鬼殺の詩人   作:八ッ葉

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目覚め

「ここは…どこだ」

 

深夜を回っている夜にある一人の男が目を覚ました

 

「何でこの姿になってるんだ…」

 

自分の腕を見てあり得ない物を見る目で見ていた

 

今にも折れてしまいそうな細い腕に、刺青がびっしりと入っている腕に

 

「ッ…」

 

近くにある小川に向かい月明かりに照らされた川を覗き込むと。

「あぁ…やはりな…」

 

自分の今の姿を再認識させられた

 

 

男の顔は痩せこけていて 髪はウルフヘアと呼ばれる髪型になっており とにかく健康とはいえないような状態の顔をしていた。

 

「服装も変わってないのか…」

 

次に服装にも彼は予想通りという反応を見せた

 

黒いノースリーブのコートを着用していて上半身の露出が多く服とは呼びがたい格好をしており 黒い長ズボンとサンダルを履いていた

 

「一体どうなってるんだ あの時“奴”と一体化したはずなのに まさかまた俺は”別れて“しまったのか」

 

彼が自分の今の状況をブツブツと口にだし思案をしていると

 

『よお、起きたか』

 

今の状況には場違いな声が彼の耳はとらえ声のする方へ首を動かすと

 

「お前は…」

 

青い鳥が羽ばたきながら浮いていた 大きさは鷲と同じかそれ以上の大きさの鳥であった

 

 

『おいおい 俺の事忘れちまったのかよ』

 

「忘れるわけが無いだろうその姿でその喋り方は嫌でも記憶にこべりつく」

 

『ならいいけどよぉ お前…今混乱してるだろ』

 

「あぁ…」

 

『まあ無理もねぇ 実は俺もさっき意識がはっきりしてきたところでよ “あいつ”と”俺ら“が殺り合って負けたところまでは覚えてんだがよぉ』

 

 

「どうだったんだ “あいつ”と殺り合って」

 

『見事にぼろ負けさ 最後まで悪態ついてやがったが悪い気はしなかったな』

 

「そうか…」

 

『っと いけねぇいけねぇ 思い出話をしてる場合じゃなかった』

 

そういうと青い鳥は話を切り上げて

 

 

『まずここなんだが何処かの山の中だ 一応山を上から見渡して見たが 囲うように紫色の花が咲いてやがった』

 

「他には?」

 

 

『何か刀を持った人間のガキどもと 人間じゃねえ存在が戦ってるのも見たな』

 

 

「人間じゃないもの?」

 

 

『あぁ…ガキどもは“鬼”とか言ってたけどな』

 

 

「鬼…」

 

 

彼が思い浮かんだのはある存在だった

 

 

「“奴等”とは違うのか?」

 

 

『あーなんつーか気配は似てんだけどよ 何か別物って感じがするんだよな』

 

 

「ふむ…」

 

 

少しの間考え込み

 

 

「自分の目で確かめよう」

 

『言うと思ったぜ ってなわけで少し待ってろ』

 

 

「何処に行く」

 

 

『なーに渡すものがあるんだよ』

 

 

そういうと何処かに羽ばたいていったが

 

 

『お待たせちゃん』

 

 

戻ってくるのは早かった

 

「早いな」

 

 

『少ねえからな持ち物は ほれ』

 

 

そういうと青い鳥は足でつかんでいたものを男の目の前に置いた

 

 

「これもあるのか…」

 

 

そういって手に取ったのは先端が尖っている杖や

“V”と大きく表紙に書かれていた本だった。

 

 

『そんじゃ行こうぜー“V”』

 

「行くか“グリフォン”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く…はぁ…はぁ…」

 

 

『狐小僧ぅ 大人しく俺に喰われろぉ』

 

 

「断る…!」

 

今この場で異形の存在と少年がにらみあっていた

 

 

異形の存在は普通の人間と比べるまでもなく巨大な体をしており太い腕が何本も巻き付いていた。

 

対して少年の方は宍色の髪をしており右頬に大きな傷痕があり狐の面を側頭部につけている。

 

 

両者共ににらみ合い 少年の方が刀を構え直しいつでも動けるようにしている

 

『くっくっくっ 鱗滝の弟子を今回も殺すことができるとはなぁ あぁ…あいつの弟子を自分が殺してしまった責任に押し潰される姿が目に浮かぶぞぉ』

 

 

異形の存在“手鬼”はそういって手を口にあたる部分に添えてクスクスと笑っていた

 

 

「貴様ァ!!!」

 

鬼の挑発だとわからずに少年“錆兎”は激昂し手鬼に向かっていった

 

 

シィィーーーー

 

 

独特な呼吸音が響き刀を技を繰り出すために構え直した

 

『馬鹿め!!』

 

 

手鬼は腕を錆兎に向けて伸ばしていき捕まえようとした

 

 

シィィーーーー

 

 

しかし錆兎はその腕をかわしながら手鬼本体の頚に向かっていき

 

 

――水の呼吸・壱の型 水面切り

 

 

技を繰り出し刀を覆われている腕ごと頚を切ろうとした。

 

 

パキィン

 

 

 

しかし無情にも刀は中ほどで折れてしまい錆兎は呆然としてしまいその一瞬を手鬼に突かれてしまった。

 

 

「グッ!ぐぁぁ!」

 

 

錆兎は手鬼の巨大な手に掴まれてしまい身動きが取れなくなった

 

『ははははは!鱗滝ぃ!!お前のせいでまた弟子が死んだぞぉ!ははははははは!!』

 

 

手鬼はそういって錆兎の頭を握り潰そうと頭に手を伸ばした。

 

(あぁ…くそ!くそ! すみません鱗滝さん…俺は駄目な弟子です この鬼を殺せなかった 兄弟子たちの無念を晴らせなかった…)

 

 

錆兎の脳裏に様々な人の顔が浮かんでいき走馬灯のようなものを見ていた

 

 

(義勇…真菰…あとは頼んだ)

 

 

最後に弟弟子と妹弟子の顔を思い浮かべて瞼を閉じた

 

 

 

 

 

パシュン! パシュン!

 

そんな音が聞こえたと同時に錆兎の体が重力に従い落ちていった

 

 

「………え?」

 

『な、なんだ!?何故腕が焼き切れているんだ!』

 

すると錆兎の背中部分をなにかに掴まれて飛んでいた

 

 

『はっはー!危機一髪ってなぁ!!』

 

おちゃらけた声が聞こえ何かと錆兎が背中の方に目を向けると

 

 

「鳥?」

 

 

青い大きい鳥が錆兎を掴んで飛んでいた

 

 

『おいおい坊っちゃん 死に急ぐもんじゃねぇぜぇ まったくよー』

 

 

「しゃ…喋ってる…」

 

 

『ああん? あぁ…そうか普通は喋らねぇよなぁ

こりゃうっかりしてた』

 

 

すると後ろから

 

 

『まあぁぁぁぁてえぇぇぇぇ!!!!そのガキを返せー!!!』

 

 

先ほどの手鬼が追ってきていた

 

『うお!気持ちわりぃ! ニーズへッグよりかはましだがそれでも気持ちわりぃ!』

 

 

「おい!一体何処に連れていく気だ!」

 

 

『あぁ!?目的地なんてねえよ!』

 

 

「はぁ!?」

 

 

『逃げてるんだよ!!』

 

「ふざけるな!鬼に背を向けて逃げるだと!?そんなもの“鬼殺隊”の名に泥を塗ってしまう」

 

 

『人間の命は一回きりだぜ!坊っちゃん!死に急ぐなってぇの!」

 

 

「ふざ…けるな!」

 

 

『おい!暴れんなって!』

 

 

スルッ

 

錆兎はジタバタと暴れ、グリフォンの足を無理矢理引き剥がした。

 

 

『やっべ!離しちまった』

 

 

『はははははは!!死ねぇガキーー!!』

 

今度こそ錆兎は終わりだと思った 瞬間自分のやったことを後悔した。

 

 

(あぁ…くそ…死にたくないのに…なんで俺はこうもバカなんだ… 逃げることを恥だと思うなんて)

 

 

手鬼の腕がもう一度錆兎を捕らえるべく手を伸ばしてきた

 

パシュン! パシュン!

 

 

すると伸ばした手が先ほどの鳥の位置から飛んできた光弾によってまたもや焼かれた。

 

 

『があぁぁぁぁぁ!!!!このくそ鳥めぇぇぇぇ!!!!邪魔をするなあぁぁぁ!!!』

 

 

『おうおう単純な脳ミソしてるからキレやすいのかよお前』

 

 

『許さぬ!!許さぬ!!許さぬーーーー!!! まずは貴様からだ!くそ鳥ぃ!その羽を折ってズタズタにしてやるーー!!』

 

 

「おい!逃げろ!逃げてくれ!」

 

手鬼がグリフォンに向けて攻撃をしようとしたときに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“我は嘆き悲しみ自らの星を呪う我が愛しの人をかくも高め 我を低めし星を”」

 

 

男の声が聞こえた瞬間手鬼と錆兎は声のした方に振り向いた

 

 

そこには上半身に刺青がびっしりと彫られた黒髪の男が立っていた

 

左手には本を開きそれをじっくりと見ており 右手には白い杖を軽く回しながら歩いていた

 

 

(誰だ?…最終選別の説明の時にはあんな奴いなかった筈だ)

 

錆兎がそう思っていると

 

 

『貴様も俺の邪魔をするか!痩せ細っていて肉も少なさそうだが貴様から食ってやる!!!!』

 

 

手鬼が男に向かって腕を伸ばしていき男を掴もうとしていた。

 

 

「おい!何してる!逃げろ!」

 

 

錆兎が声を荒げて男に逃げるように言った。

 

 

 

「…………」スッ

 

 

 

すると読んでいた本を閉じ 杖の持ち手の方を手鬼に向け

 

 

ズズズズ

 

 

杖から黒い影のようなものが溢れていき。

 

 

 

『グォーーー!!!!ガルルルルル!!!!』

 

そこから黒い豹が飛び出していき手鬼に向かって走っていった。

 

『な…!!』

 

 

手鬼は予想外のことに驚いてしまい一瞬の隙を作ってしまった。

 

 

豹はそのまま手鬼に走っていきそのまま懐に向かって体を丸めながら飛び掛かった

 

 

ジャキン!

 

 

すると豹の体が手裏剣ような形になり手鬼の体を何度も切り裂いた

 

 

『ぐぁぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

 

豹の攻撃が終わり離れた瞬間

 

 

スンッ

 

 

手鬼の体が白色に近い色に光り 手鬼もその色になり倒れ込んでしまった。

 

 

『貴様ァ…! 何をしたァ…!』

 

 

男はそのまま手鬼へと向かっていた。

 

 

「おい!何してる!危険だ!日輪刀もなしに安易に近づくな!」

 

 

錆兎がそう声を荒げるが。

 

 

「“迷い子よ…”」

 

 

男は持っていた杖の真ん中を左手に持ち替え右手を持ち手に添えて

 

 

「“家へと帰れ”」

 

 

そのまま手鬼の眉間に杖を突き刺した。

 

 

『あ”!あ”がァ!』

 

 

そしてそのまま深く突き刺し。

 

一気に引き抜いた。

 

 

 

『グウゥ……!』

 

 

そして手鬼はそのままどんどん灰になっていった。

 

 

「倒……した……?」

 

 

錆兎はその光景をあり得ないと思いながら見ていた

 

 

日輪刀でもなんでもない ただの杖を眉間に刺しただけで太陽に当たったかのような状態になっていった鬼とそれを実行した男を

 

「お前は…一体…」

 

 

 

 

 

「“名前などない 生まれて2日目だもの”」

 

 

 

「……は?」

 

 

 

「冗談だV(ブイ)と読んでくれ」

 

「それ偽名だろ…本当の名前を教えてくれ…」

 

 

「この名前がしっくりくるんだ だからVと名乗っている」

 

 

 

「そ…そうか 質問いいか? ぶ…ぶい…?」

 

「呼びづらそうだな」

 

 

「しょうがないだろ…それ英語だろ? 俺ら日本人はそこまで発音よく話せないんだよ」

 

「なるほどな まあそのうち慣れるだろう 」

「あぁ…じゃあ質問だが…ウッ…」

 

 

錆兎の視界が揺れだしそのまま錆兎は倒れてしまった

 

 

『あらら 緊張の糸が切れちまったらしいな』

 

「おまけに気力だけで動いていたようなものだろうな 少し隈も出来ている」

 

 

『はぁ…どうするよVこいつこのままここに置いてくつもりか?』

 

 

「いや 向こうから人が来てるそいつらに任せよう」

 

 

『んじゃあ俺らは下山するか とりあえず山を降りてからこれからの事考えようぜ』

 

「よし ならば行こうか」

 

 

そう言い 錆兎に背を向けて歩こうとした瞬間

 

「ま…て…質問を…していないぞ」

 

 

錆兎が僅かに目を開けておりVを引き留めようとしていた

 

『おい マジかよ スゲーなこいつ気力だけで目さましやがった』

 

「その状態では聞くものも聞けんだろう また会う機会があったらその時は質問に答えてやる」

 

 

そうしてVは振り返らず足元に先ほどの黒豹“シャドウ”が影のような形をして出現しそれに乗り錆兎の元を離れていく

 

「く……約束……だからな…」

 

 

そうして錆兎は瞼を閉じた

 

気を失う直前に弟弟子の声や他の最終選別の試験者たちの声が聞こえた

 

 

「おい こっちにいたぞ!」

 

 

「死なせるんじゃないぞ 助けられっぱなしはごめんだ!」

 

 

「すぐに入り口付近に戻って彼を治療するぞ!」

 

 

「錆兎!! しっかりしてくれ! 錆兎!」

 

 

(はは…死んでる訳じゃないのに…大袈裟な奴等だ…)

 

 

そう思って 錆兎は意識を手放した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 

重い瞼を開け 見覚えのある天井の木目が錆兎の前に広がっていた

 

「ここは…まさか…」

 

 

「錆兎!!」

 

突然少年の声が聞こえて 驚きながら声のする方へ顔を向けると

 

「義勇…? お前がいるということは やはりここは鱗滝さんの…」

錆兎がそう考えていると 長い髪を後ろで結び年相応の顔をした少年“富岡義勇”が錆兎に抱きついてきた

 

「おい!義勇!」

 

 

「良かった…! 錆兎ぉ… 生きてて良かったぁ…!」

 

 

「はぁ…まったくこの泣き虫め…」

 

 

そういうと錆兎は抱き締めている義勇の背中を優しく撫でていた。

 

 

「錆兎」

 

突如男性の低い声が聞こえ錆兎は声の主の方へ顔を動かすと

 

「鱗滝さん…」

 

 

赤い天狗の面を着けた老年の男性が座っており 立ち振舞いから強者の貫禄を出している男“鱗滝左近次”がいた

 

鱗滝はそのまま錆兎の元に近づき義勇と一緒に優しく抱き締めた。

 

「よくぞ…戻った…流石は儂の自慢の弟子達だ…」

 

 

「はい…!ありがとう…ございます…!」

 

錆兎は大粒の涙を流して鱗滝に感謝の念を伝え 鱗滝自信も天狗の面から涙が溢れていた。

 

 

「もぉ…錆兎も義勇と同じ泣き虫じゃない…」

 

今度は可愛らしい少女の声が聞こえ錆兎はその少女の顔を見た

 

どこかふわふわするような雰囲気を出していて 髪は毛先が跳ねていて花柄の着物を着ている少女“真菰”がいた

 

真菰は気丈に振る舞っているが目を潤ませていた

 

「お前だって…泣きそうじゃないか…」

 

「もう生意気…でも…お帰りなさい…錆兎…!」

 

 

我慢の限界だったらしく真菰は涙を流しながら錆兎に抱きついてきた

 

「生きててくれて…!ありがとう…! 私を残さないでくれてありがとう…!」

 

 

「お前を…残すわけにはいかないからな…」

 

 

狭霧山の麓にある家は悲しみの涙でなく喜びの涙が流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その頃Vは

 

「とりあえず情報収集だな 今の時点では俺らが何故あそこにいたのかも鬼についてもわかっていない」

 

『だな それに俺らがいた時代とも違うみてぇだしよ 街に行ってその辺りがわかりゃいいが』

 

 

一人と一匹はあの山から街へ続く道を歩いていた

 

 

なぜここにいるのかを なぜ自分の姿がVであるのかもこれから探るために…

 

 

『長い旅になりそうだなぁ』

 

 

「命が続く限り探し続けるだけだ」

 

 

そうして 旅は始まった


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