朝6時、この時間帯にアタシは起きちまう。溶岩水泳部とか呼ばれてる三人を叩き出し、顔を洗い、身支度を整える。
「今日はコイツでいいかぁ」
そう愚痴りつつ、髪をショートポニーに縛り、ロイヤルブランドと呼ばれる礼装に着替える。この礼装、黒スーツにしか見えないよなぁ。
「いつもの白い礼装も悪くはないんだけど、これが一番しっくりくるわ」
ポケットに愛用品を詰め込み、部屋を出る。此処では召喚したサーヴァント達が生活しているから、賑やかだ。ナーサリーライムやジャック・ザ・リッパーなどの子供サーヴァントが挨拶して、直ぐに走っていってしまう。
「ったく、ガキンチョは苦手なんだよ」
アタシは愛飲しているレモンのパイポを一本取り出して、吸った。タバコは吸えないが吸う仕草や吸った時に紫煙を吐き出す姿は好きだ。それを真似しているに過ぎない。因みにダヴィンチちゃんのお手製だ。
「よう!マスター!相変わらず吸えないのに吸う真似かい?」
「ドレイク姐さん、良いじゃないさ。アタシは十代の女なんだよ」
「その口調で女アピールは無いだろう?」
「はいはい、どーせアタシはガサツだよ」
「それで良いさね」
あ、名乗り忘れてたけどアタシの名前は藤丸葎香。ここに来る前はごくフツーの一般人だったんだよ、これでも。世間的には極道の組長の娘だったけど、学校はキチンと行ってたし、アタシ自身がこんな性格だから番長みたいな特別扱いもされてなかったし、お母さんは厳しかったし、尊敬もしてた。父さんは昔気質の極道だったから尊敬まではいかないけど、それなりに接していた。
それがいつの間にか人理を救う事になっちゃって、アタシしか出来ないならやるっきゃないの精神で来たんだ。
人理を救えたかなーと思ったら今度は魔術に関してエリートだらけのAチームの裏切りで、地球漂白だってさ。はぁ、なんでこう休む暇がないんだよ。
「おっと、そろそろアタシは行くよ?リッカ」
「構わないよ、アタシも少ししたら行くからさ」
ドレイク姐さんとは気が合うんだけど、豪快すぎてついて行けない時がある。絡んで来る黒髭には毎回、正拳突きだ。
「マスター、これから拙者に、おぼろげぇ!?」
「ウザい、近づくんじゃねえ」
「し、辛辣!でもそれはマスターが素直じゃな、えころじぃ!?」
「余計な事を言ったら玉を蹴り潰す」
今、拳を入れ込んだ相手が黒髭。これでもサーヴァントでそこそこ強いし、本物の悪党だってんだから侮れない。ヤクザの娘だって言っても私は人間で相手はサーヴァント、本物の悪党には叶わないし、勝てる気もしない。
「ったく、マシュの顔でも見に行くかな」
食堂へ赴くとサーヴァント達が一斉にこちらを見る。まるで学校に転校してきて紹介を受けている奴の気分だ。
「よう、嬢ちゃん!相変わらずギラついてんなぁ」
彼はキャスターのクーフーリン、一番初めに協力してくれたサーヴァントだ。最も世話焼きっぽいけど嫌いじゃない。
「好きでギラ付いてる訳じゃないっての」
「おーおー、怖い怖い」
両手を軽く上げた後、クーフーリンは去っていった。朝食の和食を台所担当になっている赤い外套のエミヤから受け取り、席を確保して食事を始める。
「あ、先輩。おはようございます!今日はスーツなんですね」
「マシュ、おはよ。今はこれがしっくりくるからね~」
「カルデアの制服もお似合いだと思いますけど・・・」
「あれはあれで着易いんだけどね。今はこーれ」
今話しているのはマシュ・キリエライト。私の事を先輩と呼んで慕ってくれている一人で、初契約したサーヴァントになるのかな。正確にはサーヴァントじゃないらしいけど、其の辺の事は難しくてよく分からない。
「あ、もう食べ終わってしまったんですか?」
「私は喋っていても食事は進ませるタイプだからね。それじゃ、また後でね?」
「はい!」
私は休憩室に向かい、またパイポを吸い始める。するとそこへピンク色の髪をした女性と紫色のドレスに身を包んだ女性が近づいて来る。
「マスター!?また、煙草吸いの真似事かしら?」
「メイヴか。別に良いでしょ、本物じゃないしさ」
「似合っているとは言い難いがな」
「スカサハ・スカディ?珍しいね、またメイヴに振り回されてるの?」
「む・・・」
私はパイポを咥えたまま歯を見せるようにカラカラと笑った。この二人はメイヴがスカディを振り回しているのをよく見ているので、楽しくなってしまう。
言うなれば幼馴染の女の子が二人いて一方はギャル系になった子、もう一方はお堅いお嬢様のような子だ。正反対でグイグイくるメイヴはスカディにとっては戸惑うが新しい目線を見させてくれる相手らしい。
まぁ、メイヴからしたら自分の知っているスカサハとは全く違うからそのギャップにやられてるんだけど。
「あ、忘れてたわ。これからネイルしに行くからじゃあね」
「わ、私も行くのか?」
「当然でしょう?」
「あ、ああ~!」
「相変わらずだなぁ。あれで恋多き女、私達の言葉ではビッチって言われてんだものなぁ・・・」
ふぅ、と私は紫煙を吐き出すような仕草をする。正直、私はダヴィンチちゃんや人間の心理に詳しいサーヴァントからメンタルケアを受けている。
当然といえば当然のこと。いきなり、家族も友人も何もかも失っていきなり人理を救えとか言われたんだもの。怖くて仕方が無かった、誰も助けてくれない頼れない。
一時はどうして応募してしまったのかとも考えた。前の所長であったオルガマリーとは良い友人になれそうだったのに、レフ・ライノールという野郎に殺された。
「・・・・っ」
今思い出しただけでもムカついてくる。あの野郎は人間じゃなかった、アイツの正体は・・・いや、止めておこう。でも、オルガマリーに関してだけは本当に悲しかった。
彼女は私と同じだった。彼女の場合、魔導の家系に産まれ、マスター適性がないにも関わらず懸命に努力した。誰も認めてくれず、誰も頼る人がいなかった。
私も幼年期以外で褒められた事は一度もなかった。今の年齢から誰からも一歩引かれ、自分も引いていた。認められても形だけで、みんな私の裏にある極道という肩書きを恐れ、私自身を見てはくれなかった。
だからこそ、私はオルガマリーに憧れていたんだと思う。同性恋愛って意味じゃなくて尊敬という意味で。
誰から認めらなくても強がって弱さを見せないように努力してきた事も、プライドの裏には優しさがあるってことも。
「ぷっ・・!」
パイポを口から自分の足元に吐き出し、足で踏み潰すと私はそれを拾い上げゴミ箱に捨てた。
「はぁ・・・おセンチになっちまったよ。周回に行こ」
人類最後のマスター、そんな肩書きと共に私はAチームと戦う事になる。願わくば誰か一人でも知り合いが味方になってくれることを信じて。
はい、私のカルデアでのぐだ子の小さな話です。
もっと見たいという方や、このサーヴァントとの絡みが見たいという方は感想をくださいませ。