狩人の頂 作:ばるむんく
「期待以上の腕前だった。是非ともまた狩りに行きたいものだ」
「あ、あはは……」
「……行きたくないなら素直に言っとけ」
ベルキュロスを狩猟してメゼポルタに帰ってきたジークたちは、四人で机を囲んで食事をしていた。ティナは指に包帯を巻いて疲れ果てた顔をしながら、チマチマと料理を摘まみ、ジークはベレシスの言葉に苦笑していた。初めての剛種討伐ということで、ジークも疲れ果ててはいたが、体の興奮状態がまだ納まりきっていないのかすぐに眠くなるような状態ではなかった。
「そ、そう言えば……なんでベルキュロスは死んだんですかね?」
「それは俺も聞きたかった。なにを知ってる?」
「ん? あー……あれは単純な話だ」
レアオニオンを口にしながら、ベレシスはベルキュロスの最後を思い出して適当に頷いていた。ジークたちからはなにがなんだかわからないままベルキュロスが倒れたのだが、ベレシスにはしっかりとした理由があって倒れたのだと確信していた。
「ベルキュロスの発電器官は強力だ。それこそ、生物など一瞬で感電死させるほどに」
「だから?」
「ベルキュロス自身が、自分の電撃によって殺されたのさ」
ベレシスの言葉にバアルは怪訝そうな顔をしていた。発電器官を持っているモンスターが自身の発電機能に殺されるなど、生物としての欠陥としか言いようがない。そんな生物が、峡谷の大地で生態系の頂点に立ち、剛種と呼ばれる程に強くなれるとは到底思えなかったからだ。
「勿論、ベルキュロスとて馬鹿ではない。副尾、角、尻尾……あらゆる器官で自身すらも焼き尽くす雷を緻密に制御していた。でなければ、全身からスパークを発生させ、ハンターを狙って地面を走る稲妻など放てまい」
「……つまり俺らがその制御器官を破壊したから、ベルキュロスは自身の雷で死んだっていいたのか?」
「言いたいのではない。紛れもない事実だ」
「……納得できるか微妙だが、正直説得力もあるっちゃある」
バアルの感想に同意するようにジークは頷いた。ベルキュロスほどのモンスターが自身の雷でやられるとは思わないが、ハンターによって制御器官を破壊されたためにそうなったと言われれば、ギリギリ納得できる範囲である。かつてジークたちが相対した古龍種である、鋼龍クシャルダオラも自身の風を角で操っていた。
「自身の体すらも焼き尽くす雷か……末恐ろしい生態だな」
「ギルドもあまり把握していないだろうな。そもそもベルキュロスは剛種個体が多く発見されている危険なモンスターだ……上位ハンターで狩れる若い個体のベルキュロスなどそう多くはない」
改めて剛種モンスターの脅威を確認したジークは、ベレシスとバアルの言葉に頷きながら飯を食べていた。ベルキュロスの生態について詳しく喋っている間にティナは既に疲れ果て、机に突っ伏して眠っていた。
「それはそれとして、ジーク。君の腕前は私が認めるだけのものだった……同盟、結ぼうじゃないか」
「ありがとうございます……同盟って親猟団と子猟団二つでしたよね?」
「面倒くさい……君が親猟団でいいだろう?」
「俺も賛成だ。こいつを中心に同盟などたまった物じゃねぇ」
三つの猟団が同じ方針を目指して動くことができる同盟は、親猟団一つの下に子猟団が二つ存在する形になる。ジークたちが目指す狩人祭は猟団単位での参加だが、同盟下の猟団は全て同じ組の猟団となる為、実質的には大きな猟団を一つ作るようなものである。
「それにしても、目標は狩人祭だったか?」
「はい。そこで『プレアデス』と『円卓』を撃ち落とします」
「ふむ……あまり乗り気ではないな」
狩人祭で実力を示すことで二大猟団によるメゼポルタ分裂を防ごうとするジークとネルバの目標に対して、ベレシスは少しだけげんなりとした顔をしていた。実力者との戦いを好むベレシスならば『プレアデス』と『円卓』との決戦には乗り気だと思っていたジークは、その反応に意外そうな顔をしていた。
「君は狩人祭の仕組みをあまり理解していないのか?」
「そりゃあそうだろ。今年きたばかりなんだからよ」
「仕組み、ですか?」
猟団が「登録祭」と呼ばれる事前期間中に狩人祭受付にて猟団が参加する方針を示し、蒼竜組と紅竜組の二つに別れてモンスターを多く狩り、指定されたモンスターやクエストを達成した数に応じて「魂」と呼称されるポイントを受け取り、それを受付へと報告して加算していく「入魂祭」を経て、結果的に蒼竜組と紅竜組のどちらが多く入魂したかで競い合い、最終的に勝った組に所属していた猟団に報酬が与えられる「恩賞祭」で狩人祭は終わりである。
「お前の考えてる仕組みじゃなくて、入魂中のクエストとモンスターの方だ」
「はぁ……上位個体ばかり狩らされる祭りなどやる気が……」
「な、なるほど……」
元々狩人祭は繁殖期に大量発生したモンスターを狩る為に、祭りと言う形式にすることで動員ハンターを増やそうとした経緯がある。大量発生するモンスターは基本的に下位個体や上位個体のそこまで強くないモンスターが中心であり、必然的に凄腕ハンターは上位個体の中でも危険度の高いモンスターを狩ることになる。剛種モンスターすらも楽しみながら狩る戦闘狂で強いモンスターを狩るのが楽しみなベレシスにとって、上位個体を散々狩ることになる狩人祭はあまり乗り気のするものではなかった。同時に、これほどの実力を持ちながらも今まで狩人祭に影響を及ぼしてこなかった理由もジークは察してしまった。
「この辺の話も含めて、後日ってことにしろ」
「後日?」
「同盟、結ぶんだろ? なら『ロームルス』の連中もいるだろうが」
同盟に好意的な姿勢を示してくれたバアルの言葉に納得したジークは、一つ頷いた。
「ティナ、帰るよ」
「ん……はぃ……」
完全に眠っているティナを背負ったジークは、バアルとベレシスに一度頭を下げてからマイルームまでティナを送り届けに歩き出した。ジークの後ろ姿が見えなくなってから、バアルはベレシスの方へと視線を向けた。
「……随分と気に入ったな」
「あれはセンスの塊だ……近い将来、このメゼポルタで最強のハンターとなる」
「それは……お前を超えて、か?」
バアルも、ベルキュロス狩猟中に見せたジークの動きからはベレシスと同じように、凡人では追いつくことができない天性の才能は感じていた。だからと言って、ジークがそのままベレシスを超えるようなハンターになるとは断言できなかったが、ベレシス本人は当然だと言わんばかりに、ジークが近い将来に自分を超える存在だと考えていた。
「今はまだ卵だが、中身が出た時は大変だぞ?」
「……どんな化物が飛び出すやら」
ベレシスの楽しそうな声に対して、バアルは呆れ気味にため息を吐くことしかできなかった。
ベルキュロス討伐から数日後、交流酒場にて再び集まった三つの猟団の猟団長と副猟団長は、正式に同盟を結ぶために集まっていた。
「やぁジーク」
「スロアさん?」
まだ全員が集まり切っていない中で、ジークに近づいてきたスロアは声の大きさを落とした。あまり他人に聞かれたくない話をしたがっていることを察したジークは、自然体のままスロアの隣に座った。
「ネルバは凄腕ハンターになって少し自信を取り戻してきたけど、まだまだトラウマって言えばいいかな? ベレシスさんたち『ゴエティア』や古龍種みたいな強大なモンスターには一歩引いてしまうんだ」
「……凄腕ハンターなら剛種も狩らされることになりますし、少し心配ですね」
「やっぱり? 剛種を狩りに行った君に少し感想を聞きたかったんだけど、今ので十分伝わったよ」
根が真面目であるが故か、不器用なまでに自分を許せない所があるネルバを、スロアは心配していた。ベレシスや自分のようにとまでは行かなくとも、もう少し猟団長としてのふてぶてしさが必要なのではないかとジークは考えていた。古龍級のモンスターなど上位ハンターで狩猟することは無いが、凄腕ハンターともなれば変種・奇種の一部や、剛種などに分類される強力な個体が存在する。ネルバのモンスターに対する恐れは、ハンターとしては致命的なミスを引き起こしかねない危ういものだった。
「自分で乗り越えるしかねぇよ、そんなもんはな。他人がどうこうできる問題じゃねぇ」
「バアルさん……」
「……聞こえてた?」
「俺の耳がいいだけだ」
ジークとスロアの会話に横から入ってきたのは『ゴエティア』副猟団長のバアルだった。バアル本人にも思う様なところがあるのか、ネルバの現状をなんとか助けようと考えているジークとスロアに対して、暗にではあるが触れない方がいいと口にした。
「……俺だって乗り越えた側だ。そういう壁にぶち当たる気持ちはわからんでもないがな」
「まぁ……順調な狩猟生活をしている人なんて限られてるか」
「あ、はは……」
「お前はそっち側だな」
バアルとスロアのハンターとしての経験と過去の人脈からの言葉にジークが苦笑を浮かべていると、バアルはそんな反応を見て、彼がベレシスと同じく今までハンターとして一度も躓いたことのない天才型であることに気が付いて呆れ気味の表情を見せた。
「一度も躓いてない奴は脆いとは言うがお前もベレシスも、躓きもそもそも躓きだと考えたことがないんだろうな」
「……俺だって一応、恐ろしいと感じたモンスターはいますけど……やっぱりそれを倒してこそじゃないですか」
「それが天才だって言うんだよジーク君」
タンジア時代に相対した、海をも沸騰させる黒き巨神を思い出すジークだったが、彼はそれすらも乗り越えたことがある。そもそも天才は壁を壁だと認識せずに乗り越える者が多く、バアルの言うような脆い天才は真の天才ではないのだろう。
「悪い! 待たせたか?」
「遅いですよネルバさん」
「まぁまぁ」
交流酒場にやってきた最後の男であるネルバの登場に、すぐさま苦言を呈そうとするメルクリウスを落ち着かせるように声をかけたスロアは、ネルバを自分の隣に座らせた。九人全員が椅子に座ったことを確認して、ジークは一つ息を吐いた。
「同盟を結ぶことを決定したんですが、色々と決めごとがありますので集まって貰いました」
「親猟団とか方針とか、な」
ジークの言葉に付け足したバアルの言葉に、ベレシス以外の六人が頷いた。
「そもそもこの同盟の目的は、メゼポルタにある二大同盟によるメゼポルタの勢力二分裂を防ぐためです。このままでは新規ハンターの参入の低下や、メゼポルタ全体でのクエスト消化の低下が懸念されます」
「ギルド職員みたいなこと言ってんな」
「……まぁ、簡単に言えばメゼポルタが衰退するので止めましょうって同盟です」
「ぶっちゃけた」
丁寧に一つずつ解説していたジークの言葉に、余計な茶々をいれるバアルとウィルに睨みをきかせながら、ジークは猟団受付から貰ってきた同盟の結成申請書をメルクリウスとバアルに渡した。
「おい。何故私ではなくバアルなんだ」
「なんでメルクリウスなんだよ」
「お二人があまりにも猟団運営が下手くそだからです」
ネルバとはメゼポルタにきてからずっとの仲であり、ベレシスとは共に狩りにいった相手である為、ジークは二人の性格は大体理解していたため、申請書は信頼できる二人に渡したのだ。
「俺は司会やってるからティナ頼む」
「わかりました」
ジークは『ニーベルング』の申請書をティナに渡して、再び全員へと視線を向けた。
「とりあえず一つずつ決めていくとして……まず親猟団をどこにするか、ですね」
「ジークでよくないか?」
「私も賛成だな」
「うん。いいと思うよ」
「ではジークさんが率いる『ニーベルング』が親猟団でいいですね」
「え?」
同盟を結ぶことで親猟団と子猟団ができる。その親猟団をどこの猟団が担うのかを話し合おうとしていたジークだが、ネルバ、ベレシス、スロア、メルクリウスの相次ぐ賛成意見でさっさと『ニーベルング』が親猟団にされた。なんの疑問もなく、ティナ、メルクリウス、バアルの三人が申請書の親猟団の欄に『ニーベルング』と書いているのを見て、ジークはなにがどうなっているのか理解できていなかった。
「なにを驚いてんだ……昨日
「私も団長の面倒くさいに同意。同盟主の副猟団長なんて嫌」
バアルとヴィネアの言葉に唖然としながら、ジークはティナとウィルの方へと視線を向けるが、二人はやる気満々の顔をしているのを見て、いつの間にか外堀を埋められて押し付けられていたことにジークは頭を抱えたくなっていた。
「……いいですよ。やればいいんでしょう!?」
「そうだよ」
「ようやく理解したようだな」
「クソッ! あんたたち覚えておけよ!」
滅茶苦茶適当なことを言う猟団長二人に悪態を吐きながら、ジークはため息を一つ。気を取り直して、同盟としての方針を決める為に全員へと視線を向けた。
「えー……親猟団の猟団長としては、同盟の方針は育成で行きたいと思ってます」
「育成?」
「いや『ゴエティア』の内情は知りませんけど『ニーベルング』と『ロームルス』は今年から入団した若手や下位ハンターが多いので、狩人祭までに上位ハンターの数を増やしておきたいんですよね」
「つまり下位ハンターの手伝いか……」
ジークの言葉にバアルは納得したように頷いた。狩人祭で優位になるのに必要なのは個々人の力ではなく、どれだけ上位以上のハンターを多く擁することができるか、である。繁殖期にはまず変種・奇種・剛種の討伐依頼などなく、ひたすら上位個体のモンスターを狩らされることになる。場合によっては、いちいちメゼポルタ広場に帰ることも無く、ドンドルマなどの近場の街で休憩とアイテム補給を行って連続の狩りをすることもある。狩人祭で凄腕個体を狩らされるのならばまだしも、上位個体ならば凄腕ハンターの数を揃える必要はない。無論、実力が高いのはそれだけで有利ではあるが。
「下位ハンターの手伝いってことは、しばらくは勧誘なし?」
「現状、メゼポルタ広場の人手不足が深刻である以上、下位から上位への昇格は比較的早く進むはずなので、ひたすら上位昇格の手伝いをしながら下位ハンターや上位ハンターの勧誘を続けていく方針です」
メゼポルタは現在も絶賛人手不足である。年々危険度が増していくモンスターたち相手に限界を感じたり、嫌気が差してきたハンターたちがメゼポルタの経験、実績を持ってドンドルマに出戻りや、ドンドルマ管轄の村専属ハンターに就職することが増えている。
「後輩の手伝いはいいのですが……やはり自分で昇格試験まで進んだ方が成長するのでは?」
「うーん……正直、その程度で着いてこられないのなら命が危ないのでメゼポルタはやめたほうがいいと思うんですよね」
「確かに」
メルクリウスの言葉に、ジークは少しだけ言い辛そうにしながらもメゼポルタ広場の実情を口にした。実際、外で下位ハンターが限界のハンターがメゼポルタにやってきたからと言って、メゼポルタの下位クエストを全てクリアできる訳ではない。勿論、メゼポルタの下位クエストにもドスファンゴやドランポス、イャンクックのような初心者でも狩れるようなモンスターも存在するが、メゼポルタには下位クエストにもリオレウスやリオレイアの亜種などの上位ハンターレベルのモンスターもいくつか存在している。ドンドルマではまずありえない話だがメゼポルタは例外的に、上位相当のモンスターでも若い個体など力の弱い個体は下位ハンターでも狩ることができる。そこにはやはり人手不足という背景があるのだが。
「勿論、公式狩猟試験は自分たちで乗り越える必要があるので、完全に手伝いをする訳ではないですし、手伝っている最中にスパルタ教育で一切手を出さずに、口出しだけにするのもありだと思います」
「私は面倒くさい」
「お前には最初から期待してねぇ」
ヴィネアの言葉にバアルが呆れ気味に反応した。ヴィネアには期待してないと言ったが、バアルがもっとも期待していないのはベレシスであった。ジークもベレシスの性格上絶対にそんなことはしないだろうと理解してたが、同盟全体の方針なので一応話しておいたのだ。
「当然ですが、上位ハンターの中でもう少しで凄腕ハンターになりそうって人の手伝いでも全然いいと思います。将来的な猟団の戦力にもなりますし、やっぱり凄腕ハンターの方が狩人祭は有利ですから」
「うちには多いな。上位ハンターで止まってる連中が」
「そうだったか?」
バアルは『ゴエティア』内でも凄腕ハンターに上がり切れない上位ハンターたちを思い出していた。メゼポルタで上位ハンターとなると決してセンスが無い訳ではないが、いまいち流れに乗り切れないハンターたちが上位で燻っている。人手不足による凄腕昇格は、そういう燻っているハンターたちの救いとなるだろう。もっとも、実力が伴わなければ最悪命を落とすことにもなり得るが。
「こんなところですか?」
「同盟の名前を決めてない」
「名前、ですか」
大まかな方針だけ伝えたジークはこれ以上議論することはないかと考えていたが、ヴィネアが手を挙げて同盟の名前が決まっていない問題を指摘した。
「……どうするんですか?」
「猟団の皆さんで意見を出し合うとか、ですか?」
「……猟団全員となると数が多すぎますし、まとまりがなくなるのでは?」
「ふむ……」
ティナは全員で意見を出し合うことを提案するが、ウィルに現実的ではないと止められた。同盟の名前にそこまで興味がない猟団長三人は、適当に誰か名前を付けてくれないかと口に出さずに考えていた。
「まぁ……あまりいい意見がないならこっちで勝手につけますけど」
「いいんじゃないか? 親猟団の猟団長だしな」
「丸投げしないでください」
名前にそこまで思い入れがある訳ではないジークからすれば、別に誰かが勝手に決めればいいと考えての発言だったが、ネルバはとりあえずジークに丸投げしようとしていた。ベレシスも『ゴエティア』という猟団名はバアルがつけた過去から分かる通り、猟団名や同盟の名前など興味もなかった。
「では……あ、そうだった」
「まだなにか?」
一度目の集会としては十分な話し合いだったと思っていたメルクリウスは、ジークのなにかを言い忘れていたかのような言葉に首を傾げた。
「今回同盟を結ぶことになって、これからも長い付き合いになると思うので……折角なら交流会、みたいなことしませんか?」
「交流会って……集まって酒でも飲むのか?」
「まぁ、気が合えば狩りに行くって感じでいいんじゃないですか?」
現在ジークたちが集まっている場所は交流酒場の名の通り、多くのハンターが集まって交流することができる広場ではあるのだが、集まる人々は当然のように全員ハンターであるため、クエストを交流酒場から直接受けられる。ギルドから委託されているアイルーたちが交流酒場には常駐し、クエスト依頼書のコピーからクエストを受けることができる。
「私は賛成だな。すぐさまジークとクエストに行くとしよう」
「行きませんよ。折角ならまだ知らない人たちと行きたいですから」
実力を気に入ったベレシスの言葉を即座に否定したジークに、スロアとネルバは苦笑を浮かべていた。ネルバほどではないが、スロアもベレシスに対して苦手意識が強いのだ。
「と言う訳で、本日は解散ですね。交流会の日時は決まり次第皆さんに送るので……ネルバさんとベレシスさんは同盟を結ぶので猟団受付に来て下さいね」
「おう」
「わかった」
「……一応着いていきます。団長では不安ですので」
「俺も行こう」
「じゃあ、私も」
ジークの解散の言葉を皮切りに、全員が肩の力を抜いた。同盟の申請書を持たせたネルバとベレシスに付いてくるように言うと、不安を感じたのかメルクリウス、バアルが付いてい来ると言い、流れでティナが付いてくることになった。
交流酒場から出て真っ直ぐ猟団受付の方へと歩いていたジークたちは、メゼポルタ広場の入り口付近で険悪な雰囲気を醸し出している二つの集団に視線を向けた。
「あれは……」
「……あいつらが『プレアデス』と『円卓』だ」
「あれが?」
数人で睨み合っている連中を見てネルバが呟いた。険悪な雰囲気であると聞いていたジークだが、メゼポルタ広場内で睨み合う程の仲の悪さとは思っていなかった。しかし、実際目の前で睨み合っている姿を見るとかなりの仲の悪さが理解できた。
「ん? お前は……」
「俺?」
「え? 団長?」
荒い言葉を使っていたハンターたちの後ろにいた男がジークの存在に気が付き、視線を向けた。男はジークのことを知っているらしく、猟団員らしく男たちの声を無視してゆっくりとジークの方へと近づいてきた。
「お前は『ニーベルング』の猟団長、ジークだな」
「……確かに、俺はジークですけど」
「そうか。俺は『カリバーン』猟団長のエインだ」
エインの名乗りを聞いて、ジークはちらりとネルバの方へと視線を向けた。ネルバは緊張した面持ちでジークの視線に応えて頷いた。
「そうですか……貴方があの『カリバーン』猟団長ですか」
「あの?」
「二大猟団ってことですよ」
「あぁ……成程な」
メゼポルタ広場の二大猟団の片方である『カリバーン』ともなれば、メゼポルタ所属のハンターならば知っているが、当の本人であるエインとしてはどうでもいい話らしく、対した反応を示していなかった。
「それで、有名猟団長が何の用でしょうか」
「お前、最近凄腕ハンターになったらしいな。ギルドマスターが期待してたぞ……端的に言えば勧誘だ」
「勧誘?」
「『円卓』傘下にな」
「待てよ!」
エインのまさかの勧誘にジークも驚いた顔をしていたが、返事をする前に『カリバーン』のハンターたちと睨み合っていたハンターがジークとエインの間に入った。
「『ニーベルング』の勧誘なら俺らもしようとしていた。君も『アイギス』に入らないか?」
「……貴方は?」
「俺は『アイギス』副猟団長のエーギル」
「こっちは『アイギス』ですか」
どうやら『アイギス』と『カリバーン』は凄腕ハンターには全員声をかけているらしく、ジークに傘下に入れとの勧誘だった。何故『アイギス』と『カリバーン』が対立しているのかは知らないジークとしては、とてもはた迷惑行為なのだが、後ろで見守っていたベレシスは声を抑えて笑っていた。
「丁度いいじゃないか、ジーク」
「ベレシスさん?」
「……何の用だ戦闘狂」
ジークの横から前に出てきたベレシスを見て、エインは苦虫を噛み潰したよう表情で戦闘狂と呼んだ。『カリバーン』の猟団長としてメゼポルタを二分しているエインだが、三年前のクシャルダオラの時に見たベレシスの姿は覚えていた。
「一度は勧誘した相手にその表情はどうなんだ?」
「黙れ」
「……あの時のこと、まだトラウマなのか」
「貴様っ!」
ベレシスの言葉に怒りを抑えきれないエインは、ベレシスの胸倉を掴もうとして横から現れたバアルに腕を掴まれた。
「見苦しいぞ」
「お前たちのような戦闘狂に用はない!」
バアルを睨みつけるエインを無視して、エーギルと名乗った『アイギス』の副猟団長は『ゴエティア』になど用はないとしてジークの方へと歩み寄った。
「こんな奴らとは縁を切れ……君のような将来有望なハンターは──」
「──おっと、うちの親猟団を勧誘しないでもらえるか?」
「……弱小猟団が」
エーギルの邪魔をしに横から入ってきたのは、ネルバとメルクリウスだった。『ロームルス』どちらかというと『アイギス』のエーギルと因縁があるのか、エインになど興味も示さずにエーギルを睨みつけていた。エーギルの方も、弱小猟団と忌み嫌うような発言をして今にも飛び掛かりそうな目をしていた。
「勝手に争うのはいいですけど……一つだけ言っておきますよ」
四つの猟団が睨み合っている仲、ジークは呆れたようなため息を吐いてからエインとエーギルへと挑発的な笑みを浮かべた。
「俺たち『ニーベルング』は『カリバーン』にも『アイギス』にも下りません。そして、俺たちは……あなた達の天下を終わらせるために同盟を結ぶことにした」
「……宣戦布告と、受け取るぞ?」
「どうぞご勝手に……狩人祭で引きずり落としてやる」
「上等だ」
同盟相手である『ロームルス』と『ゴエティア』が二大猟団に対してこれだけの遺恨があるのならば、いっそのこと宣戦布告でもしてしまうと考えたジークは、エインとエーギルに対して挑戦状を叩きつけた。宣戦布告を聞いて、エインは格下に吼えられたことに対して不愉快そうに顔を歪め、エーギルは怒りにその表情を染めていた。
「後悔することになるぞッ!」
「おやめなさい」
ネルバとメルクリウスを押しのけてジークに掴みかかろうとしたエーギルを止めたのは、凛とした女性の声だった。その声を聞いてエインは不快そうに舌打ちをし、エーギルは一瞬で動きを止め、ティナが肩を大きく震わせた。
「はぁ……このような諍い事は止めるようにと、何度も言ったはずでが」
「し、しかい!」
「言い訳は聞きません」
「申し訳、ありません……団長」
ジークたちの背後から歩いてきた金髪の女性は、エインに一瞬視線を向けてからエーギルに対して氷のように冷たい視線を向けた。威圧感に押されたエーギルは、ジークから一歩離れて絞り出すように謝罪の言葉を吐いた。
「お姉、ちゃん……」
「……何故、貴女がここにいるのかしら?」
「お姉ちゃんを、追いかけて……」
「…………死ぬ前に村に帰りなさい」
「ッ!?」
ティナは縋るように『アイギス』の猟団長であるセティに声をかけるが、帰ってきた返答は冷たく突き放すものだった。ショックでふらつくティナを片手で支えながら、ジークはセティに視線を向けた。
「先程の宣戦布告……確かに聞き届けました。狩人祭で決着を付けましょう。そこの貴方も」
「……いいだろう。受けてやる……撤収だ」
セティの言葉を聞いたエインは、バアルの腕を振り払ってから猟団員の方へと歩きだした。エインの言葉を聞いて『カリバーン』の猟団員たちは慌てて猟団部屋の方へと歩いていった。
「あなた達も、メゼポルタ広場で諍い事は止めなさい」
「は、はい」
セティに注意された『アイギス』の猟団員たちも、姿勢を正して猟団部屋の方へと消えていった。帰り際にエーギルはジークの方へと鋭い視線を向けていたが、ジークはティナを気に掛けて気が付いていなかった。セティは猟団員たちが解散したのを見て、歩いてきた方向へと戻っていった。メゼポルタ広場入り口で繰り広げられていた睨み合いが終わったことに、遠巻きに見ていたハンターたちが安堵に息を吐いていた。
「宣戦布告はできたな」
「全く……いきなり飛び出さないでくださいよ」
ティナを支えながら、ジークは最初に喧嘩を売りに行ったベレシスに文句を言った。モンスターとの戦闘だけでなく、普段から喧嘩腰なベレシスにジークはため息を吐きたくなっていた。
「まぁ……丁度良かったのはそうなんですけどね」
二大猟団と出会うことなどあまりないことではあるので、ジークとしてはベレシスの言った丁度いいと言う言葉はあながち間違いではなかった。
「メゼポルタ分裂の終末も近いといいな」
「そうであればよいのですが……」
大きく息を吐いたネルバの言葉に、メルクリウスの希望的な言葉が乗っかった。ジークはネルバの終末という言葉を聞いて、笑みを浮かべた。
「俺たちが終わらせるんですよ……俺たち『
ジークの言葉にネルバは大きく頷いた。終末が訪れるのを待つのではなく、自分たちが終末そのものになり、神のようにメゼポルタに君臨する二つの猟団を地に堕とす。週末と言うピッタリな同盟の名前の決定に、方向性は違えど全員の意志が統一された瞬間だった。