における仮説上の存在でしかなかった基本コードの一つ『加重系統プラスコード』の発見とか、あったと思うけど?」

 

「この論文はそんなこと(・・・・・)より遥かに価値がある」

 

 

達也君は、基本コードの発見自体の価値云々の前に、基本コード仮説自体が間違っていると考えているのだろう。何より彼ならば基本コードなんて全て解析できていてもおかしくはない。

 

 

「達也さんは啓君の論文、発表した時から絶賛だったから。親族の集まりで、世間話程度に最近の論文について話していたら、達也さんが珍しく入ってきて」

 

 

「お兄様、嬉しそうに話されていたから皆さん困惑顔をしておりましたね」

 

 

夕歌さんが話し始めると、深雪さんがくすくすと笑って、夕歌さんの話を引き継いだ。

達也君は居心地悪そうにしており、こういう状況は珍しいのだろう、と分かった。達也君が深雪さんにからかわれることって原作でもそんなに無いんじゃないかな。

 

 

「新しい可能性なんて、そんな大袈裟なものじゃないよ。そこにあったのに誰も手に取ろうとしなかったものを、ぼくが取り上げた、そのためのツールとして、ぼくは得意な刻印魔法を利用し、投影型魔法陣を作ったのさ」

 

 

『投影型魔法陣の可能性とその実用性』という論文は軍事的には無価値、つまりは現代日本の魔法分野では殆ど価値がないといっても良い。一部の刻印魔法の使い手が感心する程度だろう。

しかし、達也君はこの論文の真意に気がついた。この論文でぼくが言いたかったことを。

 

 

「俺が感服したのは『投影型魔法陣』そのものよりも、その実用性を説いた部分です。魔法理論を覆し兼ねない可能性をもった理論だった」

 

「まだ理論の段階だけれどね、机上の空論だよ」

 

「俺は可能だと思っています。貴方ならあの理論を何れ完成させるでしょう」

 

 

投影型魔法陣によってエネルギー問題や環境問題など、現代科学でも解決の難しいことを魔法によって解決する。そんな途方もないことの第一歩としての理論。あらゆる魔法は刻印魔法へと変換可能である、というこの理論は未だ机上の空論であり、証明の兆しは見えない。それでも、司波達也という主人公にそんなことを言われたら出来る気になってしまう。

 

 

 

「――貴方はあの理論の果てに、何を見ますか」

 

 

それは唐突な問だった。

なのに、答えは達也君の問に間髪入れず口から出た。

 

 

「平和な日常、かな」

 

 

ぼくが求めているのはいつだってそれだけだ。だからぼくの魔法の研究テーマも目的は結局、そこに集約しているのだろう。

 

平和というのは、恒久的に維持するどころが、一日だって不可能だと思っている。今も世界のどこかでは戦争が行われているし、もっと小さなことに目を向ければ今もどこかで犯罪行為が行われているだろう。

 

だから、平和とは定義の問題だと思っている。

例えば日本では、今の世の中を平和だと思っている人が殆どだろう。世界のどこかで戦争が行われていたって、人が大勢死んでいたって、それは日常の中に溶けていて、汲み取ろうと思わなければ、それは無関係な人間達にとっては平和と変わらないのだから。

 

ぼくだって本当はそうだ。

今の世の中を平和だと思っている。それはぼくの平和の定義が限りなく狭いから。

自分と、ぼくの大切だと思う人。それだけだ。その人達が健やかに快く過ごしてくれているのなら、それが平和なのだ。

 

達也君が、そんなぼくの心情を理解したとは思えないけど、彼は黙り込んだ。

そうして彼なりにぼくの答えを咀嚼して、解釈できたのか、彼は口を開いた。

 

 

「魔法の兵器利用から離れ、魔法師に平和的な生き方を提示する姿勢は、俺も共感できます。魔法師が兵器として利用され続ける世の中を……俺は変えたいと思っている」

 

 

それは途方もなく難しいことだと、彼はきっと気がついているのだろう。

いや、気がついていながら、その可能性を見ないようにしている。それを指摘してあげるのが、歳上の役目って奴だろう。

 

 

「ぼくもそう思う。でもそれって矛盾した思想だと気がついてしまうと、それが途方もなく難しくて、遠いって絶望したくなるんだ」

 

「矛盾した思想……ですか?」

 

「個人的な解釈として、そう思ってる。矛盾、という以上に性悪説、人間という生き物への信頼がないだけかもしれないけど……」

 

 

性悪説とは、人間は環境や欲望によって悪に走りやすい傾向があるという考え方だ。

意地の悪い考え方かもしれないが、ぼくは人間の本質をそう捉えている。

だからこそ、世の中から魔法師の兵器利用を無くせばどうなるのか、最悪のシナリオを思い描いてしまうのだ。

 

 

「今の世の中、魔法師って存在は軍事的に最重要とされている。それは魔法が強力だからってわけじゃない。魔法より強力な兵器だってあるし、その方が一人の戦略級魔法師を生み出すよりずっと楽で低コストだろう」

 

 

これは極端な考え方であるのは間違いない。しかし、絶対的にこうした思想があることも、また間違いない。

例えばミサイル一つを製造するのと、ミサイルと同じ威力の魔法を使える魔法師、どっちの方が早く作れて、簡単か、比べるまでもない。

 

 

「でも、だからこそ魔法師に兵器としての側面が必要になってくる」

 

 

ここからは最悪のシナリオでしかない。あるかもしれない未来の話。可能性の問題だ。

 

 

「例えばの話をしよう。魔法師が軍事分野から撤退し、別の分野に移行したとして。魔法師が担っていた分の軍事力は低下することになるわけだ」

 

 

魔法師という存在が軍事的に最重要とされている現代、魔法師が兵器としての役割を放棄すれば、単純に軍事力は大きく低下する。

が、問題はそれによって何が軍事力のパーセンテージを占めるか、ということ。

 

 

「さて、ここに戦略級魔法より強力な兵器がたくさんあります」

 

「……っ、そういうことですか」

 

 

達也君がぼくの意図に気がついた時、深雪さんと夕歌さんはまだピンときていない様だった。

達也君が気がつけたのだって、きっと少なからずそういう考えを彼が持っていたからなのかもしれない。

 

 

「魔法は物量にある程度縛られない、兵器とは物量とコストが比例している」

 

「魔法師が撤退すれば、軍事力はその国の経済力で数値化できる。そうなったら……きっと戦争が始まるだろうね」

 

 

達也君とぼくの言葉に、やっと二人は気がついた様だった。

 

 

「魔法師が軍事的に最重要とされているのは、潜在的にはそれが数値化できない脅威であるから、ということですね」

 

「小国は大国に物量で対抗できない。魔法師という数値化できない、物量に縛られない脅威が無くなれば、大国の四国は世界を呑み込もうと、戦争を始める」

 

 

性悪説かもしれない。実際にはそうなったところで、戦争なんて始めないかもしれない。

これで世界は平和になったね、魔法師のみんな仲良くしようよ!と肩を組んで笑い合えるかもしれない。

けど、そのかもしれないの中に、戦争という選択肢は確かに存在していた。

 

 

「そうして戦争が始まれば、結局魔法師は兵器として駆り出されることになる。負のループだよ」

 

 

ぼくはあらゆる物事をネガティブに考える。最悪を想像する。転生なんてものを実際に体験した身として、予測できない突拍子もないことが起きることを文字通り死ぬほど理解しているのだから当然だ。

 

「だからぼくは世界規模の変革は難しいと思っている。でもせめて、戦いたくないと思っている魔法師達のために、道を示してあげたかった。ぼくはそのためにこの論文を発表したんだ」

 

 

ぼくは主人公じゃない。世界なんていつも通りに回ってくれていれば良い。自分の身の丈にあった平和を、望んでる。結局、その範囲の中で、それでも何かを変えたくて、そんな気持ちでこの論文を書いた。

偽善でもなんでも、魔法師って存在を少しでも変えたかったのだ。

 

魔法師に生まれたために、家族の愛もろくに知らない、一人寂しそうにしてる、そんな女の子の背中をぼくは知っているから。

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