狩人の頂   作:ばるむんく

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MHFもサービス終了してしまったので、何かしらの形で私の記憶に残しておきたいと思い、この小説を書き始めました。

以前書いて、消してしまったフロンティアの小説から設定をそのまま引っ張って来ているのでもしかしたら、何処かで見たことがある、という人もいるかもしれません。

時系列としてはシーズン10ぐらいからスタートになっています。
私はG6から始めたので、実際の過去とは少し違う部分も多々あると思います。




最前線(フロンティア)

「大型竜の捕獲個体が通るぞ! 道を開けてくれ!」

 

 タンジア──それは貿易商人ならば誰もが一度は行きたいと夢見る港である。扱われる物資の量は周辺地方では随一であり、訪れる商人や船員、釣り人、そしてモンスターを狩る数多くのハンターたちによって活気に満ち溢れている場所である。四方八方を海に囲まれた港に存在するタンジアギルドを中心に形成されているこの港町は、かつて伝説の黒龍を打ち倒すために拠点として使われたことが始まりであるとされる。現在はその圧倒的なまでの活気故に「船乗りのオアシス」とも呼ばれていた。

 そんなタンジアの港にはかなりの規模のハンターズギルドが存在している為に、竜の生態研究所も併設されている。故にハンターが捕獲したモンスターたちが運び込まれることも多いのだが、モンスターの大きさによっては大通りを進める以外に研究所に運ぶ術がない故に、人で溢れているタンジアの大通りが真っ二つに割れることも稀に見ることができる。最も、そこまで大きな個体が捕獲されることの方が珍しいことではあるが。

 

「あれは……何のモンスターなんだ?」

「さぁ? 私たち下位ハンターに狩猟が許可されてないのは確実ね」

 

 当然タンジアの大通りには行商人や船乗り以外にもハンターが歩いているのだが、こうして下位ハンターが自分では狩ることもできない大型モンスターを身近に感じることができる貴重な機会にも恵まれているので、かなりの人がモンスターの輸送は注目を集める一種の祭りの様な物である。

 

「お、()()()じゃないか! そいつは?」

「んー? あぁ、ブラキディオスだよ」

「新種の? 通りで見たこと無い訳だ」

 

 モンスターを運んでいる荷車に座っていた男に気付いた何人かのハンターが、名前を呼びながら手を振っていた。愛用のスラッシュアックスの刃毀れを確認していたジークは、名前を呼ばれた方向へと視線を向けていた。

 

「これが、ブラキディオスか……」

「こ、こんな姿をしてるのか」

「コイツが最近火山で暴れてアグナコトルを倒したっていう……おっかねぇな」

 

 ジークと他のハンターたちの会話から、周囲の行商人や下位、上位ハンターたちが運ばれている、最近火山で発見された『砕竜ブラキディオス』の捕獲個体を見つめていた。まだ発見されてからそれほど時間が経っていないが故に、その希少性に大通りの全員が視線を向けている中、ジークはブラキXの頭防具を横に置いたまま荷車から降りた。

 生態研究所から大慌てで飛び出してきた所員たちは、まるで子供の様に目を輝かせながらブラキディオスの甲殻を見つめていた。

 

「お待ちしてましたよジーク君! これが、G級個体のブラキディオスですね!」

「あぁ。俺は何度か会ったことがあったが、G級個体を捕獲したのは初めてだったな」

「はい! この日をずっと待ち望んでいたのです!」

 

 捕獲されたG級個体のブラキディオスという途轍もないほどに珍しいサンプルを前にして、興奮した様子の研究員に少しばかり引きながら、ジークはブラキディオスを研究所へと引き渡した。

 

「ジーク、明日あたり暇か?」

「いや、マスターに呼ばれてんだ。もしかしたら緊急の依頼かもしれないから、また後にしてくれ」

「へいへーい」

 

 また新たに現れたハンターたちに声をかけられたジークは、簡単に返しながらギルドマスターの待つ集会場に向かって歩き始めた。

 

 


 

 

「おう、よく来たなジーク」

「また昼間から飲んでんのか……エリナに吹き飛ばされても知らないからな?」

「まぁそう言うな」

 

 シー・タンジニャで飲んだくれているギルドマスターの姿に、ジークはため息を吐きながら適当な腹ごしらえの為に料理を頼んだ。大銅鑼を叩くことに対して並々ならぬ想いを持っているエリナに、以前酔った勢いで受付嬢であるキャシーに絡んで吹き飛ばされた過去があるギルドマスターは、ジークの言葉に苦笑しながらタンジアビールを豪快に飲んだ。

 

「ぷはぁ……」

「それで、俺に話ってなんだよ。また何かの依頼か?」

「依頼に近いと言えば近いな」

 

 妙に歯切れの悪いことを言うギルドマスターを、ジークは訝し気に眺めながら出されたタンジア鍋をつついていた。普段から酔っぱらってはセクハラしたり、ハンターに絡んだりしているギルドマスターの真面目な姿など、ジークはG級昇格試験の話をされた時と、煉黒龍撃退戦の時にしか見たことが無かった。だからこそ、それに並ぶ話を今から聞かされるのだと理解したジークは、タンジア鍋をつついていた箸を置いた。

 

「お前に、良いものをやろうと思ってな」

「良いもの?」

「あぁ。一部のハンターからしたら喉から手が出るほどのものだ」

 

 良いものと言われても、ジークはモンスターの素材以外に対する物欲が薄く、金を貰ったところで装備の新調や整備にしか使わないほどの徹底っぷりである。

 神妙な顔のまま内側の胸ポケットからギルドマスターが取り出した物は、一通の手紙だった。

 

「これは?」

「ドンドルマへの推薦状じゃ」

「……俺はドンドルマに行くつもりはないぞ?」

 

 世界の中心とも言っていい場所であるドンドルマには、当然タンジアに出回るクエストよりも危険度の高いクエストがあることは、ジークも理解していた。ドンドルマには最高峰のハンターたちが集い、大規模な街として機能していることも。それでも、ジークはタンジアを離れるつもりなど微塵もなかった。

 

「俺は別にここで生まれた訳でもないし、ハンターの頂を目指してみたいとも思っている。だからといって今いる仲間と別れてドンドルマのハンターになる気はない」

「アホ……それは大老殿に御座す大長老へと推薦する手紙じゃ。そして、内容はお前をドンドルマへと推薦するものではない」

 

 ドンドルマを統治する大長老へと宛てた物でありながら、ドンドルマへと送り出す手紙ではないと聞き、ジークは一層怪しそうにギルドマスターを見た。

 ギルドマスターは相も変わらず似合わない真面目な顔をしたままタンジア鍋を食しながらタンジアビールを一口飲んだ。

 

「それは、お前を()()()()()()()()()()()()()()()

「──何?」

 

 真剣な顔でジークを見ながら言うギルドマスターの言葉に、ジークは一瞬息を止めた。驚愕に目を見開かれたジークを、ギルドマスターはそれでも真摯に見つめていた。

 

「メゼ、ポルタ……ハンターの最高峰の?」

「そうじゃ。この大陸からドンドルマがある大陸を挟んで更に向こう側の大陸……フォンロン地方に存在するハンターズギルド」

「ハンターの最前線(フロンティア)、か」

「やはり知っておったか」

「当たり前だろ。ハンターの間では伝説とまでされる場所だぞ」

 

 メゼポルタとは、フォンロン地方に存在するバテュバトム樹海の北方に位置する地名であり、現在はメゼポルタギルドが中心となってドンドルマから完全に独立してクエストを捌いている場所である。何故メゼポルタが開拓地と言われたり、伝説とまでされているかと言うと、その危険性にあるからだった。

 

「メゼポルタと言えば、技術が途轍もない勢いで発展して、今では世界で最も技術力の進んだ場所とまで言われている所だろ?」

「あぁ……問題は、メゼポルタに回っているクエストの危険度。ドンドルマにいる世界最高峰のハンターたちと言われるギルドナイトですら討伐できないモンスターの依頼が出回る地。更にはその技術力の高さから、前人未到の自然へと分け入りながら進み、新種モンスターの発見を任されることも多い。故に最前線──当然メゼポルタに所属するハンターの強さは……ギルドナイトなど並ではないほどだ」

 

 普通に狩りをすれば古龍種すらも狩ることができる集団であるギルドナイトですら手に負えない、G級としてすら認定することが許されない危険なモンスターを狩ることのできるハンターが集団で所属するギルド。それがメゼポルタだった。

 

「最近だと文献にも載っていなかった新種()()()()()()()()()を発見し、討伐したのだってメゼポルタだった……そんな場所で俺が通用すると思うのか?」

 

 大巌龍ラヴィエンテは、その体長を正確に測ることすらできないほどの巨体を持ちながら、メゼポルタ近海に海底火山の噴火と共に現れた正にこの世の災厄。その存在をハンター三十二人がかりで討伐した話は、大陸一つを挟んだ遠くタンジアにまで届いていた。

 ジークの腕前は、はっきりと言ってしまえばタンジア最強だった。それ故に伝説の存在である煉黒龍の撃退戦でも最前線で戦っていたのだ。そんなジークですら、ハンターの最前線であるメゼポルタで戦えるかと言われたら誰もが首を捻るだろう。

 

「恐らく、良くてメゼポルタの上位ハンターってところだろうな」

「……だったら俺が行く必要なんて」

「じゃが、一年もメゼポルタでハンターをしておればお前はきっと最前線を走っていると確信しておる」

 

 まるで子供の成長を期待する父親の様な優しい光を瞳に浮かべながら見つめる姿に、ジークは戸惑うように視線を逸らした。

 

「今すぐに行けとは言わん。じゃが、お前さんはこんな狭い大陸で腐らせるには勿体なさすぎる」

「腐らせるって……まぁ、ハンターの頂を目指したくない訳ではないが……」

「なーにをうだうだ言ってんだよ!」

 

 ギルドマスターの言葉にいつまでも渋るような言葉ばかりを並べるジークは、いきなり背中を思い切り叩かれた。突然に何が起きたのかイマイチ理解できていななかったジークは、背後にいるであろう自分を叩いた人間の顔を見るために振り向くと、そこには数人のハンターが立っていた。

 

「え、何でお前ら……」

「シー・タンジニャで話してれば周囲には聞こえるもんだろ?」

「それを想定してギルドマスターはここで喋っているに決まっているでしょう……」

「ま、ちょっと早かったせいで話の腰を折った気がするが」

「気にするなマスター! タンジアビール後で奢るからよ」

 

 ジークが駆けだしだったころから交流のあるハンターや、G級になってから繋がりができたベテランのハンター。まだまだ新人で危なっかしくてついつい手伝ってしまったハンターや、共に死線をくぐり抜けてきたハンターもいた。

 

「お前がいなくなるのは寂しいけどな、それ以上にお前が活躍するのを期待してるんだよ」

「そもそも、貴方が黒龍を撃退した時からどんな形でも私たちよりも先のステージに進むことは予感していました」

 

 角竜ディアブロスの装備に身を包んだ屈強そうなハンターに思い切り肩を叩かれ、桜火竜リオレイア亜種の装備に身を包んだ清楚な女性に苦笑されながらも、ジークは全員にメゼポルタへと行くことを祝福されていた。

 

「でも、俺は……」

「……じゃあこうしよう。向こうで実力が通じなかったら帰ってくるといい。その時は、わしの目が狂っていたってことにしておく」

「そんなことない! アンタの目が間違っていることなんて──」

「だったら、お前がそれを証明して来てくれ」

「──……」

 

 朗らかに笑いながら言うギルドマスターに、ジークは言葉も出なかった。ここまでギルドマスターに信頼されて、同僚とも言えるハンターたちに祝福されて、タンジアでハンターを続けることが果たして本当に恩返しになるのか。そんな愚問、ジークは聞くまでもないと言わんばかりに目を閉じてから覚悟を決めた。

 

「分かったよ。アンタの目に狂いは無いって、証明してやる」

「そうかそうか……なら、祭りだ!」

「おぉ! ギルドマスター主催の祭りだぞ!」

「騒げ! 飲め呑め!」

 

 自らで踏み出す覚悟を決めたジークは、ギルドマスターの手に握られていた手紙を手に取った。次の瞬間に始まったギルドマスター主催の祭りは夜通し行われ、多くのハンターや船乗りがジークの門出を祝った。

 翌日、タンジアからメゼポルタへと向かうことになったジークは、別れを惜しむ仲間たちとギルドマスターたちに笑顔で手を振りながらシュレイド地方へと向かう船に乗り込んだ。いつか必ず、メゼポルタで得た名声を手にギルドマスターへと会いに行くことを誓って。

 

 


 

 

 メゼポルタが存在するフォンロン地方に行くには、タンジアの港が存在する大陸からはドンドルマの存在する巨大な大陸を横断する必要があった。

 タンジアから船で大陸へと向かったジークは、シュレイド地方に存在する最大の街ミナガルデを一つ目の中継地点とし、そのままシルトン丘陵の横を通り抜けて大陸中心に存在するドンドルマへと向かった。

 ドンドルマの大長老へとタンジアギルドマスターからの手紙を見せると、ドンドルマハンターズギルドがすぐにアプトノス二頭による荷車と護衛のハンターを用意し、それに乗ってジークは大陸東へと進んだ。ゴルドラ地方と北エルデ地方の合間を縫って大型モンスターに出会わないように荷車を進めながら、ジークはテロス密林から再び船によってフォンロン地方を目指した。

 

「結局……結構時間かかったな……特にゴルドラ地方がでかすぎる……」

 

 ジークは結局生まれた大陸から一度も出たことが無かったので、あそこまで広大な大陸を見たことが無かった。元々いた大陸ではどこまで大きくても所詮は砂の海であり、砂上船で適当に移動できてしまう以上あまり広大に感じることが無かったのだ。

 

「それで、ここを真っ直ぐ歩いて行けばメゼポルタハンターズギルドが取り仕切るメゼポルタ広場と、その周辺の露店が見えるっと」

 

 テロス密林からフォンロン地方まで送ってくれた船長に貰った地図を見ながら、ジークは鬱蒼と生い茂る樹海の中で舗装された道を歩いていた。装備も全てタンジアに置いてきたジークは、普段着のまま樹海を歩くことに少しばかり危機感を抱いていたが、偶にすれ違う行商人たちの様子を見てこの道にはモンスターが殆ど出没しないのだと理解した。

 

「おぉ……ドンドルマから大陸一つ離れているはずなのに、それなりには活気があるんだな」

 

 森が開けた先にひろがっていたメゼポルタの光景を見て、感心したようにジークは周囲を見渡していた。

 民家と思えるものが極端に少なく、どちらかと言うと商業の為に訪れた行商人たちが宿泊する為に建てられている様なものばかりであり、人間の営みの中心からは離れているのだと理解できる。立地の問題なのか、かなりの頻度で古龍種だったり他の大型モンスターだったりがメゼポルタへと向けてやってくることがあるので、人が定住しないのは当たり前のことだが。

 メゼポルタは危険も多く人が住むにはあまり適さない場所ではあるが、世界最高のハンターたちが揃う地であり、未開拓地への調査も多い故に、商業がとても盛んな場所である。

 

「人が滅茶苦茶多いって訳ではないが……職人が多いな」

 

 武器職人やら大工やらが沢山歩いている大通りを、ジークは真っ直ぐにメゼポルタ広場へと向かって歩いていた。

 しばらく歩けば人通りが少なくなっていくのと同時に、見たことも無い素材でできた装備を纏ったハンターなどが歩いている姿も見え始め、遂にメゼポルタハンターズギルドへとやってきたことを実感し始めてジークは緊張していた。

 人通りが完全にハンターメインになったところで、大きな装飾によって飾り付けられている入り口が見えていた。丁度人通りが多い昼間についたジークは、階段を上がってハンターたちが歩いているのを上から見ているだけで満足しそうな気持になっていた。

 

「こんにちは、メゼポルタ広場へようこそ」

「え……あ、すいません。前ばかり見ていて気が付きませんでした」

「ふふ、丁度柱の陰になっていますからね」

 

 ぼーっとハンターたちを眺めているジークは、横からいきなり声をかけられて肩を震わせてそちらへと振り返った。紫色を基調とした独特な服装をしている女性を見て、瞬間的にハンターズギルドの関係者なのだとジークは悟っていた。

 

「申し遅れました。私、広場の入り口で案内人をしています、エフィーと申します。分からないことがあったら何でも聞いてくださいね」

「は、はい」

 

 どうして何処の受付嬢も奇抜な格好をしているのだろう、と思いながらもエフィーの言葉に頷いたジークは、視界の端からこちらに向かって歩いてくる筋肉質な男が見えていた。その男性の姿を見て、エフィーはくすりと笑みを浮かべている。

 

「ようこそ、メゼポルタ広場へ。私は新人ハンターの研修の様なものを行っている教官だ。エフィー嬢、後は任せてもらっても?」

「はい。教官もお好きですね」

「まぁ、現役を引退した私の楽しみではあるな。マスターとも話し合って決めたことだ」

 

 エフィーと親しそうに話している筋肉質な年寄りな男は、どうやら新人ハンターに自分から声をかけてはハンターの心得を教えているらしい。どうやら正式な職員な訳ではないようだが、ギルドマスターの許可を得てハンターたちの世話をしている。現役時代はさぞ勇敢なハンターだったのだろうと推察できるほどの風格が漂っていた。

 

「では改めて、ようこそメゼポルタ広場へ。私のことは教官とでも呼んでくれたまえ」

「分かりました教官。俺の名前はジークです。それにしても、よく初めて来たってわかりましたね」

「はは、伊達にメゼポルタに住んでいる訳ではない。初めてここを訪れたハンターたちは、皆ここから広場を眺めているものだ」

 

 かなり豪快な性格なのか、大きな声で笑いながらも優しく語りかけるように喋る姿は、正しく教官の姿と言えるだろう。

 

「研修、と言ってもメゼポルタからハンターになるものは少ない。君も、佇まいを見ればわかるが……かなりやり手のようだ」

「はは……恐縮です」

 

 実際、ジークはどんなにリラックスしている時でもある程度の物事には反射できるほどには自然に調和している。その姿は、ハンターの名の通り自然に生きる『狩人』と言えるものだった。そんなジークの雰囲気を読み取った教官は、久しぶりに楽しみな新人が現れたことに期待していた。

 

「まずはギルドマスターへ挨拶と行こうか。取り敢えずはハンターIDを貰っておかないとな」

「ハンターID、ですか?」

「まぁ、個人証明と住所の為に存在する番号とでも思ってもらえばいい。メゼポルタは来るもの拒まず去る者追わず、の精神なのでな」

 

 暗に来るハンターもいるが、活躍できずにそのまま帰ってしまうハンターも多いと言われていると気が付いたジークは、改めて自分が狩りの最前線にやってきたことを理解した。

 

「ここメゼポルタで出回るクエストには勿論簡単な物もある。樹海へのちょっとした御遣いだったり、近場のテロス密林へ行ってファンゴを退治したり、とかな」

「やっぱり、近隣住民との関係は大事ですからね」

 

 近隣住民に目を向けないことにはまず始まらないのは何処のギルドでも同じことである。そもそも近隣の安全すら守れないハンターズギルドなど実力としても存在する価値など無いことは明白である。そんなハンターズギルドだが、メゼポルタ広場はそこまで近隣住民に目を向けている訳ではない。第一に、メゼポルタ広場周辺に危険なモンスターがあまり生息していないこと。第二に、メゼポルタ周辺地域はバトュバトム樹海の様に大きな背の植物に囲まれている以上人が住みにくいこと。第三に、そもそもドンドルマから遠く離れたフォンロン地方には商人以外が滅多に寄り付かないこと。故にメゼポルタハンターズギルドは近隣住民にそこまで気を配る必要もない。

 

「簡単な依頼だけではないのがこのメゼポルタなんだがな。ここメゼポルタがハンターの最前線(フロンティア)と呼ばれる理由は君も知っているだろう?」

「……はい。未開拓地への探索に加えて、通常のハンターが接触するのが極めて危険だと判断された新種のモンスターの調査や討伐。繁殖期に増えすぎたモンスターを減らす役割などを持っているのが、メゼポルタのハンターたち……新天地とも呼ばれる理由は一部の凄腕ハンターたちが行う未開拓地の探索が有名だからですね」

「そうだ」

 

 メゼポルタに生きるハンターの多くは、開拓済みの地にてモンスターを討伐することが多い。そこだけを見るとドンドルマだけでいいと思われてしまうが、問題は未開拓地の調査と新種モンスターの調査である。人が訪れたことも無い自然へ立ち入ることもある為、ハンターの最前線と呼ばれると同時に、人類の新天地とも呼ばれる。

 

「未開拓地への調査は勿論下位ハンターも上位ハンターも行うことが多い。凄腕ハンターと呼ばれる者たちは数が少ないからな。だが……新種のモンスターは何をしてくるか分からない。命を落とすハンターも少なくは、ない」

 

 メゼポルタがハンターたちの最高峰と言われながらも、強さを目指して向かうハンターが少ない理由は、単に生存率の問題だった。メゼポルタのハンターはいつだって死と隣り合わせでクエストに挑んでいる。それは通常のハンターも同じだが、その圧倒的なまでの生存率がハンターという職業がここまで大陸中に浸透している理由でもある。通常のハンターであれば生存率など気にせずに狩猟をできるだろうが、最前線と呼ばれるメゼポルタではそんな甘いことは言っていられないのが現状である。

 

「いずれ知ることなのではっきりと言っておくが……調査に出て一人も帰って来なかった、なんてことは良くあることだ。君も気を付けるといい」

「……」

 

 ハンターとはそう言う職業なのだ。メゼポルタに限ったことではないが、最前線で調査に向かうハンターに待ち受けているのは厳しい環境であったり、危険なモンスターであったりする。それでもハンターになろうとする者が後を絶えないのは、それだけハンターという職業が色々な面で魅力的だからなのだろう。

 

「辛気臭い話は置いておいて……ジーク、君は何処から来たのかね?」

「タンジアの港から来ました」

「ほう、タンジアとな。向こうの大陸から人が来るのは珍しいな……大陸一つ横断するのはさぞや疲れただろう」

「大変でしたね……ギルドマスターがドンドルマに推薦状を書いてなかったらどうなっていたことやら」

 

 実際、推薦状を書いてもらっていなかったらそもそもメゼポルタに来ていないということは置いておいても、歩いて大陸を横断しようとすれば当然一月以上は歩くことになるだろう。

 

「ギルドマスターからの直々の推薦でやってきたのだな」

「まぁ、そうですね。一応G級ハンターを名乗らせて貰っていましたから」

「ほう! 大陸にも一握りしか存在しないG級ハンターとはな。中々の逸材じゃあないか」

 

 ドンドルマを拠点にして動く多くのハンターたちの夢。それが、G級ハンターであった。ギルドナイトとはまた違った方向で狩人として完璧とまで言えるほどの実力を身に着けたハンターの最強格。通常のハンターを歯牙にもかけないほどの個体が現れた時に依頼が回ってくるというG級クエストを受けることが許される唯一の存在、それがG級ハンターである。教官の言葉通り、G級ハンターとして名乗ることができるハンターは、大陸でも一握りしか存在しない。

 

「その年でG級ハンターを名乗れるとは、さぞや大きな功績を残したに違いあるまい」

「そりゃあ……驕りじゃないですけど、一応G級ハンターとしての誇りはありますよ。でもメゼポルタで通用するかと言われたら、あまり自信ないんですけど」

「はははは! 心配するな。外でG級ハンターと名乗っていた者がメゼポルタで大成しなかったことを、吾輩は見たことが無いからな。やはりG級ハンターというのは、どんな環境でも実力を発揮するものなのだろうな」

 

 教官はジークの言葉を聞いて豪快に笑いながら、メゼポルタ広場の中心へと向かって歩いていた。

 

「マスター、新入りだ」

「ん? この時期に新入りか……いや、そろそろ繁殖期も終わり、温暖期も近い。いい時期と言えばいい時期じゃの」

 

 タンジアギルドマスターとどちらが小さいかと比べてしまいたくなるほど、小柄な老人に教官は声をかけていた。手元に持っていた本から目を上げたギルドマスターは、ジークの顔を数秒見つめてから朗らかな笑みを浮かべた。

 

「良い目をしておる……何処から来た」

「た、タンジアです。ジークと言います」

「ほうほう……タンジアから、とな。メゼポルタに来るハンターが年々減っておる中、遠路はるばるよく来たのう。ここでのハンター生活は他の場所とちと違うものになるだろうが……一人前になることを祈っておるよ」

「はい!」

 

 見た目からして、幾年もギルドマスターをやっていることは明確だった。故に、幾人もの新人がその才能を開花させずに帰らぬ人となった報告を聞いたことがあるのだろう。

 ギルドマスターの言う通り、メゼポルタを訪れるハンターは年々減っている傾向にある。理由は当然、危険度が年々更に高くなっているからだ。未発見だったモンスターが発見されるまでは構わないが、そのモンスターが特別危険とあっては常人ならば近寄ることすら忌避するだろう。故に開拓者としてやっていけないと自分で判断してメゼポルタを訪れるハンターが減っているのだ。

 そんな中で大陸一つを挟んで更に向こう側からわざわざやってきたとあっては、ギルドマスターも期待せざるを得ないと言ったところだろう。

 

「では、ハンターIDを発行しよう。と言っても、ただの数字の羅列じゃ。気にすることは無いがな」

「一応、その数字の羅列が君の部屋番号の様な扱いにもなるから、親しくなった者とはどんどん交換していくといい」

「わかりました」

 

 部屋番号と言われてもなんのことかはまだ理解できていないジークだが、そのうち分かるだろうと適当なことを考えながらもそのハンターIDを受け取った。

 

「ふむ。ではこれより君は正式なメゼポルタのハンターとなる。期待しているぞ、ジークよ」

「はい」

「よし、では私と一度狩りに出かけるとしよう」

「わ、わかりました」

 

 ハンターになる為の資格試験までの間に、教官と呼ばれるハンターにみっちりと叩き込まれた三年前よりも以前の研修時代を思い出しながら、ジークは教官の言葉に頷いた。

 

「では私はクエストの手続きをしてこよう。ジークはそこら辺のハンターとでも雑談しててくれ」

「はい……え?」

 

 そこら辺のハンターと雑談をしていろ、と言われてもジークにとって周囲のハンターたちは皆顔すら知らない人ばかりである。ハンターとして活動して幾ばくかの時が経ってから言われるならまだしも、新人としてやってきてすぐのハンターに言うことではないだろう。

 

「え、何々新人君?」

「君、って言うほど若い訳じゃないみたいだよ」

「いや、一応18なんですけどね」

「じゃあ大人びてるんだな」

 

 教官の言葉に反応した周囲のハンターが、ここぞとばかりにやってきてはジークを頭のてっぺんから足のつま先まで見ていた。いきなり数人のハンターに囲まれて話題にされる経験など無いジークは、つい年齢に関して反応すれば更に気に入ったとばかりに頷きながら先輩ハンターたちは楽しそうに頷いていた。

 

「ジークはこちらに来たばかりじゃ。あまり困らせるなよ」

「へー来たばっかりの頃は私もそれくらいの年齢だったかな」

「鯖読み過ぎだろ」

「何ですって!?」

 

 若そうな女性ハンターの言葉に反応するように、いかつい顔をした男性ハンターが呟けば、更にそれに反応して女性ハンターが反応して追いかけ回し始めた。いきなりの展開にジークは、困惑しながら周囲を見ていると、優しそうな顔をして近づいてくる男が見えた。

 

「まぁ、これから色々あると思うがよろしくな。俺の名前はネルバ、一応猟団の団長をやっている者だ」

「は、はい。ジークと言います」

「お、早速新人勧誘とは万年人不足の猟団は違うなー」

「万年って言うほど長い間猟団まだやってないだろ! と言うかお前はその人不足猟団の副団長だろうが!」

 

 猟団という言葉に聞き覚えの無いジークは、ネルバと名乗った男と副団長と言われた男のやり取りを苦笑しながら見ていることしかできなかった。

 

「ほうほう、随分と仲良くなれたな」

「仲良くなれた、と言えるんですかね……」

「会話すれば仲良くなったと言ってもいいだろう。顔も知らぬハンターたちと協力して生きていくことが求められる場所だからな」

「……よくよく考えればすごい場所ですよね」

 

 未だに騒いでいるハンターたちを見て、ジークは苦笑しながらもその居心地の良さを肌で感じていた。

 

「まぁ、ここまで雰囲気がいいことは最近では少なくなってしまったがな……」

「え?」

 

 何処か懐かしむような目で騒いでいるハンターたちを見ている教官の呟きを聞いていたジークは、疑問に思いながらもその悲しそうな顔を見て追及することもできずに黙ってしまった。

 

「よし、では早速一つクエストに行くとするか。幸い、テロス密林でイャンクックを狩ってほしいとの依頼があったのでな。イャンクックならば初心者の腕試しには丁度いいだろう」

「い、いゃんくっく、ですか?」

「……そう言えば新大陸の方にはいない、という話だったな。そこら辺も移動中に全て話してしまおう。行くぞ」

「は、はい!」

 

 突然聞いたことも無いモンスターの名前を出されて、ジークは目を点滅させていたが、初心者の腕試しには丁度いい、という言葉を聞いてそれほど大きくないモンスターなのだろうと理解していた。

 メゼポルタ広場から更に進んで荷車を待たせている方向へと一人で向かって行く教官の後を追うようにして、ジークは狩りへと赴くことになった。




MHFの用語とかの説明が多くなるので、どうしても文字数が嵩みますね。


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