狩人の頂 作:ばるむんく
紆余曲折ありながらも同盟『ラグナロク』を結成したジークたちは、既にメゼポルタ広場では噂になりつつあった。噂の中心は二大猟団である『アイギス』と『カリバーン』に対して喧嘩を吹っかけた話と、今でも一部のハンターには恐れられている『ゴエティア』が遂に同盟を結んだことだった。
メゼポルタ広場に噂が溢れていたが、ジークの顔などまだまだ全く知られていなかったこともあり、メゼポルタを堂々と歩いても誰にも止められることはなかった。ハンターたちの噂話に耳を傾けながら工房へと足を踏み入れた。工房特有の熱気を感じながら、多くのハンターの横を抜けてジークは親方の目の前にやってきた。
「おう……名前は大きく言わない方がいいか?」
「あはは……親方も知ってましたか」
「そりゃあこんだけ噂されてんだから知ってるだろうよ」
親方の豪快な笑いにジークは苦笑いを浮かべていた。噂されることが悪いことではないと思っているが、二大猟団の影響はかなりあるため、宣戦布告した側からすると歩き辛い所ではあった。
「それより、頼んでいた物はできましたか?」
「そいつはバッチリよ。流石に俺が自分で叩かないといけない素材だったがな」
「剛種素材ですからね……」
「おうよ。にしても、ジークがメゼポルタに来たのも随分と最近な気がしてたが……もう剛種とはなぁ」
感慨深そうに頷きながら、親方はジークの体型に合わせて作った舞雷竜ベルキュロスの素材によって生み出された防具セットを持ってきた。舞雷竜の素材によって生み出されたその防具は、見るだけで圧倒されるような存在感を放っていた。親方の言葉などジークには半分聞こえておらず、周囲のハンターもその装備を見て唖然としていた。
「持ってきな。こいつがベルFX装備だ」
「これが……ベルキュロスの……」
見るだけであの激闘が思い出されるようなその見た目と迫力に押されながら、ジークはベルFX装備を見に纏った。青黒い甲殻によって生み出された装備を着こなし、最後に親方に渡された双剣をジークは手に取った。
「そいつは「真舞雷双【迦楼羅】」って銘だ。気を付けて持てよ」
親方に注意を促されながら手に持ったジークの最初の感覚は、まるで稲妻をそのまま持ったかのような衝撃と熱量だった。幾度か瞬きをして、自分が確かに二刀一対の双剣を持っていることを確認してから、強く握り込んだ。明らかに今まで握ってきたどの武器よりも強大な力を秘めたその双剣を手にして、ジークは満面の笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。これでまた戦えます」
「おう……頑張れよ」
噂話でジークたちの目的を知っていた親方は、ジークの言葉に大きく頷いた。凄腕ハンターである『アイギス』や『カリバーン』の武器防具を用意しているのは当然親方だが、ジークも腕前だけ考えれば絶対に負けないと不思議な確信があった。
「遅かったな……装備を新調してきたのか」
「まぁ……これで、少しはいい所を見せられるかと思いまして」
交流会をいつかやろうと言っていたジークたちだったが、流れで宣戦布告をした結果『ラグナロク』に所属する三つの猟団の猟団員がすぐに交流会をしようと言い出して、数日も経たないうちに交流会が開催されていた。やっていることは今までの二大猟団に対する鬱憤を今こそ晴らす時と言いながら酒を飲んだり、後で狩りを共に行こうと約束するなど、決起会と呼んだ方がいいのではと思いながらも、ジークはバアルに案内されるままに席に着いた。
「バアル、この方が?」
「そうだ」
「そうかい。初めまして、私は『ゴエティア』所属のハンターであるパイモンと申します」
「ご、ご丁寧にありがとうございます」
バアルに座らされた席の目の前には、パイモンと名乗った男が座っていた。裏があるのではないかと疑うような薄ら笑いと浮かべながらの丁寧な言葉に、少し引き気味のジークを見て、バアルは安心させるようにジークの横に座った。
「こいつは馬鹿丁寧なだけで、どっちかと言えばベレシスと同類だ」
「おや酷い。あれ程無茶苦茶なことはしないと自負があるのですが」
「無茶苦茶はしないが、戦闘は楽しんでんだろ」
「それはもう」
「あはは……俺は『ニーベルング』猟団長のジークです」
もしかしなくても『ゴエティア』にはヤバい奴しか所属していないだろうと思いながら、ジークは頭を下げた。
「バアルさん……この人が『ゴエティア』の?」
「あぁ……剛種クシャルダオラを撃退した時の最後の一人だ」
「懐かしい話ですね」
バアルとそれなりに親交を深めていたジークは、以前から剛種クシャルダオラを撃退した当時のメンバーと話がしたいと言っていた。今回の交流会で会えると聞いていたジークは、バアルの案内を受けて座った先にいたパイモンがそうなのだろうと思っていた。バアルの口から出た剛種クシャルダオラの名前を聞いて、少し驚いたような顔をしてから、過去を懐かしむような声を出して剛種クシャルダオラを思い出しているパイモンをジークは見ていた。なんとなく剛種と戦っている時のベレシスと同じような表情をしているのを見て、バアルが言っていたベレシスの同類との発言に納得を持って頷いた。
「この交流会の目的は、結束力ですか?」
「まぁ、そんなところですね。純粋にどんなハンターがいるのかを知りたかったって言うのもありますけど」
「なるほど。確かに、面白いハンターが何人かいますね」
ジークの言葉を聞いて、周囲を見渡したパイモンは数人のハンターに目をつけていた。まだ『ロームルス』と『ニーベルング』には凄腕ハンターが四人しか在籍していない。パイモンは凄腕ハンターだが、二つの猟団に所属する上位ハンターの数人に感じる所があったらしい。
「それはそうと……もう数パーティーがクエストに出ていきましたが、いいんですか?」
「はい。そもそも同盟内の仲を取り持つには共に狩りに行くのが一番早いと思いましたし」
「そうですか……なら、私は貴方と行きたいですね」
「あ、あはは……」
「お前も難儀だな」
パイモンの数パーティーがクエストに出たと聞いて、ジークはある程度この交流会が成功していることを知り、安堵の息を吐いた。『ゴエティア』の主力メンバーであるパイモンにも気に入られるようなハンターが数人いることに驚きながら、ジークはそのまま席を立とうとした瞬間に、パイモンの目が見開かれていた。ベレシスと似たような性格のパイモンにも好かれていることにバアルは同情しながらも、助け舟を出すことも無くそのまま酒を飲んでいた。
「丁度行きたいクエストがありましてね……」
「行きたいクエストですか?」
「そうです。貴方も興味があるのでは、と思いまして」
パイモンはこの交流会でメンバーを探してクエストに行くことを元々考えていたのか、机の下からクエストの依頼書を取り出してジークへと見せた。真ん中に描かれたモンスターのマークを見て、リオレウスの亜種個体であることを理解したジークは、依頼書を隅まで見た。
「リオレウス、奇種ですか」
「はい。リオレウス奇種の
「特異個体……凄腕ハンターに狩猟が許可される、あの?」
凄腕ハンターになることで狩猟が許可されるようになる特異個体は、従来のモンスターとは行動パターンや習性が違ったり、強力なモンスターが多い。この特異個体という区分はかなり厄介で、下位個体のモンスターにも特異個体は存在するが、例え下位個体であっても特異個体であればそれは凄腕ハンターが狩らなければならない。凄腕ハンターの数が多くても人手が足りないのは特異個体が原因であったりする。下位ハンターは下位クエストを、上位ハンターは上位クエストをこなすが、凄腕ハンターは凄腕クエストだけで変種・奇種・剛種、そして未開拓地の開拓に加えて、下位、上位、凄腕の特異個体を狩猟する必要がある。
「そうです。私は
「……
「ハードコア?」
「特異個体のことだ」
特異個体の狩猟クエストは、メゼポルタでは
「特異個体のモンスターは通常のモンスターとは違う素材を身体に備えていることがある。パイモンが求めている蒼火竜の皇鱗もリオレウス奇種の特異個体だけが持つHC素材だ」
「確実に手に入る訳ではありませんが、その素材があれば私の装備が強化できるとのことでしたので」
「なるほど」
特異個体モンスターは強大な力を持っているが、それを狩猟することができれば通常の個体とは違う強大な力を生み出す素材が手に入る。そうすればよりよい装備を手にすることができる。
「興味深いですね。私も是非参加させてもらいたいです」
「メルクリウスさん」
リオレウス奇種の話をしていたジークたちの元へとメルクリウスがいつの間にかやってきていた。『ロームルス』副猟団長の登場にパイモンは楽しそうな笑みを浮かべていた。
「どうぞどうぞ。人数は多い方がいいですから」
「そうですか……私も特異個体は未経験ですし、ジークさんとも一度狩りに出たいと思っていました」
「それは私もですね。是非貴方とは狩りに行きたい……団長の惚れた腕前が見たいのです」
同じ言葉を言っているはずなのに、パイモンの言い方をジークは全く嬉しいと感じていなかった。メルクリウスは単純に短期間で急速にHRを伸ばしているジークのことが気になっていたが、パイモンはジークがどのような狩りをするのか、ベレシスと同じ方向性の興味を持っていた。
「なら私も行く」
「ヴィネア? お前がこんな所に来るとは珍しいな」
「余計なこと言うな。この男に興味がある」
ハンターとしてはあまりにも背が小さいヴィネアの登場に、全員が驚いたような表情を浮かべていた。同じ猟団であるパイモンとバアルは、面倒くさがりで動きたがらないヴィネアが交流酒場までわざわざやってきたことに、ジークとメルクリウスは見た目の小ささからは考えられない重量であるはずのハンマーを背負っていたことに対してだった。古龍種であり
「……君、想像以上に強いね」
「そうですか?」
「顔見ればわかる」
勝手に納得したように頷くヴィネアに苦笑しながら、ジークはリオレウス奇種の討伐クエストの依頼書へと再び視線を向けた。
「これで丁度四人ですか」
「そうだね。では私の名前でクエストを受けておきますよ」
「お願いします」
依頼書に四人が名前を書き込み、パイモンはその依頼書を持ったままクエスト管理をしているアイルーの方へと向かって歩いていった。遠くなっていくパイモンが背負っているライトボウガンである天狼砲【北斗】を見て、ジークも彼の強さを大まかに理解していた。
ドンドルマから西側、比較的穏やかな生態をしているために新米ハンターが多く活動すると言われている森丘。正式な地名をシルクォーレの森とシルトン丘陵、二つを合わせて「森丘」と呼ばれる。シルクォーレの森には多くの小型モンスターが生息し、シルトン丘陵の頂上には火竜リオレウスの巣がある。
ジークたちが狩猟することになっているリオレウス奇種の特異個体は、寒冷期になってから急に現れて森丘で縄張りを拡大しようとしているらしく、ドンドルマからメゼポルタ凄腕ハンターへの救援依頼だった。
「ふぅ……」
双剣を背負いながら先頭を歩くジークは、始めてきた森丘の景色を観察しながらアプトノスの横を抜けて飛竜の巣を目指していた。ジークの後ろを歩くメルクリウスは弓用のビンを、現地調達したキノコを調合して作り、その後ろを欠伸しながらヴィネアが歩いていた。最後尾でニコニコと笑顔を浮かべながら歩くパイモンは、周辺にあるリオレウス奇種がつけたのであろう縄張り主張の後を見て大体の大きさを計算していた。
「こっちであってますよね」
「はい。この先は開けた場所です……飛竜が休んでいる場所でもありますが」
森丘頂上に位置する飛竜の巣へと向かうルートは大きく分けて二つ存在する。片方は南側から断崖絶壁を登っていく道。大きなメリットとして、他のモンスターと遭遇する機会が極端に少なく、大型モンスターはおろか小型モンスターですら基本的には存在しない最短距離の道だが、デメリットとしては険しい崖を登る行為自体が大きく体力を消耗することである。飛竜の巣へと向かうハンターの目的など大型モンスターの狩猟程度だが、その大型モンスターの待つ場所へと赴くだけで体力を消耗してしまうのは致命的なデメリットである。もう片方の道は遠回りをして北側から比較的緩やかな段差を登っていく道。こちらはメリットとして悪路が少なく、体力を無駄に消耗することなく目的地である飛竜の巣へと迎える。デメリットとしては、遠回りであるために他のモンスターと接敵する機会が多く、遠回りで歩いている間に飛竜の巣からリオレウスが出て行ってしまい、二度手間になる可能性もある。ジークたちも例に漏れず、どちらの道を選んで飛竜の巣へと向かうのがいいかと話合った結果、リオレウス奇種の特異個体が相手ということで、体力の消耗を考えて北側から入ることを選択した。
飛竜の巣へと入る洞窟の前にある広場へと足を踏み入れたジークたちは、そこに転がるアプトノスの死骸を見て警戒度を一気に上げた。
「血が流れてる……」
「まだ付近にいる可能性がありますね」
警戒しながら一歩を踏み出したメルクリウス以外の三人が、即座に武器を構えた。反応が一歩遅れたメルクリウスは、三人が武器を構えたのを見て空を見渡し、急速接近してくる蒼色の巨体を見て顔を引き攣らせていた。
「こいつは……」
凄腕ハンターを名乗っているハンターともなれば、火竜リオレウスとなど幾度も顔を合わせたことがあるハンターの方が多い。生息域が広くどの大陸でも生息し、多くのハンターが大型モンスターの代名詞として名前をあげるほど有名なモンスターであるリオレウスだが、亜種ともなれば出会ったことのないハンターも一定数いるだろう。
「思った通り、大きいですね」
ジークは蒼火竜リオレウス亜種とはタンジア時代に相対したことがあるが、これほどの大きさのリオレウス亜種を見るのは初めてだった。加えて、ジークの記憶の中にあるリオレウス亜種とは少しばかり違う見た目をしていた。瞳は煌めく炎のような紅色に染まり、全身の棘や翼膜が赤色に染まり、尻尾の棘に至っては真紅と呼べるような色に変色していた。特異個体のモンスターは見た目からして通常個体とは違うと聞いていたジークも、初めて見た大型モンスターの特異個体に対して少しばかり緊張していた。
ジークとメルクリウスがその大きさと特異個体の姿に戦慄している中、パイモンは一人で呟いていた。ここに来るまでに見てきたリオレウス奇種の痕跡から、目標としている個体がかなりの大きさであることを先に理解していたのだ。
「大丈夫。特異個体だろうが大きかろうが……叩けば死ぬ」
謎の持論を展開しながらハンマーを片手で地面に向かって振り下ろしたヴィネアは、先程まで欠伸していたとは思えないような真剣な表情していた。パイモンの持論に納得した訳ではないが、ジークとメルクリウスも気を取り直して武器を構えた。滞空しながら四人のハンターを見下ろしていたリオレウス奇種は、大きく咆哮をあげて地面に降り立った。その目にはハンターが自らの命を害する物だという認識はなく、ただ拡大したはずの縄張りに侵入してきた生物を見て怒りを感じていただけだった。
「俺が先行します!」
双剣を持ち、パーティーの中でもっとも自分が身軽だと判断したジークはメルクリウスとパイモンに背後を任せて先行した。ハンマーを持つヴィネアは武器の特性上、頭を狙うことが最高効率であることを考えて、ジークはエスピナス亜種の時にしたように懐に飛び込むつもりだった。
「うわっ!?」
しかし、リオレウス奇種の次の行動はジークの予想だにしていなかった上空への飛翔だった。通常種のリオレウスとは比べ物にならない風圧をなんとか耐えたジークは、上空へと飛んだリオレウス奇種へと視線を向けたジークは、口から炎を滾らせる飛竜を見て咄嗟に横に避けた。ジークが避けるのとほぼ同時に、リオレウス奇種は口から火球を吐きだした。通常種のリオレウスと同様の火球攻撃だが、地面に着弾すると同時に火球は爆散しながら周囲にも破壊をまき散らしていた。
「閃光玉、投げるよ」
「っ! お願いします!」
リオレウス奇種が空中から一方的に攻撃を仕掛けようとしていることを察したヴィネアは、アイテムポーチから閃光玉を取り出していた。空にいるリオレウス奇種を撃ち落とそうと照準を合わせていたパイモンは、少し不満気な顔をしていたが、ヴィネアは全く気にすることなく閃光玉を放り投げた。ヴィネアの小さな体躯からは考えられない速度でリオレウス奇種の目の前まで飛んでいった閃光玉は、そのまま炸裂して眩い閃光を生み出した。
「はぁッ!」
閃光を受けて視界を潰されたリオレウス奇種は、空中でバランスを崩してそのまま地上に落下した。失墜した空の王者に、ジークはすぐさま双剣を手に飛び掛かった。先程放たれた火球の威力を見て、長期戦にするのは危険だと判断しての行動だった。地に叩きつけられた衝撃でもがいているリオレウス奇種だが、すぐに態勢を立て直してジークに襲い掛かることを警戒して、メルクリウスはフルフルボウⅥへと強撃ビンを装填していた。
「いくよ」
「全く……一方的な狩りは好きではないんですが、素材の為なら仕方ありませんね」
ジークが真舞雷双【迦楼羅】を振るってリオレウス奇種の棘を斬り落としている間に、ヴィネアはリオレウス奇種の頭に向かって幻雷槌【雷電】を振り下ろした。頭にハンマーを当てた鈍い音と共に、幻雷槌【雷電】から放たれた幻獣キリンの雷は、リオレウス奇種の甲殻へと焦げ目をつけていた。ジークの振るう真舞雷双【迦楼羅】も、ベルキュロスの有していた自身すらも焼き尽くす雷はリオレウス奇種の甲殻を容易く焼き切り、血が蒸発する様な音と共にはじけていた。
二人が武器を振るってリオレウス奇種へと傷を与えている姿を見て、文句を言いながらパイモンは貫通弾を装填していた。天狼砲【北斗】と名付けられたライトボウガンを撫でながら、パイモンはリオレウス奇種へと照準を合わせた。
「ッ!」
「おっと」
なんとか大地を踏みしめて霞んだ視界のまま立ち上がったリオレウス奇種は、頭を叩くヴィネアに向かって一発だけ火球を放ち、背後で足元に接近して来ていたジークに対して尻尾を振るって動きを鈍らせた。振るわれる尻尾を器用に避けながら双剣を振るうジークと強撃ビンを装填したことで威力の増している弓矢を嫌ったリオレウス奇種は、再び空中へと飛翔して攻撃を躱した。
「大きな的ですねぇ!」
リオレウス奇種の行動を予測していたパイモンは、地上に向かって爆裂する火球を吐こうとしているその無防備な羽に照準を合わせたままトリガーを引いた。瞬間、轟音と共に貫通弾が十発以上連続で発射された。多くのハンターが使用する一般的なライトボウガンに備わっている弾丸の連射機能である「速射」は、弾丸を連続で発射することでモンスターに効率よくダメージを与える機構だが、精々多くても四発が限度である。しかし、パイモンが放った貫通弾の速射は十発では効かない数であり、弾丸が列をなしてリオレウス奇種の羽を貫通していく姿に、ジークは目を見開いた。
「チャンス」
「は、はい!」
火球を吐く前に翼膜を破壊されたリオレウス奇種は、空中で再びバランスを崩して地面に向かって墜落した。口に溜められていた火炎はリオレウス奇種が地面に激突すると同時に、リオレウス奇種の口内で爆発した。パイモンの常識を覆すような連射に驚愕しながらも、ヴィネアの言葉を聞いてジークはひとまず墜落したリオレウス奇種への追撃を優先した。
「まだまだ行きますよ!」
「ふぅ……はっ!」
貫通弾を撃ち尽くし、再び天狼砲【北斗】へと貫通弾を装填しているパイモンのテンション高めの声を聞きながら、メルクリウスは精神を研ぎ澄ませてひたすらリオレウス奇種の急所となる首へ向かって矢を放ち続けていた。
「叩けば、死ぬッ!」
独特な掛け声と共に両手ハンマーを持ったまま上に向かって跳躍し、勢いのままリオレウス奇種の頭にハンマーを振り下ろしたヴィネアを横目に、ジークは血管が集中しているであろう足首や翼の付け根を中心に双剣を振るっていた。ベルキュロスの素材から無尽蔵に生み出される電撃を手から感じながら、双剣をひたすらに振るうジークの姿は正しく鬼神と呼ばれる勢いだった。
「そらッ!」
立ち上がろうとするリオレウス奇種の背中に対して、再び貫通弾で異常な連射を見せるパイモンは、完全に狩りを楽しむハンターの顔をしていた。リオレウス奇種は足元にいるジークを無視して、異常連射をするハンターと、急所を狙って遠距離から矢を放つハンターを狙い、大きく息を吸い込んだ。頭の前にいたヴィネアはその動作に気が付いてすぐにリオレウス奇種の頭の下をくぐり抜けて射線上から退避した。
「おっと、これはまずいですね」
「えッ!?」
次なる貫通弾を装填しようとしていたパイモンは、リオレウス奇種は大きく息を吸い込んだ後にヴィネアが退避した姿を見て、横で次の一矢の為に精神を研ぎ澄ませていたメルクリウスの腕を引っ張った。二人が移動する姿を見ながら、リオレウス奇種はそのまま迸る火炎を口から放った。退避していたパイモンと引っ張られたメルクリウスの横を通り過ぎていった火球は岩に当たって弾け飛んだが、パイモンはメルクリウスを引っ張ったまま横に走り続けていた。
「ちょ、ちょっと!?」
「まだまだ来ますよッ!」
一発でブレスが終わりだと思ったメルクリウスがパイモンに腕を離すように要求しようとした瞬間、リオレウス奇種は続けざまに二発、三発、四発とパイモンとメルクリウスを狙って首を移動させながらブレスを吐いた。周囲に途轍もない熱を振りまきながら直進するブレスに、メルクリウスは恐怖を感じながらもパイモンに連れられてそのまま走っていた。
「隙だらけ」
五発目を放ってから再びメルクリウスとパイモンに狙いを定めて大きく息を吸い込もうとした瞬間、横から現れたヴィネアが身体ごと回転しながら勢いを付けて、リオレウス奇種の横面へとハンマーを叩き込んだ。雷が落ちたのかと言う程の轟音と共に打撃と雷撃を放つ幻雷槌【雷電】によって、リオレウス奇種はその巨体をよろめかせた。そこへ、稲妻を両手に持ったジークが駆けだしていた。
「ふッ!」
真舞雷双【迦楼羅】はジークの想いに応えるように、その刀身から電撃を放ちながらリオレウス奇種の尻尾を切断した。尻尾を切断した勢いのまま、ジークはリオレウス奇種の顎下へと刃を走らせながら腹下へと移動し、大地を踏みしめている両足の筋繊維へと刃を通した。一瞬のできごとで尻尾を切断され、顎から腹へと切り傷を作られ、そのまま足の筋肉をずたずたに切り裂かれたリオレウス奇種は地面に倒れこんだ。
「行きますよ」
「はい!」
ヴィネアとジークが作り出したリオレウス奇種の隙を見て、メルクリウスとパイモンは態勢を立て直して弓とライトボウガンを構えた。メルクリウスの放った矢はヴィネアが叩いていた頭へと的確に刺さり、連射される貫通弾は背中の甲殻を削りながらリオレウス奇種の肉を抉った。ようやく自分が狩られる側になっていることに気がついたリオレウス奇種は、大きな咆哮をあげてから逃げ出そうと上空へと飛翔しようと翼を大きく広げた。森丘の頂点としてあらゆる生物を追いやってきた自分が狩られる側になったリオレウス奇種は、まはや戦う気力などなく無様に逃げ出そうとしていたが、それを許すハンターはここにいなかった。
「逃がさない」
上空へと飛び上がったリオレウス奇種は、自身の首に片手で掴まっているヴィネアを見て思考が止まった。次の瞬間、頭に再び轟雷と共に叩き込まれたハンマーによって前後不覚のままリオレウス奇種は地上に叩き落された。失墜していくリオレウス奇種から手を放し、重力に引かれるまま空中でハンマーを掲げたヴィネアは、容赦なく勢いのままリオレウス奇種の頭に向かって体重以上の勢いが加わったハンマーを振り下ろした。地面が揺れる程の衝撃にジークは驚きながらも、二つの稲妻を手にしてリオレウス奇種へと距離を詰めようとして、リオレウス奇種が既に息絶えていることに気が付いた。
「お疲れ」
「は、はい……」
「ヴィネア……またですか」
ベレシスとはまた違うハンターとして圧倒的と言える才能を見せたヴィネアに、ジークとメルクリウスはなんとも言えない気持ちになっていた。パイモンはヴィネアと狩りに行くのが当然初めてではないが、文句を言いたくて仕方が無いという顔をしていた。
「貴方が暴れまわると私の出番が無くなるじゃないですか」
「知らない……私は早く終わらせたい」
「それでは面白くないでしょう?」
「奇種の特異個体程度で面白くなること、ない」
「それは、そうですね」
奇種の特異個体を程度、ですませる二人の強さにジークは頬を引き攣らせていたが、メルクリウスはお構いなくパイモンへと近づいていった。
「私もライトボウガンを使っているのですが、その連射はなんなんですか?」
「あれですか?」
メルクリウスはリオレウス奇種が呆気なく倒れたことよりも、狩りの最中にパイモンが放っていた貫通弾の異常な連射の方が気になって仕方ない様子だった。メルクリウスの言葉を聞いて、パイモンは天狼砲【北斗】へと視線を向けた。
「あれは「超速射」と言って、剛種の素材を使うことでボウガンの耐久性を上げて、無理やり連射する機構ですよ」
剛種ライトボウガンに備わっている超速射の説明を聞いて、ジークは豪胆に笑っている親方の顔が思い浮かんでいた。いかにも浪漫が好きそうな親方の作りそうな機構だと一人で納得しながら、地面に倒れ伏しているリオレウス奇種へと視線を向けた。本来ならば変種・奇種の特異個体など凄腕ハンターでも手こずるようなモンスターだが、今回ジークたちが狩猟したリオレウス奇種の特異個体は、生物として強すぎる故に自分の命を脅かす天敵の存在を認識できなかった。それが無ければもう少し苦戦していただろうと思いながら、ジークは改めて『ゴエティア』の主力メンバーは埒外の力を持っていると感じていた。
レウス亜種なんて本家にもいるので短くしました。